Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 あなたの神、主は生きておられます。
 わたしの主人があなたを尋ねるために、人をつかわさない民はなく、国もありません。

 ー 列王記上 18章 10節より ー







閑話その1 「"先生"」

 

 

 

 

 

 

 みなさんこんにちは!門守セキです! 

 

 ヘルメット団のみんなとお別れして、シャーレに住み込み始めてから1週間が経ちました。環境の変化にも慣れ始めて、ようやく安定した生活を送れるようになりました。

 何もかもが新鮮で新発見。それに出会う度に、アビドス砂漠がどれだけ狭かったかを思い知らされました。リーダー先輩の言う通り、私はまだ知らないことが多かったのです。

 

 なのでシャーレ専属部員としての最初の仕事は、セツナ先生の仕事の見学です。1日先生の仕事について行って、シャーレがどんなことをするのかを見て学ぶ。

 

 そんな予定だったんですが……。

 

 

「ダメだ」

 

 “ えぇーー!!?なんで!????私ここに来て1ヶ月だよ!?そろそろ1人で仕事できるよ!!”

 

「なんでもくそもあるか。お前1人だと不安だから言ってんだよ。シラトリ区はまだマシとは言え、いつ銃弾が飛んでくるかわかんないんだから」

 

 “ もう!お兄ちゃんのケチ!過保護!シスコン!!”

 

「やかましい。あと誰がシスコンだ」

 

 

 ぷりぷりと怒る声が、少し離れた位置に座る私のところまで聞こえてきてる。そっちの方を見れば、いつもの作業机に向かうセツナ先生と、その対面で頬を膨らませる大人の女性が居た。

 腰までなびく亜麻色の髪に、少し心配になるくらいの細身の身体。そして眉根を寄せてふくれっ面を浮かべるその横顔は、セツナ先生のそれと瓜二つだった。

 交渉決裂と判断したのか、その女性は「ちえっ」と不服そうに呟くと、くるっと向きを変えて私の方へと近づいて──。

 

 

 “ セキちゃぁぁぁん。お兄ちゃんがシスコンを拗らせちゃったぁぁぁぁぁぁ!”

 

 

 そして情けない声を上げながら、ソファーに座る私の膝の上へと滑り込んできた。

 

 

「あー、はいはい。シスコン……?っていうのは分かりませんけど、とりあえずヨシヨシ……」

 

 

 そして先生の頭を撫でて慰めるのが、ココ最近のいつもの流れだった。生徒にされるがままにされるその姿は、まるでイタズラされていじけちゃった子供みたいで、見た目とのギャップに驚かされてしまう。

 

 ……いや、そうでも無いか。この人には、初めて会った時から驚かされてばっかだったな────

 

 

 

 

 

 ────私とその人が初めて会ったのは、私が初めてシャーレにやってきた日だった。様子を見てくるから待っててと言われ、待ち続けること数分。セツナ先生に促されて執務室へと足を踏み入れる。

 そこで私を待っていたのはセツナ先生と、私よりも少し背の高い、セツナ先生と瓜二つの女性だった。

 

 

 “ 私は天守アイ。これからよろしくね!”

 

 

 天守……アイ。確かセツナ先生の苗字も天守だったから。もしかしたらお姉さんか妹さんなのかもしれない。

 

 

「アイは私の妹なんだ。これから私と一緒にシャーレの先生として活動することになったから、仲良くして欲しい」

 

「えっと……門守セキです!これからよろしくお願いします!!アイ先生!!」

 

 

 ちょっとテンパりながらも、私は慌てて自己紹介をする。 シャーレの新しい先生、アイ先生って呼んだら良いのかな? 当のアイ先生は特に嫌な顔はしてないっぽいけど……。

 ……いや、嫌な顔どころか、なんだかすごくニコニコしてる。あと気のせいじゃないなら、私の腰の翼をめちゃくちゃ見てるような……。

 

 

 “ ねぇセキちゃん!その翼って本物!?ちょっと触ってみてもいい!? ”

 

「はい?えっと、良いですけど……」

 

 “ やったー!!じゃあ失礼しま〜す!”

 

 

 ……どうも、見られてるのは気のせいじゃなかったみたい。アイ先生は私の翼に興味津々みたいで、鼻歌と共に私の後ろに回り込むと、羽を触ったり翼を撫で回したりし始めた。

 少しくすぐったい。でも、それと同時にどこか懐かしさすら感じる。随分と前にもこんな風にされたような気がする。……いや逆? した側の記憶かも?昔はよく飛葉ちゃんを撫でたりしてた────

 

 

 “すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーー”

 

「ひえっ!?////」

 

 

 ──え?今翼の匂いを嗅がれた?私ここに来るまで結構汗かいてると思うんだけど?しかもなんで満足そうな顔してるの?これは流石に恥ずかしいんですけど……。

 

 

「そこまでだ。いきなり生徒の匂いを嗅ぐんじゃない。身内がセクハラで捕まったとか、俺は聞きたくないからな」

 

 “ あぁ〜〜お日様の香りがぁぁぁぁ……”

 

 

 そんな私を見かねたセツナ先生が、アイ先生の襟首を掴んでひっぺがしてくれた。情けない声をあげながら、ずるずると引きずられていくアイ先生。まるで大人とは思えない姿を見送りながら、私は荒ぶる心臓を何とか落ち着かせた。

 それにしてもびっくりした……。まさか自分の匂いを嗅がれるとは思わなかった。セツナ先生と比べて、だいぶ距離感が近いというか……。

 

 

(………………変な、大人?)

 

 

 これが正しい表現なのかは分からないけど、私が感じたアイ先生の第一印象はそれだった。

 

 

 

 

 

 ────そして、その第一印象は今も変わらない。だって現に私の膝の上で頭を撫でられてるし。私はまぁ別に良いんですけど、他の子からの体裁みたいなものは気にならないのかな……? 

 

 

 “あぁぁぁ、セキちゃんはほんと優しいねぇ……”

 

 

 私の太ももに顔を埋めたまま、今にも溶けそうな声を出してるアイ先生。こんな姿を晒しているけど、これでもセツナ先生と同じシャーレの顧問なんだから驚きだよね。

 一応世間にはもう、彼女がシャーレの新しい先生だと知れ渡ってるみたい。当番に来たシロコちゃんや他の子も、みんな先生だって知ってたし。最近知ったことだけど、シャーレは結構話題の組織みたいだしね。

 

 だからこそ、なんでセツナ先生がアイ先生に仕事をさせたがらないのかがよく分からなかった。

 

 

「でもセツナ先生、なんでアイ先生を行かせてあげないんですか?」

 

 

 そう問いかけると、セツナ先生は少し動きを止めた。どう答えようか考えているのかな。しばらくそうしてから、先生はデスクワークを再開しながら口を開いた。

 

 

「そうだな……。例えば、セキにとって大切な人が明らかに危ない場所に行きたいって言ったら、セキはどうする?」

 

 

 私の大切な人──リーダー先輩や飛葉ちゃんが危険な目に会いそうなのを見過ごせるか……ってことかな。確かに、もしそういう状況になったなら、きっと私は判断には迷わないと思う。

 

 

「……止めると思います。大事な人に、傷ついて欲しくは無いです」

 

「だろ?つまりそういうことだ」

 

 

 要するに、セツナ先生にとってアイ先生は、私にとってのリーダー先輩や飛葉ちゃんと同じってことなんだ。大切だから、傷ついて欲しくないから、できるだけ危険から遠ざけたい。

 確かに、シャーレは生徒(わたし)たちにとっては良い存在だけど、アビドスの時のカイザーみたいに、相手によっては悪い存在になる。そういった相手からの逆恨みに巻き込みたくないから、セツナ先生はアイ先生を表に出したく無いんだ。

 その気持ちは、私もよくわかる。誰だって、大切な人に傷ついて欲しくはないしね。きっと今までの私なら、その例え話で納得できたと思う。

 

 でも、アビドスから抜け出して世界を見た()()私は、少し違うんだ。

 

 

「でも、もしその人が『やれる』って言ってるなら、任せて見ようかな〜とも思います。リーダー先輩が、私にそうしてくれたみたいに」

 

 

 カタカタヘルメット団を離れるその間際。リーダー先輩は私に色んなことを言ってくれた。そしてその大半は、私に対する心配事ばかりだった。

 もしかしたらリーダー先輩は、私を1人にするに不安を感じていたのかもしれない。それでも、こうして私を送り出してくれた。その選択の結果は、今こうして私の考えを変えてくれている。

 

 

「それにルール違反かもしれないですけど、もしその人が危ない目に会いそうな時は、私が助けます。私にそれができる力があるなら、なおのこと」

 

 

 そう。そのために、私はシャーレにやってきた。私が守りたい人を守るため、守る方法を知るために。私が持つ神秘の(ふしぎな)力で、色んな人を助けるために。

 

 大切な人を怪我なんてさせない。

 そのために、私はここに居るんだから。

 

 

 そんな風に私が喋ってる間、セツナ先生は黙って話を聞いてくれていた。

 

 

「…………そうか。なるほどね」

 

 

 そして一言そう呟くと、再びデスクワークを再開する。ただ今回その手をすぐに止めると、ゆっくりと椅子から立ち上がって、傍に置いてあったタブレットを手に取った。

 

 

「アイ、出かける準備をしろ。外回りのやり方くらいは教えてやる」

 

 “ ほんと? やったーー!!!”

 

 

 セツナ先生のその言葉に、膝上で膨れてアイ先生が勢いよく起き上がる。私の言葉のせいかは分からないけど、どうやらセツナ先生の中で何かが変わったらしい。

 テキパキと外出の準備を整える先生たち。その様子を眺めていると、セツナ先生から新たなミッションを任せられた。

 

 

「セキ、留守番と少し仕事を任せてもいいかい? もうすぐ今日の当番の子が来るから、その子と一緒に書類仕事をやって欲しい。それまではシャーレの守りをよろしくね」

 

「わかりました!!」

 

 “ セキちゃんありがとう〜!!”

 

 

 アイ先生のその言葉を最後に、2人は執務室から去っていった。それを見送った後、私はおもむろに立ち上がりって、1人残されたこの部屋をゆっくりと見回す。

 後に残されたのは静まり返った執務室と、そこに残された私だけ。さっきまであれだけ騒がしかったのに、なんだか夢から醒めたみたいに寂しい感じがする。

 

 

「…………それにしても、あれが兄妹なんだ」

 

 

 アイ先生が来てから、セツナ先生の態度が分かりやすく変わった。私やシロコちゃんと話す時は「私」って言ったり丁寧な言葉遣いをしていたのに、アイ先生に話す時は「俺」って言ったり、少し荒っぽい言葉遣いになってる。

 それを本人が自覚しているかは分からない。けど、心做しかアイ先生と喋る時のセツナ先生は、少しだけ気が緩んでる気がする。きっとアイ先生(実の妹)が相手だから、気兼ねなく"素"を出せるんだろうなぁ……。

 

 

「少し、羨ましいな……」

 

 

 別に競ってる訳じゃないけど、私じゃセツナ先生の相棒にはなれないみたい。まぁそれ以前に、私が狙ってるのはシロコちゃんの隣だけど。でもそれはそれとして、少し悔しくも思う。

 だから、私の役目は守ること。セツナ先生もアイ先生も、どっちも守れるように。私は私で、地道に努力を重ねていくんだ。そうすれば、いつかきっと人の関係も守れるようになると思うから。

 

 

「さ〜て、そのためにもまずは、ここを守れるようにならなくちゃね」

 

 

 シャーレ専属とは言え、私の仕事はまだ始まったばかり。とりあえず、まずは頼まれた仕事をこなしていかなきゃ。千里の道も何とやら……だしね! 

 そんな私の最初の任務は、今日の当番の子が来るまでこの執務室の警備をすること! ヘルメット団の時から哨戒のお仕事とかしてたけど、油断しないよう気張って守らないとね! 

 

 なんて考えてた、その時だった。

 

 

 カシャァァァァン!!

 

 

 私の背後──窓辺の方から何かが割れるような音がした。……いや、何かじゃないか。今のは絶対、窓ガラスの割れた音だ。

 警戒しながら振り返ると、そこには案の定粉々に砕けたガラスの破片が床に散らばっていた。そしてそのガラス片を踏みしめて、ガラスを割ってきた犯人──いや、侵入者がそこに居た。

 

 まず一番最初に目に入ったのは、顔全体を覆う狐のお面。怒ってそうなその表情(めん)の向こうからは、どこか禍々しい威圧感が漂ってきている。着ている服は学校の制服とは違うみたいで、いつか飛葉ちゃんに教えてもらった和服ってやつに似てるかも。

 そして狐のお面と同じように、彼女の身体にはしっぽと耳が生えていた。シロコちゃんやセリカちゃんと同じ、動物の特徴を有している人。多分、お面と同じ狐の子なのかな? 

 

 

「あの女の方は、まぁ良いでしょう」

 

 

 明らかに私に対する敵意を撒き散らしながら、その子は静かに口を開く。その声からはお上品な雰囲気を感じたけれど、それがなんだか逆に荒っぽくも感じる。

 

 

「あの方の親族のようですし、私の好みのタイプでもあります。それと毎日代わる代わる来ている女狐たちも、まぁ良いでしょう。しかし貴方だけはいただけませんねぇ?」

 

 

 そう言ってその人は、得物(エモノ)っぽい長い銃を突きつけてきた。飛葉ちゃんと同じくらいの長さ……ってことは、あれはスナイパーライフルか。でも先っぽに刃物が付いてるし、この距離まで近づいて来たってことは近接も全然やれそうかな……。

 というか、どうやってここまで来たんだろ。執務室のあるこの階、けっこう高い位置にあったと思うんだけど。この場所まで生身で来れるってことは、身体能力もかなり高そう。もしかしたら、翼を持ってる私以上かも。

 

 

「……なんかよく分かんないけど、早速仕事の時間ってことかな?」

 

 

 まっ、それがなんだって話。ここを守ると決めた以上、私に退く選択肢はないんだ。太もものホルターから愛銃のハンドガンを抜いて、何時でも動けるよう体を張り詰めさせる。

 

 

「このワカモ、先生に纒わりつく鬱陶しい害虫は許せません。さぁ、とっとと駆除されてくださいませ?」

 

 

 そう言い終わるや否や、侵入者──ワカモちゃんは一瞬で銃口を向けてきた。洗練された無駄のない動きに驚く間もなく、私は備えていた足に力を込める。

 

 ダンッ!!!!

 

 硝煙と閃光、次いで重い銃声が轟く。それとほぼ同時に、私の頭があった位置に強い殺意が飛んできた。目にも止まらぬ早業。多分あらかじめ備えてなかったら、この一撃は躱せなかったかも。

 ただ、躱せたところで状況は不利だ。神秘もまだ撒けてないし、そもそも武器がハンドガンとグレネードしかない。執務室をこれ以上めちゃくちゃにする訳にもいかないし、ここは一旦……。

 

 

「…………一旦、状況を変えよう」

 

 ⟬ーーーーーーーーーーーー⟭

 

 神秘解放──第1段階。それと同時に、どこからか低く唸るような声が聞こえる。それはアビドスに居た頃よりもずっと小さな声だったけど、どうやらワカモちゃんにも聞こえたみたい。

 まるで観察するみたいに、じっと私の様子を伺ってるワカモちゃん。私の手元に握られたハンドガンを警戒してか、いつの間にかライフルの持ち方を変えていた。やっぱり、近接戦もイケるタイプなのかな。

 

 

「悪いけど、ここで戦う訳にはいかないよ!」

 

 

 だけど、私の狙いは近接戦闘じゃない。踏みしめた両の足にしっかりと力を込めると、そのまま地を蹴ってワカモちゃんの方へと一直線に突っ込んだ。

 

 

「…………な!?」

 

 

 対応なんて、させない。突っ込んだ勢いそのまま懐へと入ると、私は彼女の身体をしっかりと抱きとめる。そして彼女が驚いているその隙に、私はもう一度地を蹴って窓辺のガラスへと突っ込んだ。

 そこはちょうど、ワカモちゃんが入ってきて粉々になっていた箇所だ。割れたガラスが服や肌を裂いて、あちこちに痛みが走る。

 

 痛い。傷つくのは、やっぱり痛い。

 でもそれと同時に、どこか楽しくなってきた。

 

 

戦う(やる)なら、表でやろう!!」

 

 

 高まる心音に笑みを浮かべながら、ワカモちゃんごと宙へと身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 









 ▽天守セツナ
 過保護気味なシスコン。
 セキの意見を聞いて、考えを改める。

 ▽天守アイ
 新たに赴任した"先生"。
 どこか子供っぽく、甘えん坊。

 ▽門守セキ
 シャーレ専属になった生徒。
 アビドス以外の世界を勉強中。

 ▽狐坂ワカモ
 セツナに恋する純情狐。
 セキに対する嫉妬で大暴走中。





あとがき

お久しぶりです。1ヶ月ぶりの更新ですわね。
新学期と同時に爆弾案件の処理に邁進してたので、筆を手に取る暇がありませんでしたわ。
ですが一段落したので、またゆっくりと筆を走らせていきますわよ。

それと、今回から少し書き方を変更します。場面転換の数を減らして、1回あたりの文字数を減らす代わりに回転率をあげる作戦。
果たして上手くいくか……?


P.S オトギとクルミの尊い作品を!!!
私が危篤の状態なんです!!!!
誰かオトギとクルミの尊い作品を!!!!!!





 次回 閑話その2 「兄妹」


「お前だけが知ってれば、それで良いだろ」




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