幕間_???
「ぎゃぁあああ!!?」
身体に衝撃が走って壁に叩き付けられ、肺の空気が強制的に吐き出されて視界がぼやける。辺りを見ればあたしと同じヘルメットを着けた仲間たちが気絶していた。
「こ、こんなの聞いてない・・・」
「ただの護衛任務じゃなかったのかよ・・・」
辛うじて意識があった仲間が息も絶え絶えに喋る。
簡単な依頼のはずだった。大切な荷物を運ぶのに護衛が必要で、そのためにあたしたちを雇った。ただの護衛なのにかなりいい金額だし、ちょうど金欠だったから喜んで引き受けた。
それが、こんなことになるなんて・・・!!
「やれやれ、こんなものですか?向こうが腕のいい護衛を雇ったと聞いたから期待していたのに、とんだ期待外れですねぇ」
「ぼ、防衛室の死神・・・!!」
「死神ですか、私にはちょうどいい名前です」
炎の向こう側から現れたのは全身を真っ黒で統一した服。所々銀色の装飾を着けて、分厚いブーツで砕けた硝子を踏みつぶす。あたしたちが苦労して買った銃が、ヘルメットが奴の足音が鳴るたびに壊されてヘルメット団だった証が無くなっていく。
「金欠で手段を選んでいる場合じゃないのは分かりますが、きちんと下調べすること、契約書を確認することは大切ですよ。でないと・・・」
ガンッと何か重いものが地面に叩き付けられて、体が僅かに浮く。
ぼやけた視界が戻れば、そこに立っていたのは少し長い桃色の髪をポニーテールにして、前髪に青いエクステを付けて身の丈に合わない巨大で機械的な盾を持った一人の少女。その瞳は同じ真っ黒なサングラスによって隠されて、どんな目をしているのか分からない。
「こんなことになりますから」
改めて辺りを見渡せば、そこは火の海だった。護衛のために渡された前金で買った戦車は砲塔と車体が泣き別れをし、相手が雇っていたPMC達も皆やられていた。かなりの数いたはずなのに、それがたった一人に数分で―――!?
「タイムは・・・三分ですか。まだ一分を切れない・・・!」
ポケットから出した懐中時計を見て悔しそうに顔を歪める死神。
ははは・・・まだ三分しかたってないのか。たったそれだけの時間で、私たちが積み上げていたものがあっという間に崩されたなんて笑えるよ。
「ハハハ・・・」
「笑っても何も変わりません。もう直ぐヴァルキューレが到着します。あなた達は矯正局行きです。積荷を知らなかったとはいえ、犯罪に加担したことは変わりませんから、しっかりと反省してくださいね」
「・・・・・・もう」
「はい?」
「もうやだぁああああ!!」
張りつめていた心の糸が切れて恥も外聞もなく泣き叫んだ。もう何もかも嫌になった。入学費が払えなくて泣く泣く就職し、悪い大人に騙されて借金させられて、毎日カツアゲをしながら過ごす日々。本当はやりたくない。でも、生き残るためにはやるしかないじゃない!
「本当は・・・本当はミレニアムに入学して、色んな発明をしたかった!!同級生と一緒に馬鹿やりながら研究したかった!!」
「・・・発明が好きなのですか?」
「そうよ!ない資金をやりくりして発明してきたのに!それをあいつらに全部持っていかれた!あの新理論や装甲の特許だって、借金のかたに持っていかれた!!」
拳を地面に叩き付けながら訴える。私がミレニアムに入ったらやりたいことをノートにまとめて、実現しようと頑張っていたのに!!それを、全部汚い大人たちに持っていかれた!!
あの顔を私は絶対に忘れない。ゲスな笑いをしながら頑張って作った作品を持っていかれた時の感情を。思いを!
「もし、資金があったらどうします?」
「・・・ヘルメット団なんかやめて、自分の研究所を立ち上げるの。気の合う仲間たちと一緒に馬鹿をやりながら研究や発明をして、皆で宇宙船を作るんだ。そしてキヴォトスで誰もが成し得ていない宇宙への進出を果たす!」
そのために毎日細々と研究をしてきたんだ。どんなに馬鹿にされても、呆れられても、借金を返したら夢を叶える!
「ですが、今のままではただの夢です。それは分かっていますか?」
「うん。でも、私は諦めないから。矯正局を出たら、また一からやり直しね・・・」
ふっと笑いながら目を閉じる。矯正局に入れられても借金はなくならない。出るまでの間に利息も膨らむだろう。でも、必ず・・・
「・・・どこの会社ですか?」
「え?」
「どこの会社から借金したかと聞いているんです」
「ゴ、ゴクアークローンだけど」
目を開けば、彼女は厳しい表情をしながら端末で誰かに話しかけている。そのまま何かを話していたかと思うと、座り込んでいる私にしゃがんで視線を合わせた。
「私の元へ来ませんか?」
「へ?」
「あなたの借金は私が何とかします。その代わり、あなたの力を貸してほしいのです」
「あたしの力・・・?」
「ミレニアムへの入学費も支払いましょう。もちろん、卒業まで面倒を見ます。どうですか?」
いきなり信じがたい提案をしてきて訳が分からなくなる。でも、借金を何とかしてくれて、ミレニアムに入学させてくれるのは素直に嬉しい。夢が叶うかもしれないと思うと、胸の奥底から熱いものがこみ上げてきた。
「いきなりこんなことを言われて戸惑うでしょう。何か裏があるんじゃないか。また騙されるんじゃないか。そんな考えをもって当然です」
「う・・・」
「誤魔化さずに言いましょう。私にはある使命があります。それを果たすためにはあなたが必要なのです」
死神。いや、カヤ様はサングラス越しに私を真っ直ぐ見て手を差し出してくる。その手はとても魅力的で、今すぐにでも手を取りたい。
「この手を取るもとらないもあなたの自由です。できれば取ってほしいですけどね」
「・・・使命って何ですか?」
「それはですね――――――」
☆
「リーダー!!」
「ふぁっ!?」
仲間の声で意識が戻る。慌てて周りを見渡すと、そこは見慣れた研究所だった。どうやら昔の夢を見ていたみたい。
「おはよう、随分といい夢を見ていたみたいだね」
「うん、カヤ様と出会った時の夢を見てた。懐かしい夢だった」
あの後に起こった出来事は今でもよく覚えている。あたしを借金漬けにした大人たちは防衛室とヴァルキューレによって悉く逮捕されていった。何やら色々と後ろめたいこともやっていたらしく、余罪がたっぷりあったとのこと。問答無用で実刑となり、今は矯正局よりも厳しい場所へ送られたみたい。
借金が無くなったあたしは、ヘルメット団で気の合った仲間たちとミレニアムへ入学した。そして新しく部活を立ち上げて、そこで活動をしていた。毎日毎日研究と開発の日々。特許もあたしの元へ戻ってきたおかげで、充実した日々を過ごしている。
「本当、あの人には感謝してもしきれないよ。あのままヘルメット団にいたら、きっと腐ってた」
「あそこはあそこで居心地良かったんだけどね~」
休憩室から出て軽く走りながら開発部へ向かう。重力軽減シューズのおかげで全然疲れずに到着し、作業員と話す。
「リーダー!」
「お疲れ様です、リーダー」
「状況を教えてくれる?」
「なんとか一部解析が終わりました。現在、ファイアウォールを構築中」
「装甲の生産の目途が立ちました。現在、急ピッチで製造中」
「駆動系がまたイカれたよぉおおお!何が原因か分からないぃい!!」
「ファイアウォールはあの二人と一緒に組んで。ある人材は最大限に活用。装甲は品質管理を徹底的に、少しでもズレれば命に係わる。駆動系は手順を再確認、駄目だったらあたしに回せ!!」
『了解!!』
「ひーん!!やってやりますよぉ!!」
矢継ぎ早に対処しながら指示を飛ばす。すぐに自分たちの持ち場に戻り、作業を再開した。ここ数日徹夜をしているからか疲労が見えているが、なかなか休まない。それだけ、今の仕事の重要性を理解しているのだろう。
「ひと段落したら休憩させて。少しでもコンディションを保たないと、持たない」
「分かってるわ。けど、それだけ必死なのよ」
自分たちの成果で、カヤ様の使命を果たせるかどうかが変わる。その重みを理解しているからこそ、少しの妥協も許せない。そう考えると、休むという選択肢を取ることが難しくなっていた。
「ローテーションを組んで必ず休憩を取らせて。これは命令よ」
「了解。一応皆に知らせておくね」
「ごめーん!こっちに来て手を貸してちょうだい~」
「リーダー、行ってくるね」
「うん、任せた」
別の部署から呼ばれて走っていくのを見送りながら、目の前にあるモノを見上げる。まだ内部が剝き出しで、そこら中で作業員やドローンが作業に没頭しているのが見える。今は不格好だが、完成すれば雄大な姿を見せてくれるはずだ。
「長い・・・長い道のりだった」
ここまで二年もの月日がかかった。最初は問題だらけでどれから手を付けたらいいか分からずお手上げだったが、あのオーパーツがあったおかげで少しずつ解決していき、強力な助っ人も加勢してくれたおかげでどんどん進んでいった。
「なんとかして見せますよ。助けてくれたあなたを、今度はあたしが助ける番だ」
「それは嬉しいですね」
「え。カヤ様!?」
いつの間に現れたのか、背後にはあたし達の大恩人が苦笑しながら立っていた。あの時と同じような姿に思わず笑ってしまう。
「ふふっ」
「何かいいことでもありました?顔が笑っていますよ」
「はい、あなたと出逢った頃を思い出しましてね。ここまでこれたのはあなたのおかげです」
「そんなことはありません。私は人材とお金を用意しただけですから」
謙遜して肩を竦めるが、そんなことはない。これだけの人材と物資、そして研究に開発。どれだけの資金が飛んでいったのか見当もつかない。間違いなく天文学的な数字になっているだろう。
だが、そのおかげで一切妥協なく仕事ができているのだから感謝しかない。この人とあの人の支援がなければ、頓挫していた。
「それで、リオ会長から聞きましたがソフト面に不安があると?」
「ハード面はほぼ完成。しかし、ソフト面はあの二人の助力があっても難しく・・・申し訳ありません」
「謝ることはありません。これから挑戦するのは前人未到の事ですから、問題があるのは当たり前です」
話しながら隣で同じように見上げる。サングラス越しに見えるその目は、どこか遠くを見ている。いったいどこを見ているのだろう。その視線の先には何があるのだろう。
「物語の第一章は終わりました。ここからは確実に、迅速に作業をお願いします。あなた達の進捗具合によって、この世界の結末が変わると言っても過言じゃありません」
「分かっています。あたしたちの全力をかけて、完成させて見せますよ」