【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!   作:タカば

57 / 92
帰れない理由

「兄様? どうして帰れないの」

 

 私は思わず声をあげてしまった。

 王家直属の騎士団に保護してもらえたんだから、すぐに戻れると思ってたのに!

 

「ワイバーンのせいだね」

 

 おっとりとした表情をくずさずに、兄様は断言する。

 

「伝説にしか存在しないはずの、空を飛ぶドラゴン。現状、対抗できるのはあの巨大な鎧だけだ」

 

 そこで兄様は私を見る。

 

「どうせ、アレはコレットたち以外には動かせないんだろう?」

「そうだけど……」

「君と鎧を王都に送って、その間にまたワイバーンに襲われたら、今度こそ騎士たちは全滅してしまうだろう。騎士たちの命を預かる大将として、君に帰っていいよとは言えない」

 

 ジルベール兄様の言うことはもっともだ。あの巨大な化け物が倒せるのは私たちだけ。

 全滅するとわかっている兵たちを残して、自分だけ安全な王城には戻れない。

 騎士たちを襲ったワイバーンは、劣勢と見るや退却していった。全滅していない以上、まだ戦力として残されていると考えるべきだろう。

 彼らの脅威が去るまで、私たちはこの場で釘付けだ。

 せっかく帰れると思ったのに、これでは振出しに戻ったようなものである。

 

「対抗策があれば、いいのですね」

 

 ディーの低い声が割って入った。

 

「何かあるんだ?」

「ワイバーンは弓矢特効なのです」

「弱点属性あるの?」

 

 それ何てシミュレーションゲーム。

 クス、とディーはヒゲをそよがせて笑う。

 

「ワイバーンは空を飛ぶ生き物です。ですから、自分の上から何かが降ってくることを非常に嫌います。弓矢の雨や、投石器などの効果が高いでしょう」

 

 騎士団長のダリウス卿が眉をあげた。

 

「だが、やつらの体は固い鱗に覆われている。少々の矢ははじいていたぞ」

「そうですね……もう少し貫通力の高い武器も用意しましょうか。コレット様、タブレットを貸してください」

「はいどうぞ」

 

 タブレットを渡すと、ディーはちょいちょい、と肉球で操作し始めた。

 液晶を操作するためのただの仕草だってわかってるけど、にゃんこがタブレットにイタズラしてるみたいで、めちゃくちゃかわいい。

 兄様たちもそう思ったらしく、テント内の空気がほっとなごんだ。

 子ユキヒョウ、かわいすぎる。

 

「こちらをご覧ください」

 

 たし、とタブレットに触れると画面が切り替わり、どこかで見たようなデザインの武器が表示された。

 それを見たダリウス卿が首をかしげた。

 

「これは……ボウガンか?」

「知っているのか」

 

 ジルベール兄様が、そちらに顔を向ける。忠実な騎士団長は深くうなずいた。

 

「北の、ノーザンランド国の兵が狩猟に遣うのを見たことがあります。中央に矢をセットし、弦を引き絞ったあと、引き金を引いて矢を発射します。こんなに複雑な形のものは、初めて見ますが……」

 

 ディーが丸い頭をこくんと上下させる。

 

「ダリウス卿のお見立て通り、こちらはボウガンと呼ばれる射出武器です。弦の部分に歯車とハンドルを加えることにより、通常のボウガンより高い貫通力を実現しています」

「高いって……どれくらい?」

 

 今まで武器に触れてこなかった私には、その凄さがいまいちわからない。

 ディーはかわいらしく首をかしげた。

 

「そうですね、鎧を着ている騎士の胴に穴をあけるくらいには強力ですよ」

「やばい武器じゃない!」

「ドラゴンの鱗は鉄鎧より硬いので」

 

 ディーは悪びれもせず、耳をぴこぴこと揺らしている。

 

「ドラゴンといえど、翼を射抜いて撃ち落とせば、あとは地上を歩く獣と変わりません。槍で囲んで討ち取ればいい」

 

 ディーはさらに画面を切り替えた。

 今度は人の背丈ほどある、大きな兵器が表示された。

 

「この際ですから、バリスタも作りましょう」

「あ……これ!」

 

 画面を見て、ルカが声をあげた。

 ディーがひょいと目をあげる。

 

「おや、オーシャンティアにはもうありましたか」

「虎の子の秘密兵器だぞ、それ……」

「なにをする武器なんだ、それは?」

 

 二人だけの会話をしているディーとルカに、ジルベール兄様が口をはさむ。ルカはしかめっつらになった。

 

「槍や杭を飛ばす兵器だよ。人間がこれを食らったら、体が吹っ飛ぶ」

「うわ……」

「本来は城攻めに使われる武器ですね。個人を倒すというよりは、兵の集団や城の防衛設備を攻撃するためのものです」

「そして、ドラゴンを仕留めるのにも有効、ということか」

「はい」

 

 ジルベール兄様の問いに、ディーはまたうなずく。ダリウス卿が難しい顔でため息をついた。

 

「女神の使徒殿の紹介する武器が強力なのはわかりました。ですが、これらを前線に配備するのは難しいのではないでしょうか?」

「どうして?」

 

 ドラゴン退治には強力な武器が必要だ。

 ディーの提案は、ありがたいと思うんだけど。

 ダリウス卿は、眉間に皺を寄せて画面に映し出された武器を見る。

 

「機構が複雑すぎます。この場に集まった工作兵だけでこんなものが作れるとは……正直……近隣から職人を集めても、そういくつもは作れないでしょう」

 

 言われてみれば、確かにボウガンもバリスタも、部品が多くて複雑だ。まだ全くない、とは言わないけど、この世界の技術で精密な歯車を作るのは、かなり難しかったはずだ。

 

「問題ありません」

 

 しかし、ディーはヒゲをそよがせてにやりと笑う。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。