遠い昔の残滓   作:第5部隊隊員

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この小説は、私がクリアしたらその章が投稿される仕様となっております。
一応一章の流れは以前プレイした時のことを覚えているので、わかってるのですが……いかんせんセリフとか細かいところが。
それと原作ゲームでは会話のところが文章だけなので、他の描写は全て私の想像というか……妄想です。

いまいちうまく切れなかったので長いです。


2話

 

 キアナが誰かの声に目を開ければ、とても冷たい目をした芽衣が自分を見下ろしていた。

 

「芽衣先輩、どうしたの? 様子が変だけど?」

「キアナちゃん、あなたにはもう我慢できないわ。部隊でもいつも足手まといなのよ」

「え……何? 何を言ってるの?」

「私がいなければ前回の任務であの崩壊獣にやられてたのよ?」

 

 唐突に始まった心無い言葉の暴力にキアナの心は乱されていく。

 芽衣先輩がこんなこと言うわけがない。そんな事はわかっているのにどうして? 

 

「あなたはいつも周りに守られてなんとか生き延びられるの。あの小娘、ブローニャの足元にも及ばないわ」

 

 キアナの困惑した表情を見てもそれを気にすることなく、淡々と言葉を紡ぐ芽衣。

 

「芽衣先輩、どうしてそんなこと言うの……」

「弱すぎるのよ、キアナちゃん。あなたは弱すぎる」

「黙れ! あんた、芽衣先輩じゃないわね! 芽衣先輩はそんなひどいこ、絶対言わないんだから!」

 

 キアナの絶叫と拳によって芽衣の声で話していたナニカは、まるで幻だったかのように綺麗さっぱりいなくなってしまう。

 わけがわからない。

 

「どういうこと? 夢?」

 

 私は何を見てるの? 何を見せられてるの? そんな思考がキアナの頭を埋め尽くすが、それは解消されることはない。

 

 疑問に脳内を支配されていると、突如として視界が暗転し、世界がひっくり返ったかのような浮遊感を感じた。

 

「姫子? どうしてここに?」

 

 次に現れたのは無塔量姫子だった。

 

「ここにいたって、別に不思議なことじゃないでしょ? あんたたち二人とも重要な監視対象なんだから」

「何言ってんの?」

 

 彼女も先ほど見た芽衣と同じく、冷たくそして嫌悪に染まった瞳でキアナを睨む。

 

「哀れなおバカさん、まだわからないの? 私がどうしてあんたたち二人を学園に受け入れたと思ってるの?」

「はぁ? 姫子、何か変よ」

「あんたも芽衣も監視が必要な囚人だからよ」

「どういうことよ! おかしなこと言わないで!」

 

 普段の姫子なら絶対に言わないセリフに、芽衣に続いて姫子までが自分を責め立てるような言葉で詰めてくる事に、果てしない違和感と、もしかしたら本当にそう思っているんじゃないかという不安感がとめどなく湧いてくる。

 

「あんたは問題児だし、芽衣の体内に潜んでいる第三律者は、紛れもない時限爆弾だもの」

「芽衣先輩をそんなふうに言うなんて! 許せない!!」

 

 姫子(ダレカ)の言葉は、不安を押し退けてでも激怒せずにはいられなかった。大切な人の声を使って、大切な人を悪くいうことは絶対に許せない。

 夢に現れて心を乱してくる、そんな存在に心当たりは───

 

「……あんた、昨日夢に出てきたあの女でしょ!」

 

『アッハッハッハッハハハ』

 

 笑い声に──嗤い声にキアナの内に潜む拭い去ったはずの不安がまたしても顔を覗かせる。

 

「本当に……ここは私の夢の中なの?」

 

 再び視界に幕が下ろされ、世界が反転し浮遊感を感じるとともに新たに構築される。

 

「キアナ」

「テレサ……?」

「ごめんね。キアナはずっと知りたがってたけど、あなたの父親、ジークフリートの行方は教えてあげられない」

「どうして?」

「ジークフリートはあなたという災厄を避けるために遠くに逃げたの」

「な……何ですって? 一体どういうこと?」

 

 自分が厄災と思われていたと聞いたキアナは、頭を殴られたような衝撃を受け、一瞬言葉に詰まる。

 

「十四年前、第二律者がシベリアに降臨したとき、あなたの母親……当時天命唯一のS級戦乙女だったセシリア・シャニアテが迎え討ったの」

 

 それはもちろん知識として知っている。

 S級戦乙女は自分の憧れで───キアナの思考を断ち切るように、でもと声を低くしてテレサは言葉を続けた。

 

「でも大きな期待を寄せられていたセシリアは、その戦闘中ずっと劣勢だった。なぜだか分かる?」

「言わないで……」

 

 耳を塞ぎ、首を頭を振って拒否することしかできない。

 

「あなたのせいよ」

 

 しかしテレサ(ダレカ)は取り乱した少女に構うことなく、無情に、そして無慈悲に責め立てる。近寄り、耳を塞いだ手を優しく解いて。

 

「あなたを産んだあと、セシリアはずっと体調が回復してなかった。最終的に天命組織の連中はセシリアの敗北を恐れて、シベリアに向けて戦術ミサイルを発射したの」

 

 座り込んでしまったキアナを抱きしめるようにして胸に抱え込み、耳元に唇を近づけて一言一言。忘れることがないように、この言葉が耳から離れないように。

 

「セシリアもろとも第二律者を消滅させようとしてね」

 

 キアナはふらふらと力なくテレサ(ダレカ)の身体を押して離れようとする。

 

「やめて……もう聞きたくない」

 

 意外にもあっさりと離れたがしかし、さながら大衆を背にした正義の演説をするかのようにテレサ(ダレカ)は、芝居掛かった声色で謳い続ける。

 

「ああ、哀れなジークフリート。妻の死を受け入れられず、その妻を死に追いやった娘のことは、なおさら受け入れられなかった」

 

 一度そこで言葉を区切った。

 目を瞑り聞くことを拒否しているキアナからは見えないが、おそらくテレサの声で騙るダレカは、酷く醜悪で嗜虐性に満ちた笑みを顔一杯に張り付けてキアナのことを嘲笑しているのだろう。

 

「あなたの両親の障害で最大の不幸は、あなたが───」

 

 ダレカが両腕を高く掲げ、決定的な言葉が今まさに放たれんとする瞬間。

 

「そこまでにしようか」

 

 透き通った声がキアナの耳に入った。

 

「えっ?」

 

 うめき声と何かが吹き飛ばされ地面を転がる音に顔をあげてみれば、遠くに見える飛ばされて転がるダレカの姿。

 すぐ側には、長く美しい黒髪を揺らしながら真っ直ぐに座り込んだキアナを見つめ、手を伸ばす友人がいた。

 

「ざん……か?」

「今の君、酷い顔をしているよ」

「あ、あんたは本物なの?」

「そうだけど、そうじゃない……そうじゃないわけじゃないんだけど、まあ、アレと変わらず幻みたいなものだよ」

 

 伸ばされた手を取って立ち上がる。

 じっとザンカの顔を見つめるが、これまで現れた人達とは違ってキアナを否定するために現れたようには見えない。彼の黒瞳と表情に嫌悪や侮蔑の感情は込められているように感じなかったからだ。

 しかし、あの女と同じようなものだと告げられてしまえば、否応なく疑いを抱かざるを得ない。

 

「どういうこと? あなたもあの女が生み出したってこと?」

「アレとは別だね。僕は僕の力……というよりも人から力を少し借りているにすぎないから」

 

 そのせいで今面倒なことになってるんだけどと、おそらくザンカである人物は愚痴のようにこぼした。

 

「じゃあ……なら、あんたは何?」

「彼女も今はあまり力がないようだけど、僕の方も……正確には友人の方も残念なことに不完全だ。僕がこうして出てこられるのは今回っきりだろうね」

「質問の答えになってないわ」

「だから、僕のことは夢か幻って思ってくれればいいって言ってるでしょ?!」

「それじゃ私はよくわからないの!」

「ならわからなくていいよ。別に僕がなんだとしてもそれは重要じゃない」

 

 ため息を吐いて呆れたように言うザンカに、間違いなくこれは本物だと確信を抱いたキアナ。

 絶妙にムカつく仕草の上手いやつだ。

 立ち上がった時から握ったままになっていた手を離す。

 

「ならこの世界はなんなの?」

「君の心の中とか、そういう割とありきたりなものだよ。夢だというのも間違いではないはず」

「はずって……ザンカもわからないんじゃない」

「そりゃあ僕は専門家なんてもんじゃないからね」

 

 両手を軽く上げてお手上げだと示す様子は、あまりに場違いな感じがしてつい笑みが溢れた。

 それから表情を引き締めてザンカはキアナに語りかける。

 

「あと何度君がこれと似た夢を見るか僕にはわからない。だけど、君はアレに負けちゃいけない」

「私にもそれくらいわかるよ」

「君が泣きながら僕の助けを求めるなら、助けることもやぶさかではない。だから、まぁ気楽にいなよ」

「ふん、私はS級戦乙女になるのよ? この程度のことで泣くもんか」

「それなら安心だね」

 

 不敵な笑みを浮かべるキアナに、調子が戻ってきたことを察したのかよかったよとザンカは笑う。

 

「さぁ、キアナ。起きる時間だ」

 

 そんな声が聞こえると、だんだんと視界が暗くなって意識が薄れていく。これまでの暗転は不安と混乱で怯えるしかなかったが、今回は何も気にする必要はない。

 ゆっくりと落ちていく感覚を感じながら、キアナの意識は闇へ沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ」

「……ん、んん?」

 

 極至近距離で目があった。そのままお互いが動けば顔がくっついてしまうくらいの。

 キアナの視線は一度外れて、左右上下を見渡し自分が置かれている状況を把握したらしい。

 

 ドスッ

 

「うぇっ!?」

 

 唐突に響いた鈍い音とともに鈍痛が僕の身体に広がっていく。

 腹のあたりを見れば、少なくともお遊びで手を出すには深すぎる具合にキアナの手刀が突き刺さっている。

 

「い、痛いから……その手をぬいっ!? ああぁあぁあああ?! グリグリしないでっ!」

「バカ! アホ! 変態!」

 

 深々と刺さった手刀を回して、僕の身体に甚大な被害を与えながら罵倒を続けるキアナ。

 やめて! 死人が出てしまうっ?! 

 

 ベッドに下ろすために肩と膝の裏辺りに回していた手を退けて、彼女の攻撃範囲から離脱する。

 髪を逆立てて何やら大きな声をあげているが、僕はそれどころではない。痛すぎる。

 

「何してるのよ?! 私を襲おうとしたわね! 信じられない! 最低!!」

「……ちょ、ちょっと待って…………」

「姫子と、芽衣先輩と委員長に言ってやる!」

「それは……しゃ、洒落にならないからやめるんだっ!」

 

 

 

「僕がキアナの寝込みを襲おうとしたなんて、そんな意図はないということを弁明させてくれ」

 

 先ほどの醜態などなかったかのように振る舞って、弁解を試みる。

 

「考えてもみてくれ、万に一つ僕が自らの欲求と本能にしたがって君を襲ったと仮定しよう」

 

 おい、仮定だと言ってるだろうが。身体を抱えてこちらを見るな。距離を取ろうとするな、毛布そうやってを身体に纏わせるな。

 人がきたら勘違いされて僕の社会的地位に致命的なダメージが入る。

 

「そもそも、何を勝手に私と芽衣先輩の愛の巣に入ってきてるの?!」

 

 愛の巣。

 

「いや、僕はそんなところに無断で侵入するような人間じゃないよ……」

「無断じゃなければ許されると思ってるの?」

「断りを入れて許可が出たらという意味に決まってるだろう」

「じゃあなんで?」

「君は訓練中に急に倒れたんだ。だから僕が医務室まで送って来たところ」

「確かに。私の部屋にしてはなんか物が少ないなーって思ってたんだ」

「愛の巣だって言うなら医務室と間違えないでくれる?」

 

 うぐっとキアナが黙ったところで、話を変える。このまま続けてもいいことはないのだ。

 

「それで、すごいうなされてたけど大丈夫?」

「私うなされてたの?」

 

 それはもう、すごく。

 

「途中からは落ち着いて来てたけど」

「うーん、よく覚えてないんだよね……変な夢でも見てたのかな?」

「僕もよくあるよ変な夢を見てうなされること」

「そうなの? 全然そんなことなさそうな顔してるけど」

「それは……褒められてるの?」

 

 顔を逸らしたキアナを半眼で見てやる。

 

「まあそれはいいよ」

「そうそう、そんなのはいいんだよ!」

「調子のいいやつめ…………何はともあれ、大事ないようでよかったよ」

「えへへ、運んでくれてありがとう」

 

 ……。

 

「どうしたの? 変な顔して」

「……なんでもない」

 

 ……やめておこう。

 なんというか、ここで何か言ってしまったら負けた気持ちになるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン」

 

 学園長───テレサ・アポカリプスの咳払いによって全員の注意が前方へ向かう。

 

「それじゃあ、試験を始めるわよ〜」

 

 キアナの介抱をしてから早数日。

 緊張感のない声と共に試験の開始が告げられる。

 今回の試験は、実践形式。勝敗だけでなく、戦闘中のパフォーマンスも含めて試験管による合否判定が行われるらしい。

 とはいえ、勝つことに越したことはない。

 

「あら、キアナちゃん、顔色が悪いわよ? 昨晩、盗み食いでもしてお腹壊したの?」

「うーん、ここ最近ずっと変な夢を見るの」

 

 僕の隣では、キアナと芽衣さんの二人が普段通り仲良くくっついて話している。

 

「芽衣先輩に捨てられて……でザンカに……」

「僕がどうしたって?」

「変な夢見てるって話だからなんでもない! 前にザンカには話したじゃない」

「キアナちゃん、試験の準備でストレスが溜まってるのよ。最近は夜、委員長やザンカくんと訓練もしていたでしょ? きっと疲れも取りきれてないんじゃないかしら?」

 

 僕の方にはフシャーと猫のように威嚇するが、芽衣さんには抱きつきお腹のあたりに顔を埋めている。

 おい、こっちから見ると顔の()()()が隠せてないぞ。

 

「試験が終わったら美味しいもの作ってあげる。委員長とザンカくんも一緒にね」

「ホント? えっへへ〜嬉しいな」

「ありがとうございます。フカも多分喜びます」

 

 彼女が誰かと遊んでるところとか見たことないし。

 人と関わるのが嫌いってわけでもないだろうから、参加はしてくれるはず。なんなら嬉しそうな雰囲気が隠せない可能性まである。

 前に僕と行った時は「久しぶりですね」とか言っていたし、大丈夫。

 

「じゃあ、試合でも芽衣先輩は手加減してくれるよね?」

「だめよ。試験でズルはできないわ。甘えてないで、早く戦闘服に着替えて」

「もう〜、芽衣先輩ったらホントにつれないんだから〜」

「ならキアナちゃんは僕と当たったら手加減してくれる?」

「するわけないじゃん。今日こそ泣かしてやるわ!」

「え? 芽衣さんと僕の対応の差がひどくない?」

 

 

 

 

 そんなこんなで試験が始まった。

 キアナは始め、芽衣さんとやるらしい。

 僕もその時間は他の生徒と戦う予定なので、あとでフカに聞くか本人に聞くかして結果を教えてもらおうと思う。

 

 僕の試合が終わって戻ってきてコートを見れば、ブローニャさんとキアナがちょうど戦い始めるところのようだ。

 

「この試合、ブローニャは絶対に手加減しません」

「うん、私だって同じだよ!」

「ブローニャは負けません!」

 

 すごく青春っぽくてよい。

 僕みたいな燃え残りとは違うのだと、彼女たちの輝きを見ると思わされる。

 これは別に嫉妬や羨望なんてものではないが、僕ももう少し彼女たちを見習ってキラキラすることはできないのだろうか? 

 やっぱり夢や希望がないとなれないかな……。

 自分が誰なのか、どこから来たのかわからない僕は、残念ながら夢や希望を持つことは難しいのである。

 

 キラキラとした未来の夢を持つよりも、後悔に塗れているだろう過去のことを僕は知りたい。

 

 そんなことはともあれ、試合に集中しよう。

 ブローニャさんは砲撃で距離を取って戦闘を運びたい。キアナは、その弾幕を掻い潜って近接格闘に持ち込みたい。

 近づかれたとしてもブローニャさんには重装ウサギがあるとはいえ、敏捷の差は如何ともし難い。近接戦に持ち込まれたらあとは時間の問題というところだろうか。

 

 僕とフカの訓練では殆どの武装を用いて戦っていたが、重砲は二人とも使えなかったために未対策である。刀を使う芽衣さんとは僕とやっていたからか、うまく戦えたようだが今回はどうなることやら。

 

 

 なんて事を偉そうに心配していたが、試合は予想以上にあっさり終わった。

 重装ウサギにから放たれる砲弾を避けたり、拳銃でそれらを撃ち落としたりして凌ぎ、距離を詰めきったキアナが一撃を加えて終了した。

 

 ま、まぁ? 僕とフカと何日か戦い続けたから当然かな? 

 病み上がりのブローニャさんに負けるようでは、トレーニング10倍の刑に処すところだよ。

 

 

 

 

 僕の方の試験も、キアナの試合を見たあとに終わった。

 わざわざ語ることはない程度には圧勝である。攻撃を避けたら、そのまま近づいて首元に刃添えればそれで終わり。

 まあ、毎日フカとやってるから一般生徒には負けることはない。

 万が一にも負けてしまったらトレーニング10倍どころの騒ぎじゃなくなる気がするし。故にあれは負けられない戦いだったのだ。

 

 戻ってくれば再びキアナが戦っているのが見えた。

 目を凝らしてみれば、息も荒いしかなり追い詰められているようである。

 

 今の彼女がそんなに苦戦する相手がいるかなあ? と思い相手の方を観察してみれば、なるほどと納得せざるを得なかった。

 そりゃあフカと戦ったらそうなるなと。

 

 というかそれよりも、あそこまで食いつくことのできている方が驚きだ。昨日の訓練じゃあそこまで戦えていなかった気がするが……普段のキアナってあんなに強かったか? 

 

 彼女のことを弱いと言いたいわけじゃなくて、今日、というよりも最近の彼女は異様なまでに調子がいいように感じる。

 調子がいいのはもちろんいいことではあるが……しかし、それはキアナが変な夢を見ていると言い始めたころから。その夢がストレスによるものと仮定したならば、ストレスが溜まっている状態でよいパフォーマンスができるものなのだろうか? という疑問が浮かんでしまう。

 

 

 

「ハーフタイムを借りて、みんなに紹介するわ。こちらは本部の視察官、リタ・ロスヴァイセさんよ」

 

 学園長の言葉に顔を上げれば、メイド服でいいのだろうか? そんなような服を身に纏いどことなく妖艶な感じを受ける女性が、学園長と並んで立っていた。

 

「美人で優しそうな人!」

「本当に戦乙女なの?」

 

 生徒から声が上がる。確かに、美人で優しそうだ。

 あんな人でもS級戦乙女というのだから、人は見た目で判断してはいけないのである。綺麗な薔薇に触れようとしたら棘が刺さって致命傷になるなんてことになりかねない。

 そんなS級戦乙女の方曰く、学園の視察ついでに戦乙女試験も見学していくそう。

 

 僕は一応天命所属で聖フレイヤ学園に在籍してはいるものの、別に戦乙女じゃないのでそこまでの憧れはない。

 しかし僕以外の生徒は戦乙女な訳で、周囲からは凄まじい熱量を感じる。

 程よい緊張感が漂い、やる気に満ち溢れた声が聞こえる。

 

「お邪魔します、皆さん。テレサ様、本当に優秀な生徒さんが揃ってらっしゃいますね。是非交流してみたいものです」

 

 交流って握手とか、サインとかだろうか? 

 案外S級戦乙女も俗っぽいんだな、なんて考えていた僕だがやはりS級戦乙女は一味違っていた。

 

「予想以上の腕をお持ちになられた戦乙女が何名かいらっしゃいますので、失礼でなければそのうちの一人と手合わせ願えればと」

 

 僕の思ってた交流じゃない。

 ハートフルな交流かと思ったらバイオレンスだった。

 

「キアナ、せっかくなら手上げてみたら? 前S級戦乙女と戦いたいって言ってたじゃん」

「いいのかな? 私手上げるよ?」

「名前を覚えてもらえるかもしれないし、ありじゃない?」

 

 僕はあげないけど。

 

「そこの黒い髪の方の隣にいらっしゃる白い髪のお嬢さん、お名前はなんとおっしゃいましたか?」

「え? 私はキアナ。キアナ・カスラナです!」

 

 指名されたのは僕の隣で、いつ手を挙げようかとうずうずしながらロスヴァイセ視察官を眺めていたキアナ。

 

「手を挙げてないのに指されたわ。やっぱりわかる人にはわかるのよ。この私の才能が!」

「かもねぇ」

 

 

「まあ! カスラナ……」

「いやいや、そのカスラナじゃないわ。ただの同姓よ」

 

『カスラナ』という苗字に何かあるのだろうか? 

 S級戦乙女の驚き方と学園長の誤魔化し方がちょっと気になる。

 これが終わったら少し……少し調べてみようかな。フカはA級戦乙女だし、彼女に聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「じゃあ私の勇姿をそこで見てなさい!」

「任せて、しっかり見とくよ」

 

 いってらっしゃいと送り出した僕に、腕を上げて背中で答えるキアナ。

 なんだそれは、ちょっとかっこいいじゃん。

 

 

 

 

 キアナとロスヴァイセ視察官はコートの中央あたりで向き合う。

 好戦的なキアナの表情とは反対に、これから戦闘が始まるとは思えないほど優雅な笑みを浮かべたロスヴァイセ視察官。

 会場の緊張が最高潮となったと同時に開始の合図を宣言する声を学園長が発する。

 

 即座にキアナは距離を離し牽制として銃を連続して発砲する。

 対するロスヴァイセ視察官は大鎌を携えるのみで動きは見せない。

 キアナはS級戦乙女の余裕の様子に顔を顰めるが、しかし次の瞬間にはそうもしていられなくなった。

 

 発砲した弾丸は一瞬の牽制にもならなかったのだ。

 最小限の動きで距離を詰める。首を傾け、半身をずらし身体の中心を捉えているものに関しては、その手に握られた鎌によって弾かれ断たれる。

 その程度の弾丸など脅威に値しないとばかりに、一直線で詰められることでキアナは表情を歪めた。

 予想はしていたが、それはそれとして嫌なのだろう。

 

 僕も牽制を意に介さず向かってこられるのは嫌だ。

 君のことだよフカ。

 なんで全力ではないとはいえ刃の潰されていない刀を振るっているのに、完全に見切ってギリギリを攻められるんだ。それ下手したらざっくりいくんだけど。

 

 話がズレた。

 

 小手先の速射でロスヴァイセ視察官のスピードを止めようと頑張っているようだが……どうにも難しそうである。ジリジリと後退しているし距離も既に詰まっている。

 

 鎌の間合いに捉えられたキアナは防戦一方という状況になった。

 残像と見紛う速度で迫り来る刃に髪を散らして、時に銃身で逸らしながらギリギリで避け続ける。

 しかしそれでも力の差は存在するわけで、勝負が決まる一撃こそ凌いでいるものの、確実に追い詰められ切り傷が増えている。

 未だ試合が終わっていないのは、視察官の手加減によるものであるということは誰の目にも明白だろう。

 

 それは戦っている本人も理解しているのだろう、覚悟を決めた表情となる。

 そろそろ終わりになりそう。

 

 命を刈り取る死神ごとき鎌は、学園の生徒とは一線を画したスピードで振るわれる。その刃をキアナはグリップの底の部分で叩くことで、軌道を無理やりに変更させる。叩き落とした際の反動を利用して飛び上がり、空中で回転して踵落としを見舞うことを試みる。

 

 しかしその程度でやられるほど、S級戦乙女の名は安くないということだろう。

 

「ふふふ、甘いですよ」

 

 そんな優しげな囁きともに、逸らされた鎌をそのまま地面に刺すことでポールのように利用。それを軸にしてダンスを踊るようにくるりと周り、キアナの攻撃を回避する。

 

「はぁ?!」

 

 想像もしていなかった回避方法に目を見開き、声を上げるキアナ。

 咄嗟に直撃を躱わそうと無理やりに身体をひねるも、空中からの攻撃を避けられてしまったキアナは大きな隙を消すことはできない。

 視察官に背後を位置取ることになり、そのまま蹴撃を受けたキアナはゴム毬のように吹き飛び転がる。

 

 優しげな声とは異なり、やっていることはえげつない。

 

「ぐうっ?!」

 

 背中を強打した事で呻き声をあげ痛みに顔を顰めるものの、キアナの闘志はいまだに衰えていないらしい。

 すぐさま起き上がり追撃に備えて銃を構えた。

 

 しかしそれは杞憂であったようで追撃は加えられることなく、贈られたのは拍手だった。

 

「ここまでのようですね。お疲れ様でした、キアナさん。B級戦乙女とは思えない、非常に素晴らしい技術をお持ちでした」

「私はまだ……はぁはぁ……降参してない! まだやれるわ!」

「疲れたと顔に書いてありますよ。よくおやすみになられてください」

 

 それではお先に失礼します。そう言って一礼すると、ロスヴァイセ視察官は試験場を後にした。

 

「キアナちゃん! 怪我してない? 大丈夫だった?!」

「キアナ、大丈夫ですか?」

 

 ふらふらとしながら戻ってくるキアナに、芽衣先輩とブローニャさんが駆け寄り心配そうに声をかける。

 へらりと笑みを浮かべて大丈夫だよと答えるキアナは、疲れ切っていてアレを凌ぐのは相当精神的にも肉体的にも擦り切れたのだろうことが伺える。

 

「お疲れ様、そこそこ動けてたじゃん」

「……S級って遠いね」

「まあ天命最強を謳うくらいだからねぇ。誰でもなれるようなものじゃないでしょ」

 

 それっきりタオルを掛けて伏せてしまう。

 

「何? 諦めちゃおっかなって?」

 

 キアナを少し揶揄うつもりで、ちょんちょんと指で突きながら言ってみれば、そんなわけないでしょと鬱陶しそうに僕の手を払いながら言った。

 

「何よ、その疑ってる目は」

「別に〜? 僕にも勝てないのがすごいこと言ってるなぁって」

 

 僕の言葉にぴくりと反応すると、掛け声とともに立ち上がる。

 急な動きに驚いた僕はつい尻もちをついてしまった。

 らんらんと輝く太陽を背にして、自信に満ち溢れた瞳が僕の瞳と重なり合う。ピシッと伸びた指先で僕の胸の辺りを指し示すと、宣誓するように言葉を紡ぐ。

 

 

「私はキアナ・カスラナ! 天命最強の戦乙女になるの!!」

 

「この程度で諦めるわけないわ!」

 

 

 この瞬間の彼女の顔と声を、僕はたとえ記憶が失われようとも鮮やかに、そして明瞭に思い出すことができるだろうと思う。

 それくらい鮮烈かつ強烈に、彼女の姿は僕の記憶に焼きついたのだ。




初めの方のやつと最後のやつは、いわゆる運命の構図(n回目)
前話で記述するのを忘れていましたが、主人公に聖痕は発現していません。

よろしければ感想と評価よろしくお願いします。
私の作品じゃなくてもいいのです、とにかく崩壊3rdがランキングに載っているところが見たい()
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