Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
『Pathを通じ、「栄光」より主へ』
『我が領域に「王冠の守り人」が侵入。現時点で特記すべき行動は見られない』
『…………「栄光」より主へ。「王冠の守り人」とは異なる守り人の波長を捕捉』
『…………対象を「王国の守り人」と判断する』
『……Pathを通じ、主より新たなる命令を受諾』
『こちら「栄光」。引き続き「王冠の守り人」、並びに「王国の守り人」の監視を行う』
ー とある通信記録より ー
「ようこそ!ゲーム開発部へ!!」
ミレニアムにある部室棟の一室。そこに足を踏み入れた私たちを歓迎するみたいに、ハツラツとした声が響く。少し散らかった部屋で私たちを出迎えてくれたのは、おでこから煙を立ち上らせる良く似た容姿の2人組の女の子だった。
「いや〜ほんとにメールを読んでもらえるなんて!しかもあの『騎士様』も一緒!!」
そう言うのは、桃色の猫耳ヘッドフォンを付けた小柄な女の子。その目はキラキラと輝いていて、まるで映像の向こうの有名人を目の前にした子供みたいだった。
それに対して、もう1人の子は大人しかった。さっきの子と同型で緑色のヘッドフォンを付けた女の子。顔つきも背丈も、髪の色も。その容姿はまさに瓜二つで、誰に言われるまでもなく、この子たちが双子なんだってわかる。
でも、見分けがつかない訳じゃない。元気ハツラツと言った感じの桃色の子に対して、緑色の子は落ち着いた雰囲気を感じる。言うなれば、双子だけど"姉妹"の差がはっきりしてるって感じだった。
「よくぞ来てくれた勇者たちよ……!!我々はそなたらが来るのを待っておったぞ……っ!!」
「お姉ちゃん、変な喋り方する前にプライステーションを落としたことを謝っておきなよ」
「落としたなんて人聞きが悪い!たまたまぶん投げた先が窓ガラスで、たまたま落ちた先に先生が居ただけだよ!!」
緑色の子のごもっともな指摘に、桃色の子が可愛らしく憤慨する。話を聞く限り、さっき降ってきたあのゲーム機は、この子たちの仕業で間違いないみたいだった。
まぁ結果的に私は無事だったからいいけど、何があったら据え置き型ゲーム機をぶん投げる事態になるのか。そうぼんやりと考えてる私の隣には、ムスッとした表情を浮かべ、怒りのオーラを滲ませる天使が居た。
「どっちでもいいけど、そのせいで先生は怪我するところだったってことをわかって欲しいかな〜」
「「ハイ……ゴメンナサイッ!!」」
その一言で、双子の少女たちの背筋が伸びる。どうも私が合流するまでに、セキちゃんの怖さが染み付いちゃったらしい。その仕草は年相応で、先生に怒られた子供みたいだった。
セキちゃん曰く、そこまでボコボコにはしてないとの事。強いて言うなら、おでこに1発ずつデコピンを決めたことくらい。それでもあの怖がりようだから、やりすぎたんじゃないかと少し心配になる。
“ ……まぁそれはそれとして、君たちがゲーム開発部で良いのかな?”
少し空気をリセットするのも兼ねて、とりあえず話を先に進めよう。私がそう問いかけると、2人ともしゅんとしていた顔を輝かせてえへんと胸を張った。
「そう!私がシナリオライターの才羽モモイ!そしてこっちが双子の妹の────」
「才羽ミドリです。主にイラスト周りを担当しています。それと今は居ないけど、部長で企画周り担当のユズちゃんを合わせて────」
「ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!!」
才羽モモイちゃんと、妹のミドリちゃん。阿吽の呼吸、息ぴったりな2人のセリフ繋ぎに、私の口から「おぉ……」と声が漏れた。
それにしても、ミドリちゃんの方が妹なのか。さっきの落ち着いた雰囲気でお姉ちゃんなんだと思ってたけど、私の予想が外れちゃった。
“ 知ってるみたいだけど、シャーレの天守アイです!”
「先生の護衛役、門守セキです!さっきは驚かせちゃってごめんね〜」
そして私たちも軽く自己紹介。セキちゃんもさっきまでのお怒りオーラを鎮めて、心からの笑顔を2人に向けていた。その表情を見て、モモイちゃんたちも強ばった表情が少し柔らかくなったみたいだった。
さて……。自己紹介も終わったし、次は現状の確認かな。ゲーム開発部が今どんな問題を抱えていて、どんな風に解決すれば良いのか。それを聞こうと私が口を開くより先に、モモイちゃんの方が先に動いた。
「よし!じゃあ先生たちも来たし、早速『廃墟』に向かおう!!」
“ …………へ!?”
まさかの説明後回し。いきなりどこかへと行こうとするモモイちゃんを急いで呼び止める。
“ ちょっと待って!私たちまだ状況がつかめてないんだけど……!”
「……あ、そっか。そうだったね!なら最初から説明するね!」
そこからは、モモイちゃんとミドリちゃんによる現状説明が始まった。曰く、彼女たちは平和に16bit系のゲームを作る部活だったそうだ。
ただ先日、ミレニアムの生徒会であるセミナーの人がやって来て、廃部にする話を聞かされたみたい。そこからどうにかして廃部を回避しよう粘ったものの……。
「昨日ついにセミナー四天王のユウカがやってきて、最後通牒を突きつけられちゃったんだ!!」
「なるほど……。つまりモモイちゃんたちは、今とっても追い詰められているってこと?」
「そうなの!ほんと!困っちゃうよね!!」
セキちゃんのわかりやすい要約に、怒りながらも可愛らしく同意するモモイちゃん。確かに、話を聞く限りはかなり切羽詰まった状況ではあるみたい。シャーレの力を借りたいのもわかる。
「私たちは平和にゲームを作ってるだけなのに……!!一体何が不満なんだって!!」
「その言葉、まさか本気で言ってるの?」
とその時、私たちの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。すぐに振り返ってみると、そこには入口に立つ1人の女の子の姿があった。
ツーサイドアップになった菫色の長髪に、冷静にこちらを見つめると同じ色の瞳。その表情は見るからに怒ってるみたいで、その瞳に射抜かれたモモイちゃんたちが蛇に睨まれた蛙みたいに縮こまってる。
「ゲッ!?出たなセミナー四天王の1人!!『冷酷な算術使い』のユウカ!!」
「人に変なあだ名つけてモンスターみたいに呼ばないでくれる?失礼ね」
来て早々モモイちゃんを窘めているのは、ミレニアムの
「久しぶり〜ユウカちゃん!」
“ ユウカちゃんこんにちは〜!”
一方、にこやかに手を振る私とセキちゃん。一応私たちは初対面じゃなくて、シャーレの業務を何度か手伝ってもらったことがある。優しくて面倒見の良い、とっても素敵な子だ。
特にお兄ちゃんや私なんかは、ユウカちゃんにお財布を握られている。セキちゃんもたまにユウカちゃんにお勉強を見てもらってるらしくて、私たちは彼女に頭が上がらないのだ。
「お久しぶりです、セキさんにアイ先生。お2人が何故ミレニアムにと思いましたが……。大方、
“ そうなるのかな?私たちもまだちゃんと把握はできてないんだけど”
一応さっき大まかな流れは教えてもらったけど、具体的に何がいけないのかとかは教えて貰ってなかったな……。そのことを伝えたら、ユウカちゃんの眉間のシワが深くなった。
「……では私の方から、これまでの経緯を説明させて頂きます」
そこからしばらく、ユウカちゃんの言葉に耳を傾けた。その話からは、さっきのモモイちゃんたちの話からは分からなかったこともわかってきた。
どうやらゲーム開発部はその名の通りの活動をしていたけど、ギャンブル大会を開催したり、他の部活を襲撃したりと、かなりの問題児だったんだとか
さらに問題なのは、今のゲーム開発部は部活動としての成立条件を満たせていないみたい。そのこともちゃんと通告した上で、ユウカちゃんは廃部を撤回するために以下の条件を通告した。
1:部員を規定人数集めること。
2:賞などを貰って成果を出すこと。
それを出したのが、モモイちゃんが言っていた最初の襲撃の件。それからしばらく経った今日になっても、ゲーム開発部はその条件を満たせていなかった。
「だから、あなたたちは廃部にされても異議は無いはずだけど!?」
ユウカちゃんのその言葉に、モモイちゃんやミドリちゃんがぶーぶーと猛抗議を始めた。
「異議あり!!すごくあり!!私たちだって全力で部活動をしてる!!それに、成果物なら『テイルズ・サガ・クロニクル』があるもん!!!」
「そ、そうです!『テイルズ・サガ・クロニクル』は、ちゃんとコンテストに出して受賞した成果物のはずです!!」
「あ。まぁ……そうね。確かに受賞してたわね……」
2人からの指摘に、ユウカちゃんの歯切れが悪くなる。ただそれは痛い所を突かれた感じじゃなくて、どっちかと言うと困惑したような雰囲気だった。
そしてその原因っぽいのが、ゲーム開発部唯一の成果物『テイルズ・サガ・クロニクル』。どこかで聞いた事あるようなそのタイトルも相まって、そのゲームのことがとても気になる私だった。
“ ユウカちゃん、『テイルズ・サガ・クロニクル』って?”
「……その反応、先生はご存知ないみたいですね。『テイルズ・サガ・クロニクル』。このゲーム開発部唯一の成果物ではあるんですが……」
「……ですが?」
「……受賞したのが『今年のクソゲーランキング第1位』だけでした」
“ あ〜〜〜〜。なるほどね”
「1位ってことはすごいことじゃないんですか?……でもクソゲーってことは……?」
「………………」「………………」
淡々と事実を述べるユウカちゃんに、セキちゃんの悪意なき一言。怒涛の連続コンボに2人が今にも泣き出しそうになってた。
なるほど、これはユウカちゃんの歯切れも悪くなるわけだ。それだけ酷評を受けたものを成果物にするのは、製作者側としては許せるのかと思ってるんだと思う。
あるいは、それだけゲーム開発部が追い詰められているということなのかもしれない。
「……ともかく、そういうのじゃなくてね。証明するのであれば、もっと別の形で証明しなさいってことよ。作品を発表するとか。もっとも、あなたたちの実力はもう証明されてるけど」
「ぐっ……!!」
「楽に解決する方が、お互いのためよ。だから早くこのガラクタの山を捨てて、部室を明け渡してちょうだい」
辺りに散らかるゲーム機を眺めながら、淡々とそう告げるユウカちゃん。その言葉にミドリちゃんはしり込みしていたけど、モモイちゃんはキッとユウカちゃんに向き合った。
「……ガラクタなんて呼ばないで!」
その言葉には、彼女の
でも、それらが今捨てられそうになっている。ゲーム開発部が廃部になり、部室を喪うという形で……。その状況を前にして、モモイちゃんの表情が少し変わる。
「わかった、全部結果で示す!!」
その宣言に、その場にいた全員の視線が集まる。そんな中、モモイちゃんは臆することなく堂々と宣言した。
「私たちは新作を──『テイルズ・サガ・クロニクル 2 』を、『ミレニアムプライス』に出して賞をとってやる!!」
モモイちゃんのその一言に、この場の空気が一気に張り詰めた。ミドリちゃんもユウカちゃんも目を見開き、驚いたようにモモイちゃんのことを見つめている。
“ えーーと。ミレニアムプライスって?”
「……………………………………」
一方、私とセキちゃんだけは何のことだかさっぱりわかってなかった。特にセキちゃんなんか状況についてけてないのか、さっきから黙りっぱなしだ。
そんな私たちを見かねてか、ミドリちゃん近くに寄ってきてこっそり教えてくれる。
「ミレニアム中の部活が成果を競い合う、ミレニアムでも最大級のコンテストです。ただその分、やっぱりレベルも高くて…………」
「……はっきり言って、受賞するのは容易じゃないです。高校球児がいきなりメジャーリーグを目指すようなものですから。それくらい難しいのに、あなたたち本当にやるつもりなの?」
「もちろん!!そしたら廃部も撤回してくれるんでしょ!!」
ユウカちゃんのその問いかけに、モモイちゃんがはっきりと答える。その瞳はやる気と情熱に満ち溢れていて、困惑した様子のユウカちゃんの菫色の瞳を真正面から射抜いていた。
ミレニアムプライス。ミレニアム最大級のコンテストに、『今年のクソゲーランキング第1位』の烙印を押されたゲームでリベンジする。確かに成果としては申し分ないけど、果たして今のゲーム開発部にそんなことができるんだろうか…………。
「ユウカちゃん、お願いがあるの」
「セキさん?」
その時、突然セキちゃんが声を上げた。さっきから何故か静かにしていたのに、セキちゃんは唐突にモモイちゃんたちの前に立つと、ユウカちゃんに向かって静かに頭を下げた。
「ちょっ!?いきなりどうしたんですか!?」
「お願い!少しだけ……もう少しだけでもいいから、この子たちに時間をあげて欲しいの」
突然の頭を下げられて困惑するユウカちゃんに向けて、セキちゃんは静かにそう言った。その声はまるで懇願するみたいで、どこか必死さすら感じた。
“ ユウカちゃん、私の方からもお願い”
そして気がつけば私も、ユウカちゃんに頭を下げていた。
さっきのモモイちゃんやミドリちゃんの泣きそうな顔を見て、誰よりも先に頭を下げるセキちゃんを見て。
子供たちが必死に頑張る姿を見て、大人である私が何かしてあげなくちゃと思ったから。
きっとユウカちゃんのことだから、これまでも何度か譲歩はしてくれたんだと思う。合理的で冷酷に見えて、根はとっても優しいことを私は知ってるから。
でも、それでも……今だけは。
もう少しだけ、この子たちにチャンスが欲しかった。
そうして頭を下げてしばらくすると、私たちの頭の上から小さなため息が聞こえてきた。
「……もう、仕方ないわね。いいわ、モモイ。期限をミレニアムプライスまでに伸ばしてあげる」
その一言に顔を上げると、そこには「しょうがないわね」と言うように微笑むユウカちゃんの姿があった。
「他ならぬシャーレからの要請ですし……私も少し、楽しみになってきたしね」
“ 本当!?良いの!?”
「良いの!?って、先生たちの頼みですから仕方なく──」
「ありがとう、ユウカちゃん!!」
「うわ!?ちょっと!いきなり抱きつかないでください!!」
セキちゃんの熱烈なハグを受け止めるユウカちゃん。引き剥がそうとするその態度とは裏腹に、さっき声色はどこか満更でも無さそう。
そういえば、私たちの主張を認めてくれた時も、とても優しい声をしていた。もしかしたら最初からこうなることをわかっていたのかもしれない。
……やっぱり、ユウカちゃんは優しい。優しいからこそ、こうしてゲーム開発部の子たちのことも目にかけてくれてるんだと思う。
「それでは、私はこれで。あなたたち!期限は伸ばしたんだから、ちゃんと成果を出すのよ!!」
セキちゃんを引き剥がしながら、ユウカちゃんが2人に忠告する。今回もそう。たまに出てくるキツイお言葉も、裏を返せば彼女の優しさそのもの。彼女なりのエールであり、期待の現れでもあるのだ。
“ ありがとう、ユウカちゃん!”
部屋を去ってくユウカちゃんに改めてお礼を言うと、彼女は肩越しに優しい笑みを浮かべながら手を振ってくれた。
“ ……ねぇ、セキちゃん。なんであんなこと言ったの?”
ユウカちゃんが去ってからしばらくして。私はふと気になってさっきのことを尋ねた。今は『廃墟』って場所に行くために、モモイちゃんたちの準備が終わるのを待ってる最中だ。
部室棟の入口で待つ私たちを、雲ひとつないお日様の光が照らしている。その光を眺めながら、セキちゃんはポツリとこぼした。
「……なんででしょうかね。本当にいつの間にか口から出たんです」
心ここに在らずと言った感じで、そう呟くセキちゃん。ただその声色からは、どこか懐かしんでいるような感情が聞こえてきていた。
「もしかしたら……いや、きっと重ねちゃったんだと思います。頑張る子って、みんな輝いて見えるから」
そう零すセキちゃんの瞳は、どこか遠くの景色を見ているみたいだった。それが何を見ているのか、何を重ねているのか。
お兄ちゃんだったら、何かわかったのかもしれない。
「よしっ!!準備完了〜!!」
「お待たせしました!」
ただ私がそれを問いかけるより先に、モモイちゃんたちの準備が完了したみたいだった。2人が合流すると、さっきまでのセキちゃんはたちどころに消えちゃって、いつもの強くて凛々しい『シャーレの騎士様』が戻ってきていた。
「じゃ、行こっか先生!いざ『廃墟』へ〜!!」
「案内は私たちがします。それとこれから向かう先は危険なので、先生は後ろから付いてきてもらえると」
「危険なら私も頑張らないと!」
そう言って歩き始める3人の生徒たち。少しだけ心にモヤモヤを抱えながらも、私はその背中を追いかけていくのだった。
▽天守アイ
兄とは違い、推察するのは苦手。
でもその分、感覚や勘はかなり鋭い。
▽門守セキ
頑張るその努力を大切にしている。
その瞳には、想い人の姿が映る。
▽早瀬ユウカ
ミレニアムの会計を司る者。
もちろんアイの財布も握っている。
▽才羽モモイ
才羽姉妹のお姉ちゃんな方。
ゲームに対する情熱でセキの心を射抜いた。
▽才羽ミドリ
才羽姉妹のしっかり者の方。
分からないことは教えてくれる
▽ゲーム開発部
果たして、彼女たちは廃部を撤回できるのか……?
あとがき
何やらぶるあかみゅーじっくで新情報が出たとか。
……私、ドレスハルカが来るなんて聞いてませんわよ!?
次回 第3話 「ステージ 1『廃墟』」
「■■■■……………………。条件、未達成 」