Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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At the very beginning,we were created
〜まず一番最初に、俺たちは創られた〜



ー鷺巣詩郎「At the very beginning」よりー







At the very beginning

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、要件はだいたい把握したよ」

 

 

 どことも知らない、人気のない駅。そのホームに設置されたベンチに1組の男女が腰掛けていた。片方は黒のスーツを身につけ、あちこち跳ねた黒の癖毛が特徴の若い男性。もう片方は対照的に白の制服を纏い、空のような青い長髪をなびかせる女子高生らしき少女だ。

 だが少女の白の制服はあちこちがくすんでいて、ところどころ赤く染まっている。そんなおおよそこの場の雰囲気に似つかわしくない2人は、人っ子一人居ない寂れた駅で静かに言葉を交わしていた。

 

 

「今から向かう場所──学園都市キヴォトスで、先生になって欲しい……で合ってるかな?」

 

「はい。そこでもう1人の"先生"と一緒に、生徒たちを導いて欲しいんです」

 

 

 腕を組みながら、先程自分に向けて問いかけられた話の内容を口に出す男。その言葉に少女は肯定するように頷き、そして改めて、男をこの場所に呼んだ理由を告げるのだった。

 

 

「ふむ、そのもう1人の先生っていうのは?」

 

「私にとっても……きっと貴方にとっても大切な人です。その人が"先生"として活動できるよう、貴方に守って頂きたいと」

 

「ふんふん。守るっていうのは、具体的にどんなことから?」

 

「そうですね……。例えば、銃撃から守ったり、爆発から守ったり、ですかね?」

 

「何それ、私は一体どんなところに送られるの?」

 

 

 男が困惑した表情で少女を見れば、少女はクスクスと顔を綻ばせる。傍から見ればまるで少し年の離れた恋人同士とも見えるが、その実2人の間にはそんな関係は微塵もない。ただの先生とその生徒、それだけが、今この場で2人を結びつけている関係だった。

 そんな他愛のない会話を繰り広げていると、気の抜けたチャイムの音と共に目の前に列車が滑り込んできた。そして徐々に速度を落として停車すると、男の目の前の扉がゆっくりと開く。それを見た2人は何も言わずにゆっくりとベンチから立ち上がると、先程着いた列車へと乗り込んでいった。

 ちょうど帰宅の時間帯だったのか、中には学校帰りらしき女子高生がほとんどだ。だが男たちが車内に足を踏み入れた途端、車内がシーンと静まり返る。友達と楽しげに談笑する者や、膝掛けに手を置き車内を眺める者、椅子に深く座り目を閉じる者。全員がまるで時を停められたかのように、ピクリとも動かず静止する。だが男たちだけはコツコツと歩みを進め、ちょうど空いていた座席に向かい合わせに座った。

 

 

「……つまり、だ」

 

 

 扉が閉じ、列車が駅を出発すると同時に、男が再び話を切り出した。だが男の顔には先ほどとは打って変わり、目の前の少女を試すような険しい表情が浮かんでいる。その理由はもちろん、先程少女から語られた自分の呼ばれたワケにあった。

 

 

「さっきの話も含めると、その"先生"を銃撃や爆撃から守って欲しい。最悪の場合、私は死ぬかもしれないと。つまり、私の役割は露払いってことで合ってるかな?」

 

「……そうですね。包み隠さず言えば、そういうことになります」

 

 

「気を悪くさせてしまったら、すみません」と顔を伏せる少女に、男は「まぁそこは気にしないよ」とあっけらかんといった様子でフォローする。実際、男は先程の話を聞いても特に気を悪くはしてない。ただ、男としては彼女が自分の納得できるような答えが出せるか知りたいだけなのだ。

 

 

「とりあえず、君の言いたいことはよくわかった。その露払いの仕事も、例の"先生"を守るって話も。別に受けていいよ」

 

「ありがとうございます。でしたら──」

 

「けどね、()は二つ返事でOKを出せる程お人好しでもない。君もそれは知ってるでしょ? 俺がそのお願いを受けたとして、君は俺に何をくれる?」

 

 

 さぁ、どうする? その言葉を視線に込め、男の目は少女の瞳をじっと見つめる。だが射抜かれた少女は少しも動揺した様子はなく、指を口元に添えて静かに考え込む。そんな状態がしばらく続いた後、少女は顔を上げ、逆に男を試すような表情を浮かべながら口を開いた。

 

 

「そうですね……では、こういうのはどうでしょう? 

 

 

 

 

 

 

 ──貴方が役割を全うしたその先で、貴方の求める『』を差し上げます」

 

 

 

 

 

 その言葉に、男の肩が一瞬ピクリと跳ねた。そして男の表情が考え込むようなものに変わるにつれて、少女は手応えがあったことを確信する。自分の『命』と、たった一つの『解』。本来であればどちらが重要かなんて、比べるまでもなく前者の方が重要だろう。だが男にとって、少女のいう『解』は命よりも重要な事だった。

 

 

「……『解』……ね」

 

 

 そうポツリと呟くと、男は静かにため息をつく。

 

 

「はぁ……仕方ない。そのお願いを引き受けよう。どのみち、君からのお願いは断れないからね」

 

「ふふっ、ありがとうございます。先生(・・)

 

 

「仕方がない」と言う割には、嫌な顔ひとつせず頭を搔く男──いや、先生。その様子に、少女は少し懐かしさを覚える。生徒からのお願いに嫌そうな顔をしたり、何かと対価を要求したりするが、結局ほぼ無償で引き受けてくれる。そんな彼だからこそ、少女は安心してこの役割を任せられるのだ。

 だが対する先生の表情は、まだ暗いままだった。

 

 

「だがいいのか? 君が言うには、今から行くとこはだいぶ物騒な世界みたいじゃないか。私が行っても、大したことは出来ないんじゃない?」

 

 

 さっきの話の流れで、先生は今から向かうキヴォトスがどういう場所かを知っている。銃火器や爆発物は当然として、戦車やヘリ等の兵器も蔓延るまさに無法地帯。そこに先生として向かうというのは、なんとも場違いな話だと思うのだ。それに自分はそういったものに無力だと言うことも、彼は十分に理解している。そして何より────ー

 

 

「──何より、俺は先生じゃない(・・・・・・)。俺は────」

 

「大丈夫です」

 

 

 大人が何かを口走ろうとするのを、少女の言葉が遮る。その言葉には彼への絶対の信頼と、優しく励ますような慈しみが篭っていた。

 

 

「先生ならきっとやってくれると信じてますから。例え道を踏み外しても、失敗したとしても。最後にはきっと、私の願ったことをしてくれると」

 

「……そうかな。君は、私がこの役割を貫き通す事が出来ると思うかい?」

 

「はい。でももし……、それでも貴方が不安に思うのであれば。私から1つ、贈り物を差し上げます」

 

 

 そう言って少女は腕を伸ばすと、先生の方へとその手を差し出す。赤黒く染まり、傷だらけの手のひら。しかし男がその手に触れてみれば、確かな彼女の温もりが伝わってくる。そして重ねた手のひらをきゅっと握りしめながら、少女は目の前の先生へと語りかける。

 

 

「……先生。きっと貴方がキヴォトスに降り立った時には、この会話も忘れてしまいます。私の願いも、私たちの『約束』も、全てがゼロになってしまうでしょう。それでも、これだけは忘れないでください」

 

 

 そして一言置いて、少女はにこやかに笑うのだ。

 

 

 

 

 

「貴方は貴方が思うより、みんなに慕われる先生になれますから」

 

 

 

 

 

 その言葉に男は目を見開くが、それも一瞬のことで、すぐにいつもの柔和な笑みを浮かべながら、少女の手を握り返す。

 

 

「そこまで言われたら、もう引き返す訳にはいかないね。その役目、ちゃんと果たしてみせるよ」

 

「はい、よろしくお願いします。それと、もし困ったことになったら、あちらには私の子供たち(・・・・・・)もいます。きっと先生の助けになってくれるはずです」

 

「そうか、ならありが────へ?」

 

 

 少女が何気なく発したその言葉に、男は面白いくらいに驚く。衝撃のあまり思わず握っていた手を離してしまったが、冷静に考えてみれば既婚女性の手をニギニギしてたのはしっかりとセクハラの類になるのではなかろうか。今更そんな考えが頭を過ぎるが、とりあえず、彼女に確認せねばならないことがある。

 

 

「…………君、結婚してたのか?」

 

 

 男のその問いかけに、目の前の少女は握られていた手のひらをヒラヒラと振りながら、何やら意地の悪い表情を浮かべていた。これはつまり……、まんまと彼女にしてやられたと言った感じだ。

 

 

「なんだ……冗談か……」

 

「ふふふっ、言い方が悪かったですかね?」

 

「やめてくれ……心臓に悪いから……」

 

 

 スタートと同時に役割を放棄する事態にはならず、先生はほっと胸を撫で下ろす。一方、少女の方は相変わらずにこやかな笑みを浮かべており、その表情からは慈しみも期待もない、混じり気のない純粋な感情が読み取れた。

 その時、急に車内が暗闇で満たされる。外の景色も黒に塗りつぶされ、先生の視界も黒一色に染められる。恐らく、列車がトンネルか何かに入っていったのだろう。何も見えない、何も分からない。まるで彼の抱える不安を体現したような、全てを飲み込む闇が彼女たちを包み込む。

 

 

「先生、どうかよろしくお願いします」

 

 

 だが彼女の声だけは、この暗闇の中でもはっきりと聞こえる。まるで夜空に輝く一等星のように、大人を導くような光を放ち、そっと見守るようにどこかに佇んでいる。もう先生の目の前には、彼女の声も、温もりも、気配さえもない。彼女がそこにいたという痕跡は、シートにベッタリと残った血痕以外、何も残されてはいなかった。

 それに気がついた先生も、「そうか……」とだけ呟くとスっと目を閉じた。多分、そろそろキヴォトスに着く頃合いなんだろう。絆と青春に満ちた、奇跡の方舟。そこにもうまもなく、新たな大人が『約束』を携えて到着する。だがその時までは……と先生は心の中でつぶやくと、そのまま浅い眠りにつくのだった。

 

 

 

 1人の大人を乗せた列車が、たった一つの終着点へと進み続ける。その過程でいくつもの景色が過ぎ去り、時に甘く、時に苦い多くの思い出を乗せて。

 

 語りきれないほどの喜劇も、

 

 そこに至るまでの多くの悲劇も。

 

 それら全てを乗せながら、列車は結末(エンディング)へと辿り着く。そして、その数多の物語(tail)も、いつかは語ることになるだろう。だが今はまだ、多くのことは語れない。この物語はまだ始まったばかり。

 

 

藍の外典(ブルーアーカイブ)』の冒頭部分に過ぎないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────ふわぁ……。

 

 

 目覚めた後の第一声は、気の抜けたあくびから始まった。寝起き直後の体調は良好。正直まだ寝足りないと言ったところだが、これ以上寝たら生活リズムを崩しそうなので無理やり睡魔を思考の奥へと押し込む。そして眠気覚ましも兼ねて、背を思いっきり伸ばしたり捻ったりして身体を解した。

 そのまま周囲を見れば、どうやら自分は会議室のような部屋にある椅子に座っているらしい。あまりにも見た事ない場所だったので一瞬思考がフリーズするが、すぐさま再起動させてここはどこか考える。だが、いくら記憶の箱をひっくり返してみても、自分が何故ここにいるのかを説明できる記憶は見つからなかった。

 

 

「私は……、何をしてたんだっけか」

 

 

 誰もいない部屋で、そう独りごちる。思い返してみてわかったが、自分の過去の記憶が思い出せないのだ。だが自分は何者か、どんな人間だったか、どんな人生だったか知っている。ただそれを鮮明に思い出そうとすると、記憶にモヤがかかって思い出せない。

 だがそれでも、少しだけ思い出せたことがある。それはここに来る直前の記憶。自分の中で、僅かな引っ掛かりを残す記憶だ。

 

 それは、さっき見ていた夢。

 淡く、儚い、希望にすがる夢の記憶だ。

 

 だがその夢の詳細な内容だけは、やはり思い出すことができない。まるでそこだけ抜け落ちてしまったかのように、黒い空白だけがぽっかりと穴を開けていた。だがそこで、誰かと『約束』をしたことは覚えている。その内容も思い出せないが、何か大切な、必要なものだったような感覚だけが、胸の中に残っていた。

 そんな寝覚めにモヤモヤとした感情を抱えていると、扉が開く音ともに誰かの足音が聞こえてくる。とりあえず記憶関連のことは頭の隅に追いやり、音のした方を見れば、そこには白のコートを身にまとった黒髪の少女が立っていた。誰だ……いや、どこかで見たことがある気がする。だがそれを本人に尋ねるよりも先に、少女の方が口を開いた。

 

 

「先生……起きられていたんですね」

 

 

 やや驚いた様子の少女は、少し身なりを整えながらこちらに向かってくる。白のコートを正し、同色の手袋をはめ直すその姿に、やはりどこか既視感を感じてしまう。ついさっきもこうして、似たような格好の誰かと会話をした感覚がするのだ。だがどれだけ思い返してみても、そんな記憶はない。この少女とはこれが初対面のはずだ。

 しかし、どれだけ論理的な説明を重ねても、自分の中に居座る既視感を納得させることはできなかった。結局、これ以上の考察は無駄なのだ。無いものは無い。とりあえず今はそう結論づけて、私は席から立ち、黒髪の少女へと向き直る

 

 

「すみません、少し遅くなりました」

 

「大丈夫だよ。私も少し仮眠を摂りたかったし、今起きたばかりだから」

 

「そうですか。でしたら早速本題に入ります。しかし事態急を要しますので、本件に関しては移動しながら説明します。では、私についてきてください」

 

 

 アイスブレイクもそこそこに、黒髪の少女に案内されるままに部屋を出て廊下を進んでいく。途中で窓から外の景色が見えたが、外にはまるで都市のように美しいビル群が乱立しており、それと同時にそれらを見下ろせるこの建物も、かなりの高さのビルであることがわかった。正直、下を見た時に嫌な想像を掻き立てられるから、あんまり知りたくなかったとちょっと後悔している……。

 

 

「まずは先生、ようこそ学園都市『キヴォトス』へ。私は七神(なながみ)リン。キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」

 

 

 エレベーターで下の階層へと降りる途中、黒髪の少女──七神(なながみ)リンはそう名乗った。そして彼女は何も知らない私でも分かるように、このキヴォトスがどういう場所なのかを説明してくれる。

 いわく、ここ学園都市『キヴォトス』は、複数の学園とそれらを取り纏める連邦生徒会によって運営されているらしい。だがその実態は都市や学園という言葉とはかけ離れた、いわば国家のような形に近いという。各学園ごとに自治区と独自の運営方針を持ち、中には巨大な治安維持組織を持つ学校もあるという。それをほぼ子供たちだけで動かしているというのだから、この世界の子供たちの強かさには驚きしかない。

 

 

「ですが最近、とある事情によりキヴォトスの各地が混乱状態に陥っています。先生にはそれを解決していただきたいのです」

 

「混乱状態ね……。授業が進まないとか、学校が閉まって登校できないとか?」

 

「いえ。犯罪率が300%に増加したり、戦車等の兵器の不法流通が増えたり。あとテロも少々発生しております」

 

「……………………はい?」

 

 

 さも当然とでも言うように、真顔でそう宣うリン。一方俺の方は絶対今聞こえるはずのない単語の羅列に、頭が理解を拒んでフリーズする。

 

 

(……いやいやいや、なんだそれは。確かに国家のようだなとは思ったが、なんでそんな世紀末みたいな事態に陥ってるんだよ。教えはどうなってんだ教えは!!)

 

 

 思わず心の中でそう叫ぶが、現実は非情にも待ってくれない。乗っていたエレベーターが目当ての階で止まり、開いた扉から出ていくリンの背中を追いかけながら、私はとりあえず現実を受け入れて思考を落ち着かせる。

 

 

(しかしまぁ、犯罪率が3倍になるとか一体何があったんだか。治安維持組織の弱体化とか、そういうのがあったのかな?)

 

「着きましたね。では先生、どうぞこちらに」

 

 

 落ち着いた思考でぼんやりと先程の原因を考えていると、リンがとある扉の前で立ち止まり、こちらに少し目配せをしてから扉を開ける。扉の先は椅子と机が沢山ある部屋だった。まるで向かい合うかのような配置や、プロジェクターやホワイトボードが備え付けられているあたり、さしずめここは応接室────

 

 

 

「遅いわよ!代行!」

 

 

 

 耳をつんざくような怒気を含んだ声に、思わず肩が跳ねる。声のするほうを見れば、青髪をツーサイドアップにした少女が椅子に座り、両腕を組んだ状態でこちらを睨みつけていた。だがそれも一瞬のことで、隣に立つ私と視線が合うと、一瞬にしてキョトンとした表情に変わる。

 そしてその子以外にも、この場にはあと3人の子供がいた。全身を黒で統一した色々と大きなものを持つ少々に、銀髪に赤い瞳が煌めく少女。そしてベージュの髪に大きなバックを引っさげた少女など、三者三様で個性的な見た目の子供たちが、椅子に座ってこちらのことを見つめていた。

 だが、そんな彼女たちにもいくつか共通する点がある。1つ目は頭上に浮かぶ輪っか。それは子供たちの見た目と同じように、人によってかなり異なる形をしているようで、浮かんでいる位置からも天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)のようなものだと推測できた。

 そして2つ目は子供たち全員があるものを持っていること。そしてそれは、子供が持つに似つかわしくない"銃火器"であるのがすぐにわかった。おもちゃやエアガンなどとは違う、本物を思わせる圧倒的な重厚感。少なくとも私には、あれが偽物の銃には思えなかった。

 見た目的にも今が華の女子高生だと言うのに、何故スマホではなく銃火器を持っているのか。そうツッコミたくなるが、それが当たり前として受け入れられているのを見て、私はこのキヴォトスという世界の異質さを改めて認識した。それと同時に、先程の列挙された犯罪たちがどれほどタチの悪いことかも。

 

 

「お待たせしました、各学園からお越しの皆様。これからこちらの先生への説明も兼ねて、今一度状況を整理いたします」

 

 

 リンが彼女達の向かい側の椅子に座りながら、辺りを見回してメンバーを確認する。それに習って私も席に着いたタイミングで、リンは姿勢を改めて、ここに至るまでの経緯を説明してくれた。だがその経緯と言うのは、私や他の子供たちも驚きを隠せないものだった。

 

 

「「「「連邦生徒会長が失踪!!??」」」」

 

「はい。連邦生徒会長は数日前から消息を絶っており、これによって『サンクトゥムタワー』の制御権を失ったことが、今回の混乱の一因でもあります」

 

 

 話をまとめるとこうだ。キヴォトスの行政維持の要を担う『サンクトゥムタワー』という施設があり、その管理者であった連邦生徒会長という人物が突如失踪したことにより、『サンクトゥムタワー』へのアクセスが出来ずに行政権が宙ぶらりんに。その結果、治安は荒れ放題となり、各地で暴動やテロ活動が活発になっていった……と。

 いやはや……、先程の予想なんかかすりもしないくらい難しいことが起きてた。だがその連邦生徒会長が居なくなっただけでこの有様とは、連邦生徒会の運営方針に若干不安を感じる。それとも、そんな状態を続けても運営を継続できた連邦生徒会長の手腕を評価するべきなのか……。

 

 

「で、連邦生徒会は何か解決策を見つけたの?」

 

「残念ながら、認証を迂回できる方法を探していましたが有効な手段の発見には至りませんでした。……先程までは」

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

 

 黒髪の少女からの問いかけに、リンは力強く「はい」と答える。そして右手でこちらの方を指し示しながら、その解決策とやらを説明する。

 

 

「こちらの先生であれば、問題を解決できるはずです。先生は連邦生徒会長が特別に指定し、キヴォトスに招いた外の世界の方です。おそらく、先生の存在が今回の問題を解決するための鍵になるでしょう」

 

「それは、一体どのような理由で?」

 

「先生は連邦生徒会長から、連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』の顧問に指名されています。それを最後に連邦生徒会長との連絡が途絶えたので、いわば連邦生徒会長が去り際に置いていったもの。この事態を解決できる可能性は十分あると私は考えます」

 

 

 そう言われれば、できそうな気もしなくはない。連邦生徒会長の失踪と私の来訪のタイミングがあまりにも良すぎる。ただ問題があるとしたら、当人である私に解決の糸口になるような心当たりが全くない事か。

 

 

「なのでまずはシャーレの部室に向かい、そこに安置されているある物(・・・)を回収したいのですが……」

 

 

 皆の理解は得られたところで、リンが話の続きを切り出そうとするが、何やら言い淀んでいる様子。しかしそれも一瞬のことで、向かい側に座る少女たちを一瞥したあと、意を決したように口を開いた。

 

 

「モモ──交通室の生徒によると、現在シャーレの部室付近で大規模な暴動が発生しているようです。私たちはともかく、外の世界から来た先生が向かうには、かなりの危険が伴います」

 

 

 そう言うと、リンは今一度向かい側の少女たちに視線を送る。

 

 

「なのであなた方には、先生の護衛をしつつ、シャーレ部室近辺で発生中の暴動の鎮圧をお願いいたします」

 

 

 その言葉に、私は心の内でかなり驚いていた。先程聞いた話では暴動ということだったが、その前の武器の不法流通等の話も加味すると、絶対に子供に向かわせるべき事態では無いのは明確だ。だがそれでも大人である私より優先して送り出すということは、きっと彼女たちキヴォトスの生徒には何か秘密が……。

 

 

「まぁいいわ。それでこの混乱が収まるなら、安いもんじゃない」

 

「えぇ。正義実現委員会としても、これ以上の事態悪化は許容できません。私も協力させていただきます」

 

「自警団も同行します。と言っても、今は私一人しかいませんが」

 

「私も同意見です。元は救急医学部所属でしたので、負傷者の治療には心得があります」

 

 

 私が1人物思いにふけるのを置いておいて、話は着々と進んでいっている。どうやら依頼された生徒たちも問題は無いようで、各々が静かに自分の武器の点検をしていた。そしてその武器はやはり、手に持っていた無骨なフォルムの銃火器たち。目を凝らしてみれば、ちゃんと弾薬のようなものも入っているようで、ここで私はようやくあれが"本物"であることを理解できた。

 新たにわかった情報も踏まえて、先程の仮説から生徒たちの秘密に関する考察を広げていく。だがどこまで考察を広げても、最終的には同じ結論にたどり着くだけだった。その結論は至極単純、これから自分の目で確かめてみればいいのだ。

 

 

「じゃあ私は、君たちの戦闘指揮に回るよ。君たちにおんぶにだっこのままだと、大人としての立場がないからね」

 

 

 それらの思惑を伏せつつ、私はそれとなく戦闘参加を宣言する。先程からの話から予想するに、私とキヴォトスの生徒(彼女たち)の違いは体の丈夫さだ。おそらく彼女たちの身体は私の体の何十倍も丈夫だと推測される。でなければ自分の手の届く範囲に銃を置いておこうとはならないだろうし、これから暴動が起きてる場所に突っ込もうとは考えないだろう。これはあくまで仮説だが、個人的にはかなり的を射ていると思っている。

だがそれはつまり、彼女たちからしたら、私はお荷物だということだ。

 

 

「先生も戦闘に参加されるのですか?」

 

「ですが先生、先生の体では……」

 

「大丈夫。何も撃ち合いだけが戦いじゃない。人には人の、その人に適した戦い方がある。それだけだよ」

 

 

 案の定リン達が心配そうにこちらに問いかけるが、私はニコリと彼女に微笑みを向けるだけだ。確かに私は銃での撃ち合いだと100%負けるだろうが、戦術指揮の面では少し自信がある。小さい頃からそういう類のボードゲームやテレビゲームが大好きな子供だったから、戦いの場の駆け引きというのは頭に叩き込まれている。

 それに、さっきも言ったようにこのまま子供たちに任せっきりだと、大人の──先生としての矜持が問われる。そして先生とは、子供の主体性を尊重し、時に助言を送って見守る者。彼女たちが自分の目的を果たせるよう導くのが、今の私の果たすべき責務だ。私の覚悟はもう決まっている。その意思を視線に込めて、私は向かいの生徒たちに問いかける。

 

 

「ということで、君たちはそれでも大丈夫かな?」

 

「はい、よろしくお願いします! ……ええっと……」

 

 

 一瞬の逡巡の後、生徒たちを代表して青髪の子が了承する。だが次の言葉が出る前に、何やら困ったような様子でこちらに視線を送ってきている。何を言おうとしているのか……と考えていたが、そういえば私はふと致命的なことを忘れていた。

 

 

「あぁ、そういえばまだ名前を言ってなかったね」

 

 

 自己紹介。それを忘れていた。思い返してみればさっき会ったばっかの彼女達どころか、リンにもしていなかったというのだから1周回って驚きだ。でもまぁここでまとめて紹介できるなら、それはそれでよかったと己を納得させる。

 とりあえず、まずは名前から言っておこうか。そう思った私は席から立ち上がり、胸に手を添えて口を開く。

 

 

 

「改めまして、私の名前は天守(あまもり)セツナ。不甲斐ない大人だけど、これからよろしくね」

 

 

 

 天守(あまもり)刹那(セツナ)と、私は彼女たちにそう名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 







▽天守刹那(あまもり セツナ)
誕生日:10/5
年齢:24歳

先生、それ以上の存在ではない。基本的には放任主義気味で、生徒が困っていることがあれば助言などを送る程度に留めている。

▽白い制服の少女
結婚はしてないし、子供もいない。この物語ではキヴォトスに様々な仕込みをしてから失踪した。

▽七神リン
ご存知リンちゃん。
前述の仕込みにより治安が加速度的に悪くなってるので、常時胃痛と戦かってるし、舞い込んでくる通報の処理に手を焼いている。

▽向かい側に座る少女たち
みんなお世話になるブルアカチュートリアル組。この物語では苦情を言いに来たところで事件の早期解決を目指すリンに捕まり、その流れで先生の護衛を任されることになる。


プロローグはぱぱっと行きます。早く本編に入りたいので、戦闘シーンとかバッサリカットして必要な部分だけを抽出です。あと習作の方のプロローグ③で次は12月6日と言ってましたが、普通に勘違いして12月26日に投稿してましたね。これはバカタレですわ。



次回「キヴォトスの生徒たち」




「せ〜〜ん〜〜せ〜〜い!!!『クラブふわりん』に2万円も課金なんて何してるんですか!!!!」



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