Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 なぜ、全能者は裁きの時を定められないのか。
 なぜ、神を知る者はその日を見ることができないのか。

 ー ヨブ記 24章 1節より ー





 


第8話 「救いの魔の手」

 

 

 

 

 

 

 セリカちゃんが行方不明になった。

 

 アヤネちゃんからの急な連絡にも関わらず、私たち対策委員会はすぐに部室へと集結した。そこにはセツナ先生の姿もあって、みんなが集まったことを確認すると、すぐに情報の共有が行われた。

 事件はアヤネちゃんがセリカちゃんの私室を訪れた時に発覚した。時刻はもう0時を回っていて、それでも連絡が取れないセリカちゃんのことを不審に思ったアヤネちゃんが確認したら、部屋には誰もいなかったそうだ。

 そこからの動きは早かった。情報共有を済ませた私たちは、セツナ先生の指示の元、すぐにそれぞれ行動に移った。シロコちゃんとノノミちゃんは街の方に聞きこみに行き、アヤネちゃんは部室でセリカちゃんに電話で何度も呼びかける。そして私は、先生と一緒にセリカちゃんの行方を追うこととなった。

 

 

「どう?先生、セリカちゃんは見つかりそう?」

 

「そうだね。スマホの電波は拾えたから、あとは発信源さえ突き止めれば……」

 

 

 アビドス高校の、対策委員会の部室とは別の部屋。今やセツナ先生の私室と化したそこで、私たちはセリカちゃんの行方を追っていた。アヤネちゃんの話からスマホの電源は入っているみたいだから、今は先生がドローンを使って、セリカちゃんのスマホの所在を割だそうと動いている。タブレットを手にし、時折眠るように瞳を閉じるセツナ先生。だけど本当に寝てる訳では無いらしく、私の声にはしっかりと答えてくれる。

 それにしても、私は今回初めてここに足を踏み入れたが、前に見た時よりもだいぶ変わっていた。来賓用の机の隅には何かの書類が積み重ねられていて、ホワイトボードにも多数の紙が貼り付けられていた。まさに、仕事のできる大人の部屋って感じ。

 部屋に静寂が満ちる中。ホワイトボードに貼られた紙の中の1つ、『アビドスの現状と問題』と書かれた紙を見つめながら、私は先生に向けて1つ問いかけた。

 

 

「先生ってさ、未来予知でもできたりする?」

 

「そりゃまたどうして?」

 

「いやね?今回セリカちゃんが居なくなったのがわかってから、すぐ対応してくれたじゃん?まるで知ってたみたい(・・・・・・・)にさ」

 

 

 私がそう問いかけると、先生が僅かばかり顔を上げてこちらを見つめる。月光のせいか藍い色を帯びるその瞳からは、まるで何かを忌避するような感情が覗いていた。

 

 

「……私は未来予知なんてできないよ。そんな力があっても使いたくは無いね」

 

 

 そう言って再びタブレットに視線を落とすセツナ先生。なんだか妙な反応をする"大人"の様子に、私の中である疑念が確信に変わりつつあった。

 

 

 

「ふ〜ん。じゃあ、やっぱり知ってたんだ(・・・・・・)?セリカちゃんが攫われたこと」

 

 

 

 私のその言葉を境に、部屋の雰囲気がじわじわと重苦しいものに変化していく。それは私から出ているプレッシャーなのか、はたまた目の前の大人から出ているものなのか。だけどセツナ先生は気にもならないようで、普段の態度を崩すことなく、私に問い返してくる。

 

 

「……ホシノは何が言いたいのかな?」

 

「とぼけないで」

 

 

 あくまでシラを切るセツナ先生に向けて、私は鋭く言葉を返す。

 

 

「昨日の夜、私をドローンで尾行してたでしょ。あれ、なんのつもり?」

 

 

 それに気づけたのはたまたまだった。いつもの帰り道でふと何かからの視線を感じた私が見たものは、音もなくその場を立ち去ろうとするドローン。それは純白を纏っていて、遠目で分からなかったが何かのロゴが刻まれているように見えた。

 それは直ぐに私の視界から消えたけど、その動きは明らかに怪しかった。まるで私から逃げるように、だけど離れることはせず、ずっと私の背後を尾行す(つけ)る。最初こそどこの差し金かと思っていたが、その答えは直ぐに思い至った。

 

 そう、目の前の大人が使うドローンだ。

 

 

「今回、セリカちゃんが攫われてからやけに対応が早かったね?私と同じように、セリカちゃんのことも監視してたのかな?」

 

「…………………………」

 

 

 すっと右腕を上げて、隠していた愛銃(Eye of Horus)を目の前に晒す。そしてそのまま銃口を先生へと突きつけて、静かに安全装置(セーフティ)を外して構えた。

 

 

 

 

 

「答えて、先生。返答次第で、私はこの引き金を引くよ」

 

 

 

 

 

 静寂が満ちる部屋の中で、チャキっと引き金に指をかける音が響く。入っているのはブリネッキ型のスラグ弾。いざとなったら頭のすぐ横にでも叩き込んでやる覚悟だったが、それよりも先に、目の前の大人が動き出した。

 

 

「……ホシノにその引き金は引いて欲しくないね」

 

「じゃあ答えて」

 

「……『私ならそうする』。そう思ったからかな」

 

 

 タブレットを置いて、虚空を見つめながら話すセツナ先生。その様子からは、こちらを騙すような意図はまったく見えず、ただ私の問いに真摯に答えようとしてくれているようだった。

 

 

「今までの話から、ヘルメット団の戦略を考えてみたんだ。今までの戦略は、何度も何度も対象を攻撃して疲弊させて、弱ったところで戦力を全て投入して確実に仕留める。堅実で慎重な、仲間の損耗をできるだけ抑えた戦略だ」

 

 

「よっ」と反動をつけて立ち上がる先生。そのままホワイトボードの方へと移動すると、少しスペースを空けてから何かを描き始めた。対策委員会と書かれた5人の棒人間と、ヘルメット団と書かれた沢山の人影。先生はその中の1つ、ヘルメット団の棒人間の1人にバツ印をつけながら、先程の続きを語り始める。

 

 

「でも今のヘルメット団は最後の攻勢で大きな損害を出した上に、撤退戦で最大戦力である門守セキを失っている。そんな状態で仕掛ける場合、私ならどうするか……」

 

 

 そして再び、先生はバツ印をつける。

 対策委員会と書かれた、5人のうち1人に。

 

 

「私なら、正面から戦うことはしない。1人づつ、丁寧に無力化していくだろうね。奇襲か闇討ちか、方法は問わない。なりふり構っては居られないだろうから」

 

 

 先生のその言葉に、愛銃を握る右腕が少し震える。何故セリカちゃんが狙われたのかは分からない。たまたま狙われたのかもしれないし、最初から計画されていたのかもしれない。どちらにせよ、今の話の通りなら……。

 

 

「なら……セリカちゃんは……」

 

「"そう"はならないと思うよ」

 

 

 最悪を想像しかけた私の思考を止めるように、先生は優しい声色で"それ"を否定する。

 

 

「何せ今の私たちには『門守セキの身柄』っていう切り札がある。それをこちらに握られている以上、彼女達もセリカに下手に危害は加えられないはずだよ」

 

「じゃあ、セリカちゃんは無事なの?」

 

「恐らくはね。私と同じ考え方ができるなら、きっと拘束して閉じ込めておくぐらいに留めるんじゃないかな」

 

 

 つまり、お互いに大事なものを握っている状態だ。先に考察していたヘルメット団の戦略性からも、リーダーの子が門守セキを切り捨てることなてできないはず。人質を取られたのは私たちだけかと思っていたが、どやらそれは相手も同じだったみたいだ。

 そして先生は、その人質で得れるアドバンテージを最大限利用しようとしている。それはきっと、門守セキに関することだけじゃない。ヘルメット団の戦術を読んだ上でドローンをつけてまで私たちを監視していたのは、きっと攫わせて人質にするため。

 

 

 ……でもそれは、

 それはあまりにも……

 

「……なんだか、"先生"らしくない戦い方だね」

 

「これが"大人"の戦い方だよ。ホシノ」

 

 

 そう語るセツナ先生は、見たことないような表情をしていた。今までの悪い大人たちとは違う。でも、決して善人とは思えないような、絶妙な表情。そこには何か、別の思惑があるようにも見えて────。

 

 

「……見つけた」

 

 

 私の思考を遮るように、セツナ先生がポツリとつぶやく。どうやら飛ばしていたドローンが、セリカちゃんのスマホの電波をキャッチしたらしい。

 

 

「場所はアビドス砂漠の辺境。どうも廃墟群に向かってるみたいだね。ここには何があるか知ってる?」

 

「……そこは確か、ヘルメット団の本拠地になってたはず」

 

「ならみんなにも報告して、早めに出発しよう。敵の有利な地形に入られる前に、セリカを救出しないと」

 

 

 そう言って部屋を出ようとするセツナ先生。いつの間にか纏っていた雰囲気もいつもの落ち着いた雰囲気に戻っていて、まるでさっきまでの会話はなかったみたいだった。

 

 ただ、その雰囲気の中にも、どこか別人が取り憑いているような、奇妙な違和感を感じていた。

 

 

(…………あの人は、本当に"先生"なのかな)

 

 

 心の中でそう唱えるも、私はそれを口にすることはなく、静かに先生の後について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……う〜〜ん……」

 

 

 ガタガタという音と、定期的に揺られる衝撃で目が覚めた。ぼやける思考で体を動かそうにも、手足を縄か何かで縛られているみたいで、全く身動きが取れない。何とか視線だけで情報を集めていると、私の足元の方から光の漏れる扉が見えた。どうも私はトラックか何かに乗せられているらしい。

 

 

「ここどこ……っ!!」

 

 

 周囲を見渡そうと体を起こすが、それと同時に酷い頭痛が頭を襲う。そういえば、頭をおもいっきり殴られたんだった……。ズキズキと響く痛みを堪えながら外を覗けば、そこは砂が朝日を反射する砂漠地帯だった。

 

 

(あれ……どうして私……こんな所で……っ!!)

 

 

 徐々に思考がクリアになっていくと同時に、私の身に起きたことがどんどんと鮮明になっていく。謎のドローンに、それと連動するように現れたカタカタヘルメット団の連中。その直後に訪れた鈍痛と、プツリと途絶える私の記憶。どうも私はまんまと敵の罠にハマってしまったみたいだった。

 

 

「ヘルメット団め……私をどこに連れていくつもりなの……」

 

「辺境の廃墟群。それが、このトラックの行先だよ」

 

「っ!!?」

 

 

 完全に独り言のつもりだったのに、いきなり返事が返ってきてびっくりした。声のした方を見ると、トラックの隅の方に誰かが座っていて、スナイパーライフルのようなものを支えにして項垂れていた。

 だが、この暗がりでもその姿はよく見えた。長い黒髪を纏める三つ編みに、朝日を反射する赤い十字の髪留め。そして綺麗に切りそろえられた前髪から覗く、アメジストを思わせる深い紫の瞳。さらに支えにしている得物から、私はすぐにこいつの正体に思い至った。

 

 

「あんた……!ヘルメット団のスナイパー!!」

 

「一応、飛葉山(ひばやま)ヨミっていうちゃんとした名前があるんだけどね」

 

 

 私を気絶させたヘルメット団のスナイパー。飛葉山ヨミと名乗ったそいつは、私から視線を外さずただただ佇んでいた。私を殴って気絶させた張本人がいる。その事に、昨日まで私を支配していて怒りが再燃していくのがわかった。

 

 

「あんたたち……よくもやってくれたわね!!」

 

「それは……ごめんなさい。ついカッとなって、君を酷い目に遭わせちゃった」

 

 

 私の問に答えることはなく、ヨミは伏し目がちに謝罪の言葉を口にする。ただその薄っぺらい言葉は、私の怒りをさらに煽る薪にしかならなかった。

 相手は今まで何度も私たちを襲ってきたヘルメット団だ。今更そんな形だけの謝罪なんていらない。それにそんな言葉で、私たちが受けた傷は癒えるわけが無いじゃない。

 

 

「ごめんで済むと思ってるの!?私だけじゃない!シロコ先輩の事だって!!」

 

 

 そう、その薄っぺらい言葉でシロコ先輩にした仕打ちを赦そうだなんて。そんなの、私は許さない。あの時のシロコ先輩の姿は、今でもありありと思い出せる。

 ヘイローが消えて、呼吸も浅くて、体のあちこちから血が出てて。怪我のない場所なんかどこにもないくらい、酷い有様のシロコ先輩。アヤネちゃんやノノミ先輩がいくら呼びかけても、いつもの落ち着いてて強かな声は返ってこなかった。

 

 

「あんた達の仲間のせいで、シロコ先輩が大怪我したのよ!!全然目を覚まさなくて……このまま起きないかと思って……っ!!」

 

 

 ポロポロと、涙でスカートが濡れていく。とめどなく溢れるそれは、あの時私が感じた感情そのもの。

 

 怖かった。怖かったの。

 

 喪うのが、怖かったの。

 

 私たちの青春(アオハル)が、こんな形で急に終わるのが。私たちの大切な人が、こんな形で奪われるのが。バイトして、借金に頭を悩ませて。みんなと楽しく過ごせるあの青春が、知らない奴らのせいで唐突に消えていくのが、私はたまらなく怖かった。

 それに、自分の手で青春を守れない自分自身が悔しかった。私がもっと上手くやれていれば。私があの時にあいつを倒せるくらい強ければ……。でもそれ以上に、私はこいつらが憎かった。

 

 

「なんで私たちを狙うのよ!!なんで私たちを襲うのよ!!あんた達がいなければ、シロコ先輩だってあんな目には合わなかったのに!!!」

 

「……っ!!!だって仕方ないじゃない!!私たちには、そうするしか方法がなかったんだから!!

 

 

 苦しそうに吐き出されたその言葉に、私は思わず言葉につまった。視線を上げれば、そこには変わらずヨミの姿がある。でもそれは先程までの冷酷な敵でも、学校を狙う不良でもなくて────

 

 

「君たちみたいに、居場所があるわけじゃない!暖かい寝床も、みんなを満足させれる食べ物も!……学校だって!!……だから私たちは、この道(戦うこと)を選んだんだ!」

 

 

 ────私たちと同じで、どうしようもない現実に苛まれる子供の姿だった。

 

 

「でも戦うと決めた以上、誰かが傷つくのは当然のこと。私はそれが嫌だから、せめて自分の家族だけは守れるようになろうって思ったのに…………っ!!」

 

 

 ポロポロと、彼女もまた涙を流す。その姿に、私の中であの光景が思い起こされた。シロコ先輩を運び込む時に、一緒に運び込んだヘルメット団の仲間。シロコ先輩に大怪我をさせたその人も、私たちと戦って自爆したせいで先輩に負けず劣らずの大怪我を負っていた。それこそ、ヘイローが壊れてもおかしくないくらいに。

 そんな姿を、彼女が見たらどう思うだろうか。そうでなくても、赤黒い血が散乱するあの惨劇の跡を見たら、彼女は何を想像するだろうか。小さく嗚咽を漏らしながら、顔を隠して泣く飛葉山ヨミ。今の私は、もう彼女を憎い敵だなんて目で見ることはできなかった。

 

 

「…………そっか。あんた悔しいのね」

 

 

 だってそれは、あまりにも私に似ていたから。私が怖かったように、ヨミもきっと怖かったんだ。あの子にはあの子の仲間が居て、あの子にはあの子の青春があった。でもそれを守る力がないせいで、彼女達の青春は…………。

 

 

「……ごめん。悪かったわ。さっきの言葉も、あんたの仲間のことも」

 

 

 気が付けば、謝罪の言葉が口を出ていた。私たちにとって、カタカタヘルメット団は敵。でもその敵にも、敵になるだけの動機と背景があるんだってことを知ってしまったから。それを知ってしまっては、さっきの言葉がどれだけ自分本位だったかを思い知らされる。

 私の唐突な謝罪にヨミは驚いた様子だったけど、すぐに目元の涙を拭うと、こっちに向き直ってゆっくりと頭を下げた。

 

 

「……私の方こそ、重ねてごめんなさい」

 

 

 一言だけそう言うと、彼女はスっと立ち上がった。その目にはさっきの脆いヨミの姿はなく、私と対峙した時のような鋭い視線が宿っていた。

 

 

「でも、これ以上暴れないでね。私もこれ以上、君を傷つけたくは無いから」

 

 

 そう言って私の横を通って、運転席の方へと向かうヨミ。どうも私はもう逃げられないと診断したのか、これ以上私の監視をするつもりは無いみたい。でも私はまだ諦めない。さっきヨミに言われたばかりだけど、今なら出し抜くチャンスだ。でも相変わらず両手足は縛られてるし、トラックは走行中だしで抜け出せそうにない。皆にも私の無事を伝える手段は無いし、どうすれば……。

 どうにか脱出できないかと思案する私だったけど、次の瞬間、「ドゴォォォン!!」というとてつもない轟音と振動が私たちの乗る車を襲った。

 

 

「うわわっ!!?」

 

「うわっ!?なんだ今の!?」

 

「護衛の車が攻撃を受けたらしい」

 

 

 凄まじい衝撃に、運転席の方でもヨミと他のヘルメット団員の混乱した会話が聞こえてくる。しかもその間もあの轟音は鳴り響きっぱなしで、一向に収まる気配はない。

 

 

「まさか、あの白蛇がここまで!?」

 

「いや!あいつの縄張りからはとっくに抜けてる!!」

 

「確かに、あいつのミサイルって感じじゃないね!」

 

「っ!!急ハンドル切るよ、気をつけな!!」

 

「一体何が──きゃっ!?」

 

 

 私が外を覗き込もうとした直後、私を乗せた車がいきなりハンドルを切った。突然のことで備えてなかった私の体が中に浮き、そのままの勢いで外壁に叩きつけられる──と思ったけど、寸前で飛んできたヨミが私を抱きとめ、そのまま私の代わりに外壁に激突する。

 

 

「ぐっ!!」

 

「あ、ありがと……」

 

「いや、大丈夫」

 

 

 外壁を下にしながら、私たちはゆっくりと起き上がる。どうもさっきの急ハンドルのせいで、私を運んでいたトラックが横転してしまったらしい。さっきから訳わかんないことだらけだけど、とりあえず、逃げるチャンスが訪れたことだけはよくわかった。

 

 

「君はここに居て。逃げようなんて思わないでよね」

 

 

 更にはヨミがトラック後方の扉から出ていったことで、逃げ道も確保される。脱出への条件は次々とクリアされていくが、まだ私の自由を奪う縄は解けていない。いくらお膳立てされたとしても、これが解けなきゃ結局捕まるのがオチだ。

 

 

(お願い……早く解けてよ……っ!!)

 

 

 どうにかして解こうと必死にもがくけど、余程きつく縛っているのか解ける様子はない。それでもと必死になって足掻いていると、朝日が差す出口の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「見つけた!半泣きのセリカ発見!!」

 

「っ!?その声は……!!」

 

 

 凛とした声に視線を上げれば、そこには朝日を背にしてこちらを見つめるシロコ先輩の姿があった。いつものライフルを携え、いつものドローンに加えて見たことない2機の白いドローンを従えるその姿からは、もうあの時のような怖さを微塵も感じられなかった。

 更にシロコ先輩の背後から2人の人影が近づいてきた。盾を展開して背中越しに私を確認するホシノ先輩と、いつものミニガンを持って駆け寄ってくるノノミ先輩。2人とも私と目が合うと、安心したような朗らかな笑みを浮かべていた。

 

 

「なに〜〜?セリカちゃんが泣いてただとぉ〜?ママが悪かったわ!ごめんね〜」

 

「安心してくださいセリカちゃん!私たちがその涙を拭いてあげます!!」

 

「はっ!?いや!!泣いてないし!!」

 

「嘘!!確かに見た!!!」

 

「セリカちゃん、そんなに寂しかったんだねぇ」

 

「大丈夫ですよ!帰ったらいっぱい抱きしめてあげます♣️」

 

「うわ──!!だまれ────!!!」

 

 前言撤回。やっぱいつも通りの先輩たちだったわ。でもそのいつも通りのおかげで、私もようやく本調子に戻りつつあった。シロコ先輩が縄を解いてくれてる間に、ホシノ先輩とノノミ先輩がトラックに近づく敵を容赦なくなぎ倒していく 。その背中は、とっても頼もしく見えた。

 更にはシロコ先輩の連れてきていたドローンも攻撃に参加しているようで、機体下部に取り付けられたロケット砲らしいものを使って、寄り付く敵を次々と叩き落としていた。

 

 

「セリカちゃん!!」

 

「アヤネちゃん!!」

 

 

 シロコ先輩が私の縄を解き終わった頃、後方にいたはずのアヤネちゃんもやってくる。その制服はあちこち砂まみれで、私を助けに来るまでに沢山苦労をかけたんだろうなと思わされた。

 

 

「良かった……セリカちゃんが無事で。私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかと思って……」

 

「ううん、大丈夫。心配かけてごめん……」

 

 

 泣きそうな顔でそう言われて、私の良心がチクっと痛む。確かに、スマホの連絡にも全然出れなかったし、今までこんなことはなかったから、きっと沢山迷惑と心配をかけた……。

 でもみんなのおかげで、こうして私は無事に生きてる。それが何よりも嬉しくて、私も思わず泣きそうきなってしまう。でも泣くのはまだだ。ここはまだ敵陣のど真ん中。私たちの学校に帰るまで、絶対油断なんかするもんか!

 

 

「セリカちゃん!これ!」

 

「ありがとう!」

 

 

 アヤネちゃんから通信機を受け取って、そのまま耳に取りつける。それと同時に身体がむず痒くなるようなあの感覚が走って、私の視界に色んな情報が映し出された。あぁ、そうだもんね。生徒(みんな)がここに居るなら、居ないわけがないもんね。

 

 

『何とか間に合ったみたいだね。セリカ』

 

「…………先生!!なんでここが?」

 

『伊達にストーカー(・・・・・)はしてないからね!』

 

 

 うん、やっぱりいつものセツナ先生だ。こういう真面目な時にふざけて、でもちゃんと私のことは助けてくれて。きっと私のことを夜通し探してくれていたんだろう。それにみんなをここまで連れてきてくれて、少し癪だけど……後でお礼を言わないと。

 

 

『怪我は無い?帰ったら念の為、保健室に行ってもらうよ』

 

「わかったわ!」

 

『ホシノ、今からそっちに迎えを用意するよ。それまでに合流地点に向かって欲しい。支援ドローンは追加で2機が向かってるから、それも上手く使って欲しい!』

 

「了解だよ〜。じゃあまずは、この包囲網を突破しよっか!」

 

「……うん!!」

 

 

 ホシノ先輩のその言葉で、ようやく私も立ち上がる。アヤネちゃんから受け取った愛銃(シンシアリティ)を手に取り、武器チェックを済ませて構えた。準備は万全で、周りには対策委員会のみんなもいる。これなら負けはしないと思っていたけど、それよりも早く、ヘルメット団の方が王手をかけてきた。

 

 

「言ったよね。『逃げようなんて思わないでよね』って」

 

 

 その声と共に、私たちの足元に5発の銃弾が撃ち込まれた。その光景に既視感を持ちながらも周囲を見渡せば、いつの間にか集まっていたヘルメット団の面々が、銃を構えながら私たちを取り囲んでいる。その中央には、あの時の私と泣きあっていたヨミの姿もあった。

 

 

「アビドスの子たちが奪還しに来る可能性は考えてはいたが、まさかこれほど早いとは……」

 

 

 さらにそのヨミの隣には、赤いヘルメットを被り、アサルトライフルを構えるヘルメット団員が居た。確かこいつはいつも他団員に指示を出してたリーダー格のヤツだ。

 

 

「でも、もう詰みだよ。君たち5人にこの包囲網は破れない。セキが居ないからって、私たちを烏合の衆か何かだと思ってないかい?」

 

 

 リーダー格のヤツがそう断言する程に、私たちを囲む鳥かごは堅牢だった。Flak41改を前衛に並べて歩兵の壁にして、その隙間を埋めるようにシールドを装備したヘルメット団のヤツらがこちらを狙っている。更にはその後方にも重戦車が何台か控えていて、ここで確実に私たちを潰すという意思が見て取れた。

「これくらいの包囲なんて、すぐに蹴散らしてやるわ!!」。以前の私なら、きっとそう豪語していたと思う。けど、あのトラックの中でヨミの言葉を聞いてしまった後では、引き金にかける指に僅かに迷いが生まれていた。

 私たちの青春を守るために、彼女たちの青春をこれ以上壊せるのか……。ヨミのあの叫びを聞いてしまった後で、私はその決断を下せるのか……。でも私たちが引き金を引くその前に、さっき聞いたばかりの大人の声が聞こえてきた。

 

 

「こちらはアビドス高校、対策委員会顧問の天守(あまもり)セツナだ。カタカタヘルメット団、君たちと取引がしたい」

 

 

 その声は、ヘルメット団の背後から。彼女たちが振り返ると、そこには4機のドローンを従えるセツナ先生が立っていた。いつもなら流れ弾に当たらないように後方に隠れていいるのに。先生が堂々と姿を現していることに、私だけじゃなくてシロコ先輩やホシノ先輩も驚いてるみたいだった。

 

 

「へぇ?噂の連邦捜査部の顧問……だったかい?」

 

 

 そしてそれは、ヘルメット団のリーダーも同じだったみたいだ。バイザーからは少し驚いたような表情が覗いていて、私たちに向けていた銃を下ろすと、背後のセツナ先生へと向き直る。それと同時に背後のヘルメット団員たちも左右に移動し、2人の間を遮るものが一気に無くなった。

 

 

「まぁいいさ、話だけは聞いてあげるよ。条件はなんだい?」

 

「私たちをこのまま見逃して欲しい」

 

「……それをして、私たちになんのメリットが?」

 

「門守セキの入院している病院を教えるよ。君たちも、お見舞いには行きたいでしょ?」

 

 

 セツナ先生とヘルメット団のリーダーの間で、静かな言葉の応酬が繰り広げられる。だが先生の放った一言に、ヘルメット団のあちこちからどよめきが聞こえてくる。

 どうも門守セキは、ヘルメット団の中でもかなり愛されていたらしい。その事を知ってしまったせいで、さっきのヨミの慟哭がより重苦しくのしかかってくる。

 

 

「入院……ね。やっぱり、あの場所からセキを移動させたのはあんただったってわけかい」

 

「そうだね。あのままだと、あの子のヘイローの無事を保証できなかったから」

 

 

 納得が言ったという様子のリーダーに対して、先生はどこか慎重な面持ちで言葉を紡いでいた。

 

 

「セキは今日の夕方にも退院する手筈だ。セキは君たちと会いたがってるみたいだから、ここで私たちと戦わずに、元気な姿であの子を出迎えて欲しいと私は思ってるよ」

 

 

 優しい声色で語るセツナ先生。それはきっと、先生の心からの言葉。私はもう、ヘルメット団をただの敵だとは思えない。ただ先生はそのことを、随分と前から考えていたみたいだった。

 今なら、先生が門守セキを助けた理由がわかる。きっと先生には、門守セキも同じに見えてたんだ。あの子のことも、助けるべき生徒の1人だと……。ずっとそう考えていたんだ。そしてその認識は、きっと目の前のヘルメット団に対しても同じなんだ。

 

 

「……天守先生と言ったか。私たちを騙すつもりは無いんだね?」

 

「もちろんだよ」

 

「セキは……本当に無事なんだね……?」

 

「うん。喋られるくらいには回復しているよ」

 

「…………そうかい。じゃあ最後に、私たちはそれをどう信用すればいい?」

 

 

 リーダーがヘルメット越しにそう問いかける。その問いに先生は胸ポケットをゴソゴソと漁ると、中からあるものを取り出して目の前へと掲げた。

 

 

私のことは(天守刹那を)信用しなくてもいい。ただ、私に課せられた存在意義(やくめ)のことは、信用して欲しいんだ」

 

 

 それは、シャーレのロゴが入った首下げ式のパスケース。私たちが一番最初に会った時にも掲げていた、彼がシャーレの先生である何よりの証明だ。

 

 

「私は先生で、生徒全員の味方でありたい。例えそれが不良であろうと、傷つけあった人だろうと。それが、子供を支える先生の責任だと思うから」

 

 

 パスケースを強く握り締め、そう語る先生の瞳には一切の迷いはなかった。ただ青く澄んだような瞳でリーダーを見据えて、自分の意思を頑なに、静かに主張し続ける。それに当てられたのか、ヘルメット団のリーダーも静かに先生を見つめるだけで、それ以降何も口にすることは無かった。

 そしてここに当てられた人間がもう1人。そう、私だ。最初はちょっとかっこよくて、でもやっぱり怪しいことが多そうな大人。柴関の1件からは謎がもっと増えて、ますます怪しかった天守セツナという大人。最初こそ悪い大人かと思っていたけど、今の言葉を聞いてその印象はすっかり変わってしまった。

 天守刹那は疑ってもいいから、"先生"である私のことは信用して欲しい。それはリーダーに向けての言葉であると同時に、ずっと"先生"を疑ってきた私へのメッセージにも感じていた。

 

 

「私が先生である以上、君たちに不利益なことはしないよ。それだけは信じて欲しい」

 

 

 例え天守刹那が、どれだけの秘密を抱えようとも。敵も味方も、関係ない。それが生徒のためになるのであれば、"先生"は迷わずにやる。それが、セツナ先生から私に向けての、たった一つのアンサーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の中央で対峙する対策委員会とカタカタヘルメット団。それぞれのトップであるカタカタヘルメット団リーダーと対策委員会顧問天守セツナの取引は、セツナが門守セキに関する情報を引き合いに出したことで少しの間停滞していた。

『"先生"は全ての生徒の味方』という言葉を聞いていたリーダーは、しばらくの間沈黙したあと、「はぁ……」と静かなため息をついた。そして握りしめていたアサルトライフルを手から離して、何も握ってない両手をスっと挙げた。

 

 

「……わかったよ。ひとまずは、あんたのことを信用してみよう」

 

 

 どうやら彼女も、とりあえずではあるがセツナを信用する方向で固めたようだ。それにつられて他の団員も武器を下ろし、対策委員会への包囲を解きつつあった。その無言の連携は、それだけ彼女達が深い絆で結ばれていることの現れだ。

 

 

「さ、あんたらも行きな。先生が待ってるよ」

 

 

 どうやら、本当に帰してくれるらしい。その様子に驚きつつも、対策委員会はゆっくりと歩みを進めていった。その間もヘルメット団からは誰も発砲することはなく、ただ静かに彼女たちを見送っていた。

 

 このままこの戦いは円満に解決する。

 

 この時までは、みんなそう思っていた。

 

 

 

 

 

「リーダー!!!偵察隊から『今すぐそこから逃げろ』って!!」

 

 

 だが、ヘルメット団員の1人があげた声によって、状況は一気に緊迫したものに変わっていった。

 

 

「どうした!!何があった!?」

 

 

 偵察隊からの報告に、直ぐさま状況を確認するリーダー。だが次にもたらされた一言は、ヘルメット団にとっても、アビドスにとっても予想外の一言だった。

 

 

「『あいつ』が来てます!!!!今、Flak隊が妨害していますが、止まる様子がありません!!!」

 

 

あいつ

 

 その一言で、ヘルメット団だけでなく対策委員会にも緊張が走る。アビドスに生きる者は、必ず"ソレ"の脅威を知ることになる。砂漠や市街地の砂の中からいきなり現れ、様々な被害をもたらしてきた。

 かつてアビドス高校では、"ソレ"に関する情報を収集していた。その情報は校舎を引越しする際に失われてしまったが、現対策委員会により縄張りなどの情報は集められていた。

 それはヘルメット団も同じだった。今回の作戦も砂漠を横断する際に"ソレ"の縄張りを通過するため、「Flak41 改」等の重戦車で護送しつつ、速やかに縄張りから離脱する手筈だった。そしてここは、その縄張りの範囲外。彼女達が"ソレ"に襲われる道理はないはずなのだ。

 唯一、キヴォトスの外から来たセツナはそれを知らない。彼女達が何に怯えているのか、一体何が迫っているのか。だがそんなセツナも、アロナからの報告に事態の不味さを知ることとなる。

 

 

《先生!!あっちの方角から巨大なエネルギー反応が!》

 

 

 シッテムの箱に映し出される、アビドス砂漠のマップ情報。そこには巨大なナニかが、ここに向かって進んでいる様子が示されていた。それは戦車でもヘリでもない、もっと巨大なナニカ。ただその巨大さに反して、いくら接近しようとも、その姿を捉えることは出来なかった。

 

 

《マーカー情報送信!地中から……来ます!!》

 

「地中!?この砂漠の下に何が……」

 

 

 セツナがそう呟くと同時に、地平線の果てで轟音が轟く。それと同時に大きな何かが飛んできて、黒煙をあげながら砂漠を転がっていった。見間違いでなければ、それは「Flak41 改」。妨害してきた重戦車の群れを薙ぎ倒しながら、それはこちらに向けて驀進を続けていた。

 

 

「あぁ!!Flak隊が!!」

 

「先生!早く逃げよう!!」

 

 

 狼狽するヘルメット団に対して、対策委員会の対応は素早かった。重戦車がぶっ飛ばされると同時にセツナの元へと駆け寄り、すぐに撤退の準備を始める。その連携は見事なものだったが、いかんせん、行動に移すのが遅すぎた。

 彼女達のすぐ目の前の砂地が、異様なほど盛り上がっていく。その中から現れたのは、砂漠には場違いなど美しい"白"。白磁とも言える装甲を纏ったそれは、ゆっくりと砂の海からその頭を上げていく。それは巨大な大蛇。だがその体は生物のそれではなく、体表を這う橙色のライトを明滅させる機械仕掛けの身体だった。

 

 

『ヴォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!』

 

 

 頭上の巨大なヘイローを煌々と輝かせながら、それは雄叫びを轟かせる。周りを威圧するようなその咆哮に、この場にいる皆の足がすくんだ。

 

 

「なんだ……あれ……」

 

 

 初めて見た"ソレ"に思わず口をついて出た言葉。今までのものとは一線を画するその姿に、セツナは圧倒されていた。そしてそのセツナの問いに答えるように、アヤネがこれまでにないほど緊張した声色で、目の前の存在をこう呼称した。

 

 

 

 

 

「あの白蛇は────ビナー(Binah)です!!!」

 

 

 

 

 

 ビナー

 

 そう呼ばれた機械仕掛けの白蛇は、ギロリとセツナの方を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 







 ▽天守セツナ
 Eye of █████(█████の瞳)
 先生、それ以上の存在では無い。言葉通りの意味。

 ▽小鳥遊ホシノ
 Eye of Horus(ホルスの眼)
 彼の言葉は、彼女を動かすことは出来るのか?

 ▽黒見セリカ
 まだ青い少女。
 この出来事が、後に大きな影響を与える。

 ▽飛葉山ヨミ
 戦士としては、脆くて不完全。
 だがそこが、セキとは明確に違う強み。

 ▽リーダー先輩
 元から逃がすつもりではいた。
 セツナの言葉に、彼女もまた感銘を受けた。

 ▽廃校対策委員会
 セツナの行動のおかげで、原作よりも素早く奪還作戦を決行している。交渉不成立なら原作通り包囲網をぶち抜くつもりだった。

 ▽カタカタヘルメット団
 無言の連携は研鑽の積み重ねではなく、ただ「リーダーならそうする」というみんなの共通認識により成り立っている。それにみんな、セキの事が大好きなのも一役買っている。

 ▽ビナー
 第3の預言者……?何故ここに(猗窩座並感)



あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回、駄文な上にクソ長くなってしまいまして……。
プロットの都合上ここまで収めておきたかったので、少し許してください┏○ペコッ


P.S. デカグラマトン編新章、良かったですねぇ( ◜௰◝ )‪
シュポガキ2人のともお迎えできなくて轟沈しておりましたが、どうにか気分を持ち直すことが出来ましたよ 




 次回 第9話「第3の預言者」



『知恵を得よ。理解せよ。汝は私を証明する王冠、その守り人である』


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