Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 ホシノ「うへ、大将やってる〜?」
 柴大将「おう、アビドスの嬢ちゃんたち。らっしゃい!」
 セツナ「ここはラーメン屋か……いい匂いがする」
 ノノミ「でも、セリカちゃんの姿が見えないような……」
 柴大将「セリカちゃんなら今日はオフだぞ。明日のお昼くらいに来る予定だな」

「「「「「………………………………」」」」」

 柴大将「あ〜〜……。ラーメン、食べ──」
「「「「「いただきます(即答)」」」」」
 柴大将「──おう」







第7話 「セリカの奇妙な一日」

 

 

 

 

 

「セキ、調子はどうだい?」

 

 

 爽やかな風が吹き込む病室に、私の体調を気遣う声が響く。その声のした方向に向けば、そこには部屋の入口で静かに立っている大人の男の姿があった。少しボサボサの髪に、膝丈まである大きな白衣。一見お医者様のようにも見えるが、彼の首元には連邦生徒会って名前の組織のパスケースが下げられてる。それはこの男の人が連邦生徒会が立ち上げた組織『シャーレ』の顧問を務める先生であることを証明するものだった。

 天守(あまもり)セツナ先生。最近アビドス高校の子達の手助けをしているらしい、大人の男の人。アビドスの子達と戦って大怪我を負った私だったが、どうやら先生によってこの病院に運び込まれたらしい。最初こそ容態はあまり良くなかったみたいだけど、今ではこうして話せるくらいには回復している。その点にはありがとうとは思っているけど、私の中ではまだ彼への警戒心を解いてはいない。

 

 

「良くなってきているみたいです。お医者様からは、明日にはもう退院できそうだと」

 

 

 先生の問いかけに、私は努めて笑顔で応対する。それを聞いた先生も「なら良かった」と安堵した様子で椅子に座り、手土産に持ってきたらしい林檎の皮をクルクルと剥き始める。でもなんだか上手くいっていないようで、最終的には片耳の欠けた林檎の兎が誕生した。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「…………ありがとう…ございます」

 

 

 不揃いな耳の林檎兎が、小さなお皿に乗って手渡される。…………わからない。なんで先生が私のことを助けるのか。そもそも私がこの病院に運び込まれたのは、先生と戦ったことが原因なのに。より正確に言えば、先生が支援するアビドス高校と敵対したことが原因だ。その結果私がどんな目に逢ったとしても、それは私の自業自得に行き着くもののはず。先生が何かをした訳じゃない。

 なのに先生は負傷した私を病院に運び込んで、こうして見舞いにも来てくれている。更には怪我の治療費も負担してくれているみたいで、こうなってはもう私には何がしたいのか分からなくなっていた。なんで先生は敵のはずの私を、こうも親身になって助けてくれるんだろう。

 

 

「先生、助けてくれたのには素直に感謝します。きっとあのままだと、私のヘイローも砕けていたと思いますから」

 

 

 1口齧った林檎兎を手元のお皿に置きながら、私は先生の瞳を見据える。

 

 

「……でも、なんで私を助けたんですか?先生、貴方はアビドスの子たちの味方なんでしょう?」

 

 

 そう問いかければ、先生は林檎を剥く手を止めてこちらを見返す。その顔には少し困ったような、でもどこか真っ直ぐな想いを感じるような表情を浮かべていた。それはまるで夜の篝火(かがりび)のような、暖かくてどこか安心するような表情だった。

 

 

「君も生徒の1人だから。そういうのじゃダメかな?」

 

 

 君も生徒の1人だから。

 

 その言葉を理解し、咀嚼し、噛み砕き、何度も何度も頭の中で反芻する。……そうか。先生にとっては敵や味方なんて関係なく、ただ私たちが"生徒"であるだけで手を差し伸べる対象になるんだ。それが"先生"の存在理由(やくめ)で、存在意義(しめい)で、そして存在証明(やくわり)になるから。

 ……でも、やっぱり分からない。要するにそれは生徒全員の味方であって、どの生徒の味方でもないということでもある。それは私のこともそうだし、アビドスの子たちもそう。明らかに矛盾したその信念を、彼は本当に持っているのかな。

 

 

「先生、もしアビドスの子達が私たちみたいなはぐれ者だったとしても、同じことを言いますか?」

 

「うん。その子たちが助けを求めてるなら」

 

「それは、アビドスの子たちが私たちを襲う側だったとしてもですか?」

 

「そうだね。と言っても、その場合はまずは事情から聞くことになると思うけど」

 

「……だったらヘルメット団のみんなも、助けてくれるんですか?」

 

「もちろん。だからセキも、私を頼ってもいいんだよ」

 

 

 私の試すような質問にも、先生はなんの迷いもなく即答する。……わからない、やっぱりわからない。なんでそんなことを平然と言えるのか。なんでそんな矛盾を抱えて、一切迷いを見せないのか。……もしかしたらこれが、生徒(わたしたち)とは違う先生(おとな)の生き方なのかもしれない。

 

 

「……ありがとうございます。先生。この借りは、いつか必ず返します」

 

「別に返す必要は無いよ。まぁ、それでセキの気が楽になるなら良いけども」

 

 

 私がそうお礼を言うと、先生はなんて事ないとでも言うように微笑む。そして剥き終わった林檎兎たちを傍のお皿に載せると、そのままゆっくりと席を立った。

 

 

「それじゃ、退院手続きの方はこっちでしておくよ。セキはもう少しゆっくり休んでね」

 

「はい、ありがとうございます。先生」

 

 

 最後にヒラヒラと手を振ってから、先生はこの病室を後にした。その背中は決して逞しいものではなかったが、なんだか少しだけ安心するような感じがした。そんな背中を最後まで見送ってから、私は寝かされてるベットへと身を預ける。ふっと息をついて頭上を見れば、そこには質素なモダンホワイトの天井がこちらを見下ろしていた。

 

 

「……天守セツナ先生……か……」

 

 

 少し警戒心がほぐれつつあるその人の名前をポツリと呟く。きっと、悪い人ではないと思う。全ての生徒に手を差し伸べる、まるで聖人のような大人。もしかしたらアビドスの子たちを助けた後なら、私たちのことも助けてくれるかもしれない。

 

 

(そしたらいつかは、私の夢(・・・)も……)

 

 

 そんな淡い期待を寄せながら、私はそっと瞳を閉じて、しばし眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリカは激怒した。必ず、あのよくわかんない先生と、その先生をバイト先に連れてきた先輩にブチギレなければと決意した。セリカには経緯がわからぬ。セリカは、アビドスの苦労人である。悪態をつきながらも、仲間たちと借金返済にあけくれて来た。けれども他所者に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 その日は学校が自由登校の日だったから、私はお昼から柴関ラーメンでのバイトに邁進していた。人が少ないアビドス自治区と言っても、お昼時にはやはり多くのお客さんがやってくる。みんな柴大将のラーメンの虜になって、ふとした時に足を運んでくれるのだ。

 

 

 ただ、時には招かれざる客もやってくる……。

 

 

「すみません〜☆5人なんですけど〜!」

 

 

 ほら、言ったそばから。口は災いの元とは言うが、案外馬鹿にならないらしい。聞き覚えのある声の方へと視線を向ければ、そこには見覚えしかない顔が並んでいた。しかも今日はその中に、何故かにこやかな顔のセツナ先生まで混ざっている。

 

 

「うわ、なんで先生がここに!?もしかしてストーカーなんじゃ……」

 

「なぜバレた……。こうなったら記憶を消す光を…!」

 

 

 私が分かりやすく悪態をつけば、先生はおどけた様子で返してくる。その態度に若干イラッときたが、そんな私の様子をみかねてか、背後に居たホシノ先輩が先生へフォローをいれる。

 

 

「先生は悪くないよぉ。昨日はバイトに来てなかったから、今日なら来てるんじゃないかな~っと思ってね」

 

「当然のように私のバイト先がバレてるんだけど!!?」

 

「まぁまぁセリカちゃん。色々と言いたい気持ちもわかるが、先に注文をとってくれよな」

 

「ぐぅぅぅぅ……それでは、広いお席の方にご案内します……っ!」

 

 

 ここに来ていることはみんなに言ってないはずなのに、何故か当たり前のようにやってくる先輩たち。色々と言いたいこともあるが、苦笑いの柴大将に促されて納得できないまま5人をテーブル席へと案内する。

 そこからはもう大変だった。何故か先生を自分の隣に引き込もうとするシロコ先輩を全力で阻止したり、いつからバイトを始めたのかとか色んな質問をされた。挙句私のユニフォームで怪しい商売をしようとするホシノ先輩を止めたり、何故か乗り気の先生(ヘンタイ)を粛清したりと、途中からもう店員としての体裁を保っている余裕は無くなっていた。

 更には注文時に先生が「にんにくラーメン、チャーシュー抜き」とかいうわけわかんない注文をつけてきた。そんなもの、うちにはないわよ。

 

 

「あっ、本当ですか?なら柴関ラーメンで」

 

 

ちょっと!サラッと人の心を読まないでくれる!?おかげでゾワっとしたじゃない!

 

 そんなこんなで先輩達や先生からの冷やかしに対応していると、大将が注文の品を作ってくれる。幸いみんな食べてる間は静かだったから、その間だけは私も落ち着いたひとときを過ごすことができた。まぁ、みんな食べ終わると同時にまた冷やかしが始まるんだけど……。

 ただ、食後はどこかに移動するみたいで、すぐに先生がお会計を払いにレジにやってきた。さっきノノミ先輩からしれっとゴールドカードを手渡されていたけど、どうも先生はちゃんと自分のポケットマネーで払うみたい。そういう所は律儀というか、先生らしいところだとは思うんだけど、如何せん日頃の態度が怪しいのであんまりプラスには働かなかった。

 

 

「お会計は5点で合計3200円になりまーす」

 

「それじゃ、これでお願い」

 

 

 そう言うと先生は、私にあるものを手渡してきた。それはどこにでもあるような小さなカード。鮮やかな紫を基調に赤いラインが1本入っていて、ノノミ先輩のゴールドカードとはまた違った雰囲気が感じられる。

 

 

 それは正しく"大人のカード"だった。

 

 ただ、ところどころ煤けたように黒ずんでいることを除けば……だけど。

 

 

「…これ、ちょっと焦げてるんだけど。ほんとに使えるの?」

 

「使えると思うけど…、無理なら別の方法で払うよ」

 

 

 先生の言葉に半信半疑になりながらも、スキャナーを手繰り寄せて先生の前に置く。その後、会計は問題なく進んでいき、スキャナーから「ティロン♪」という決済音が聞こえてきた。

 

 

「ほらね。通った」

 

「ほんとだ。意外と丈夫なのね」

 

 

 会計ができたことに素直に驚く反面、私はやけにそのカードに興味が湧いていた。それは単純に目の前の大人が初めてみせた"隙"のようなものだからか。あるいは少しだけ……ほんの少しだけ、先生のことを知りたいと思ったからだろうか。

 

 

「ねぇ。このカード、なんでこんなに焦げてるの?なんか熱いモノの下にでも敷いたりした?」

 

 

 結局、私はその"大人のカード"について尋ねていた。私たちと出会ってから初めて見せる先生の"隙"。それを逃すなんてなんだか勿体ない。もしかすると、ここから先生の考えてることとかが分かるかも。そう思っての一言だった。

 一方、私の問いかけに先生は一瞬驚いたような表情を浮かべると、少しだね何かを考えるように顔を伏せる。そして次に顔をあげた時には、そこにはいつもの胡散臭そうな笑みを浮かべる先生が居た。そしてジッと先生を見つめる私に向けて、目の前の大人はあっけらかんといった様子で答えた。

 

 

「…………さあ?」

 

「さあ!!?」

 

「私も知らないんだ。気づいたらこうなってた。まぁこの通り、お会計とかには支障はないから気にしてないよ」

 

 

 両手を広げて"分かりません"と示す先生だったけど、 今の私にはその全てを信じきれなかった。だって仮に本当に思い当たることが無いなら、私が問いかけた時に変に黙ることはないでしょ。それは暗に、先生が「何かを隠している」ことの現れなんじゃないか。今の私の中には、そんな思惑が浮かんでいた。だから私は思惑を悟られないよう、慎重に次の質問を投げかける。

 

 

「先生、そうなった理由は教えてくれないのね?」

 

「………………」

 

 

 まるで確信をついているかのような、当てずっぽうな言葉の羅列。でももし先生が何か隠しているなら、私の言葉はとっても重みのある言葉になったと思う。カマをかけるなんて経験は初めてだけど、どうやらその効果は出ていたみたいだ。

 私の問いかけに、沈黙を返すセツナ先生。その視線は手元の"大人のカード"に注がれていたが、少しすると何も言わずに"大人のカード"を胸ポケットにしまった。やっぱり私の問いに一切答えるつもりは無いらしい。先生のその行動に、私はより一層の警戒心を滲ませる。

 

 

(……やっぱり、何か隠してるのね……!!私たちに言えないような、暗い秘密を……っ!!)

 

 

 そう心の中で確信すると同時に、目の前の白衣からいつもと違う声が降ってきた。

 

 

 

「…………そうだね。セリカは……いや、生徒達(みんな)は知らなくていいことだからね」

 

 

 

 その時、私はハッとした。

 

 いや、その言葉に驚いたんじゃない。

 

 また心を読まれたことにでもない。

 

 立ち去る肩越しに、私に笑いかけるセツナ先生。

 

 

 

ただその横顔は、どこか物悲しげに見えた。

 

 

 その後、先生は先輩達に呼ばれて店を後にした。翻る白衣にかける言葉があったはずだが、何故かいつまで経っても私の口から出てくることは無い。私はただただ、その背中を見送ることしかできなかった。

 

 

「……またのご来店、お待ちしております」

 

 

 その言葉が出たのは、先生達が居なくなってからしばらく経った後だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やっと終わった」

 

 

 日もとっぷりと落ちた頃。バイト終わりの私の口から、盛大にため息が飛び出す。それもそのはず、何せ今日はイレギュラーな事態が多すぎた。いや、今日どころの話じゃない。それは一昨日、初めてセツナ先生と会ってからずっと続いていた。

 急にアビドスに現れて、私たちが必死に抗ってきた問題の1つをたった一日で解決してくれた先生。最初は流されるままに受け入れていたけど、あの時、シロコ先輩を酷い目に合わせたヘルメット団員を助けるなんて言い出した辺りから、なんだか先生が怪しく感じていた。

 でも、今日の先生を見ていると、なんだかよく分からなくなっていた。生徒達(わたしたち)の救援要請に応えてくれた時も、生徒達(わたしたち)にご飯を奢る時も、そこにあったのはただの優しい"先生"な気がして。だからこそそれを否定したくて、ついに見つけた先生の秘密に触れてしまった。

 

 

 セリカは……いや、みんなは知らなくていいことだからね。

 

 

「……先生は、あのカードのことを聞かれたくなかったのかな……」

 

 

 あの時の悲しげな表情には覚えがある。それは感情(かたち)こそ違えど、昨日までの自分(わたし)と同じ気持ちだった。私が借金のことを知られて少しピリピリしていたみたいに、先生もカードのことを知られて心を痛めていたように見えた。まるでドッペルゲンガーと出会ったみたいに、私の心の中が困惑と罪悪感でぐちゃぐちゃになる。

 

 

ジジジジジジジジジジ・・・

 

 

 何かあると思った。"それ"は悪意の象徴だと思った。だからこそ、私はそれを暴こうと動いた。だけど蓋を開けてみれば、そこには鏡写しのように私の気持ち(おもい)があっただけ。そしてそれを見てしまってからは、私の気持ち(自分の考え)が急に醜いもののように感じてしまう……。

 

 

「……ふん!それでも怪しいのには変わりないわ!いつか絶対、先生の秘密を暴いてやるんだから!」

 

ジジジジジジジジジジ・・・

 

 

 そんな言葉で自分を無理やり奮い立たせていると、いつの間にかアビドス街区の外れまでやってきていたみたいだった。そしてその時になってようやく、私は自身を取り巻く状況が少しおかしいことに気がつく。

 

 

ジジジジジジジジジジ・・・

 

 

 何かが飛んでいるような、小さな虫の羽音のような不快な音。それが私との距離を測るように、近づいたり遠のいたりしたりして、ずっと私の背後から鳴っていた。

 試しに振り返ってみても、そこには何も飛んでいない。その上空にも、キラキラと瞬く夜空の星が見えるだけだ。だが視線を外してしばらく歩いていると、再び私の2対の耳があの不快音を捉えた。

 

 

ジジジジジジジジジジ・・・

 

 

 今度は立ち止まることなく、すっと背後の空を見上げる。すると一瞬ではあるが、確かにビルの陰へと身を隠すドローンを視界に収めることができた。見た目や色合いまでは分からなかったが、ドローン自体はシロコ先輩が使ってたりするから見慣れている。ただ、なんで私に見つからないように隠れているのか。見るからに怪しい。

 

 

(……何かに……誰かに尾行さ(つけら)れてる?)

 

 

 私がその考えへと至った直後、私の背後──即ち進行方向から数人の足音が聞こえてきた。

 

 

 

黒見(くろみ)セリカ嬢……で合ってるかな?」

 

 

 

 その声につられて視線を戻せば、目の前には特徴的な見た目のヤツが複数人居た。赤や黒、様々な色合いのヘルメットを被った集団が、私の行き先を塞ぐように立ち塞がる。明らかにろくなことになりそうにない。心の中でそう悪態をつきながら、銃の引き金に手をかけて強気な態度で答えてやる。

 

 

「……カタカタヘルメット団?あんたたち、まだこの辺りをうろついてるの?」

 

「あぁ、ちょっと捜し物(・・・)をしててね。あんたにも手伝ってもらいたいんだ」

 

「はぁ?なんで私があんた達の手伝いなんかしなきゃいけないわけ?」

 

 

 予想通り意味不明な言い分に、私の中のイライラがどんどん高まっていく。それにつられるように連日の色んなことへの不満も膨らみ始めて、私のイライラをさらに助長させていった。だがちょうど目の前に、そのイライラをぶちまけれる都合のいい相手が現れたのは、きっと運命か何かなんだろう。

 

 

「ちょうど良かったわ。今の私はちょっと気が立ってるの。それにシロコ先輩をあんな目に合わせた件も合わせて、あんた達で晴らさせてもらうわ!!」

 

 

 愛銃(シンシアリティ)安全装置(セーフティ)を外してから、目の前の集団へと銃口を向ける。一昨日のシロコ先輩を傷つけた相手はこいつらでは無いが、その仲間であることには違いない。お礼参りも兼ねた怒りの捌け口としては、これ以上ない相手だろう。

 ただ後から思えば、この時の私は少しおかしかったんだろう。相手が馬鹿正直に私の前に姿を現すなんて、何か悪巧みがありますと言っているようなものだ。ただ先生のことで迷っていたこの時の私には、その考えは微塵も浮かばなかった。それらに気付かされたのは、私の背後に何かが降り立つ音を聞いた時だった。

 

 

ゴッ!!!!!!

 

「ぁぐ…………っ!!」

 

 

 

 直後、重い音と共に後頭部に鈍い痛みが走った。勢いそのままに倒れ込みそうになるのを堪えながら後ろを振り返れば、そこには棒のような何かを握った人影が立っている。お陰で直接見たわけではないが、後頭部を鈍器か何かで殴られたのだけは辛うじてわかった。

 衝撃で朦朧とする意識でフラフラと足をもつれさせ、近くのビルの外壁へと寄りかかる。頭を抑えながら前を見れば、そこには紫の瞳を持つヘルメット団員が、自身の得物であるスナイパーライフルをこちらに突きつけていた。

 

 

「あ……あんたは……」

 

 

 視界がぼやける中でも、その顔にはすぐピンと来る。こいつは確か、よくセキとかいう団員と一緒に来ていたスナイパーだ。ただ私を見下ろす瞳には狙撃手らしい冷静さはどこにもなく、さっきの私と同じで、深く激しい怒りと、溢れんばかりの罪悪感を抱いているようだった。

 

 

 

「だったら、あなたも分かるよね。大切な人を傷つけられる痛みが」

 

 

 

 狙撃手の冷たい一言を最後に、私の意識は銃声と共に掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨミ、『やりすぎるな』って言ったと思うけど?」

 

 

 黒見セリカが気絶した後、項垂れる彼女へと近寄りながら、カタカタヘルメット団のリーダーはその下手人へと声をかける。元々は彼女をポイントまで誘い込んで包囲し、支援者(パトロン)から借りてきた「Flak41 改」の火力支援で気絶させる予定だったのだが……。それよりも先に、目の前の少女が飛び出して彼女を殴りつけたものだから、少し予定が狂ってしまった。

 

 

「すみません、先輩。少し頭に血が昇っちゃいました」

 

 

 一方の下手人──飛葉山(ひばやま)ヨミの方は、少し頭が冷えたのか申し訳なさそうに謝ってくる。その顔には影が差し、表情までは伺えない。ただその体からは、やるせないような怒りが漂っているように見えた。

 セキが居なくなってからは、ヨミはずっと何かに怒っている。それは自分たちからセキを奪ったアビドスへの怒りなのか、はたまた負傷したせいでその戦いに参加できなかった自分への怒りなのか。どちらにせよ、今回ばかりは少し冷静になって欲しかった。

 

 

「ちゃんと力加減はしたんだね?」

 

「はい、ヘイローは無事だと思います」

 

「そうかい、良かったよ。この子には生きてて貰わないと困る。じゃないと、取引は成立しないからね」

 

 

 眠るセリカ嬢の手首を取り、トクトクと規則正しい心臓の鼓動を確認する。ヨミの言う通り、どうやら命はあるらしい。なら過程はどうであれ、一先ずの目標は達成できた。

 

 

「リーダー、トラックの用意ができた。後方のFlak隊も、順次引き上げていってるよ」

 

「助かるよ。場所(・・)はまた考えなきゃね。とりあえず、この子はしばらく本拠地で軟禁するよ」

 

「わかりました、先輩」

 

 

 2人がかりでセリカを担ぎ、他の者は2人を護衛する。そして確保した人質をトラックに放り込んでから、カタカタヘルメット団は闇夜へと消えていった。

 本来であれば後方の「Flack41 改」を用いた火力支援が行われ、その爆音で多少の痕跡を残るはずだった。しかしそれも飛葉山ヨミの突発的な行動により行われず、さらに銃声も必要最低限に留まった。そうして彼女達は計らずとも、ほとんど証拠を残さずにセリカの拉致に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジジジジジジジジジ・・・

 

 

 

 …………ただその一部始終を、白いドローンが静かに見守っていてた。

 

 

 

 

 

 








▽天守セツナ
生徒には言えない秘密を抱える大人。
しかし、近いうちにその秘密が暴かれることとなる。

▽黒見セリカ
セツナの秘密に触れてしまった。
現在情緒がぐちゃぐちゃにされている。

▽門守セキ
まもなく完治して退院できそう。
医者に言わせれば「あまりにも丈夫するぎる」らしい。

▽飛葉山ヨミ
いつの間にか情緒がぐちゃぐちゃになった人。
先輩を助けれなかった自分にずっと怒っている。

▽リーダー先輩
オリチャーにより完璧な誘拐を実現。
なおそのオリチャーで計画が破綻しかけた模様。
(我々の……計画が……)

▽対策委員会の面々
実は裏でセツナの争奪戦が行われていた。
結果としては1日目はノノミが勝ち取り、
2日目はシロコが実力行使(物理)で勝利をもぎとった。


あとがき

またまたお久しぶりです。
今回からセリカとの一遍が始まると同時に、今後の展開を深めるための伏線タイムが始まります。広げた風呂敷をたためるかは不安ではありますが、何卒、楽しんでもらえたら……と思います。

あと対策委員会編が始まったばかりなのに、6th PVを見たせいでメカメカした動きを描きたくて仕方がない日々です。

アロナよ、臆病な私を許してくれ(プロット練り練り)


PS.シュポガキ……君たちはどこにいるんだい?





次回 第8話「救いの魔の手」


「返答次第で、私はこの引き金を引くよ」





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