諸君、曇らせはいいぞ?これであっているのか気になるけど、違ったらごめんね☆
プロローグ
「こんにちは、今日も来てあげましたよ」
防衛室の執務を終わらせて、今日も足を運んできた。ここは相変わらず質素な部屋だ。せっかく私が個室を用意してあげたというのに何も飾りつけも私物もない。広い部屋にあるのは一人用にしては不釣り合いな大きなベッド。そして傍らにあるのは心電図や点滴など治療に必要な様々な機械たち。その中心で、無数の管に繋がれた貴女は今日も眠り続けている。
「今日は『災厄の狐』を矯正局にぶち込んできました。流石の彼女もSRTトップクラスであるFOX小隊には敵わなかったようですね」
タブレットを操作して記録した映像を流す。静かな部屋に銃撃が鳴るが、誰一人部屋に入ってこないし、騒ぎにもならない。
当然でしょう。この部屋は、私がミレニアムまで態々出向いて頭を下げて作ってもらった特別な病室なのですから。防音、防弾、防爆、盗聴対策と機能を追加していった結果、それなりの値段になってしまいましたが、この程度の金額など些事です。これよりすごいことを、ミレニアムのビッグシスターはやるのですから。
「すごいでしょう?これで厄介な七囚人は封じました。警備員もヴァルキューレのボンクラ生徒ではなく、SRTで固めました。これであの日が来ても大丈夫でしょう」
ハッハッハと笑いながら服を脱がして傍らにある洗面所で人肌ほどのお湯を注いだ洗面器を手に取り、タオルを浸す。ほんのり温まったタオルを絞り取って余計な水分を落とし、貴女の体を拭いていく。しっかり、丁寧に。決して拭き残しがないように慎重に。
「・・・少し瘦せましたね。ミレニアムとトリニティの救護騎士団が協力して作ったマッサージ機も役に立ちませんね。メンテナンスと改良の依頼をしなくては」
体を拭きながら眼光を鋭くして観察する。毎日来ているからこそ、ほんの少しの変化でもわかるようになった。まぁ、あれだけ拭いているのです。変化に気づかない方がおかしいですよ。
「やれやれ、そろそろ起きてくれませんか?じゃないと貴女の自慢の乳が萎んでしまいますよ」
嫌味を言いながら相変わらずデカい胸をつつく。プルプルと揺れるが、貴女は反応しない。
『っちょ!?やめてよカヤちゃん!!』
『執務中に私の頭を乳置き場にするくせに、触られるのは嫌ってなんなのですか。身長が伸びないのは貴女のせいですからね!!』
『そ、それはカヤちゃんの偏食とか運動不足とかが原因なんじゃ?』
『うるさいですよ!今日こそはその乳を剝いでやる!!』
『やーん!!カヤちゃんの巨乳破壊大帝!!』
うがーと言いながら貴女を追い回した日々が昨日のことかのように思い出される。その後はエンジェル24でアイスを奢られるのが日常でしたね。なんだかんだ言って丸め込まれたような気がしますが、気のせいでしょう。
身体を拭き終わり服を着せて筋肉維持装置の電源を入れる。強力な電気刺激を受けて体が僅かに反応するが、貴女は相変わらず何も反応しない。
『カヤちゃん見てみて!これで誰でもマッチョマンだよ!!』
『なんですかこれ、全自動筋肉マッサージ機?何に使うのですか』
『ふっふっふ。連邦生徒会の皆は普段運動しないから、体が貧弱じゃん?だからこれで体を鍛えればどんな事件が起こっても大丈夫だよ!』
『あの体力馬鹿がいるからいいでしょう!そんなものに予算は卸させませんからね!!』
『え~、カヤちゃんも少しは運動したほうがいいと思うよ~』
『最近はちょっとは運動していますからね!室長みたいなクソ頑丈な体じゃないんですから、自分の体を基準にしないでください!!』
「まさかあの時の機械が役に立つ日が来るとは思いませんでした。貴女は、これすらも予見していたというのですか?」
静かに眠り続けている貴女の顔を静かに撫でる。思えば貴女は不思議な人でした。アビドスに行ったかと思ったら蛇みたいな巨大な機械を仕留めてきたり、ミレニアムに行っては変な機械を拾ってきたり、トリニティに行ったと思ったらボロボロの生徒たちを見つけてきたり。
初めは意味不明な行動ばかりで、どうしてこんな人物が私を差し置いて防衛室長になって、私が次長になったのか納得がいかなかった。私の方が天才なのに。赤点ギリギリな貴女と違って、優秀な私こそ相応しいと思っていたのに。
『いや~。危なかったね、カヤちゃん』
『な、なんで・・・』
『いくら連邦生徒会所属でもブラックマーケットに乗り込むのは無謀だよ。護衛も付けないで単身で行くなんて、襲ってくださいって言っているようなものだよ?』
『う、煩いですよ!これから逆転する予定だったんですから、邪魔しないでください!!』
『分かった分かった。じゃ、いつも通り指示お願いね』
『!!・・・ああもう、分かりましたよ!』
「ブラックマーケットで違法企業を検挙して名声を高めるつもりが、情けなくも捕虜にされて。もう駄目だと思ったら貴女が単身で乗り込んできて、たった一人で殲滅しちゃんですから」
ま、私の指示があってこそですが。貴女一人で暴れたら損害額がエグイことになって、しばらくもやし生活になっていたの忘れていませんからね。そんな貴女にご飯をご馳走してあげているうちに料理スキルが上達したのは不本意ですが、今となっては感謝していますよ。おかげで最近は体調もいいですし。
「・・・室長。どうして目覚めないんですか?」
そろそろ起きてくださいよ。アビドスの人たちが心配していますよ。ゲヘナの風紀委員も待ちくたびれています。ミレニアムプライスも近いのです。トリニティから毎月送られるお茶菓子、一人で食べるの飽きました。
「お願いですから・・・また一緒に遊びましょうよ」
笑って、怒って、泣いて。貴女と過ごした日々が次々と思い出される。でも、いくら思い起こしても何も変わらない。目の前の現実は何も変わらず、貴女は眠り続け、私は起きている。これからキヴォトスで起こる、巨大な陰謀の渦に飛び込まなくてはいけない。
『話って何ですか。室長』
『ごめんね。こんな時間に呼び出しちゃって。でも、どうしても話しておきたいことだからさ』
『貴女の奇行はいつものことでしょう。で、話とは?』
『これを渡しておこうと思って』
『これは、貴女がいつも大事にしているノートじゃないですか。あ、もしかして室長の座を渡す気になったんですか!?』
『・・・そのノートはとても大事なことが書いてあるの。あ、今は開かないでね?私が死んだら開いていいから』
『何ですかそれ。室長が死ぬことなんてありえませんよ。あの暁のホルスを一撃で地に沈めた人が何言っているんですか。貴女を殺すことができる人なんて、このキヴォトスにいるわけないじゃないですか』
『・・・うん、そうだよね』
列車砲シェマタの解体作業を前日に控えた夜に呼び出されたかと思ったら、いきなり手渡された一冊のノート。いつも後生大事に持っていて、ふと置き忘れていたのを見て秘密を探ってやろうと手に取ろうとした瞬間に現れた貴女の顔を忘れはしない。
「これだけのことを知っていたんですから、そりゃ他人に知られるのは怖いですよね」
鞄からノートを取り出し、ぺらぺらと捲る。そこに書かれているのは、キヴォトスにとってはとんでもない劇薬。万が一流出してしまったら崩壊間違いなしのウィルス。これだけの秘密をたった一人で抱えて、悩んで、苦しんで。それでもよりよい未来のために歩き続けて。
『何しているんですか!早く逃げないと!!』
『ごめんね、カヤちゃん。これはどうしても破壊しないとだめなの』
『SRTでも解体できなかったものを、どうやって貴女が止めるんですか!貴女の攻撃でもビクともしないのに!!』
『それでも!!』
『っ!!?』
『それでも、破壊しないと駄目なの!こんなのがあったらあいつの思い通りになる!それだけは何としても阻止しないと!!』
『あいつって誰ですか!?直に増援が来ます!もっと強力な兵器も来るんです!それなのにどうして――――!!』
『カヤ次長!!』
『室長・・・?』
『連邦生徒会防衛室長、■■■■■■が命じる!今この時をもって次長を解任し防衛室長に任命する!!』
『え・・・』
『SRT各部隊!カヤ防衛室長を連れて今すぐ退避!こいつは・・・私が止める!!』
暴走して無差別攻撃をするシェマタの砲撃をいなしながら怒鳴る貴女。呆然とする私をSRT隊員が引っ張って避難していく。大分離れたと思ったら置いてきた谷から閃光が見えて、そして・・・・・・
「気が付けばベッドの上で他の隊員も同じ。でも、思ったより被害は少なかった。貴女の神秘が私たちを守っていたから」
でも、貴女はそうではなかった。増援に来た人たちが慌てて爆心地に行くと、あったのは粉々に砕け散ったシェマタと、盾にもたれかかる様にして倒れている貴女の姿。容体は酷いの一言。全身複雑骨折に内臓破裂、満遍なく全身を焼かれて見るも無残な姿になっていた。急いでキヴォトス一の病院へ搬送され、緊急手術が行われた。
結果、手術は成功して一命は取り留めた。だけど、脳に深い傷を負ったらしくて、いつ目覚めるのかわからない。こうして二年間もの間に体の傷はすっかり治ったが、意識は回復していない。
こうなることを見越していたかのように引継ぎの資料が作られていて、私は防衛室室長になった。いつか引きずりおろして手に入れてやると野心を燃やしていた席があっさりと手に入り、拍子抜けする。強大な軍事力が手に入ったが、心が満たされることはなかった。
だって、私は凡人だから。連邦生徒会長や貴女のような超人なんかじゃない。ただ他の人よりも悪知恵が働くだけのちっぽけな人間。そんな私が防衛室長なんて務まるわけもない。
今すぐにでも逃げ出したかった。こんな秘密を託されて正気でいられる自信もない。見なかったことにしてノートを燃やして、何もかも忘れて以前のように振舞えばいいだけだ。自分のことを超人と思い、優秀なふりをする私に。
『ねぇ、カヤちゃん』
『なんですか?休憩の延長なんてしませんよ。優秀な私は室長の分の書類を処理するので忙しいので手短にお願いします』
『・・・もし。もし私に何かあったらさ、キヴォトスのことお願いね?』
『当たり前でしょう。私達防衛室はキヴォトスの平和を守るためにあるんです。貴女に言われるまでもありません』
『・・・うん、その言葉が聞けて良かった。ありがとうね。本来なら私がやらないといけないけど、今のカヤちゃんになら任せられるから』
「・・・勝手にこんなこと押し付けないでくださいよ。私にはまだ貴女が必要なんですから・・・!!」
肩を震わせて手を掴む。血が通っているはずなのに、その手は思っているよりも冷たくて、それがとても悲しい。
お願いだから早く目を覚ましてくださいよ。こんな重いもの託されても辛いだけです。
思わず視界が滲むが、頭を振って視界をはっきりさせる。決めたのです。次に泣く時は貴女が起きた時にしようって。いつまで寝ているんだこの寝坊助って言いながら叱って、抱きしめて貴方の体温を感じながら泣くんだって。
「・・・もうじき舞台の幕が上がります。あいつが失踪して『先生』という大人が来ることを前提に計画を始めます」
まぁ、そう簡単にはいかないでしょうがね。戸惑いこそが人生だよ、と貴女は言っていましたし、きっと様々なハプニングがあるでしょう。でも、やって見せます。カイザーも、名もなき王女も、ベアトリーチェも、何もかも叩き潰して目指してやります。
病室を出て、通信機である暗号を流す。それはこれから起こる事件に対する計画が発動することを示す暗号。各学園にいる協力者へ発信されたそれは、このキヴォトスを守るためのギャラルホルンとなった。
「貴女の望む『あまねく奇跡の始発点』に、私も辿り着いて見せます」
その為ならば、私は道化を演じて見せましょう。どんなに辛くても、悲しくても、貴女が守ろうとした世界へ導いて見せましょうとも。
防衛室長であるこの私。
不知火カヤが。
転生者ちゃんは凡人の脳を焼きました。おかげで彼女は『覚悟』を決め、超人への一歩を踏み出しました。きっと全てが終わる頃には超人へと辿り着いていることでしょう。