その犯人を制圧した男は英雄に……ならなかった。
犯人を制圧すると共に即死させた超絶必殺技。
それを使った事で、男には犯人に対する殺意があったのではないか?
法廷で技の是非が問われる事になる。
……いうパロディ小説。
とある日、東京の繁華街で起こった通り魔事件。
犯人は、阿久万金男(あくま・かねお)という男性によって制圧された。
金男の使った技で犯人は死亡。
しかし既に被害者が何人もいた状態で、多少過剰防衛気味ではあったが「正当な行為」として処理される……はずであった。
しかし、阿久万金男は犯人の身内によって訴えられてしまう。
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「検察としては、被告・阿久万金男氏は単に防衛をしたのではなく、明確な殺意があったものと考えます」
検察が提示したのは、金男が使った技「地獄の断頭台」が文字通りの必殺なものだったからではない。
この「地獄の断頭台」という技は恐ろしい。
まず相手を逆フルネルソンに掴まえると、そのまま回転して振り回す。
そして平衡感覚が無くなった相手を放り投げると、自らも飛び上がり、喉にニードロップをして地面に激突させる。
喉に膝が落とされ、頭蓋骨は地面に叩きつけられ、両方壊される。
実際犯人は脛骨粉砕骨折と、脳挫傷によって即死していた。
だが、こんな大技、簡単に掛けられるものではない。
多くの目撃証言から、検察は金男を糾弾する。
「被告は被害者をまず一本背負いで地面に叩きつけた。
背中を強打した被害者は武器を手放した。
この時点で、通り魔であった被害者の制圧は終了していた。
しかし被告は、その後、被害者に馬乗りになると右手、左手を折っていた。
この時点で既に過剰と言わざるを得ない。
更に被告は、被害者を持ち上げると、両膝を思いっ切り地面に叩きつける。
解剖の結果、両膝とも骨折し、もう立ち上がる事は出来なかったそうです。
ところが被告は暴行を止めない。
プロレス技のパイルドライバーで、舗装してある地面に被害者の頭部を叩きつける。
そして胃袋に膝を落として血反吐を吐かせる。
更に被害者の頭を掴むと、脳震盪でも起こさせるかのように揺さぶる。
こうして背中、両手、両足、頭部、腹部、思考能力にダメージを与えた上で、被告は『地獄の断頭台』と呼ばれる技を使って、被害者を殺害したのです。
明らかな殺意が認められます。
被告に質問します。
貴方は、被害者が犯罪者である事をこれ幸いに、殺しても裁かれないという意識が有ったのではないでしょうか?」
裁判官が金男に答弁するよう求める。
金男は言った。
「あの時、何かに取り憑かれたように体が突き動かされていました。
自分でも自分とは思えない程、スムーズに体が動いて技をかけていました」
検察は再質問をする。
「この『地獄の断頭台』という技は、悪魔将軍という漫画のキャラクターが使ったものです。
貴方はさしずめ、悪魔に取り憑かれたとでも言うつもりですか?」
それに対する金男の返答は
「いや、悪魔じゃないです。
あれは何というか、戦いの神……でしょうか」
「人を馬鹿にしないで下さい。
そうやって精神鑑定に持ち込む気ですか?
我々は貴方の周囲に聞き込みをし、今までに精神疾患は無かったという証言を得ています」
ここで弁護士が発言を求めた。
「検察側にお聞きします。
被告人が使った技が『地獄の断頭台』だと知っていながら、何故その前の技について思い至らないのでしょうか?」
「その前の技?
一体何の事ですか?
いや、技名なんかどうでも良いのではないでしょうか?」
検察の返しに、弁護士は発言を続ける。
「あれらは『地獄の九所封じ』という、一連の連続技なのです。
背中、両手、両足、頭部、腹部、思考能力にダメージを与えた上で、発動するのです。
だから正確には『地獄の九所封じラストワン・地獄の断頭台』が正しいのです」
「弁護人は、本件に関係ある話をして下さい」
裁判長から注意が入るが
「いいえ、『地獄の九所封じ』である事は本件に関わる重要な話です」
と弁護士が反論する。
「この技に入ったならば、途中で止まる事は無いのです。
相手に反撃を食らえば止まりますが、そうでない限り、発動したら最後まで続けてしまうのです。
これはそういう技なのです」
そして検察と弁護士とで、屁理屈だ、いや真理だ、お前キン肉マン知らないだろ、知らないから何だ!と言い合いになり、この日の法廷は終わる。
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「参考人として、〇〇プロレスの方に来て貰いました」
検察が呼んだ、技のスペシャリストである。
悪役(ヒール)のレスラーで、危険な技には精通している人物だ。
まずは虚偽の証言をしない事を宣誓してもらう。
一連の激しい攻撃について尋ねられたプロレスラーは怒りを顕わにした。
「これは無いっスね。
俺たちプロレスラーは、体を鍛えて、受け身をしっかり取れるようになってから、技を掛け合っているんです。
素人さんがこんな危険な技出しちゃダメですよ。
人、死ぬっスよ」
「危険なんですね?」
「危険っス」
「途中で止めないと、死ぬか大怪我をしますね」
「当たり前っスよ!」
「無我夢中だから止められないとかありますか?」
「あるかもしれないですが、腕折った時点で普通は止めますね。
激痛で悲鳴を挙げていた筈ですから。
それなのにパイルドライバー?
これ、絶対殺す気でやってますよ。
もっと穏便な技だってあるんですから」
検察側は我が意を得て、心なしか嬉しそうに見える。
ここに弁護側が質問を投げかけた。
「この技、『地獄の九所封じ』なんですが、それでも途中で止められますか?」
「え? 地獄の九所封じっスか?」
プロレスラーはしばし考えた上で、
「地獄の九所封じなら仕方ない」
と回答。
目論見が外れ、慌てる検察側。
「ちょっと待って下さい。
さっき途中止められる、殺意を持ってやっているって言いましたよね」
「はい言ったっス。
でも、地獄の九所封じなら仕方ないっス」
プロレスラーは答えた。
一回スイッチが入ってしまうと、ラストワンまではどうしても続けてしまう、それが地獄の九所封じなのだ。
「まあ、地獄の九所封じなんて出した時点で殺意はあったっぽいんですが……」
「ですよね!」
プロレスラーの言に気を取り直す検察側。
弁護人が発言した。
「被告はその時、戦いの神に取り憑かれたと証言しています」
「マジっスか?」
目を見開くプロレスラー。
「だから、悪魔に取り憑かれたとか、そんな苦し紛れの言い訳は……」
「将軍様は悪魔じゃないっス。
戦いの神っス!
間違わないで欲しい!!」
プロレスラーは憮然した表情で検察を窘める。
そして頷きながら
「将軍様になり切ってしまったんなら、止められないっスね」
と言った。
このプロレスラー、普段は常識人だし、他人に対して優しい性格である。
しかし、一回悪役レスラーのスイッチが入ると、平気でパイプ椅子で相手を殴る、ロープを振り回して相手の首を絞めるといった行為が出来るようになるのだ。
その時
「何かが下りて来てるんスよね。
メイクすると、俺じゃない俺に変わってしまうっていうか。
まあ、ちゃんと人を殺さないように技を掛けるんですけどね。
なんて言うんですかねえ、無意識に流れるように、覚えた技を使うんスよ。
対戦する方も同じで、お互い阿吽の呼吸で技の応酬をすんですよねえ。
こういうの、多分分かんねえだろうなあ」
との事。
「もし、その悪役レスラーモードの時、地獄の九所封じをしろってなったら?」
弁護士が尋ねると、彼は胸を張ってこう言った。
「そりゃ、最後の地獄の断頭台までやっちゃいますね。
地獄の九所封じとはそういうものですから。
徐々に相手の力を削いでいく完璧超人の闘いのセオリー。
勝つ為には情けを持たず、一気呵成に攻め立てる悪魔超人の思想。
大雪山落とし、スピンダブルアームソルト、ダブルニ―クラッシャー、兜割り、ストマック・クラッシュ……思考を奪うのはどうするっスかね?
まあとにかく、発動したら止められないっスね」
その後、何やかやあったが、一回発動したらラストワンまで止まらない技を選んだ事は良くないが、基本的に人助けの為だった事と、犯人に対する個人的な恨みや殺意は無かった事が認められ、この「地獄の断頭台殺人事件」は被告人無罪と終わる。
それでも、危険極まりない技を使った事については注意すべきであろう。
裁判長は主文の前に一言もの申した。
「今後、同じような事があったら、発動したら相手を殺すまで止まらない技ではなく、
『究極のみね打ち』
相手を決して殺すことなく、その上で決まった瞬間確実に勝利を決定づける。
受けた相手に敬意を抱かせ、真に敗北した事を認めさせるような技を使って欲しいと切に願う」
この言葉を傍聴席で聞いていた件のプロレスラーは呟いた。
「キン肉族三大奥義かよ……。
常人には使えんぞ」
と。
法廷の部分は、細かいツッコミ無用で。
ウォーズマン理論のように、生温かい目で読んでもらえたら幸いです。