Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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こんにちは、ハーメルン初投稿の作者です。
元々はpixivで物書きをしていた馬の骨ですが、知り合いから「ハーメルンは凄いぞ」と聞いていたのでちょっと覗いて見た次第です。そしたらルビとか文字のフォント変更とか、pixivには無い機能盛りだくさんで色々試して見たい欲が出たので、pixivで書いてたブルアカ二次創作の習作を持ってきました。
前置きはここらにして、拙い文章ですがお楽しみいただけたらと思います。


Vol.-1:聴衆無き練習曲(エチュード)
1番括弧のプロローグ ①


 

 

 

 

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 

 列車がレールの上を走る音が、静かな車内に響いている。それ以外の音は何も無く、私の呼吸の音さえも、この静寂の中へと溶けて消えていくようだ。そんな張り詰めたような静寂の中、私はただ1人俯き、瞳を閉じて座っている。

 

 

「……私のミスでした」

 

 

 しばらくすると、どこからともなく声が聞こえてくる。初めて聞くような、でもどこか懐かしいような。同居しえない2つの感情を想起させるその声は、私の目の前から投げかけられてきたようだ。

 

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この結果にたどり着いて初めて、あなた達の方が正しかったことを悟るだなんて」

 

 

 再び、声が聞こえてくる。それにつられて少し目線を上げると、そこには1人の少女が座っていた。腰まである水色の長髪、その中で三つ編みにされたものが、ひと房だけ肩にかかっている。

 表情を見ようにも、太陽を背にしているせいで分からない。ただ、少し煤けた衣服と胸元の赤いシミ、そして足元の血溜まりを見れば、この少女が置かれている状況が笑えるものでは無いのがわかる。

 

 

「……今更図々しいですが、お願いします」

 

 

 しかし、少女はどうってこと無いとでも言うように、穏やかな声色で私に語りかけてくる。まるで痛みなど感じていないように、ひとつの波も立たない澄んだ声。私にはその少女がどこか異質なように感じた。

 背丈は私と同じくらいだが、その佇まいからは、常人のそれとは全く異なる雰囲気を纏っているようだった。そしてそれが、彼女がその身に余る重荷を背負っているからこそ出るものであることも。

 

 

「……天守先生」

 

 

 そして少女は、()の名前を呼ぶ。

 

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、恐らくあなた達は同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから」

 

 

 何やら意味深なことを言う少女。だが彼女の発した言葉は、確かに私の中で小さな火を灯す。恐らくこの火だけは、この会話を忘れても残り続ける。そんな予感を胸に、私は彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなた達にしかできない選択の数々」

 

 

 ……私達にしかできない、選択の数々。

 

 心の中でその言葉を何度も繰り返す。彼女の口から言葉が紡がれる度、私の中の火が着実に大きくなっていく。例え彼女との会話を忘れてしまっても、彼女が私に託したこの炎が、私を導く灯火になる。この心の中で燃え盛る炎が、私の選ぶ"選択"が、きっと遠くない未来で重要な意味を持つのだろう。

 

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 

 私と彼女だけを乗せた列車は、未だにレールの上を走り続けている。最初こそ分からなかったこの列車の行先も、時間が経つにつれだんだんとわかってきた。きっとこの列車が行き着く先の終着点で、私が成さなければならないことがある。そんな私の確信を肯定するように、目の前に座る少女が静かに口を開く。

 

 

「責任を負うものについて、あの人が話したことがありましたね」

 

 

 ……あぁ、確かにしていた記憶がある。あの時から私は、頑張って背伸びをして大人を演じていた子供だった。それでも少女には、また違ったものに感じたのかもしれない。等身大じゃない大人と等身大じゃない子供が、同じ人からの言葉を受け取る。なんとも言い難い状況だが、彼女にとっては大いに意味がある言葉になっていたようだ。

 

 

「あの時の私には理解できませんでしたが。今なら理解できます。大人としての責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなた達の選択。それが意味する心延えも」

 

 

 そう言うと、彼女は少し口を噤む。膝に置かれていた両手がキュッと握られ、痛みに耐えるようにも、何かを酷く心配しているようにも見える。彼女がそうしている間、私は一言も発することは無い。しばらくの間静寂が訪れていたが、彼女の言葉が再び静寂を破った。

 

 

「……ですから、先生。私が信じられる大人である、あなた達になら。この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」

 

 

 ガタン ゴトン ガタン ゴトン

 

 ガタン ゴトン ガタン ゴトン

 

 

 私を乗せた列車のスピードが、ゆるやかにに落ちていく。もう間もなく、この列車の終着点へと到着するようだ。だけどそれは、私にとっての〈始発点〉。彼女の意思、彼女の選択、彼女の言葉によって生まれた、先生(わたし)という役目(そんざい)。それらを全うしていく道のりの、始まりに過ぎないのだ。彼女が託した(ねがい)を胸に、大人として、子供達を導いていく旅の……。

 

 スピードを落としていた列車は、やがて完全に停車する。チラリと窓から外を見てみると、外は白く塗りつぶされていて、何があるのか全く分からなかった。だがその事に特段恐怖や不安を抱くことはなく、ただ進むという意思と共にスっと立ち上がる。

 立ち上がると同時に向かいの座席に視線を移すが、いつの間にか少女は居なくなっていた。その場所には誰もいなかったように、綺麗な座席シートだけが鎮座している。なんだが少し寂しく思いながらも、私はゆっくりと1番近い扉へと向かう。そしてその扉の前に立つと、扉はプシューという音と共に開いた。それはまるで、両手を広げ私が前へと進むのを歓迎しているようだった。

 

 

 だから先生、どうか……

 

 私が光の中へと歩み出した直後、うっすらと彼女の声が聞こえてきた気がした。だが私がそれに反応するよりも早く、眩い光が私の意識を白く塗りつぶしていく。彼女との会話が、耳を傾けていた言葉の数々が、端からどんどん消えていく感覚。だけどそれに抗うように、私の中の炎だけは消えることなく、むしろより一層勢いを強めていっているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……い

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……先生。起きてください。

 

 

 

 

 

 

「天守先生!!」

 

 

 頭上から降ってきた鋭い声に、私の意識がパッと目覚める。どうやらいつの間にか寝ていたようで、私の座る椅子の肘掛には、私の頭を支えていた肘の痕がくっきりと残っていた。次に寝ぼけ眼で周囲を見ると、今私がいる場所は、どこかの会議室のようだった。

 

 

「……うぇ……なに?」

 

 

 私がこの状況を飲み込むよりも早く、私の頭上から今度は「はぁ……」というため息が聞こえくる。すぐさま声のする方を見上げると、そこには細縁の眼鏡をかけた端正な顔立ちの女性が立っていて、少し呆れたような表情でこちらを見下ろしていた。

 

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、随分お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」

 

「………………うーん、私のチョコ食べ放題券は…………どこ…………?」

 

「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

 

 私の寝起きの発言に、彼女の声色が少し厳しいものになる。それにつられた訳では無いが、起きてから時間が立ってきたのもあって、ようやく意識がハッキリとしてきた。そしてその状態で見る彼女の表情は……多少の怒りを含んでいるように見えた。

 

 

「あぁ、ごめんね!もう起きたから!ホントもう大丈夫だから!!」

 

 

 すぐ様姿勢を正して弁明の言葉を投げかけると、彼女もひとまず怒りを収めてくれたようで、再び「はぁ……」というため息をつく。そして深刻そうな表情を浮かべながら、落ち着いた様子で口を開いた。

 

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。私は七神(なながみ)リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」

 

 

 七神(なながみ)リン。そう名乗った彼女は深々と頭を下げ、自分のことをそう紹介した。なんだが彼女の纏う雰囲気も相まって、毅然とした子なんだろうかと感じる。少し硬っ苦しい感じがするから、この子のことはリンちゃんと呼ぼう。そんなことを私が考えていると、リンちゃんは下げていた頭をスっと上げ、私の瞳を見て疑念の視線を送ってくる。

 

 

「そしてあなたはおそらく、私たちがここ呼び出した先生の1人……のようですが」

 

(……ようですが?)

 

「……あぁ、推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

 

「ふぅん……そうだったんだ……」

 

 

 こちらの表情が全て物語っていたのか、リンちゃんが先程の言葉の意図を説明してくれた。なんだか昔、誰かに「表情でモロバレだぞ」と言われたのを思い出す。というか、呼び出した側のはずのリンちゃんが私がどういう理由で来たのか知らないのは予想外だった。てっきり何か召喚の儀式的なことをして、私をここに呼び出したのかと……。

 無論、私も何故自分がここに居るのかを全く知らない。どうやってここに来たのか、どういう目的でここに居るのか、これからどうすればいいのか。私の置かれている状況を知ろうにも、何の道標もないのはさすがにお手上げだ。例えるなら、どこまでも続く真っ白な世界の中に突然放り込まれた感じに近い。

 そういえば、ここに来てからまともに自己紹介をしたことがなかったような。なら自己紹介のついでに、私を取り巻く状況を尋ねてみよう。この状況を理解するのは、教えてもらったその後にする。

 

 

「改めてだけど、私の名前は天守(あまもり)アイ。ここに来る前は音楽の先生をしてた。でも気がつけばこんなことになってるんだけど、今はどういう状況なの?」

 

 

 天守(あまもり)(アイ)、それが私の名前だ。1年前から教師として教壇に立ち、子供たちを教え導く大人──のように見える"子供"だ。

 そんな私が何故こんなところに呼ばれたのか、何故"先生"と呼ばれているのか。そして、私が集中しなければいけないこととは、一体何なのか。それらの疑問を一纏めにして、リンちゃんへと投げかける。

 

 

「……混乱されてますよね。分かります」

 

 

 目を伏せ、申し訳なさそうな表情でリンちゃんはそう言う。一応こちらの疑問を、ある程度理解してくれたということだろうか。

 

 

「こんな状況になったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」

 

 

 そういうと、リンちゃんはくるりと私に背を向け、会議室の扉の方へと向かう。そしてその肩越しから私に向けて、「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」と告げた。

 

 "やっていただかなくてはいけない事"

 

 それが私をここに呼んだ理由で、私が集中しなければいけない事…………なのかな。

 

 

「『やっていただかなくてはいけない事』?私は一体何をやらされるの……?」

 

 

 座っていた椅子から立ち上がり、少し不安が滲んだ声色で私はもう一度彼女に問いかける。するとリンちゃんは少し振り返り、初めて見せる微笑を浮かべてこう答えた。

 

 

「学園都市の命運を賭けた大事なこと…………ということにしておきましょう」

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 あの後リンちゃんの背中を追っかけていると、何の変哲もないエレベーターホールに着いた。どうやらまずは下の階に降りるらしい。リンちゃんが呼んだエレベーターが来るのを待っている間、私は慌ただしく周囲を移動する人たちを眺めていた。当然と言えば当然だが、私が見ていた人全員が、リンちゃんと同じ白衣のコートに袖を通している。多分あれが、さっき言ってた連邦生徒会の制服……みたいなものなんだろう。

 そして何よりも気になったのが、彼女たちの頭の上に浮かぶナニカだ。天使の輪っかのように見えなくもないが、人によって丸かったり、少しトゲトゲしてたり、色んな形があるみたい。人の髪型が十人十色なのと同じように、彼女達の頭の上のそれも、人によっていろいろある……のかな。

 ちなみに、リンちゃんの頭の上にもそれは浮かんでいて、彼女のソレは一部がギザギザになっている輪っか状のものだった。気になるのでちょっと触ってみようかなとか思ったりしたけど、私が変な行動を起こす前に、タイミング良く呼んでいたエレベーターがピンポーンという音を立てて到着する。

 

 

「こちらへ、先生」

 

 

 そうリンちゃんに促されるまま、私はエレベーターへと乗り込む。そして足を踏み入れて早々、私は目に飛び込んできた風景に顔を綻ばせる。

 

 

「わぁぁぁぁぁ!!すごい景色!!!」

 

 

 壁の一部が大きなガラス張りになっているエレベーターのゴンドラ。そこから見える景色は、正しく大都会といった様相を呈していた。たくさんのビルが立ち並ぶ街並み。大小様々な建築物が所狭しと並ぶこの場所は、まさに私の知っている街そのものだった。

 更には大きな河川のようなものもあり、橋で繋がっている向こう側にも、たくさんの建物が建っているのが見える。そしてそのさらに奥には、何か天まで立ち上る光の柱のような何かも…………あれはなんだろう。

 

 

「『キヴォトス』へようこそ、先生」

 

 

 エレベーターの駆動音にも負けない声ではしゃぐ私の横で、リンちゃんが歓迎の言葉を述べる。

 

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」

 

「私が……働く場所」

 

 

 なるほど、『キヴォトス』というのがこの場所の名前なんだ。リンちゃんの話通りであれば、ここに千単位の数の学校があって、それぞれにだいたい数百人規模の生徒が居る……ということになるのかな。あまりにもスケールが違う話を聞くと、なんだかいまいちピンと来ない。でもここで働いていくことになるのだから、いつかはその大きさを実感する日も来るだろう。そんな私の考えを見抜いたのか、リンちゃんは優しさの籠った声で言葉を続ける。

 

 

「きっと先生がいらっしゃったところとは色々なことが違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……。でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」

 

 

 なんでそう思うのか。私がそう問いかけるよりも早く、リンちゃんはそのワケを零す。そしてその理由は、私の注意を少し掻き乱すものだった。

 

 

 

「あなたは、あの連邦生徒会長がお選びになった方の内の一人……ですからね」

 

 

 

 連邦生徒会長……。初めて聞く言葉。なのになんだか、胸の奥がチリチリと疼く。でもそれも一瞬のことで、次の瞬間には何事も無かったように、一定の鼓動を刻んでいる。私自身もその異変に確証が持てず、なんとも言えないモヤモヤが、ジワジワと胸に拡がっていくだけだった。

 

 

「……それは後でゆっくり説明することにして」

 

 

「ん……?」と疑念の声をもらすだけしかできない私を後目に、リンちゃんは扉の方へと向き直る。しばらくしてエレベーターは「チン!!」という音と共に動きを止め、目の前の扉がゆっくりと開らかれた。すぐにリンちゃんが一歩前へと踏み出し、私もそれについて行くために歩き出す。

 しばらく互いに無言のまま歩いていたが、リンちゃんが〈レセプションルーム〉と記された扉の前で立ち止まった。そして「はぁ……」というため息を着くと、そこに繋がる扉を開けて中へと入っていく。私も後を追って入ってみると、そこは名前の通り椅子と机が沢山ある少し大きな応接室だった。

 

 

「わぁ、この部屋もすご────

 

 

 

「ちょっと待って!代行!」

 

 

 

 私の口から漏れた感想は、応接室全体に響くような大きな声と、バタバタバタという複数人の足音によって掻き消された。突然の出来事にびっくりしてすぐさま声のする方を向くと、今まさにこちらに向かってくる4人の姿が見える。そして人影が近づいてくるにつれて、その子たちが制服のようなものを身にまとった女の子だとわかった。そしてその子たち全員が、険しい顔つきをしてこちらにバタバタと走ってくる。

 

 

「見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!!」

 

 

 中でも一番先頭を走っている青髪をツーサイドアップにした少女は、今にもリンちゃんに掴みかかりそうな勢いだ。どうやらさっきの大きな声も、この子が発したものみたい。そんな勢いの凄かった青髪の子も、リンちゃんの隣に立つ私と視線が合うと一気に怪訝な表情になり、先程までの勢いが一気に衰える。

 

 

「……うん?隣の大人の女性の方は?」

 

 

 分かりやすく疑問符を浮かべている様子の青髪の子。私の顔をまじまじと見ているが、私と少し身長差があるのでややこちらを見上げるような形になっている。そして穴が空きそうなほど見られて私が恥ずかしくなってきたところで、ようやく追いついた他の人達も、それぞれリンちゃんに声をかける。

 

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

 

 

 丁寧な口調で挨拶したのは、赤のアクセントが入った黒い服を身に纏う女の子。髪がロングの黒髪なの相まって、全体的に少し暗めの印象を受ける。そしてその印象をさらに加速させているのは、彼女の背中辺りから伸びている黒いフサフサしたもの。私の目がおかしくなければ、それは間違いなく大きくて真っ黒な翼だ。コスプレの類にしては、見た目の質感やその動きにリアリティがありすぎる。この子達の頭の上に浮かんでいるナニカ然り、もしかしたらキヴォトスは思っているよりも私の知る世界とは違うのかもしれない。

 

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

 

 次に口を開いたのは、ベージュ色のセミロングに黒いバンダナのようなものが映える女の子。他の子達とは違い、この子だけ黒縁のメガネをかけているのでわかりやすい。先程の子が黒を連想させるなら、この子が連想させるのは間違いなく"赤"。手元に着けている赤い手袋や同色の髪留め、胸元のリボンがアクセントを加えている。

 そしてもう1人、銀髪に少し灰色味の強い服を纏った子もいるが、その子は一言も発することはなく少し周囲の様子を警戒しているみたい。

 そして彼女がその手に構えて周りに向けているのは、紛うことなき"銃"だった。それもドラマや現実で見るピストルでは無い、軍隊やミリタリーアクションでよく見るタイプのやつだ。さらにそれは警戒している彼女だけではなく、黒髪の子も、メガネの子も、最初の青髪の子も、みんなその手にはそれぞれ違う形の銃器が握られていた。よくあるエアガン……と言うには余りある重厚感。彼女たちの立ち姿にあまりにも似つかわしくないソレに、自然と私の視線が吸い込まれてしまう。

 

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

 

 しかし、リンちゃんは特に銃器には触れることなく、ただ何度目かのため息をついて少し咳払いをする。

 

 

「こんにちは、各学園からわざわざ訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」

 

 

 そしてその口から出迎えの挨拶と一緒に、先程までのイメージを裏切る皮肉が飛ばされた。今まで私へ優しく応対してくれていたので礼儀正しい子なんだろうかと思っていたので、突然の喧嘩腰にギョッとしてちらりとリンちゃんの顔色を伺う。

 横から見たリンちゃんの顔は笑顔だったが、私にはまるで笑っているようには見えなかった……。

 

 

「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねて来た理由は、よく分かっています。今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!」

 

 

 リンちゃんの煽りの追撃のせいか、あるいはここを訪ねてきた件のせいか。私を見ていた青髪の子は先程までの調子に戻り、再びリンちゃんへの猛抗議を開始する。

 

 

「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

「連邦矯正局の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出処の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

「…………」

 

 

 青髪の子に続くように、4人全員がそれぞれ抱えている問題を告発していく。私はそれを静かに聞いていたのだが、彼女達の告発内容があまりにも現実離れしていて首を傾げるばかりだった。

 学園都市「キヴォトス」、それは数千の学園が集まってできているとさっき聞いたばかりだ。だから彼女たちもその学園の生徒な訳で、いわば年相応の子供のはず。

 なのに先程の会話では治安の維持や脱走、挙句の果てには戦車・ヘリコプター・武器等の年相応の女の子が絶対話すことの無いはずのワードが次々と飛び出してくる。彼女たちの持つ銃のこともあり、いよいよリンちゃんの言っていた"違うこと"が私の目の間に現れ始めたんだろうな……。

 

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしてるの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

 

 頭の中で静かに物事を整理していた私の耳に、再び青髪の子の劈く怒号が入ってくる。連邦生徒会長……、その言葉(ワード)に再び私の注意が乱れる。私をこの世界に呼んだ人物で、役職の名前的にリンちゃんの上司にあたる人。

 けれどここに来てから、一度もその姿を見たことは無い。よく良く考えれば、なんだか変な話だ。自分が呼んだのだから、自分が出迎えたらいいのに。もしかして、この混乱を収めるのに忙しくてみんなに構えないのかな……?

 

 

「……はぁ」

 

 

 この質問にリンちゃんがもう何度目かのため息をつく。そしてしばらくの沈黙の後、意を決したのか静かに口を開いた。

 

 

 

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

 

 

「……え!?」

 

「……!!」

 

「!!」

 

「やはりあの噂は……」

 

 

 リンちゃんからの衝撃的なカミングアウトに、4人がそれぞれの反応を見せた。もちろん私も「えぇ!?」という驚きの声を上げながら、ばっとリンちゃんの方へと視線をやる。そんな私たちの反応には特に意に介さず、リンちゃんはメガネをくいっとあげると、今キヴォトスを襲っている混乱の原因を語り始めた。

 

 

「結論から言うと、『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は()()()()()()()()()()()()

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

「はい」

 

 

 黒髪の子からの鋭い問いかけに、リンちゃんは力強く答える。そしてちらりと私の方を見ると、1歩引いて私の後ろに立ち、片方の手で私を指し示しながらとんでもないことを言った。

 

 

「この先生こそが、解決者(フィクサー)になってくれるはずです」

 

 

「は!?」

 

「!」

 

「……この方が?」

 

 

 再び、各々が驚いたような反応を示す。そして彼女達の視線が、一気に私の方へと向けられる。一方今絶賛注目されている私はと言うと、突然のカミングアウトにややパニックになっていた。

 

 

「えっ……!私……私なの!?」

 

 

 あわあわとしながら、そそくさとリンちゃんの背後へと移動する。多分きっと、誰だってこうなると思う。いきなり知らないところに呼び出されたと思ったら、「この混乱を収めてください」なんて、まるで冒険物RPGの導入みたい。でもまぁ、実際羽が生えてたり変な輪っかみたいなのがあったり、かなり現実離れした世界ではあるけれども……。

 

 

「ちょっと待って、そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」

 

「キヴォトスでは無いところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

「はい、こちらの天守先生は、これからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物のうちの1人です」

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?しかも複数人……?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

 

 パニくる私とは対照的に、彼女達はその事実をすんなりと受けいれ、今ではさっきまでの調子を取り戻している。……いや、青髪の子だけはまだ少し混乱しているかもしれない。

 というか、リンちゃんの言い方的に私と同じような人がもう何人か居るんじゃないのか。"あの連邦生徒会長が指名なさった方の1人"や"連邦生徒会長が特別に指名された方の1人"という言葉は、確実に私と同じ状況の人間がいることを知らないと出てこないと思うけど……。それでも彼女達の反応を見る限り、私がその第1号であることは間違いないみたい。ならまずは自己紹介から始めないと。

 

 

「こんにちは!私の名前は天守アイ。今日からこのキヴォトスで先生としてお世話になることになりました。色々迷惑をかけるかもしれないけど、これからよろしくね!!」

 

 

 なんの当たり障りもない、平凡な挨拶を口にする。ただ悪いイメージだけは持たれないように、自分なりのとびきり上手なスマイルと一緒に。その後軽くお辞儀だけして顔を上げると、皆がポカーンとしたような表情で私の方を見ていた。

 

 

「えっ、なに!?私なにか変なことしちゃった?それとも髪とか顔に何か変なものが着いてる!?」

 

 

 気恥ずかしさで顔を赤らめながら、自分の亜麻色の髪や顔をペタペタと触ってみる。けれど私がまたあわあわとし始めたのを見て我に返ったのか、まず最初に青髪の子がこちらもあわあわとしながら綺麗なお辞儀をして、ばっと顔を上げてから自己紹介をし始める。

 

 

「こ、こんにちは先生!私は、ミレニアムサイエンススクールの……い、いや!挨拶はどうでよくて──」

 

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」

 

「誰がうるさいって!!!?」

 

 

 その子のかみかみの自己紹介が、リンちゃんによって無慈悲に中断される。即座にツッコミを入れる彼女だったが、少し咳払いをして気持ちを落ち着かせると、改めて私に名前を名乗った。

 

 

「わ、私は、早瀬(はやせ)ユウカ!覚えておいてください、先生!」

 

「うん、よろしくね!ユウカちゃん!」

 

 

 早瀬ユウカ。その名前と顔を、しっかりと記憶に刻み込む。最初に衝撃的な出会いをした分、彼女の名前と顔はきっと忘れないだろう。そしてそれは、この場に居る他の子も同じだ。

 

 

「私はゲヘナ学園の風紀委員会、医療担当の火宮(ひのみや)チナツです。以後お見知りおきを」

 

「トリニティ総合学園、正義実現委員会の羽川(はねかわ)ハスミです。よろしくお願いします、先生」

 

「同じくトリニティ総合学園所属、自警団の守月(もりづき)スズミです」

 

 

 ユウカちゃんに続いて、残りの3人も次々と名前と所属学園を明かしていく。メガネを着けた赤い子がチナツちゃんで、羽の生えた黒い子がハスミちゃん、先程から辺りを警戒していたシルバーの子がスズミちゃん。よし、全員の名前がわかって私も少しスッキリした。

 

 

「…………先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の顧問としてこちらに来ることになりました」

 

 

 わざわざ私たちの自己紹介が終わるのを待ってくれていたのか、タイミングを見計らったようにリンちゃんが話を再開する。話の焦点は、どうやら私のこれから働くところの話みたい。

 

 

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動(……)を行うことも可能です。何故これだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……」

 

「あの、ごめんリンちゃん。1つ聞いていい?」

 

「……なんでしょうか、天守先生?」

 

 

 リンちゃんが『シャーレ』の話をしている途中だったが、少し気になるワードが聞こえた。私の耳が聞き間違えでなければ──ー

 

 

「戦闘活動って……私が?戦うってことだよね?」

 

「はい、そうです」

 

 

 当然ですとでも言うように、リンちゃんはこくりと頷く。戦闘……って言ったって、私はそこまで武闘派じゃない。別に何かスポーツをやってたこともないし、武道の心得がある訳でもない。強いて言えばボードゲームがちょっと得意な女の子……それが今の私だ。そんな私に『シャーレ』の顧問なんてできるのかな……?

 

 

「シャーレの部室は、ここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません」

 

 

 私の不安など露知らず、リンちゃんは何かの機械を準備している。私の両手と同じくらいの大きさの、円盤みたいなフォルムのそれは、なんだかプロジェクターのような感じがした。そしてしばらく待っていると、突然その機械は宙に浮き、リンちゃんの手元を離れたかと思うと、彼女の目の前で一定の高度を維持しながら浮いているようだ。なるほど、これはこの世界のドローンみたいなやつなんだね。

 

 

「モモカ」

 

 

 リンちゃんがドローンにそう呼びかけると、ドローンの底の部分から光が溢れ、その下に人の形を投影し始める。私はそっち方面には疎いけど、これはいわゆるホログラム……というやつだろうか。

 

 

 〈はいはーい。何、先輩?〉

 

 

 そしてホログラムに投影されたのは、ピンクの髪の小柄な女の子。恐らくこの子がモモカと呼ばれていた子なんだろう。派手な髪もそうだが、何よりも頭のてっぺんにちょこっと顔を出す一対の小さな角と、お尻辺りから伸びているしっぽのようなものが目を引く。ハスミちゃんの翼のように、キヴォトスには何人か身体に特徴的なものが生えてる生徒が多いみたい。

 

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど」

 

 〈シャーレの部室?……あぁ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだよ?〉

 

「大騒ぎ……?」

 

 〈矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの、そこは今戦場になってるよ〉

 

「「……うん? 」」

 

 

 私とリンちゃんの怪訝な声が重なった。そんなこちらの様子を知ってか知らずか、モモカちゃんは変わらずのほほんとしたペースで報告を続ける。

 

 

 〈連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?それで、どうやら連邦生徒会所有の『シャーレ』の建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?〉

 

「……」

 

 〈まぁでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな──あっ、先輩!お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!〉

 

「…………」

 

 

 ガチャッという音と共に、ホログラムのモモカちゃんは姿を消してしまった。これはどうするんだろうとちらっとリンちゃんを確認すると、彼女の表情が末恐ろしいもの豹変していた。肩はプルプルしているし、時々息を漏らす音が聞こえてくる。間違いなく、リンちゃんの怒りが爆発する1歩手前の状態だ!!

 

 

「……っ!!」

 

「リンちゃん落ち着いて!!ね!ほら、深呼吸したら気も落ち着くよ!!」

 

 

 きつく握られる彼女の拳を取りながら、私は努めて笑顔でリンちゃんを落ち着かせる。先程のユウカちゃん達への対応やさっきのモモカちゃんの態度を見るに、多分この子はかなり苦労してるんだろうなぁ……。

 

 

「……どう?落ち着いた?」

 

「……はい、大丈夫です。…………少々問題は発生しましたが、大したことではありません」

 

 

 しばらくして、落ち着いたらしいリンちゃんがメガネをクイッと直しながらそう呟く。そしてしばらく何か考える素振りを見せていたが、突然なにかに気づいたようなハッとした表情を浮かべ、その視線をある方向へと向ける。

 

 

「……?」

 

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

 

 その視線の先にいたのは、ユウカちゃん達だった。リンちゃんが彼女たちを見るその顔は、いつの間にか悪い顔に変わっている。さっきの怒ってる時とは違うが、これはこれで底知れぬ怖さを感じて仕方がない……。そして極めつけにはさっきの"笑ってない笑顔"を浮かべながら、彼女たちの方へと向けてコツコツと歩みを進めていく。

 

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々いるので、私は心強いです」

 

「……えっ?」

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

「ちょっ、ちょっと待って!ど、どこに行くのよ!」

 

 

 私さえも置き去りにし、リンちゃんはどこかへと向かっている。何が何だか分からないけど、きっと何か策があるんだろう。ならここは、黙って背中を追いかけた方が良さげかな。そう考えた私はその背中を見失わないように、彼女の後を追いかけていった。

 

 

 

 




如何でしたか?文字を揺らしたり、大きくしたり、いろいろと楽しませてもらった作者です。やっぱり面白いですね、ハーメルン。「アンチヘイト」タグとかも一応つけてますが、タブとかも本当に理解できてない初心者です。それでも、本格的にpixivから移住しようかと思いましたね。まぁ、その話はまた今度ということで……。
それと、この作品は習作なので、誤字脱字や解釈違い等あれば遠慮なく言っていただけると有難い限りです。その言葉をしっかりと受け止め、今後作る本編へ活かしたいと思います。┏〇゛
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