Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 油断することなく、あなたの心を守れ、命の泉は、これから流れ出るからである。

 ー 箴言 4章 23節より ー







第32話 「ホシノ奪還作戦 Phase2」

 

 

 

 

 

 

 ヒフミやヒナ、ヘルメット団の援護を受けて、正面ゲートの突破に成功したセツナと対策委員会。そのまま内部に侵入した彼らは、迎撃に出てきた部隊を蹴散らしながら、ホシノの囚われている実験室へと近づきつつあった。

 そしてちょうど前哨基地の中央あたりに差し掛かった頃、周囲を警戒していたアヤネが付近の様子が少しおかしい事に気づき始める。

 

 

「……あれは、黒板でしょうか?」

 

「言われてみれば、あちらに見えるのも学校の机……に見えますね」

 

 

 アヤネの言葉を皮切りに、他のメンバーも違和感に気づき始める。机、黒板、壁掛けの扇風機のようなものに、スピーカーの残骸らしきもの。極めつけに、セリカがある決定的なモノを見つけた。

 

 

「あっ!?あれってアビドスの校章じゃない!?」

 

 

 瓦礫の山の中に、ポツンと佇むコンクリートの欠片。そこに三角形と太陽が象られたアビドスの校章が描かれていたのだ。一見汚れのようにも見えたそれだが、よく見ると違うとわかる。そしてこんなもの、自然とつくものではない。

 

 

「……ん、ならここはもしかして……」

 

「察しの通り。ここはアビドス高校の本館、その跡地だ」

 

 

 シロコの言葉を繋ぐように、物陰から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「かつてのアビドス。キヴォトスで最も栄え、最も恐れられた栄光。しかし今となっては、『つわものどもが夢の跡』……という訳だ」

 

 

 そう言いながら姿を表したのは、この基地の主であるカイザーPMC理事だった。ここまでアビドスを苦しめ、ホシノを攫って捕まえている元凶。その出現に、対策委員会の警戒心が一気に跳ね上がる。

 

 

「あんた!まだ邪魔するの!?」

 

「邪魔か……。それはこちらのセリフだ」

 

 

 心底うんざりといった声色のセリカに対し、理事もまた同じように言葉を返す。

 

 

「お前たちが目障りだった……。私たちがどれだけ手段を講じても、滅びかけの学校にしがみつき……どうにか借金を返そうと……!!」

 

 

 カイザーが手に入れれなかった最後の土地。それを奪うために理事は借金とヘルメット団、そして便利屋68を使って追い詰めていた。その責め苦は、ただの学生が味わうにはあまりにも辛く、苦しいものだったろう。

 それでも尚、彼女たちは諦めなかった。だから見せしめのように借金の利率を上げたうえ、ホシノの退学でより絶望的な状況に追い込んだはずだったのに……。

 

 それでも尚、彼女たちは折れなかったのだ。

 

 

「お前たちのせいで!!私の計画が!!!!計画がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 自ら建てた計画の破綻を認めたくないのか、理事が頭を抱えて怨嗟の叫びを轟かせる。だが、どれだけ叫んだところで、対策委員会に響くことはない。

 

 

「はん!あんたみたいな下劣で浅はかな奴なんかに、私たちの心は屈したりしないわよ!!」

 

「そうです!!あなたみたいな情けない大人になんか負けません!!」

 

「ホシノ先輩を、返してもらう」

 

 

 それぞれ檄を飛ばしながら、一斉に戦闘態勢に入る対策委員会。それに対し理事は高笑いを上げながらどこかへと合図を送った。

 

 

「ふははは!!いいだろう!!この戦力を突破できるのならな!!」

 

 

 それに呼応するように、セツナやアヤネの視界に敵を示すフリップがどんどん数を増えていく。次々と現れた敵の数は10や20を軽く越え、まるで壁のようにセツナ達を囲っていった。

 

 

「この数、この基地の残存戦力の殆ど……いや、全てです!!」

 

「……なるほど、総力戦か」

 

 

 歩兵に重装兵、改造戦車にゴリアテ。それらが対策委員会を囲むように集まった。そしてトドメとばかりに、理事の背後にどこか見覚えのある黒い機体が現れる。おそらく、アビドス市街地の戦闘で撃破した「ラフミ」だ。

 しかし、右腕がなかったりあちこち塗装が禿げていたりと、どうやら修復は間に合っていないようだった。そんなものを持ち出してまで、理事はセツナたちを止めたいようだ。

 

 

「いいことを教えてやろう、対策委員会。小鳥遊ホシノはこの先の実験室に隔離されている。だがもう間もなく、実験が始まる頃だろう」

 

「……っ!!?」

 

 

 理事の言葉に、シロコたちの表情に焦りの色が見え始める。ゴールはすぐそこ、目の前の戦力さえ叩き潰せば、あとはもうホシノを助け出すだけ。しかし、目の前の敵は楽観視できるような数ではなかった。

 はっきりいって突破はできるだろうが、ホシノの事を考えれば、悠長に時間をかける余裕は全くない。なら一点突破で包囲を破るか……。そう思案するセツナの背後で、いきなり爆発音が轟いた。

 

 

 ドオォォォォォン!!!

 

「ぐあっ!!」

「何だ!?何事だ!?」

 

 ドオォォォォォン!!!

 

 

 混乱するオートマタの悲鳴が、度重なる爆発音によってかき消される。突然の出来事に、理事も対策委員会も困惑することしか出来ない。

 しかしセツナだけは、手元の『シッテムの箱』を見てニヤリと笑みを浮かべていた。そして爆発音が止むと同時に、背後から近づいて人物に微笑みかける。

 

 

「ナイスタイミングだよ、アル」

 

 

 包囲を食い破って現れたのは、スナイパーライフルを抱え、便利屋68のシンボルが刻まれたコートを羽織った少女。陸八魔アルを筆頭に、ムツキやカヨコ、ハルカが加勢に来てくれたのだ。

 

 

「ごめんなさい、先生。ヘルメット団側の対処で遅れてしまったわ」

 

 

 開口一番に、アルは申し訳なさそうに謝罪する。彼女たちには東のヘルメット団の援護を任せていたが、そちらの方はどうやら片付いたようだった。

 しかし、このタイミングでの登場ということは、彼女の目的はおそらく…… 。

 

 

「遅れたお詫びと言っちゃなんだけど、代わりにここは私たちが受け持つわ。あなたたちは先に行きなさい!!」

 

 

 突破のアルの宣言に、その場にいた全員が息を飲んだ。セツナはヘルメット団の援護以降の指示は出していなかったのだが、どうやら自主的に対策委員会の援護にやってきてくれたらしい。この状況でのまたとない援軍に、セツナや対策委員会の胸の内で感謝の言葉が溢れ出る。

 

 

(や、やや、やっちゃった──────!!!)

 

 

 なお、アルの胸の内では例の顔と共に心臓か破裂しそうなほど焦っていたのだが。幸い(?)にもそれが対策委員会に伝わることは無かった。だが羨望の眼差しを送るハルカを除き、ムツキとカヨコにはしっかりとその胸中を見抜かれているのだった。

 

 

「流石ですアル様!!やっぱり、一生着いていきます!!」

 

「あはっ!良いねぇ〜そう言うならやっちゃおっか!」

 

「……はぁ。ま、社長がそう言うなら」

 

「でも、この数を相手に4人だけでは……」

 

 

 アヤネの言う通り、未だ状況は苦しいことに変わりはない。確かに便利屋68はかなりの手練だが、この数を相手にするにはいささか不安が勝る。せめても、あともう1人か2人欲しいところだったが、その時どこからか声が聞こえてきた。

 

 

「なら、私たちも手を貸すね」

 

 

 唐突に辺りに響いたその声は、空の上から聞こえてきた。声のした方を見上げると、そこには太陽を背に、翼をはためかせて宙に留まる人影があった。

 

 

「セキ!!」

 

「あっは!お待たせしました、先生!榴弾砲の防衛も兼ねて、今から援護します!!」

 

 

 その特徴的な姿を見間違えるはずがない。天から舞い降りたセキはシロコたちを見つけると、その顔に不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとシロコたちの傍へと降り立った。

 

 

「よし、それじゃ始め──」

 

「ちょ!先輩!早く下ろしてください!これかなり恥ずかしいです!!」

 

「──ひぇ、ごめんね?」

 

「その声……まさかヨミ!!?」

 

 

 しかもよく見れば、セキに抱き抱えられているヨミも居た。どうやらセキはヨミを抱えたまま、後方の砲撃陣地からここまで移動してきたらしい。

 顔を真っ赤にしたヨミを下ろしながら、セキもまた臨戦態勢に入った。それにつられて、ヨミも自身の愛銃(エモノ)である『Visible Eyes』を構える。

 便利屋68の参戦、そしてセキとヨミの合流。これで戦力差はないも同然だ。これなら安心してここを任せられる。心強い援軍たちの登場に、対策委員会の表情から焦りが消えていった。

 

 

「行って、シロコちゃん。あの人を助けるんでしょ」

 

「……ん!ありがとう!」

 

「みなさん、ありがとうございます〜!!」

 

「礼は言わないけど……終わったらみんなでラーメン食べに行くわよ!!」

 

「いいわよ。あなたたちも、早く助けて無事に帰ってきなさい!!」

 

 

 セキ、そしてアルからの激励を背に、対策委員会は包囲網の突破を開始した。無論カイザーもその動きを妨害しようと動き始めるが、便利屋68の連携と、ヨミの援護を受けたセキの遊撃により、思うように動けていない。

 

 

「かかってきなさい!あなたたち全員、纏めて吹っ飛ばしてあげるわ!!!」

 

「シロコちゃんたちを倒したいなら、まず私たちから倒してもらいますよ!!!」

 

 

 背後から聞こえてくるそのセリフに背中を押されながら、対策委員会とセツナは包囲網を突破していくのだった。

 

 

 

 

 

『ねぇホシノちゃん!』

 

 

 遠い記憶の中で、その声はいつも無邪気に笑っていた。そしてその日もいつもと変わらず、その人は朗らかな声で尋ねるのだ。

 

 

『ホシノちゃんはさ、「流れ星の伝説」を信じてる?』

 

『……またその話ですか。信じてませんよ』

 

 

 流れ星の伝説。流れ星に願い事をすれば、その望みを叶えてくれるという迷信の一つだ。目の前の人はそれを信じているようだったが、彼女はどうやら違うようだった。

 

 

『もしあれが本当なら、今頃アビドスはこうなってませんよ。そもそも、無償で願いが叶うことなんてありえないですから』

 

『で、でも……。この前「オアシスが復活しますように」ってお願いしたら、その後のお宝探しで水が出てきたよ?あの時はホシノちゃんも一緒だったから覚えてるよね?』

 

『まぁ覚えてますよ。その後テンションの上がった先輩が、びしょ濡れの制服で動き回って風邪をひいたことも。その看病に私が付きっきりだったことも』

 

『ひぃん………ごめんねぇ……』

 

 

 さらにいえば、その水もオアシスの出涸らしみたいなものだった。風邪が治った後にもう一度そこを訪れても、水の代わりに乾燥した砂だけがそこにあった。

 そういう出来事があったからこそ、彼女はそれを迷信と切り捨てていた。そもそも、願い事をするにはそれ相応の対価がいる。特に自分ではどうしようもないことを願う時は、なおのこと。

 

 

『ともかく。そういう奇跡みたいな話はそうそう起きないんですよ。もっとすごくて、珍しいからこその「奇跡」なんですから』

 

『うーん。でも、私はそうは思わないかな〜♪』

 

 

 ぶっきらぼうにそう言い放つ彼女の言葉に、目の前の人は口元に指を添えながらそう言った。その言葉に彼女が訝しげな視線を送る中、その人は太陽のような笑みを浮かべながらこう言うのだった。

 

 

『いつか、ホシノちゃんもわかるよ。ホシノちゃんが先輩になって、たくさんの後輩が出来たら。その時は────』

 

 

 

「…………やっとわかりましたよ。ユメ先輩」

 

 

 薄暗いカイザーの実験室で、ホシノはそう言葉を零した。今のホシノは両手を縛られ、身動きの取れない。あとはもう、実験が始まるのを静かに待つだけだった。

 そんな時、ふと昔言われた言葉を思い出したのだ。先輩の言っていた『奇跡』の意味。当時のホシノには理解できなかったが、今なら理解できた。

 

 シロコにノノミ、セリカやアヤネ。4人の後輩たちと一緒に送る日常。昨日も今日も、明日も来年も。ずっと続くと思っていたそれは、今はもうどこにもない。

 

 いつもの通りの日常は、ある日突然消えてしまった。そしてホシノは気づいた。その日常の連続がどれほど奇跡的だったのかを。

 

 奇跡はもっと大きくて珍しいもの。以前のホシノはそう言ったが、それは間違いだった。薄氷のような現実の上で、ずっと続く自分たちの日常が何よりも『奇跡』だったのだ。

 

 それに気づいた時にはもう、全てが手遅れだった。ホシノが自分自身を差し出して打った起死回生の一手が、逆にアビドスの日常を壊してしまったから。

 

 そして今、ホシノもまた終わりが来るのを刻々と待つだけだ。でも、不安や恐怖はない。ホシノの胸の内では、あの時セツナと交わした約束がまだ生きているからだ。

 

 

『アビドスを、みんなを守る』

 

 

 最後にセツナと会ったあの夜に、ホシノはそう約束した。これからはホシノの代わりに、セツナが彼女たちを守ってくれる。自分が居なくなったあとも、ずっと……。

 

 

「せめてみんなの日常(キセキ)が、もっと続きますように……」

 

 

 最後にそう願いながら、ホシノはスっと瞳を閉じる。間もなく実験が始まるのか、外が少し騒がしくなってきた。自分の人生も、もう少しで終点だ。そう思うと、少しだけ寂しさが湧き出てくる。

 

 

「もう少し、みんなと一緒に居たかったな……」

 

 

 そう悔しそうに言葉を漏らしたその時だった。

 

 

 ボゴォォンッ!!!!

 

 

 いきなり爆発音が響くと同時に、実験室へと繋がる扉が勢いよく吹っ飛ばされた。入口から煙とともに僅かに熱気が流れ込んでくる。そして驚きのあまり視線を上げたホシノが見たのは、白衣を身に纏い、傍らにドローンを待機させている大人の姿だった。

 

 

ケホッケホッ……よし、この手に限る」

 

「「「「ホシノ先輩!!!!」」」」

 

 

 さらには少し咳き込む大人の脇を、4人の生徒が走り抜けてきた。最後に会ったのは一昨日のはずなのに、何故か泣きたくなるほど懐かしい。

 

 

「なんで……どうして先生たちがここに……!?」

 

 

 懐かしさと困惑でぐしゃぐしゃになっているホシノの元に、シロコたちが駆け寄ってくる。そしてホシノを縛っている拘束具を外しているところに、遅れてセツナも合流してきた。

 

 

「何か言いたげな顔だね、ホシノ」

 

 

 ホシノの顔を見るなり、セツナはそう言った。それもう、言いたいことは山ほどある。何でここに居るのか。何で後輩たちを連れてきたのか。

 セツナと約束したのは、後輩たちとアビドスを守ることだ。それが何で、こんな危険な場所に連れてきているのか。そう言いかけたところで、ホシノは彼の言わんとしていることに勘づいた。

 

 

「……そっか、私も(・・)か」

 

「うん。『守ってみせる』って、約束したからね」

 

 

 ホシノのその言葉に、セツナは小指を立てながら笑みを浮かべる。彼はただ、約束を果たしに来たのだ。アビドスを……ホシノたち(みんな)を守ってみせるという約束を。だから危険を顧みず、ここまでやってきたのだ。

 

 

 

 そんな問答を続けているうちに、ついにホシノを縛っていた拘束が解かれた。自由の身になったホシノが立ち上がり、ゆっくりと身体を解していく。

 どうやら縛られていただけで、特段危害は加えられていないようだった。大切な人の無事に安堵するセツナたちだったが、しばらくするとセリカが意を決したように口を開いた。

 

 

「……お、おかえり!!ホシノ先輩!!」

 

 

 顔を赤くしながら、そう口にするセリカ。その言葉はここに来る前に、無事だったホシノに言おうと全員で決めていた言葉だった。

 その時は「恥ずかしい!青春っぽい!」とやや反対気味だったセリカだが、その彼女が抜け駆けしたことにより他のみんなも次々と口を開いた。

 

 

「おかえりなさい、ホシノ先輩!それにしてもズルいですよ〜セリカちゃん!」

 

「おかえりなさい!ホシノ先輩!」

 

「おかえり、ホシノ先輩……!」

 

 

『おかえり』。それは、相手の無事を喜ぶ言霊(おまじない)。誰よりも大切な人たちを想い、寂しさを振り切って旅に出た少女は、大切な人たちに迎えられ、ようやく家に帰りついた。

 

 

「その反応……みんなが求めてるのはあの言葉かな?」

 

「もう!わかってるなら焦らさないでよ!!」

 

「うへ〜。ま、可愛い後輩たちの頼みなら、仕方ないな〜」

 

 

 みんなの期待に満ちた視線を受けながら、ホシノは少し照れくさそうな表情を浮かべながら口を開いた。

 

 

 

 

 

「ただい──」

 

 

 ギャア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!!

 

 

 しかしその続きは聞こえなかった。ホシノのセリフをけたたましい絶叫がかき消してしまう。まるで悲鳴とも取れる金切り声のようなその声に、セツナたちは思わず耳を塞ぐ。

 

 

「……!!この声、まさか!!!」

 

 

 セツナがそう呟くと同時に今度は地面がガタガタと揺れ始めた。それは爆発による振動ではない、立っていられないほどの強烈な揺れで、天井からはパラパラと何かの破片が降ってきていた。

 

 

「なにこれ地震!?」

 

「分からないけど、このままじゃ生き埋めになっちゃうかも」

 

「みんな急いで脱出するよ!!」

 

 

 セツナの呼び掛けに、全員踵を返して走り出す。シロコたちが先導する中、セツナの脳裏では嫌な予感が浮かんでいた。

 先程の特徴的な声と地鳴り。間違えようもなく、忘れられるはずがない。あれに遭遇したのはこれで2回目だ。初めて邂逅した時のインパクトも相まって、彼はすぐに声の正体にたどり着く。

 もし予想が当たっているなら、それは遠目でもよくわかるはずだ。ひとまず視界が開ける中央エリアに戻ると、そこは既に戦いの決着が着いているようだった。

 

 

「ふははは!!どうやら間に合ったようだな!!」

「ちょっと!!どうしてくれんのさ〜!!」

 

 

 残骸の山の中で、ムツキに足蹴にされる理事。だがその口から漏れるのは怨嗟の声ではなく、どこか狂気じみた歓喜の声だった。

 そしてその背後では、セツナの予想通りの光景が広がっていた。周囲の建造物より高い、赤い光の柱。以前のものよりも巨大なそれは、まるで唄うような音を響かせながら無機質に佇んでいる。

 

 

「アロナ!これってまさか……!!」

 

《……はい。波長も出ました!分析パターン:青。数日前にこの場所でセキさんたちを襲ったあの触手です!!》

 

「……チッ!やっぱりアイツか……!!」

 

 

 当たって欲しくない予想が的中し、セツナが苦々しい表情で舌打ちする。カイザーとセキの戦闘中に突如として現れ、オートマタを容易く蹴散らし、セキに重症を負わせたあの触手と光。その後のしぶとさも含めて、その存在は彼の記憶に色濃く残っている。

 当時のセツナたちは逃げることしかできなかった。その時の絶望と焦りを象徴する存在が、今も近くにいるかもしれない。そう思うと、セツナの頬を嫌な汗が伝った。

 

 

《先生!偵察ドローンからの映像が来ました!!》

 

 

 さらに、その焦りに追い討ちをかけるように、信じ難い現状がシッテムの箱に映し出された。

 

 

「………………嘘だろ」

 

 

 その映像を見たセツナから、そんな言葉が漏れる。そこに映し出されていたのは、砂漠をまるで海のようにかきわけながら、この前哨基地を囲うように整列する複数の(・・・)光の柱だった。

 しかも一本や二本所の話ではない。10本……いや、20本以上の光の柱が立ち昇り、まるで壁のようにその間隔を狭めながらこちらへと接近していたのだ。

 その様子は、さながら追い込み漁と言ったところか。あの光の柱に触れたらどうなるか、それはあの時のセキの絶叫が証明している。つまりこのまま追い込まれれば……言うまでもない。

 

 

「アロナ、ヒナやヒフミ、ヘルメット団の子達は?」

 

《どうやらみなさんは囲いの外みたいです!!……あっ!ヒフミさんの方から連絡が来ました!!》

 

「わかった!!すぐに繋いで!!」

 

 

 どうやら外周に配置していたメンバーは無事だったようだ。そして外周組の1人であるヒフミとの通話が繋がると、電話口の向こうからあわあわと声が聞こえてきた。

 

 

『先生!!聞こえますか!?』

 

「聞こえてる!!そっちは大丈夫!?」

 

『こちらは無事です。でも光の壁に遮られて、榴弾砲も効果が無いみたいで……!!』

 

「……そうか、わかったよ。ヒフミたちはそのまま離れて安全なところに居て!!」

 

 

 やはり、外からの救助は期待できそうにない。かと言って、このまま何もしなければそれで終わりだ。どうにか脱出できないかと、セツナは必死に思考を回す。

 一応、手がないことはない。例えばドローンを使って4人ずつ輸送していく手があるが、これは光の柱の影響範囲が未知数な事と、全員運べるほどの時間が残されているか怪しいことが問題だ。

 

 

「アロナ。このまま進み続けたとして、あれがここに到達するのに何秒かかる?」

 

《はい……!進行スピードからして、接触まで後600秒ほどかと……》

 

 

 600秒.およそ10分。それがセツナたちに残された、脱出までの時間。ドローンは4台、生徒が11人と大人が1人。一度に4人ずつ運び、雲ほどの高さの光の柱を超えなければならない。

 ……そしてそれは、現実的に厳しいこと。ここに居る生徒を全て移送させ、最後に自身も離脱させるとなると、あまり猶予は残されていない。何よりも、あの光の柱を超えるのが無理難題に近かった。

 

 

「………万事休す、か」

 

 

 悔しげにそう呟くセツナ。その様子に理事の高笑いがより激しくなる。

 

 

「まさかこれ程までの代物だとは思わなかったが良いだろう!!これで私もお前たちも、ここで終わりだ!!ふははは!!!」

 

 

 もはやヤケになっているのか、理事の言動も投げやりだ。しかし、これ以上セツナたちに打つ手がないのも事実。あとはもう、このままあの光の柱が迫ってくるのを待つだけ──

 

 

「……させません」

 

 

 その時、絞り出すような誰かの声が聞こえてきた。皆の視線がそちらに集まる中、声の主である門守セキは握りしめた両手を震わせながら、納得できないと言った表情で言い放つ。

 

 

「させません!!!そんな結末には、絶対に!!」

 

「セキっ!!?」

 

 

 シロコの呼びかけすら振り切って、セキは大空へと羽ばたいた。二度、三度と空気を打ち、セツナたちがどんどん小さくなっていく。やがて地上の人たちが砂粒程度になると、セキはようやく止まって周囲を見渡した。

 まず周囲には自分たちを取り囲むように整列する光の柱。その姿はあの日、前哨基地で突然現れた赤い光と同じだった。それを認識すると同時に、かつて焼かれた彼女の両脚がズキリと痛む。

 正直に言えば、彼女は怯えていた。あの光は今まで受けた攻撃とは明らかに違ったから。でも自分の真下にはカイザー前哨基地が……、シロコを始めとした守りたい人たちが居る。

 

 

(怖い……けど!それでも!!)

 

 

 怖いことなんてこれまで沢山あった。みんなを喪いかけたこと、誰かを喪ったこと。それに比べれば、こんな恐怖なんて振り払える。身体中の震えを振り払い、セキの瞳が決意に揺れる。

 しかし、この状況を打破するには、あの時使った不思議な力が必要だ。でも、今のセキにはその使い方がわからない。あの"黒いおじさん"が言うには、「まだ至って(・・・)いない」ということらしいが……。しかし、あの大人は同時にこうも言っていた。

 

 

『セキさん。あなたの心臓……いえ、心は特別です。他の者達とは違う、神に近い無限の可能性を秘めています』

 

(私の心臓……無限の可能性……)

 

『その心に集中し、自らの使命を理解できれば……あるいは……』

 

(私の使命……私の……存在意義(やくめ)……)

 

 

 あの大人が言っていた事を反芻しながら、セキは静かに自分の内側へと問いかける。自分は何のためにここに来て、何のために戦っていたのか。それを知るために、彼女の意識は徐々に心の奥深くへと潜っていく。

 

『私は何のためにここに来たのか』

 きっと以前の彼女なら、『贖罪のため』だと答えただろう。

 

『私は何のために戦っているのか』

 きっと以前の彼女なら、『生きる理由』だと答えただろう。

 

 でも今は、そのどちらでもない。家出して、独りで生きていた時間が、セキを大きく変えてくれた。『贖罪』は必要ない。『生きる』ことに理由はなくていい。そう教えてくれた人たちのお陰で、彼女は自分を見つめ直すことができた。

 彼女にとって、「守ること」は存在証明だった。でもそれは決して必要なことではなかった。では何故、セキは今もここに立ち、誰かを守ろうとしているのか。

 

 それはきっと、誰か(・・)にそう願われたから。そしてセキもそう願ったからだろう。それが、それこそが彼女の『本質』。門守セキが知らなかった(・・・・・・)、彼女を形作るモノ。

 

 

「……私がここに来たのは、みんなを守るため。私が戦うのは、未来を(この先も)みんなと生きるため!!」

 

 

 しかし今、彼女は自覚した。自身の(コア)、本当の自分を認識した。そのほんの小さな1歩が、セキの中で何かを起動させる。

 

 

「みんなが笑い合える毎日を……そんな『奇跡』を守るため!!私は、自分で選んでここに来た!!」

 

 

 命を残す方舟(Buße)ではなく、命を守る戦闘艦(Wunder)として。

 

 どこかで聞いたその言葉が、セキの脳裏を過ぎる。その瞬間、彼女の体の内で変化が起き始めた。

 

 

 

「私は!!みんなの未来を守る人!!」

 

 ドクン……!!

 

 

 セキの宣言に呼応するように、彼女の心臓が力強く脈打つ。それと同時に、頭の中に、誰かの声が響き渡る。

 

 

 

『全艦、発進準備!!!主機、点火準備!!』

 

 

 それはどこか懐かしい、力強い女性の声だった。

 

 

 

 

 









 ▽天守セツナ
『約束』は必ず守る。
 特に生徒との約束であればなおのこと、

 ▽小鳥遊ホシノ
「ただいま」
 また悪い大人(・・・・)に騙された。

 ▽便利屋68
 ヘルメット団の援護からトンボ帰り。
 セキたちとの連携で防衛部隊を殲滅する。

 ▽カイザーPMC理事
 負けが確定しヤケクソになっている。
 最後は基地もろとも自滅することを選んだ。





あとがき

エヴァの新情報で筆がよく進むぜ
今日はおそらくもう1話出ます
コユキ……きっとお迎えしてやるからな!





 次回 第33話「喪われし神々」


「『全てはゼーレのシナリオ通りに』……ですよ」




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