Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
セツナ「私がセツナで、こいつがアイってやつだ」
アロナ「天守先生が2人?あわわわわ……」
アイ「きゃっ!?煙吹いちゃったよ!?」
セツナ「まじか……しばらく寝かせてやるか」
お兄ちゃんは、理屈っぽい人だった。
「ねぇ、何してるの?」
「ん?あぁ、
机に向かって何かをしているお兄ちゃんに声をかける。私に気づいたお兄ちゃんは少し片眉をあげると、何かをしていた手を止めて私にあるものを見せてきた。
「ほれ、これは何に見える?」
それは3つの黒い円が書かれた白い紙だった。ただそれ以外は何も書かれてなくて、そのせいで何だか私を見つめてる顔みたいに見えてきた。
「ただの紙じゃない?もしくは顔みたいに見えるとか?」
「正解。これは普通の白い紙だよ。ただ3つの黒い円が書かれている以外は、ごく普通のありきたりな紙。でも曖にはそれが人の顔みたいに見えたわけだ」
そう言うとお兄ちゃんは紙を机の方に戻してから、もう一度私の方へと向き直った。
「不思議だと思わないか?ただの紙と3つの円を、人は顔だと誤認する。人の認識の神秘だな。ちなみにこれはシミュラクラ現象って言うみたいなんだが────」
そこからの話は、あんまり覚えていない。なにせまだ高校生の私には、大学生のお兄ちゃんの講義内容なんてさっぱりだったし。
でも、そうして私に解説を続けるお兄ちゃんの顔は、久しぶりの笑顔で満ちていた。
それだけは、確かに憶えてる。
たとえそれ以外のことは忘れちゃっても。
「そんでこことか特に注意しろ。たまに不良生徒がたむろしてるから。ただ何か変なことしてない限りはそっとしとくのが良い」
太陽が燦々と輝く昼下がり。私はお兄ちゃんからの説明を受けながら、シラトリ区のあちこちを見て回っていた。お兄ちゃんが出張から帰ってくるまではずっと書類仕事ばっかだったから、教えて貰った全ての場所が"初めまして"で満ちていた。
……そう、本当に初めましてな事ばかりだ。道行くみんなが銃を持って、喧嘩みたいに銃撃戦がおこる。それでいっぱい死んじゃうかと思ったら、当人たちはケロッとしててかすり傷程度にしかならない。本当に……外の世界とは大違いだ。
「……とまぁ、これがシラトリ区で覚えて置いて欲しい箇所だな。今後シャーレが有名になれば、シラトリ区以外のところに行くことも増えるかもな」
シャーレの外回りの仕事は、日によって変わるらしい。というのも、家出した猫の捜索や宅配などなど、その日に入ってくる依頼の内容次第な部分が多いから。
そのぶん行動範囲も広くて、シラトリ区のあちこちを回ることになる。そして行動範囲が広がれば広がるほど、危険とのエンカウントも増える……。これがお兄ちゃんが私を出歩かせたくなかった理由みたい。
でもじゃあ、私と同じ銃弾への耐性が無いお兄ちゃんは出歩いていいのかと思ったけど。そこはお兄ちゃんらしいというか、ちゃんと対策があった。
《大丈夫です!もし先生たちが攻撃された時は、このスーパーアロナちゃんがしっかり守りますよ!!》
“ うん、頼りにしてるからね!”
シッテムの箱……っていう名前のタブレット。その中に居るアロナちゃんが守ってくれるみたい。ただのタブレットにそんなことができるのかと疑ってたけど、事実、お兄ちゃんは何度も助けられたらしい。
お兄ちゃんが言うには、銃弾が私たちに当たる前に曲げてくれるんだとか。その光景が気になりはするけど、実際に見れる状況にはなりたくないなぁ……。
そんな時、私たちの向かってた方から誰かが声をかけてきた。
「お、そこに居るのは誰かと思えば……」
「セツナ先生。ちょうど良いとこに居るじゃん」
その声に反射的に身を竦め、お兄ちゃんの背中へと退避する。そして背中越しに声のした方を覗き込むと、そこにはセーラー服を着崩した──いわゆる「スケバン」っぽい女の子が2人いた。
不良生徒っぽい見た目に加えて、キヴォトスの例に漏れず2人とも銃を持っている。しかもその顔にはイヤな笑顔が張り付いていて、私の脳内で警鐘が鳴る。
ただその声からは悪意みたいなのは
「なぁセツナ先生よ。私たち今金ねぇんだわ」
「ちょーっと金を恵んでくれたら、アタイらめっちゃ助かるんすけど〜」
大きな銃を持った金髪の子と、細長い銃を持った黒髪の子が、お兄ちゃんの方へとにじり寄っていく。表情も相まってとても怖いけど、お兄ちゃんは全く怖がってないみたい。
「……どれくらい?」
「ざっと2000円くらいっすね」
「1回だけ!1回だけよろしくしたいんだわ」
傍から見たらきっとカツアゲにしか見えないこの状況。でもお兄ちゃんは冷や汗1つ見せずに、スラスラと会話を続けている。ただ時折口をつぐんで、何かを考えるように黙っていた。
まさか、ここでこの子達と戦うつもりなのかな。でも相手は銃を持ってるのに、どうやって勝つつもりなの……?そんなことを考えながら、私はことの成り行きを静かに見守る。
そしてしばらくしてから、お兄ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「……図書コーナーの書架整理。2時間2400円、チップあり。これでどうだい?」
スケバン2人組に対して、そう提案するお兄ちゃん。カツアゲ目的の相手への回答としては明らかにズレた回答に、私の背中を嫌な汗が伝った。
……これ、逆上して撃たれるオチじゃないよね?そんな不安に駆られながら、恐る恐るスケバンの方を見てみると……。
「……ノッたっす!」
「よっしゃ!これで今月の雑誌が買える〜」
“ …………へ?”
予想に反して、2人組は満面の笑みを浮かべていた。
「さすがセツナ先生は話がわかるわ」
「ほんと!どこも学生証が無いからって門前払い。アタイらだって好きで退学してないっすよ!」
「こちらも助かるよ。最近読んだらあった場所に返さない子が居るみたいでね」
「全く、ひでぇ奴だな」
「でもアタイら、この前ちゃんと返してなかったけど」
「君らか……。ならチップは無しで良いかな?」
「おいバカお前……!!」
しかもなんか、お兄ちゃんと握手しながらコントみたいなこともしてる。もしかして、最初からそういう話だった?カツアゲとかじゃなくて、バイト?の相談をしに来てただけ?
そう考えながら思い返してみれば、見た目と表情にイメージを引っ張られてたけど、会話自体はそれっぽくも聞こえるような……。イメージで人を決めつけちゃいけないとは言うけど、キヴォトスでもそれは正しいみたい。
「ん?そういや、その後ろに隠れてる人は誰よ?」
私が遅れて状況を理解できたころ。金髪の子が私の存在に気づいたのか、私の方へのゆっくりと近づいてきた。
「知らないの?シャーレの新しい先生だよ」
「ほーん、なら挨拶しとかないとな」
そう言うと2人はお辞儀と一緒に「よろしくっす!!」と大きな声で挨拶してくれた。あぁ、本当に見た目なんて関係ない。たとえスケバンだろうが銃を持ってようが、この子たちはただの良い子なんだ。
“ 新しく赴任した、天守アイです!これからよろしくね!”
もう恐怖心はない。お兄ちゃんの影から1歩踏み出して、私もまた大きな声と共に頭を下げる。
「よろしくっす!それにしても、アイ先生美人っすね……!しかも声も綺麗だし……羨まし!」
「天守……ほーん、セツナ先生の妹?この兄にしてこの妹あり?」
“ えへへ、そう褒めても何も出ないよ?それに綺麗って話なら君たちだって。そのマニキュア、めっちゃ綺麗に塗れてるじゃん。自分たちでやったの?”
「お、良いとこに目をつけるっすね!これはもちろん────」
ほら、こうやって普通の会話だってできる。キヴォトスの怖いイメージに引っ張られてたけど、そのキヴォトスを動かしているのは、ごく普通の子供たちだってことを思い出した。
それからしばらく会話を弾ませていたけど、スケバンちゃんたちも用事があるみたいでお開きになった。やっぱり楽しい時間は、あっという間に過ぎちゃうな……。
「んじゃ、アタイらはこれで!」
「またオススメのコスメとかあったら教えてくださいっす!!」
“ うん!2人ともまたね〜!!”
笑顔で手を振る2人を見送る。そうして2人が見えなくなると、私の中で張り詰めていた緊張の糸が一気に解けた。
“ ……びっくりした。襲われるかと思っちゃった”
「その割には、だいぶ仲良くなったんじゃないか?」
どこか微笑ましそうにそう言うお兄ちゃん。まぁ、話してみれば普通の女の子ってわかったからね。
“ でもあの子たち、最初からだいぶフレンドリーだったね。もしかして、これもお兄ちゃんがやったの?”
「……まぁそうだな。シラトリ区のスケバンの子やヘルメット団の子は、みんな仲良くさせてもらってるよ。さっきみたいにお仕事の斡旋をしたり、色々相談に乗ったりね」
曰く、最初の方は苦労したんだとか。荒れ狂う不良たちを当番の子と一緒に
でも、そのお陰で今の平穏なシラトリ区がある。一応これでも銃撃戦はちらほらあるらしいけど、それもかなり限定的みたい。まぁ前までの状態なら、きっといくつ心臓があっても足り────
“ ────お兄ちゃん、ここって病院はあるの?”
ふと、その事が気になった。こんな心臓に悪い世界にお兄ちゃんが居る。その事実に思い至った私の思考は、反射的にその問いかけを口にしていた。
「そりゃもちろんあるさ。この辺とは反対側の区域にだけど。今はあれだが、また今度行く時に教えてやる」
“ 身体の方は、大丈夫なの?”
「今ん所は。まぁみんなが気にかけてくれるし、俺がそう前に出ることもないしな」
その答えに、私は少しだけ安心する。その言い方からして、ちゃんと通ってるっぽいしね。それならまぁ、私の心配事は杞憂に終わりそう。
ただ、最後の答えだけは違う。なんともない感じに聞こえるその声は、まるで誤魔化してるみたいに平坦だった。
“
試しにそう問いかけてみると、お兄ちゃんは分かりやすく顔を顰めた。
「お前だけが知ってれば、それで良いだろ。もう教えることもないし、執務室に戻るぞ」
そう答えてから、お兄ちゃんは踵を返して歩き始めた。その態度まるで隠し事をするみたいに、これ以上聞かれたくないみたいに。
ただ、その声だけは嘘をついてない。本当に、私以外には教えるつもりはないんだろう。きっとセキちゃんや当番の子、リンちゃんやこれから知り合うたくさんの子供たちにも。
“ ……そういう所、お兄ちゃんの悪い癖だよ”
そう呟きながら、私もお兄ちゃんの背中を追っていった。
世界を学んでこいと、リーダー先輩は言った。
砂のない街並み、目眩がしそうなほどの人混み、今まで気づけなかった世界の仕組みとか。アビドス砂漠の外には、私の知らないものが沢山あった。そして今、私は新しいことを知った。
世界には、私よりもずっと強い人が沢山いる。
「あら、もうおしまいですか?」
冷たく響くその声で、物思いに耽っていた思考が現実へと引き戻された。……そういえば、ワカモちゃんに蹴られて思いっきりビルに激突したんだった。
パッと見だけど、骨はまだ折れてない。さっき思い切り蹴られたお腹や外壁に激突した背中が痛むくらい。ただ出血は酷いし、あちこちにかすり傷や痣ができちゃった。服もボロボロだし、また買い換えなきゃ。
現状、一番マズイのは体力面。カイザーとの戦いからだいぶ経ったはずなのに、まだ神秘が回復して切ってなかったっぽい。それのせいで無駄に体力を消耗するし、ワカモちゃんの攻撃も躱しにくい。
「しかし、思っていたより手を焼かされましたね。これでは害虫ではなく、駄犬と言った所でしょうか」
それに対して、ワカモちゃんは軽傷って感じだった。お面が少し欠けたり、少し出血してるくらい。一応何発か攻撃は当ててるハズなのに、全然応えた様子が無い。
こっちは至近距離で撃ったり、自爆覚悟でグレネードを使ったりしたのにこれだ。しかも予想通り近接戦も強くて、こっちは本気なのに遊ばれてる感じがする。
(近接格闘、射撃、小物の使い方。どれをとっても私より強い。しかも技術だけじゃなくて、センスもバツグンかぁ……)
体感だけど、強さはシロコちゃんと同じくらい……あるいはそれ以上かも。戦い方も周りを顧みずに破壊して回るから、制限のない自由な戦い方ができてる。今の状態の私じゃ、ワカモちゃんを出し抜けるのは無いかな。
……ただし、1個だけを除いて。
「……しつこいですねぇ。まだやるつもりでしょうか?」
身体にのしかかる瓦礫を吹っ飛ばし、ゆっくりと立ち上がる私を見ながら、うんざりしたように言うワカモちゃん。ごめんだけど、私だって先生に任された以上、ちゃんと[[emphasismark:守らないと > ・]]といけないの。
「だから……お生憎様!やられっぱなしで終わるワケにもいかない!!」
そう言いながら、息を深く吐いて神秘の放出量を上げていく。体中を巡る神秘が弾け、低く唸る唄声が聞こえれば、あの砂漠での記憶が蘇ってきた。
カイザーとの決戦で覚醒したあの力。あの力があればきっと、ワカモちゃんと渡り合える。強敵相手には力不足な第1段階や、タイマンだと効率の悪い第2段階とは違う。どんな相手でも強く出れる、私の出せる全力全開──!!
「神秘解放、第3段か──」
そう宣言した声は途中でブツリと途切れた。
「ゴホッ……ケホッ……ッ……」
身体中が締め付けられるように苦しい。まるで電源が落とされたみたいに、私の身体が言うことを聞かなくなる。それでも何とか膝をつくけど、それ以上はどうしても動かせそうになかった。
(なんで……!?なんで使えないの!?あの時は使えたのに!?)
空気を求めて喘ぐ私の喉から、音にならない問いかけが漏れる。もはや1歩も動けない。そんな状態の私を、ワカモちゃんは見逃すわけがなかった。
トドメを刺そうと1歩、また1歩と近づいてくる影。私はただただ、その足音を聞くことしかできなかった。そして影が目の前で止まると、割れたお面の隙間から覗く彼女の瞳と、どうしようもなく見上げる私の目が合った。
「随分とお辛そうですねぇ。今すぐにでも、私が楽にして差し上げましょう」
その言葉と共に、私の額に銃口が突きつけられる。ここまで何発も喰らって来たからわかる。今攻撃を受けるのはまずい。しかもこの至近距離なら、ほぼ確実に私の意識は飛ぶ。
でももう防御も回避も、何も出来ない。すでに身体は満身創痍で、第3段階の『障壁』も使えない。ただこの現状を"敗北"として受け入れることしか……。
「うへ、ギリギリセーフかな?」
その時、ワカモちゃんの背後から気の抜けた声が聞こえてきた。
ズドォン!!!!
私を見下ろしていた影が消えると同時に、似つかわしくないほど重い銃声が轟く。銃声のした方を見ると、そこには硝煙を昇らせるショットガンを構えながら、鋼鉄の盾を展開する小柄な先輩の姿があった。
「君かな?おじさんの可愛い後輩のお友達をいじめてるのは」
ゆっくりと近寄りながら、ホシノ先輩は笑顔でそう問いかける。最初はなんでホシノ先輩が居るのか分からなかったけど、そういえばこの後シャーレの当番の子が来るって先生が言ってたことを思い出した。
対するワカモちゃんは突然の乱入者に警戒を強めながらも、周囲を見渡して状況を確認しているみたいだった。ただホシノ先輩以外に増援がいない事を確認したのか、より一層先輩に対する警戒を強めながら口を開いた。
「あなたは確か……、女狐の1人ですか。ちょうどいいです、まとめて身の程を知って──」
「ワカモ」
でもワカモちゃんの挑発もまた、最後まで続かなかった。聞いた事ないくらい鋭く、冷たい声。それに怖さを感じる一方、頼もしさを感じるその声は、ホシノ先輩とは反対方向──ワカモちゃんの背後から聞こえてきた。
ワカモちゃんとほぼ同時に視線を送ると、そこには白衣を着た2人の大人が立っていた。1人は片手にタブレットを持って、厳しい目線を送る男の人。もう1人は私を心配そうに見つめる女の人。頼もしい2人の姿を見て、私の体から力が抜けていった。
外回りに出ていたセツナ先生とアイ先生がタイミング良く戻ってきたみたいだ。しかも2人の姿を見た途端、ワカモちゃんが明らかに取り乱し始めた。
「せ、先生?……これはその……」
先程までの威圧的な態度はどこへやら。しどろもどろになりながら、ワカモちゃんはどうにかして先生たちに説明しようとしていた。だけどセツナ先生には届いていないのか、1歩ずつこっちに近づく度に、空気が段々と重くなっている気がした。
「ワカモ、ちょっとお話しようか?」
「……………ハイ」
セツナ先生のその一言を最後に、ワカモちゃんは完全に大人しくなった。
▽天守アイ
初めて"先生"らしいことをした。
後に不良生徒の間でアイドルのような人気を得た。
▽天守セツナ
シラトリ区の
不良生徒の間では
▽門守セキ
砂漠の中の鯨、大海を知る。
覚醒したとは言え、まだ力を使いこなせていない。
▽小鳥遊ホシノ
本日のシャーレの当番
セキを助けたものの、思うことがあるようで……?
▽狐坂ワカモ
ようやく止まった早とちり狐。
戦い方を含め、セキを相手に有利を取れる。
あとがき
……あんま効率、変わってなくない?
そんな気がしながらも、変わらず更新していきやす。次で閑話シリーズも終わりですが、今回はホシノの独白も別で投稿いたしますわ。
次回 閑話その3 「
「えぇ、これを見ているアナタも例外ではない」