Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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それだから、キリストの力がわたしに宿るように、むしろ、喜んで自分の弱さを誇ろう。

ー コリント信徒への手紙二 12章9節より ー






第6話 「新たなる箱、新たなる剣」

 

 

 

 

 

 

『科学と魔法の集まる学園』

 

 ミレニアムに来る時、俺はアイたちそう説明していた。『最先端』『便利』と呼ばれるものから、一見何の役に立つのかも分からないもの。全ての魔法のようなものが、この場所で生まれている。

 その技術力に差はあれど、『ミレニアム』の全ての物は人の手で造られる。造る者たちを人々は『マイスター』と呼び、依頼を通して彼女たちの力を借りているのだ。

 

 そしてそれは俺も同じだ。今日もその依頼のために、ミレニアムの中にあるガレージを訪れていた。

 さながら小さな町工場といった雰囲気のそこには、不思議な機械や工具が沢山置かれている。そんな場所に足を踏み入れてから数十分経つが、今は少しだけ困っていた。

 

 

「ふーむ……ふむふむふむふむ……」

 

「……………………………………」

 

 

 直立不動の俺の周りを、見知らぬ少女がぐるぐると回っている。ガレージに足を踏み入れた途端やってきた彼女は、こうして俺の周りを巡り続けていた。

 しかもただ回っているのではない。その子は時折俺の腕を取り、脚を持ち上げて、まるで品定めのように澄んだ琥珀色の瞳を細めている。その手つきは大胆ながら繊細で、まるで割れ物を扱うかのようだった。

 

 ──やがてお気に召したのか。少女は周りを巡るのを止め、俺の正面に立ち塞がった。

 

 

「なるほど、素材としては申し分ないな」

 

「ごめん。何が???」

 

「ん?いやいや、噂のシャーレの先生とやらがどんなモノか気になってだね。だが実際にこうしてみると、思ったより普通みたいだな」

 

 

 今一度体を下から上まで眺めながら、どこか満足そうに呟く少女。彼女が頷く度に一纏めにされた緑の長髪が揺れて、さながらしっぽを振る大型犬のようだった。

 

 

「ススム。検分はそれくらいにしてくれるかい?」

 

 

 何が何だか分からないでいる俺を見かねてか、ガレージの奥の方から呆れたような声が聞こえてくる。その声の主は、このガレージの所有者──即ちエンジニア部の部長である白石(しらいし)ウタハだった。

 

 

「あぁ、そうだったそうだった。すまないウタハ。本来の目的を忘れていたよ」

 

 

 ウタハの呼び掛けに対し、"ススム"と呼ばれた少女はそう返しながら離れていった。どうやらもう、彼女の気は済んだらしい。

 

 

「ウタハ先輩!!テーブルのセッティングの方が終わりましたよ!!」

 

「こっちも人払いは済んだよ」

 

 

 そのタイミングを見計らってか、奥の方からまた声が聞こえてくる。そちらを見るとエンジニア部の1年生、豊見(とよみ)コトリと猫塚(ねこづか)ヒビキが机と椅子のセッテングをしてくれていた。

 

 

「2人ともありがとう!話が終わるまで、来客の対応を頼むよ!

 

「わかりました!」

 

「うん。まかせて」

 

「頼もしいね。.........さ、先生。早速話し合いを始めようか」

 

 

 ウタハに案内されながら、俺は用意された椅子に座った。テーブルを挟んだ向かいにはウタハとススムが座り、コトリとヒビキは任された仕事に向かう。

 気分はさながら、面接のようだ。あるいは、企業同士の契約を結ぶ場面か。心做しか向かいに座る2人も緊張したような雰囲気が漂っていた。

 

 

「まず先に紹介するよ先生。彼女は新田(にった)ススム。新素材開発部の一員で、今回の協力者の1人だよ」

 

「改めて、新素材開発部の新田だ。若輩者だが、よろしく頼むよ先生」

 

「よろしくね。ウタハ、ススム」

 

 

 緑髪の少女──新田ススムの紹介を手早く済ませると、ようやく小さな密会が始まった。

 

 

「さて、それじゃあ早速本題に入るけど。まず手っ取り早く済むものからしようか」

 

 

 そう言ってウタハが取り出したのは、1枚の納品書。そこには何やら文字がびっしり書かれているが、ウタハはその中からある1文を指し示す。

 

 

「まず先生が新しく発注してくれた『みちびき君』について。注文通り、偵察型4機、補給型4機、防衛型2機、それぞれの予備機が2機ずつの計16機の再生産が終わったよ」

 

 

『みちびき君』。それは俺が初めてエンジニア部に発注したドローン群のことだ。

 

「もっと生徒の支援ができるように」と制作されたそれは、アビドスでの戦いで対策委員会や便利屋68等、果てはヘルメット団まで勢力問わず生徒を支えた。

 しかし、苛烈な戦いによって1機……また1機と破壊され。ついには予備機を含めた全ての機体が、自爆によって喪われたのだった。

 

 

「しかし、まさか殆どが爆散するとは思わなかったよ。自爆機能が作動したと知った時は、内心気が気ではなかったね」

 

「ごめんねウタハ。でもそのお陰で、私は生徒たちを救うことができたよ。本当にありがとう」

 

「作ったモノが人の命を救えたなら、マイスター冥利に尽きるよ。でも、なるべく次からは控えて欲しい。今度は私の心臓が持ちそうにない」

 

「わかった、善処するよ」

 

 

 アビドスではウタハに何度も助けられた、みちびき君(ドローン)や偽装に使ったヘルメット。それらがなければ、きっと今みたいな結末は訪れなかった。

 白石ウタハ(マイスター)の作品は、多くの人を助けた。そしてこれからも、彼女の作品は多くの生徒を助けるだろう。

 さらにいえば生徒だけではない。俺やアイだってその対象だ。それは今まさに発注しているモノが示している。ちょうどウタハも、その件について話がしたかったようだ。

 

 

「まぁ『みちびき君』に関してはこれくらいにして、次の話題に移ろう。この前の発注の時に提示してもらったデータなんだけど──まぁ、単刀直入に言わせてもらおうかな」

 

 

 そう一拍置いてから、ウタハはある紙を取り出した。『仕様書』と書かれたそれを指さしながら、彼女は呆れ半分と言った様子で問いかける。

 

 

「先生、これは何を求めているんだい?」

 

 

 マイスターとしての鋭い質問。作る者としての真剣な眼差しに射抜かれながら、俺は「うーーーん」と唸ってから、絞り出すように答えを出した。

 

 

「『ぼくのかんがえたさいきょうのたぶれっと』…………かな?」

 

「ふむ、それは冗談(ジョーク)かい?」

 

「いや、本気(マジ)だよ」

 

 

 本当だ。決してふざけているわけではない。本当に、その注文の品を表すのが、その言葉しかないのだ。

 

 

「瞬間的に電磁バリアを展開する機構、この世に存在するあらゆる銃弾・爆発物に耐えれる耐久性。オマケにハッキングするための電子戦装備。それらをタブレットサイズに押し込む……。なるほど、確かに『ぼくのかんがえたさいきょうのたぶれっと』だ」

 

 

 その証拠に、傍から仕様書を覗き込んだススムが「うわ」と引いたような声を漏らしている。明らかにオーパーツじみていると思うが、それこそが俺の求めているものである。

 

 俺がウタハに注文したモノ。それは言ってしまえば『シッテムの箱』の代用品だ。

 

 連邦生徒会長が残したらしいオーパーツ、『シッテムの箱』。黒服曰く、それはこの世界で唯一無二の存在であり、模倣(コピー)や量産など不可能に近い。

 だけど、今このキヴォトスには(アイ)が居る。俺たちにとって『箱』は文字通りの最後の防壁だが、1つしかないのでは、常に一緒にいない限り守りきることはできない。

 

 故に俺はアイに『箱』を持たせ、自身はまた別の手段で身を守ろうと考えたのだ。

 

 

「どう?何とかなりそうかい?」

 

 

 試すような視線を送りながら2人に問いかける。あの黒服すら警戒する代物だ。無論、俺も『シッテムの箱』を完全再現できるとは考えていない。

 しかし、だからと言って妥協はしない。『みちびき君』の完成度やミレニアムの技術力を参考に、彼女たちができるだろうというラインの、その1段階上のデータを突きつけた。

 

 

「……電磁バリアに関しては、『みちびき君』の技術を転用すれば行けると思うよ。耐久性に関しては、ススムの手を借りることになると思う」

 

「心得た。基本的なタブレットの耐性に加え、耐衝撃・耐爆性能の高いモノだね。久々の素材開発だ、わくわくするよ」

 

「しかしだよ先生。私もウタハも装備の入れ物(ハード)は作れても、中身(ソフト)はどうもできない。そこの所は何かアテがあるのかい?」

 

「一応チヒロには協力をお願いしてるよ」

 

「チヒロ……あぁ、ハッカー集団(ヴェリタス)各務(かがみ)チヒロか。なるほど、それなら申し分ないだろうな」

 

「しかし、まさかチーちゃんも協力してくれるとはね。これはかなり大きな合作になりそうだ……」

 

 

 データの書かれた用紙を見ながら、マイスターたちはあれよこれよと言葉を交わしてる。どうやら俺からの無茶振りを受けて、彼女たちのマイスター魂に火がついたらしい。

 そして火がついているのは、何も2人だけではない。データを担当してくれる予定のチヒロも、最初こそ顔を顰めていたものの、最終的に「任せて」と頼もしい笑みで応えてくれた。

 さらにこのプロジェクトには生徒だけではなく、大変不本意だが.........あの黒服も関わっている。各分野の専門家の協力を仰ぐことで、俺の求める『新たなる箱』が完成するのだ。

 

 

「そういう訳で、文字通り私最後の防壁の制作、よろしくお願いしても良いかな?」

 

 

 生徒を頼る。このキヴォトスに来た直後は、あまりその手段を取りたくはなかったけど.........。状況はもう、そんな余裕を許してはくれない。

 最初と比べて、今は守るものが増えた。それは生徒であり、家族であり、自分自身の新たなる矜恃である。それらを守ることに、俺は全力を出すことを惜しまない。

 だからこそ、俺が考えうる限り最高の、何よりも信頼できるプロフェッショナルたちの力を借りることを選択した。

 

 その選択に対し、マイスターたちの反応は──

 

 

「無論だ。マイスターの名にかけて、完璧な作品を約束するよ」

 

「そうとも!ミレニアムの巨匠の力、とくと見よ……だ!!」

 

 

 力強い返事を持って応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんください〜!!」

 

 

 それからしばらく2人と打ち合わせを続けていると、ガレージに新たな来訪者が現れたようだ。3人の視線が向けられた先には、入口に立つ4人の生徒と、1人の大人の姿があった。

 

 

 “ あ、お兄ちゃん。まだ話してたの?”

 

「お兄ちゃん!?あの大人って、先生のお兄さんだったの!?」

 

「でも言われてみれば……、顔の輪郭とかそっくりかも……」

 

 

 意外とでも言いたげな大人──アイの言葉に、周囲の子供たちが驚いている。それもそのはず、シャーレのホームページには2人の顔写真が載ってはいるが、俺の意向であえて苗字は載せていなかった。

 

 子は……親の弱点だ。

 

 前に読んだ漫画でそんなセリフがあった。もちろんあいつは俺の子供じゃ無いが、俺にとって突かれたくない『弱点』であることに変わりはない。

 

 

「初めまして。君たちがゲーム開発部の子たちだね?私は天守セツナ。もう1人のシャーレの先生だよ」

 

 

 とりあえず、ゲーム開発部とは初対面なので挨拶を。一礼して視線を上げれば、彼女たちが興味津々と言った様子で見つめ返してくる。

 多分きっと、俺も同じ目をしてるんだろう。昨日のうちに彼女たちに関する話を色々と(・・・)と聞いていたので、それが本当かどうか、自分の"眼"で確かめておきたかったのだ。

 

 

「……………………?アリスの顔に何かありますか?」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 

 まず最初に確認したいのは、他の子たちより少し後ろで佇む青い瞳の少女。廃墟で見つかったというその少女の胸元には、『天童アリス』と書かれた学生証がぶら下がっていた。

 

 

( ……なるほど。アイツ(・・・)から聞いてたより随分と大人しいな)

 

 

 心の中でそう独りごちりながら、アリスから視線を外す。世界を滅ぼす指揮官サマと聞いていたが.......。"眼"を通して視ても、彼女の中に害意は無さそうだった。

 .........なら今のところは問題じゃない。ならばと次に視線を向けた先には、これまた訝しげに俺を見つめる天使の姿があった。

 

 

「セキ。体調は大丈夫?また倒れたって聞いたんだけど………」

 

 

 アイから「セキが倒れた」と聞いた時は、久方ぶりに冷や汗を流したものだ。セキが倒れる。それはつまり、事態がかなり逼迫しているということを示している。それは先のアビドス決戦がいちばんわかりやすい。

 しかも事前に彼女から神秘解放に関する不調を聞かされていたので、その不安は余計に膨らんでいる。ただ見たところ普通に歩けているようだし、特に問題は無さそうに見えるが……。

 

 

「ふっふっふっ………。愚問ですね、我が主(マスター)。貴公らの剣は、そんな1度や2度の剣戟で綻ぶような贋作ではありませんよ……!!」

 

 

 いつの間にか、彼女の口調がだいぶ変わっていた。普段の丁寧な言葉遣いの面影はあるものの、ワードチョイスがだいぶ尊大になってる.........。

 

 

「…………セキ。やっぱりどこか調子が悪いなら──」

 

「ち、違いますよ!!??ちょっと冗談を言っただけじゃないですか!!!」

 

 

 顔を真っ赤にしながら、両手を振って訂正するセキ。その口調はいつもの彼女のもので、さっきの芝居がかった口調は本当に冗談だったようだ。

 しかし、どこからそんな言葉遣いを学んだんだろうか……。親は子に似る……とは言うが、俺やアイ、さらに言えばあの伊佐波メイでさえ、あんな言葉遣いはしないはずだが……。

 

 

「………なぁ、アイ。セキに何があった?」

 

 “ なんか昨日の晩にアリスちゃんとゲームをしてたらしいんだけど、出てきたキャラにハマったらしくて………”

 

 

 そう言うアイの表情も、なんとも言えないものだった。まぁ確かに、一晩で人の性格がこうも変われば困惑もするだろう。というか、俺はとても困惑した。

 .........でもまぁ、とりあえずセキの調子は良さそうだ。アビドス決戦の時みたいに大怪我をしてない分、回復が早かったのかもしれない。少なくとも、俺が心配するような事態は起きなかったらしい。

 

 

「.......まぁそれならいいけど。それはそれとしてそっちの方は順調そうか?」

 

 “ うん。とりあえず言葉は覚えたみたいだから、今はアリスちゃんの銃を探してるところ”

 

「なるほど、それでエンジニア部に。誰の発案かは知らないけど、ここを選んだのは良い選択(チョイス)だ」

 

 

 とりあえず、アイの方も上手く事が進んでいるらしい。この調子なら、ユウカの出した条件の半分はクリアできるだろう。

 そんな会話をしている俺たちの元に、トコトコと近づいてくる影があった。

 

 

 “ わっ!?”

 

 

 突然、アイが悲鳴をあげる。何事かと思ったのも束の間、アイの右腕が持ち上げられ、その向こうから緑の長髪が覗いていた。

 

 

「.........ふむ、ふむ。なるほど。肉付きは違うが、芯は似通っている。まさに兄妹。しかし細いな、こっちが心配になる。ちゃんと食事をしているのか?」

 

 “ ちょ!?何!?というか誰!?いつの間に!?”

 

「あぁすまない。新素材開発部の新田ススムだ。少しだけ検分させて欲しい。.........アイ先生だったか?やっぱりちゃんと食べてるか?腰周りが細すぎないか?」

 

 “ た、食べてるよ!!?”

 

 

 .........どうやらアイも、ススムの毒牙にかかったようだ。ウタハ曰く、彼女は検分は半分癖のようなものらしいが、こうなるとしばらくは離してくれないらしい。

 まぁ俺もさっき受けたし、彼女も悪意は無いんだろう。別に害意が無いなら、俺に止める理由はない。ということで、セキたちの方はどうなってるのか────。

 

 

「バカだ!!天才なのにバカの集団が居る!!」

 

 

 そんなことを考えていると、向こうの方から絶叫が聞こえてくる。何事かとそっちへ向かうと、そこにはエンジニア部とゲーム開発部が集まって何かを見ていた。

 まぁ絶叫の内容の時点で分かってはいたが、何か事件が起きたわけではないらしい。

 

 

「どうした?何があった?」

 

「あ、セツナ先生。実はアリスちゃんの武器を選んでたんですけど」

 

 

 俺に気がついたセキが、困ったように笑った。

 

 

「アリスちゃんがアレを欲しがってるみたいで.....」

 

 

 そう言って彼女は皆が見つめているものを指さす。それにつられて動く俺の視界に、"ソレ"はいきなり飛び込んできた。

 

 

「.........なんだアレは」

 

 

 どうにか形容するなら、『大砲』とでも言うんだろうか。様々なコードに繋がれた、白いボディの物体がそこに鎮座していた。

 近未来的なデザインのそれにはミレニアムの校章がついていて、ここにあることからエンジニア部の発明品であることはわかるが.........。

 

 

「『光の剣:スーパーノヴァ』。曰く、『レールガン』らしいです。なんでも宇宙戦艦に搭載するために作ったとか」

 

 

『レールガン』。SFやゲームでも有名な、電磁力を使って弾を撃つ兵器。どうやらエンジニア部はそれを艦載砲とする宇宙戦艦の開発に着手し、早速主砲であるレールガンを開発したそうだ。

 しかしこのレールガンだけで下半期の予算の7割が飛んだらしい。これでは船体開発のための予算が足りないということで、宇宙戦艦の開発は中止になったそうだ。

 さらにレールガンも艦載砲想定のため、人が使えるものではなく実射データの取得は不可。結果的にエンジニア部の挑戦は、散々な結果に終わったのだった。

 

 

『そんなの計画段階でわかるじゃん!!なんで完成まで持っていったのさ!!』

 

『愚問だねモモイ。ビーム砲はロマンだからさ!!』

 

『そうそう。ロマンなんだよ』

 

『その通りです!!ビーム砲の魅力が分からないなんて、全く……これだからモモイは……』

 

『バカだ!!天才なのにバカの集団が居る!!』

 

「──……って話の流れです」

 

 

 そう言うセキの表情は、正しく苦笑いだった。まぁ話を聞いている限り、そんな表情になるのも無理もない。自分から失敗しに行くなんて、間違いなくバカの所業だろう。

 だけど、俺はわかる。できると言うなら、やってみたくなるのが人の本能(さが)だ。しかもそれがレールガンと言う夢と希望(ロマン)の塊で、自分たちの手で作れるのなら、尚のこと.........。

 

 そしてそんなロマンの結晶ともいうべき武器を、アリスは欲しがっているようだ。

 

 

「でもあのレールガン、聞いた話じゃ人が撃つものじゃないらしいですし。アリスちゃんが使うのはさすがに無理があるんじゃ........」

 

「…………………」

 

 

 まるで駄々っ子の説得に悩む親のように、腕を組んで唸っているセキ。彼女が言うには、あのレールガンは基本重量時点で100kg越えで、諸々の装備を積んで射撃すれば、瞬間的な反動は200kgにもなるらしい。

 

 確かに.....おおよそ人が撃てるものではない。

 でも、もし彼女が人ではない(・・・・・)なら.........。

 

 

「セキ!アリスは、セキみたいになれますか?」

 

 

 未だ悩んでいるセキに向けて、アリスがそう問いかけた。彼女がセキに向ける瞳には、レールガンに対する渇望と期待、そして強い憧れの感情に揺れている。

 その瞳に射抜かれたセキは、少し驚いたようにキョトンとしていた。ただその言葉の意味は理解できたようで、仕方ないとでも言うように小さくため息をつくと、力強く言い放った。

 

 

「アリスちゃん.........いえ、勇者よ。……成ってみせよ!そして我の前で、貴君の光を魅せるのだ!」

 

 

 その言葉に、アリスの表情がケツイに満ちる。

 

 

「命令……いえ、これは試練!アリスの疑問に打ち勝つための、最終試練と受け取りました!!」

 

 

 そう言うと、アリスは一目散にレールガンの元へと駆け寄った。何をするのかと思いきや、彼女はレールガン──いや、光の剣を掴み、その華奢な腕に力を込める。

 

 

「この剣を抜く者、この地の覇者となるであろう!!」

 

 グググググ.........!!!

 

 

 人が小箱を持ち上げるように、あるいは学生が通学鞄を持ち上げるように。まるでそれが当たり前と言わんばかりに、彼女は剣を持ち上げる。

 しかしその剣は特別製。並の剣よりも強力であるが、その代償に常人には取り扱いのできない重さを備えている.........はずだった。

 

 

「おぉ.........動いた.........!」

 

「スゴい.........本当に持ち上げてしまうなんて!」

 

 

 まさかの事態に、ウタハたちエンジニア部の面々は目を輝かせている。声こそ聞こえてこないが、ゲーム開発部の子たちも目と口を大きく開けてその勇姿を目に焼き付けていた。

 その間にも、アリスは特に応えた様子もなく光の剣をいじくり回している。どうやら無理をしているとかではなく、本当に素の力で持ち上げているらしい。

 

 素の力.........か。基本重量100kg超えのモノを扱える力を、素の力と呼ぶのは少しはばかられる。俺やアイのように異質な力ならまだしも、基本スペックでそれはもはやゲームのラスボスか何かだ。

 

 

(なるほど。『王女』.........ね)

 

 

 そう心の中で呟く俺の目の前で、光の剣をいじっていたアリスが新しい発見をする。

 

 

「えっと、このボタンを押せば良いんでしょうか?」

 

 

 そう言って彼女は光の剣についていたボタンを押した。すると砲身らしき部分が2つに分かれ、露出した砲口からバチバチと閃光が散り始める。

 

 

「あ、アレはまずいかも!」

 

 

 一番最初に気がついたのは、同じような武器を扱っているセキだった。続いて持ち主のアリスも気づいたようで、すんでのところで砲口を上へと向ける。

 

 

「.........っ!私の!!全身全霊の光よ──!!!」

 

ドガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 その言葉と共に、充填されたエネルギーの奔流が砲口から溢れ出る。一条の光となって放出されたそれは、轟音と共にガレージの天井をぶち抜いたのだった。

 

 

 

 

 









▽天守セツナ
裏方で暗躍中の大人。
無敵の箱を作る。そうしないと誰も守れないから。

▽天守アイ
表の方で活躍中の大人。
食べてはいる。ただそれよりも多く消費するだけ。

▽門守セキ
英雄王に影響された騎士サマ。
アリスに妹か娘のように接している。

▽天童アリス
騎士サマに憧れた勇者。
レールガンと聞いて、脳裏にセキの姿が過ぎった。

▽白石ウタハ
エンジニア部のマイスター。
セツナから腕と人柄をとても評価されている。

▽新田ススム
新素材開発部所属の3年生。
ウタハとは旧友。初対面の人に検分と称してスキンシップを行うため、ミレニアム中の生徒たちの間では賛否分かれる人柄をしている。




次回 第7話 「ステージ1-裏 『廃墟』」

『────繧医¥縺樊綾繧峨l縺セ縺励◆』




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