Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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 高名だが高齢の科学者が「それは可能である」と言った場合、その主張はほぼ確実に正しい。彼が「それは不可能である」と言った場合、その主張はほぼ確実に間違っている。

 アーサー・C・クラーク「未来のプロフィル」







Vol.2-1:見習い勇者と証明の始まり
第1話 「始まりの街 ミレニアム」


 

 

 

 

 

 

 勇者たちよ……聞こえますか?

 

 私たちは、あなた方を待っていました。

 

 私の名前は、女神「モモリア」。

 

 今、私たちの世界「ミレニアムランド」は、過去に類を見ない危機に直面しています。

 

 この危機を乗り越え、生徒会の廃部命令からゲーム開発部を……いえ、ミレニアムランドを救えるのは、あなた方だけです。

 

 過酷な道のりになるかもしれません。様々な出来事が……ピンチが訪れるかもしれません。

 

 それでも、どうかお願いいたします……。

 

 これから始まる、あなた方の冒険の先で

 

 どんな試練や逆境が待ち受けているのか、今はまだ分かりません。

 

 ですがどうか……勇気だけは喪わないでください。

 

 勇者様のそばには、冒険を共にする少女たちや、頼もしい騎士様もいるはずですから。

 

 そして新しい世界で、あなた方はその少女たちから「勇者」ではなく、もっと特別で、ふさわしい名で呼ばれることになるでしょう。

 

 その名前とは──────────

 

 

 

 

 

 ──────『先生』……と言った感じだ」

 

 

 その言葉でしっとりと締めくくってから、俺──天守セツナは今朝来ていた救援要請のメールを閉じた。朝早いシャーレの執務室。いつもの朝食の場で急に演説を始めた俺を、他の2人はポカンとした表情で見つめていた。

 

 

 “………………なんだか、すごく壮大な内容だね”

 

「でもかっこいいと思いますよ?それに何だかワクワクしてきます!」

 

 

 一通り聞き終えて、アイとセキがそれぞれ感想を漏らす。確かに、救援要請にしては妙に芝居がかっているというか、語り部口調ではある。ある意味、世に出すにしてはふざけたメールとも言えるかもしれない。

 

 だがそのお陰で、こうして俺の目に留まった。それを狙っていたなら、このメールを作った生徒はあえてこの形式にした可能性もある。このメールの差出人の居る学園は多くの秀才が集まってるし、絶対に無いとは言いきれない。

 

 俺がそんな考察をしている一方、アイはメールに書かれていたあることが気になっていたようだ。

 

 

 “ にしても、メールの中で出てきた『騎士様』って、もしかしなくてもセキちゃんのことじゃない?セキちゃんの名声が、D.U以外にも広まってるよ〜!”

 

 

 先生に付き従う『騎士様』。それはここ最近D.U、特にシラトリ区で話題になっているある人物についての噂だ。曰くいつもシャーレの先生の傍に居て、あらゆる危険から守っているボディーガードなんだとか。

 

 ……まぁ十中八九、セキのことである。ほぼ毎回アイの外回りについて行ってもらっているし、たまに私の書類仕事を手伝ってくれたりするので、常に傍に居ると言われても違和感はない。

 

 それに加えて、最近セキ用のシャーレの制服が支給された。見た目としてはリンちゃんの制服が近いが、彼女の特徴である翼を通す穴や、お気に入りのケープを装着するためのボタン等、ところどころセキに合わせてカスタマイズされている。

 

 それを着たセキは普段の凛とした雰囲気がさらに増す。それに明るく、強く、そして包容力のあるその性格も相まって、世の人からは『シャーレの騎士様』と呼ばれているとかいないとか……。

 

 

「ひえっ……それはちょっと嬉しいような……恥ずかしいような……」

 

 

 なお当の本人は、そう呼ばれることにまだ慣れていないようだ。ただ嫌ということではないようで、街の人からそう呼ばれる度に、恥ずかしがりながらも満面の笑みを返していた。

 

 …………閑話休題。セキの成長も重要だが、今回の本題はそこじゃない。

 

 

「今回はこの依頼を受けようと思うんだが。アイ、この依頼はお前に一任してもいいか?」

 

 “ え!?私一人でやるの!?”

 

「できないか?お前も"先生"をやり始めてしばらく経つんだ。外回りも問題なくこなしてるし、そろそろこういった依頼もこなせると思うけどな」

 

 

 俺のその言葉に、アイは“ そりゃそうだけど……”としりごんでいた。実際、シラトリ区でのアイの評判は良い。真摯で親切。セキと一緒に動いてる様子を見れば、こっちも元気をもらえる。そんな話をよく聞いていた。

 それにココ最近はこっちが何か言わずとも、自分で判断して最適解を出せるようになっていた。もう手のかかる雛鳥ではない。そう見込んでの今回の決断だ。

 

 

「今回俺は色々用事があって手が回らないからな。アドバイスくらいはできるだろうけど、一緒について行ったりはできないぞ」

 

 “ ……その間は私一人になるの?”

 

「一応セキについて行ってもらう。まぁ大事はないと思うが、なにか不味いことが起きたらすぐ教えてくれ」

 

 “ ……わかった!やってみるよ!ところで、そのメールの子が居るのはどこの学校なの?”

 

 

 意を決したように、そう宣言するアイ。その瞳は任されたことへの責任と、これから赴く場所への期待、そして少しばかりの不安に彩られていた。

 どうやら任せても問題なさそうだ。そう考えながら、俺はこれから向かう最初の学園を宣言するのだった。

 

 

「これから俺たちの向かう場所。そこはキヴォトスの最先端が生まれる場所────────

 

 

 

 

 

 ─────ミレニアムサイエンススクール

 

 

 目の前に映る景色を眺めながら、私はそう呟いた。ゆったりと進むモノレールの車窓からは、D.Uとは比べ物にならないくらい近代化された街並みが見渡せた。

 

 ミレニアムサイエンススクール。それがこれから私たちが向かう学園の名前。理系の生徒が多く在籍していて、その街並みもどこか科学的で近未来みたいな景観だった。

 

 うず高くそびえ立つビルを中心に、ガラス張りの建物が沢山建ってる。お兄ちゃんが言うには発電所や実習センターみたいな設備もあるみたいで、三大校の一角を担う理由を見せつけられてるみたいだった。

 

 

「すごいですね……!アビドスやD.Uの街よりもキラキラしてます!!」

 

「セキ、あんまりはしゃぎ過ぎちゃだめだぞ。他のお客さんも居るんだからな」

 

 

 これにはセキちゃんも大興奮。翼をパタパタとはためかせて、窓の外の景色に目を輝かせていた。セキちゃんはシャーレに来てから色んなことを知ったみたいだけど、流石にこの景色はD.Uでは見られない。

 

 

「科学と魔法の集まる学園。それがミレニアム。キヴォトスで『最先端』『最新鋭』と呼ばれてる物の多くは、ここミレニアムで生まれてると言ってもいい」

 

 “ 科学と……魔法?キヴォトスに魔法ってあるの?”

 

「『十分に高度な科学技術は、魔法と区別できない』。それくらい、ミレニアムの科学はすごいってことさ」

 

 

 曰く、ミレニアムは難しい問題を解くために集まった人たちが作った学園らしく、在校生も研究や開発に没頭する研究者気質の子が多いみたい。

 その成果も凄まじく、中には学生にして発明家と呼ばれる子もいるんだとか。お兄ちゃんも何度も助けられたみたいで、お兄ちゃんの用事もその件と関係があるみたい。

 そんな風にミレニアムの説明を受けているうちに、モノレールが目的地の最寄り駅に到着した。駅から出るとそこにも近未来な街並みが広がっていて、ホログラムっぽい看板がキラキラと輝いていた。

 

 

 “ それで?今回の支援要請を送ってくれた子たちは何を作ってるの?”

 

 

 街並みを眺めながら移動する傍ら、私はふと気になったことを聞いてみる。このミレニアムが『何か生まれる場所』なら、きっと今回の依頼主の子たちも何かを作ってるはずだと思ったの。

 

 

「…………ゲーム。特にレトロゲームを作ってるらしい」

 

 

 しばらく黙った末、お兄ちゃんはそう答えた。

 

 

 “ ……ゲーム?レトロゲームと言うと、ドット調のやつ?”

 

「そうだな。まぁ他にも作ってるらしいけど、主にそこがメインなんだとか」

 

 

 へぇ……レトロゲームか。最先端が生まれる場所だから、どこかで見たフルダイブ型のゲームとか、身体の動きとリンクして動くゲームを作ってるのかと思ってた。

 でも逆に興味が湧いてきた。こう見えて、私はゲーム大好きだしね。レトロゲーとか黎明期の限界を突き詰める努力とかが垣間見えて、やってみると意外と奥が深いんだよねぇ。

 

 

 “ 私またあれやりたいな、『クラディウス』”

 

「流石にキヴォトスには置いてないだろ。それよりもお前『スマッシュシスターズ』はどうした。俺に勝ち越すんじゃなかったのか 」

 

 “ 読み合いでお兄ちゃんに勝つのは無理です〜”

 

「そういいながら適当なボタン操作でコンボをぶち壊してきた奴がよく言うよ」

 

 

 私のゲーム好きは、お兄ちゃんのが伝染(うつ)ったんだと思ってる。お兄ちゃんがやってるのは戦略シュミレーションや対人ゲームが多くて、私はローグライクやRPG系が多かったかな。

 ちなみに、私とお兄ちゃんの対戦成績はお兄ちゃんの勝ちが続いている。いつかは追い越してやろうと努力してたけど、お兄ちゃんの展開を読む力は凄かったから結局勝てなかった。

 

 そんな風に駄弁っていた私たちの話を、不思議そうに聞いている人物が居た。

 

 

「先生、ゲームってなんですか?」

 

 

 今まで街並みに見とれていたセキちゃんである。

 

 

「セキはゲームって聞くのは初めてか?」

 

「いえ!1度リーダー先輩たちが何か話してるのを聞きましたし、何度かやったことがあります。ただそういうのって競走とか勝負だったので、先生たちが話してる"ゲーム"とは違うような気がして……」

 

 

 その言葉に、私たち「“ あ〜〜”」と言いながら顔を見合わせる。

 多分セキちゃんの言う"ゲーム"は勝負事の意味合いが強い『試合(ゲーム)』の方だ。セキちゃんの居た環境……ヘルメット団のようなグループだと、テレビゲームとかに触れる機会はあんまりなかったのかもしれない。

 

 

 “ ……だったら、きっと面白い体験になると思うよ”

 

「そうだな。個人的持論だが、ゲームは考える力を養えるから、1回くらいは触れて欲しいくらいだ」

 

 

 そうやって微笑む私たちのことを、セキちゃんは相変わらず不思議そうな顔で見つめていた。ゲームはきっと、人生を豊かにする。特にセキちゃんみたいな子にとっては、きっと忘れられない出会いになるだろう。

 

 

 

 それから暫く雑談を交わしていると、ついに目的地に到着した。部室棟らしき建物を前にして、お兄ちゃんは『シッテムの箱』を私に渡しながらあれこれお小言を焼いている。

 

 

「それじゃ、俺はここまでだ。ゲーム開発部の部室はこの建物の中らしいから行ってみてくれ」

 

 “ はーい!”

 

「セキ、アイのことよろしく頼んだぞ」

 

「はい!任せてください!」

 

 

 セキちゃんの元気な返事に満足そうに笑いながら、お兄ちゃんはどこかへと歩いていった。その後ろ姿を見送ってから、私は静かに目の前の部室棟を見上げた。

 ここから、正真正銘私たちの仕事だ。お兄ちゃんの助けも望めない、単独の仕事。初めてのひとりでの仕事に心臓がバクバクするけど、それをゆっくりと鎮めながら、隣に立つセキちゃんに声かける。

 

 

 “ それじゃ、早速行ってみよっか!”

 

「はい、先生の事はしっかりお守りします!」

 

 

 頼もしい笑顔に背中を押されて、私はゆっくりと1歩を踏み出す。お兄ちゃんの期待に答えるため、"先生"として生徒の助けに応えるため。私の"先生"としての新しい1歩だと言うことを踏みしめながら、私は歩みを続けていく。

 

 そう考えていた時だった。

 

 

 カシャァァァァァァンッ!!!!!

 

 “ うわっ!?何!?”

 

 

 頭上からガラスの割れる音が響く。その音につられて上を見ると、割れたガラスに混じって、何か大きな物体が降ってくるのが見えた。

 

 

「危ないッ!!」

 

 

 私が身をかがめると同時に、セキちゃんの鋭い声が飛んだ。直後、私の体を覆うように彼女の影が覆い被さっって、ドサッという音と共に周囲にガラスの粉々になる音が鳴り響く。

 

 

「先生!大丈夫ですか!?」

 

 “ う、うん。大丈夫!ありがとうセキちゃん”

 

 

 どうやらセキちゃんが咄嗟に私を庇ってくれたみたい。私たちの目の前には割れたガラスが散乱していて、彼女の腕の中にはさっき降ってきていた謎の物体が収まっていた。

 見たところ白くて、持ってみるとずっしりと重い。よく見てみると電源らしきボタンやディスクを入れる溝みたいなのもあって、どことなく据え置き型のゲーム機のような感じがした。

 

 

「……これ、なんでしょう?」

 

 “ 見たところ、ゲーム機みたいだけど”

 

 

 降ってきた物の正体はわかった。なら次は何が起きたか。と言っても状況から察するに、このゲーム機が窓ガラスを突き破って降ってきたとしか考えられないけど……。

 でも、あの場所どう見ても5階とかの高さなんですけど。なんでゲーム機が降ってくるの?そう言葉にしようとした私の傍で、セキちゃんが静かに上を見つめていた。

 

 

「………なるほど、あそこですね」

 

 

 

 呟くように発せられたその声には、少しばかり怒りが籠っているような気がした。

 ガラスの割れた窓から視線を壁に這わせつつ、彼女はゆっくりと膝を曲げて力を込める。その次に姿勢を低く保ち、翼を大きく広げる。

 その姿は、まるで飛び立つ前の鳥のようで──。

 

 

「先生、行ってきます!」

 

“ え?ちょっ!?セキち──わぷっ!?

 

 

 止めるのには、一手遅かった。翼を大きく羽ばたかせたセキちゃんはそのまま高くジャンプすると、壁の出っ張りを足がかりにぐんぐん壁を登っていく。

 そして割れた窓ガラスのある階までよじ登ると、その窓のフレームに手をかけて躊躇いなく中へと入っていった。

 

 

「こらぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

「うわぁぁぁ!?誰か飛んできたぁぁあ!?」

 

「ちょっ!?うわぁぁぁ誰ですか!?」

 

 

 途端、辺りに響く怒号と悲鳴。幸い銃声は聞こえてこないけど、ドッタンバッタンと揉み合いになってる音は嫌でも聞こえてくる。

 

 

“ あちゃー、遅かったか。こりゃ、早く行って止めないと”

 

 

 滑り出しがこんなので大丈夫かな……?

 

 そうぼやく心の声が聞こえる。ただ悠長に立ち止まってる時間はない。上から聞こえてくる悲鳴をバックに、私は急いで部室棟の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 









 ▽天守アイ
 ソロクエストの始まり。
 初めての単独任務に期待と不安を抱えている。

 ▽門守セキ
 護衛クエストの始まり。
 試合(ゲーム)の戦績は圧勝だった。

 ▽天守セツナ
 別行動である部活の元へ。
 アイとセキの成長を期待している。



あとがき

早速パヴァーヌ編に突入。
今回は結構スマートに収めれた気がする。ミレニアムって、結構クラークの三法則を体現した学園だと思うの。





 次回 第2話「ファーストエンカウント」


「頑張る子って、みんな輝いて見えるから」





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