Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
あれは嘘だ
あれから少しプロットに変更があったので、オリキャラの練習も兼ねてちょっとした小噺を。一応本編に繋がる前日譚になるかもしれないくらいの感覚で読んでくれればと
雪が解け、植物の芽吹きを感じられる春先。学園都市キヴォトスの春の前触れ。以前の私なら、今の季節をこう表現しただろう。それは身の回りにわかりやすい指標があったから、周囲の空虚な高潔さに合わせて言ったことにすぎない。それがわかったのは、ここ──アビドス砂漠に来てからの事だった。
すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……
私の呼吸する音が、痛いほどの静寂に霧散していく。先程からドクドクと早鐘を打つ心臓の音が、周りの静寂も相まってうるさく聞こえる。砂に埋もれ、廃墟になった市街地。そのビルの中にある一室に、私はひっそりと身を隠していた。窓から差し込む日の光の帯が室内を照らすが、あるのはホコリやゴミではなく、サラサラとした砂だけだった。
その窓から時おり外を眺めては、周囲の様子を確認する。この窓からは目の前にある大通りの様子が一望でき、もし敵がやって来たとしても直ぐに分かる。もし敵を見つければ、傍に立てかけてある「
私──
ドガァァァァァァァン!!!!!!
閑散とした廃墟に、突如として爆発音が轟いた。それを聞くと同時にヨミは素早く身を起こすと、窓から少しだけ顔を出し、大通りの様子を伺う。見ると、建物の一角から煙が上がっており、そこにあったはずの一軒家が無惨にも崩れ去っていた。その場所にはヨミが事前に設置していた対人用地雷があったが、どうやらそれがしっかりと作動したようだ。
もちろんこれは誤作動による爆破では無い。確実に誰かに反応して爆発したものだ。そしてヨミは今自分が何に追われているのかをしっかりと理解していた。
「起爆確認。少しでもダメージが残っててくれると嬉しいけど……」
そう呟くと同時に、目先の煙から何かが飛び出してきた。大きな白い翼を持ち、頭上には2つの翠緑の輪っかを浮かばせる人間。見た目はまるで天使のようだが、その手元には無骨なフォルムの銃が握られている。煙の中から出てきたということは先程の地雷を食らったはずなのだが、ダメージを受けた様子はなく彼女は綺麗に着地した。そしてゆっくりと辺りを見渡すと、すっとこちらに視線を向けてきた。
「やっぱり先輩は硬すぎますって!!」
そう言うと共に、ヨミは傍らの愛銃を掴み取り部屋を出る。あの視線は恐らくこちらの位置に勘づいている。私の
「もうっ! せっかく強めの地雷も使ってみたのに!! なんで効かないのかなぁっ!?」
自費で買った地雷が無駄になったことを愚痴りつつも、彼女は走る足を止めない。現在は4階建てビルの3.5階あたり。最後の数段を二段飛ばしで駆け上がると、屋上へと通じる扉を体当たりでこじ開けた。
屋上はあまり障害物がなく、転落防止のフェンスも低い。これならかなり下まで狙えるし、万が一接近戦になった場合でも多少の暴れが効く。まぁ、その万が一なんて起きて欲しくない訳だが……。
「でも、先輩ならやってきそうだなぁ……!」
そうボヤきながらフェンスから身を乗り出し、こちらに向かってくる人影を迎え撃つべく銃を構える。この距離なら私の必中距離。今までの天使との戦いで、何度も何度も命中させてきた。だが次の瞬間、体中が一気に冷えたような感覚に陥る。そして、それと同時に目の前を一陣の風が通り抜けた。はっと顔を上げれば、目の前に1枚の羽根が舞い降ちてくる。
そして彼女の空色の瞳が、私の瞳と交差する。それに一瞬気を取られたが、すぐさまバックステップで距離を取り銃を構え直す。
ダンッ!! ダンッ!!
立て続けに2発、「
そしてそれに気を取られてるうちに天使は一気に距離を詰め、左手の突撃銃でヨミの狙撃銃を跳ね上げる。だがヨミも即座に反応し、左太腿のホルスターに入った拳銃を抜くと、目の前の天使へと構える。──だがその時にはもう、天使の右手の拳銃が、ヨミの目の前につきつけられていた。
「ッ…………」
「ぐう……っ!!」
2人の少女が、互いに銃を突きつけあった状態で静止する。だが互いにその引き金を引くことはなく、ただ静かに睨み合いを続けるだけ。ただそれも一瞬のことで、先に銃を下ろしたのは天使の方だった。
「残念。でも中々良かったよ」
「……ほぼ無傷でそれを言われてもですよ」
文字通り天使の笑みを浮かべる先輩に、飛葉山ヨミは呆れた笑いを返すのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はい、今日も私の勝ちね」
ふふんと鼻を鳴らすのは、先程まで私に銃を突きつけていた天使──
一方、敗者の私はと言うと、パタパタと揺れる先輩の大きな翼をブラシで撫で付け、先程の戦闘で汚れた部分を丁寧にお手入れしている。これが私たちの模擬戦後の、いつもの光景だった。
「あぅ……地雷はしっかり起動したはずなのに……。なんでそんなピンピンしてるんですか……?」
先輩の翼の手入れをしながら、その肩越しに問いかける。私を含め、キヴォトスに住まう人々は、元より銃撃や爆撃にはある程度耐性がある。だからさっきの先輩みたいに、撃たれたところで死ぬことは無いのはみんなわかってる事だ。もちろん、私も。
ただ、死なない事と効かないことは全くの別だ。いくら丈夫とはいえ、7.7mmの直撃で顔色一つ変えないのは、流石におかしいと思う。もっと言えば、その前の地雷攻撃で傷1つ付いてないのも含めて。でも目の前の先輩は、実際にそれをやってのけているものだからヨクワカラナイ。
「ん〜? 私だってモロに喰らえば無傷じゃ済まないよ。ただ今回はビルを突っ切るために身体の保護はしてたし、ギリギリ翼でカバーできる範囲だったから」
そう言ってパタパタと翼をはためかせる先輩はどこか得意げだ。よく見ると、彼女の頭上の白色の
「……先輩の翼、大きくて綺麗ですよね。元々はトリニティのお嬢様だったりしたんですか?」
「……さあね。わかんないや」
はぐらかすように、あるいは真実を告げるように。今まで上機嫌だった先輩が、突然凪いだ水面のように静かになる。私がこの組織に入ったのは半年ほど前で、その時には既に先輩は組織の用心棒兼メンバーの1人として活動していた。そんな先輩の過去を、1番弟子とまで言われた私はまだ知らない。
「飛葉ちゃんは、元々トリニティに通ってたんだっけ?」
「はい。……でも、1年と経たず辞めいちゃいましたけどね」
そう言って、困ったように笑う。別に勉強についていけなかったわけじゃない。ただ単に、あそこは私にとって生きにくい世界だっただけなのだ。そう、たった一つのことが原因で、私の世界は生きにくくなった。
私には、幽霊が視える。自分の意思に関係なく、いつも視界に入ってくる。それは歪な動物の姿をしていたり、あちこちが破損して錆れたロボットだったり。中でも私がよく見るのは、ヘイローの無い生徒達の霊だ。他の霊と比べて、生徒たちの霊は少しだけ意思疎通ができる。だから私は1人の時にたまに幽霊に話しかけて、孤独感を紛らわせていた。
でも、それが返って私を孤独にした。彼女たちの目に見えないものが視える私。でもそれを知らない人から見れば、私は1人でぶつくさと喋っている変人だ。それがお嬢様方の耳に入れば、あとはもうお察しの通り……と言うやつだ。
「先輩は違いますもんね……。あそこのお嬢様方とは違って、私を人間として見てくれる……」
お友達……と言えば聞こえはいいだろう。でも実際は、私は彼女たちのステータスを高めるための
そこからだ、私が生きづらくなったのは。毎日珍獣を見るような視線に晒されて、原因である幽霊たちは関係なく視界に入ってくる。そんな毎日を過ごしていたある日、私はついに擦り切れてしまった。
そして、全てを終わらせようとこのアビドス砂漠を彷徨ったあの日。私は目の前の先輩と出会ったのだ。
「私は
私の話を聞いていた先輩は、最初にそう呟いていた。最初は幽霊たちと同じ
ポスン……
懐かしい記憶に浸っていた私の頭を、何か柔らかい感触が包み込む。何かと思い顔を上げると、目の前にはいつの間にかこちらに向き直った先輩がいて、その大きな翼で私の頭をゆっくりと撫でてくれていた。
「大丈夫だよ。私たちにとって飛葉ちゃんは、可愛い可愛い妹に変わりないから」
そう言って優しくナデナデしてくれる先輩。その暖かさにと懐かしさに、私の頬がどんどん緩んでいくのが分かった。
「はい! えへへ〜」
「もう……、相変わらず撫でられるのが好きだねぇ」
「だって、先輩の翼はふわふわで暖かいんですもん」
「そうかそうか〜。そういえば、今日近接戦の時にちゃんとハンドガンを抜けてたね。前回の教えをちゃんと形にできてて偉いぞ〜!」
「えへへへへへ〜〜」
憧れの人からの褒め言葉と頭をワシャワシャと撫でられる感覚に、私の思考までもがズブズブとふやけていく。さながら麻薬を吸っているような感じだが、実際先輩の翼からはお日様のいい匂いがするので、これが1種の麻薬成分になっているのかもしれない。
しかしそんな時間も長く続くことはなく、2人のスマホから電話の呼出音が鳴り響く。それに気づいた先輩はスマホを手に取ると、電話に応答すると同時にスピーカーボタンを押した。
〈セキ!! ヨミ!! 今どこ!? 〉
電話の主は、私たちの組織を率いているリーダーの人だった。彼女の声は電話越しでもよく聞こえてくる。
「リーダーですか。拠点からちょっと離れた廃墟群のところですけど、もしかして何かありました?」
〈いや、前哨基地に居ないなと思ってさ。明日の朝には襲撃をかけるから、それまでには前哨基地に着いておけよ〉
「了解しました。今日の夕方頃までには戻りま〜す」
先輩はそう言ってから電話を着ると、ゴソゴソと持ってきていた自分の荷物を漁り始める。その背中を少し眺めてから、私もここを離れる準備を始めた。
「襲撃……ですか。私は初めてなんですけど、頻繁にやってるんですか?」
「う〜ん。襲撃自体が珍しいのもあるけど、ここまで大規模なのは私も初めて。しかも今回は
出立の準備をしながら、物騒な会話を交わす私たち。ここに来るまでははた迷惑な奴らとしか思わなかったが、いざ自分の立場となるともうそう思うことは出来ない。私が迷惑だと感じた彼女らの数々の行動も、彼女たちにとっては死活問題だったのかもしれない。そう考えると、一概に悪いとは言えない……いや、やっぱり多少悪いのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は被り慣れた
「準備完了。飛葉ちゃん、そっちのほうは?」
「こちらも準備完了です。先輩」
「よし、じゃあいこっか」
そう言って先輩はフェンスを乗り越えると、縁のスペースでしゃがみ込む。それを見た私も直ぐにフェンスを乗り越えると、しゃがむ先輩の背中に乗ってピッタリと身体をくっつけた。俗に言うおんぶの体勢。先輩からいい匂いが漂ってくるが、それを楽しむ余裕は無い。問題はここからなのだから。
「それじゃ、口閉じといてね」
「はい! お願いしまぁぁぁぁぁ!!!?」
私が言い終わるよりも先に、先輩が立ち上がってビルから飛び降りる。高さは約12メートルほどだが、それでもフリーフォールの恐怖は充分怖い。でもそれも一瞬のことで、先輩が翼を広げてブレーキをかけたことで、直ぐに落下速度が落ちて安全に着陸することが出来た。
「はぁ……はぁ……先輩、せめて私が口を閉じるまでは待ってください……」
「あ、あぁ……。ごめんね?」
申し訳なさそうに頬をかくセキ先輩。この人のこの天然気味なところ、そろそろどうにかならないものか……。そう考えながらも、ゆっくりと歩き出した先輩の後を追いかけて歩みを進めていく。目的地は、最近整備が終わって使えるようになった前哨基地。そして私たちの最終目標は────、最終……目標……は……と。
「そういえば先輩、今回私たちはどこを襲撃するんでしたっけ?」
先輩に天然気味だとなんだと言ったが、かく言う自分も割と物忘れが激しいのだった。そして照れ隠しも兼ねて先輩に聞いてみれば、少し思案した後にちゃんと答えは返ってきた。
「あぁ……どこだっけ……? 確か──
────アビドス高等学校……だったかな?」
△飛葉山 ヨミ (ひばやま よみ)
年齢:16歳
幽霊が視える特異体質。元々はトリニティ生だったが、体質が理由で心を病み、トリニティを去る。
アビドス砂漠で「そうなる」前に、セキに発見された。
△門守セキ (かどもり せき)
年齢:17歳
彼女もまた、特異体質。基本即死以外はかすり傷だと思ってるタイプ。
彼女の過去は、まだ誰も知らない。
△リーダー
カタカタヘルメット団のリーダー。
赤い服に赤ヘルメットのあの子。きっと仲間にも慕われてるし、本人も仲間が大好きだと思う。
それでは、また後日。