Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
本日は2話投稿しています。
読み飛ばしにご注意ください。
Dark Defender
〜暗闇の守り人〜
Engines on. feel the noise
〜心臓が脈動し、鼓動が響く〜
Feel the heat. power surge
〜熱がエネルギーとなり駆ける〜
In the air. soaring in
〜そして大空へと舞い上がり〜
To the skies. sentinel
〜天から危険を見張っている〜
ー鷺巣詩郎「Dark Defender」よりー
〘────────────……〙
快晴のアビドス砂漠に、不思議な唄が響き渡る。鯨の唄声のような、誰かの鼻歌のような音。柔らかな印象を与えるそれとは反対に、その声の主は重苦し威圧感と共に砂漠を進んでいた。
砂をまるで波のようにかき分けながら、赤い光の柱たちは悠々と進行していく。目指しているのは、先程まで激戦が繰り広げられていたカイザーPMCの前哨基地。そこにある全てを飲み込むべく、光の柱たちは四方を囲むように展開し始める。
《光の柱は依然として進行中!このまま包囲陣形を取るつもりのようです!!》
アロナからの報告に、セツナがきつく眉根を寄せる。既に離脱は不可能。あの光の柱にはどんな攻撃も通用しない。そして逃げ場を塞ぐように、柱の間の隙間が潰されていく。
セツナたちは既に、この場所に閉じ込められてしまったのだ。このままでは、ここにある全てがあの光に飲まれてしまうだろう。生徒も大人もオートマタも関係ない。あれはそういうものだから。
正しく、万事休す。だが、それでもセツナは諦めてはいなかった。
「………アロナ。使えるドローンを全てあの柱と私たちの間に配置して。1列に等間隔で配置すれば、大体の距離と接触時間がわかるだろうから」
《………はい!わかりました!!》
少し不安の混じった返事と共に、ドローンが一斉に飛び立っていく。希望はどんな時にだって残されている。例えそれが、とてつもなく小さなものでも。今のセツナは、それに賭けてみることにしたのだ。
「…………頼んだよ。セキ」
そう呟きながら、セツナははるか上空へと視線を送るのだった。
一方。上空に佇んでいたセキは、自身の身に起きた変化に戸惑っていた。
『全艦、発進準備!!!主機、点火準備!!』
私はみんなの未来を守る人……と、そう決めた瞬間に響いたその声。さらにはその声に呼応するように、セキの心臓が以前よりも強く、そして確かに拍動する。
ドクン……ドクン……ドクン……!!
心臓が跳ねる度に、身体中を不思議な力が巡る感覚がする。………いや違う、巡っているのは自分の
『補機、出力上昇中』
『主機システム点火用動力を注入中。臨界まであと5%』
再び、不思議な声。しかもさっきとは違う女の人と、男の人の声だ。だが2つともさっきの声と同じように、どこか懐かしさを感じる。そしてそれに呼応するように、セキの二重円のヘイローがゆっくりと回転を始めた。
「……!これ……出せる神秘の量が上がってる?」
訪れた変化に気づいたのか、目を輝かせながら自分の身体を確認するセキ。彼女のヘイローが回転するのに比例して、彼女の放出する神秘の量が上がっていく。だがこの前の暴走の時とは違い、しっかりと放出量の調節ができているようだった。
やがて周囲の神秘密度が上がりはじめ、それによってセキのヘイローが緑、そして黄色へと変化する。神秘解放・第2段階。以前までの彼女は、この段階までを意識的に制御できていた。
しかしここから先は、未知の領域。初めて到達する段階に少し躊躇いながらも、セキは意を決したようにように宣言する。
「………神秘解放!!第3段階!!」
⟬────────────!!!!!!!!⟭
彼女の宣言に呼応するように、鯨の咆哮が辺りに響く。さらに彼女のヘイローに新たな光が集い、やがて1つの円環となって同じように回転する。そして三重円となったヘイローはその色を赤く染めながら光を強めていった。
赤い三重円のヘイロー。以前の暴走時に顕現していたそれを、セキは自分の意思で発現し、維持していた。今迄にない量の神秘の放出に、身体中を悪寒が走る。だがそれでも、セキは意識を保ちながら、両手を大きく横に広げた。
「…………神秘障壁、展開」
セキがそう口にすると、彼女の周囲に藍い八角形のバリアのようなものが出現する。それは間違いなく、あらゆる攻撃から彼女を守った障壁そのもの。それは彼女の周囲にいくつも出現し、まるで殻に籠るようにセキを覆い尽くした。
〘────────────!!!!!〙
その変化に気がついたのか、光の柱が雄叫びを上げながら変化を始めた。光の柱の真ん中が裂けると、そこからギョロリと黄色い目が現れる。しかも縦にいくつも亀裂が入ると、そこからも黄色い目玉が現れた。
さらに全ての柱に目玉が現れるのに並行して、柱の形状も変化していく。高い壁のような形状からさらに上方向に光を伸ばし、ついにはセキのいる位置すらも包み込む高さのドーム状へと変化した。
そしてそのままセキたちを押し潰さんと、進行スピードを早めていく。まず最初に飲まれたのは、セツナが距離を測る為に配置していた防衛型ドローン。悪あがきとして電磁バリアを展開するも、柱は意に介さず一瞬にして飲み込んでしまう。
ギャア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!!
金切り声と共に、ドローンは瞬時に蒸発した。
《防衛型ドローン、蒸発しました!!位置から計算して、接触まであと360秒!!》
「全員、できるだけ中央に集まって!!」
地上ではセツナができるだけ時間を稼ごうと、生徒たちの誘導を行っていた。彼女たちの心にあるのは、抱えきれない程の不安。そしてここで終わるのではないかという、どうしようもない恐怖だ。
でも、1人だけ違う者が居た。その人物は皆と同じように不安と恐怖を抱きながらも、遥か上空の親友に向けて静かに祈る。
……頑張って、セキ。
「………うん。頑張るよ、シロコちゃん」
周囲にばらまいた神秘を介して、セキは親友からの想いを受け取った。先程展開した障壁の内部は、絶えず放出されるセキの神秘で満たされている。密閉された殻の中では神秘の逃げ場はなく、内部の圧力がどんどん上昇していた。
『流入圧力、300%!!』
『フライホイール圧着板、ロック解除。回転開始!!』
『主機エネルギーポンプ、運転開始!!』
『補機回転、出力80%へ!!』
『触媒を強制投入!!』
彼女の体が変化するのに合わせて、頭の中で数多の声が響く。心臓は痛いくらい跳ね回り、巡る神秘は時々弾けながら、体の隅々までエネルギーを行き渡らせている。そして放出される神秘量が増えるにつれて、彼女の赤いヘイローはより輝きながら回転を早めていた。
だが流石に放出量が多すぎるのか、セキの意識は朦朧としていた。それでも、頭の中の声だけは、変わらずセキを導いてくれている。
『回転数上昇中!1万……1万2000!!』
『来ました!!フライホイール充電102%。臨界突破!!』
『始動最終段階です!』
パキパキと、周囲から何かが割れるような音がする。よく見ると展開していた神秘障壁のあちこちに亀裂が入り、それがどんどん広がっている。どうやら殻内部の圧力に、周囲の障壁が耐えきれなくなっているようだ。
ヒビの入った障壁の向こうから、黄色に目がこちらを覗いている。前も後ろも、そして上からも、あらゆる方向から注がれるその視線に、セキは思わず笑みを浮かべる。
「……あっは。なんでか君のことも懐かしく感じちゃうな」
そんな自分の感情に戸惑う中、セキの頭で再び言葉が響いた。
『回転数3万6000。オールグリーン!!』
『コンタクト、行けます!!』
『カウント省略、メイン接続!!! 』
『接続!!!!!!』
ドグンッッッッッッッッッッッ!!!!!
瞬間、彼女の心臓がより強く脈打つ。
『点火!!!!!!!』
その声に合わせて、彼女の身体を電流めいた刺激が走り抜ける。そのひと押しによって放出された神秘が、周囲の神秘障壁に大きな亀裂を発生させた。そして最後に、勇ましい女性の声が高らかに宣言した。
『行くわよ……
その宣言が響いた直後、ついに耐えきれなくなった神秘障壁が高らかな音を響かせながら粉々になった。
カシャァァァァァン!!!!!
ガラスの割れるような音ともに、圧縮されていたセキの神秘が一気に放出される。それはまるで空中で爆発が起きたかのようで、衝撃波のような彼女の神秘が一気に地上に到達する。
「うわっ!?」
「ぐっ………!!」
砂も、瓦礫も、全てを吹き飛ばしながら、炸裂した神秘の衝撃波は周囲に散っていく。そしてドーム状に展開していた光の柱に激突すると、一息で吹き飛ばすように散り散りにしていった。
〘────────────!!!!!〙
舞い上がった砂埃で視界が遮られる中、セツナの耳はその声を聞いた。悲鳴か、あるいは断末魔か。どちらかは分からないが、視界が晴れたそこには、あの黄色い目玉も、空を覆う赤い光も無かった。
⟬────────────!!!!!!!!⟭
その代わり、勝利を歌うような咆哮が轟く。それはあの光の柱のものではない。セツナたちが視線を上げると、そこには声の主たる1人の少女が居た。
白く、そして大きな翼を持ち、悠々と大空に佇む少女。その頭上には白い二重円のヘイローが浮かび、その表情は慈愛に満ちている。それはまるで地上の人々を見守っているようであり、あらゆる危機を空から監視する見張りのようだった。
彼女の頭上のヘイローが消失し、代わりに足元に、巨大なヘイローが浮かびあがる。その神秘的な佇まいは、まるで御伽噺に出てくる騎士のよう。みんながその姿に見惚れている中、周囲の砂漠から轟音と共に黒い何かが飛び出した。
「がふっ………っ!?」
直後、セキの身体を立て続けに衝撃が襲った。突然の激痛と衝撃に、セキの口から赤い液体が漏れる。目線を下げると、自身の体に幾つもの黒い触手が突き刺さっていた。
腕に、胸に、腹に、脚に。突き刺さった触手は根を張るようにセキに絡みついて離さない。さらに貫かれた衝撃で、愛銃であるアサルトとハンドガンを取り落としてしまった。
その伸びている先を追ってみれば、それは前哨基地を中心として、それぞれ四方の地中から伸びているようだった。やがて4つの触手がそれぞれ力任せに引っ張り始め、セキの身体からミシミシと嫌な音が鳴り始める。
「……っ!!だっ……たら!!!」
口の端から血を零しながら、セキは体中に力を込めた。身体を巡る神秘に意識を集中して、その力を翼へと集中させる。そしてその翼でおもいっきり空を打てば、たわんでいた触手が一気にビンッと張り詰めた。
だがそれだけでは足りない。今もまだ、セキの身体は悲鳴を上げ続けている。この状況を打開するために、セキは1度足元のヘイローを閉じて、代わりに頭上に赤い三重円のヘイローを展開させる。
「このまま……引きずり出してあげる!!」
体に突き刺さった4本の触手を1束に纏めて、思いっきり触手を引っ張りあげるセキ。さらに神秘をより大量に放出し、自身の足元に2枚の神秘障壁を展開した。
暴走の時に学んだ神秘障壁同士の反発。それを利用することで、セキは無理やり推力を得ていた。だが無論触手も引きずり出されまいと抵抗する。互いに互いを引き寄せようとする様は、さながら綱引きのようだった。
痛手を負った身体で無理をしているせいで、セキの身体から血が吹き出す。普段であれば激痛を伴う行為だが、今のセキは既に意識が朦朧としている。それが良い方向に働いたおかげで、綱引きはセキの方が優勢だった。
ゴゴゴゴゴゴ………………ッ!!
地上では触手の生えている地面が沸騰したように吹き上がり、地鳴りと振動を響かせている。だが抵抗も虚しくセキが思いっきり引き上げると、四方の砂漠で巨大な砂柱が立ち上った。
そして中から姿を表したのは、円盤状の本体に放熱板のような板を何枚も持つ黒色の奇妙な兵器。中央には16個の赤い斑点が円状に並んでいて、その中心──触手の生えている根元は煌々と輝いている。
「ネーメズィズ」シリーズ。『局地戦仕様多目的兵器』のコードネームで開発された、対デカグラマトン用の局地戦用試作無人機だ。
砂漠での活動に特化させられた彼らだったが、空中に引きずり出されてしまてば抵抗しようがない。逆にもう一度砂地に潜るのを許してしまえば、こんなチャンスは二度と訪れないだろう。
「……っ!!せぇ………のぉ!!!!」
翼に込めていた力を両腕に回しながら、セキは本体ごと触手を思いっきり振り回した。流れる血で触手を握る手が滑りそうになるが、触手が体に絡みついているおかげで手放す心配は無さそうだった。
最初こそゆったりとしたスピードだったが、遠心力が加わるにつれて、そのスピードはどんどん上がっていく。さらにセキの火事場の馬鹿力で生み出された遠心力によって、ネーメズィズシリーズはろくに抵抗できていない。
そしてしばらく振り回してから、セキは触手の持ち方を変えた。右手と左手、それぞれに2本ずつ触手を握ると、回転の勢いを殺さないようにしながら、本体同士がぶつかるように引っ張った。
ガンッ!!!!!
ゴシャッ!!!!!!!
途端、空中で鳴り響く衝突音。遠心力によって加速したネーメズィズシリーズ達が、それぞれ正面から激突する。すると衝突の衝撃でシステムがダウンしたのか、セキを貫き絡みついていた触手がズルズルと抜けていった。
「やった………けど、まだか!!」
完全に沈黙する4機のネーメズィズシリーズ。しかし、彼らは何故か衝突したその場所から
さらに予想外なのは、かなりの速度で衝突したのにも関わらず、彼らが原型を留めていることだ。このまま放置していれば、おそらくすぐに再起動する。やるなら今、この瞬間しかない。
「今使えってことだよね……おじさん!!」
そう言いながら、背中に背負っていた黒いケースに手を伸ばす。それはつい昨日、黒服によって手渡された謎の代物。あの時はまだ使えないと言われていたが、セキの中には、今なら使えるという確信めいた予感があった。
手に取ってロックを外すと、そこには最初の予想通り銃が入っていた。しかしそれは普通の銃ではなく、どこか無骨で、近未来的な造形をしていた。
銃口のついた白い砲身を、ガイドレールのような青いパーツが挟み込んでいる。その全体には細かくラインが走っていて、見たところマガジンのようなものも見当たらない。そしてどこか洗練されたグリップには、この銃の名前が刻まれていた。
「…………『
それがこの銃の名前だった。その名前を改めて意識してから、セキはしっかりと両手で新たな槍を構える。
「主機直結……。給弾用回路……解放!!」
セキがそう命令すると、セキの心臓から神秘が溢れ出し、それが両腕から手を伝い、グリップから『Unser Wille』へと流れ込んでいく。セキの身体を怖気が蝕む中、その砲身が徐々に青く発光し始めた。
しかし、そのタイミングでネーメズィズシリーズも再起動してきた。衝撃から回復した彼らはすぐに状況を理解すると、そのまま身を寄せあって、先程のセキのように触手を大きく広げ始めた。
〘────────────!!!!!〙
彼らの叫びに呼応するように、触手の前面の空間が歪む。そこに現れたのは、セキの神秘障壁と似た八角形の壁だ。虹色に輝く障壁を前にして、セキは歯を食いしばりながらも狙いをつける。
頭がクラクラする。視界はもうぼやけて見えない。この短時間で血を流しすぎた。それでも放った神秘を頼りに無理やり狙いを定めると、セキは力を振り絞って引き金を引いた。
「はあぁ"ァ"ァ"ァァァァッ!!!!!!!!」
セキの絶叫を響く中、砲身から青いエネルギー弾が放たれた。大砲のように重く響く砲声とは裏腹に、その発射速度はミニガンにも劣らない。セキの神秘が込められたエネルギー弾は、その圧倒的な破壊力で立ち塞がる壁を殴りつけていった。
カンッ!カンッ!カンッ!と、最初こそ余裕そうな音を響かせながら弾いていた壁。だが1度亀裂が入るとそれはどんどん広がっていき、向こう側のネーメズィズシリーズが焦ったように動き始める。
カシャァァァァァン!!!!!
そしてついに、耐えきれなくなった障壁が粉々に砕け散った。それを見たネーメズィズシリーズが散り散りに逃げ惑うが、銃弾の雨がそれを許しはしない。
1発被弾するだけで、機会の身体が大きく抉り取られる。そして2発、3発と被弾箇所は増えていった。そしてとうとう耐えきれなくなったネーメズィズの身体が、赤い液体を撒き散らしながら爆発した。
〘──…………──ー………ー…………!!!!!〙
断末魔と共に、光が3本の十字架となって散っていく。残骸と何かの液体を地上に降らせながら、ネーメズィズシリーズは今度こそ完全に沈黙した。
その光景を目の当たりして、セキの表情が安堵で緩む。もうあの光の柱も、貫ぬこうとしてくる触手もいない。カイザーももう満身創痍だし、誰もシロコやセツナを傷つけようとする人は居ないだろう。
セキは守りきったのだ。みんなの未来を守る……と、そう宣言した通りに。
この場所で終わるはずだった運命を、彼女の大好きな人たちが迎えるはずだった結末を、セキは自身の力で否定した。
これ以上に嬉しいことはない。
「……やった……!守れ──」
しかし、その代償は高くついた。触手によって空いた穴からは、今もボタボタと血が流れている。それに彼女はこの戦いで、自身の生命とも言える神秘を大量に使った。既に彼女は満身創痍なのだ。
ふらつく意識をどうにか保ちながら、セキはゆっくりと降下する。そして前哨基地から少し離れた場所へと着地した。だがもう立っていられるほどの余力はなく、そのままドサッと砂地に身体を投げ出してしまう。
その目の前には、先程撃破したネーメズィズの残骸が山のように積み重なっている。このままでは、彼女も同じような末路を辿るだろう。だがそうなるよりも先に、彼女に駆け寄ってくる足音があった。
「セキっ!!!」
やって来たのはシロコだった。そのままセキの元へと駆け寄っていくと、急いで容態の確認を始めた。
まずどう見ても出血が酷い。触手に貫かれた穴から血が溢れる度に、彼女の身体が熱を失っていく。それに呼吸も浅く不規則で、心臓の音も弱々しい。こんなの誰がどう見ても重症だった。
「早く病院かどこかに……ッ!?」
親友の命の危機に焦るシロコ。だがそんな彼女の様子を嘲笑うかのように、目の前の瓦礫の山が何かが軋む音が聞こえてきた。
〘…………ー……………ー…………ッ!!〙
途切れ途切れの歌声と共に、シロコの目を赤い視線が射止める。瓦礫の中から姿を表したのは、身体の大部分を消し飛ばされながらも、何とか生きていたネーメズィズシリーズだった。
もはや砂地に潜る力もないのか、ソレは残された一本の触手をもたげる。狙いは間違いなく、虫の息のセキだろう。それを察して彼女に覆い被さるシロコに向けて、ネーメズィズはその触腕を容赦なく振り下ろした。
ガンッ………ボゴォッ!!
しかしその瞬間、触手の横面に白いドローンが激突した。それによって軌道を歪められた触腕が、シロコたちのすぐ側の砂地を抉る。
一体何が起きたのか。突然の出来事に困惑するシロコだったが、すぐに聞き覚えのある頼もしい音に気がついた。
ジジジジジジジジジジ・・・
まるで虫のような静かな飛行音。それに気づいたシロコを守るように、彼女の目の前に8機の白いドローンが集結する。そしてそれらは一直線にネーメズィズへと突撃すると、その
ドゴオォォォォォンッ!!!!!!!!
〘────────────!!!!!〙
ネーメズィズにはもう、複数の爆発に耐えれるだけの力は無かった。8機のドローンに備えられた自爆攻撃がトドメとなり、最後のネーメズィズもまた大地に光の十字架を発生させながら消滅した。
「……よし、滑り込みセーフだね」
天へと立ち上る十字架を眺めながら、セツナは「ふぅ……」と一息つく。ミレニアムのエンジニア部に発注してもらったドローン群。最初こそ自爆機能があると聞いて顔を青ざめさせたものだが、まさかこんな風に使うことになるとは思わなかった。
「先生っ!!セキの怪我が……っ!!」
「そうだね。他のみんなに搬送の準備はしてもらってるから、止血だけして急いで運ぼう」
焦るシロコを宥めつつ、セツナは止血処置を始める。その間もセキは小さく呻くだけだったが、一瞬だけヘイローが灯ると、彼女は消えそうな声でセツナへと問いかけた。
「先生……私………守れましたよね………?」
「……そうだよ。私たちの命を守ってくれて、ありがとうね」
セツナがそう言うと、セキは満足そうに笑っていた。そして血を止めようと動かしている彼の手をとって、弱々しく口を開く。
「先生……『約束』、守って…くれますよね?」
その言葉に、セツナの動きが一瞬止まる。
「もちろん。その為にも、セキには生きて貰わなきゃダメだからね」
「……はい。わかり…まし………た」
その言葉を最後に、セキは再び意識を手放した。どうやら気絶しただけのようで、バイタルを確認していたアロナは命に別状はないと言っていた。
そうして一通りの処置を終えると、セキはシロコに背負われて運ばれていく。その様子を見送りながらも、セツナは1人、背後の瓦礫の山へと向き合っていた。
謎の機械に、セキの超常的な力の発現。それら全ての疑問が解決した訳では無いが、ひとまずはこれで今回の事件の決着は着いただろう。
「………いまは、これでいい」
自分に言い聞かせるようにそう呟いてから、セツナもまたその残骸を後にするのだった。
「なるほど……これは素晴らしいものを見させて頂きました。既にシナリオから外れたとは言え、やはり状況さえ整えれば、ある程度の再現はできるようですね」
薄暗いゲマトリアの会議室。先程まで砂漠の戦闘が映されていたモニターを眺めながら、黒服は満足気にそう呟いていた。その周囲にはマエストロやゴルコンダ、デカルコマニーの姿もあるが、今回はベアトリーチェの姿は無いようだった。
マダムは彼らと違い、自身の『領地』を持っている。それに関する優先順位は、彼らの会議に出席することよりも高い。故にこういった事はよくある。そういう時、彼女と犬猿の仲のマエストロはどこか気分が良さそうに見えた。
「しかし、『
そして今回も、マエストロはどこか浮かれているように見えた。マダムが居ないのもそうだが、どうやら先程の戦闘がえらくお気に召したらしい。ギシギシと饒舌に身体を軋ませながら、黒服へと質問を投げかける。
「黒服よ。『喪われし神々』とは何なのだ?あの現象を目の当たりにして、少し興味が湧いてしまった」
マエストロのその問いかけに、黒服は静かに顎に指を添えていた。何せ『喪われし神々』については分からないことが多い。この中で1番知見が深い黒服でさえ、大まかな概要しかわかっていないのだ。
「ふむ……そうですね。私もまだ全貌を解剖できている訳では無いので、かの予言書から読み解いたものになりますが……」
そう前置きしてから、黒服はゆっくりと語り始めた。
「『喪われし神々』とは、いつか、どこかの世界に存在した者たちのことです」
それはかの予言書に記されていた内容。その世界は2人の神によって生み出された神の子が、互いの存続をかけて争っていた。その中でも『喪われし神々』は、悠久の命を持ち、他者を必要としない純完全生命体だった。
「彼らは神から知恵の実の代わりに生命の実を与えられ、永遠に存在する神の子として世界に君臨していました。しかし、知恵の実を持つヒトとの争い敗北し、最終的に存在そのものが世界から喪われてしまいました」
今や神話となった少年の願いにより、喪われし神々はその模造品に至るまで、あらゆる世界から消えた。あの予言書──『裏死海文書・外典』にはそう書かれていた。
だが、どういう訳か『喪われし神々』は現れた。A.T.フィールドを発現し、常軌を逸したレベルの回復力。それは間違いなく、『喪われし神々』の持つ権能。それを彼らに知らしめたのは、先程起動したあの少女だった。
「彼女はその内の1柱。特にヒトの贖罪の為に身体を弄ばれ、最終的に意志と希望を体現した方舟として喪われました」
「方舟……あぁそういうことですか。だからこそ
「ええ。……今、彼女は至りました。彼女に関する謎もまだ多いですが、彼女が進むその先に、きっと答えはあるでしょう」
「そういうこったぁ!!!!」
何故彼女が複数の神聖を有しているのか。そもそも何故、喪われし神々がこのキヴォトスに現れたのか。それについて分からないことも多いが、彼らが干渉せずとも、既に物語は動き始めている。
『
両者のシナリオを汲むこの物語がどのような結末を辿るのか。誰も分からない未来で、彼女はその答えを示すことになるだろう。
「……しかしこうなると、我々の活動に変化を加える必要はないでしょうね。あの『
「ある意味、マダムの行動は正しかったとも言えますね。そして私たちとしても、ある意味喜ばしいことでもあります」
『喪われし神々』に関する考察を終えた後、黒服は今後の方針についてそう口にした。今回の1件により、予言書に記された状況と似たような状況を整えることができれば、ある程度同じ結果に収束できることがわかった。
つまり彼らは、限定的ながらも未来を選ぶことができるという訳だ。自分の望む未来があるなら、そこに至るまでの状況を整えればいい。変えたい未来があるのなら、そうなる前に状況を変えればいい。
しかし、彼らにはそうできない理由があった。
「……だが、件の契約に関してはどうするつもりだ?あの契約の大天使のことだ。我らの内誰か一人でも契りを破れば、あの者は容赦なく焼き尽くすぞ」
それは、黒服が持ってきた『契約』だった。その内容は彼らに大きなメリットを与えるが、それと同時にかなりの束縛をもたらすものだ。特に契約を破った場合の対価は、彼らにとってもかなり高いものになる。
だが幸いにも、まだ契約は結ばれていない。今ならば拒否することだってできるだろう。結ぶことによって生まれるメリットとデメリット。そしてこの先の暫定的な未来を加味しながら、黒服は静かに思考を巡らせる。
「…………契約は結びます。ただし、彼の者にマダムのことは伏せておきましょう」
熟考の末、黒服はそう判断した。その回答にゴルコンダとデカルコマニーは静かに頷き、マエストロはゆったりと体を軋ませる。
「いいのだな?」
最後に確認を促すようなマエストロの問いかけに、黒服は「ええ」とはっきり肯定の意を返した。
「かの予言書から引用しますが、『全てはゼーレのシナリオ通りに』……ですよ」
例え炎の柱に焼き尽くされようとも。
彼らは自身の探求を続ける道を選ぶのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▽門守セキ
ついに起動した希望の舟。
もう赤子のような彼女は居ない。
▽ネーメズィスシリーズ
宿敵を前に暴走する兵器。
残念ながら、リベンジは叶わなかった。
▽黒服
背後にて暗躍する大人。
2つの予言書を軸にシナリオを進める。
▽喪われし神々
いつか、どこかの世界に存在した神々。
その技術はゲマトリアをして把握できていない。
あとがき
用事が立て込んでて修羅場なのに筆が止まらねぇぜ!!!
このツケはきっと未来の俺が払ってくれるさ!!
次回 第34話「エピローグ 〜Signal of Abydos〜」
「それでは!アビドス定例会議を始めます!!」