ブルーアーカイブ_防衛室の道化師   作:気まぐれ猫

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 ちょっとした息抜きに書きました。本編よりも幕間や番外の方が筆が早いのはなんでだろうなぁ・・・
 あと、ある映画のネタが色々と含まれています。分かるかな?


幕間及び番外編
在りし日の記憶


 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

 薄暗い金庫の中で、男は高密度の合金の扉を背にして座り込んでいた。奥には、彼が投資と詐称して住民から掻き集めた大量のお金がある。いつもは心を癒してくれる金は、彼の目に入っていない。今の彼の心を占めているのは、自分を追いつめている者への恐怖心だけだ。

 

「大丈夫だ。この金庫は高密度の合金で出来ているし、ロックも厳重だ。奴がここまで来るはずがない」

 

 不安がる自分へ言い聞かせるように何度も言葉を繰り返すが、心は落ち着かない。先ほどまでの光景が頭をよぎる。雇った戦闘用オートマタたちが放つ銃弾の嵐を一切避けることなく突き進み、盾で瞬く間に彼らを解体する彼女の姿。金色の瞳が彼に向けられた途端、情けない悲鳴を上げて逃げ出して金庫に逃げ込んだのだ。

 

「くそっ!化け物め!RPGの不意打ちを受けても傷一つ付かないとは!いったい奴は何なんだ!?」

 

 頭を抱えるが現実は変わらない。爆炎の中から何もなかったかのように表れて無表情のまま歩いてくる彼女を見て、恐怖した。

 彼らのように人を食い物にする者たちにとって、彼女はまさに天敵の中の天敵。どんな屁理屈を並べても、そんなの知るかとばかりに暴れまわる乱暴者。あまりに強い神秘のおかげで戦車砲も効かない異常なまでの頑強さ。

 連邦生徒会長が手に入れた最強の終末装置。その魔の手がゆっくりと迫っていた。

 

「私は悪くない・・・騙される奴らが悪いのだ・・・早く、早く片付けてくれぇ・・・ひぃっ!?」

 

 ガンと金庫全体に衝撃が走る。何度も何度も衝撃が伝わり、彼の身体を揺らす。

 

「く・・・来るな・・・来るなぁ・・・!!」

 

 情けなく体を丸めて嵐が過ぎ去るのを待つ。少しの間振動していたが、それもすぐに止む。それを感じて、彼は嗤った。

 

「ハハ・・・ハハハハハ!!流石のお前でもこの金庫を突破するのは不可能なようだなぁ!ざまあみ・・・は?」

 

 唐突な破裂音と共に扉から手が生える。いや、その表現は正しくない。扉を切り裂いて手が侵入してきたのだ。金庫を作った者たちが手を抜いたわけではないが、彼女の前ではどんな堅牢な壁であっても紙と何ら変わりない。それに気づかなかった彼の落ち度だった。

 金属が無理矢理曲がる金切り音が鳴る。ついに両手が差し込まれて、ゆっくりと亀裂が広がっていった。

 

「あ・・・あぁ・・・!?やめろ・・・止めてくれぇ・・・!!」

 

 彼の悲鳴も虚しく、少しずつ罅は伸びていく。三メートルもの厚さを誇った金庫が食い破られていく。ありえない光景に、もはや彼の電子頭脳はショート寸前だった。

 やがて人一人通れるほどに広がると、青髪の化け物が顔を覗かせた。口元を大きく歪めて楽しそうに、彼女は声を掛ける。

 

「見つけたぞー、ジョ〇ー!!」

 

「ぎゃぁああああああ!!!」

 

 金色の瞳が向けられた瞬間、彼の意識が恐怖のあまりブラックアウトした。

 

「それでは、後はよろしくお願いします」

 

「分かりました。ご協力していただき、ありがとうございます!!」

 

 ヴァルキューレ警察のカンナが敬礼をし、諸悪の根源である男性をパトカーに押し込む。周りでは投資として金を騙し取られた人が集まっており、見つけたリストと契約書を照らし合わせながら返却作業を行っていた。

 

「今回の被害は少ないですね。建物そのものが崩れるくらい覚悟していましたが」

 

「さ、流石にあれだけ言われたら自重するよぉ・・・」

 

「傭兵をたった一人で全滅させておいて何言ってるんですか。あれだけやって返り血(オイル)を浴びていないとかどんな動きしていたのやら・・・」

 

 溜息をつきながら上司であるユリを見る。何物にも染まらないことを示すような真っ黒に染めた連邦生徒会の制服に身を包み、同じ色のコートを羽織っている。どこまでも深く吸い込まれてしまう海を彷彿とさせる青く長い髪。何もかもを見通すような金色の瞳は優しく細められて、人々を見守っている。

 

「あれくらい見てから回避できるし、帰ったら訓練しようか?」

 

「・・・その前に報告書を作りますからね。室長がやるんですよ?」

 

「ひ~ん。ごめんカヤちゃん、手伝って~~!」

 

「全く、この人は全く・・・!」

 

 身長の関係上、どうしても見上げることになる彼女のほっぺを伸ばした手でもちもちする。ユリは嬉しそうにカヤの手を受け入れて成すがままにされていた。

 その様子を周りの防衛室所属の生徒たちは微笑ましく見守っている。彼女たちにとって、室長の櫓根ユリと次長の不知火カヤの夫婦漫才は日常の出来事。とんでもなく強いがどこか抜けているユリと弱いけどしっかり者のカヤ。今の防衛室は、この二人を中心に回っていた。

 

「カヤ次長、残りの後始末は私たちにお任せください」

 

「増員を図ってくれたおかげで余裕があります。ティーパーティーへの報告も私たちが行いますので」

 

「悪いですね。今日は作戦が成功したことを祝って、皆で食べに行きましょう。お代は全て経費として落としますから・・・ね?」

 

「うぉおおおおお!!!お前ら、絶対に夕方までに終わらせるぞ!」

 

「「「よっしゃぁあああああ!!!」」」

 

 一気にテンションが上がる局員たち。作業スピードが一気に上がる彼女たちを見て苦笑いをする。美味しいものをただで食べられると分かって、現金だなと思いながら二人は連邦生徒会への道を歩き出した。

 

「最近は少なくなってきたとはいえ、まだ悪徳業者はなくなりませんね。自分ならバレないとでも思っているのでしょうか」

 

「あれだけ派手に叩き潰したのにね~。一区画くらい消し飛ばさないと駄目かな?」

 

「やめてください。そんなことをしたら、またもやし生活まっしぐらですよ。それに加えて生徒会長とリン行政官候補の説教が待っています」

 

「うっ・・・それは嫌だなぁ・・・」

 

「まぁ、いざという時には屁理屈捏ねて誤魔化します。貴女も知っての通り、舌戦ならば負けなしですので」

 

 トコトコと歩きながら頭を悩ませる二人。ユリは先ほどの作戦で汚れてしまった盾を拭き取って背負った。170cmと女性の中では高い身長を持つ彼女よりも少し小さい大きさであり、あらゆる攻撃を跳ね除ける絶対防御を誇る円卓状の盾。その盾を守り、切り裂き、押しつぶし、殴りと自由自在に扱う。キヴォトスで必要な銃を持たずにここまで戦ったのは、彼女一人だけ。それだけ、ユリの実力の高さが凄まじいものだと分かる。

 

「本当にありがとう~・・・あ、こんにちわ!」

 

「おや、ユリちゃんじゃないか。仕事帰りかい?」

 

「うん!今日は早く終わったんだ!これから帰って事務仕事だけど・・・」

 

「アッハッハ!そうだ、これ持って行ってくれ。家で採れた野菜だ。今年は凄い豊作だったから沢山採れてな」

 

「ありがとうございます!また手伝いに行くからね~」

 

「お~い!」

 

 行く先行く先で様々な人たちからおすそ分けを受ける。彼らは騙されて金を搾取されたり、トラブルに巻き込まれて困っていたのを助けたことによって親しくなった。その姿を見て、カヤは一人俯く。

 

(流石室長、人たらしなのは私だけではないんですね・・・)

 

 分かっていたことだが、それが凄く心に来る。ユリは様々な人たちを助けて無数の縁を結んできた。常に周りには笑顔が溢れて、無数の人に囲まれている。人を陥れて成りあがるために策略を巡らす自分とは対極の存在だ。

 

(やはり・・・貴女の隣に私は・・・)

 

「ちょっと」

 

 声が彼女の意識を引き上げる。見上げれば、段ボールいっぱいのリンゴを抱えたおばさんがいた。

 

「これ、持って行っておくれ。この前に助けてくれたお礼だよ」

 

「この前というと、相場よりも遥かに安い値段で叩き売られようとしていた時ですか?」

 

「そうさ。あんたが市場調査をしてくれたおかげであいつらの不正を見抜けたんだ。その上、新しい取引先も用意してくれた。おかげであたしは店を畳まずに済んだんだ。これはそのお礼さ」

 

「えっと・・・その・・・」

 

 差し出されたそれを戸惑いの表情で見つめる。別に自分は大したことはしていない。商品の価値が貶されて、安く買い叩かれるのが気に食わなかっただけだ。お前などそんな価値しかないと見下す彼らの態度が、反吐が出るほど嫌だった。

 だから、奴らに一泡を吹かせるために調査を行って別会社へのルートを開拓。他の商店も同じように騙そうとしていたため、脱税調査と称して物理的、社会的に叩き潰した。

 それに、室長からなんとかしてほしいと頼まれただけ。彼女に言われなければ、私は決して動かなかっただろう。

 

 

 私は、あなたたちを見捨てようとしたんだ。助けようとしなかったんだ。だから、私にお礼なんてものを受け取る資格なんて―――

 

 

「カヤちゃん」

 

 負のスパイラルに落ちようとしていた時、優しい声が耳に届く。目の前には両肩いっぱいにお礼を抱えたユリの姿。彼女はカヤに優しく微笑みかけると、差し出された段ボールをそっと受け取った。

 

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

 

「・・・あんたも色々抱えているみたいだけどさ。あまり肩の力を入れ過ぎないようにね。程よく気を抜くのが、生き抜くコツさ」

 

「は、はい・・・」

 

「良かったね!カヤちゃんは頭脳戦なら凄い頼りになるからね。私もすごい助かってる。いつもありがとう」

 

「し、仕方ないですね!これからも頼りにしてください!私はいずれ連邦生徒会長になる女ですから!!」

 

 照れながら彼女は貰った段ボールを抱えなおして一緒に歩ていく。その足取りは、以前よりも軽く、軽やかなものだった。

 

 その日の夜。特急で仕事を終わらせた局員たちと一緒に焼き肉店で騒いで、経費として申請した財務室長と舌戦を繰り広げて、勝利のガッツポーズをした。

 

 

 

 ユリが意識不明になるまで、あと■■

 

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