Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 主は彼らの前に行かれ、昼は雲の柱をもって彼らを導き、夜は火の柱をもって彼らを照らし、昼も夜も彼らを進み行かせられた。


 ー 出エジプト記 第13章 21節より ー








Vol.1-1:手に入れたもの、手放したもの
第1話 「始まりのアビドスへ」


 

 

 

 

 

「わぁぁぁぁぁ!! 綺麗〜!!」

 

「そうですね……! こんなに綺麗に見れたのは、私も初めてです……!!」

 

 

 いつか、どこかであった話。閑散とした校舎の屋上で、私と先輩は床に転がりながら星空を眺めていた。ちょうどその日は流星群の日だったみたいで、雲ひとつない満天の星空には、時折儚い光の筋が瞬いていた。光っては消え、光っては消えを繰り返すその星々を眺めていると、不意に隣で寝転んでいた先輩が口を開く。

 

 

「ねぇホシノちゃん。流れ星の伝説って知ってる?」

 

 

 先輩が静かに私に問いかける。私はしばらく思い当たるものを探してみたものの、最終的には思い当たるものはなく、素直に「知りませんね。どんな話なんですか?」と先輩に問い返した。すると先輩も得意げな様子で、流れ星にまつわるある伝説について話し始めた。

 

 

「流れ星はね。天国にいる神様が、地上の人がどんな風に暮らしてるかを知るために落としてるんだって。だから私たちが地上の事を伝えると、代わりに私たちの願い事を聞いてくれるんだ〜!」

 

「へぇ……それは初めて聞きました」

 

「だからね、い〜〜っぱい色んなことを伝えるの! ホシノちゃんと宝探ししたこととか、ホシノちゃんに助けてもらったこととか、ホシノちゃんが──」

 

「……なんで私の事ばっかりなんですか。もうちょっと他に何かあるでしょう」

 

 

 先輩があまりにも私の名前をあげるものだから、つい可愛げのない言葉が飛び出てしまう。だけど先輩は嫌な顔ひとつせずに、ただ「ふふふ♪」とにこやかに笑ってる。その笑顔がなんだか無性に懐かしくて、私は思わず見入ってしまっていた。

 

 

「ホシノちゃんも何か願い事してみたら?」

 

 

 そんな私のことを知ってか知らずか、先輩はそんなことを問いかける。願い事……か。それはもう、願いたいことなんて山ほどある。このアビドスの借金もそう、いつまでも終わらない砂嵐だって。私たちの手ではどうしようもないことが、この世界には沢山あった。

 でも、もし本当に願い事が叶うなら。どんなに不可能なことでも、可能にしてみせる『奇跡』があるとするならば。バカみたいに賑やかで、お日様のような笑顔のこの人と一緒に居られたら…………。

 

 

「私は──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────っ!! はぁっ……はぁっ…………はぁっ……っ……はぁ」

 

 

 

 呼吸が乱れる、心臓がバクバクと荒ぶり続けている。久しぶりに訪れた微睡みは、やはり悪夢のような現実を突きつけてくる。やはり『奇跡』なんて存在しないのだと、それはどこまで行っても「夢物語」なのだと。そう私に宣告しているようだった。

 時刻は午前7時、間もなく登校時間だ。そろそろ動き出さないと、学校に遅れてしまう。今月に入って3回は遅刻してるから、そろそろセリカちゃんから大目玉を貰いそうだ。流石の私でもそれは申し訳ないから、寝不足の体を引きずりながら無理やりベットから離脱する。

 その際、机に置いてあった写真立てと目が合った。随分と前に取った1枚のツーショット。満面の笑みを浮かべてる少女が、もう1人の仏頂面の生徒の頭を抱えるように手を回して、もう片方の手でピースサインを作っている。まったく、もう少し楽しそうにすればいいものを。心の中でそう文句を言うが、その言葉は誰にも届きはしない。

 

 

「おはようございます。ユメ先輩」

 

 

 ありふれた日々を象徴するこの言葉も、届くことなんてありはしないのだ。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「……ぐっ……うぅぅ……」

 

 

 意識が覚醒すると同時に、僅かに開いた口から呻き声が漏れ出てくる。それと同時に、止まっていた思考が徐々に動き出し、今自分がいる場所がシャーレの仮眠室であることを思い出した。だが意識は完全に目覚めたものの、どうやら身体の方はまだ眠っていたいらしい。身体を起こそうと腕に力を込めると、その何倍もの眠気が体を押さえつけてくる。

 確か昨日は山のように舞い込む書類や依頼の数々と格闘し、時計の針が0時(てっぺん)を大きく回ったところで仮眠室で泥のように眠って、今ようやく目覚めたところだった。それでもまだ時刻は午前9時前なのだから、自分の体内時計の正確さには自分の事ながら驚かされる。

 

 

「う〜ん……。まだ眠いな……よっと」

 

 

 本音を言えば二度寝を決め込みたいところだが、もうまもなくシャーレの業務が始まる時間だ。とりあえずベットから出て洗面台の前に立ち、顔を洗い寝癖を整えてから、最近自宅からこちらに常備するようになった新たなスーツに身を通す。そして最後に鏡で服装や髪型に問題がないかだけ確認してから、私は執務室へと向かった。

 

 

《おはようございます! 天守先生!!》

 

「うん、おはようアロナ」

 

 

 執務室に足を踏み入れると同時に、机の上に置いてあった《シッテムの箱》から元気な挨拶が聞こえてくる。近くによってやれば画面上にホログラムが投影され、可愛らしいお辞儀を見せてくれる。その姿に「今日も一日、よろしく頼むね」と声をかけてから、仕事用に使っているPCを立ち上げていつものようにメールを確認しようとする。

 

 

「…………うぇ? なんだこれ……?」

 

 

 しかし、PCを立ち上げた途端、私は思わず変な声をあげてしまった。それもそのはず、たった1晩見なかっただけだと言うのに、仕事用のメールボックスが依頼の通知でいっぱいになっていたからだ。その数なんと30件以上。しかもいたずらやスパムなど、悪意のあるものを省いた結果である。どうやら私の優秀な秘書は、朝早くから起きて色々と作業をしてくれていたようだ。

 

 

「アロナ……、この大量の通知は一体何だい?」

 

《ここ数ヶ月でシャーレに関する噂は、色んなところに広まってるみたいですよ? このとおり、他の生徒さん達からの依頼も沢山届いています》

 

「あぁ……なるほど……ね……」

 

《良い兆候です! 私たちの活動が広まっていくということですから!》

 

「……まぁ、そうだな。うん」

 

 

 正直、喜ばしいとは思う。まだシャーレが活動開始した時は当然知名度なんてなかったから、シラトリ区安定化の際に住民やスケバンの子たちのお願いを聞いていたりはした。ネコ探しや友達付き合いの相談、あとは宅配の代理とか、まぁ細々とした依頼をこなしてきた結果が実を結んだと思えば、過去の私は両手放しで喜ぶだろう。

 だがこの結果を見て、未来の私はどう思うだろうか。もしかしたら多くの依頼に押しつぶされて、恨み言の1つでもこぼしているのかもしれない。だが、その分生徒たちのためになるのだから、未来の私には尊い犠牲になってもらおう。なので今回の件は総合的に見ればプラスである。いぇい。

 

 

《ですがその中に…………、ちょっと不穏な手紙が混ざってまして。1度先生に目を通して欲しいんです》

 

 

 ホクホク顔でメールを開こうとした私の手が、アロナの一言によってピタリと止まる。手紙? 今どきにメールではなく紙媒体で送られてくるとは……。それに、なにやら不穏な手紙と来た。アロナの検閲が紙媒体も見れるのかは定かではないが、彼女がそう言うのであれば、1度自分の目で見た方がいいんだろう。

 

 

「その手紙ってどこにある?」

 

《ええっと……、確かそこのファイルの中に入ってたはずです》

 

 

 アロナに言われた通り、手前のファイルを手に取り開けば、中には赤い封蝋の施された封筒が入っていた。ちゃんと封蝋も施してるあたり、送り主の几帳面さが伺える。こちらも破らないように慎重に封を剥がして中身を取りだせば、中からは2つ折りになった3枚の手紙が出てきた。早速1枚目からから読み進めていくべく、スっと手紙へと視線を落とす。

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 連邦捜査部の先生へ

 

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。

 

 単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。それも、地域の暴力組織によってです。

 

 こうなってしまった事情はかなり複雑ですが…………。どうやら、私たちの校舎が狙われているようです。今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を着いてしまいます…………。このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。

 

 それで、今回先生にお願いできればと思いました。

 

 先生、どうか私たちの力になっていただけませんか? 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 パサリと手紙を机に置いて、私は「う──む」と小さく唸る。なるほど、アロナの言う通りこれは不穏だ。当の本人は先程から隣で小さく「うむむむ」という似たような唸り声を発しているが。

 この手紙の中では「お願い」と言ってはいるが、実際のところは救援要請なのだろう。発足後間もなく、今だ信頼度の低いシャーレに頼らざるを得ないほど、彼女たちは追い詰められているということだ。

 

 

《うーん、アビドス高等学校ですか……》

 

「聞いたことはあるな……。と言っても、今まで会ってきた子にアビドス高校出身の子はいなかった気がするけど」

 

 

 シャーレとして活動を始めてしばらく経つが、「アビドス高等学校」という名前は出てきたことは無かった。活動開始前にキヴォトスにある学校を調べた時には名前はあったが、今までアビドスの生徒とはあったことは無い。

 なので私はかの学校の実態を未だ掴めずにいた。どんな場所なのか、どんな環境なのか。どんな校風なのか、どんな生徒が居るのか。アビドス高等学校に関する情報は名前以外知らない。唯一知っていることといえば、なにやら自治区に巨大な砂漠があるということぐらいか。

 

 

《昔は大きな自地区でしたが、気候変動で街が厳しい状況になったと聞いています。街のど真ん中で道に迷って、迷子になる程広大な自地区だったらしいですよ?》

 

「何それ……? 流石に冗談でしょ」

 

 代わりにアロナが持ち前のサーチ力を用いて色々と教えてくれる。だが正直、その殆どが信用しきれないものばかりだった。それに最初の遭難した話に関しては、流石に誇張がすぎるだろう。「街で遭難」なんてパワーワードを聞くのは、きっと今回が最初で最後になるな。そんな私の表情がよほど面白いのか、先程からアロナの表情が何とも言えないものになっている。

 

 

《それよりもです! 学校が暴力組織に攻撃されてるなんて、ただ事ではなさそうですよ。一体、アビドスで何が起きてるんでしょうか……?》

 

 

 終わらない誇張話を止めるべく、アロナが手紙の本題へと話を戻す。彼女の言うとおり、今アビドスを襲っている事態は正しく異常事態だ。地域の暴力組織──例を挙げるならシラトリ区のスケバンの子たち──が、学校に襲撃を行っている。しかも学校が苦境に立たされており、あと一手があれば勝てそうというのだ。

 正確な情報が掴めないアビドス高等学校。今まで会ったことのないアビドス生からの救援依頼。学校に襲撃を行う暴力組織に、追い詰められる学校側。何もかも"例外"と呼ぶべき事態の数々に、私の思考は徐々に固まりつつあった。

 

 

「ま、気になるなら自分の目で見てみないとな」

 

 

 要するに、百聞は一見にしかず……ということだ。訳の分からない話なら、実際に体験した方が良い。それにアビドス高校の生徒と会えるまたとないチャンスだ。未だ空白だったアビドス高等学校のデータが埋まることを考えれば、この救援要請を受けないという選択肢は無い。

 

 

「アロナ、シャーレ初の長期出張といこう。ドローンの編成は<プランC>で、念の為予備機も持っていって……。あとはクラフトチェンバーで物資の生成も……」

 

《かしこまりました!! 手紙を見てから即行動、これが大人の行動力ですね!》

 

 

 アロナは感心した様子で手を叩きながら、頭にヘッドセットを装着する。それを微笑ましく見つめながらも、私の手はシッテムの箱を手に取り、すぐに出かける準備を始めた。

 まずは地下にある物質生成器(クラフトチェンバー)に向かい、彼女達の補給物資を生成する。物資が生成完了するまでの間に、自身の荷物の荷造りも忘れずに。予め巨大な砂漠があるのはわかっているので、念の為数日分の携帯食料と水を用意して、それらを一纏めにしてリュックに詰める。

 その間にアロナは据え置きゲーム機のコントローラーのような端末を手に取り、何かの操作をしていた。傍から見ればゲームをしているようにしか見えないが、これでも彼女はかなり重要な役割をこなしてくれているのだ。1度だけ「ゲームしてたりする?」と尋ねたことはあるが、その時は「遊びでやってんじゃないんですよ!!」と言われてしまった。なんか殴られそうな勢いだったから、その時はすぐに身を引いたよ。

 そして全ての準備が終わると、私はシャーレビル内のガレージへと足を運んだ。そこには様々な機械が並んでいたが、中央に鎮座する白い大きな箱が異様な存在感を示していた。それは4つのコンテナがひとつに連なったような見た目をしていて、結合部からは何かと繋がるための支柱が四方に伸びていた。そしてコンテナの側面には小さくミレニアムサイエンススクールのロゴと、最近お世話になったエンジニア部のロゴが刻まれている。

 私は用意した補給物資やリュックなどを次々とコンテナへ詰めていった。コンテナの中はかなりのスペースがあり、大量の補給物資を積んでもまだ余裕がある。今回は補給物資に加えて自分の荷物と、いくつかの仕事道具を詰め込んでからコンテナの蓋を閉めた。

 

 

「水、食料、その他備品。補給用の物資も生成完了してストレージに積み込み完了……と」

 

 

 あ、あとリンちゃんに連絡だけしとかなきゃ。ちゃんと報連相しなきゃ怒られちゃうからね。リンちゃんの怒ってる顔を思い出して身体が震えるが、頑張って抑えてしっかりとメールを送っておいた。彼女の怒りは、既に私の体に恐怖として刻み込まれているのだ。

「ふぅ……」と私がため息をついけば、タイミングよくガレージのシャッターが開き、外から4機のドローンが入ってきた。コンテナと同じくミレニアムとエンジニア部のロゴが刻まれたドローンたちは、それぞれコンテナの支柱へと近づくと、ガチャン! という音を立ててからゆっくりと動きを止めた。

 

 

《先生、ドローンとストレージのドッキングが完了しました! こちらは準備万端です!》

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

《はい! アビドス高等学校の最寄り駅まで輸送しておきますね!》

 

 

 アロナがそう言うと同時に、ドローンのプロペラが動き始めた。4つのプロペラを力強く回転させ、4機のドローンはコンテナをしっかりと持ち上げ、開いていたシャッターからゆっくりと飛び出していく。そしてガレージを出たドローン達は徐々に飛行速度を上げて、あっという間に米粒のように小さくなってしまった。

 

 

「……いやはや、本当に学生であんなものを作れるとは。マイスターの名前は伊達じゃないね……」

 

 

 既に見えなくなってしまったドローンを眺めながら、感嘆とした様子で独りごちる。あのドローンとコンテナは、以前ミレニアムを訪れた時にエンジニア部に依頼して作ってもらった物だ。こちらの提示した条件はかなり無茶を言っていたと思うが、彼女たちは嫌な顔ひとつせずに、私の条件に見合った物を作ってくれたのだった。

 ……いや、実際は内心怒っていたのかもしれない。じゃないとBluetooth機能やら温風送風機能、挙句の果てには自爆機能までつけようとは言い出さないだろう。今度何かを依頼する時は、もう少しマシな物を頼まないと……。

 

 

「あっ、最後にあれだけやっとかないと」

 

 

 ドローンにあっけをとられている場合では無かった。私は急いで執務室へと戻り、入口前のボードに「出張中です。緊急度の高いものは連絡は私のメールまで」と書き込んだ。そして最後に執務室を見渡してから、誰にも聞かせる訳でも無く、ただ確認するようにこう呟く。

 

 

 

「……行ってきます」

 

 

 

 そう零してから、私は執務室を後にする。私の投げかけた呟きに答えるように、部屋をより一層静寂が包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ここ、どこだよ」

 

 

 そして私は、アビドスにまつわる多くの話が誇張ではないことを、身をもって体感することとなるのだった。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「よ〜〜しお前ら、よく聞け!!」

 

 

 アビドス砂漠にある、もはや廃屋となった住宅街の一角。赤いヘルメット被った少女が声を上げると、周囲のヘルメットを被った者たちの視線が、一斉に赤いヘルメットへと注がれる。それを見た赤いヘルメットの少女は満足そうに頷くと、再び大きな声で仲間たちに語りかける。

 

 

「私たちは今、とても幸運だ! パトロンに恵まれ、そして仲間に恵まれ、更には運命にも恵まれている!!」

 

 

 少女は語る。これは『奇跡』であると。これまでの戦いで何度も勝利を収め、間もなく勝利しようというのにも関わらず、彼女たちに欠員はなかった。

 もちろんタダでは済まなかったし、傷を負ったものだって少なからず居る。だが誰一人として、途中で脱落(リタイア)する者は居なかった。これを『奇跡』と言わずしてなんと言うのか。

 そしてそんな奇跡を引き寄せた彼女たちの前には、もはや立ち塞がるものなど何も無いと。カタカタヘルメット団のリーダーである赤いヘルメットの少女はそう確信した。そしてそれを現実のものにすべく、彼女は高らかに宣言した。

 

 

「明日だ! 明日で全てに決着をつけよう! アビドス高等学校の連中は、もうそろそろ補給が切れる頃合だ。このチャンスをみすみす逃すことは無い! 明日の決戦で勝利して、必ずあの校舎を手に入れるぞ!!」

 

 

 少女の言葉に、周囲から「おぉ──!!」という歓声が沸き起こる。周りの者達も少女の声に当てられたように、徐々に熱を帯びた口調で戦友たちと語り合う。隣から隣へ、そしてまた隣へ。少女の言葉によって焚き付けられた熱は、瞬く間に伝播しすぐに最高潮へと達していた。

 

 

「ひぇ〜、みんな盛り上がってるね〜」

 

 

 そんな中、その様子を冷静に眺めている者達もいた。少し離れた位置で壁に背を預け、手に持ったペットボトルを仰ぐのは、大きなアホ毛を風で揺らし、月光を反射する白髪をルーズサイドテールで纏めた少女。彼女の片腕にはボロボロの黒いヘルメットが抱えられていて、彼女もまた、あの赤いヘルメットの少女の仲間だと静かに語っていた。

 

 

「そういう先輩はどうなんです? なんだが思ったよりも落ち着いてるというか……」

 

 

 その隣には、同じく黒のヘルメットを被り、隣の先輩の様子を伺う少女の姿があった。彼女はリーダーの少女の言葉に静かに興奮していたのだが、隣の先輩が思ったより静かなのを見て少し怪訝な表情を向けていた。

 いつもなら感情が表に出やすく、常に明るい先輩だが、今目の前にいる先輩はなんだかしおらしさすら感じる。それが少女にとっては違和感で、理由を聞いてみたくなったのだ。

 

 

「ん〜。正直、ちょっと寂しいかな。もうあの子たちと戦うことは無いんだもん……」

 

 

 彼女の空色の瞳に、明らかな憂いの色が宿る。だが次の瞬間にはそれも消え失せていて、普段のような明るい笑顔が戻ってきていた。

 

 

「ま、それはそれで誰も傷つかなくなるから、私としては嬉しいけどね」

 

「そうですか。なんだか、いかにも先輩らしいですね」

 

 

 くすくすと笑いながら、少女は心の中で「よかった」と呟く。先程の表情も気になったが、とりあえずはいつもの先輩が戻ってきたようだった。やっぱり先輩には、ずっと笑っていて欲しい。だって彼女の笑顔は、太陽のように暖かいんだから。

 

 

「おーい2人とも何してんの!! こっち来なよ!!」

 

 

 バカ騒ぎもいよいよ終わりに差し掛かったところで、ついに2人にも声がかかった。除け者は許さない。それはこのグループが結成されてから、1度たりとも破られなかった絶対の掟だ。

 少女は「行きましょ! 先輩!!」と声をかけてから、急いで仲間たちの元へと戻っていった。それをにこやかに眺めていた先輩も、ゆっくりと腰を上げて仲間たちの元へと歩いていく。

 

 

 

「明日、決着をつけようね。シロコちゃん」

 

 

 

 決意にも似た複雑な感情を、その身に抱えたまま。

 

 

 

 

 

 

 







 ▽天守セツナ
 現在進行形でアビドスを舐めてたツケを払わされている。ドローンに温風送風機能がついていることが発覚したため、心安らかじゃない。おかげで最近ごっそり減った睡眠時間がさらに減った。

 ▽アロナ
 ドローン操縦技術を会得した。本人曰く、「遊びでやってんじゃないんだよ!!」とのことだが、アロナは超高性能神×3AIなので、ドローンを操縦しながら先生を守ることなど超がつくほど朝飯前である。

 ▽先輩
「ひぃん……」な方の先輩。
 この物語での彼女は行方は…………? 

 ▽私
 おはよう、いい夢は見れたかい? 

 ▽先輩
「ひぇ〜」な方の先輩。
 本物語のオリジナル生徒その1。アビドスではあまり見かけない天使族のようだが……。

 ▽少女
 本物語のオリジナル生徒その2。オリジナル生徒2人に関してはVol.-1〈聴衆無き練習曲(エチュード)〉の4話の方で少しだけ深掘りされてるので、良かったらそちらもどうぞ。


 ▽ドローン
 エンジニア部製多目的ドローン。
 先生がさらに生徒の戦闘支援をするためにエンジニアに依頼して開発された品。商品名は「みちびき君」。予備機を含め13機が開発され、偵察型・防衛型・補給型の3タイプに分かれて運用されている。

 偵察型・・・静音性と集音・画像処理能力に長けている。4機編成で、軽めの電子戦装備も搭載している。

 防衛型・・・運動能力と補給型に次ぐパワーを持つ。本機は2機編成で先生の周りを滞空し、緊急時には電磁バリアを貼って先生の身を守る。

 補給型・・・パワーと航続距離に優れた機体。専用の輸送コンテナ「ストレージ」と接続したり、アタッチメントの変更で様々な武器・弾薬・補給品を輸送し、生徒たちの兵站を支える。

 実はBluetooth機能と温風送風機能が搭載されており、温風送風機能は夜の砂漠の冷え込みからセツナ先生の身を守った。ちなみに自爆機能は……いずれ分かるだろう。




 あとがき

 お久しぶりです。
 かなり期間が空きましたね。その間に色んなことがありましたとも。総力戦ゲブラの地獄のような難易度に、キャンプマキ実装、新規追加のグループストーリーも良かったですね。個人的には2/16現在開催中の大決戦グレゴリオにて、特殊装甲tormentoを突破できたのが1番のニュースですね。
 次は3話くらいシュババッと投稿してから、また期間が空くと思います。それまでは何卒お付き合い下さい。



 次回 第2話「初めまして、対策委員会」



「いや構わない。そのまま私を深めの穴に埋めてくれ……」




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