【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!   作:タカば

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ふわもこ抱き枕

「ディー……?」

 

 名前を呼ぶ声が、最後に疑問形になったのには理由がある。

 目の前のふわふわの体積が、記憶と食い違っていたからだ。

 白銀のヒョウ柄は変わらない。でも、体の大きさが全然違っていた。子ユキヒョウが、いつの間にか体長1メートルを超える成体に変わっていた。

 

「本当は、神官の姿で寄り添いたいところなのですがね。今の女神の力では、これがせいいっぱいなのです」

 

 ぺろ、と頬をなめられた。

 涙をすくいとられて、今までひたっていた感情が全部ふっとばされる。

 

「ディー……」

「ほら、休むならちゃんとベッドに横になってください」

「でも食事とか、お風呂とか」

「そういうのは後でなんとでもなりますから」

 

 ぐいぐい、と袖をひっぱられて。されるがまま、私はベッドに横になった。

 大人のユキヒョウは私の横までくると、抱き枕の要領で私の体を抱きかかえる。

 もふ、と顔がふわふわの毛に包まれた。

 

「私が抱っこするのはダメなのに、自分が抱っこするのはいいの?」

「ダメですか?」

「……ダメじゃない」

 

 むしろ、すごくいい。

 ユキヒョウのお腹の毛はどこもかしこもふわふわだ。あたたかな体温がひたすら気持ちいい。

 しかも、春の花畑のようないいにおいがした。

 

「ユキヒョウって、こんなにおいするんだ」

「まさか」

 

 ふん、と頭の上で鼻息がたてられる。

 

「肉食獣そのままの体臭だと生臭すぎますからね。調整して、フローラルブーケの香りに変えています」

「なにそれ。芳香剤じゃないんだから」

「もともと大きなぬいぐるみみたいなものですし、大差はないんじゃないですか」

 

 なんなのその謎理論。

 屁理屈は嫌いじゃないけど。

 ぽんぽん、と巨大な肉球が私の体をたたいた。まるっきり、子供のねかしつけである。

 体は猛獣なのに、仕草だけは妙に人間くさい。

 でもそのアンバランスさが、ちょうどよかった。

 人みたいだけど人じゃない。

 その距離感に安心する。

 

「あのね……」

「はい」

「私……実は、イースタンとの縁談がきたとき、うれしかったの」

「……はい」

 

 もこもこの胸毛に顔を埋めながら、私はぽつぽつと胸のうちを言葉にしていく。

 

「お姫様って、お嫁に行くのが仕事じゃない? お嫁にいったらその家の子供を産んで、子供の成長を見守って、それでおしまい」

「今のサウスティの常識ですと、そうなりますね」

「でも、私はそれだけじゃ嫌だったの」

 

 ぎゅ、とディーの体を抱きしめる。

 

「子供を産むことは大切だけど、私はそれ以外のことだってできる。本を読むことも、計算することも、誰かと話すことも」

「……そうですね」

「イースタンに、異国に嫁げば私には新しい役割ができる。ふたつの国を結ぶ、架け橋となることが求められる。外交官、とまではいかなくても窓口となる仕事ができる、って思ったの」

 

 じわ、とまた目に熱いものがこみあげてくる。

 

「だ……だから……一生懸命、準備して……勇気をふりしぼって……イースタンに行ったの。でも……でも……!」

 

 ぽんぽん、と肉球がまた私の体を叩いた。

 すり、とふわふわの毛並みでほおずりされる。

 

「あなたはもともと、努力家ですからね」

「どうしてそう思うの」

 

 ディーとの付き合いは、つい最近だ。

 婚約破棄されたあの日から一か月と経ってない。

 訳知り顔をされるのはなんだか釈然としなかった。

 ふ、とディーが口元だけで笑った。

 

「あなたのことは、紫苑の時から存じ上げてます。工学部に進学したのは、介護補助用のロボットを開発するためでしょう? 適正があったのもあるでしょうけど、あの世界で女子が機械系の職を志したのは、誰かのための何かを作りたい、という想いがあったからのはずです」

「……女神って、私の何をどこまであなたに共有してるの」

 

 進学の志望動機を知られてるなんて、女神のキャラデザインセンスはどうなってるんだ。

 

「でもばれてるなら、取り繕わなくてよくて楽かもね」

 

 はあっ、と胸にため込んでいた空気を吐き出した。

 もう一度ふわふわの毛並みに顔を埋める。

 

「そう。私は誰かのために何かしたかった。アクセルに婚約破棄されて……すごくショックを受けたのは、恋とか愛とかじゃなくて、将来の夢を閉ざされたからなんだわ」

 

 嫁入りのことを思って、出てくるのが取られた物や、居場所のことばかりなのは、そのせいだろう。

 そういえばアクセル自身のことはあまり気にしてなかった。

 怒りはあるけど、エメルに乗り換えられて悔しい、という気持ちはあまりない。

 

「……勝手かなあ」

 

 私は自分の夢のためにアクセルを利用していたとも言える。

 

「気にする必要はありませんよ。誠実に王女としての責務を果たそうとしたあなたを、裏切ったのはあちらです」

 

 とん、とん、と肉球がゆっくりと規則的に私の体に触れる。

 ちょうどゆったりとした心拍と同じリズムだ。

 

「あなたは十分ひどい目にあったし、十分怒る権利があります。泣いたって、わめいたっていいんですよ」

「ん……」

「私の体にくっついてる分には、声も外には届きませんから」

「それも、女神の奇跡の力?」

「ちょっとしたオプションです」

「なにそれ」

 

 は、と笑ったとたん、張り詰めていた最後の糸が切れた。

 今まで抑え込んでいた激情が一気にあふれてくる。

 

「ううううう……!」

 

 大きなユキヒョウの体にしがみついたまま、私は気がすむまで泣き続けた。

 




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