Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
「祈るときにも、あなたがたは偽善者のようであってはならない。偽善者たちは、人に見てもらおうと、会堂や大通りの角に立って祈りたがる」
ーマタイによる福音書 6章5節よりー
小さい頃、私には夢があった。それは今でも続く、私の1番大切な夢。いつか自分が思い描くような、立派なアウトローになってみせる。そう心に決めた夢は私に色んなものを与えてくれた。
例えば、ムツキやカヨコやハルカ。私の夢を支えてくれる、頼もしい仲間たち。時に笑って、時に泣いて。本当にたくさんの苦楽を共にしてきた、家族のような人達。きっと私がこの道を進まなければ、出会うこともなかったんじゃないかしら。
でも、夢は良いものばかりは与えてくれない。苦労だって運んでくるし、失敗が付きまとうこともある。そして何よりも、苦しい現実を突きつけられることだって…………。
「アル様……。これではこちらからの融資は厳しいかと……。いっその事、別の職業に就くという方法も……」
現に今だって、どうしようもない実情を突きつけられてしまった。便利屋の財政難を解決するために訪れたブラックマーケットの闇銀行。ここなら融資を受けれると思っていたけれど、その予想に反して銀行員の人は中々首を縦に振ってはくれない。それどころか私たちの
目の前のヤツらをどうやって出し抜こうかと、頭の中で黙々と考える。でもいくら考えたとしても、結局行き着くのは「無理」という結論だけ。暴れたところでマーケットガードがやって来るし、仮に倒せたとしてもブラックマーケット全体が敵になる。結局の所、私にそれを受け入れるだけの「覚悟」は無いってことだけがわかった。
(……ちがう。私の望むものはこんなのじゃない!)
私の心の叫びに合わせるように、周囲の照明が一気に落ちる。それはまるで、私たちの
悔しい……。融資だ資金だなんて、そんな事で悩むことが、私のしたいことだったのかしら……。
いいえ、違うわ。
私の夢見たアウトローは、こんなことで悩んだりなんかしない。
何事にも恐れず、何事にも縛られない
とってもかっこいい、ハードボイルドな……
ダァンッ!!!!
刹那、銀行のホールに1発の銃声が轟く。それと同時に落ちていた証明が一気に点灯し、ホールにいた人達の視線が1箇所に釘付けになった。それはもちろん、私の視線も。
そこに居たのは、覆面や紙袋で顔を覆った5人組だった。それぞれの顔を覆うマスクには番号が振られていて、それが組織としての連携力を誇示しているように見えた。
「全員その場に伏せて!持ってる武器は全て置いて!!」
やがて5人組の中で青い覆面を被った人が、周囲に向けて警告する。それに合わせて他の4人も、銀行の警備員や警告に従わない人達に威嚇を始めた。その間に青い覆面の人は私のすぐ側まで来ると、目の前にいた銀行員を脅してお金を持って来させている。つまり彼女たちは、闇銀行相手に銀行強盗を仕掛けたのだ。
(す、すごい……。なんて度胸なの……)
その堂々とした立ち振る舞いは、今の私に一番足りないもの。闇銀行を襲撃し、ブラックマーケット全体を敵に回すのも厭わない「覚悟」、そして「勇気」。それを持っていることを証明する彼女たちの行動に、私は静かに心を打たれていた。
そしてお金を回収した青い覆面の人を筆頭に、彼女たちは颯爽と姿を消した。時間で言えば5分ぐらいの出来事だったけど、私にはほんの一瞬の出来事のように思えた。
だって、
ブラックマーケットの中でも、人気のない小さな空き地。そこに設置された木箱に座りながら、その男はタブレットに視線を落としながら誰かを待っていた。
世間一般は彼のことを『シャーレの天守セツナ先生』と呼ぶのだろうが、今の彼はトレードマークの白い上着を着ていない。そのおかげか先程から声を掛けられずにすんでいるし、厄介なヤツに絡まれることもない。そんな理想の待機時間を過ごしていると、遠くの方から複数の足音が近づいてきた。
「お、みんな無事に合流したみたいだね」
視線をあげると、そこには覆面を被った5人の女子高生が居た。中でも2号と書かれた青い覆面を被った少女は、その肩に大きなダッフルバッグを下げている。ややパンパンに膨らんだその中には、きっと自分たちのお目当てのものが入っていることだろう。
彼女たち──覆面水着団は、無事に銀行強盗を終えてここに来た。銀行に突入後はシロ……2号ことブルーの立てた計画に沿って迅速に進み、ものの10分で目標物の奪取に成功した。帰り道こそマーケットガードと多少の交戦があったが、そのどれもが片腕を失っていたり、ボディが破損していたりとどこか不完全な姿をしていた。
さらには奥の手らしき機動人型兵器「ゴリアテ」は、背部から伸びる主砲が中程から断裂していて、脚部も応急処置程度の補修が施されてあった。そんな状態のマーケットガードに彼女達が苦戦する訳もなく、ことごとく一蹴してここまで逃げ切ったのだった。
「ただいまです先生☆」
「おかえりみんな。事前に決めた3つの約束事。きっちり守ってくれたようで私は嬉しいよ」
「ん、『事前準備は念入りに、行動は迅速に、全員無事に帰ってくる』。全部ちゃんと守れたよ」
覆面を脱いだシロコが拳を突き出し、セツナもそれに応じて拳を合わせる。最初こそ銀行強盗に渋い表情を浮かべていたセツナだったが、彼女達の意見を受け入れてからは積極的にサポートに回ってくれていた。
ただ、偵察と銘打ってその身一つで闇銀行に乗り込んでいった時は、対策委員会だけでなくヒフミも生きた心地がしなかった。まあセツナは無事に戻ってきたし、その情報のおかげで回収は手際よく行えたのだが。しかし問題は、また別のところにあったのである。
「それじゃ、例の集金表を確認っと────うへ!?」
シロコの持って来たボストンバッグ、その中身を確認したホシノが驚きの声を上げる。それにつられた他メンバーがバッグの中身を覗いてみると、そこには集金表と一緒に大量の札束が詰まっていたのだった。
「あらあら〜」
「おお。これはすごい量の札束が……」
『見たところ……1億円位はありそうですね……』
「い、1億円ですか!?あうぅ……」
「うえええええええ!?シロコ先輩、本当に現金を盗んじゃったの!!!?」
まさかの収穫に、その場にいた者たちがそれぞれの反応を示す。目的はあくまで集金表の回収だけのはずだったが、まさか本当にお金を持ってきてしまうとは……。
「ち、違う……。ほら、目当ての書類はちゃんとある……」
そう言ってシロコはバッグから集金表を取り出して皆に見せる。彼女の心外といった表情を見るに、どうやら本当にお金を取るつもりはなかったらしい。
実際、セツナは偵察した際にアロナにハッキングしてもらったカメラで襲撃時の様子をみていた。あの時の銀行員のアンドロイドはやや恐怖で混乱していたようだし、おそらくはその時に早とちりで詰めてしまったのだろうと想像ができた。
こうした事故は想定外だったが、少なくとも今すぐどうにかしないとヤバいという代物では無さそうだ。
(…………となると、これをどうにか処分しなきゃだけど)
闇銀行から奪った1億円。額面だけ見れば大変魅力的な代物だが、いかんせん出処が最悪だ。これをアビドスの子達が持っていては、銀行を襲撃したヤツらだと因縁をつけられるかもしれない。どこか彼女達と繋がりのない場所で、なるべく素早く処理する方が得策だろう。
「かと言ってこれを今ここで処分するのは……。どこかで足がつきそうだし。かと言って一旦持ち帰るのも……」
「処分って、私たちが使っちゃえばいいじゃない」
セツナがブツブツと解決策を模索していた最中、『処分』という言葉を聞いたセリカがそう言う。その表情はまるでそれが当然とでも言うように、キョトンとした表情だった。
『ダメだよセリカちゃん!それをすると本当に犯罪になっちゃうよ!』
あっさりと放たれた親友のその一言を聞いて、通信機の向こう側のからアヤネの鋭い声が飛んでくる。だが、アヤネも分かってはいるのだ。そのお金がどこから闇銀行に流れたのか。親友がどれだけの時間をそのお金に費やしたのかを。
「……っ。……でも!元々私たちが汗水垂らして稼いだお金だよ!それが闇銀行に流れて、犯罪者たちの武器になるかもしれない!!」
「……私も、セリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者に使われるくらいなら、私たちが正しい使い方をした方が良いかと……」
セリカの意見に同調するように、ノノミもまた使うべきだと主張する。このお金は元々自分たちの稼いだお金なのだから、自分たちの望むように使うべきだ。彼女達が望む使い方は借金の返済で、決して犯罪者を助長させることは望んでいない。
でも、このお金は事故とはいえ、闇銀行から盗んだものだ。それを使うということは、今回の限りなくグレーな自分たちの行動を一気に"黒"へと押し上げてしまう。そうなってしまっては、アビドスはもう借金返済所ではなくなってしまうだろう。
セリカの意見も正しいが、アヤネの意見もまた正しい。両者の意見は平行線になるかと思われたが、ピリつく空気を「パンッ!」という音が変えた。音のする方を見れば、そこには手を合わせて困ったように笑うホシノの姿があった。
「確かに、アヤネちゃんやセリカちゃん達の言うこともわかるけど……。そうだね、シロコちゃんはどう思う?」
3人の話を聞いていたホシノは、互いの意見を認めた上で隣のシロコへと問いかける。対してバトンを渡されたシロコは悩む素振りもなく、1度小さく頷いてから自分の考えを口にした。
「……言うまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」
「うへ、流石シロコちゃん。私の事よくわかってるね」
シロコの答えに満足したのか、ホシノはにへらと表情を崩しながらシロコを褒める。そして少々驚いたような表情を浮かべる3人に対して、優しく慈しむような声色で語り始めた。
「私たちに必要なのは、お金じゃなくて書類。今回はたまたま事故で犯罪者の資金を手に入れたわけだけど、次はそうとも限らない。こうしてお金を稼いで、借金を返すことを繰り返す。こんな方法に慣れると、それが当たり前になった時が怖いよ」
「…………………………」
「カワイイ後輩達がやっちゃいけないことを平然とする姿、おじさんは見たくは無いな〜」
今回はあくまで非常事態だ。それにそもそも、現金を奪うことが目的ではない。でも実際こうして現金を奪ってしまって、その額に目を光らせたのも事実だ。銀行強盗という、言ってしまえばコスパの良い方法を知ってしまった今、もし今後も同じような状況に置かれてしまったら……。果たして自分たちは、どんな選択をするだろうか。
そして仮にそれが"当たり前"になってしまった時、自分たちが目指していた未来を、自分たちは手に入れているのだろうか。
「それに、手っ取り早くお金で解決したいなら、ノノミちゃんのゴールドカードに頼ってるだろうしね。要するに、そのお金で借金を返せたとしても、そんな手段で守った学校になんの意味があるのさってこと〜」
「正しい手段で返済できない限り、帰ってきたアビドスがアビドスではなくなってしまう……。そういうことですね」
「うへ、そういうこと。だからこのバックは置いていくよ〜」
「……あぁぁぁもう!!意味わかんない!!こんな大金をこんな所に置いていくなんて……!!」
どうやらノノミは、ホシノの言葉をしっかりと理解したようだった。セリカも悔しそうな声を上げてはいるが、既にカバンからは手を離し、目の前のお金の誘惑を振り払おうともがいていた。ホシノの心からの説得は、ちゃんと彼女たちに届いたのだ。そしてそれは、何も2人だけではない。
「私はアビドスの事情はあまり知りませんが、このお金は所謂"災いの種"です。持っているとトラブルに巻き込まれるかもしれません」
「そうだね。私もホシノの案に全面肯定かな。このお金は、私の方で処分しておくよ」
「お、じゃあ先生、よろしくね〜」
この場において部外者に近い2人も、その中に入っていた。ヒフミは目の前の"爆弾"が入ったバッグを見つめながら。セツナは"劇物"の入れられたカバンから集金表を取りだし、それをホシノに手渡しながら。特にセツナは普段ホシノが滅多に見せないリーダーらしい振る舞いに、内心感動しているほどだった。
『皆さん!誰かが近づいてきています!』
「「「「「「!!!!!?????」」」」」」
だがその感動も、すぐに終わってしまった。どうやら周囲を警戒していたアヤネが、こちらに接近してくる人影を見つけたらしい。さらに次に飛んできた報告に、セツナや対策委員会は思わず耳を疑うのだった。
『あれは……陸八魔アルさんです!!』
便利屋68の、陸八魔アル。昨日学校を襲撃した奴が、何故かこっちに向かってきているというのだ。今この場で足元のボストンバックを見られるのはまずい。だがアヤネによると隠す余裕もないので、全員大人しく頭から覆面を被った。
そして全員が平静を装うとする中、唯一覆面を持っていないセツナ。アルとは既に顔見知りのためピンチかと思われたが、彼はニヤリと笑うと近くにいたノノミへと声をかける。
「ノノミ、ちょっとマーカーを貸してくれる?」
「はい!でも一体何を……」
「私もちょっと、悪ノリしたくなっちゃった」
そう言ってノノミからマーカーを受け取るセツナ。その片手には、銀行襲撃前に食べていたたい焼きの包みが。それに気づいたノノミは一瞬で考えを悟ると、周りのメンバーに気づかれない程度に指でOKサインを作っていた。
「ま、待って!あなた達と戦うつもりは無いの!!」
そしてアルが到着すると同時に、近くの茂みへと退避したセツナは早速下準備を始める。1度被って位置を確認してから、脱いで大きすぎない程度に小さく穴を開ける。それが終わったら次は右目の下に涙のような模様を描いた。
最期に額に『6』の番号を入れれば、あっという間に覆面水着団『6号』のマスクの完成だ。残念ながらたい焼きの匂いはしないが、代わりに嘘と仮面に塗れた腐敗臭が感じとれることだろう。完成したマスクを眺めながら、セツナは満足そうに何度か頷いた。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を往く。それが私らのモットーだよ!!」
「な、なんですって──ー!!!?」
他のメンバー達がアルの気を引いている間に、そそくさと茂みから脱出して別の道へと回り込む。幸いにもアルは覆面水着団のエピソードに夢中なようで、コソコソと移動するセツナには気づいていないようだった。そして後は覆面を被り、彼女たちの会話の隙間を狙って堂々と姿を現した。
「おやおや、回収ポイントに居ないと思ったら。こんなところに居たのですネ?」
ただし、
「あ、あなたは誰!?」
「おや、お初お目にかかります。便利屋68の陸八魔アルサマ」
悪ノリを加速させたまま、セツナは仰々しくお辞儀をした。演技らしからぬ洗練された動きに、アルだけはなく覆面水着団も見入ってしまう。そんな中で周りの注目を集めた道化師は、粛々と自らの存在をアピールする。
「ワタクシの事は、
覆面水着団6号、その名もクラウン。何となくつけた名前にしては、結構様になっているのではないかと自画自賛をするセツナ──いや、クラウンだったが、それを決して身体や声に出すことはしない。
「陸八魔アルサマのお噂はかねがね、その名声は私たちの耳にも入っておりマス。こうして実際に知り合えたこと、大変光栄に思いマス」
それっぽいセリフを並べながら、クラウンは軽く会釈をする。一方アルの方はというと、その所作の一つ一つに完全に釘付けになっていた。よく見ればその男の背格好や声色が、自分のよく知る人物と似ているなど微塵も思いつかない。彼女の脳内には、アウトロー集団を支える正体不明のサポーターとして脳に刻み込まれていた。しかし、この時間もそう長くは続かないようだ。
『先──クラウンさん。近くに便利屋のメンバーが接近中です!そろそろ退却した方が……』
「……そうですネ。今回ばかりはティーブレイクの時間は無いようデス。アルサマとの親睦を深めるのは、また別の機会ニ……」
アヤネからの報告で便利屋の合流を察知したクラウンはアルへと謝辞を述べたあと、プルプルと笑いを堪えている覆面水着団の方へと退却を促した。
「それでは、皆さんも先を急ぎまショウ。既に0号サンが退却ルートを設定してくれています。そのルートが使えなくなる前に、ここを離れますヨ?」
「はーい先……クラウン!」
やや声を震わせながら、それぞれが来た道を戻って空き地から離脱していった。もちろん、あのボストンバッグは置いていって。そしてそれと入れ替わりになるように、ムツキやカヨコ、ハルカがアルの元へとやって来る。
無論、その度にクラウンとは目が合うのだが、どうやら全員その正体に気づいたようだった。ムツキは「ぷっ」と吹き出し、カヨコは一瞬怪訝な表情を浮かべてから小さくため息。ハルカは「うわぁ!?」と驚いていたが、その姿と背格好から正体にたどり着いて無事困惑していた。
「それでは、便利屋68の皆サマ。次に会えるのを、大変楽しみにしておりマス」
最後にクラウンはそう言い残すと、吹き出すような笑い声を背に足早にその場を去っていった。
「……先生。あのキャラ何?」
「ん?あぁ、クラウンのこと?」
ブラックマーケットからの帰り道。あれからはマーケットガードの追撃もなく、対策委員会とヒフミは無事にブラックマーケットを脱出することができた。この後は一旦学校へと戻り、集金表の確認をする予定だ。
そうして昼に来た道を辿っている最中に、ホシノが先程のことについて触れてきた。他の皆は余程あのキャラがツボに入っているのか、その質問を皮切りにくすくすと思い出し笑いをしている。
「ああいう道化師系のキャラってさ、よく最後の方カタコトになる喋り方をするじゃん?1度やってみたかったんだよねぇ」
セツナ的には、ただやってみたかったというのが本音だ。自分は道化師のようなキャラクターは好きだし、かなり親近感がある。特にヘラヘラした態度の裏にかなりの実力が隠されいれば、それがセツナの理想像だった。まぁ、今の自分とは程遠い訳だが。
「ん、でも結構役にハマってた」
「ほんと、最初の方とか本気で騙されたもん」
『実際お上手でしたね。何かそういうご経験が? 』
周りからの思わぬ高評価に、セツナは内心驚いていた。自分は俳優ではないし、今回も自分の中では大根役者だったのではないかと思っていた。でも周りの反応を見る限りは、どうやらそうでもないらしい。
「そんなにだよ。一応、演じるのは得意だけどね」
そうやって、君たちの信頼を勝ち取ったんだから。
その言葉を胸に秘めて、セツナは静かに帰路へと着くのだった。
「な、なな、なんですってぇぇぇ!!!??」
茜が指す窓を背景に、アルがいつもの表情を浮かべながら絶叫を響かせる。その原因は今日であった理想のアウトローこと覆面水着団が、まさかのアビドス高校の生徒だったと知らされたからである。しかもあのクールな指揮官っぽかったクラウンも、正体は自分たちの経営顧問と知らされればこうもなるだろう。
「く、くふふ……!やっぱりアルちゃんはいいリアクションしてくれるね……くふふ」
「で、どうするの?これで余計アビドスとやりづらくなったわけだけど」
まだいつもの顔から復帰できていないアルに向けてカヨコが問う。アルは良くも悪くも純粋だ。ただでさえ柴関の件で心を痛めていたというのに、今回の件もかなり心に来ているのではいだろうか。そんな心配を視線に載せていると、ようやく衝撃から復帰したアルが渋い表情を浮かべながらもこう断言した。
「依頼は……継続よ。あれはあくまで、あの子たちの仮の姿……。そう、仮の姿なのよ……!」
「……そう刷り込みしてる時点で、社長もかなりきついんじゃない?」
「……大丈夫よ!!大丈夫なんだから!!」
「…………はぁ」
明らかに空元気なアルを憂い、カヨコは今日もため息をつく。こうなったら、最終手段で先生に相談してみようかな……。そんなことを考えていた時だった。
コンコン コンコン
コンコン コンコン
静かに4度、事務所の扉がノックされる。
「お?アルちゃんお客さんだよ?」
「め、珍しいですね」
どうやらこの時間帯にしては珍しく、便利屋にお客が来たようだった。本来なら1つの依頼が完了するまで他の依頼は受けない方針のアルだったが、今回ばかりは状況が状況だ。アビドス攻略の為にも、今は少しでもお金を稼がなければいけない。
「どうぞ、入ってちょうだい!」
「はーい!失礼しま〜〜す!!」
アルの返事を聞くと、扉の向こうから明るい声が聞こえてきた。扉のドアノブがゆっくりと回され、ガチャリと扉が開いてぬるりと何かが事務所へと足を踏み入れる。そしてその姿を見ると同時に、便利屋の背筋がゾクリと凍りついた。
「こんばんは!やっと帰ってきたね」
そう言って彼女達の前に姿を現したのは、「灰色」だった。髪も翼もくすんだように汚れていて、かつては純白だったであろう名残が僅かに残るだけである。その空色の瞳も同様に暗く澱んではいるが、そこから漏れ出る眼光は、こちらの一挙手一投足を見逃すまいと爛々と輝いていた。
明らかにただのお客さんではない。アルたちがそれを理解するのに、そう時間は要さなかった。アル以外の全員が即座に愛銃をひったくり、そのまま入口の灰色へと銃口を向ける。
「……っ!!?」
「いや〜結構待ったんだよ?中に入ろうにも鍵がかかってたから、壊す訳にもいかなくて」
便利屋から銃口を向けられる中、乱入者である門守セキはそれらを気にする素振りもなく話を続けた。対する便利屋も何時でも引き金を引ける体勢には入っているが、誰しもがその引き金を引くのを躊躇っていた。
彼女たちの脳裏に、ある人物がチラつく。それは便利屋がゲヘナを離脱する数ヶ月前、突如として姿を消したある友人の姿。仲間とも敵とも言えない不思議な関係だったその友人は、連絡が取れなくなった今も便利屋の皆の記憶に刻まれている。
だからこそ、カヨコは気づいた。記憶の中の友人と、目の前の少女の違いに。両者とも翼を持っているという共通点はあるが、友人の翼は2対で真っ黒な大翼だった。対して目の前の少女は灰──いや、白色で1対のみ。友人じゃないなら、あと思い当たるのは──。
「まさか……あんたが『白鯨』」
『白鯨』。カタカタヘルメット団の生き残りで、
「ひぇ……?誰それ、私は門守セキだよ?」
一方、当の本人はその異名を知らなかったのか、何やら困惑したような表情を浮かべている。だがそれもほんの一瞬のことで、すぐににこやかな表情に戻っていた。
「まぁそんな事より、ちょっとお話しようよ。私も君たちに、色々聞きたいことがあるんだ〜」
そう言いながら、ゆっくりと前に踏み出すセキ。1歩、また1歩。周囲の銃口など気にもならないのか、堂々とした様子でアルの目の前へと歩みを進める。それを阻止しようとハルカとムツキが立ちはだかるが、彼女はそれを目に留めると、口元をニヤリと歪めた。
「それとも、痛めつけられる方がお望みかな?」
どこか遠くから、唸るような鯨の唄声が聞こえてきた。それと同時に、その場にいた全員がぞくりと身震いする。あの夜、先生に言われた言葉を思い出す。『白鯨』の戦闘力は、あのアビドスの生徒たちにも匹敵するかもしれない……と。最初は冗談かと思っていたが、こうして実際に対面してみると、あの先生が真面目に忠告したことは本当だったんだと身をもって思い知った。
だったら、ここで戦闘するのは得策ではない。こっちは完全に不意をつかれたのに対して、相手はこの時をずっと待っていたんだろう。パッと見では武器を持ってないように見えるが、何を隠しているかも分からない。
それにここには、傷つけたくない大切なものが沢山あるから。
「みんな、銃をおろしてちょうだい」
アルの一言で、全員が不安げな表情で武器を下ろす。アルの前に立ち塞がっていたムツキとハルカも、アルの目配せでゆっくりと道を開けた。それを見たセキは少し驚いたような顔をしていたが、口元を綻ばせると感謝の言葉を紡ぐ。
「ありがとう。私も色々と疲れちゃってて、正直今はあんまり戦いたくなかったの」
そして、アルの方へとゆっくりと手を伸ばす。まるで握手を求めるように。あるいは、これからの話し合いがより良いものになるよう祈るように……。それと連動するように
あの唸り声ももう聞こえなくなっていた。さっきまでの威圧感も徐々に薄れてきたのか、身震いも徐々に治まっている。
この言動に、様子を見ていたカヨコやムツキは少々面食らった様子だった。彼女たちが想定していた事態に反し、セキは何故か戦闘を避けるように動いている。自分たちに復讐しようとしている人物にしては、かなり消極的な言動にしか見えなかった。
(……何か、別の目的がある?)
そう訝しむカヨコの目の前では、今まさに、セキの差し出した手をアルが取ろうとしていた。
「じゃあ、お話しよっか。陸八魔アルちゃん。もしかしたら私たち、良いお友達になれたかもね」
「…………えぇ。そうかもしれないわね」
入ってきた時とは違う、満面の笑み。自分に笑いかけてくる乱入者の手を、アルは静かに、しかし確かに握るのだった。
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▽天守セツナ/クラウン
Cvはきっと森○智之さん。
本人は完璧と評していたが、それは絵と言うよりも子供の落書きだった。
▽陸八魔アル
理想と現実の板挟み。
それでも最適解を掴み取る。
▽門守セキ
ようやく、贖罪が動き出す。
セツナの宿題には手をつけ始めている。
▽対策委員会/覆面水着団
アル「なんでクラウンは紙袋を被ってるの!?他の子は覆面なのに…… 」
クラウン「ふむ。それはですネ。この紙袋を被るものは、覆面水着団の中でも限られた者だけだからデスヨ」
アル「つまり幹部級……。ということは、そこに居る5番の人も!!?」
クラウン「あぁ、
アル「な、なな、なんですって────ー!!!?」
ファウスト「ふぇ!!?先せムグッ──!?」
1号「そうだよ〜。道中に居たマーケットガードも、全部ファウストさんがぶっ飛ばしてたもん」
3号「ファウストさんはブラックマーケットの事ならなんでも知ってるんです♣︎何せファウストさんのお庭のようなものですから!」
ファウスト「あ、あううう……」
▽便利屋68
例の1億円バッグは回収済み。
その上で更なる戦力増強を図ろうとしたが、直後にとんでもない厄ネタが事務所にやってきてしまった。
あとがき
お久しぶりです、私です。
少しテスト期間と被ってしまい、少々時間がかかってしまいました。ここで一旦区切りをつけて別作品の方を仕上げるので、また期間が空くかと思われます。もし良ければ、しおりを挟んだりお気に入り登録をしてお待ちいただけたら嬉しいですネ。┏○ペコッ
Ps.絶望した。
無料期間も2倍期間も天井するまでPU出さなかったアロナちゃんに絶望した!!!!
代わりにティファレト君に八つ当たりしなきゃ。
次回 第16話 「ホシノ オチル ヨル」
「先生、流れ星の伝説って知ってる?」