Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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再び、何処ぞの馬の骨こと作者です。

順調にハーメルンの面白さに魅了されてますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?

実はこのプロローグ。私が普段5話くらいかける量の文字数を1話にまとめているので、結構読んでて疲れます。ゲーム本編と同じように、4話くらいに分けれたら良かったんだけどね……。


1番括弧のプロローグ②

 

 

 

 

 

 結局その後、お昼ご飯を食べ終えたモモカちゃんにヘリを用意してもらい、私たちはシャーレの部室があるという外郭地区に向けて移動した。何気に人生で初めてのヘリだったけど、正直乗り心地はあまり快適な感じはしなかった。飛んでる音がかなり耳に響くし、何より高い所を飛んでると思うと…………考えただけでもゾクッとする。

 そんな恐怖と戦いながらのヘリ移動も案外直ぐに終わり、私たちは(くだん)の外郭地区へと降り立った。送ってくれたヘリは私たちを降ろすと、直ぐに離陸してこの場所を離れていく。いわく、今からリンちゃんは迎えに行くので、彼女が来るまでにここを制圧できてたらいいみたい。ある意味これが先生としての初仕事、失敗しないように頑張ろうか!!

 

 

「……と、思ってたんだけど……」

 

 

 そう言って私は、物陰からチラリと顔を覗かせた。私が見つめる先では、例の不良っぽい子が複数人で銃を乱射しながら破壊活動に勤しんでいる。どの子も制服らしいものを着崩していたり肩にかけてるだけだったり、見た目で決めつけるのはあまり良くないけど、紛うことなき不良……といった見た目をしていた。

 そしてそんな彼女の手には、もちろん銃火器が握られていた。ゴテゴテした見た目の重そうなものを持ってる子から、何やらほっそりした見た目のものを持ってる子まで。それも1人2人レベルの話ではなく、その場にいる全ての子が銃を片手に好き勝手に暴れ回っている。

 

 

 ヒュォォォォォォォォ!!!

 

 

 しばらく彼女達の動きを注視していると、私の耳が何かが空を切る音を捉えた。何の音かと辺りを見渡そうとした直後、ちょうど不良たちがたむろしていた場所の近くで盛大な爆発が起きる。

 

 

「きゃっ!!!!」

 

 

 耳を劈く轟音と共に、爆風が辺りを吹き抜ける。凄まじい衝撃に、私は耳を塞ぎながら出していた頭を引っ込めた。普通の子が銃を持ってることいい、目の前の爆発といい、なんだかキヴォトスは騒がしくて物騒なところだなぁ……。そんなことを考えながら、私はチラリと彼女たちの方を一瞥する。

 

 

「今の爆発……例の巡航戦車のものかしら」

 

「見たところ、2ポンド砲の榴弾でしょうか。もしかしたら、ある程度敵戦車の車種が絞れるかもしれません」

 

「……不良たちが若干混乱してるように見えます。もしかしたら、彼女たちはただ集められただけで、指揮系統のようなものはないのかもしれませんね」

 

「なら早めに各個撃破していった方がいいでしょうか。一応、閃光弾等で撹乱することはできますが……」

 

 

 物陰に隠れてコソコソする私とは対照的に、堂々と姿を晒して会話をするユウカちゃんたち。私たちと不良グループとでかなり距離があるせいか、全く隠れる素振りを見せない。でもこんな危険な場所じゃ、いつ()()()が起きるか分からない。私は不良グループに気づかれないようにしつつ、物陰から身を乗り出しやや小さめの声で彼女たちに声をかける。

 

 

「ねぇ。みんなガッツリ姿を晒してたら撃たれるよ!早く物陰に隠れないと!!」

 

「え……?先生?」

 

 

 私の声が届いたのか、彼女達がこちらの方を向く。しかしその顔にはキョトンとした表情が浮かんでいて、まるで私の言ってることが理解出来ないと言っているようだ。しかし焦る私の表情を見てか、何か察した様子のチナツちゃんが私の方へ駆け寄ってきて、肩に手を置き、こちらを安心させるような表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。

 

 

「大丈夫です、先生。私たち──ー」

 

 

 バババババッ

 

 

 チナツちゃんの言葉を、乾いた破裂音のようなものが遮る。その直後、何か軽いものが飛んでくるヒュンッという音に混じり、確実に何かに当たったと分かる鈍い音も聞こえた。私がそれを銃声だと認識するとほぼ同時に、チナツちゃんの後ろに居た青髪の少女がグラりとバランスを崩す。

 

 

「ユウカちゃん!!!!!!!」

 

 

 まさか……撃たれた!!?

 

 

 起きてしまった()()()の事態を前に、思考が一瞬フリーズする。だけど身体だけは反射的に動きだし、撃たれた彼女の方へと手を伸ばした。たった一瞬の出来事が、数十秒にも感じられる。しかし物陰から出ようとしたところをチナツちゃんに抱き止められ、彼女へと伸ばした手のひらは虚しく空を切った。立つ力を失った彼女の体が体勢を崩す。そしてそのまま地面へと倒れ────

 

 

「いっ痛!痛いってば!!」

 

 

「……え」

 

 

 倒れ──なかった。撃たれたはずのユウカちゃんは痛がる素振りは見せたものの、すぐに体勢を戻して怒りの声を上げ、キッと銃声のした方を睨んでいる。着ている服も綺麗な肌も、見たところ出血している感じは無い。まるで撃たれていなかったように、ケロッとして持っていた銃を構えている。

 

 

「あいつら、違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

 

「伏せてくださいユウカ!それに、ホローポイント弾は違法ではありません」

 

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!!」

 

「どうやら気づかれたようです。お2人とも、まだまだ来ますよ!」

 

 

 さらに不思議なのは、私以外その事を誰も気にしていないみたいだった。撃たれるのを間近で見ていたはずのハスミちゃんやスズミちゃんは、何事も無かったようにユウカちゃんと会話しつつ、その場に伏せて銃撃を躱している。

 

 

「……なんで?……どういうこと?」

 

 

 突然の銃撃で人が撃たれることだけでもだいぶ衝撃的だったのに、撃たれた人が平然と生きてることで私の頭はいよいよキャパオーバーを起こし始めた。普通人は銃で撃たれたら会話なんてする余裕は無いはずなのに。もしかして、彼女たちの持っている銃は本当にエアガンか何かなの……?

 

 

「……私たちキヴォトスの住人は、ある程度の外傷には耐性があります。ですからの多少の銃撃であれば、少し痛いぐらいで済むんです」

 

 

 呆然とする私の傍で、チナツちゃんの優しい声がした。彼女はゆっくりと私の背中を撫でながら、目の前で起きたことを説明してくれる。そうしているうちに私も徐々に落ち着きを取り戻し、冷静な思考が頭に戻り始めた。要するに、このキヴォトスの住人はものすごく頑丈(タフ)な体をしていて、あの程度の銃撃じゃ死ぬことは無い……ってことかな?冷静に考えてもおかしな話だが、もう何度目かのそういうのには慣れてきた。でもそれはつまり、私とキヴォトスの人とじゃ生きる世界が違いすぎるということで……。

 

 

「ですが、先生は外から来た方です。私たちとは違って、弾丸1つだけでも命の危機に晒される可能性があります。わかっていらっしゃるかと思いますが、その点だけご注意を」

 

 

 チナツちゃんの言う通り、ちょっとしたことで私が死ぬ可能性だってあるわけだ。

 

 

「先生!大丈夫ですか!?」

 

「とりあえず、目の前の不良グループは何とか無力化しました」

 

「恐らく、ここはしばらく安全かと思います」

 

 

 どうやらユウカちゃん達がこちらに戻ってきたようだ。私が動けない間にかなりの激戦を繰り広げたのか、3人とも服が少し汚れてしまっている。でも3人とも大きな怪我はないようで、私は心の中で大きく息を吐く。一応改めてユウカちゃんの様子を確認するが、やはり出血や撃たれたあとも見当たらない。話に聞いた通り、キヴォトスに住むみんなは強いみたい。それでも、彼女の無事を安堵せずにはいられなかった。

 

 

「ユウカちゃん!!無事でよがっだぁぁぁ!」

 

「わっ!ちょ、どうしたんですか!?」

 

 

 少し涙声になりながら、私はユウカちゃんに抱きついた。結果的に無事だったとはいえ、目の前で生徒が撃たれて死んだと本気で思った。その時体を駆け巡った恐ろしさと心配する心が混ざり合い、それが目からポロポロと零れ落ちる。そんな私を微笑ましく見つめていたハスミちゃんは、少し眉根を寄せてこれからの事を話始める。

 

 

「ひとまず、これからは先生の安全も確保しつつ戦わねばなりませんね」

 

「サンクトゥムタワーの権限を取り戻すためには、シャーレ周辺で暴れている不良たちとの戦闘は避けられませんし……」

 

「そうなった場合は、先生には安全な場所で待機してもらうしかないんじゃないでしょうか?」

 

 

 チナツちゃんもスズミちゃんも、同じことを思っていたようだ。どうやら話は、私を安全なところに避難させて、自分たちだけで不良の相手をする方向で進んでるみたい。

 もちろん、私がキヴォトスのみんなと違う以上、そういう対応をしなくちゃいけないのは当たり前のことだと思う。私がこの事態を終息させる解決者(フィクサー)なら、私を失ってしまったらこの混乱の終わりが見えなくなる。それがわかっているからこそ、彼女たちは私を守ろうとする。そして私自身も、自分に乗ってる責任の重さを十分自覚しているつもりだ。

 だから、今後の戦闘などは彼女達に任せて、私は私の身を守ることだけに専念すればいい……。それが今の私がしなきゃけないこと。それを理解するのは難しいことじゃない。

 

 

 

 ……でもそれは、本当に"先生"なの?

 

 

 

 教壇に立って、まだ1年と少し。周りと比べれば、私はまだまだ新米もいいところだ。さらにはこのキヴォトスに来て、今までの常識が通用しない新たな世界で、また最初から先生を始める。そんな若輩者の私でも、自分の中で"先生とはどうあるべきか"という信念(ビジョン)はしっかりと持っている。

 

 

 先生とは、生徒(こども)の側に立ち、支える者。生徒と共に多くの困難に立ち向かい、一緒に乗り越える人。それが、私の中の先生だ。

 

 

「みんな!ちょっといいかな!!」

 

 

 私の呼びかけに、再び彼女たちの視線が一身に集まる。でもさっきとは違う、もう私は怯えたりなんかしない。だって私は、みんなを導く"先生"なんだから。ユウカちゃんから離れ、目頭に溜まった涙を拭う。そうして私は立ち上がると、彼女たちにある提案をした。

 

 

「みんな!ちょっと申し訳ないんだけど、ここからは私の指揮に従って欲しい!!」

 

 

 私は戦闘なんかできない。スポーツをやってたわけじゃないから、特別体力があるわけじゃない。武道をやったこともないから、何か特別な術を持ってるわけじゃない。それにキヴォトスの住人からすれば、私なんて銃弾一発で死ぬか弱い生き物だ。そんな私だから、戦闘に関わるべきでは無いんだ。

 でも別に、正面切って殴り合いをするのだけが戦いってわけじゃない。いつか、大事な人が言っていた。"人には人の、その人に適した戦い方がある"のだと。そして、私の戦い方はこれだ。できるだけみんなが怪我をしないように、みんなを導くのが私の戦い方(やくめ)だ。

 

 

「もしかしたら上手くいかないかもしれない。それでも、少しだけ私の指示通りに動いてくれると嬉しい。できるだけみんなが傷つかないよう、私も精一杯頑張るから」

 

 

 正直、あんまり上手くやれる自信はない。指揮と言っても、私ができるのは攻撃指示と警告だけ。それに命を失うかもしれないという恐怖は、私の中からそう簡単になくなってはくれない。現に今だって、足元が震えて立っているのもやっとだ。それでも……そんな私でも従ってくれると言うなら、先生(わたし)にとってこれほど嬉しいことは無いのだけれど……。

 

 

「先生が戦術指揮をなさるのですか?まぁ、先生がそう言うのであれば……」

 

「了解です。先生よろしくお願いします!」

 

「分かりました。これより先生の指示に従います」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然のこと、ですね。よろしくお願いします」

 

 

 4人とも反対するような感じではなかった。それは私への信頼の表れなのか、それとも先生と生徒の関係(わたしたちのかんけい)が生み出すものなのか。ただ今は、私に託してくれたことが素直に嬉しかった。

 

 

「ありがとう……みんな!」

 

 

 それだけ絞り出すように言うと、私は意を決して振り返る。目の前に広がっているのは、僅かな熱気とむせ返るほどの硝煙が漂う場所。これから私が進むことになる、私の居場所(キヴォトス)を象徴する危険な世界。それでも私は、怯まず前に進むことを決めたんだ。

 

 

「じゃあみんな、改めてよろしくね!!」

 

 

 もう一度彼女たちにそう声をかけて、私は進むべき場所へ向けての1歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 ババババババババババババババッ!!!!

 

 

 ダララララララララララッ!!!!!!!

 

 

 タタタタタタタタタタタタタタタタ!!!!

 

 

「キャハハハハ!!!!撃て撃て撃て撃て〜!!!」

 

 

 あちこちで銃声が鳴り響く中、少女の喜びに満ちた声がビルの間で反響する。この不良グループのリーダーである少女のミニガン(愛銃)の銃口の先にあるのは、どこにでもあるようなビルのエントランス。しかし絶え間ない少女たちの銃撃によって、窓も机も入口のドアも全てボロボロの状態になっていた。

 

 

「いやぁ〜、やっぱものを壊すのってスっとするよな!いいストレス発散になる!」

 

「こんな機会滅多にないから、今のうちに楽しまなくちゃな!!」

 

「おーい!誰か弾薬持ってる?あたしまだ撃ち足りないんだけど〜!!」

 

 

 他の少女達も、それぞれおもいおもいのものに向かって愛銃をぶっぱなす。溜まっていた鬱憤を吐き出すような様は、年相応の少女によくあるストレス発散のように見える。まぁ、実際はものをぶっ壊したりと、ストレス発散の範疇に収まっていない訳だが……。

 

 

「にしても、あいつが来た時はビビったなよな〜」

 

 

 ミニガンの少女が新しい弾帯を接続した頃、先程の情景を思い出したのか、仲間の少女がポツリと呟く。

 

 

「あぁ……、確か〈災厄の狐〉だっけ?」

 

 

 弾丸を薬室に送りながら、ミニガンの少女もさっきの出来事を思い返す。私たちは今日も、いつも通りの日常を過していただけだった。ちょっとカツアゲしたり、ちょっとものをぶっ壊したり、咎めに来た警察学校の生徒(ヴァルキューレのスズメ)と派手にやったり。まぁ、ほんとにいつも通りの今日のはずだったんだ。

 だが、スズメの相手をしている途中で"ヤツ"は現れた。スズメを背後から襲い、悲鳴と銃声の中一人一人倒していく。そしてヤツと私の視線が合った頃には、スズメ達は全員その場に倒れて動かなくなっていた。

 

 

「矯正局から脱走したとか聞いてたけど、まさか目の前に現れるなんてな」

 

「ほんとだよ。纏ってるオーラからして別モン……って感じだったもんな。〈災厄の狐〉っていう2つ名が誇張じゃないってよく分かる。出来ればもう会いたくねぇな……」

 

「でもあいつのおかげで、あたしたちはこうして暴れられてるんだぜ?ほんとに感謝したいね!」

 

 

 そう、災厄の狐は私たちを襲うことはなく、代わりにある提案をもちかけてきた。

 

 ただ一言、暴れてみないか?……と。

 

 その時の私たちは、かなり刺激に飢えていた。もう何度もやった事だし、スズメの相手をするのも飽きてきてたしな。だから突然現れたヤツの誘いは、私たちにとって抗えない魅惑そのものだった。まぁ実際、今めっちゃ楽しいし、私たちの判断は間違ってなかった。

 そんな感じでさっきのことを振り返ってるうちに、ミニガンへの弾薬補給が完了した、周りのものも粗方破壊したし、もうここには用はないね。

 

 

「よっし!ここはだいぶ壊したし、そろそろ次のところに行くぞ〜!!」

 

「「「「いぇ──ーい!!!」」」」

 

 

 私の声掛けに、仲間も意気揚々と拳をあげる。きっと彼女たちも、普段味わえない刺激に酔いしれてるんだろう。まだまだ楽しみ足りないっと言った感じだ。どうせヴァルキューレも、シラトリ区各所の混乱への対応で動きが鈍ってるだろう。もうしばらくは暴れれそうだ。彼女がそう思った瞬間だった。

 

 

 カラン!コロコロコロ……

 

 

 何かが投げ込まれるような音。彼女がはっとして振り返ると、仲間たちの固まるちょうど中央に円筒型のモノが転がっている。それは不良たちが普段見慣れているもので、彼女だけではなく周りの仲間達も瞬時にそれがなんなのか悟った。

 手榴弾、歩いは"グレネード"と呼ばれるそれは、彼女達もよく使っている。もちろん使われることもあるが、あれをもろに食らったらひとたまりもない。だから起爆するその瞬間に備えるため、みんなの視線がそれに集まっていた。いや、()()()()()()()()()()

 

 

「グレネードだ!避け──ー」

 

 

 彼女がそう指示するも、仲間たちが避けるまもなくソレが起爆する。しかし起爆したソレが発したのは爆発や衝撃などではなく、視界を覆うほどの真っ白な閃光と、耳を塞ぎたくなるような爆音だった。

 

 

「うわっ!」

 

「ぐぁ!!」

 

「きゃっ!!」

 

 

 起爆と同時に、不良グループのあちこちから悲鳴が上がる。閃光手榴弾(スタングレネード)、大音量の音と目が潰れるほどの光を放って攻撃対象を一時的に無力化する武器。その光を直に見てしまった彼女たちの視界は一面が真っ白に染まり、激痛で目を開けていられなくなった。更には大音量の炸裂音で耳もダメージを受け、彼女達の目と耳が使い物にならなくなる。

 

 

「痛った!!」

 

「くそっ!!誰だ!!」

 

「ぬぁぁぁ耳がキーンってする.!!」

 

「おいっ!どうなってる誰か──」

 

 

 突然の出来事に不良グループが大混乱に陥る。目と耳を潰され何も状況が把握出来ない中で、彼女たちは自分の身を守るので精一杯だった。しかし時間が経つにつれスタングレネードの効果も薄れ始め、徐々にだが目の痛みも収まり、耳も少しづつ音を拾い始める。それは起爆地点から離れていた子ほどその効果は早く、特にリーダーの少女は少し離れた位置にいたのもあって、比較的早く回復し始めた。

 

 

「くそっ、見誤ったな……。おい!お前ら!大丈夫──ー」

 

 

 少し目元を拭いながら顔を上げると、そこには力無く倒れる仲間たちの姿があった。一瞬の間に地に伏せる仲間たちに唖然とする彼女だったが、直ぐにその耳が「ダダダダッ!!」という銃声を拾う。直ぐにそれが仲間たちのものでは無いと理解した彼女が、バッと音のする方に顔を向けると、そこでは今まさに戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「うわっ!来るな!!」

 

 

 仲間の1人が悲鳴を上げながら、自分に向かってくる青髪の生徒に発砲する。しかし彼女は僅かに体をひねるだけで、銃撃などお構い無しに突っ込んでいった。まるで弾丸の軌道がわかっているみたいに、危ない弾だけ綺麗に避けて仲間の懐に潜り込む。そして彼女は手に持っていた2丁の短機関銃(サブマシンガン)を不良生徒の鳩尾に突き立てると、容赦なくその引き金を引いた。

 

 

 ダダダダダダダダダダダダダッ!!!!

 

 

「うげっ!!」

 

 

 ドラムロールのような銃撃音に、撃たれた仲間の悲鳴が重なる。そしてその音が鳴り止んだ頃には、仲間はドサッと地面に倒れた。さらに後方では白髪の生徒が別の仲間を相手に近接戦をしかけ、圧倒的な実力差を見せつけていた。そして最後に残ったのは、倒れた仲間を目の前にして呆然とするリーダーの少女のみ。ここに来て、少女もようやくこれが誰の仕業なのかを理解した。

 

 

「お前らぁぁぁ!!!」

 

 

 声に明確な怒りをにじませながら、彼女は愛銃(ミニガン)を2人の生徒に向ける。そして躊躇無く発砲しようとするが、撃つ寸前に銃身に衝撃が走り、思いっきり左に弾かれた。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

 突然の衝撃にバランスを崩しかけるが、何とか愛銃を構え直す。しかし、さっきの攻撃は目の前の奴らじゃない。恐らくアイツらとはまた別のヤツが撃ってきたんだ。すぐにそう察した彼女は撃たれた方に愛銃を向け、凪払おうと引き金を引く。だがその前に彼女ははっきりと()()()()()のを感じた。目の前のビルの2階、さっき私たちが壊した窓ガラスの割れた部屋。その暗闇の中から、真っ赤な双眸がこちらを見つめている。それは何かを見定めるようであり、獲物を虎視眈々と狙っている捕食者のような瞳だった。

 それに怯えた彼女はすぐさま愛銃であるミニガンをぶっ放そうとするが、それよりも先に彼女の眉間に14.66mm弾が叩き込まれた。いくらキヴォトスの人間とはいえ、14.66mmが頭に当たればタダでは済まない。彼女もしばらく抗っていたが、やがて周りの仲間と同じようにドサリと地面に倒れた。

 

 

「……鎮圧完了。全員無力化しました」

 

 

 遠くからハスミちゃんの声が聞こえてくる。

 

 

「わかった。みんなお疲れ様!チナツちゃん、気絶してる子達に応急処置だけしてあげて。優先順位はチナツちゃんに任せる」

 

「分かりました。治療を開始します」

 

 

 チナツちゃんに一通りの指示を出すと、私はほっとため息をついた。とりあえず、初戦はどうにか乗り切ったみたいだ。戦術指揮……なんて大したものじゃない。ただ混乱したところを叩くだけの奇襲作戦。他の人ならもっと上手くできてたんだろうなと、自分の能力の低さにまたため息が出そうなところに、彼女達の会話が聞こえてきた。

 

 

「それにしても、今回の戦闘はだいぶやりやすかった気がします」

 

「……やっぱり感じた?」

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

 

「なるほど……これが先生の力……。まぁ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

 

 

 そんな会話が聞こえてきたら、口元が緩むのを抑えられない。こんな下手くそな私の指揮でも、生徒たちが喜んでくれるなら、なんだかそれでも良い気がしてくる。でも私の指揮はまだまだ未熟だ。その事実は変わらない。だからこれからもっと良くなるよう、私が頑張らないと……。

 

「先生、負傷者の応急処置が終わりました」

 

「ありがとう、チナツちゃん。多分後から来るリンちゃんが回収してくれると思うから、そのまま安静にしておいていいと思う」

 

「分かりました。それでは、いよいよシャーレの部室に向かいましょうか」

 

 

 その言葉を聞いてか、さっきまで話していたユウカちゃん達が私のそばに集まってくる。

 

 

「それでは、次の戦闘もよろしくお願いします。先生」

 

「……うん。任せて!!」

 

 

 私は生徒達の役に立っている。そう思えるほど、彼女たちの表情は最初に比べて生き生きしていた。

 

 

 

 天守曖のメモ

 その1:この世界(キヴォトス)では銃撃戦は当たり前で、生徒は撃たれても死なない。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 それから散発的に起きる戦闘を何とか乗り越えながら、私たちは徐々にシャーレの部室があるビルへと近づいていった。途中何度が巡航戦車からの砲撃らしい爆発に見舞われたけど、あれは飛翔音がかなりわかりやすいので、避けるのはそう難しくない。音が聞こえたら直ぐにみんなに伝えて、それを聞いたみんなが避ける。そんなことを何度も続けているうちに、私たちはついにシャーレのビルの目の前に到着した。

 しかし、やはりそこでも戦闘が起きていて、既にあちこちで派手な爆発と一緒に銃撃音が鳴り響いていた。モモカちゃんの話だと、この不良たちのボスの狙いはあの建物みたいだし、このままじゃ私たちが中に入れない。どの道、この子達を倒さないと先に進めないみたい。それにちょうど、私も戦闘指揮に慣れてきた頃だ。このままの調子で、私の経験も積ませてもらおう。

 

 

「ユウカちゃんはそのまま敵に圧力を!チナツちゃんはユウカちゃんの支援!ハスミちゃんは狙撃で敵の前衛を切り崩していって!!」

 

「了解!!」

 

「了解です!」

 

「了解しました」

 

 

 現在、6~7人程の不良グループと交戦中。相手は前衛に5人ほどで固め、後方の狙撃役の子2人がメインで倒していく感じみたいだ。対する私はユウカちゃんを前面に出し、彼女が怪我した時に備えてチナツちゃんを傍につけている。そして相手と同じように、後方からハスミちゃんに狙撃してもらいながら、敵の前衛を徐々に削っていた。

 最初はユウカちゃん1人だけの前衛は大丈夫かと心配だったけど、彼女は遮蔽物を上手く活用しながら、敵の攻撃から身を守っていた。そのおかげでチナツちゃんも少し攻勢に参加する余裕が生まれて、敵の消耗が思ったよりも早い。

 そしてこの状況が不利だと悟ったのか、前衛の子たちが後退を始める。指揮系統のないバラバラなチーム、そこにはもちろん付け入る隙が生まれる。各々がバラバラに後退を始めた結果、私たちから見て右側の子達がやや孤立している。そして私はその隙を目ざとく発見し、即、みんなに次の動きを指示する。

 

 

「見つけた!スズミちゃん、私から向かって右側の敵に閃光弾を投げつけて!!敵がひるんだらユウカちゃんと突撃。ハスミちゃんはその場から2人に支援射撃を!!」

 

「了解です。閃光弾、投下します!!」

 

 

 そう言うとスズミちゃんは手元の閃光弾の安全ピンを抜き、バラバラに撤退する彼女たちの目の前に投げ入れる。そしてしばらくすると破裂音と眩い光が瞬き、逃げようとしていた不良生徒達の足が止まる。

 

 

「よし、2人とも突入!!」

 

「「はい!!!」」

 

 

 私の号令でユウカちゃんとスズミちゃんが不良生徒たちに向かって突っ込んでいく。敵の狙撃役の子もこの動きには気づいていたけど、ハスミちゃんが睨みを利かせているのもあって支援射撃もままならないみたいだ。目と耳を奪われ支援も受けれない不良達は、突入した2人によってあっさりと無力化された。そしてそのあとは何事もなく事が進み、残りの前衛を同じように崩して、残った狙撃役の子を無力化してこの戦いは幕を閉じた。

 

 

「ふぅ、みんなお疲れ様。怪我は無い?」

 

「大丈夫です。先生のおかげで、いつもよりスムーズに鎮圧できています」

 

「そっか。ならいいんだけど……」

 

 

 この不良グループを鎮圧したことで、辺りは少しだけ静けさを取り戻していた。それでも残っているグループはたくさんあるようで、まだあちこちで銃声や爆発音が鳴り響いている。それにまだ巡航戦車とは鉢合わせていないし、何より、この1連の騒動の主犯格には辿り着けていない。ゴールは目の前だけど、事件の解決にはまだまだ時間がかかりそう……。

 そんなことを心の中でボヤいていると、私の隣に円筒型の機械がふよふよと漂ってきた。一瞬敵のロボットかと思って身構えたけど、よく見ればそれはさっきレセプションルームでリンちゃんが使っていたホログラムドローンのようだった。ホッとした私が胸を撫で下ろした束の間、ドローンはさっきと同じように光放ち、私の隣にリンちゃんの姿を投影した。

 

 

 〈すみません先生。これより私もそちらに向かいます〉

 

「ううん、大丈夫だよ。道中の不良生徒はかなり倒したから大丈夫だと思うけど、リンちゃんも安全には気をつけてね」

 

 〈ありがとうごさいます。あと、その呼び方は控えてください〉

 

「え?リンちゃんって呼ばれるの嫌だった?」

 

 

 リンちゃんのまさかのカミングアウトに、私の口から素っ頓狂な声がでる。ちらっとホログラムのリンちゃんの表情を伺うが、彼女は少し眉間に皺を寄せて〈はぁ……〉とホログラム越しにため息をついていた。うーん、声を聞いてた限りじゃそこまで嫌がった感じではなかったけど、当の本人からそう言われたんじゃ、直しておかないと……。私が心の中で小さくため息をつくと同時に、ホログラムのリンちゃんが再び口を開く。

 

 

 〈それと、今この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました〉

 

「あ、本当?なら教えて欲しい」

 

 

 ちょうど今欲しかった情報だ。私は聞き漏らさないように、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

 〈ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気をつけてください〉

 

「停学……ね。相当やんちゃしてる子なのかな」

 

 

 若輩者とはいえ私も一端の教員。"停学"という言葉の重みは、よくわかってるつもりだ。そのワカモという子の場合は、停学後に矯正局──ニュアンス的に少年院みたいなところかな──に入ってたみたいだけど、今は脱獄してるらしいし……。危ない子じゃない……訳が無いか。

 

 

 

「……あらら、連邦生徒会は来ていないみたいですね」

 

 

 

 直後、私の耳が誰かの声を捉える。

 

 

「フフッ、まぁ構いません。あの建物に何があるのかは存じませんが、連邦生徒会が大切にしている物と聞いてしまうと……壊さないと気がすみませんね……?あぁ……久しぶりのお楽しみになりそうです。ウフフフフ♡」

 

 

 少し高く、上品な育ちの良ささえ感じる声色。しかしその音には、隠す気のない狂気と破壊衝動、そして憎しみの感情が溢れ出ていた。今まで出会ったことの無い、混じり気のない純粋なマイナス感情。それを聞いた私の体がブルっと震える。……なるほど、これがキヴォトスにおける"やんちゃな子"か。

 ゴクリと唾を飲み込みながら、私は声のした方向に目を向ける。シャーレの部室が入っているビル。その手前にある橋の目の前に、ポツリと立つ人影がいた。着物のようなデザインの衣装を身にまとい、その手にはハスミちゃんと同じような細身の銃が握られている。頭部についた大きな耳と尻尾のようなものを揺らしながら不気味な笑い声を漏らすその姿は、正しく不良たちのボスといった風格を備えていた。

 

 

「騒動の中心人物を発見。対処します」

 

 

 私のそばまで来ていたハスミちゃんが、すぐさま銃を構えて臨戦態勢をとる。それを聞いていた他の子達も、各々の武器を構えて臨戦態勢に入った。そしてこれを聞いていたのは、何も彼女達だけでは無い。

 

 

「フフッ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか、お可愛らしいこと」

 

 

 シャーレのビルを眺めていたワカモが、ゆっくりとこちらに振り返る。よく見ると彼女は狐のお面をつけているようで、その表情を見ることは出来ない。だが彼女の怒りを代弁するかのように、彼女の纏っていたオーラが一気に重苦しいものに変わる。私が直接戦っている訳では無いのに、さっきから肌を刺すような緊張が止まらなかった。

 それでも、やらなきゃいけない。シャーレの部室に行くためにも、どうにか彼女を倒さなければ……。

 

 

「……みんな。行くよ!!」

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 

 そういうとみんなは、それぞれの持ち場へと移動する。ユウカちゃんは敵に接近し遮蔽物に隠れて時折射撃しながら様子を伺う。ユウカちゃんが敵の気を引いている間にチナツちゃんはユウカちゃんの傍に、スズミちゃんは手頃な遮蔽物に身を隠し、こちらの合図に備える。そしてハスミちゃんはその場で膝立ちになり、持っているライフルの撃鉄を引いた。

 私の考えた、対不良生徒用フォーメーション。ユウカちゃんで気を引いた敵をハスミちゃんで崩し、空いた穴をスズミちゃんの奇襲でさらに広げる作戦。これがどこまで通用するかは分からないけど、とりあえず、やれるだけのことはしてみよう。

 

 

「あらあら、子犬たちにしては統率のとれた動きですねぇ?フフッ、どこかに飼い主でもいらっしゃるのでしょうか?」

 

「……………………」

 

 

 ……本当に、今までの不良生徒達とは訳が違う。私たちの動きに一切動じないどころか、私の存在にも気づいているようだ。多分この子、かなり頭の回る子だ。長期戦になればなるほど、こちらの策が看破されてしまう可能性が高い。なら相手の理解が追いつく前に、情報で思考を押しつぶさないと……!!

 

 

「ユウカちゃん、相手に弾をばらまいて!」

 

「はい!!」

 

 

 そう言うと、ユウカちゃんは両手に持っていた短機関銃(サブマシンガン)をワカモに向け発砲する。ダダダダッという銃声と共に放たれた弾丸がワカモに向かって行くが、彼女はすぐさま遮蔽物に身を隠し、時折移動を挟みながら銃弾を躱していた。今まで棒立ちだった不良とは違う動きだが、まだこれは想定内だ。

 ワカモが逃げ回りながら、遮蔽物に身を隠す。そしてユウカちゃんがその遮蔽物に弾丸を撃ち込むと、またワカモが移動を始める。このパターンを何度か繰り返した後、ようやく私たちにチャンスが訪れた。何度目かの移動、何度も見た動き。だからこそ、次の行先は自然と予測がつく。

 

 

「ハスミちゃん!!奥の遮蔽物の1人分手前を撃って!!」

 

「……了解。攻撃します」

 

 

 指示を出してからコンマ数秒後、私の背後でダン!!という破裂音が轟く。ハスミちゃんのライフルから放たれた銃弾は、私の指示した場所へと吸い込まれるように飛んでいく。そしてワカモも同じように、その場所に向けて移動していた。この距離であればもうブレーキも間に合わない、確実にワカモに命中する。そして彼女相手に、二度と同じ策は通じないだろう。1発限りの作戦。最悪これで倒せなくても、遮蔽物に隠れられる前に動きを停められればそれで────

 

 

 

「…………ウフフフフ♡」

 

 

 

 戦場では聞けないはずの、楽しそうな笑い声がする。ハッとしてワカモの方を見ると、彼女もまたこちらの方を()()()()。狐のお面で表情は見えないが、確実に、こちらと視線が合うのを感じた。その瞬間、嫌な予感が全身を伝う。あの笑みは、あの声は、勘違いじゃなければ()()()()といった感じの……。

 

 

「……っ!みんな!今すぐ隠れて!!」

 

 

 最悪の事態に備え、私はそう叫ぶ。だがその直後、広場の中央で激しい爆発が起き、周辺の遮蔽物や瓦礫を容赦なく吹っ飛ばしていった。その爆風は後方の私たちのところまで届いて、風と一緒に飛んできた砂塵に目をしかめる。

 

 

「……やられた。巡航戦車のことをすっかり忘れてた」

 

 

 爆発の原因のことを思い出しながら、私は目を覆っていた腕を下ろす。ワカモの存在感という衝撃(インパクト)に掻き消されて、もう一つの脅威──巡航戦車の存在が頭から抜け落ちていた。いつもの状況なら砲弾の飛翔音くらい気づけただろうが、ユウカちゃんの発砲音や、そも巡航戦車が意識から抜け落ちていたこともあって全く気づけなかった。これは完全に……私のミスだ。

 

 

「先生、お怪我はありませんか?」

 

 

 苦しい表情の私に、ハスミちゃんが声をかけてくる。彼女は元から後方にいたこともあって、大きな怪我はしていないようだった。

 

 

「うん、私は大丈夫。前衛のみんなは大丈夫!?怪我とかしてない!?」

 

「はい!直撃は避けました!」

 

「こちらも大丈夫です!!」

 

「私はユウカさんの治療を始めます。直撃ではなかったとはいえ、かなり近い距離でしたから」

 

 

 近い位置で砲撃に巻き込まれた3人も、どうやら無事のようだった。ユウカちゃんの様子だけが少し心配だが、このためにチナツちゃんについていってもらったんだ。ユウカちゃんのことは彼女に任せ、私は再びワカモの方へと向き直る。硝煙が晴れた先、ハスミちゃんが狙ったその場所に彼女は立っていた。私の瞳と彼女の無機質なお面の目が交錯する。しばらく私たちは睨み合いを続けていたが、不意にワカモがぼそりと呟いた。

 

 

「……私はここまで。後は任せましたよ」

 

 

 そう言うと、彼女はどこかに向けて走っていく。これには私含めみんな驚いたようで、咄嗟に追いかけることが出来なかった。

 

 

「逃げられてるじゃない!追うわよ!」

 

「いいえ!生半可な行動をしてはなりません」

 

 

 治療を受けたユウカちゃんがワカモを追いかけようとするが、すぐにハスミちゃんの一声ですぐに止められる。なんでと言いたげに振り返った彼女に向けて、ハスミちゃんは落ち着き払って口を開いた。

 

 

「私たちの目的はシャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

 

 ハスミちゃんの言葉に、ユウカちゃんは少し渋い顔をしていたが、数秒後には「はぁ……」という溜め息と共に目を閉じる。どうやら、ある程度言い分に納得してくれたようだ。

 

 

「……うん、まぁいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

「罠の可能性もありますしね」

 

「そうですね。過去に捕らえられた時は、SRTの上級生部隊が投入されたと聞きます。そんな彼女がこうも簡単に退くのは不審に感じます」

 

「…………………………」

 

「はい。建物の奪還を最優先で、このまま引き続き進むとしましょう」

 

 

 そう言うと、彼女たちは歩み始める。それにつられて私も歩みを進めるが、私の頭はさっきからずっとあることについて考えていた。

 

 

(ハスミちゃんが狙撃した時、あの子はずっとこちらを見ていた。自分を撃ってくるユウカちゃんではなく、指揮を執っている私や本命のハスミちゃんの方を……)

 

 

 さっきの動きは、完全にこちらの動きがわかっていたような動きだった。そうなるとさっきの笑顔も、本当にこちらが想定通りの行動を取った事に対するものだったのかもしれない。その直前の移動パターンもこの作戦を誘うためのものだとしたら、やはり彼女はかなり頭のきれる子みたいだ。

 ただそうだとすると、余計今の行動が理解できない。その気になれば私達相手でも互角以上に渡り合えそうなのに、一撃も加えることなく逃げていった。私の作戦を読める子がする行動なのだから、これにもきっと何か意味があると思うけど。どうしても、私にはそれが見えてこないのだ。

 

 

 ヒュォォォ!!!!

 

 

 はっきりと、今度は聞こえた。しかしそれは以前のものよりも大きく、そして短かった。

 

 

「みんな伏せて!!!」

 

 

 私がそう叫ぶのと、目の前が爆発するのはほぼ同時だった。爆発の余波で巻き上がった土煙が、辺りに漂う。私は少し「ケホケホ」と咳き込みながら、伏せていた頭を上げて様子を伺った。

 

 

「先生!!大丈夫ですか!?」

 

「うん!こっちは大丈夫。それよりも……」

 

 

 そう言って私は、橋の向こう側──シャーレのビルの前に陣取る"ソレ"に目をやる。キャタピラのついた車輪に、角張った車体。そして何よりも、その車体に取り付けられた砲台のようなパーツ。間違いなくそれは、先程からこちらを砲撃してきていた巡航戦車だった。

 

 

「クルセイダー1型……!私の学園の制式戦車と同じ型です」

 

「不法に流通された物に違いないわ。PMCに流れたのを、不良達が買い入れたのかも!」

 

「えっ?戦車ってそんな簡単に買えるの?」

 

 

 自分から言っておいてなんだが、そういえばここはキヴォトスか……。まぁ最初に洗車やヘリの不法流通の話もしてたし、こういうのが結構身近にあるんだろうなぁ……。もう何度も現実離れな事(こういうこと)が起きたのもあって、私の思考は徐々に疑問を持つことを諦めかけていた。

 

 

「ハスミちゃん、あれは壊しちゃってもいいって事だよね?」

 

「はい。もう不良達でも手に入ったということは、もうガラクタのようなものでしょうから」

 

「おっけ。なら……」

 

 

 とりあえず、あの戦車をぶっ壊す作戦を考える。シャーレの部室はもう目の前。あれさえ破壊できれば、私たちの仕事は終わる。だけど相手はカッチカチの装甲を纏う戦車。今までのような力押しじゃなくて、何か工夫をしないと倒せないだろう。

 しかし、相手は考える暇も与えてくれない。さっきから私たちの隠れている場所に向けて、容赦なく砲弾を撃ち込んでくる。戦車が砲撃するその度に砲声が轟き、砲弾が直撃した場所には瓦礫と土煙が舞う。これでも慣れた方だと思うが、本当に砲声で耳がおかしくなりそうだ。それでも私は考えるのを止めず、体と耳を守りながら作戦を考えていた。

 

 

「ハスミちゃん、あの戦車の弱点は?」

 

「弱点ですか?弱点は────」

 

 

 ドォォォォォォォォン!!!!

 

 何度目かの砲声が、ハスミちゃんの声を掻き消す。きっと他の人は聞こえなかったと思うが、私の耳だけはハッキリ彼女の言葉を捉えた。そしてあの巡航戦車の弱点を知ったことで、私の中で巡航戦車を倒すための作戦が組み上がる。倒せるかどうかはやってみなければ分からないけど、ここまで頑張ってくれた彼女たちなら……。

 

 

「みんな!!今から作戦を伝えるよ!!!」

 

 

 砲撃の合間を縫って、あれを倒す作戦をみんなに伝える。我ながらかなり荒唐無稽な作戦だと思ったが、作戦を聞いている時の彼女達の表情は、何よりも真剣なものだった。そして作戦の概要を全て説明し終えると、彼女達は各々の武器を構えて私が課した役割を果たすべく走り出す。

 

 

「ほらっ!!こっちに来なさい!!」

 

 ダダダダダダダダダダダダダッ!!

 

 

 まずはユウカちゃんが戦車の側面に向けて発砲。放たれた弾丸は、無防備な横っ腹に吸い込まれていったが、全て装甲に弾かれてしまい、明後日の方向に飛んでいく。素人目線でも恐らくあれは大したダメージになってない。キンキンキンと弾を弾く音が虚しく響くだけだ。

 しかし、戦車は砲塔をぐるりと回転させると、その砲門をユウカちゃんに突きつけた。そして次の瞬間、ドォンという音と共にユウカちゃんの立っていた場所が抉られる。ユウカちゃんが飛び退くのがあと少しでも遅れていたら、きっと爆発に巻き込まれていただろう。でもそのおかげで無事に、戦車の注目(ヘイト)を買うことに成功したようだ。

 

 

「ユウカちゃんはそのまま戦車をこちらに誘導!みんなは作戦通りそれぞれのポイントへ!!」

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 

 砲声にも負けない元気な声が、ビルの間を木霊する。ユウカちゃんが敵を引き付けている間にスズミちゃんとハスミちゃんは所定の位置に、チナツちゃんは万が一に備えて私の傍にやってくる。安全な場所で指示を出すのはもう終わり、ここからは私の場所も危険地帯だ。

 

 

「先生!!目標ポイントまで誘導しました!!」

 

 

 ユウカちゃんが敵の砲撃を躱しながら報告してくれる。瓦礫の山から顔を覗かせてみると、言葉通り巡航戦車はビルの手前で停止し、周囲で動き回るユウカちゃんをその砲塔で狙っていた。とりあえず、作戦の第一段階は終了……。ここからはどれだけ時間が稼げるかの勝負だ。

 

 

「スズミちゃん!!!!」

 

「了解です!閃光弾、投下します!!」

 

 

 私の呼びかけに呼応して、スズミちゃんが物陰から閃光弾を投げ入れる。閃光弾がコロコロと落下した場所は、ユウカちゃんに夢中な敵戦車の目の前。どうにかユウカちゃんを捉えようと車体を回すが、戦車が動き出すよりも先に閃光弾が炸裂する。

 戦車相手に効くのかとも思ったけど、どうやら効果はあったようで戦車の動きが少しだけ止まる。どうやら投げ入れた位置に視界確保用の窓があったらしく、そこから侵入した光が運転手の目を焼いたみたいだ。ただやはり生身で受けるよりかはダメージは少なく、すぐに砲塔を回転させると、今度はスズミちゃんの方に狙いを定める。

 

 

「よし!2人とも怪我しないように戦車をそこに留めておいて!!あと少しだよ!!」

 

「「はい!!」」

 

 

 2人に激を飛ばしながら、私は周囲を確認する。どうやら不良たちは大方片付いていたようで、周囲から銃声は聞こえてこない。先程からワカモのことも警戒しているが、本当に逃げてしまったのか、彼女の気配は捉えられなかった。なら今は巡航戦車の撃破に集中できる。そう考えた私の耳にある音が飛び込んで来きた。

 

 

 ダァン!!!!!

 

 

 聞き覚えのある、破裂音。

 それは彼女の準備が出来た合図だ。

 

 

「2人とも!戦車から離れて!!」

 

 

 私のその声と共に、戦車の足止めをしていた2人が後方に向けてジャンプする。いきなり標的が距離をとったということもあって巡航戦車は一瞬困惑したような間があったが、すぐさま砲塔を回転させ、2人に向けて車体を前進させようとしたその時だった。

 

 

 ゴガァン!!!!!

『イッ…………』

 

 

 先程の破裂音と鈍い音、それに加えてくぐもった悲鳴が聞こえてくる。それと同時にさっきまでユウカちゃん達を追いかけていた砲塔や車体が、電池が切れたかのようにピタリと動きを停めた。

 

 

「よし、作戦成功だね。ハスミちゃん」

 

 

 そう呟いて、私は目の前のビルの屋上を見上げる。そこには漆黒の翼を広げ、赤い双眸を光らせる狙撃手(スナイパー)の姿があった。彼女はこちらの視線に気がつくと1度だけこくりと頷き、慣れた手つきでボルトハンドルを引いて薬莢を排出する。

 

 

『弱点ですか?弱点は装甲の薄い上面とキャタピラの両端、それに後部エンジンです!』

 

 

 砲声の轟く中、彼女が語った巡航戦車(クルセイダー)の弱点。それを聞いた私は、動ける2人に囮と足止めをしてもらい、ビルの真上からハスミちゃんに狙撃してもらうことを提案した。本当はただのライフルで戦車の装甲をぶち抜けるのか心配だったけど、ハスミちゃんは一言「問題ありません」と言うと、あるものを私に見せた。

 弾頭が赤と銀に塗り分けられた弾丸。彼女曰くアーマーピアッシング弾(徹甲弾)と呼ばれるそれは、クルセイダーの上面装甲程度であれば貫通できるらしい。ただ角度を付けられると貫通できるか分からないので、戦車の動きをできるだけ止めなければいけなかった。そしてしっかりとその役目を果たした2人に応えるように、彼女のライフルが今一度火を噴く。

 

 

 ゴガァン!!!!!!

 

 再び、金属の歪む音と彼女の銃声が混ざり合う。一撃目で彼女が狙ったのは、運転手のいる車体から見て右側の装甲。彼女の所属するトリニティ総合学園の制式戦車だったこともあり、彼女はどこに

 何があるのかを熟知していた。一撃目で運転手を狙ったのは、これ以上敵が動き回ることを防ぐため。そして二撃目で狙ったのは、爆発物が満載してある弾薬庫だ。

 

 

「やばい!早く出ろ!!」

 

「重い……!あんたも手伝いなさいよ!!」

 

「なんだコイツら!!覚えとけよ!!」

 

 

 ハスミちゃんの二撃目が決まってから20秒もしないうちに、戦車の中からわらわらと不良達が出てくきた。1人は全力で逃走しながら、1人は気絶した仲間を担ぎながら、さらにもう1人は捨て台詞を放ちながらと、三者三葉の言葉を吐きながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そして主の居なくなった戦車は完全に沈黙したかと思うと、次の瞬間、盛大な爆発を起こして木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 

 

「うっ……!!」

 

 

 その爆発はかなり凄まじいもので、砲声や砲撃の何倍もの熱量と音を発しながら、私の近くまで破片を散乱させる。何とか自分の身を守った私が見たのは、黒焦げになりもはや原型を留めていない巡航戦車(クルセイダー)の姿だった。もう二度と動き出しそうにないその姿を見て、私の中で張り詰めていた緊張の糸が解けていくのを感じる。

 

 

「……とりあえず。作戦完了だね!!」

 

 

 満面の笑みでガッツポーズを決める私だったが、ふと隣から何やら心配そうな視線を感じた。ちらっとそちらの方を見てみると、私の護衛をしてくれていたチナツちゃんが、心配そうな瞳でこちらを見ていた。こちらと視線があっていることに気がついたのか、チナツちゃんは一瞬びっくりした表情をうかべる。しかしそれも一瞬のことで、右手に提げていた大きなカバンの中身を漁りながら口を開いた。

 

 

「先生、切り傷が……」

 

「ん?切り傷……?」

 

 

 えーっと、どこも怪我した覚えはないんだけど。そう考える私のことなど露知らず、彼女は鞄の中からガーゼと消毒液を取り出すと、消毒液でガーゼを濡らした後に私の左頬にそれを当てる。

 瞬間、鼻腔をかすめるアルコールの匂い。それと同時に、ガーゼを当てられたあたりに鋭い痛みが走る。幸いにも声を上げる程ではなかったが、頬を離れたガーゼを見てみると、一部分が真っ赤に染まっていた。

 

 

「あぁ、ごめんね。気づかなかった」

 

 

 チナツちゃんにされるがまま、私の頬に少し大きな絆創膏が貼られる。多分、さっき爆発した戦車の破片が飛んできて、私の頬をかすったんだ。幸いに浅い傷だったから、止血はすぐ済んだみたい。ちょっとは意識してたつもりだけど、これがもし銃弾だったら不味かったかもしれない……。

 

 

「お疲れ様です。先生」

 

「先生のおかげで、かなり被害を抑えられました」

 

「いやいや、みんなが頑張ってくれたおかげだよ」

 

 

 私の応急処置が終わった頃、ユウカちゃんたちがこちらに戻ってくる。2人とも最初こそ私の頬の絆創膏に驚いた様子だったけど、私が口元に手を添えて片目を閉じれば、なんとも言えない表情で「はぁ……」とため息をついていた。

 

 

「お疲れ様でした。先生。見事な指揮でした」

 

 

 ライフルを携え、ビルから降りてきた有翼の少女。今回の戦いのMVPとも言えるハスミちゃんが合流した。

 

 

「ハスミちゃんもお疲れ様。ほんとに、よく頑張ってくれたよ」

 

 

 合流したハスミちゃんに近づき、ヨシヨシする要領で彼女の頭を撫でる。私よりも彼女の方が背が高いから、少しつま先立ちになってしまっているのはご愛嬌だ。少しオーバーな表現だと思わなくもないけど、でもそれだけ彼女の功績は大きい。もしアーマーピアッシング弾を用意してなかったら、きっと巡航戦車を倒すのに苦労しただろうな……。

 

 

「あのっ……先生……!」

 

「あぁっ!ごめん!撫ですぎちゃった」

 

 

 顔を赤らめあわあわし始めたハスミちゃんを見て、すぐさま手を引っこめる。なんか少し前にも、距離感が近いと怒られたことがあったような気がするな……。無意識に距離を詰めてしまうのは、小さな頃からの悪い癖だ。

 

 

「よし!あと少し、頑張ろう〜!」

 

 

 背後からの痛々しい視線を感じながら、私はシャーレの部室が入るビルへと歩を進めた。

 

 

 

 

 




お読み下さりありがとうございます。
今回は戦闘パートメインでしたが、お楽しみいただけたでしょうか?

もっとこうした方がいいという意見等あれば、遠慮なく指摘していただけたらと思います。(もちろん、誤字脱字も含め)
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