【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる! 作:タカば
テレサの姿は、すぐ見つかった。
ちょうど別の仕事に向かうところだったんだろう、他の侍女と離れてひとりで歩いている。いいタイミングだ。
私はディーに視線を送り、彼がうなずいたのを確認してから、物陰から出る。
「テレサ?」
声をかけると、侍女はゆるゆるとこちらを振り向いた。
コレットの知るテレサは、キャリア十五年を数える有能侍女だ。
私の輿入れ先が決まると同時に、結婚後も侍女として仕えると宣言した。
まだ国交が発達していないこの世界では、一度他国に出ればそうそう戻ることはできない。
イースタンでは私もテレサも異分子だ。
王子と結婚する私はともかく、侍女のテレサにパートナーなどそうそう見つからない。
彼女は異国の地で独身を貫き通すことになるだろう。
そんなリスクを負ってまでついてきてくれた、忠臣の中の忠臣なのである。
だから、より一層彼女の行動が信じられない。
「……これっと、サマ?」
私の姿を認めて、テレサはかくっ、と首をかしげた。
その瞳は焦点があっているようで、あってない。
なんだろう、これは。
見知ったはずの顔なのに、知らない人間に見える。
「テレサ、あなたどうしたの?」
「ドウ、シタノ?」
何かがおかしい。
ざわざわとした違和感が背筋をはい登ってくる。
思わず身を引こうとした瞬間、テレサは私の腕を掴んできた。
「きゃーあああぁァァア! これっとサマがああぁぁ!」
ぐいぐいと腕を引っ張りながら、腹の底から叫び声をあげ始める。
その姿は、とても正気には見えなかった。
「テレサ! テレサ、落ち着いて!」
「ほら言わんこっちゃない!」
ルカとディーが飛び出してきて、私をテレサから引きはがそうとしてくれる。しかし、渾身の力で私の腕を掴むテレサの手は固い。そう簡単に外れそうになかった。
そうこうしているうちに、あちこちから足音が聞こえ始めた。
やばい、見つかる。
「テレサ、放して!」
「きゃあアアあぁ!」
「メイ!」
ディーが鋭く叫ぶ。
その声に反応して、女神が横から飛び出してきた。
「コレットさんを離しなさいっ!」
すぱーん! とテレサの頭をハリセンで一撃する。
なんでそこでハリセンツッコミ。
いや、そんなことはともかく。
私とディーにしか認知できない女神の一撃ってきくの?
「……アッ……あ……」
ぐるん、とテレサの黒目が回転し、全身から力が抜けた。
地面に膝から崩れ落ちる。
「テレサ? 大丈夫? しっかりして!」
「コレット、様?」
返事をしたテレサの顔は、私がよく知る侍女のものだった。
「私がわかる? 一緒に逃げましょう」
「ダメです」
侍女は私の手を振り払った。
「頭が重くて……うまく、言葉が……浮カびません。今にも……意識が……飛び……ソウ……デ……」
話している間にも、テレサの顔からはどんどん表情が抜け落ちていく。
あまりにも異様な光景だった。
「私、ハ……足でまといに、なります。……これっと、サマ、だけでも……逃ゲ……」
「そんなこと……」
「言ってる場合かよ!」
ぐい、と腕が引っ張られた。
振り向くと、私の手を引くルカと、必死にスカートの裾を咥えているディーの姿が目に入る。
「……絶対、助けに戻るから!」
私は身を翻して、走り出した。
「だから言ったろ!」
「あんなになってるなんて、思わないじゃない!」
テレサの姿は異様だった。
絶対によくない何かが起きてる。
あれはきっと、私が知っておくべきことだ。
「ディー、次はどこに逃げればいい?」
「待ってください……」
子ユキヒョウが逡巡する。
この世界の情報を持っている彼でも、追手の数が多すぎて対処しきれないのだろう。
でも、このまま捕まるわけにはいかない。
逃げ場を求めて、私も辺りを見回した時だった。部屋の窓がひとつ、すっと開かれた。
そこからひょこっと栗色の髪の少女が顔を出す。
「来てください、かくまってさしあげます」
少女の声に誘われるようにして、私たちはその窓に飛び込んだ。