【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!   作:タカば

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ふたりの獣

「ネイル、引き裂いて!」

 

 エメルが叫ぶ。

 彼女が現れた時に違和感に気づくべきだった。

 進行方向であらかじめ待ち伏せできる敵が、後方に逃げ道を残しておいてくれるわけがない。

 エメルはあえて前方に姿をあらわして注意を引き、反対側に伏兵を配置していたのだ。

 

「コレット様!」

 

 灰色の獣人に組み付かれながら、ディーが叫ぶ。

 私とルカは転がるようにしてその場から飛びのく。黒い獣人の手は届いてないはずなのに、なぜか地面がえぐれた。

 必死に立ち上がって走る。

 

「ガァッ!」

 

 黒い獣人が腕を振りかぶった。

 まずい。

 やられる。

 そう思っていても、体が動かない。

 

「その人に、触れるなっ!!」

 

 唐突に灰色の塊が黒い獣人をなぎ倒した。

 その向こうからディーが走ってくる。

 どうやら、ディーが自分に組み付いていた灰色の獣人をこっちにブン投げてきたらしい。ふたりの獣人が体を起こしている間に、ディーは私とルカを両脇に抱えた。

 ものすごい速さで道をそれ、森の中へと分け入っていく。

 

「ディー! 道から外れたらマズいんじゃないの?!」

「あいつらの相手をするほうがマズいです!」

 

 今はとにかく避難が先、ということらしい。

 しかし、後ろからはざざざ、と草をかき分ける音が追ってきている。

 獣人たちの追跡は続いているのだろう。

 

「こういう時こそ奇跡の力じゃねえの?!」

「直接邪神に支配されている人間を操るのは、難しいですー!!」

 

 ルカの問いに女神が叫び声で答える。

 直接聞こえなくても、なんとなく状況はわかったのか、ルカはそれっきり黙った。

 

「私ひとりで、獣人ふたりは手にあまります。メイ、検索!」

「え? あ? えええと……むむむむむむ……」

 

 運命の女神は私たちと並んで浮かびながら、こめかみに指をあてた。

 何を検索しているのか。

 問いただしたいけど、そんな余裕はない。

 

「あっち!」

 

 急にぱっと顔をあげた女神は、山道の一点を指さした。

 ディーはぐん、と体を傾けると女神の示した方角へと進む道を変える。

 

「な、な、なに……?!」

「黙って。舌を噛みますよ」

 

 ディーはとても人間ふたりを抱えているとは思えない速さで森を抜ける。しかし、どれだけ人間離れした身体能力があっても、同じ人間離れした身体能力の獣人相手には、分が悪かったらしい。

 後ろから追ってくる彼らの足音が、少しずつ近づいてくる。

 

「あと少し!」

 

 女神が叫んだその時だった。

 

「ガアッ!」

 

 がくん、とディーの体が前のめりに傾いた。私とルカの体が地面に放り出される。

 地面に激突する直前、なんとか頭だけはかばってその場に転がる。

 顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、背中を切り裂かれて血を流すディーの姿だった。

 

「ディー!!」

「走って!」

 

 なおも襲い掛かってくる黒い獣人の腕を、ディーが掴んだ。そのまま、もう一人の灰色の獣人の行く手を遮るようにして、体ごとぶつかる。

 

「でも」

 

 とても彼の指示に従えそうになかった。

 だって、状況が悪すぎる。

 ディーひとりに対して、狂暴な獣人がふたり。

 しかもディーは背中に怪我をしている。

 私が走ったところでどうなるんだろう。

 この場から逃げたあと、ディーはどうなるの。

 

「私のことはいいから、走ってください!」

「でも、ディーが……!」

「だからこそ行って、味方を連れてきてください。あなたのためにも、ルカのためにも!」

「……っ」

 

 私はルカを振り返った。

 そうだ、私には守らなくちゃいけない子がいたんだった。

 私より小さくて脆い、幼い子供。

 

「あなたはお姉ちゃんなんでしょう!」

「わ、わかった……!」

「おいっ!」

 

 私はルカの手を取って走り出した。

 女神が指す方向は、私とディーしかわからない。

 ルカを助けるなら私も一緒に走らなくちゃいけない。

 

「その茂みを抜けてください!」

 

 ひたすら女神の声に従って走る。

 草をかき分けて出た先にあったのは、いつか自分たちも利用したような、共同の野営地だった。簡素な荷馬車が一台停められ、その近くで数人の男性がテントを張っている。

 

「おい、どうした!」

 

 異変に気付いた男性のひとりがこっちに向かって走ってきた。

 その姿を見て、私は思わず息を呑んだ。

 見覚えのある青年だったから。

 少しクセのある黒髪に、ちょっときつめの琥珀の瞳。粗末な服を着ているけど、その体は鍛えられた騎士だってことを知っている。

 

「オスカー!」

 

 私は幼馴染の名前を呼んだ。

 




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