お嬢様はカリスマブレイクしたくない   作:セレシア

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ちょっと長めです。
犯人は紫。


第十一話 吸血鬼異変 ~レミリア・スカーレットの場合~

 幻想郷を一望できる高さまで浮かび上がり、散っていった仲間達に黙祷を捧げる。悪魔らしくないかもしれないけどこれくらいはしても良いはずだ。

 

「そうは思わないか? 九尾の狐よ」

 

 それにしても黙祷中にちょっかいをかけてくるとは無粋なやつめ。

 

「悪魔も祈るんだな。捨て駒にでもして見下しているものだと思っていた」

「そんなわけないだろう? 私の配下に捨て駒は一人もおらんよ」

 

 全く、フラン達め......。私も優先順位で言えば配下より家族だから文句は言えないがな。

 それにしてもこの狐は何やら焦っているらしいな。ま、それも当然か。

 

 ニヤリと笑って問いかける。

 

「どうした? 不安なことでもあるのか? 八雲紫が起きて来ないとか?」

「貴様っ!! 数百歳程度の小娘ごときがっ......幻想郷を敵に回したことを後悔しながら死ぬといい!」

 

 まだまだ未熟者だな。力こそ強大だがそれは私よりも歳を重ねているだけ。少し煽っただけで激昂するなんて敵ではないな!!

 

 感情のままに大量の式が召喚されていく。複数の式神がチームを組んで襲ってくるわね。

 

「つまらん。もっとマシな式を出すか貴様が直接出てこい」

 

 大量の式を同時に扱う妖力と、並列思考能力、計算されつくした動きには敬意を払うが......逆に動きが読みやすいから対処が容易くなっている。個々人の意思がなく、完全に藍の指示にしたがっているだけだから数を集めた意味をなくしているな。

 

 相手の攻撃をかわしつつ身体の一部を霧に変えて式神の式に割り込む。......ふむ。さすがに複雑な式が書かれているな。簡単なものであれば書き換えてやったが短時間では難しそうだ。

 

「であれば対処してみろ吸血鬼! 防戦一方でそんなこと言っても言い訳にしか聞こえないぞ!!」

「まあそう焦るな。淑女足るもの優雅でないと。貴様だけでなく貴様の主もお里が知れるぞ?」

 

 片手を振るのと同時に式を傷つける。改変は難しくても壊すだけなら容易いのだ。

 

「......」

 

 おお、すごい形相だな。女がして良い顔じゃない。

 

 黙ったまま次の式を出してくる。こいつは......空狐か。力を付けると共に尾を増やす狐の下に力を付けると共に尾を減らす狐がつくとは面白い。しかも今度は意思を持っているな?

 

 空狐の式に干渉しようとすると突然朝に変わった。皮膚に太陽の光が当たって指先から霧散していく。

 

「ふむ......」

 

 ()を顎に当てて術の大本に干渉していく。......幻術か。残念ながら私にはあまり向かないな。

 私が考え事をしていると身体が霧散していっているのにも関わらず焦らないことが不満なのか空狐は一瞬顔をしかめた。

 

「ずいぶんと余裕さね。吸血鬼は太陽の光にあたると死んでしまうんやろ?」

 

 思わずため息が出てきそうだ。そうか、私は弱点を放置するようなポンコツだと思われているのか。

 長生きした妖怪には興味があったがあまり経験値(・・・)にはならなそうだ。手元に槍を作りだす。

 

「スピア・ザ・グングニル」

 

 指を軽く振ると槍が虚空へと消えていく。

 数瞬の後、太陽の光が消えて私の身体が元に戻った。

 

「どうして妾の場所が? それ以前に何故太陽の光で死なない」

「幻覚程度が効くと思われていたとはな。なめられたものだ」

 

 驚き無防備な姿の空狐を殴り飛ばす。話にならん。空狐の時点で三千年は生きているだろうに......無為に長生きしてるだけだったんだろうな。

 

 私が墜落していった無傷(・・)の空狐を眺めていると怒りを静めて冷静になった藍が話かけてきた。

 

「ただの身のほど知らずではないみたいだな」

「で、いつまで様子見をしているんだ? ......ああ、なるほど怖くて出てこれないのだな? 主従揃って臆病者か」

 

 ずっと上から目線だと流石にムカついてきた。それにずっと視線を感じるのも鬱陶しい。

 虚空を睨み付けると空間が割れて隙間から胡散臭い女が姿を現した。

 

「藍、落ち着きなさい」

「紫様......。ですがあいつは!!」

「藍」

「......はっ」

 

 紫様......知っていたが幻想郷の賢者だな。境界を操る程度の能力も強力だが......特筆すべきはその頭脳か。

 本心を隠す胡散臭い笑みに程度の能力への柔軟な解釈。回りに同類がいない特異な種族だからかほとんどの状況を楽しむことができる胆力。

 

「さて、レミリアと言ったかしら?」

「ああ、その通りだよ八雲紫」

 

 そうか、わざと視線が分かるようにしていたのか。流石に最初から(・・・・)起きていたのは想定してなかった。

 

「なぜ私の名前を知っているのかは置いておきましょう。単刀直入に言うわ。不問にしてあげるから幻想郷に帰依しなさい」

「紫様!?」

 

 怒ったり落ち込んだり驚いたりと忙しいやつだな。感情に従って動く尻尾もあるようだしポーカーフェイスが苦手そうだ。

 

「元々そのつもりではあるが......舐められるわけにはいかんからな。私が勝った上で帰依してやろう」

 

 そもそも紅魔館のメンバーで結界を張れるのはパチェしかいないからな。幻想郷を支配したらパチェの負担が大きくなりすぎる。だから支配するつもりはない。だが私が頭を下げて幻想郷に入れて貰うのではなく、貴様らが私に頭を下げて幻想郷に入って貰うべきだろう?

 

「本気で勝てると思っているのかしら?」

「二対一だ。丁度良いハンデだと思うがな」

「貴様......!!」

 

 流石に紫は挑発に乗らないか。冷静さを失わせるのは大切だけど何がなんでも消すと思わせるのはメリットがないから仕方ないか。

 

「残念ながら三対一よ? 物知りなあなたなら知ってるかしら。博麗の巫女って言うのだけど」

「妖怪退治の専門家だろう? それがどうした」

「はぁ、人間を舐めていると痛い目に遭うわよ?」

 

 なんだか哀れなヒトを見ているような目をしているが勘違いしているようだな。

 

「人間の強さは理解しているさ。ただ......流石に三歳児を前線に立たせるとは思っていない」

「なっ!」

 

 大結界を維持する巫女が死んだら困るのは分かっている。どんなに天才であろうとも幼児を戦闘に出すのはリスクが高すぎてできまい。

 

「そこまで分かっているとはね......。なら仕方ないわ。少し痛い目を見てもらうわ」

 

 紫の顔つきが真面目なものに変わる。ふふふっ。これは気合いをいれる必要があるな!

 

「ふはははは、面白い! やってみろ!!」

 


 

「まさかこれ程とはね......」

 

 幼き月が大妖へと化けた。そう形容するしかない事態に警戒度を最大まで引き上げる。外から来たばかりなのに幻想郷の地理や戦力を把握していた時点で警戒はしていたけど......今はまだ未熟で大妖へと至るには数百年後だと思っていた。

 

「紫様」

「どうやら落ち着いたようね」

「はっ、申し訳ございません」

 

 藍もやっと敵だと見なした様子。良かったわ。今の姿を見てまだ冷静じゃなかったら後であそb......お仕置きしていたところよ。

 

 愚かな格下が身を弁えずに挑発していたら激昂していたけど......それは冷静さを失っていても勝てると判断していたから。慢心かもしれないけど慢心は強者の特権だから仕方ないわね。

 

「あなたより騙す才能があるんじゃない? 狐の妖怪にでも変身したら? 式にしてあげるわ」

「なに、可愛い妹のために変えていただけだ。騙したかったわけではない」

 

 妙齢の姿になったレミリアは美しい女性だった。ちんちくりんな幼女はそこにはいない。

 堂々とした姿で優雅に微笑む姿はとてもヒトを惹き付けそうね。

 

 妖怪は精神の成熟さで姿が変わる。千年も生きてない妖怪がここまで成長するのはほとんどいないわ。

 

 初手はレミリア。一本の槍が宙に現れて襲いかかってくる。

 隙間を開いてレミリアにお返しをしようとすると......。

 

「え?」

 

 隙間をすり抜けて槍が襲ってきた。想定外の事態に一瞬動きが固まった。

 

「紫様!!」

 

 藍の声に我に返って身を捩る。脇腹を持っていかれたけどすぐに治せる程度のダメージね。でも......。

 

「隙間を通過した......?」

「なんだ。賢者ともあろう存在がその程度か」

「よくも紫様を!」

 

 私が思考している間に藍が突貫していく。膨大な妖力を込めた狐火で弾幕を張り、緻密な計算を元に追い詰めていく。

 段々と逃げ場がなくなる弾幕だけどレミリアは余裕そうな表情を変える様子はないわね。

 

「先程から見違えたな」

 

 隠しきれないといった様子で嬉しそうに笑うと一歩前に移動した。たったそれだけで全ての弾幕が当たらずに通過していった。

 ......もしかして霊夢と同じ”浮く”能力を持っているのかしら? いえ、それならあの槍は私に当たらなかったはず。遠隔で浮くかどうかの切り替えができたら別だけど。

 

 藍も冷や汗をかいているわね。二対一でも決して油断はできない。ふむ、不意打ちをしてみましょう。

 

 私の真後ろ、それからレミリアの真後ろ、レミリアからは見えない場所に隙間を開く、太陽の光を模した弾幕を隙間から放つ。

 

「ずいぶんと危険な攻撃だな」

「そう言うならもっと焦って欲しいわね」

 

 レミリアが肩を竦めると弾幕が消失した。どうやって気が付いたのかしら。確認するためにもう一度......。

 

「きゃっ」

 

 たった今開いた隙間から弾幕が飛んで来て驚いた声が出てしまった。......心を読んでる? いえ、覚妖怪のような力はないはず。......じゃあ、未来が見えているのね。

 

「ずいぶんと可愛い悲鳴だな」

 

 くつくつと笑われて顔が少し熱くなる。流石悪魔、意地悪ね。仕方ない。人里にも影響が出てくるからあまりやりたくなかったけど......。

 

「条件付きで降参してやろう」

「なに?」

 

 夜と昼の境界を入れ換えようと考えたら突然降参してきた。藍は何が目的なんだと疑っているけど......ここまでシナリオ通りってことかしら?

 

「一先ず条件を聞きましょう」

「紫様!!」

「条件を受け入れるとは言っていないわ。聞くだけよ」

 

 不満がありそうな藍をなだめつつレミリアに先を促す。あーもう、ストレスで毛が荒れてるじゃない。尻尾のモフモフ感が少し減っているわ。

 

「何、大したことはない。そこの狐の尻尾をたまにで良いから貸して欲しい」

「ダメよ!!」

「は......?」

 

 突然何を言い出すのかしら。藍の尻尾は私のものよ!!

 

「いえ、紫様のものではなく私の......」

「だからダメよ!!」

「そうか、残念だ。妹の抱き枕に丁度良いと思ったんだがな」

「私専用の抱き枕だからダメよ!」

「私の尻尾は枕じゃ......」

 

 くっ。なかなか目の付け所が良いわね。ずいぶんと強敵じゃない......。

 

「ではある程度の融通は図れ。具体的な内容はそちらに任せる」

「分かったわ。ただし、しばらく結界を張るから外に出ないでちょうだい」

「了解した。ではな」

 

 レミリアはあっさりと前言を撤回してこの場を去っていった。

 こちらに全てを委ねるなんて......なんて度胸を持っているのかしら。

 

 融通という曖昧なものだけど少なければこちらの器量が問われてしまう。支配者としてそれは不味い。下手したら弱味になってしまうから。

 逆に大きすぎると向こうが得をする。今ある大きな勢力は妖怪の山と地底くらいだけど贔屓をしていると取られると後々面倒なことになる。

 

「あーーもう!!」

 

 思わず頭をかきむしる。旧地獄の勢力は地上に出てこれないから地上唯一の勢力である妖怪の山が増長しないように別勢力が欲しかったし、腑抜けた妖怪達に発破をかける良い機会だったから最終局面まで姿を隠していたんだけど......。

 

 全体を見ると私の描いていたシナリオに沿って事態は動いたし、最終的には私の理想通りに終結した。そのはずなのに彼女を見ているとどうにも不安になってくる。私の描いたシナリオさえも彼女に描かされたものなのではないか? なんて......考えすぎよね?

 

 全く、厄介なヒトが入ってきたわね。面白い遊び相手にでもなってくれるかと思っていたけど面倒くささが勝りそうだ。

 

「紫様なんだか嬉しそう」

「あら、そうかしら」

 

 隙間を通って家に戻ると修行中の橙が私の顔を見て嬉しそうにする。ふふふ。友もいるし可愛い部下もいるけど対等に遊べそうな相手に出会うのは初めてだもの。これから楽しくなりそうね。

 

「藍~」

 

 紅魔館組への対応もある程度決まったし、細かい調整は藍に任せましょう。レミリアの相手をすれば藍の成長にも繋がるはず。

 高鳴る期待を胸に布団に潜り込んだ。

 

「紫様、ご指示は?」

 

 はっ! いけないいけない。すでに指示を出し終えたつもりだったわ。




尻尾のくだりでカリスマがカリチュマになってる気がするけど気のせいです。
もともとカリスマブレイクしたくないって言ってるだけでカリスマブレイクしないとは一言も言ってませんが念のため......。

誰も気づいていないからカリスマは維持されました。
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