【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!   作:タカば

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サラ王妃

 サラお義姉様が暮らす離れは、王城のすぐ裏手に建っている。大きな建物の陰に隠れるよう、ひっそりとたたずむその建物は、まさに『隠れ家』といった風情だ。

 私の記憶の中によれば、普段の生活に使われるものではなかったはずだ。、隠居した親戚や、静養中の家族が時々使うくらいだったように思う。

 表に出ない王族のための場所。

 身重のサラお義姉様は、まさにその条件にあてはまる。

 私は手土産片手に、ジル兄様と一緒に離れへ向かう。もちろんふわもこの子ユキヒョウ、ディーも一緒だ。

 

「えっと、このドアから出て、裏道を進んで……」

 

 離れは王城と直接つながってない。

 裏口に出るドアをあけたら、すぐ外に立っていた警備兵が、ふたり同時にこちらを振り向いた。警備のために、ドア前に待機していたらしい。

 

「ご苦労様。義姉上のご機嫌うかがいにきたんだけど、通っていいかな?」

「これは失礼しました。ジルベール殿下、コレット殿下、お通りください……?」

 

 セリフの途中で、彼らの視線が不自然に下へと移動した。

 姫君の連れる子ユキヒョウが異様に見えたらしい

 

「彼は私の従者よ」

「じゅう……?」

「危険はないと保証するわ」

 

 ね、と声をかけると、ディーはちょこんとお座りして頭をさげた。人間の言葉を理解するおとなしい生き物、と判断して兵が道をあける。

 

「わかりました。従者殿もお通りください」

 

 私たちは兵たちの間をすりぬけ、離れに向かう小路を進んだ。建物に近づくにつれ、警備の兵が増えていく。

 最初は小路の途中にふたり。

 建物の前に四人。

 それから……。

 

「建物の裏にも三人。さらに城壁の上と王城の上階から、見張りがこちらを見ています。建物の中にも……各階にふたりずつ兵が控えてますね」

 

 ふっとディーがヒゲをそよがせながら、教えてくれる。

 

「産婆さんと、お医者さんじゃなくて?」

「彼らは別カウントです。産婆が2人、医者がひとりに、助手が2人。王妃のそばには、侍女が3人いますね」

「多すぎない……?」

 

 いくら、世継ぎを産む王妃が大事だからといって、この警備体制は異常だ。

 ジル兄様も不思議そうに首をかしげる。

 

「おっかしいなあ……俺が出兵する前は、ここまでじゃなかったんだけど」

「何かあったのかしら」

「とにかく中に入って話を聞いてみよう」

 

 兵に声をかけて、道をあけてもらう。

 王子と王女の訪問と知った彼らは、すぐに私たちを建物の中へと通してくれた。

 

「ようこそお越しくださいました。ご案内いたします」

 

 落ち着いた雰囲気の侍女が出迎えて、中を案内してくれる。彼女のあとについて歩きながら、私はきょろきょろと廊下を見回した。

 異常なのは建物の中もだった。

 小さなタペストリーや、細工物が所せましと飾られている。あまりに数が多すぎて壁が埋まってしまいそうだ。手芸はお義姉様の趣味だけど、こんなにたくさん作ってたっけ?

 不思議に思いながら進むと、一番奥のドアの前で侍女が止まった。

 ドア越しに声をかけると、がちゃん! と重い金属音が響いた。

 びっくりしている間に、がちゃん、がちゃん、と同じような音が立て続けに何度も鳴る。

 それはどうやら、ドアを守る鍵の音のようだった。

 訪問者を中に招きいれるため、内側からかけていた鍵を外しているのだ。

 金属音が止まり、ようやく扉が鍵から解放される。

 ぎぃ……と重い音をたててぶ厚いドアが開いた。その先にやっと黒髪の女性の姿が見える。

 

「サラお義姉様、お久しぶりです」

「コレット!」

 

 ソファに腰掛けたまま、女性は声を上げた。長い黒髪にあざやかなルビーアイ。レイナルド兄様の妻、そしてこの国の王妃であるサラお義姉様だ。

 古くからサウスティに仕える領主の一族の娘で、兄にとっての幼馴染。もちろん妹の私にとってだって、昔からの友人だ。

 私がイースタンに出立する時も、わざわざお守りを編んで持たせてくれた。

 

「よく顔を見せてちょうだい。ええと……」

「お義姉様、立たなくていいですから。私がそちらに行きます」

 

 立ち上がろうとした義姉を止めて、駆け寄る。

 ゆったりとしたドレスのお腹は、丸くふくらんでいた。そう間をあけずに、新しい命が産まれてくるだろう。

 私の頭をなでて、サラお義姉様がほほえむ。

 

「よく無事で……あなたが人質にとられたときいて、ずっと心配してたの。破談になっただけじゃなく、綺麗な髪をこんなにされて」

「生きて帰ってこれたから、もう平気です。髪なんて、すぐまた伸びますよ」

 

 にこ、と笑ったらなぜかサラお義姉様のほうが泣きそうな顔になってしまった。

 

「あなたはそうやって、やせ我慢ばかりするんだもの。泣きたいときは、ちゃんと泣いていいのよ?」

「本当に平気ですってば」

 

 ちゃんと昨日の夜はモフモフ抱き枕に顔を埋めて泣いたし!

 

「もう……あら?」

 

 お義姉様の視線が私の横に移動した。これは、警備兵の時にも体験したことだ。

 

「あなたが、噂のユキヒョウの従者ね。ふふ……とってもかわいい」

 

 ディーはぺこりと丸い頭をさげる。

 

「お初にお目にかかります。コレット姫の従者ディートリヒと申します」

「本当に、男の人の声でしゃべるのね。不思議……」

「女神より遣わされた身ですので」

 

 そう言いながら、お義姉様におとなしく頭をなでられている。

 ちょっとディーさん?

 私がなでなでしようとしたら『成人男性の頭をなでようとしないでください』とかなんとかいって牙むいてませんでした?

 既婚女性のなでなではオッケーなんですか?

 なんだよこの対応の差は!

 

「癒しを提供しろと言ったのはあなたがたでしょう」

 

 そうだけどね?

 なんで、義姉の見舞いに来てもやもやしなくちゃいけないの。

 

「義姉上のお加減がよろしいようで、安心しました」

 

 ジル兄様がおっとりとほほ笑む。そして、部屋の壁をじっと見た。

 

「しかし……」

 

 サラ姉さまも困ったような顔になった。

 

「ええ、言いたいことはわかるわ。この部屋、ちょっと変でしょ?」

「ちょっとかなあ……」

 




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