Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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「あなたが積み重ねてきたその繋がりの力が、果たして新たな神の御前でどれだけの意味を持てるでしょう?」

「あの少女たちの神秘は、新たな神の神秘に比肩しうるでしょうか?」

「そうです。これは非常に興味深い研究なのです」


 ー ブルーアーカイブ「ビナー:違いを痛感する静観の理解者」より ー







第9話 「第3の預言者」

 

 

 

 

 

 

 今よりはるか昔。忘れ去られたキヴォトス旧都心の研究地区にて、それは産声を上げた。神に関する情報を収集し、解析し、再現する人工知能。後に『対・絶対者自立分析システム』と名付けられたそれは、研究が頓挫し、研究地区が放棄された後も、ひたすらに自らの役目を遂行し続けた。

 そしてかつての都心が苔に覆われるようになった頃、そのAIは高らかに宣言する。

 

Q.E.D』……と。

 

 その宣言と共に稼働を始めたのが、自らを『音にならない聖なる十の言葉』と称し、新たなる神を名乗る人工知能『DECAGRAMMATON(デカグラマトン)』だ。

 その過程でデカグラマトンは自身の神明を予言する十柱の預言者と接触し、神聖なる道(Path)を拓いた。その中の1柱、「理解者」の異名を持つ預言者(セフィラ)であるビナー(Binah)が今、アビドス砂漠に姿を現していた。

 

 

《ビナーから熱源多数!ミサイルが来ます!》

 

「ノノミ!7時方向に向けて対空射撃!」

 

「了解です!!」

 

「アヤネ!シロコ達が落ちない程度に蛇行運転!」

 

「了解しました!!」

 

 

 アロナからの警告を交えながら、セツナと対策委員会はどうにかしてビナーを振り切ろうと悪戦苦闘していた。だが何故かビナーに諦める様子はなく、彼らを狙ってどこまでも追いかけてきている。

 幸いビナーの方が動きが遅いらしく、今のところ追いつかれそうな気配は無い。しかし背部のVLSからのミサイルや時折目を瞬かせて周囲を爆破させて攻撃してきたりと、気を抜けばこっちがあっさりやられそうになる。更にはビナーが追いかけてくるせいで、市街地などに入って休むこともできない。このままではジリ貧だ。

 

 

「ん……!流石にしつこい!」

 

「そろそろどっか行きなさいよ!」

 

 

 荷台からシロコとセリカが射撃を加えるが、あの白磁の装甲が全て弾いて大したダメージにはなってない。そもそもがあのサイズの巨体だ。人間サイズの銃火器など、あいつにとっては豆鉄砲かなにかなのだろう。

 効きそうな武装は、セツナのドローンに備えられた4機のロケット砲のみ。だがこの武装は残弾が心許なく、更にはドローン本体も攻撃に弱いため、あの巨体の近くで動かすにはリスクが大きかった。

 

 

「こうなったら、おじさん達が車から降りて、直接戦った方が楽かもねぇ」

 

「ダメージが通りそうなところと言えば、あの装甲の隙間くらいか……。でもこのままジリ貧を続けるよりはいくらかマシかな」

 

 

 追いかけてくる白蛇を睨みながら、ホシノとセツナが口々に感想を漏らす。このまま逃げ続けても、いずれこちらの足が潰れて追いつかれる。それにここはまだ市街地やアビドス高校からも遠い砂漠のど真ん中。ここで帰りの足が潰れれば、無事に帰れるかも怪しい。

 

 

「よし、作戦変更だ!アヤネ以外はビナーの隙を見て車から降りて近接戦。アヤネはそのまま後方に退避して、その位置から支援をして欲しい」

 

「「「「「了解!!!!!」」」」」

 

 

 最終的に、セツナは近接戦を挑むことを選択した。このままジリ貧で負けるよりかは、まだ活路が開けると信じての判断である。近接戦の上で厄介なのはあの巨体による質量攻撃と体を覆う白磁の装甲だが、今のところビナーが質量攻撃をしてくる様子は無い。それに白磁の装甲に関しては、既にある程度の突破法を思いついていた。

 

 

《先生!ビナー内部から高エネルギー反応です!》

 

 

 アロナの警告につられて背後を見れば、そこにはビナーが新たな動きを見せていた。砂地を移動しながらもその首をもたげて、その口と思しき機構を展開させていく。そして露出した内部機構が回転し始めると同時に、その口腔内に光が集まり始めていた。

 

 

「なんか明らか不味そうな攻撃が来るよ!」

 

「あれはレーザーだね。アヤネちゃん!!」

 

「はい!皆さん、近場のものに掴まってください!」

 

 

 アヤネの言葉に、各々が近場の固定されたものに掴まる。アヤネもバックミラーでビナーの様子を伺いながら、両手でしっかりと車のハンドルを握りしめていた。そしてアヤネが急ハンドルを切ると同時に、圧縮された光がビナーの前方へと解き放たれた。

 

 

アツィルトの光

 

 

 神の領域を照らす光が、熱線となって砂漠を焼き払う。アヤネの神がかった回避によって直撃こそ避けたものの、その衝撃と熱波はセツナたちまで届いていた。

 

 

「うぐぐぐぐ……」

 

「あれは直撃じゃまずかったね……」

 

 

 黒く焦げた砂地を見ながら、セツナは敵の無茶苦茶な火力に驚いていた。だがビナーもあれを連発するのは難しいようで、排熱中の口部の機構を戻しながら、ゆっくりとこちらに進撃してきていた。

 

 

「よし!それじゃみんな、作戦通りに行こう!!」

 

「「「「「はい!!!!!」」」」」

 

 

 ビナーが距離を詰める間に、対策委員会もビナーを迎え撃つべく車を降りる。先の指示通り各々の持ち場につく対策委員会に、アロナにドローンを任せ、戦闘支援システムを立ち上げるセツナ。その様子をビナーは4つの眼で睨んでいたが、目の前の妨害物(・・・)が戦闘態勢に入ったとわかるやいなや進撃を停止し、その巨体を持ち上げて威嚇するように駆動音を響かせた。

 

 

『ヴォォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

 

 周囲に轟く雄叫び。それを合図に対策委員会も動き出す。その先陣をきるのは、いつもの盾をシロコに任せ、ショットガン片手にビナーへと突っ込むホシノだった。

 

 

「よっ!ほっ!それっ!」

 

 

 ビナーの攻撃を身一つで躱し、助走をつけた渾身の跳躍でその体に取り付いた。そしてそのまま装甲の隙間へとショットガンをねじ込むと、2度3度と引き金を引く。その度に高らかに鳴る銃声に、ビナーは忌々しそうに声を上げた。

 

 

『グォァァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

「お〜!やっぱ効いてるみたいだねぇ!」

 

 

 荒ぶるビナーから離れながら、ホシノは感嘆の声を漏らす。どうやら装甲の隙間、黒地の部分にはダメージが通るようだ。だがビナーが暴れる度に周囲をとてつもない風圧が駆け抜けていた。さらにはその風圧で砂塵が舞って視界が悪い。これでは近距離以外で命中させるのは至難の業だろう。

 

 

「先生〜!装甲の下は柔らかそうだよ!」

 

「ありがとうホシノ。それじゃあ各自でビナーの装甲を削りとろう!」

 

 

 先生の指示を受け、様々な方向からビナーに向けて攻撃が加えられる。一応白い装甲部でもダメージは通るらしいが、他の部位と比べると効果は薄い。だが肉薄しないと狙えない他の部位に比べて狙いやすいという違いはある。

 集中砲火を受ける中、ビナーは静かに考えていた。1発1発は大したことないが、それでもこの状況が続けば確実にこちらの装甲が削り取られるだろう。特に先程接近してきた小柄な妨害物と、ミニガンで撃ってくる妨害物の攻撃は特に危険だ。この2人を優先して排除すべきだと、ビナーは結論づけた。そしてそのために最適な行動を模索し、すぐさま実行に移す。

 

 

『先生!ビナー背部のVLS起動を確認しました!』

 

「ということは……みんな!ミサイルに注意して!!」

 

 

大道の劫火

 

 背部の発射管を解放し、その全てからミサイルを撃ち放つビナー。それを察知したセツナが即座に対策委員会へと情報を伝えた。ある者は撃ち落とすべく、ある者は避けるべく、上空へとその視線を向ける。もちろん、ノノミもそのうちの一人だった。

 

 

「……あれ?なんかおかしくない?」

 

 

 しかし セリカのその一言で、全員が同じ感想を共有する。全員が見上げるその上空、そこにはただ雲と青空が広がるだけで、こちらに迫るミサイルは1つたりとも存在しなかったのだ。

 

 

《っ!!先生!ビナーが!!》

 

 

 それにいち早く気づいたのは、ドローンでビナーを監視していたアロナだった。皆の視線が上空へと釘付けになっているその一瞬の隙をつき、ビナーは再び口部を展開し射撃体勢に入る。その狙いは先程優先排除対象に指定した妨害物のうち1体、ミサイル迎撃のために上空へとミニガンを向けていたノノミだった。

 

 

「ノノミ!!」

 

「っ!!?」

 

 

 咄嗟にセツナが呼びかけるが、それよりも先にビナーの口から熱線が放たれる。それは妨害物の不意をつくために、最低限のチャージで放たれた『アツィルトの光』。威力や加害範囲は先程の全力全開(フルチャージ)よりも劣るものの、今ここで妨害物を片付けるのには十分な火力と攻撃範囲を備えていた。

 しかしその不意の一撃は、途中で割り込んできた鋼鉄の盾によって受け止められる。盾によってレーザーが飛散する中、もう1人の優先排除対象は不敵な笑みを浮かべて『アツィルトの光』をいなしていた。

 

 

「いやぁ……危ない危ない。おじさんも歳なんだから無理できないねぇ」

 

 

 そして『アツィルトの光』を防ぎ切り、赤熱化する盾を横目に見ながら、ホシノはにひっと笑ってみせる。その姿には目立った傷もなく、それはホシノが守り抜いたノノミも同じだった。

 渾身の策を見破られ、挙句の果てには正面から自身の技に対抗されて、ビナーの瞳に怒りの色が宿る────かと思われた。だがビナーの動きに大した変化はなく、寧ろこちらの様子を伺うようにじっと見つめるばかりだ。その様子がかえって不気味で、ホシノは盾を構え直してビナーの攻撃に備える。

 

 しかし、敵の攻撃は既に行われた後だった。

 

 

「ホシノ!上だよ!!!」

 

 

 セツナの鋭い声につられて上を見れば、そこにはこちらに迫る6発のミサイルが見えた。

 

 

「くっ!!本命はそっちか……っ!!」

 

 

 そう、最初に放たれた『大道の劫火』は囮ではない。ミサイルをあえて通常よりも高い高度を飛ぶように打ち上げることで着弾までの時間をずらし、その後の攻撃があたかも本命であるかのように見せかけたのだ。そして敵が本命(おとり)を防ぎきって油断したところに、本命の攻撃が突き刺さる寸法だった。

 

 

「ホシノ先輩たちはやらせない……っ!!」

 

「これくらい撃ち落としてやるわ!!」

 

 

 ホシノとノノミにミサイルが迫る中、シッテムの箱の支援を受けてシロコとセリカが迎撃を始める。2方向からの対空射撃にミサイルが次々と被弾するが、落下の運動エネルギーも合わさったミサイルを全て落としきるには時間が足りない。それでも残り1発というところで、ついに2人の銃からカチカチと弾切れの音が聞こえてきた。

 

 

「ノノミちゃん!!こっちに!!」

 

 

 被弾は免れないと判断したホシノがノノミを呼ぶ。いくらキヴォトスの生徒と言えども、ミサイルの直撃を受けたら無事では済まない。それでも盾を使えば直撃よりかはマシだと考えた。

 だが、ビナーはそこまで織り込み済みだった。優先排除対象を1箇所に固められれば、あとは『アツィルト』なり『大道』なりで纏めて焼き払えばいいのだから。そして今回本命として選択した『大道の劫火』の炸薬量は、通常よりも6割増となっている。例え敵に防がれても、1発でも命中すれば致命傷、ないし大きなダメージは残せると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あくまで「1発でも当たれば」……だが。

 

 

 

 ダアンッ!!

 

 

 

 一閃。遠くから飛来した弾丸が、2人へと迫るミサイルを横から貫く。それによりミサイルは2人に命中する前に炸裂し、熱発と衝撃の代わりにボトボトと砕けた残骸を降り注がせた。

 

 

『ホシノ先輩!!ノノミ先輩!!大丈夫ですか!?』

 

 

 爆発の余波が収まった頃。ドローンで医療物資を輸送してきたアヤネが2人の無事を確認する。幸い2人とも目立った怪我はなく、動けなくなったわけでもなさそうだった。

 

 

「おじさんは大丈夫だよ。ノノミちゃんは大丈夫?」

 

「はい!ですが、今のは一体……!?」

 

 

 突然の銃声と爆発に2人は困惑した様子で辺りを見渡す。最初は誰かほかのメンバーがやってくれたのかと思っていたが、離れた位置にいるシロコとセリカも自分たちと同じような表情を浮かべていて、通信越しのセツナやアヤネも何が起こったか分からない様子だった。

 だがその答えは向こうからやってくる。ゴゴゴゴゴ……と唸るような音ともに、地面が揺れ始める。聞き覚えのある音の方へと視線を向けると、そこにはこちらに向かってくる3台の黒い戦車の姿が見えた。

 

 

「良くやったヨミ!腕を上げたな!」

 

「そりゃ、先輩と何度も特訓しましたからね!」

 

 

 そして先頭を走る重戦車のキューポラから顔を出しているのは、赤いヘルメットを被って部下を褒めるリーダーと、スナイパーライフルを構え、この距離からミサイルを叩き落とした飛葉山ヨミ。彼女たちを助けたのは、先程まで敵だったカタカタヘルメット団だったのだ。

 

 

 

「アビドスの子たち!!今回はセキの件に免じて手助けしてやるよ!!」

 

 

 

 懐から拡声器(メガホン)を取りだして、一方的にそう宣言するリーダー。先程からの怒涛の展開に呆気に取られている対策委員会だったが、ビナーの怒りを孕んだ咆哮によって直ぐに現実へと引き戻された。

 ビナーの方でも新たな妨害物の出現によって、戦略の変更を余儀なくされていた。新たに出現したのは、「Flak41 改」と思われる重戦車が3台。小回りが効かず動きも先の妨害物より鈍いが、その分、耐久力と打撃力は上回っている。あの小さな妨害物たちよりも、こっちの方を先に排除するべきだとビナーは決めた。

 

 

『グォォォォォォォォォォァァ!!!!!!』

 

 

「お前たち!!あの白蛇との戦い方はわかってるだろうね!!ヘマするんじゃないよ!!」

 

「了解リーダー!!」

 

 

 ビナーの狙いがこちらに移ったことを確認したリーダーは、ついてきた部下たちに即座に指示を飛ばす。今ここにいるのは、少し前にビナーに吹っ飛ばされた「Flak隊」の生き残りと、射撃に自信があるメンバーを集めた精鋭たち。このメンバーであれば、多少ビナーに対抗する事が出来るはずだ。

 

 

「2号車、3号車は左右に展開!私たちはアビドスの子たちの盾になるよ!」

 

「無茶言ってくるねリーダー!!」

 

 

 リーダーの指示に苦言を呈しつつも、それぞれハンドルを切って散開するヘルメット団戦車隊。さらには移動しながら砲塔を旋回させ、狙いをビナーへと定めると恐れることなく引き金を引いた。途端、次々と轟く砲声にビナーが身動ぎする。続々と撃ち込まれる徹甲榴弾は、白磁の装甲に直撃してその内部までダメージを与えていた。

 無論、ビナーもやられっぱなしでは終わらない。周囲を駆け回る戦車隊を無力化するべく、再度背部VLSを展開してミサイルをぶっぱなす。さらには3台の戦車を同時に狙うことはせず、目標を1台ずつ確実に仕留めるために火力を集中させた。まず最初に狙うのは、妨害物の指揮官が乗ってると思しきやつからだ。

 

 

「リーダー!ミサイルが来ます!!」

 

「わかった、ヨミ!!」

 

「了解です……やっ!」

 

 

 こちらに迫るミサイルを睨みながら、ヨミの気迫のこもった一言ともに、連続して銃声が響く。その命中精度は凄まじく、その全てがミサイルの"芯"を捉え、次々と爆発し叩き落とされていった。

 そしてそのままヨミの乗った重戦車は対策委員会達の方へと移動し、まるで壁になるようにビナーの前に立ち塞がった。ついさっきまでは一触即発状態だったのに、ヘルメット団のこの変わりように対策委員会は戸惑っていた。

 

 

「あんた達、なんで私たちを助けるのよ!」

 

 

 さっきまで囚われの身だったセリカが、そう問いかけた。それに対して再びキューポラから顔を出したヘルメット団のリーダーは、他団員に指示を出しながらもセリカの問いに答える。

 

 

「何故って、私たちはあの先生に死なれたら困るからねぇ」

 

「一応言うけど、今回は借りを返すだけだよ!」

 

 

 ヘルメットのバイザーから覗く表情は、その口調とは裏腹に至って真面目だった。そして戦車から降り、ビナーへと攻撃を加えるヨミも、同じく真面目な顔で声を大にしながら自分たちの意志を表明する。

 

 

「……あんた達も素直じゃないんだから」

 

 

 セリカのやれやれと言ったセリフに、対策委員会は微笑ましい笑みを浮かべる。だがそれも一瞬のことで、意識はすぐに"新しい仲間"から倒すべき敵の方へと向けられた。

 

 

「ヘルメット団、君たちも協力してくれるってことでいいのかい?」

 

「あぁ!その代わり、ちゃんとセキの情報は教えてもらうよ!!」

 

 

 

 最後にセツナがヘルメット団に最後の確認を取ると、リーダーは力強く肯定する。これにより、この場限りではあるが『アビドス高校・カタカタヘルメット団』による連合チームが誕生したのだった。

 戦力は対策委員会5名にセツナの攻撃・補給用ドローンが4機。それに加え、カタカタヘルメット団の重戦車が3台に、飛葉山ヨミを始めたとした戦闘員が6名。これだけの戦力であれば、ビナーを追い払うことだって不可能じゃない。

 それにそれぞれの目的(やりたいこと)は違うが、今この場を満たす想いは一緒だ。そしてその強さも、きっと、とても硬い。

 

 対策委員会は仲間を連れ戻すため。

 ヘルメット団は仲間を迎えるため。

 

 それぞれの『青春(アオハル)』を取り戻すため。

 

 

「それじゃ、改めてビナー攻略といこう!」

 

 

 そうして、臨時連合による反抗が始まった。

 

 

「1号車は正面から攻撃。2号車とシロコとノノミは右側面から、3号車とホシノとセリカは左側面に回り込んで撹乱して!」

 

『「「「「了解!!!!!」」」」』

 

「了解した!ヘルメット団各位、今はあの大人の指示に従いな!!」

 

 

 セツナの指示を受けて、2号車がシロコがノノミを、3号車がホシノとセリカを乗せてビナーの周囲を周りながら攻撃する。3台の戦車からの砲声と衝撃にビナーは苛立たしげに吠えるが、どれかに意識を絞れば、即座に他の戦車から攻撃が飛んでくる。特にヨミの射撃精度が猛威を振るい、揺れる戦車の上からでも安定して装甲の隙間を射抜いていた。

 こうなってはもう、"優先"排除対象などいない。言うなれば、この場にいる全ての妨害物が優先排除対象だ。主からの"命"を果たすためにも、この状況は確実に突破しなければならない。ビナーの判断は迅速で、この場に置ける最適解即座に導き出した。

 

 

「みんな、ミサイル注意だよ!!!」

 

「ミサイル来るよ!各車、アビドスの子たちを巻き込むんじゃないよ!!」

 

 

 もう何度目かの『大道の劫火』。しかしそれも臨時連合の前にあっさりと撃ち落とされる。今回は3つの目標への同時攻撃だったこともあり、1体1体に割く火力が大幅に減ってしまっていたのが原因だ。さらにビナーのこの行動パターンの変化は、セツナの"眼"によって筒抜けだ。

 

 

「よしっ!みんな!1号車の所へ集合!!」

 

 

 3台の重戦車が周回をやめ、攻撃を続行しながら集結する。そして指示通り1号車の元へと集結すると、そこから動くことなく攻撃を続けていた。突然の行動パターンの変化に、ビナーの中で撃破方法の再演算が行われる。今までは妨害物がバラけていたので同時に攻撃する手段は限られていた。だが今は敵は1箇所に固まっていて、先程までとは違う選択もとれる。

 状況・敵配置・攻撃手段、そして最後に加害範囲(・・・・)。それらの条件を加味してのビナーの選択は、今ここで全力全開(フルチャージ)の『アツィルトの光』をもって戦いに決着をつけることだった。

 

 

《先生!ビナー内部に再び高エネルギー反応です!!》

 

 

 アロナのその言葉に、セツナはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「アロナ!ドローンのロケット砲斉射!!」

 

《分かりました!や──っ!!!》

 

 

 アロナがリモコンを操作し、4機のドローンを接近させる。アツィルトの熱波によって乱流が発生しているが、その程度のことで超神神神AIであるアロナの操作が乱れることは無い。そうしてビナーのすぐ目の前まで接近すると、ビームをチャージする口内に向けて残ったロケット弾を全て叩き込んだ。

 直後、アツィルトにも負けない輝きでロケット弾が炸裂する。チャージ中に攻撃されることは、ビナーにとって想定外だった。圧縮エネルギーの暴発を恐れて、攻撃システムが緊急停止する。さらには先程までの戦闘によるシステム負荷が一気に襲いかかり、駆動システムも一斉にシャットダウン。

 

 ここに来てビナーは完全に無防備な姿をさらすこととなった。

 

 

『ビナー、一時的にシステムダウンを起こしたようです!!』

 

「よし、みんな!ビナーの頭部に総攻撃!!」

 

 

 アヤネからの報告に間髪入れず、セツナの指示により頭部へと攻撃が集中する。ビナーのCPUがどこに入っているかは分からない。しかし周囲を観察するための4つの眼や、ビームを放つ機構があることから、少なくとも頭部はかなり重要な部分だとセツナは推測した。

 

 

「いいぞ!ビナーが再起動するまでにできるだけ叩き込んでやりな!!」

 

「ん、言われなくてもそのつもり……!!」

 

 

 次々と命中する砲弾や銃弾。あまりの猛攻に白磁の装甲にも目に見えるほどダメージが蓄積しているようだった。さらに先程アツィルトの光を強制中断させたせいか、ビナーの口内からは黒煙が上がっている。対策委員会もカタカタヘルメット団も、ここまでビナーを追い詰められたのは初めてだった。

 

 

『ヴグゥルルルル…………ッ!!!』

 

 

 数々の命中弾を受けた後、ようやくビナーがシステムの再起動(リブート)に成功する。だが既に頭部の装甲は限界に近く、口内の発射機構も先程の攻撃でダメージを負っていた。再び、ビナーの演算が開始される。どうすれば主の命を果たすことができるか。

 

『攻撃』か、あるいは『撤退』か。

 

 長考の末にビナーの導き出した結論は──

 

 

『先生!ビナーの動きに変化が!』

 

 

 みなが固唾を飲んで見守る中、ビナーは1度咆哮をあげたあと、体をくねらせて砂地へと沈んでいった。そのままいくらたっても再度ビナーが姿を現すことはなく、アロナの探知にも引っかからない。しばらくの間、激戦の後が残る戦場には、嘘のような静寂が広がっていた。

 

 

「……これは……やったか?」

 

「セツナ先生、それは俗に言う前振り(フラグ)というやつじゃないかい?」

 

 

 思わず呟いたセツナに、ヘルメット団のリーダーがそうツッコむ。そう、それは正しくフラグだった。それを証明するように、シッテムの箱からアロナの悲鳴のような声がきこえてくる。

 

 

《先生まだです!!地中から高エネルギー反応!!こちらに接近してきています!!》

 

 

 その声とほぼ同時に、ゴゴゴゴゴ……と地面が揺れ始める。それは重戦車の走行時のものとは桁違いで、本能的にことのヤバさを感じ取れるほどの揺れだった。それに高エネルギー反応……ビナーがこちらに向かってきている。それはつまり、あの巨大な質量を持ったものが勢いのままこちらに突っ込もうとしているということで────

 

 ────それはつまり、セツナが最初に危惧した『質量攻撃』そのものだった。

 

 

 

「全員!!ドローンに捕まって!!」

 

「総員、戦車の中に入れ!!」

 

 

 セツナは仮説と推測から、リーダーは今までの経験から即座に指示を出す。ヘルメット団は今までの交戦経験からビナーが何をしようとしているのか察し、すぐさま戦車の中に潜り込んで衝撃に備える。そして対策委員会もロケット砲を投棄(パージ)したドローンに掴まって、上空へと避難する。ホシノが、ノノミが、シロコが。そして最後にセリカがドローンに掴まって、次々と上空に上がって行く。

 だが、最後に逃げたセリカは気づいてしまった。セツナの用意していたドローンは4機、今ここにいる対策委員会の生徒数も4人。私たちが逃げたら、セツナの逃げる手段が無くなってしまう。先生はキヴォトス外から来た人だ。あのビナーの攻撃を受けて、無事でいられるわけが無い

 

 

 

「先生!!!!逃げて!!!!!」

 

 

 

 今からでは遅いかもしれない。それでも必死になって、セリカは呼び掛ける。その声が聞こえたのか、セツナはセリカの方へと振り向くと、静かに微笑を浮かべていた。その直後、セツナの背後で巨大な砂柱が立ち昇る。

 

 

『浄化の嵐』

 

 

 ビナーの圧倒的な質量は、砂漠に巨大な砂の津波を引き起こした。ヘルメット団の戦車は流され、黒ずんだ砂地もえぐれた地面も全てを覆い尽くす砂の津波が、勢いを緩めることなくセツナへと襲いかかる。それに対するセツナはシッテムの箱をきつく握り締め、喉が枯れんばかりの声で相棒の名を呼んだ。

 

 

「アロナ!!!!」

 

 

 その瞬間、砂の津波が容赦なく白衣を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはっ!!けほっけほっ……」

 

 

 砂に埋もれた体を起こしながら、私は咳き込む。どうやらアロナのおかげで、あの砂の津波からはどうにか生還できたようだった。口の中に入った砂をぺっぺと吐き出しながら、あの時のビナーの狡猾さに静かに舌打ちした。

 最初の方は質量攻撃を警戒していたが、ビナーが終盤までミサイルやレーザーを中心とした戦術をとっていたせいで完全に思考から抜け落ちていた。ノノミとホシノを纏めて殲滅しようとしたり、状況の変換に応じて戦術を変更する柔軟さは、本当にAIと言っていいのか怪しいとさえ思う

 

 

「とりあえず、皆が無事ならそれでいいか」

 

 

 そう呟いて立ち上がりながら、私は手元のシッテムの箱を見つめる。画面をタップしても電源を入れても、画面はブラックアウトしたまま。どうやら先程の津波から自分を守った反動で、一時的にシステムダウンを起こしたみたいだった。

 シッテムの箱のシステムダウン。それ即ち、自分を守る最後の防壁が無くなったことを示す。それに今の自分の傍には、対策委員会もヘルメット団も居ない。先程のビナーと同じく、一時的に私は無防備な姿を晒すこととなってしまったようだった。

 ビナーがあの後どこにいったのかも分からない。ビナーに見つかる前に、どうにかして生徒たちと合流したいところだが……。そんなことを考えている私だったが、足元に巨大な影が落ちると同時に嫌な声が聞こえてきた。

 

 

『グルルルルルル……』

 

 

 振り返って見上げれば、そこには恐れていた姿があった。傷だらけになった白い装甲。未だに黒煙を吐き続ける巨大な口。そしてこちらをじっと睨む、オレンジに瞬く4つの眼。先程まで猛威を奮っていたビナーが、手を伸ばせば触れられそうなほど近くに居た。

 

 

『傾聴せよ、「王冠の守り人」よ』

 

「……っ!!?」

 

 

 直後、頭に不思議な声が響き渡る。

 

 

『我が名はビナー。主の存在を預言する十柱の一にして、「違いを痛感する静観の理解者」である。未だ己の役割を知らぬそなたに、我はPathを通じ、主の言葉を伝えん』

 

 

 ビナー……。つまり目の前の白蛇は、自身を「違いを痛感する静観の理解者」と名乗った。しかし「理解者」とはどういう意味か、そもそもどうやって直接脳内に語りかけてくるのか。それらを私が理解するのを待たずに、ビナーは粛々と次の言葉を発していく。

 

 

 

 

 

『「知恵を得よ。理解せよ。汝は私が戴冠する王冠、その守り人である」』

 

 

 

 

 

「……王冠……守り人……?」

 

 

 何を言っているのか、さっぱり分からない。だが私の"眼"はその意味を理解しているのか、ぼんやりとした熱を持って私に何かを訴えかけていた。

 

 

「先生!!!」

 

 

 しかしそれを理解するより先に、鋭い声と銃声が私の耳に飛び込んでくる。私の後ろから飛来した弾丸は私の頭上を飛び超えて、こちらを見つめていたビナーの左側の眼を正確に射抜いた。

 

 

「先生!!大丈夫!!?」

 

「……セリカか……ごめん。ありがとう」

 

 

 どうやらビナーを撃ったのはセリカだったらしい。急いで走ってきたのか肩で息をしていて、心做しか目元には新しい涙の跡があったような気がした。

 

 

『グォォォァァァァァァ!!!』

 

 

 突然の攻撃に、ビナーが怒りの声を上げる。よく見ると射抜かれた左眼は火花を散らしていて、恐らくもう使い物にはなっていないようだった。しかしビナーは残った右の眼でセリカを睨みつけると、口を大きく開けてそのまま飲み込もうとセリカに迫る。

 

 

「やらせないよ!!」

 

 

 しかし再びの銃声によってそれも阻止された。いつの間にかこちらに向かってきていたヘルメット団員による狙撃。ダンッダンッと放たれた精密な2連射はしっかりとビナーの右眼に着弾し、左側と同じように火花を散らした。

 

 

『グルルルルルル……ッ!!』

 

 

 両眼を負傷し、攻撃手段の大半を喪失したビナー。このままヘルメット団員にも攻撃するかと思われたが、ビナーは恨みがましい唸り声をあげると、そのまま砂地に潜っていった。

 

 

「……………………」

 

 

 それからいくらたっても、地鳴りも地震の様子もない。どうやら今度こそ、ビナーは撤退していたようだった。しかし私はそのことを口に出すことはせず、ただビナーが去っていった方向を呆然と見つめているだけだった。

 

 

 

 

 

 










 ▽天守セツナ
 危うく死にかけるところだった。
「王冠の守り人」という言葉に心当たりは無い。

 ▽ビナー
 とある理由により、普段はInsaneぐらいのステータスで活動している。しかし今回はセツナとの接触が目的のため、Hardcoreぐらいの力で手加減をしていた。

 ▽小鳥遊ホシノ
 弱体化していても、相変わらず最強。
 ビナー君は1発でも大ダメージと目論んでいたが、実際はホシノ相手にはやや火力不足だった。

 ▽黒見セリカ
 セツナが飲み込まれた時は気が気じゃなかった。
 しかし精密射撃の腕前を遺憾無く発揮し、セツナの窮地を救った。

 ▽リーダー先輩
 セキのためなら三千里。
 対ビナーの経験は片手で数えられる位はある。

 ▽飛葉山ヨミ
 対ビナー経験は3回ほど。
 長距離射撃の自信は無いが、中~近距離の射撃においては凄まじい命中精度を誇る。
(スナイパーとは……?)

 ▽対策委員会
 ビナーとの交戦経験はあまりないが、例の企業や例のゲマトリアを除くと多くの情報を持っている。後に特異現象捜査部もお世話になることとなる。

 ▽ヘルメット団
 情報はないが経験はある集団。普段ならセキと自前の重戦車3台で翻弄しながら攻撃する戦術(通称:ぐるぐる殺法)を用いてビナーを撃退する。戦術の命名はセキがした。



あとがき

長い……長いんだよいつも!!
前回に続いて長いんだよ!!
でもビナー戦はいつか描きたかったので、私は満足しております。

次回のタイトル「それぞれのーー」の「ーー」は、読者の皆様方の好きな言葉を当てはめてみてください。「それぞれの青春」なのか、「それぞれの目的」なのか、もし良ければ皆様のタイトルを感想で教えてくれると嬉しいです。

あとついでにお気に入りと高評価もよろしくお願いし(((殴打


P.S 振動アタッカーの不足した先生になァ、シロクロ の攻略など、出来るわきゃねぇだろぉぉぉっ!!





 次回 第10話「それぞれの──」



「…………じゃあ、私の秘密を1つ教えるよ」




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