Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 強く、また雄々しくあれ。あなたがどこへ行くにも、あなたの神、主が共におられるゆえ、恐れてはならない、おののいてはならない

 ー ヨシュア記 1章 9節より ー







第31話 「ホシノ奪還作戦 Phase1」

 

 

 

 

 

 

 ーカイザーPMC前哨基地・司令室ー

 

 アビドス砂漠の奥地にある、カイザーPMCの前哨基地。普段は落ち着いた会話の交わされる司令室だったが、今日は朝から殺伐とした内容の報告ばかりが飛び交っていた。

 

 

「フォックストロット、キロ、リマ小隊との通信途絶!」

 

「目標さらに接近!!第1防衛ラインが突破されます!」

 

「迎撃に出た部隊の半数が行動不能!!敵は依然として健在!!」

 

 

 そしてその内容は、どれも自軍の不利を伝えるもの。朝っぱらからの襲撃に即座対応したカイザーPMCだったが、大人の指揮により破竹の勢いで進攻するアビドスの生徒を未だ止められずにいた。

 

 

「焦るな!!北と東から戦力を集めろ!!北方の対デカグラマトン大隊もだ!!」

 

 

 対するカイザーPMC理事は冷静さを保ちながら、余裕を持って各所に指示を飛ばしていた。敵はまだ少数で、こちらは整備中とはいえ圧倒的な数の利がある。詰め筋さえ間違えなければ、アビドス生ごとき余裕で潰せるだろう。

 そう考えていた理事だったが、どうやら現実は、理事の計算とは大きく乖離してしまっているようだった。それを最初に告げたのは、北方の部隊へ連絡をしていた部下からの報告だった。

 

 

「理事!!対デカグラマトン大隊との連絡が取れません!!」

 

「北方に少数ですが戦力を確認!!」

 

「……何!?」

 

 

 立て続けに飛んできた部下からの報告に、理事は驚きの声を漏らす。対デカグラマトン大隊は、あの砂漠の大蛇(ビナー)の対処を目的とした部隊だ。その規模も、練度も、兵器の質も、他の部隊とは一線を画す。

 それがたった少数の兵力で、全て殲滅されるとは。驚きを隠せない理事に見せつけるように、北方方面を捉えたカメラの映像が映し出される。

 

 その映画には瓦礫の山に佇む4人の人影が映っていた。

 

 

 

 

 

 ーPMC前哨基地より北側の砂漠ー

 

 

「はぁ……ざっとこんなとこかしら」

 

「お疲れ様です、委員長。今のところ、周囲に敵影は確認されません」

 

 

 自身を労うアコの声を聞きながら、ヒナは瓦礫の山を見渡してため息をつく。数は多いし少し厄介だったけど、普段の不良生徒を1日締め上げるのに比べれば、随分と楽な仕事だった。

 

 

「はぁ……なんで私達がこんなとこまで……」

 

(イオリはともかく、なぜ私も……?)

 

 

 そしてその背後では、ヒナと一緒に来ていたイオリとチナツが同じようにため息をついていた。そしてそのため息を耳ざとく聞きつけたアコが、鼻息を荒くしながら一気にまくし立てる。

 

 

「当然です!委員長が反省文の代わりにしてくれたんですから、ここで名誉挽回しなければ!」

 

「……そうは言っても、主にやらかしたのはアコちゃんじゃ……」

 

 

 本来なら今頃パトロールに出ている2人だったが、今日はヒナの命令……というよりはアコに半ば強制される形でヒナの援護に来ていた。

 もちろん最初は渋っていた2人だったが、前回のアビドスの一件で課せられた反省文をチャラにしてくれると聞かされれば、来ない選択肢は無くなっていたのだった。

 

 

「……そういえばアコ、ドローンはちゃんと撮影できてるかしら?」

 

 

 しばらくして、前哨基地を睨んでいたヒナがアコへと何かを尋ねる。その問いかけにアコもすぐに意図を察したようで、手元のタブレットを素早く操作していた。

 

 

「はい!ちゃんとカメラも回っていますよ、見られます?」

 

「そうね。敵の攻勢も止まったし、少し観察させてもらうわ」

 

 

 そうして、ヒナはアコのタブレットに映し出された映像へと視線を移すのだった。

 

 

 

 

 

 ーカイザーPMC前哨基地・司令室ー

 

 

「あれは……ゲヘナの風紀委員か……!!?」

 

 

 画面に映ったその人物がわかると、理事は困惑した表情で画面を睨んでいた。

 彼女の実力を、キヴォトスで知らない者はいない。あの悪名名高いゲヘナの問題児たちを、たった一人でまとめあげているのが彼女だ。その力はもはや人ではなく戦略兵器。故に、理事の判断は早かった。

 

「奴らを釘付けにしろ!!防衛用のゴリアテ部隊を展開!東の増援も北方に回せ!!」

 

 

 これ以上彼女を、自由にさせてはダメだ。戦闘不能にできずとも、せめてあの場所に抑えておかなければ。そう考えていた理事だったが、現状にそんな余裕はない。

 

 

「理事!!東方の増援部隊が敵を確認したと!!」

 

「なんだと!?この期に及んで……!!」

 

 

 東方の増援にも、敵の魔の手が迫っていたのだ。

 

 

 

 

 

 ーPMC前哨基地より東側の砂漠ー

 

 

 

 登ったばかりの太陽が、アビドス砂漠を照りつけ始める。そんな中、アタシはいつものヘルメットを被りながら、砂漠のど真ん中で座り込んでいた。

 夜のうちに冷えた地面が、触れた肌を通してこの場所の過酷さを伝えてくれる。それを黙って享受しているアタシの脳裏では、昨日の夜に交わした会話が過ぎっていた。

 

 

 

 

 

「……なるほどね。セツナ先生からの救援依頼か」

 

 

 部下からの復興状況が記されたメモの整理中。珍しく真剣な顔でやって来きたセキが、そんな話を持ちかけてきた。

 聞いたところによると、哨戒中のセキの元にセツナ先生がやってきて、攫われたアビドスの生徒を助けるのに手を貸して欲しいといわれたらしい。

 

 

「……先輩。どうにか助けてあげることってできませんか?セツナ先生も、できる限りの支援はしてくれるそうですし……」

 

 

 珍しく即答しない私を前に、セキの表現が曇り始める。そういえばここ最近、セキがこうして自分の意見を進言してくることが増えてきた。今までは私の言うことに素直に従っていたのに、いつの間にか自分の考えを持つようになっていたらしい。

 その変化を与えたのは間違いなく、アビドスの生徒達やあの大人だろう。"アタシ"としては、とても嬉しいことではあるね。そう言う面で言えば、あの子を成長を促してくれた"借り"を返したいところではあるが……。

 

 

「セキ。あんたの言いたいことは理解するよ。でもね、世の中には"どうしようもないこと"ってもんがあるのさ」

 

 

 残念ながら、今の私らにそんな余裕は無い。

 

 

「今の私らの状況は知ってるだろ?衣食住を整えるのに精一杯で、ろくな防衛も居やしない。あんたが毎日哨戒に出張ってるのがいい証拠さ」

 

 

 本当なら、1人に負担を集中させるような真似はしたくなかった。特に長い家出から戻ったばかりのセキには。でもそうせざるを得ないほど、今のカタカタヘルメット団は弱くなっていた。

 便利屋からのダメージはある程度立て直したとはいえ、まだ以前までの水準は戻ってきていない。それに加え、先のアビドス市街地での戦闘で負った損耗。私らは未だ本調子を取り戻せてはいない。

 

 

「それに、相手はあのカイザーだ。これまでのスケバンやアビドスの連中とは違う。1度噛み付いたなら、後はどっちかが死ぬまで潰し合いになる」

 

 

 それが一番、アタシが渋っている理由だ。いつものスケバン共のような小競り合いでも、アビドスの子たちのように話ができる相手でもない。何故なら相手には、私らみたいな不良の話を聞く義理はないんだから。

 

 

「……相手は大企業。こっちはチンピラ集団。もし殴り合いを始めたなら、結果は火を見るより明らかさ。それはあんたが1番身に染みてわかってるだろ?」

 

「…………ですが……」

 

「あんたが『守る』のかい?……でも、それは無理ってもんだ。今回は武力ばかりが通じる相手じゃないからね」

 

「……はい」

 

「それに……だ。守る守るとは言うが、何も知らないあんたに、何ができるのさ?」

 

 

 アタシから鋭い指摘が飛ぶ度に、セキの表情が苦々しく歪む。その顔を見ているうちに、アタシの胸もチクッと痛んだ。今更ではあるけど、これまでセキに厳しい言葉をかけたことはあまりなかったから、互いにこういう状況に慣れてないのかもしれない。

 でも、今回ばかりは心を鬼にしなくちゃならない。アタシはこの子の母親ではあるけど、それと同時に組織のリーダーでもある。ヘルメット団を率いる者として、みんなの安全をアタシが保証しなくちゃいけない。

 

 

「……分かりません。リーダー先輩の言う通り、私は何も知りませんから」

 

 

 しばらくして、セキの口から絞り出すように言葉が漏れた。

 

 

 

「先輩に拾われてから。……いや。生まれてからずっと、この家と砂漠だけが、私の世界でした。そんな小さな世界(・・・・・)を守りたくて、私は頑張ってきました」

 

「……そうだね」

 

 

 セキの努力。それはアタシも、他のみんなもよく知っている。カタカタヘルメット団がこうしてアビドスで生きてこられたのも、セキが頑張ってくれたところも大きいから。

 そして今、その努力を向ける先が変わりつつあることも、アタシは気づいている。

 

 

「でも、今は違うんです。先輩達だけじゃない、他に守りたい人が出来ました。でも今の何も知らない私じゃ、世界との戦い方も分かりません……」

 

 

 ポツポツと語られる、セキの弱音。今までなららしくない気を回して抑え込んでいただろうそれが、こうしてポロポロと吐き出されていく。それほどまでにセキを変えたのは、きっと前の家出の件だろう。

 そこで何を見てきたのか、アタシは知らない。あの子が──いや。彼女が見て、彼女が体験した全てを、アタシが体感することはできない。だからアタシが彼女にできることは、これだけしかない。

 

 

「……だったら、どうするんだい?」

 

 

 尋ねる。そして答えを待つ

 

 あの子が経験してきたことを糧に、どんな答えを出すのか。未知の世界(知らないこと)を通じて、彼女が何を理解した(知った)のか。それを知るために。

 私の射抜くような視線を受けてか、セキの表情が引き締まる。そしてあちらも真剣な瞳で見つめ返すと、1度深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「……リーダー先輩。私は──」

 

 

 

 

 

 

『リーダー。お客さんだよ』

 

 

 インカムから、佐山の声が聞こえる。それと同時に、地鳴りとも言える複数の足音。それはつまり、私らの仕事の時間がやってきたってことだ。

 

 

「了解したよ。総員、戦闘準備

 

 

 座り込んでいた砂地から腰を上げれば、背後の仲間達もゾロゾロと立ち上がる。その数は多くは無いけど、今の私たちの戦力は歩兵だけじゃない。それを示すように、背後から同じような地鳴りの音が聞こえてくる。

 そして姿を表したのは、3台の黒い重戦車。そう、前に私らが使ってた『Flak41 改』だ。どうやらあの大蛇との戦闘の後、セツナ先生がしれっと回収していたらしい。それが今回の作戦に参加するにあたって、私らの元に帰ってきたのだ。

 

 

「佐山、大物の相手は任せたよ」

 

『了解。1号車より2号車・3号車へ、対戦車戦闘用意。目標前方、接近中の敵戦車。1号車より発砲。弾種HEAT。射撃指示を待て』

 

『『オールコマンド、アイコピー』』

 

 

 戦車隊たちが準備を整える一方。アタシの背後の歩兵部隊も着々と戦闘準備を進める。しかしよく見ると、その表情からはどこか無理をしそうな雰囲気が漂っていた。

 当然だろうさ。昨日の今日でまた戦闘。こっちには休む暇すらありゃしない。中には万全な状態じゃないやつだっている。

 でも、そんなこの子らがこの場所に居るのは、他ならない彼女たち自身の意思だ。セキが選んだ選択。それを後押しするために、皆一丸となって立ち上がった。

 

 あの子がなんの心配もしないように。

 あの子に守って貰わなくていいように。

 

 それが私らにできる、あの子への恩返し。

 

 

「よし!それじゃ全員、戦闘開始だ!!あの子のためにも、誰1人欠けるんじゃないよ!!!」

 

「「「「了解!!!リーダー!!!」」」」

 

 

 私の宣言に答えるように、数多の声と砲声が重なって響いた。

 

 

 

 

 

 ーカイザーPMC基地・正面ゲート前ー

 

 

 

 ヘルメット団本隊が接敵した頃。真正面から攻勢をかけたセツナと対策委員会は、消耗を抑えながら敵の数を減らすこと成功していた。

 

 

「ノノミ、指定範囲内の敵に射撃」

 

「はい!お仕置の時間ですよ〜♣️」

 

「セリカ、マーキングした目標に牽制射」

 

「おっけー……やっ!!」

 

 

 敵集団はノノミのミニガンによって薙ぎ払われ、反撃しようとした者はセリカからの精密射撃に阻まれる。さらに敵陣中央に向けてシロコが突撃する度に、無力化されたオートマタの残骸が分かりやすく数を増やしていた。

 これにはたまらず増援を要請していたPMC兵たちだったが、残念ながらそれは1度たりとも叶っていない。何せ増援予定の戦力は、風紀委員会とヘルメット団によって軒並み足止めを食らっているからだ。

 セツナ達の快進撃の理由はそれだけではない。彼女達が必死に叫んだ助けを呼ぶ声は、意外なところからの支援も引き出せていた。

 

 

「シロコ、砲撃が来るから即時撤退。アヤネはシロコの援護を」

 

「ん、わかった!」

 

「了解です!!」

 

 

 セツナの指示により、シロコがその場から急いで距離を取る。もちろん追撃しようと前進するPMC兵達だったが、アヤネの投下した爆薬によって行く手を阻まれる。

 そして爆破でたじろぐ彼らの耳に、何かが空を切る音が近づいてきていた。

 

 

「4……3……2……弾着、今!!」

 

 ドドドドドドドォォォォォォン!!!!!

 

 

 そしてセツナのカウントに合わせるように、先程までシロコがいた位置を中心に爆発が発生する。しかもそれは1つ2つの話ではない。十を優に超える爆発が、カイザーPMCを部隊ごと吹き飛ばしていった。

 

 

『どうでしたか先生?』

 

「ありがとうヒ──ファウスト様。場所もタイミングもドンピシャですネ」

 

『あうぅ……その呼び方はちょっと……』

 

 

 インカム越しにセツナが茶化せば、向こうから少し焦ったような声が聞こえてくる。相手はトリニティの帰宅部所属、阿慈谷ヒフミ。今回はシロコ達の支援要請に答え、覆面水着団の首魁(ドン)であるファウストとして参戦していた。

 しかも驚いたことに、彼女が引き連れてきたのはトリニティの生徒会である「ティーパーティー」が有する榴弾砲部隊。「 L188 105mm牽引式榴弾砲」十数台による支援砲撃が、セツナ達に立ち塞がる敵を全て吹き飛ばしていた。

 

 そして今の砲撃で、出張ってきていた防衛戦力は全て殲滅された。後は目の前で行く手を塞いでいる分厚い正面ゲートをぶち破るだけだ。

 

 

「次は正面ゲートをお願いしてもいいかな?」

 

『はい!皆さんお願いします!!』

 

『わかりました。諸元修正、仰角16度、右に3度!』

 

 

 ヒフミを経由して送られた座標に向けて、砲手達が狙いを定める。だがしかし、カイザーもただやられる訳では無い。これまでに行われた支援射撃によって部隊の位置特定に成功していた。

 

 

「敵の砲撃陣地はこの先か!?」

 

 

 そして今、彼女たちの元にカイザーの別働隊がじわじわと接近しつつあった。彼らの目的は、これ以上の支援攻撃を阻止すること。何度目かの砲声が響く中、彼らは駆け足になりながら目標地点へと進んでいく。

 

 

「しかしアビドスの連中め、榴弾砲なんかどっから持ってきやがった……!」

 

「なんでも、撃ってきてるのはトリニティのやつだとか!」

 

「トリニティ?なんであいつらがアビドスに」

 

 

 想定外の戦力に、先頭を進むPMC兵達が愚痴を零す。しかし、それを言ったところで現実は何も変わらない。

 

 それどころか、もっと悪くなりそうだった。

 

 

 べギャッ!!!!!

 

「うっ──」

 

 

 フレームが激しく歪む音と共に、先頭に立っていたオートマタが呻き声をあげた。何事かと周囲の視線が集まる中、件のオートマタの身体がグラりと前に倒れ込む。

 

 その向こう側に居たのは、白い翼を持った天使の少女──門守セキだった。

 

 

「それだけ、あなた達のリーダーが余計なことをしたということですよ」

 

 ⟬────────────!!!!!!⟭

 

 

 見慣れない黒いケースを背負った彼女は、オートマタの頭部へとめり込んでいた片足を抜きながら冷たく言い放った。それと同時に鯨のような唄声が響き渡り、彼女のヘイローが若葉のような緑に染まっていく。

 

 

「──っ!!敵襲!相手は『白鯨』だ!!」

 

 

 その様子に面食らっていたPMC兵達だったが、すぐに再起動してライフルの引き金を引いた。自分に向けて容赦なく飛んでくる銃弾達を、セキは地を蹴って回避する。

 避けるついでに敵の部隊構成を確認しながら、愛銃のハンドガンとアサルトライフルを素早くチェック。そして敵の弾幕が弱まったタイミングを見計らうと、足に力を込めて一気にオートマタ達の方へと跳んだ。

 

 

「やあっ!!」

 

 

 着地の間際に近くのPMC兵をライフルの銃床で殴りつけてから、勢いそのまま敵部隊の中央に着地する。そこから神秘を放って索敵を一瞬で済ませると、おおよその敵位置に向けて両手の銃をぶっぱなした。

 

 

 ダダダダダダダダダダダッ!!!!

 ダンっ!ダンっ!ダンっ!ダンっ!

 

「ぎゃっ!」

 

「ぐぁっ」

 

「がぅっ」

 

 

 2種類の銃声とオートマタの悲鳴が重なって響く。数が多いことと、着地地点が敵部隊のほぼど真ん中だった幸いし、ほとんど鴨打ちに近い状態だった。

 しかし、数は圧倒的にカイザーが多い。セキの両手の銃は全ての弾を吐き出し終えたというのに、カイザーの兵はまだ数人生き残っていた。

 

 

「こいつ弾切れだ!!今のうちに──がっ!?」

 

 

 無防備なセキを狙うオートマタ。しかしその横っ面を突然衝撃が襲った。

 

 

「何だ!?」

 

「スナイパーだ!!3時ほ──うぎゃ!!」

 

 

 報告する間にも次々と銃弾は飛来し、寸分の狂いもなくオートマタの意識を刈り取っていく。そして手早くリロードを済ませたセキの視界には、倒れ伏すオートマタの残骸が広がっていた。

 

 

「これで全員かな?……やっぱ、誰かに助けてもらえるのはありがたいね」

 

 

 榴弾砲部隊の護衛を終え、張り詰めていた緊張の糸を緩めるセキ。しかし、PMC兵達と戦うのはこれで2度目だが、今回は前とは違って、随分とやりやすくなったように感じていた。

 わかりやすく違うのは、やはり味方が居ることだ。前回とは違って、今回は武器や弾薬の消耗を気にせず戦える。それにさっきみたいに、自分に足りない部分を補い合えるのが良い。

 でも、一番違うと感じるのは、心の在り方。前のように絶望ばかりの心じゃない。未来の自分への希望と、大切な友達の力になれる喜びが、今のセキの背中を押している。

 

 

「お疲れ様です。先輩」

 

 

 そんな感慨に浸っていると、先程の正確無比の狙撃を見せた飛葉山ヨミがやってきた。彼女が合流しに来たということは、どうやら敵の増援はないらしい。

 

 

「うん!飛葉ちゃんもお疲れ様〜。相変わらずナイス援護だったよ!」

 

「ありがとうございます。それで、この後はどうします?」

 

「……そうだね。私たちもそろそろ、大元を叩きに行こう」

 

「わかりました。……あっちも、かなり激しくやってるみたいですね」

 

 

 背中の黒いケースを背負い直しながら、セキは前哨基地の方角へと視線を向ける。その先では幾つもの黒煙が立ち上っていて、こことは比べ物にならないくらいの激戦になってることがすぐに想像できた。

 だから、セキたちもそこに向かうのだ。榴弾砲を狙う敵も、友達の邪魔をするやつも、全員纏めてぶっ飛ばすために。あの時とは全く違う思いを抱えながら、かつて敗北を味わったあの場所へと向かっていく。

 

『生きなさい』

『誰かのためじゃない』

『あなた自身の願いのために』

 

 あの時、あるいはいつか、どこからか聞こえてたあの言葉。その言葉の意味を、今のセキは正しく受け取れていた。そして今、少し離れたあの場所で、苦しみながらも戦っている友達に向けて、同じように言葉を送ろうと思うのだ。

 

 

 行ってらっしゃい、シロコちゃん。

 誰かのためじゃない。

 

 あなた自身の願いのために。

 

 

「頑張ってね、シロコちゃん」

 

 

 

 

「──うん。頑張る」

 

 

 聞こえた気がした励ましの言葉に、シロコは力強く頷くことで応える。そんな彼女の目の前では、鉄壁のようだった正面ゲートが音を立てながら崩壊していた。

 最後の砦である正面ゲートは、榴弾砲部隊による一斉射撃、それを2回も叩き込まれたことにより崩れ去った。ゲートの防衛部隊も既に居ないため、もう彼女達の侵入を阻むものはない。

 

 

「みんな、行くよ!!」

 

「「「「はい!!!!」」

 

 

 セツナの呼び掛けに応えながら、対策委員会は堂々と正面から前哨基地の中に入っていった。

 

 

 

 

 









「正面ゲート防衛線、突破されました!!」

「ゲート守備隊は全滅!榴弾砲を抑えに向かった部隊との連絡も繋がりません!!」


 部下から伝えられる報告を理事は信じられないような思いで聞いていた。だがどれだけその報告を嘘だと切り捨てても、司令室中に響く警報が、それが現実だということを突きつけてくる。


「何故だ……何故なんだ……!!」


 誰に聞かせるでもなく、理事はそう吐き捨てる。その胸中には、理解できないことに対する疑問ばかりが渦巻いていた。


(何故、ゲヘナの風紀委員会が居るのだ。ここはアビドスで、しかも何も無い辺境の砂漠だ。わざわざ彼女達が出向く理由は無いはずだ)


 だがしかし、実際に彼女達は現れた。

 対デカグラマトン大隊を殲滅し、追撃に送り出した部隊を砂を払うように吹き飛ばしながら。そこまでする理由が、理事には分からなかった。


(何故、カタカタヘルメット団を相手にあれほど手こずっているのだ。奴らはただの寄せ集めのチンピラ。あの門守セキさえいなければ、取るに足らん存在のはずだ)


 だがしかし、彼女達は反抗した。

 家族同然までに培われた絆を巧みに使い、仇敵(・・)と協力しながら、今も増援部隊を相手に必死の防衛戦をしている。そこまで抵抗できる理由が、理事には分からなかった。


(何故、アビドスの奴らはここまでするのだ。小鳥遊ホシノなど諦めて、学校を捨てて出ていけばいいのだ。それが最も良い選択だと言うのに、何故それがわからんのだ)


 だがしかし、彼女達は理解していた。

 その上で、彼女たちは選択した。どれだけ苦しんだとしても、大切な仲間を……小鳥遊ホシノを助けるということを。その選択をする理由が、理事には分からなかった。

 何故だ。何故だ。何故だ。そう何度も問い続ける理事の元に、部下からある報告が齎される。


「理事、技術班より報告が」

「……何だ?」

「『例の機体(・・・・)』の最終調整が完了。4機全て、出撃可能との事です」

「……そうか!あの機体があったか!!」


 その言葉を聞いた理事の表情が心做しか明るくなった。

『例の機体』……それは数日前に、謎の暴走事故を起こした新型兵器。当時は味方に攻撃するなど酷い暴走状態ではあったが、あの門守セキを追い詰めて戦闘不能にするほどの力を示して見せた。
 そして今、その機体の最終調整が終了した。また土壇場で暴走する可能性もあるが、戦えないよりかはマシだ。1機でも門守セキを追い詰めたのに、今ではそれが4機分。暗雲が垂れ込んでいた理事の心に幾筋もの光明が指していた。


「技術班に伝えろ。4機全て、すぐに出せ

「はっ!しかし、技術班からは出撃には時間を要すると……」

「構わん!!時間なら私が稼ぐ!!今すぐ出撃準備だ!!」

「りょ……了解であります!!」


 理事の剣幕に気圧されながら、部下は急いで技術班へと指示を伝える。
 一方の理事はと言うと、基地内部へと侵攻する対策委員会たちを映した画面を見つめながら、どこか不敵な笑みを浮かべているようだった。


「今は勝ち誇るといい。だが、最後に勝つのは我々だ……!!」


 そう呟いてから、理事はモニターに背を向ける。彼自身も時間稼ぎのため、あるいはこれから敗北する者の姿を拝みに行くため、スーツを翻しながら司令室を後にするのだった。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 ▽リーダー先輩
 組織のリーダーであり、セキの母親。
 彼女の選択を、心から応援している。

 ▽飛葉山ヨミ
 ヘルメット団の切込隊長。
 彼女の後釜として、彼女の背中を押す。

 ▽ファウスト
 覆面を被り、トリニティの生徒会(ティーパーティー)の戦力を拝借できる"普通"の女子高生。

 ▽アビドス廃校対策委員会
 かつてないほど絶好調。
 ホシノの所まで、あと少し。

 ▽ゲヘナ風紀委員会
 以前の借りを返しに来た。
 ある人物の動向を追っているようだが……?

 ▽カイザーPMC
 想定外の戦力に対応できていない。
 しかし、逆転の手はまだ彼らの中に……。





あとがき

今回は視点の移り変わりが激しいかったと思いますが、どうでしょうか……?アビドス編もまもなく最終決戦。存分にお楽しみくださいな!

P.S ここ数週間、デカグラマトン編だのエヴァ新作だので情緒がグチャグチャになり続けてるぞ()





 次回 第32話「ホシノ奪還作戦 Phase2」


「『守ってみせる』って、約束したからね」




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