【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!   作:タカば

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末の妹(ジルベール視点)

「兄上、いきなり呼び出しとは、何ごとでしょうか?」

 

 俺は侍従に引っ張られるようにして、兄の部屋を訪ねた。

 家族の部屋といっても、ただの居室じゃない。この城で一番大きく立派な執務室、サウスティ国王が仕事をするための場所だ。

 なぜなら、俺の五つ上の兄レイナルドは、サウスティの王だからだ。

 俺の立場もサウスティ王国のプリンス、王弟殿下である。

 部屋に入ると、デスクに座る兄を中心に、騎士団長や大臣など、王国の首脳陣がずらりと並んでいた。彼らは皆、一様に暗い顔で黙りこくっている。

 なんだ。

 何が起きた?

 

 うちの家族は、つい先日、末っ子のコレットが隣国イースタンに嫁いだところだ。俺自身もイースタンの姫君を城に迎えいれていて、三日後には挙式をあげて結婚する予定だ。

 慶事が重なったサウスティは、国全体がお祝いムードだった。

 ここに並ぶ大臣たちも、うれしそうな顔で挙式の段取りを話し合っていたのに。

 

「ジルベール、よく来た」

 

 兄の声は低い。

 これは、過去に一度だけ聞いたことがある。

 兄が心底怒り狂っている時のものだ。

 温厚な兄に、何が?

 いや、国に何が起きた。

 ややあって、兄は用件を切り出した。

 

「お前と、イースタンの姫君イーリスの婚礼は中止だ」

「なぜ?」

 

 俺の疑問に答えず、兄は羊皮紙を一枚デスクの上に広げた。

 見慣れない書式だ。

 

「イースタンからの、宣戦布告書だ」

「宣戦……っ! 彼らは、戦を起こす気なんですか」

「もう起きている」

 

 すぐそばにひかえていた騎士団長が重々しく口を開いた。

 

「本日未明に、国境付近のザナ砦が襲撃され、イースタン兵に占拠されました。彼らは国境線を変えようと、今も着々と兵を動かしているようです」

「な……」

 

 一瞬、言葉が出なかった。

 戦争を宣言したどころか、もうすでに襲ってきた後だとは。

 

「イースタン王は何を考えているんです。あちらには、コレットを嫁に出したところでしょう! あの子は……」

「コレットは、人質になった」

 

 兄は無表情のまま、ぐしゃりと羊皮紙を握りつぶした。

 

「妹の命が大切ならば、無条件でイースタンに降伏せよ、と」

「要求がむちゃくちゃです。そんなの応じられるわけがない」

 

 家族は大切だが、それ以前に自分たちは王族だ。

 妹かわいさに国を明け渡すなど、あってはならない。

 

「その通りだ。だが……妹を見殺しにするつもりもない。一旦交渉の場を設けて、時間をひきのばす。その間に工作員を何名か送り込み、救出を試みようと思う」

「……それがギリギリのラインでしょうね」

 

 文官のひとりが、前に進み出る。

 

「すでに選定はすませております。サイラスとオズワルドがよろしいかと」

 

 知らない名前だ。工作員として優秀なぶん、今まで表舞台に出てこなかったのだろう。

 俺は軽く手をあげて、兄に進言する。

 

「彼らにオスカーを同行させてください」

「うちの息子を、ですか?」

 

 兄より先に、騎士団長が反応した。彼はオスカーの父親だ、驚くのは当然だろう。兄も軽く眉を上げる。

 

「理由は?」

「コレットのためです」

「……ふむ」

 

 妹のため、と聞いて兄は首をかしげる。

 

「孤立無援の敵国のまっただ中で、見知らぬ男たちに迎えに来られても、敵か味方か、判断がつかないでしょう」

 

 コレットには王族としてのふるまいが教え込まれている。信用できない者においそれと従ったりはしないはずだ。

 

「その点、騎士団長殿の息子であるオスカーなら、幼いころから家族同然の交流がある。コレットにとって、確実に信用できる相手です」

「しかし……息子はまだ十代です。潜入のような難しい任務にあたるには、若すぎる」

「その十代の若さで、十人隊の隊長になった優秀な騎士でしょう。戦闘力に問題はありません」

 

 それに、若さにも利点はある。

 

「騎士になったばかりの彼は、王城の重鎮とは違い、まだ他国に顔を知られてません。潜入先で警戒される可能性が非常に低い」

「しかし、未熟者を派遣したせいで、コレット様に何かあっては」

「……わかった。オスカーを救出隊にいれよう」

 

 騎士団長の迷いを断ち切るように、王の決断がくだった。

 執務室に沈黙が降りる。

 

「貴殿の息子には、危険な任務となるが」

「……息子は既に王国に剣を捧げた、一人前の騎士です。命を捧げる覚悟はできているでしょう。特に、コレット様に対しては」

 

 騎士団長は重々しく息をつくと、身を翻した。

 

「急ぎ、準備させます」

「頼む」

 

 俺たち兄弟は、騎士団長の後ろ姿を見送る。

 

「コレットのことは、一旦、救出隊にまかせよう」

「そうですね……無事でいてくれるといいですが」

 

 俺は祈るような気持ちで、そうつぶやいた。

 

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