ガイドブックに従いたどり着いた建物の中に入るとカウンターから十五歳位の女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊で、この地図に載ってるとおりであってますか?」
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
あのおばちゃんキャサリンさんて言うのか。何気に初めて知った。
「二日でお願いします」
「わかりました。二人部屋でよろしかったですか?」
「はい、よろしくお願いします」
その後宿泊の手続きをして久しぶりにまともな食材を使った料理を口にした。
「ようやく、まともな食事にありつけたな〜」
「そうだね。攻略するまでは魔物がよってこないようにするために血抜きはしてなかったから臭かったし。居住区でも野菜は畑にあったけど肉はあいかわらず魔物肉だったし」
「あぁ、血抜きしてあっても魔物の肉はクセが強くて食べたくなるような味じゃなかったしね〜。それに比べて動物の肉のなんと美味しいことか」
二人で奈落での食事を思い出しながら食事に舌鼓を打っていると
「そう言えばどうやってグリューエン大火山まで行くの?また魔物で食いつないだりはしたくないけど戦うことを考えればそんなに量は持てないでしょ?」
と聞いてきた。さっきの話で思い至ったのだろう。ここは大陸西部にあるグリューエン大火山の真反対の大陸東部にある町だ。どんなに急いでもそれなりに時間がかかる。
「安心して【刃翼】と【剛翼】が有れば車よりよっぽど早く移動できる。それにライセン大渓谷突っきったりしないから」
「良かった〜ばれないように行動したい渓谷を突っきる!て言われたら僕は気絶していたかもしれないよ」
恵里が心底安心したと言う顔をする。よっぽどあの生活はこたえたらしい。
「今日は水筒とテントしか買えなかったから、明日は砂漠を越えるために外套やら大きめのカバンやら買いに行くぞ。明後日には出発する」
「ん〜、了解〜」
恵里はようやく安心できる環境に来たせいか隣でフニャフニャになって軽くトリップしていた。そんな状態の恵里を見て私はしばらく我慢していたがとうとう我慢できなくなったので頬をプニっッと指でつつく。すると
「!!」
恵里は驚いて様子になりもとに戻った。どうやら現実に戻ってきたらしい。
「ちょっといきなりなにするのさ」
恵里がふくれっ面で講義してくる。よほど驚いたのだろう。そこそこの力でお腹にパンチを入れてくる。
「ねぇ、聞いてるの〜?」
「わかった、わかった。もうやめるから許してくれ」
「しょうがないな〜じゃあ部屋に戻ったら甘えさせてよ?」
「わかったよ…」
一ヶ月以上奈落にいたことでよほどストレスが溜まったらしい。地球でもストレスが溜まったら私にじゃれついてきたり、添い寝したりしていた。
久々に日常に戻ってきたきがする。
「「ごちそうさまでした」」
食事を終えたあと私は部屋へと戻りベッドの上で横になる。
「は〜、ようやく地上に戻ってきたと思えたよ」
奈落の居住区にあったベッドは今寝ているベッドよりずっと良いものだったがここまで疲れが取れそうとは感じなかった。
やはり青空を見て、外の空気に触れ、陽の光を浴び、まともな食事をとる、そして床につくというのは精神衛生上でも重要なのだと実感する。
「そうだね~ベッドの質は奈落の方が上だけどやっぱり緊張が抜けなかったからね〜」
そんな事を言いながら私の隣に来て横になり頭を私の胸の上に乗せてじゃれながら恵里が言う。
一気に脱力して、またもやフニャフニャになっている。
その様子を観ていると可愛いと言う気持ちと嬉しいと言う気持ちが込み上げてくる。
「可愛い…」
私は恵里の頭を撫でながらそう呟いた。
「えっ!?どうしたの急に。今まで僕がどんなにアピールしても無反応だったのにどういう風の吹き回しだい?」
恵里は飛び起きる上半身を起こして驚いた様子で私の顔を見つめている。まあ当然だろう。今まで私は彼女からの好意を受けてとっても良いのか迷っていた。好意を向けられていることは嬉しい。しかし、受け入れた時それは彼女を地獄へ突き落とすことになるのではないかと、故に沈黙や無反応を回答としていた。
だが、ヒュドラとの戦いの最中私は気づいた…いや、思い出した己の願いを、そして私の迷いは晴れた。故に私は彼女の好意に答えることにした。
私も体を起こし恵里の目を見て話す。
「どういう風の吹き回しか…一言で言うなら腹を括ったんだ。恵里の人生を預かる覚悟がね。だけど、私が目指す道は普通の道じゃない。それでもついてきてくれる?」
「もちろんだよ。もとよりそのつもりさ。でも…」
そう言うと恵里はいきなり顔を近づけ唇を重ねてきた。
「ん、今まで無視してきた仕返しだよ。さて、今日はもう夜も遅いし寝ようか。それじゃ、おやすみ」
そう言って恵里は隣のベッドに潜っていった。
「おやすみ」
一言かけて私も布団に潜り眠りについたのだった。