Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
セツナ「ノノミのゴールドカードってさ」
ノノミ「は〜い?」
セツナ「とっても便利そうだよね」
ノノミ「はい!」
セツナ「めっちゃ光って灯りには困らなそう」
ノノミ「……………………」
スッ…
ノノミ「なら試してみましょう〜♣️」ピカーーーッ!!!!!
セツナ「ウワァァァァァ目がァァァァァァァァ!!!!」
「う〜〜ん。確かこの辺だった気がするんだけどなぁ……」
月光が地面を照らす中、私、天守セツナはドローンを引連れてアビドス砂漠の奥地を訪れていた。そこは先日ビナーとの激戦が繰り広げられた場所。ところどころ抉れていた地面は既に砂に埋もれていて、このアビドスが以下に過酷な場所であるかを物語っていた。
そんな場所を私が訪れた理由はいくつかあった。1つはビナーの活動範囲の確認のため。あとから聞いた話では、ここは本来はビナーのナワバリの外で、ビナーはナワバリに入らない限り滅多に襲ってくることは無いらしい。実際私が1人で居るというのに、あの白蛇は一向に姿を現さない。どうやらこの情報は正しかったようだ。
「……お、やっと見つけた」
そしてたった今、もう1つの目標も達成された。それは砂の山に突き刺さっている黒い円筒状の何か。しかしその砂を少し退けてみれば、それは突き刺さっているのではなく、何かが埋もれているのだとわかる。掘り起こしてみれば案の定、それはカタカタヘルメット団がビナーとの戦闘で使用していた「Flak41 改」重戦車そのものだった。
覆い被さる砂をかき出しながら、私は徐々に姿を現す戦車をじっと見つめる。ビナーとの戦闘のせいかあちこち傷だらけだが、原型を留めていることもあり判断は容易だった。
「間違いない。ということは、ヘルメット団はこれをどうにかして入手したことになるけど……」
ここに来るまでの下調べで、最低5億はくだらない現役重戦車であることは知っている。それをヘルメット団の子たちのような不良生徒が持っているのには、違和感を感じずにはいられない。奪ったか、あるいは与えられたのか。少なくとも、購入したものでは無いだろう。赴任初日のクルセイダーとは違い、こちらはまだ現役モデルだから不法流入品でもあるまい。
……ピリピリと、ひりつくような感覚に顔を顰める。この1件には、大人特有の嫌な匂いの息がかかっているような気がするのだ。小賢しく、ずる賢い、出し抜くことに長けた大人の手。それが真綿で締めるように、徐々にアビドスの子達を追い詰めている。
「……反吐が出るね」
それは一体誰に向けた言葉だったのか。裏に控えているかもしれない首謀者に向けてか、あるいはそんな大人に同族嫌悪を覚える自分自身に向けてか。
……なんにせよ、今このことを考えてもどうにもならない。情報も背景も、何もかも不足している。何かデータを……それこそ、この
「とりあえず1台だが、これがあと2台か……。骨が折れそうだね」
砂に埋もれた重戦車を全て見つけるのが先か、自分が腰を痛めるのが先か。そんなことをぼんやりと考えながら、私は牽引用のフックを戦車に取り付けるのだった。
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日も少し傾き始めたお昼のこと。セリカ救出作戦から数日たったアビドス高校の校門前では、現在2つのグループが対峙しており、今にも一触即発といった雰囲気が漂っていた。
片方のグループは、背後の学校を守るべく立ちはだかるアビドス高校の廃校対策委員会。ただし今は最近やってきた大人の姿はなく、随伴しているドローンの姿もなかった。
「あんた達!!ラーメン大盛りにしてあげたのにこんなことするなんて!この恩知らず!!!」
そう声を荒らげるのは、療養を経ていつもの調子を取り戻したセリカだった。その表情は怒りに染まっており、
そんな彼女達と相対するのは、日雇いの傭兵たちを多数従え、その先頭に立つ4人の生徒たち。彼女達の名は「便利屋68」。自由と混沌のゲヘナ学園を母校とし、「金を貰えばなんでもする」をモットーに掲げる何でも屋だ。その実力は折り紙つきであり、それはゲヘナの風紀委員からも一目置かれる程だ。
「その件に関してはありがとうね〜」
「でもそれはそれ、これはこれ。公私ははっきり付けないと」
セリカの言葉に反応して、アルの両隣の生徒が口を開く。白髪の少女は小悪魔的な笑みを浮かべながらも、その立ち振る舞いは隙を見せない。もう片方の少女も同じで、その鋭い瞳で対策委員会の動きを警戒しているようだった。そしてアルはと言うと、不敵な笑みを浮かべてはいたが、内心では白目で絶叫しているのだった。
「誰の差し金?……いや、答えるわけないか」
「ふふ……当然、企業秘密よ」
「……なら、無理やり口を割る」
何とか表面上を取り繕っているアルに対し、交渉の余地なしと銃を構えるシロコ。それにならって、他のメンバーも一気に戦闘態勢に入った。それを見た傭兵集団もそれぞれが銃を構えて対策委員会の方への向ける。そうして両者が今にも引き金を引こうとする中、アルはすっと目を細めると、淡々とした様子で攻撃命令を下した。
「総員、攻撃開始!」
「ん!依頼主のこと、話してもらう!」
そうして開戦を告げる銃声が、快晴の空に鳴り響いた。
さて、どうしてこんなことになっているのか。それを説明するには、数時間前のある出来事について話す必要があるだろう。
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「いやぁ〜悪かったってアヤネちゃ〜ん。ラーメン奢るからさ、怒らないで〜」
「怒ってません……」
「はい、お口拭きますよ〜☆」
「私、赤ちゃんじゃないです……」
「ん、アヤネ。チャーシュー食べる?」
「……
「……なんでもいいけどさ、なんでまた
それはセリカ救出作戦から数日たったある日のお昼時のことである。午前中の定例会議を終えた対策委員会は、昼食をとるために柴関ラーメンへと足を運んでいた。
先の定例会議では借金返済の手段についてセツナも交えて話していたのだが、誰一人としてまともな案を出さなかった──詐欺に引っかかっていたセリカは別だが──ことにより、アヤネの怒りのちゃぶ台返しが炸裂したのだ。そのため、主犯である他の3人はアヤネの機嫌をなだめているのだった。
ちなみにセツナはここには居ない。先程の会議にて「アビドスに観光名所を作る」という案を出し、対策委員(主にアヤネ)から賛同を得ていたが、直後に寝不足の頭で「まずはクソデカスフィンクスを建てる」と宣言した為、怒ったアヤネの手刀を受け撃沈。今は自室にて泥のように眠っている。言うまでもなく、残当である。
そんな様子を呆れ半分といった様子で眺めていたセリカだったが、店の扉がガラガラと音を立てて開かれる。どうやら新しいお客さんが来たらしく、彼女は直ぐに対応するべくその場を離れて入口の方へと向かっていった。
「いらっしゃいませ〜…………ん?」
元気よく挨拶したセリカだったが、そこに半開きの扉があるだけでお客の姿はどこにもない。もしやいたずらかと一瞬首を傾げるセリカだったが、誰かが扉からひょっこりと顔を出してこちらを覗いているのに気がついた。
「あの……、ここで1番安いメニューっておいくらですか……?」
そう問いかけるのは、オドオドした様子の紫色の瞳をした少女──
「1番安いのは、580円の柴関ラーメンですね。うちの看板メニューなので、とっても美味しいですよ!」
「あっ、ありがとうございます!!」
セリカがそう言うとハルカは礼を言い、すぐにまた扉の向こう側へと引っ込んで行ってしまう。その様子を眺めていたセリカは困惑しながらも、彼女の容姿に少し違和感を抱いていた。
彼女が顔を出したのは一瞬ではあるが、その額に包帯が巻かれていたような気がしたのだ。キヴォトスでは銃撃戦は日常茶飯事とはいえ、あそこまでの大怪我を追うことは早々にない。最近のアビドスや自分の身に起きたことも相まって、セリカはそういうものに敏感になっているのだった。
だが、今の自分は店員で、相手はお客様だ。人の事情を勝手に詮索して怪しむなんて、店員以前に人として失礼な話でもある。そんなことをセリカが考えていると、目の前の扉より大きく開かれ、ハルカに加えて新たに3人の人物が入ってきた。
「えへへへ〜、やっと見つかったね!600円以下のメニュー!」
「当然よ、何事にも解決策はあるんだから!」
「そもそも、
「うっ……。でもちゃんとあったんだから問題ないわ!!」
そう言い合いながら入ってきたのは、
「4名様ですね!お席の方にご案内します!」
「ん〜ん、どうせ1杯しか頼まないつもりだし、テイクアウトでいいよ〜」
「……?でも、この時間なら空いてる席も多いですし、どうせならお席の方でごゆっくりどうぞ〜」
「おー、親切な店員さんだね!それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおっかな〜」
「かしこまりました!では、お席の方にご案内しますね!」
そう言って4人を席へ案内するセリカ。丁寧に席へと誘導する中、心の内ではこの4人への違和感が徐々に積もっていた。聞き間違いでなければ、4人グループなのにラーメンを1杯だけ頼む予定だったのだろうか。そんなセリカの疑念は、図らずともすぐに解消されることになる。
「あっそうだ!わがままのついでに、箸は4膳でよろしくね、優しいバイトちゃん」
「えっ!?4膳ですか!?まさか、1杯のラーメンを4人で分け合うつもり!?」
「ご、ご、ごごめんなさい!貧乏ですみません!私のせいでお金が無くてすみません!!」
ムツキの注文に思わず声が出てしまった。そんなセリカの言葉に反応して、今度はハルカが猛烈に謝り始める。その額にはやはり包帯が巻かれていて、それ以外にも手先や足の至る所に絆創膏やガーゼが貼られているのが見える。どうやら彼女達が金欠な理由は、謝り倒す少女の傷を治すために使ってしまったんだと容易に推察できた。
「あ、い、いや!別に謝らなくても──」
「いいえ!お金が無いのは首もないのも同じ!生きる資格なんてないんです!皆さんに迷惑をかける私も虫ケラ以下の存在なんです!!」
「ハルカ、声抑えて。周りに迷──」
「違うわ!!お金が無いのは罪じゃない!」
なだめるカヨコの声を遮って、セリカがハルカの言葉を否定する。
「誰だって生きる資格はあるよ!そこにお金があるかないかなんて、関係ないんだから!!」
そう語るセリカの脳裏には、ある人物の顔が浮かんでいた。彼女を誘拐し、輸送中のトラックの中で一緒に泣いた、あの紫の少女の顔が。奇しくもその容姿は目の前の謝る少女と似通っていて、それがより強く、セリカの
誰だって生きる権利がある。例えお金が無くても、居場所がなくても。誰かを傷つけたとしても。それらに生きようとすることを否定する力なんて、どこにもありはしないのだから。
「はっはっはっ!セリカちゃん、良いこと言うじゃないか!!」
セリカの言葉を聞いてか、厨房にいた柴大将も豪快に笑っていた。そして彼もまた、呆気にとられる4人組に向けて、諭すように言葉を発した。
「それにだ、学生さんたち。お金は天下の回りもの。ある時はあるし、ない時はないもんさ。そのない時に小銭をかき集めてまで食べに来てくれたんだから、うちとしては嬉しい限りだよ」
ちょっと待ってな、すぐ用意してやる。
そう言って大将は、料理に取り掛かっていった。その様子を眺めながら、ムツキは困ったように笑っている。いつの間にか貧乏だと思われているが、別に彼女たちは常日頃からこうではないのだ。
今回は前々回の依頼がミスによりタダ働きになって収入がなかった上に、前回の依頼でハルカが負傷。その治療費と今回の依頼に動員する傭兵を揃えるのに、財産の殆どを投入してしまったのだ。
特に今回のは今までの相手とは格が違うと聞いていたこともあり、社長のアルの判断により、持ちうる全てのリソースを今回の依頼に割いている。収入が入ってない状態でそれだけするのだから、金欠になるのは必然と言えよう。
「でも、流石に全財産使うのはやりすぎじゃない?いくらヘルメット団があれだけ手強かったとは言え、流石に5人を相手にこの戦力差は……」
「まぁ、警戒するに越したことはないんじゃないかな〜?またハルカちゃんに怪我をさせるのは御免だしね」
そんなビジネストークを広げている彼女たちの元に、どこからかいい匂いが漂ってきた。
「はい、お待たせしました!柴関ラーメン並盛でーす!!」
その言葉と共に、セリカが商品をテーブルへと置く。だが目の前に現れたそれは、明らかに4人の想像を絶するものだった。
「ひえっ何これ!?超特盛じゃん!? 」
「……ざっと10人前はあるね」
それは並盛と言うにははるかに巨大な……、巨大なラーメンの山だったのだ。皿も一般的なものよりもふた回りも大きく、中の具材や麺もそれにならって大量に入っている。明らかに"並"とは言えないそのサイズに、4人は度肝を抜かれると同時にお腹を鳴らすのだった。
「こ、これはオーダーミスなのでは?」
「ん?合ってますよ?柴関ラーメン並盛ですよね?いつもこれくらいなんですよ。ですよね、大将?」
「おうよ。ただいつも目分量だから
そう言って再び調理を再開する柴大将。セリカも箸を4膳分置いから「どうぞごゆっくり〜」と言って離れてしまったので、彼女たちはこの"並盛"の柴関ラーメンを食べるしか無くなってしまった。
「ラッキー!なら食べちゃお!」
「……ふふふ!これは流石に想定外だったけど、ご厚意に応えて、いただきましょうか!」
4人それぞれが箸をとり、1杯のラーメンをすする。まずは麺から。スープとよく絡むそれを口にした途端、4人の表情が一気に輝いた。
「!!」
「ん〜!!」
「これは……!!」
「……!!」
「「「「おいしい!!!!」」」」
口々にそう漏らす少女たち。その顔からは笑顔が溢れ、心から満たされたような満ち足りた表情が浮かんでいた。
「おいしいです……おいしいですこれ!!」
「なかなかイケるね!こんな場所でやってるのがもったいないくらい」
「でしょう、でしょう!ここのラーメンは本当に美味しんです!!」
4人の少女達がラーメンを絶賛するのを聞いて、隣のテーブルに座っていた対策委員会も思わず会話に参加する。対策委員会とってこの店は常連になるほどの馴染みの店であり、それが外から来た人に喜ばれるというのは大変嬉しいことだった。もちろん厨房にいる柴大将も、見えない位置だが尻尾をブンブンと振って喜んでいる。
「ここのラーメンの美味しさに魅力されて、わざわざ遠くからやってくる人もいるんです!」
「えぇわかるわ……。色んな所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンは中々お目にかかれないわね」
「ん、見たところゲヘナの制服?わざわざ遠いところから来たんだね」
「こういうの、なんて言うんでしたっけ。1杯のまぜそば……でしたっけ?」
「うへ、それを言うなら『1杯のかけそば』だねぇ」
対策委員会と4人の少女達は初対面だが、そんなこと感じさせないような会話が続く。それは1杯のラーメンのおかげが、はたまた皆のコミュニケーション能力の高さのおかげが。どちらが理由かは分からないが、ひとつ言えるのは、この場には『柴関ラーメンを愛する者たち』が集っていたから……と言えるだろう。
それが4人の少女達──便利屋68と、対策委員会を繋ぐ最初の架け橋だったのだ。
それがこんな形で再会となるとは、対策委員会は考えもしなかっただろう。別れの間際には互いに借金や仕事のことを教え、励まし合うほど仲を深めていたというのに。こんな形でそれを裏切られたこともあり、対策委員会は怒りに燃えていた。
だが、敵は自分たちよりも数が多い。さらには便利屋68の実力はかなり高く、カタカタヘルメット団を相手にした時よりも苦戦させられていた。特にショットガンを抱えて突っ込んでくるハルカと、それを後方から援護するアルの狙撃のコンビネーションがかなり脅威的で、ハルカに気を取られてたら、即座に意識の外から重い一撃が飛んでくる。
「さぁ、いっくよ~!ばんばーん!!」
「この機を活かす……!!」
さらには他の2人も侮れない。ムツキの投擲する爆弾を起点に傭兵の攻撃が苛烈さを増す。それに対処しようと動こうにも、カヨコの的確な射撃によって、まるで縫い止められるように動きが鈍くなっていた。それ以外にもハルカが予め仕掛けたいたらしい爆弾もあちこちにあり、全く気の抜けない状況が続いていた。
もしこの場にセツナがいれば、もう少し話は変わっただろう。『シッテムの箱』と彼の"瞳"があれば、設置された爆弾や敵の動線なども手に取るようにわかる。ただ今は自室で寝ているだろうし、連日自分たちのために夜中まで何かをしてくれてるみたいだから、叩き起すのもなんだか忍びない。こうしてジリジリと追い詰められた対策委員会は、ついに校門の前まで後退させられてしまった。
「ほらほら!そろそろ学校を明け渡しちゃいなよ!!」
ドゴォォン!!
獲物を追い立てるように、ムツキの投げた爆弾が爆発する。幸い校庭は遮蔽物に困らないので、爆発のダメージはほとんど無い。だがこの状況は流石に焦りが出てきてしまう。ヘルメット団の時とは違い、そのどれもが厄介な人物。言うなれば、門守セキが2人同時に襲ってくるのに近い。
だが、そんな状況を終わりにするように。戦場に聞き覚えのある飛翔音が聞こえてきた。
ダダダダダダダッ!!!
「うわっ!!?」
前線に出ていた傭兵の足元を、何発もの銃弾が撃ち抜いた。それと同時に彼女達の正面の道路がいきなり爆発し、それに巻き込まれた傭兵がまとめて吹き飛ばされる。予想だにしない位置からのいきなりの強襲に、傭兵たちの間に混乱が伝播していった。
「爆撃だ!!」
「どっから撃たれたんだ!?」
一旦遮蔽物に身を隠し、攻撃者の位置を探る傭兵たち。攻め込まれていた対策委員会もこれを機に体勢を立て直すべく、同じように遮蔽物に隠れて武器のリロードなどを済ませる。そうして戦場が再び膠着状態になると、それを見計らったように睨み合う両者の間に6機のドローンが現れた。
「新手?いや、あのドローンは……!!」
まず最初に気がついたのは、便利屋68のブレイン担当のカヨコだった。そして遅れながら、対策委員会もそのドローンの正体に気づく。出現したドローンはどれも白で統一された見た目をしていて、その側面には円環と十字を組み合わせたようなエンブレム──すなわち、シャーレのエンブレムが刻まれていた。
「シャーレのドローン!!」
「うへ、寝坊助さんが来たみたいだね」
ホシノがそう言った直後、彼女達の背後からゆっくりとした足音が聞こえてきた。ザリ……ザリ……と1歩1歩確実に踏みしめるようなその足音は、今の彼女たちにとってとても頼もしいものに思えた。
それに、あの大人の指揮能力の高さはもう十分に体験した。今の私たちの実力に先生の指揮能力があれば、目の前の集団を撃退することだってできるはずだ。そう思って笑顔で足音のする方へと向いた彼女達だったが、次の瞬間にはその笑顔が凍りつくこととなる。
「せんせ…………い…………?」
そこに立っていたのは、アビドスに来てからずっと自分たちを支えてくれている天守セツナだった。だが醸し出すオーラは普段の明るいものではなく、もっとどす黒く、淀んだものが滲み出ていてる。今までのセツナとは全く違うそれは、彼が珍しく怒り心頭であることを分かりやすく伝えていた。
「ごめんみんな、遅れちゃった」
「いや、別に問題ないんだけど……」
「その……先生?もしかして怒ってらっしゃいます?」
「……?いや?怒ってないよ?」
おずおずと尋ねられたその質問に、あっけらかんとした様子で答えるセツナ。だが雰囲気や声音には全く説得力がなく、それがかえって不気味にすら感じる程だった。そんな対策委員会の心情に気づいていないのか、セツナはゆっくりと歩みを進めると、便利屋68と傭兵集団の前に立ち塞がった。
突如現れた大人に、傭兵集団はいっそう警戒心を引き上げる。だが彼女たちとは対照的に、便利屋68のメンバー達はそれぞれ違った表情を浮かべていた。
ハルカは目を見開き、カヨコは額に手を当ててため息をつく。ムツキは一瞬驚いたような表情を浮かべていたが、すぐにいつもの小悪魔的な笑みを浮かべて、リーダーである幼なじみの方へと視線を向けた。そしてその幼なじみこと陸八魔アルは大人の登場に心底驚いたようで、白目で今にも叫び出しそうな表情だった。その様子は大変よく目立ったのだろう。立ち塞がった大人はすぐにアルを見つけると、まるで旧友に会ったかのように片手を上げて口を開いた。
「やぁ……
「ひ、久しぶりね!先生!!」
「「「「「「久しぶり!!??」」」」」」
当然のように明かされる衝撃の事実に、対策委員会が驚きの声を上げる。あまりにも平然とした様子で言うのだから、一瞬自分たちの耳を疑う。いや、本当にどういうことなのか。まさかセツナはまだ夢の中から覚めていないんじゃないかと、対策委員会も若干の困惑していた。
「先生、あいつらと知り合い?」
「てかどういうこと!?いつの間にあいつらと知り合いになってたの?」
そばまで来たシロコとセリカが確認するように問いかけるが、セツナははっきりと首を縦に振ってそれを肯定する。
「まぁね。まだシャーレが始動して間もない時に、あの子たちが執務室の扉を爆破してなだれ込んできたことがあってね。その時に色々あって、彼女たちの経営顧問になったんだ」
「えぇ……なにそれ」
そう、セツナは彼女達と初対面では無いのだ。
あれは忘れもしない。あの時はシャーレが発起した直後で、今後の方針や運用目的等、シャーレの活動に関する資料を山ほど処理していた時のことだった。
書類の山との格闘を終え、少し眠ろうと席を立ったセツナ。だがその直後、廊下へと繋がる執務室の扉が爆発と共に急に吹っ飛び、煙の中から便利屋68の面々が現れたのだった。突然の状況と限界を超えた睡魔で脳がフリーズする中、咳払いと共にアルが名刺を差し出し、堂々と名乗りを上げる。
『改めて。初めまして、先生。私たちは「便利屋68」。依頼と金があれば何でもする、何でも屋よ!!』
ドヤ顔で自己紹介をするアルだったが、背後の仲間たちの顔色は優れない。何故なら色々と限界を迎えていたセツナの忍耐が、ここに来てとうとう決壊したからであった。
せっかく気持ちよく寝ようとして……じゃなかった。せっかくこれからシャーレの活動を頑張ろうと決めたところなのに、早々に扉をぶっ壊されるのは心にくる。そのことだけ注意するべくアル達をソファーへと座らせ、少しばかり"お話"をしてから、彼女たちとは和解するのだった。
要するに、今の状況は初邂逅の時の焼き直しであり、場所と立場が変われど、セツナの怒りの導火線に火をつけるのには十分な状況だということだ。
「陸八魔ぁ……。あの時、2度目は怒るよって言ったの覚えてるよねぇ?」
「せ、先生!これには訳があるよ!」
前回の"お話"を覚えているのか、アルは必死に状況を説明する。その様子からセツナもある程度の事情は察したようで、寝不足そうな目をより細めながら、周囲に立つ傭兵たちをゆっくりと見渡した。そして小さなため息とともに、「なるほどね」と言葉を漏らす。
「傭兵の子達……、ってことは仕事なのかな?」
「そうなのよ!まさか先生が居るとは思わなくて」
「……まぁいいんだけどね。それが君たちのやりたいことなら、便利屋68の
どうやら意図は伝わったようだと安心するアル。それとは逆に、対策委員会はセツナの相手を擁護するような言葉に少しだけムッとするのだった。だがその直後にセツナが「でもね」と口を開いたことによって、状況は再び変わっていく。
「それはそれで、これはこれ。今の私は、
セツナがそう言うと同時に、周囲にいたドローンのうち2機がセツナの下へと集結する。更に他のドローンは対策委員会の側へと移動し、いつもの弾薬補給の支援体制に入った。それを見た対策委員会は、さっきのセツナの言葉とドローンの動きから彼が味方でいてくれることを察して、すぐにセツナの前に出てそれぞれの愛銃を構える。
対する便利屋と傭兵集団もすぐに迎え撃とうとするが、アルだけはまだ衝撃から立ち直れていないらしく、口をパクパクさせて固まっているようだった。やがて少しフリーズから立ち直ったのか、再度確認するようにセツナへと声をかけた。
「せ、先生……?やっぱり怒ってる?」
「ん?怒ってないよ?」
「やっぱり寝てる時に起こされたの怒ってるわよね!?」
「別に気にはしてないよ。気にしてない。せっかくアビドスの子たちのご好意に甘えて熟睡しようと思ってた矢先に爆音と銃声で叩き起されたことなんて気にしてないから」
「やっぱり気にしてるじゃない!!?」
「あぁ、ダメ?隠せてない?ならもういっか!殺してやるぞ……陸八魔アル……っ!!」
「な、なな、なんですってぇぇぇぇぇ!?!?」
そんなコントのようなやり取りとアルの絶叫を皮切りに、2回戦目の火蓋は切って落とされたのだった。
▽天守セツナ
怒ると苗字呼びになるタイプ
睡眠時間は命に等しい
▽陸八魔アル
愛されし我らが社長。
とある理由で原作よりも少し強い。
▽黒見セリカ
生きる資格はお金で買えない。
ヨミの言葉がかなり影響している。
▽対策委員会
定例会議はいつものノリで。
セツナへの信頼が根付いてきている。
果たしてそれは、良いことなのか……
▽便利屋68
原作よりも強い悪魔的な集団。
その理由は、どこぞの風紀委員長ちゃんだけではない。ゲヘナのアウトロー達は、"とある生徒"の影響で軒並み強化されている。
あとがき
ちょっと難産のため、遅くなりました┏○ペコッ
なんだかんだ毎度長めな上に読みにくい文章で、読んでくれてる方には申し訳なく思います……。今回の話を公開した後は、Vol.-1「聴衆無きエチュード」の方も更新予定です。よろしければ、そちらも是非どうぞ〜。
P.S
ねぇぇぇぇ!!!!
バンドナツの4話がヤバすぎるって情報が来たのに、なんで俺はバンドナツをお迎えできてないのさぁぁぁ!!!!!見たい見たい!!すました顔で心臓バクバクさせてる先生ガチ恋ナツが見たいよ見たい見たい見た見たい(駄々っ子)
次回 第12話「犯人探し」
「貴方でしたか……天守