序章「有り得てしまった世界線」
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「あつーい…暑くて干からびそう……動いてないのに暑いよ〜」
「
清々しい青空に浮かぶ燦々と照る太陽が、今日も世界を熱い視線で見つめている。
此処は学園都市キヴォトス。様々な学園が集合した都市であり、我々が知る人間よりも少し特殊な少女や生物達が住まう場所である。
そして、そのキヴォトスに建てられた数多の建物の中の一つである、大きなビルのオフィスで一人の大人と一人の少女が暑さにやられてだらけていた。
緑がかった薄い水色のロングヘアーを一つに結び、普段のおっとりとした顔は汗をかいて気怠そうな感情を曝け出して机に突っ伏している女性の名は、「梔子ユメ」と言う。
このビル―――もとい、キヴォトスを取り仕切る組織である『連邦生徒会』の下部組織である活動機関『連邦捜査部
かつてはアビドス高等学校の生徒会長を務めており、卒業して暫くはラーメン店で働き、このシャーレの顧問である「先生」が来てから就職した生徒である。
そして、もう一人。こちらも桃色のロングヘアーを一本に結び、アイスを食べながらオフィスのソファにぐでー…としている少女の名は、「小鳥遊ホシノ」と言う。
当時、まだ学生であったユメの後輩であり、アビドス生徒会の副会長を務めていた少女だ。かつてのユメに代わり、彼女が今のアビドスの後輩達と日々を過ごしている。
うへぇ…と、息を揃えて吐き出されただらしない声に、暑い中でも書類を整理しているもう一人の大人の男性―――このシャーレの顧問である「先生」は、あははと苦笑を浮かべた。
「ホシノもユメもごめんね、こんな暑い中来てもらっちゃって」
「いやいや、謝らないでよ先生。私は来たくて来たんだし」
「そうですよ。それに、私は職員ですから! 先生にだけ任せっぱなしにはいきません!」
「あはは、頼もしいね。でも、しっかり休憩は取ってね? エアコンも付けてはいるけど、それでも暑いし」
「そう言う先生も、ちゃんと休んでるー?」
「おう…痛い所突くね、ホシノ……」
シャーレは多忙である。それはもう酷く忙しい。
なんせ、キヴォトスにある学園の殆どの連絡や対応を取っているのだから。二徹三徹くらいは日常であり、それ故に疲労も相当のものだ。
今も、先生の目元には隈が出来ている。某製薬会社と言いシャーレと言い、主人公の所属する組織が全てブラックなのはどうなのだろうか。主に人権的な意味で。
先生は、逃げる様に話題を逸らした。
「そ、それより。対策委員会の皆は、最近どう?」
「うへー、分かりやすく話逸らしたねー…。うん、まぁ、皆元気だよ。なんなら前より張り切ってるかな? セリカちゃんはバイトを掛け持ちする様になって、シロコちゃんは…銀行強盗により熱心になっちゃってるけど…」
「なんでっ!?」
「あー…もしかして、
「うん。多分その所為かなぁ…」
「ワタル?」
聞いた事のない名前に首を傾げる先生。傍からすればなんてことはない様に見えるだろうが、これは珍しい事だ。
シャーレの先生は、キヴォトスに存在する学園に在籍する生徒の名前を全て把握している。そんな彼ですら知らない名前となると、非常に珍しいのだ。
「―――
懐かしむ様な顔になったユメが答えた。
―――アビドス高等学校。
かつてはキヴォトス最大規模の学園として名を馳せていたアビドスだが、ある時期に突如として頻繁に発生し始めた砂嵐の所為で環境が激変し、深刻な砂漠化を迎えた。
砂漠化対策の為に多額の資金を投入するも事態は好転せず、膨らみ続ける借金の所為で学園の経営すら困難となった。
それから何年も経った今でも酷く重たい借金があり、ホシノを含めた今のアビドス生徒―――アビドス廃校対策委員会が活動する事によって借金を返済し続けている。
しかし、それでも利子の返済だけで手一杯だ。9億―――ではなく。
そう。本来ならば9億を上回っていた借金は、1億という一割近い額まで返済されているのだ。
返済までに309年も掛かると言われていたそれは、大幅に減少している。それこそ、銀行強盗を行った際に得た資金を投入していれば返済は目前まで行ったと言っても過言ではない。
それを成したのが―――小鳥遊ワタルだ。
小鳥遊ホシノの兄にして、キヴォトスに存在するありとあらゆる学園から『特別警戒対象』として畏怖された
「借金は、殆どワタルくんが返済してくれたんです。元々は9億ぐらいだったんですけど、それを1億まで下げてくれたんです」
「す、すごいね…」
「凄い、なんて生易しい表現じゃ表し切れないよ―――お兄ちゃんは。凄いというより、怖いが勝つよ」
アビドスの為だけに、キヴォトスにある何もかもを焼き尽くしてしまうじゃないかって思ってしまうぐらいに。