Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 これらの七つのものは、あまねく全地を行き来する主の目である

 ー ゼカリヤ書 第4章 10節より ー





 


第12話 「犯人探し」

 

 

 

 

 

 

 爆発、そして轟音。さらには鳴り止まないたくさんの銃声。アビドスでは珍しい大規模戦闘の様子を、私はじっと見つめていた。

 片方はアビドスの子たちと大人で、人数が圧倒的に不利なのに、相手と互角に渡り合っている。それに対してもう片方の便利屋の子たちと傭兵の集まりは、大人の介入で強くなったアビドスの子たちに手を焼いてるみたいだった。

 

 そんな戦いの様子を、私は離れた位置からただただ見守っている。

 

 

 介入しない、助けない、敵対しない

 

 だって、私にはその資格がないから。

 

 見つめる、そして知る、理解する。

 

 私の戦うべき相手がどんなやつかを。

 

 

 そうして観察していると、敵陣へと突っ込む1人の少女が見える。狼耳と銀髪をなびかせながら敵へと突貫する彼女は、驚くべき強さでどんどん敵を撃ち減らしていった。その姿を見て、私は嫌というほど現実を思い知らされる。

 

 

 ……あぁ、やっぱり。あの子と私は違うんだ。

 私の気持ちをわかってもらえると思ったのは、私の思い上がりだったんだ。

 

 あの子の背後には、守りたいモノがある。それは自分の居場所である学校や、一緒に笑い合える仲間達。それらを背負って戦うシロコちゃんは、今まで見てきた中で1番強そうだった。

 

 ……じゃあ、私は?私の背後には何があるんだろう。

 

 

 守りたい仲間?

 

 違う、私は守れなかった。

 

 守りたい居場所?

 

 違う、守れなかった私にそこにいる資格は無い。

 

 守りたい信念?

 

 違う。そんなの、もう捨てた。

 

 

 大切な人を守れない信念なんて、私は要らない。

 

 …………誰も守れない私なんて…………。

 

 

 ……だったら、今の私は一体なんのために生きてるんだろ。なんで、この戦いを眺めているんだろ。

 

 

 ……なんで、誰も守らずに生きているんだろ。

 

 

 結局、どれだけ自問自答を繰り返しても、その答えは見つからず、私はただただ戦闘を見つめているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノノミ、あそこの瓦礫に射撃」

 

「はい! 行きま〜す☆」

 

「セリカ、便利屋の爆弾娘(ムツキ)をマーク。何か爆発物を取り出したら、即座に手元を撃って」

 

「わかったわ!」

 

「ホシノはその場所で待機。隙は作るから、ホシノの判断で突撃して」

 

「ほいほ〜い!」

 

 

 飛ばす、飛ばす、また飛ばす。手元のシッテムの箱を睨みながら、セツナは対策委員会へと指示を飛ばす。その速さはまさに矢継ぎ早といった様子で、声を張り上げるセツナの額にも汗が滲んでいた。

 相手はゲヘナの中でも上澄みクラスの便利屋68に多数の傭兵達。カタカタヘルメット団と比べて数は少ないが、その分個々の実力が高い。まだ便利屋の戦い方をおおよそ把握できているのが、不幸中の幸いだった。

 

 

「ひぃ!今度はこっちを撃ってきたぞ!」

 

「誰か!援護を頂戴!!」

 

「無理だって、動こうとしたら爆撃される!」

 

 

 対する便利屋と傭兵側は、大人の術中にハマりつつあった。傭兵はドローンによる射撃と爆撃に足止めされ、そこにノノミやシロコの射撃が加えられる。各々が遮蔽の影に隠れるのに手一杯で、攻撃する余裕はほとんどなかった。

 一方便利屋の方は、各々ができることをやっていた。爆弾を封じられたムツキは、空中のドローンを叩き落とすべく対空射撃。カヨコとアルで対策委員会の足を止め、ハルカは単騎でホシノを抑える。ゲヘナの魔境で培われた力を遺憾無く発揮し、戦局をどうにか五分五分へと持ち込んでいた。

 

 

「そろそろ良いかな。アヤネ!」

 

「はい!行きます!!」

 

 

 だが、ここでセツナが動き出す。補給ドローンを全て引き上げさせ、大きな箱を固定具に接続する。それを4機分とアヤネのドローンと合わせて5機分用意すれば、それを空に放って再び指示を飛ばす。

 

 

「ノノミ!セリカ!5秒後に指示したエリアに制圧射撃!」

 

「了解!」「了解です!」

 

「シロコ、ドローンを展開して突撃準備!」

 

「ん、わかった」

 

「ホシノ、3秒後にフラッシュバン!」

 

「おっけ〜!」

 

 

 まくし立てるように指示を飛ばす傍らで、ドローンの位置を微調整するセツナ。だがそれを便利屋が見逃すわけがなく、即座に対空射撃が始まった。

 

 

『よっ、ほっ、そりゃー!!』

 

 

 しかし、『教室』でコントローラーを携えたアロナの操縦により、1発も攻撃がかすることは無い。そのまま調節を終えたセツナは、同じく微調整を終えたアヤネのドローンを横目で確認した。

 

 

「アヤネ、タイミング今!」

 

「了解です!投下します!!」

 

 

 5機ドローンから、次々と木箱が切り離された。そのままドローンはその場から離れていったが、フリーフォールを続ける木箱に向けて便利屋や傭兵集団からの射撃が降り注ぐ。そして集中砲火を受けた木箱はバラバラに壊れ、中からスプレー缶ような何かが降り注いできた。

 グレネードかと身構える便利屋たちだったが、その予想に反してそれらは地面に落ちても爆発しない。だがその代わりに落ちたスプレー缶は次々と白煙を吐き始めて、一瞬にして辺りが煙で満たされた。

 

 

「しまった!スモークグレネードか!」

 

「何にも見えないじゃん!?」

 

「慌てないで!スモークが炊かれてるなら、相手からもこちらは見え────うぎゃっ!!?」

 

 

 突然の変化に戸惑う傭兵たち。さらには落ち着かせようとしていた傭兵の言葉を否定するように、正確無比な1発の弾丸がその意識を刈り取った。それに続けて周囲を薙ぎ払うように、ミニガンの弾幕が襲いかかる。

 それらは煙幕の外で滞空する偵察ドローンのカメラを通じて、シッテムの箱より支援を受けた状態の攻撃。ドローンによる赤外線カメラと、シッテムの箱による戦術支援の組み合わせにより、彼女たちは煙幕外から一方的に撃つことが出来ていた。さらにその恩恵は遠距離からの射撃だけで留まらない。

 

 

「ん!どいて!!」

 

「ぐっ!!」

 

「はいは〜い、おじさんが通るよ〜」

 

「うがっ!!?」

 

 

 攻撃ドローンを引き連れて突撃するシロコと、フラッシュバンでハルカを出し抜き、盾による打突とショットガンを巧みに使いこなすホシノ。彼女たちも煙幕の中で視界が悪い中、的確に傭兵たちをダウンさせていく。その理由にはやはり、ドローンとシッテムの箱による戦術支援の恩恵があったのだった。

 しかし、敵もやられっぱなしではない。傭兵たちの悲鳴が止まらないのを聞いたのか、アルはややテンパりながらもリーダーらしく的確に指示を出していく。

 

 

「ムツキ!ハルカ!」

 

「おっけ〜!いっくよー!!」

 

「分かりました!全て消しちゃいます!!」

 

 

 そう言って彼女たちが手元のスイッチを押すと同時に、周囲で複数の爆発が起こった。それは戦闘中に彼女たちがこっそりしかけていた爆弾。本来であればこのエリアまで対策委員会を誘導して起爆するつもりだったが、結局日の目を見ずにこうして使われることとなった。

 だがその威力は絶大で、爆弾複数個の起爆で発生した爆風は、発煙装置ごと漂っている白煙を全て吹き飛ばした。そして視界の晴れたすぐ目の前に2人が居るのを確認すると、アルとムツキが即座に発砲。アルの早撃ちはシロコの頬を掠めるに留まり、ムツキの一斉射撃は射線に割り込んできたホシノの盾に弾かれる。

 そこから追撃としてカヨコが死角から2人を狙うが、シッテムの箱からの警告で気づいたシロコがドローンのロケット弾を発射し、カヨコに回避を強制させる。さらにはセツナの護衛についていた防御型ドローンが回り込み、シロコの背後を固めた。

 

 

「ん……こいつら、やっぱり強い」

 

「うへ、こりゃまた骨が折れそうだねぇ」

 

 

 ここに来て、両者が再び膠着状態に陥る。こういう時にハルカの爆発力があれば助かるのだが、彼女はまだ本調子ではない上に、今はセリカとノノミによって足止めされている。アル・ムツキ・カヨコの3人で、ホシノとシロコ、それにセツナのドローンを対処しなければならない。対するシロコ達も、3人を相手にするにはやや手数が足りない。互いに攻撃を渋っている中、この状況を変えるように学校のチャイムの音が辺りに響き渡った。

 

 

 キ〜ン コ〜ン カ〜ン コ〜ン

 

 

「……お、定時だ」

 

「んじゃ、撤収しましょうかね」

 

「ちょっ!!嘘でしょ!!?」

 

 

 それに合わせるように、セリカ達に制圧されていた傭兵集団がゆっくりと起き上がり、ぞろぞろと戦線を離れていった。どうやらアルたちはなるべく数をそろえるために、できるだけ給料を値切って雇っていたらしい。事前に契約時間のことは知っていたが、まさかここまで戦闘が長引くとは思ってもいなかった。

 そうして傭兵集団が去った後には、呆然とする便利屋たちと、困惑する対策委員会とセツナだけが残された。

 

 

「そ、そんな……」

 

「あはは!どうするアルちゃん?」

 

「弾薬・爆弾ともに欠乏。ハルカも本調子じゃない上に、傭兵たちは撤退。トドメにアビドスには先生がいる。正直、かなり詰んでると思うよ」

 

「……し、仕方ないわね!みんな、ここは撤退するわよ!」

 

「は、はい!分かりました!」

 

 

 傭兵の撤退により戦力が大幅に減ったことで、アルたちは撤退することにしたようだ。かなり苦渋の決断をしたようだったが、カヨコの進言した内容はほぼほぼ事実。そんな状態では勝てる未来は無いだろう。

 

 

「お、覚えておきなさいよ〜!!!」

 

 

 最終的にいかにもなセリフを残しながら、アルたちは沈みゆく夕日に向けて走っていくのだった。

 

 

「……状況終了だね。みんな、お疲れ様」

 

 

 彼女たちの背中が見えなくなってから、セツナが労いの言葉をかける。それを聞いて、張り詰めていた対策委員会の緊張感も一気に緩んでいくのだった。

 

 

「ん、ありがとう先生。助けてくれて」

 

「一時はどうなる事かと思いました……」

 

「うへ、あの子たちのことはまた今度調べとかなきゃね」

 

「それなら、先生が1番知ってるんじゃないの?あいつらと知り合いなんでしょ?」

 

「まぁね、それはまた明日にでも話すよ。とりあえず、今日のところは解散しようか」

 

「そうですね。時間も時間ですし、今日のところはお開きにしましょうか〜」

 

 

 話の流れから、今日はそのまま下校する流れになった。唐突な便利屋と傭兵集団の襲撃や、セツナと彼女たちの関係など。色々話したことはあるが、今からでは少し時間が足りない。それに対策委員会のみんなも戦闘で疲れているので、誰も不満を言うものはいなかった。

 

 

「アヤネ。ちょっといいかい?」

 

 

 しかし、 みんなが校舎へと戻ろうとする中、セツナはアヤネを呼び止めた。

 

 

「はい?なんですか?」

 

「ちょっとこっちに来て欲しい」

 

 

 そう言ってセツナは、アヤネを校舎裏へと誘導していく。対策委員会のみんなもあまり使わないその場所になんの用があるのか……。荒ぶる心臓を抑えながら、アヤネはおとなしく彼の後について行く。

 やがて普段あまり人の寄り付かない日影で、セツナは足を止める。そしてそこに置いてあったものを見て、アヤネは目を丸くした。

 

 

「これは……!!『Flak 41改』!!?」

 

 

 そこに置いてあったのは、つい最近見た記憶がある黒い重戦車。ビナーとの交戦時に援護に来てくれたカタカタヘルメット団が使用していた、『Flak 41改』そのものだった。しかもそれが3台分、ほぼ無傷の状態であるのだから驚くなというのが無理な話だ。

 

 

「そ。カタカタヘルメット団が使っていたやつを3台分回収したから、時間がある時に調べてみてほしい。アヤネはこういうの得意でしょ?」

 

 

 これを調べれば、カタカタヘルメット団の背後にいる黒幕の存在も分かるかもしれない。アヤネはセツナの意図を正確に汲み取ると、力強く頷いてそれを肯定する。それを見たセツナは「じゃ、お願いね」とだけ言うと、神妙な面持ちでその場を後にしようとする。

 

 

「先生はどちらにいかれるのですか?」

 

「……ちょっとお出かけしてくるよ。明日の朝の会議には間に合うようにするから」

 

 

 アヤネの問いかけにそう答えると、セツナはそそくさと足を早める。そのまま向かったのは、先程まで便利屋たちとの戦闘が行われていた校門前の道路。爆発や銃撃によって穴ぼこだらけになったそれは、さっきの戦闘がいかに激しかったかを物語っていた。

 

 

「さて、これはどういうことかな……?」

 

 

 そう呟きながら、セツナは嫌な気配が漂う空を睨みつける。

 

 

「カタカタヘルメット団でもなく、傭兵集団に便利屋の子たち。あの子達が来たなら、裏側に黒幕が居るのは確定なんだろうけど……」

 

 

 あの子たちは、依頼がない限りは動かない。ましてや学校の襲撃など、アルたちが自発的に行うとは考えにくい。だとしたら依頼以外ありえないわけだが、これがカタカタヘルメット団から続く因縁なのか、それともまた別の思惑なのか。残念ながら、現時点ではそこまではっきりとはしていなかった。

 だがどちらにせよ、相手はろくな大人ではないだろう。自分の手を汚さず、下手人に全ての面倒事を背負わせるその手段は、いかにも"大人らしい"戦い方だ。しかし、そんな大人が一体なぜアビドスを狙うのだろうか。この砂嵐と荒廃が支配するアビドスで、一体何が起きているのだろうか……。

 

 

「……問題は、思ったより根深いのかもしれないな」

 

 

 そう独りごつセツナの視線の先で、誰か(・・)が白い翼をはためかせ、夕焼けの空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「クックックッ!!……そうですか!これはこれはこれは……」

 

 

 誰もいない部屋の中に、私の声だけが木霊する。自分でもらしくないと感じるほどの笑い声、だがそれも仕方が無いというもの。その原因は先程まで便利屋とアビドスの生徒たちが戦っている様子を映していたタブレット。その画面には今、1人の大人が映し出されていた。

 黒の頭髪に白衣を纏い、周囲に鋭い視線を撒き散らすその大人は、片手に白い『箱』を抱え、生徒たちの戦いの跡を静かに観察しているようだった。

 

 

「貴方でしたか……天守刹那(セツナ)さん。確かに、『箱』を扱えるあなたなら、可能かもしれませんね」

 

 

 その検証は、先の戦いで『白鯨』が『狼の神』に敗北したところから始まった。本来の彼女であれば、狼の神と対峙しても歯牙にもかけない実力差があったはず。それは彼女の『喪われし神々』の力もそうだが、やはり彼女の本質たる『神聖』が、前例がないほど奇妙なものだったからだ。

 あの少女は生まれながらにして複数の神聖の一部を取り込んでいた。これまでに類を見ない、言うなれば習合神聖ともいえるモノ。しかもその神聖の中に、私の欲しいモノがあるのだ。特例だらけのその存在に、私はとても興味をそそられた。

 故に、彼女を調査した。彼女の出自を調べ、周囲の人間を調べ、彼女に直接接触し、その神秘を確かめたりもした、その結果として、本気を出した白鯨には、取り込んだ神聖の大元だけが対抗可能だと考えていたのだが、その仮説は画面に映っている存在の介入によって棄却されることとなった。

 

 

「なるほど、彼がアビドスに加担したのであれば、本気の白鯨が狼の神に敗れたのも納得がいく。あの『箱』の奇跡を使えば、最高峰の神秘さえも覆すことができると……」

 

 

 そう呟きながら、私は画面の向こうの大人の様子を注視する。

 

 白鯨の特異性もそうだが、この大人も特異な存在だ。キヴォトスに突如現れた、外から来た大人。しかも何故か、あの奇跡のオーパーツ『シッテムの箱』を自在に操っている。本来であればただ1人にしか扱えないはずのそれを……。幸いにも、その疑問はすぐに解決した。これに関しては、私だけではなく仲間の知恵も借りることとなったが、それもまた探求というものだろう。

 やがて大人はこちらに気づいたのか、画面越しにこちらと視線を合わせると、その表情を険しいものへと変える。

 

 

「クッククク……。ええ、見えている(・・・・・)のですね?"ソレ"の瞳は全てを見透かす。思惑も、感情も、悪意も。その全てを見通し、記録する」

 

 

 画面越しだというのに、ピリピリとしたプレッシャーを肌に感じた。まるで背後から自分を覗かれているような、妙な威圧感を感じる。だがそんな視線を感じながらも、私は彼の存在に対して疑問が尽きないのだった。

 

 

「何故あなたが"ソレ"を有しているのかは分かりません。ですが、その神聖であれば、あのオーパーツを扱えるのも納得がいきます」

 

 

 "ソレ"は忘れられし神々が持つ物。本来の奇跡の担い手であれば、持つはずの無い物。だが、画面の向こうのあの男には、それがある。調べた限りではただの大人だ、それもこちら側(・・・・)に近い大人。それが奇跡の箱を使いこなし、かの『白鯨』を打ち負かしたというのだから、これほど興味深いものは無い。

 

 

「────喪われし神、奇跡の方舟(ヴンダー)よ。いえ、今は門守セキさんでしたか」

 

 

 誰に呼びかける訳もなく、ただその名前を口にする。

 

 

「『奇跡』の名を関する貴方が、奇跡の箱を持つ彼と敵対したというのは、何か皮肉めいたものを感じますね」

 

 

 それは、必然のことだったのか。あるいは、あの大人に対する試練なのか。聖人は卓越した力で奇跡を起こしてこそ、初めて聖人足り得るという。ということは、彼の力で彼女を屈服させてこそ、初めて"先生"となれるのかもしれない。

 ならば、私はそれを見てみたい。何者でもない大人が子供を踏み台にし、天路歴程を経て聖人になるその瞬間を。そして喪われし神々の、門守セキの本質が垣間見えるその瞬間を。この世界の異物たる2人が、果たしてどのような結末を迎えるのか……。浮ついたような笑みを隠せぬまま、私はまたポツリと独り言をこぼした。

 

 

 

「天守刹那さん。あなたの持つ"代行者"の力で、喪われし神々の力にどれほど対抗できるのか。……クックック。これもまた、興味深い研究テーマでしょう」

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 夜の帳が完全に下りた頃。アビドス襲撃を終えた便利屋68の事務所では、アルの深いため息が聞こえていた。襲撃から帰ってきたあたりから、彼女はずっとこの調子だ。ここまでヘコんでいる彼女を見るのも、中々珍しいかもしれない。

 

 

「アルちゃん、完全に参っちゃってるね」

 

「まぁ、気持ちは分からなくもないけどね」

 

 

 自らの武器を手入れしながら、ムツキとカヨコが口々にそう零し、ハルカもそれに頷いて同意する。彼女たちもまた、アルほどでは無いが気が沈む思いだった。運命の戯れに近いとはいえ、これでは信頼していた人に裏切られたも同然だ。もちろんあの大人の言い分もわかるが、それと気持ちの折り合いをつけれるかは別問題である。

 しかし、彼女たちにヘコんでいる余裕は無い。何故なら彼女たちの財布の中には今、雀の涙程の資金しか残されていないのだから。

 

 

「それよりもどうする?今日の晩御飯の分のお金ないよ?」

 

「わ、私がどこかで割引商品でも探してきましょうか?」

 

「多分、それでも惣菜1品かおにぎり1つしか買えないだろうね」

 

 

 そう言ってため息をつくカヨコだったが、その心の内には以外にも「今回は仕方ない」という感情があった。今回のこの金欠の原因はアルの浪費癖よりも、アビドスが強すぎたのが理由だからだ。依頼主(クライアント)からの資金に加え、便利屋の全財産のほとんどを出して雇った傭兵を合わせてやっと優勢を取れていた。ほぼ1対4の戦力差でやっとである。

 この時点でカヨコは内心引いていたが、そのうえでセツナという鬼札(ジョーカー)が居たのだ。結果論にはなるが、今回ばかりはアルの判断が正しかったとしか言えない。しかもその上で叩き潰されたのだから、もう絶句するしかない。

 さっきの戦闘の異様さを思い出しながら、カヨコは手入れの終わった愛銃(デモンズロア)を机に置く。それとほぼ同時に、そばに置いていたスマホから「ピロン♪」とモモトークの通知音が。手にとって見れば、そこには件の大人の名前があった。

 

 

「ん……社長。先生から連絡きてない?」

 

「……あら、本当ね」

 

 

 カヨコに促される形でアルもスマホを見れば、そこには数十分ほど前にセツナからメッセージが送られてきていた。どうやら気が滅入りすぎて、通知音に気が付かなかったようだ。

 早速メッセージを見てみると、中にはどこかの座標と一緒に一言だけ。

 

 

『頼みがある。ここに来て』

 

 

 ……と記されていた。

 

 

「なんでしょうか……。も、もしかして!私たちを捕まえるための罠なんじゃ!?」

 

「う──ん、それは無いんじゃないかな?」

 

 

 突然送られてきたそのメールに、ハルカは警戒心を露わにする。特に相手は、先程自分たちと戦っていた人だ。ただ、それと同時に自分たちを認めてくれる大人でもある。信用していいのか、疑うべきなのか。相反する2つの思考が、アルの眉間のシワを深くする。

 

 

「……行ってみる?」

 

「いいんじゃない?先生が私たちを嵌めるとは思えないし」

 

「アル様が、行くとおっしゃるのであれば……」

 

 

 カヨコが、ムツキが、ハルカが。それぞれが自分たちの意見を口にする。その言葉の裏には、やはりあの大人を信用してみようという思いが読み取れた。やはり一度裏切られたとしても、彼女たちにとってセツナは先生なのだ。そしてその思いは、アルもまた同じだった。

 

 

「そうね。先生直々の頼みだと言うのなら、行く以外の選択肢はないわ!」

 

 

 彼女たちに背中押されて決心がついたのか、椅子から立ち上がって扉へと歩き始める。その様子は普段の調子を取り戻しつつあるようで、顔にはいつもの笑みが浮かんでいた。そんなアルの様子を見て、他の3人もはにかんだ表情を浮かべながら後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 










 ▽門守セキ
奇跡(ヴンダー)』の名を持つ方舟
 自分を見失いつつある子供

 ▽天守刹那
 シッテムの箱を操る先導者
 連邦生徒会長に選ばれた大人

 ▽黒服
 監視者、あるいは研究者
 "ソレ"を知る数少ない大人

 ▽対策委員会
 久しぶりのピリついた防衛戦だった。
 元々1対12を経験していたので、戦力差なんてなんのその。

 ▽便利屋68
 呼び出された場所はすき焼き屋だった。
 セツナとの情報交換の末、自分たちが厄介な存在に目をつけられていることを知る。



あとがき

今作は比較的短めになります(当社比)
今回ちゃんと書いてみて、自分の文法もそうですが、黒服君のエミュが下手くそだと言うのがよくわかりましたヮ……。
ただ、ようやく本作の暗黒面(笑)を見せることができたので、ブルーアーカイブらしくなってきたのではないでしょうか?

P.S 先日公開された機動戦士Gundam GQuuuuuuXで出た例の兵器。クジラの鳴き声がしてましたねぇ……。あの音、ヴンダーやNHG級の咆哮が好きな私にはぶっ刺さりました。


セツナ「ということでセキ。ゼクノヴァ砲、やれるか?」
セキ「無理ですよあんなの!」





 次回 第13話「無法地帯へ」


「ブラックマーケットはルール無用だろ」




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