Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
茨の道?道あるじゃん。歩けよ。
ー出典不明・「2ちゃんねる名言集」のコメントよりー
『ホシノ先輩が、退学してしまいました』
カイザーの前哨基地から帰還した翌日の朝。アヤネの悲鳴のような1報を受けて、対策委員会は朝早くから部室へと集合していた。私が到着したのは、1番最後。皆の不安そうな視線に出迎えられながら、私はいつも通り定位置へと着く。
対策委員会は既に揃っている。……いや、1人だけ足りていない。いつも寝坊助で、後輩思いの年長者の姿がない。ただ彼女の居た場所には、退部届と共に2通の手紙が残されていた。
「『アビドス対策委員会のみんなへ』」
皆が張り詰めたような表情で見つめる中、アヤネがゆっくりと手紙を開封し、震える声で綴られている
「『まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許して欲しい』」
ホシノの告解は、その言葉から始まった。そこから告げられたのは、昨日の夜にホシノが教えてくれたことだった。
実は昔からカイザーにスカウトを受けていたこと。自分が取引に応じれば、アビドスの借金を減らせること。その代わりにアビドスからも、キヴォトスからも離れ、対策委員会とはもう会えなくなってしまうこと。
そこには、ホシノがこれまで包み隠していたものが、全て記されていた。
「『シロコちゃん、ノノミちゃん、アヤネちゃん、セリカちゃん。私たちの学校を守って欲しい。こんな砂だらけの場所でも、私に残った唯一意味のある場所だから』」
もう守れない、私の代わりに。そう告げられた時、シロコ達の表情がより一層張り詰めるのを見た。そして手紙を読んでいたアヤネが、次に綴られている文言を見て静かに息を飲む。
「……『それから、もし万が一私が敵になった時は……。その時は、私のヘイローを"壊して"』」
それは、あまりにも重い覚悟だった。生徒達の象徴である
「……何なの!?切羽詰まったら何でもするって、自分で言ってたくせに!!!!」
その言葉を聞いて、セリカが堪えきれない想いを吐露する。以前、ホシノ自身が言っていた言葉。その言葉をかけられたセリカだからこそ、今回のホシノの行動に物申したいことが沢山あった。
そして、それは他のメンバーも同じだ。だがそれよりも、敬愛するホシノが突然居なくなったショックの方が上回って、部室は完全に混乱の渦に飲み込まれていた。
「……助けに行く。私一人でなら、誰にも迷惑は──」
「待ってくださいシロコちゃん!それでは昨日の二の舞に──」
「お二人とも落ち着いてください!!ここはまず足並みを揃えることが──」
精神的な支柱だったホシノを喪い、パニックに陥る対策委員会。流石に、これは一旦落ち着かせようか。そう思った私が口を開こうとしたその時だった。
ドゴォォォォォォォン!!!!!!
悲しみも混乱も吹き飛ばす。そんな爆発音が轟いた。
「爆発!?」
「今のは結構近いです……!」
これにはシロコ達もすぐ反応した。ホシノが居なくなった直後の爆発。既に嫌な予感しかしないが、その予感はカメラを確認していたアヤネの言葉で確信へと変わった。
「な……っ!?カイザーPMCがアビドス市街地を攻撃しています!!」
「「「カイザーPMC!!?」」」
「……来たか」
私がそう呟くと同時に、廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてくる。皆の視線が扉へと向かう中、乱暴に開けられた扉から顔をだしたのは、デザート迷彩が施されたオートマタ。言うまでもなく、カイザーPMCの尖兵だった。
「「「「っ!!!??」」」」
「っ!!居たぞ!!」
両者驚いたように顔を見合わせる。どちらも一瞬動揺したようだったが、動き出しはPMC兵の方が早かった。PMC兵は素早くこちらの動きを把握すると、持っていた銃を腰だめに構えて無造作に銃撃を始めた。
銃声と共に吐き出された鉄塊が、私の横を通り抜ける。他にも放たれた弾丸は私やシロコ達を狙うが、彼女達も上手く回避しながら攻撃をやり過ごしていた。その代わりに外れた弾が資料や置物に直撃し、背後のガラスがけたたましい音と共に割れる。
「こちらタンゴ1-3!対策委員会とシャーレの先生──ぐごっ!?」
攻撃を終えた兵士が喚くのを、シロコの上段蹴りが遮る。しかしどうやら後続の兵士も多数居るようで、廊下の方から複数の足音が反響して響いていた。
「なんなのよいきなり!?」
「ん、とりあえず。今はあいつらを追い返さないと……!」
突然の襲撃に混乱するシロコ達だったが、相手が相手なだけにすぐに戦闘態勢に入った。そして4人は各々の装備を引っ掴むと、そのまま廊下へと出ていって、カイザーPMCとの交戦を始める。
一方私はその様子を見送ってから、視線を机の上の手紙へと落とす。そこにはホシノが私に宛てた手紙があって、さっきの攻撃のせいか、中に書かれてあることが私の視界に飛び込んできた。
『信じてるよ』
たった一言だけ書かれた手紙。私はそれを手に取り丁寧に折りたたむと、白衣の内側にある胸ポケットへと収める。
「……始めるよ、ホシノ」
小さくそう呟きながら、私は先に出た彼女たちの後を追って行った。
「……黒服。これはどう言うこと」
黒服の拠点となっているビル。その窓際に立つホシノが、怒りを孕んだ声でそう問いかける。その窓からはアビドス市街を一望できるのだが、眼下では爆発音と銃声、そして人々の悲鳴が絶え間なく響いていた。
その騒動の中心にいるのは、武装したオートマタの群れ。戦車やヘリなど様々な兵器を用いて侵攻する彼らだが、その機体にはカイザーPMCのシンボルが刻まれていた。
「ふむ。どうやらカイザーPMCが攻勢を始めたようですね」
睨みつけるホシノの視線を、飄々とした態度で躱す黒服。まるで自分に落ち度はないとでも言うようなその態度に、ホシノの中で苛立ちが積もっていく。
そんなホシノの苛立ちも想定内なのか、黒服は弁明するように言葉を続ける。
「言っておきますが、私の所属はカイザーコーポレーションではありません。なのでこれは私たちに交わされた『お願い』とはなんの関係もありません」
それは、黒服が意図的に伏せていた情報。そしてセツナが予想していた罠の全貌だった。ホシノは黒服の所属をカイザーだと認識していたが、実際のところは全く別の組織だったというオチだ。そのホシノの誤認をあえて正さない事で、自分だけ契約の束縛から逃げる。それが黒服の罠だった。
さらに言えば、黒服は『お願い』の対価として借金の返済を提案したが、「アビドスへの攻撃禁止」までは結んでいない。もしこれが「契約」だったならホシノにも事前に口出しする権利があっただろう。しかしこれは黒服からの『お願い』であり、ホシノにはその『お願い』を履行する義務しかない。それを含めて、黒服の仕掛けた罠だった。
そして狙い通り、小鳥遊ホシノは黒服の手中に堕ちた。そうだと言うのに、黒服の態度からは喜ばしそうな反応は見られない。
「……しかし、狼狽えないのですね」
侵略される街並みを見続けるホシノに、黒服はそう言葉をかけた。窓に触れる彼女の手は震えていて、おそらく自分の落ち度を内省しているのだろう。
だがそれは、黒服の予想より小さな反応だった。本来の予想であれば、もう少し怒鳴り散らすものかと想定していたが……。そんな事を考えている中、ホシノはまるで縋るように言葉を零す。
「……先生なら、きっと何とかしてくれる。だって、そう約束したから」
「……天守刹那さん……ですか。私にはあの大人に何かできるとは思えませんがね」
軽く見るようなその発言とは裏腹に、その声色からは最大限の警戒が表れている。これまでの黒服の計画に良くも悪くも影響を与えてきた人物だ。気にならないわけがない。
しかし、既にホシノは黒服の手中にある。ここまできたのなら、あとは万事上手くいくだろう。様々な
「ではホシノさん、移動しますよ。どうぞこちらの方へ──」
そう言ってホシノの背中を押そうとする黒服。だがその言葉は、彼の伸ばされかけた手と同様にピタリと止まった。
「…………なるほど。『権能』ですか」
そう語る黒服の背中を、重苦しい重圧が襲っていた。まるで誰かに睨まれているような、居心地の悪さを感じる。それは以前あの大人を観察した時に起きた感覚と同じだった。
ただ以前と違うのは、その重圧に加えて背中が燃えるように熱いことだ。まるで背後に炎の柱が立っているような、チリチリとした熱気を感じる。それはホシノと手の距離が縮まる度に、明確に強くなっていた。
「つくづく厄介ですね……
忌々しそうなその言葉とは裏腹に、黒服の顔には嬉しそうな表情が浮かんでいた。
一方、市街地へと進攻するカイザーPMC部隊。その前線に程近い場所で、カイザー理事は部隊の指揮を取っていた。
今日の日も登らぬ内に黒服からホシノ退学の件を聞いた理事は、早速自らの軍を率いて目的達成の為に動き出したのだ。
『理事。アビドス市街地の制圧状況は64%。各所に目立った抵抗はなく、作戦は予定通り進行しております』
部下の報告は、概ね順調と言った様子だった。だがその報告を聞いてなお、理事の声色に喜びの色は見られない。
「そうか。しかし油断はするな。既に校舎の制圧に向かっていたシエラ小隊とタンゴ小隊は全滅している。奴らがここに来るのも時間の問題だ」
そう、まだ対策委員会が残っているのだ。彼女たちを叩き潰さない限り、理事にとっての勝利は有り得ない。2小隊をあっという間に潰された今、理事は奥の手を確実に切れる状況を伺っていた。
そして徐々に自分の方へと近づいて来ている銃声と悲鳴が耳に入ったことで、理事はその時が来たのだと静かに悟る。
「ほう……。市街地を抑えてからお迎えしてやろうかと思っていたが……手間が省けたな」
その視線の先では、4人の子供と1人の大人が立ちはだかっていた。間違いなく、対策委員会とシャーレの先生だ。どうやらここまでの部隊を全て殲滅し、ここまでやってきたらしい。
傍に控えていた部下たちは、皆打ち倒されて地面に転がっている。やはり彼女たちは、侮れない戦闘力を持っているようだ。これでは正面でやりあったところで、カイザーの被害も甚大だろう。
しかし、カイザー理事には狙いがあった。
「これはどういう事ですか!!いくら土地の所有者とは言え、企業が街を攻撃する権利なんて無いはずです!!」
「それに!学校への進行は明確な不法行為です!連邦生徒会に通報しますよ!!」
「いや、それよりも先にホシノ先輩はどこ?」
「そうよ!!この悪党、ホシノ先輩を返しなさい!!」
「……全く、何を言っているのやら。これだから子供はかなわんな」
彼女たちの抗議の声を、嘲るようにあしらう理事。その態度は余裕のあるもので、それが余計にシロコ達の神経を逆撫でる。そしてそんな事を気にすることなく、理事は次々と言葉を突きつけた。
「連邦生徒会に通報?やれるものならやってみるといい。しかし、君たちはこれまでも同じことをしてきた。そしてこれまで、奴らが君たちを助けたことはあるか?」
「それは……」
「別に連邦生徒会でなくても良い。他の学園が手を差し伸べたことがあったか?これまで、君たちの助けになった人は居たか?」
それらの言葉に、対策委員会は悔しそうに口を紡ぐ。反論なんて、ひとつもない。何故なら、それは紛れもない事実だからだ。
どれだけ救援要請を出そうとも、連邦生徒会は一切応じてくれなかった。もしもっと早く対応してくれていれば、彼女たちの
それは他の学園や企業も同じだ。誰も退廃するアビドスに手を伸ばさず、差し伸べられる手はみんな悪意に満ちている。誰も善意から、この砂に飲まれていく学校を救おうとは思っていなかった。
「……そろそろわかっただろう。誰一人、君達に手を差し伸べる人は居ない。それが決定的な事実だ。そしてこの場にはもう1つ、絶対的な事実がある」
追い詰められていく対策委員会。それを見た理事は、ついに自身の持っていた切り札を切る。
「非常に残念なお知らせだ。どうやら君たちの正当性は失われてしまったようだよ。これは君たちを証明するものは、もはや何もないということだ」
そう言って取り出したのは、何か黒い箱のようなもの。一瞬何かしらの武器かと身構える対策委員会だったが、その箱に刻まれた「IRON HORUS」という文字を見て、シロコ達の表情が一気に怒りに染まる。
「ホシノ先輩の盾……!」
「あんたらっ!!ホシノ先輩に何したの!!!!」
シロコの怒りを堪える声と、セリカの怒号が響く。だが理事はそれらを意に介さず、淡々と、事実だけを口にしていく。
「アビドス最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。つまりアビドスは生徒会機能を喪失した。これでは代わりの委員会も部活も存在しないアビドス高校の自立・存続は不可能だろう」
そう言って盾を無造作に投げる理事。投げ捨てられた盾は激しい音と共に地面にぶつかり、やがてシロコの目の前へと転がっていった。
見せつけるようなその振る舞いに、またシロコ達の怒りのボルテージが上がる。だが次に理事が放った一言によって、その怒りの火は一気にしぼんだ。
「だが安心するといい。あの校舎はこの土地の管理者であるカイザーが引き受け、新たな学校として生まれ変わらせる。名前はそうだな……『カイザー職業訓練学校』とでもしようか」
突然放たれた、あまりにも横暴な論理。あまりにも飛躍したその一言に、シロコ達の思考が一瞬止まる。
「はぁ!?何勝手なこと言ってんの!!?」
だが、それも一瞬のことだった。理事の言う理論は、あまりにも理不尽だからだ。例え生徒会が居なくとも、アビドスには対策委員会がまだあるのだ。
それを無視して勝手に校舎を奪い取ろうなどと、それは確実に違法行為だ。そんな理不尽を到底許せるわけがなく、セリカが怒りと共に反論を繰り出す。
「生徒会がなくたって、アビドスには対策委員会がある!そんな言い分が通じると思って────」
「────対策委員会は、正式な委員会じゃない」
「アヤネちゃん……?」
しかし、その反論は背後の親友からの一言で潰された。
「対策委員会ができた時には、もう生徒会がなかったから。対策委員会には、ちゃんとした認可が降りてないの……」
その事実に、途端に3人の顔が青ざめる。要するに、対策委員会は無いも同然だと言うことだ。それはつまり、先のカイザー理事の理不尽な論理も、何も間違っていないということにほかならない。
「そうだ。所詮は非認可の組織。あったところで権利を訴える正当性はない」
自らの勝利を確信したのか、カイザー理事が改めてその事実を突きつける。アビドスの心臓とも言えるアビドス生徒会。その生き残りである小鳥遊ホシノ。彼女がいるからこそ、アビドスはかろうじて学校という形を保っていた。
しかし、既に小鳥遊ホシノは退学。それにより生徒会も自動的に消滅した。その時点で、アビドス高校は学校としての自治区運営機能を喪ったのだ。
後はもう流れ作業だ。非公認の"違法な抵抗集団"を排除し、アビドスを職業訓練校としてカイザーの傀儡へと作り替える。そして最後の土地を回収し、アビドスに眠る『お宝』を探す。これら全て、理事が描いていたシナリオ通りの出来事だった。
「だが良かったではないか。これで君たちはあの借金地獄からようやく解放されるのだからな」
「そんな……。それでは、私たちの今までの努力が……」
「ほう、まさか本気だったのか?てっきり最後に『頑張ったよね』と言い訳するために、程々に頑張っていたのかと思っていたが……」
勝ち誇ったように、対策委員会を弄ぶ理事。その様子についに堪忍袋の緒が切れたのか、シロコとセリカがそれぞれの愛銃を構え、その引き金への指をかける。
「あんた……それ以上行ったら……っ!!」
「撃つ」
もはや殺気に近い怒気を放ちながら、2人は理事の頭へと狙いを定める。だがその背後から聞こえてきたアヤネの悲痛な声が、2人の指をピタリと止める。
「……今ここで戦って、なんになるんでしょうか」
震える声でそう漏らすアヤネ。その視線は、手元のタブレットから離れることは無い。
「今もすごい兵力がこちらに向かっています。例え戦ったとしても、学校が無くなれば戦う意味もない……。たとえ勝てたとしても、私たちには大きな借金が残ります……」
「アヤネ……」
「取引した土地も戻らない。ホシノ先輩も居ない。生徒会も居ない。一体どうすれば……!」
なんで……どうして?
私たちは一体どうすれば……?
彼女たちの状態は、正しく"詰み"だった。既に彼女たちの身分を証明するものはなく、勝率もなく、戦ったとしても、得るものはない。ただ負けを負けとして受け入れ、自分たちの居場所が蹂躙されるのを見続けるしかない。そんな理不尽な現実が、彼女たちの迎える結末だった。
こんな時、ホシノならどうしただろうか。しかし彼女はもう居ない。どうしようもない現実に打ちのめされて、アヤネのタブレットに涙が零れ落ちる。
万事休す。もはやもう、打つ手はない。
対策委員会の、皆の心が、確実に折れる。
そう思った矢先のことだった。
ドゴォォォォォォォン!!!!!!
ドドォォォォォォォン!!!!!!
再び、市街地のあちこちで爆発音が轟く。カイザーによる進攻がいよいよ佳境を迎えた。そう思っていた対策委員会だったが、その予想に反してカイザーの動きが慌ただしくなり始める。
『北方で連続した爆発を確認!!』
「ブラボー並びにエコー!応答せよ!!」
「東の方でも爆発!!デルタとマイクが巻き込まれて──」
「何だ!?何が起きている!?アビドスの連中は今ここに居る……!!」
部下からの突然の報告に、理事が分かりやすく狼狽えていた。どうやら集結していたカイザーの部隊が、謎の爆発に巻き込まれて被害を被ったらしい。
カイザーが混乱している中、対策委員会もまた思考が止まる。そして何が起きたのか理解しようとした彼女たちの耳に、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「全く、黙って聞いてれば泣き言ばっかり」
その声は、彼女たちの背後から聞こえてきた。振り返ってみれば、そこには赤いコートを風に靡かせ、手元のスナイパーライフルを煌めかせる"悪魔"の姿が。その背後には、見覚えのある3人が控えている。
絶望的な状況を変えるように、便利屋68が姿を現したのだ。
「何をすれば、どうすればいいかも分からない。やることは全部裏目に出て、乗り越えた先には苦境しかない。
────それが何だってのよ!!」
突如現れた悪魔──陸八魔アルの声が、意気消沈していた対策委員会の心を打つ。その気迫に対策委員会が、アルの背後に控える便利屋の仲間たちでさえも驚く中、アルは思いの丈をシロコ達へとぶつけていく。
「『目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高、我が道の如く魔境を行く』。それが私の憧れた、
「それなのに!!仲間の危機に!学校の危機に!!あなた達は何を手をこまねいているの!!」
「例え目の前にあるのが辛く苦しい茨の道でも、それは間違いなく道なのよ!だったらさっきの
捲し立てるように次々と想いをぶつけていくアル。その言葉の一つ一つが、シロコ達の心に響いてた。カイザー理事の言葉によって消されかけていた闘志の炎が、アルの純粋な想いによって炊き付けられ、息を吹き返していく。
やがて言いたいことを言い終わったのか、アルは深く深呼吸しながら、ゆっくりと息を整える。
「いやいや、アルちゃんもそれくらいにしときなよ〜。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから〜」
そんなアルに代わって、今度は浅黄ムツキが彼女へと歩み寄った。自身を呆然と見つめるアヤネへと歩み寄り、掛けていた眼鏡を外してから目元の涙をそっと拭う。
「それにしても、私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かせた罪は重いよ〜?」
アヤネの眼鏡を掛け直しながら、ムツキは気の抜けた様子でそう言った。だがその言葉とは裏腹に、漏れ出る気迫は明確な"殺意"を孕んでいるようで──
「これもう──ぶっ殺すしかないよねっ!!!」
振り返った彼女の爛々と光る瞳孔と、狂気的な笑みが全てを物語っていた。
「はぁ……ただラーメンを食べに来ただけだったのに。まぁ、対風紀委員会用の作戦の予行演習としては悪くないかな」
ムツキに続き、鬼方カヨコの面倒くさそうな声が響く。だがその声色もすぐに消え失せ、背後に立つ伊草ハルカへと素早く、そして的確に指示を出す。
「ハルカ、第2陣を即起爆。その後は時間を置いてから、第3陣、第4陣と畳み掛けて。タイミングはハルカに任せる」
「はい!カヨコ課長!爆弾第2陣、行きます!!」
カヨコの指示を受けて、ハルカが手元の起爆スイッチを押し込む。それと同時に各所から立て続けに爆発音が響き、揺れと爆風が当たりを駆け抜ける。そして爆発音が響く度に、カイザーの被害もより悪化していくようだった。
「クソッ!増援をこちらに回せ!!全ての兵力を持って、アビドスと便利屋を叩きのめせ!!」
突然の便利屋68の襲撃に、明らかに苛立ちを募らせる理事。あと少しで完全勝利だったのが、便利屋のせいで押し返されそうだった。
先程のアルの言葉が効いたのか、対策委員会の闘志は再び燃え上がってきている。しかしもう一度心を折ろうにも、既に手札はもうない。後は武力で押さえつけるしかないが、事態はそう上手くいきそうになかった。
「理事!!増援に向かっていたロメオ小隊とビクター小隊から襲撃を受けていると!!」
ここに来て、便利屋とは別勢力の襲撃だ。最悪なタイミングでの介入に、ついに理事は苛立ちを隠そうともしなくなった。
「こんな時に……!!今度はどこの連中だ!!」
半ば怒鳴りつけるように問い詰める理事。その様子に部下は少し萎縮しながらも、命令通り襲撃してきた集団の名前を彼に伝える。
「カタカタヘルメット団です!!待ち伏せによる奇襲と重戦車で両隊とも苦戦を強いられているとのこと……!!」
カタカタヘルメット団。その名前を聞いて、一瞬理事の思考が止まる。カタカタヘルメット団。いつしか理事が格下のチンピラと見下した集団がPMCを相手にして優勢?その事実に、理事はわなわなと拳を震わせていた。
「あの三流共め……っ!!!!」
「くく……ふふふ……」
理事の吐き捨てるようなそのセリフに、どこからか笑い声が聞こえてくる。明らかに嘲るようなその声の主は、今までこの状況を静観していた、シャーレの天守セツナだった。
「なんだ?何がおかしい!?シャーレの先生!!」
「いやいや、これが笑わずにはいられないよ。それとも、あなたは自分の言ったことを忘れたのかい?」
口元を手で覆いながら、セツナは1歩、前へと歩み出す。再起する対策委員会を追い越し、頼もしい便利屋68に見送られながら。セツナは誰よりも前に、カイザー達の前に立ちはだかった。
セツナの物言いに、苛立ちを隠せないカイザー理事。だがそれは、セツナもまた同じだった。自らの教え子の想いを無下に踏み躙られ、彼女たちの青春をこんな形で台無しにした。
彼もまた手札を切る機会を伺っていたとはいえ、もう我慢の限界だった。故に、吐き出される言葉には、明確に棘が含まれていた。
「『誰一人、君達に手を差し伸べる人は居ない』……だったっけ?現にこうして、手を差し伸べる人は居た。それも、あなたが犬のように使い潰してきた子達だ。飼い犬に手を噛まれる気分はどうかな?」
便利屋68もカタカタヘルメット団も、全て目の前の男の策略に巻き込まれた。門守セキの不幸も、陸八魔アルの葛藤も、全てはあの男が巻き込まなければ起きなかっただろう。そしてホシノも、自らの身を切るような選択をしなくて済んだはずだ。
だが結果的には、それらは必要な苦難だった。困難なくして、成長はありえない。生きていればいずれぶつかる困難だっただろう。しかし、だからといってこんな行いを許す気は到底起きない。
「それと、私が誰なのかって話だよ。それが分からないあなたではないだろう?」
ホシノの盾を拾い直しながら、セツナは理事へと問いかける。その言葉に、理事は言葉に詰まった。彼の所属は『連邦捜査部シャーレ』、あらゆる権限を飛び越える事が可能な超法規的機関だ。
確かにシャーレなら、この状況は解決出来るかもしれない。しかしそれでも、理事にはまだ勝ち筋が残っていた。
「だが、貴様がいくら喚いたところで、状況は何も変わらない!!既に小鳥遊ホシノは退学し、アビドスの生徒会組織は消滅した!その事実は変えようがないぞ!!」
そう、もう手遅れなのだ。今更シャーレが何かしようとも、もうこの状況は止められない。小鳥遊ホシノの退学も、生徒会組織の消滅も、今更無かったことにはならないのだ。
しかし、理事のその発言を聞いてなお、セツナは焦る様子を見せない。むしろ呆れたような態度をより一層強くしながら今一度口を開く。
「はぁ……本当に使えないな。ちゃんとした情報を集められないなら、その体についてる
後ろ髪をかきながら、面倒くさそうに呟くセツナ。その様子に理事の怒りがまた再燃するが、それよりも早く、セツナの手元が動き始める。
「まぁいい。教えてあげるよ。ニュースを見ろ、情報弱者め」
手元の『シッテムの箱』を操作しながら、セツナはそう告げた。すると近くの街頭モニターにノイズが走り、流れていた映像が別のものへと差し替えられる。
流されたのは情報番組の速報のようで、アナウンサーらしき兎の獣人が、手元の原稿へと視線を落としながら口を動かしていた。
『──では続いてのニュースです。本日未明、連邦捜査部「
その場にいた全員の視線が釘付けになる中、アナウンサーは淡々と原稿の内容を読み上げていく。
『内容は次の通りです。「アビドス高校における生徒会組織の機能不全が確認されました。そのため、シャーレ立ち会いのもと、同校の対策委員会を生徒会認可組織に認定。本日より生徒会機能を、一時的に同委員会へと移譲します」。この声明について、連邦生徒会は「シャーレの業務の一環である」とコメントしており──』
その後の内容は、全く耳に入ってこなかった。カイザーも、便利屋も、対策委員会でさえも。突然起こったことに愕然とした表情を浮かべ、モニターから視線を外すことができない。
しかし唯一、事の当事者のセツナだけは違った。今までにないくらい満面の笑みを浮かべながら、未だショックから立ち直れないカイザーに向けて宣告する。
「非常に残念なお知らせだ。どうやら君たちの正当性は失われてしまったようだよ。さっき君たちは、アビドスが健全に学業を営んでいた場所に無断で侵入した。その事を今から咎められるんだよ」
「き、貴様……っ!!!!」
以前自らが発した言葉をそのまま返されて、理事の声が憤怒に染まる。それがさらにセツナの顔を笑顔にするとも知らずに。今にも頭が爆発しそうなほどブチギレた様子の理事に対して、セツナはにこやかに言葉を並べていく。
「アビドス市街地への進攻はまだグレーだったが、校舎まで侵攻してきたのが君達の落ち度だよ。あの場所はまだ、
そう言ってからセツナは一触即発なカイザーから視線を外し、ショックから立ち直りつつある背後の生徒たちへと問いかける。
「さ、みんな。状況は作ったよ。君たちはどうしたい?」
彼の出した声明の通り、これで対策委員会はもうれっきとした認可組織だ。これからカイザーへ攻撃しても、校舎への不法侵入を理由に正当化することができる。
舞台は整えた。ここまでが、彼の仕事だ。あとは彼女たち対策委員会の選択次第。それを彼女たちもわかったのか、全員が互いに顔を見合せた後、シロコが覚悟を決めたように口を開いた。
「カイザーを追い返して、ホシノ先輩を取り戻す」
「……よし、じゃあ戦術指揮を始めよう」
彼女たちは選んだ。目の前のカイザーを打ち払い、奪われたホシノを奪還すると。その答えを聞いたセツナは満足そうな笑みを浮かべると、ここまでのやり取りを見守っていたアル達便利屋68の方へと向き直る。
「便利屋68、君たちに依頼を頼みたい」
「何かしら?」
「アビドスに協力して、カイザーを追い払って欲しい。報酬は──」
「報酬はいいわ。今回は
「…………そう。ありがとう、アル」
互いに短く言葉を交わす2人。こうして便利屋68との協力も取り付けたセツナは、懐から『シッテムの箱』を取り出すと、素早く戦闘支援システムを立ち上げた。
「全員、戦闘準備」
セツナの呼びかけと同時に、シロコたちのヘイローが淡い光を放つ。直後、戦闘支援システムの接続を受けたシロコたちの視界に、様々な情報が流れ込んできた。
まるで戦場を掌握したような、圧倒的な全能感。シロコ達の気分が高揚していく中、アビドスを守る戦いの火蓋が、セツナの宣告と共に切って落とされた。
「今から、アビドス市街地防衛戦を始めるよ」
その言葉と共に、アロナの操るドローンが空へと舞い上がっていった。
▽天守セツナ
カイザー理事の反応にご満悦
なお、理事とは一応初対面であることは忘れている
▽カイザー理事
まさに愉悦。直後にひっくり返される。
彼もセツナとは一応初対面であることは忘れている
▽黒服
全ては■■■■のシナリオ通り
だからこそ、イレギュラーに興味が湧く
▽アビドス廃校対策委員会
柱を失っても、何度でも立ち上がる
ここから彼女たちの反撃の時
▽便利屋68
茨の道を超えた者たち
そしてこれからも、自分らしさを突き進む
▽カタカタヘルメット団
今こそ、黒幕に一矢報いる時
彼女が居なくとも、その強さは折り紙つき
あとがき
年内にぃ!!!
完結しねぇ!!!(絶望)
こっからどうすれば7話も仕上がるんだよ()
次回 第28話「アビドス市街地防衛戦」
「やれるよ。私達2人なら、きっとね」