新学期が始まり、千舞は全寮制の青翠学園に戻る。
彼女はリリー人形を持っていて、この人形はオバケを食べる能力があった。
学校に着くと、千舞と友人のキクノはオバケを見つけ、リリー人形がそれを食べる。
その後、射守矢という男の子が千舞とリリー人形に興味を持つ。
彼は曰くつきのアイテムを集める趣味があり、千舞のポケットにフェルト人形を入れたという。
千舞はその人形を捨て、キクノと共に部屋に戻るのだった。
『それは魂絡繰じゃなくて、ただの呪物であります』
「そうなの? じゃあそんなに危なくなかったんだ」
千舞は隠世から戻ってきてすぐ、希華に電話をかけたが、
折り返しの連絡があったのは夜になってからだった。
早速今日、寮で隠世に引きずり込まれた事や、射守矢の事を話したが、
希華に相談するだけで、不思議と怖い気持ちが小さくなっていく。
しかし、希華の方はそうでもないようだ。
『でも、逆に危ないかもしれないのであります。
確かに、ただの呪物は、魂絡繰のように自分の意思で人を襲う事はできないのでありますが……
だからこそ、誰かが、呪物を使って、千舞殿を呪ったのであります』
「あ、そっか……!」
『しかも、人間の髪の毛で作った人形でしたよね?
どう考えても、人を呪うために作られた呪物でありますよ』
「犯人はやっぱり、射守矢先輩だと思う?」
『自分には、さっぱりであります。
――とにかく、明日、集堂殿と一緒に様子を見に行くのであります。
――で、――から、サク――して――に――』
―ザ、ザザ
電話にノイズが入って、希華の声が聞き取りにくかった。
「え? 何? ごめん、もう一回言って」
『ど――が、えな――千――それ――』
「ごめん、全然聞こえない。電波が悪いのかも……ちょっと窓開けてみるね」
千舞はカーテンを開けて、窓に手をかける。
その瞬間、千舞はぎくりとした。
窓に、何かが喋っている。
天井の換気ダクト……そこから、頭が半分覗いている。
顔は真っ黒で、影のようだが目だけが白くて、何かを探すように、ぎょろぎょろと動いている。
「希華さん……聞こえてる? 希華さん……!」
―ザ、ザザザ、ザザザ――
―ザ――せ――えせ――ザザ――か――
「返せ!」
「きゃぁああぁあ!」
スマホから知らない男の人の声が聞こえて、千舞は悲鳴を上げてスマホを落とした。
バチンと部屋の電気が消えて、真っ暗になる。
千舞はまだ、窓を見ていた。
部屋が暗くなったせいで、外の景色がよく見えるが、部屋の中が全く見えない。
だが、千舞には分かった。
“あれ”が、まだ部屋の中にいて、まだ部屋の中を見ている事が。
ドサリ……換気ダクトから、部屋の床に“あれ”が落ちてくる。
部屋の中を歩き回って、何かを探しているようだ。
落としたスマホが、チカチカと光っている。
目だけでそっと画面を見ると、メモ帳が開いていて、
画面いっぱいに「返せ返せ返せ返せ」……今もその文字は増え続けて、
画面はどんどんスクロールしていく。
千舞はぎゅっと目を閉じた。
その時、狼の遠吠えがどこかで聞こえた。
十狼太の声だ。
そう思った瞬間、窓が開いて、激しい風が吹き込んできた。
髪がバサバサなびく。
振り向くと、十狼太とサクリエルが天井に張りついていて、
部屋にいた“あれ”は換気ダクトへ逃げていく。
ちかちかと蛍光灯が瞬いて、部屋に電気がついて、千舞はどっと力が抜けてへたり込んだ。
「……助かった……!」
「くそ、遅かったか!」
悔しそうに唸って、十狼太は大きな狼の姿から、
柴犬くらいのサイズになって千舞の傍に歩いてくる。
サクリエルは、ふわふわと空を飛ぶ。
十狼太がスマホの画面を見たので、千舞も一緒に覗き込んだ。
返せ返せ返せ……いくつも続く同じ言葉は、違う言葉で終わっている。
【みぃつけた】
千舞は違和感に気がついた。
静かだが、こんなに静かなんて、絶対におかしいと千舞は思った。
リリー人形はいつだって、五月蠅いくらいに喋り続けているはずなのに。
「十狼太さん! リリー人形が……!」
「分かってる。――持っていかれた」
千舞は犯人が分からず、不安で泣きそうになる。
「電話が急に途切れたから、希華も来た後、リュウに命令されてすぐに来たんだが……」
「どうしよう。探さなくちゃ……!
十狼太さん、リリー人形がどこに連れていかれたのか分かる?」
「落ち着け千舞! 前にリュウが話しただろ?
お前は生け贄の血筋で、オレ達化け物にとってはごちそうなんだ。
リリー人形を囮にして、お前をおびき出そうとしてるのかもしれねぇ」
「でも……!」
「明日、リュウと希華が来るまで動かない方がいい。
オレとサクリエルが見張っててやるから、今夜は大人しく寝ろ」
そんな事を言われても、千舞はとても眠れそうになかった。
しかし、ベッドに入って目を瞑ると、あっという間に朝だった。