私達が訓練を始めてから数週間たった頃オルクス大迷宮へ挑むことになった。
【オルクス大迷宮】
それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。
にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。
魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。
要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。
今みんなは大迷宮へ挑む冒険者達の宿場町ホルドアの国営の宿屋で明日の挑戦に備えていた。
私?私は外で初代様の記憶から再現した
と言っても本家と違って生み出せる分身は3体だけだし発動時と同じ姿にしかなれないが…
すると南雲の部屋に入っていく香織を発見した。
(こんな夜中に何してんだ?まさか夜這いか?いや見なかったことにしよう)
私が分身を消して部屋に戻ろうとすると
「あら、灯火じゃないあなたも自主練?」
「雫…」
自主練帰りらしい雫が話しかけてきた。
「何やってるんだ私ならともかく、近接戦する剣士が寝不足とか洒落にならないぞ?」
「わかってるわよ…」
「…眠れないか?」
「そうね…」
無理もない私や恵里はともかくそれ以外のクラスメイトは実戦経験なんて無いし、私だって人形でない生物を相手取るなどしたことない。
雫が緊張してしまうのも無理はない。
「さすがのお前でも迷宮攻略は緊張するか」
「そうね…正直不安だわ」
「ふ〜ん、よしなら私が抱きしめてやろう」
「へっ!?」
驚いてかたまっている雫を抱きしめた
「とりゃ〜」
「ちょっちょっと!?」
「よしよ〜し、大丈夫だからね〜、私も協力するからね〜」
「ちょっと人を赤ちゃん扱いしないでくれる!?」
「ふふ、しょうがないな〜ほら」
私は雫を解放した。
「それで?緊張はほどけたか?」
「ええ、そうねありがとう…」
「何だ?」
「ねえ、また何かあったらあなたのこと頼ってもいい?」
「ああ、もちろんいいとも私のできることなら大抵の事は協力するよ?」
「そう…ありがと、それじゃあね」
「ああ、おやすみ」
そう言って雫は帰っていった。
雫が建物の中に入ったのを確認した後私は先程から私と雫の事を見ていた気配に声をかけた
「すまないな、恵里でてきてもいいぞ」
「全く僕がいることわかってたのにあんな光景を見せるとはいい度胸じゃないか」
「……」
「は〜、僕の気持ちには気づいてるくせに…そうだ僕にも同じことしてよ、まさか八重樫さんにできて私にできないなんてこと無いよね?」
「ああ、構わない」
恵里は私に対して特別な感情を持っている。
嬉しくもあるが同時に、すこし複雑な気分にもなる。
私も彼女について好ましいと思っているがしかし、私の生き方では世間一般の幸福な人生は送れない。
私と一緒いるということは彼女もまたその道に巻き込まれるということだ。
正直言って彼女に私と同じ道は歩ませたくない。
そんな思いがあるからこそ私は彼女からの好意を素直に喜べない。
もちろんそのことは何度か伝えたがそれでもと私に好意を寄せてくれている。
私は彼女にどう報いればいいのだろうか?
部屋に戻っても結局答えは出ず恵里を抱きしめながら私は眠った。