Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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本作は第15話「無いはずの6番目」後の話になります。



「人生で1番■■な日」





 もし人生で1番不幸な日があれば、それは間違いなく今日だったと言えるだろう。いや、"人生で"ってのは言い過ぎか。まぁでも、ここ最近で一番酷い1日だったというのは、ほぼ間違いないと思う。


「おい、起きろ」


 暗い視界のどこからか、仲間の呼ぶ声が聞こえてくる。だけど私の瞼は一向に持ち上がる気配はなく、まだ寝ていたいんだと静かに主張していた。だけどそんな私の事など露知らず、仲間はゲシゲシと身体を足先で小突きながら無理やり起こそうとしてくる。


「起きろっての。風邪ひくぞ」

「あぁ〜?もう朝か?」

「違うよ、まだ夕方。どうやらアタシら、今まで気絶してたみたいだ」


 仲間のその言葉で、私は今までの出来事を思い出す。確か今日は、スケバン仲間と一緒にブラックマーケットに金稼ぎに来ていたはずだった。ただ仲間の発案した「トリニティ生を攫って身代金ガッポリ作戦」は上手くいかず、あちこちで失敗の報告が聞こえてきていたのを覚えている。そしてそれは、私たちの方も同じだった。


「ちぇっ、あと少しで上手く行きそうだったのに。私たちの計画も、これでおじゃんだな」

「今日は何かと不運な日だな。仲間はみんなやられるし、アタシらはアタシらで失敗するし……」


 そんな愚痴をポロポロと零しながら、私たちは仲間の待つアジトへと帰っていった。きっとみんなも作戦が失敗して怪我したからへこんでるんだろうな……。そう思って部屋に入って行ったが、そこには真逆の空気感が漂っていた。
 ジメジメしていない、むしろ沸き立つような暑さ。まるでお祭り騒ぎのような空気感だ。事実、へこんでいると思われていた仲間たちは部屋の中央に集まり、スマホを囲み何やら興奮した様子で語り合っている。そんな様子に唖然としていると、その輪の中から顔を上げた1人が楽しそうな笑顔でこちらに手招きをしてきた。


「おーいお前ら!!これ見ろよ!!」


 そう言われて、お互い顔を見合せながら輪に近づく私たち。そして仲間達の見つめていたもの──即ち、スマホに表示されたある写真と文言を見て、私達も同じように表情を色めき立たせた。


「なっ!?闇銀行を襲撃したの!?」

「そうだよ!!しかも予めマーケットガードを全滅させて、金を奪って悠々と去っていったんだってさ!!」


 ブラックマーケットの闇銀行。あそこはろくでもなさすぎて、私たちの間でもよく思われていない場所だった。銀行員もナチュラルにこちら見下してくるし、あそこの警備員も素行が悪い。一応スケバンやってる私たちにさえそう思われてるんだから、一般人目線の闇銀行は相当なんだろうな
 それにあのマーケットガードもそうだ。警備だか治安維持だか知らないが、普段から態度が高圧的で気に食わない。でもその態度に裏付けされた実力も確かにあるから、私たちは力で抑え付けられるしかできなかった。
 でも、そんなクソ組織を2つも手玉にとって、堂々と退却した連中が居るのだ。そんなの、普段から抑圧されてきた私らにとってはヒーローのようなものだ。しかもどうやら銀行を襲った時に犯行声明もだしてたみたいで、そのヒーローの名前もしっかりと出回っている。


「なになに……名前は覆面……水……着……。『覆面水着団』?」

「……ちょっと名前はアレだけど、やってる事はちょーカッコイイじゃん!!?」


 まぁアレだ。ヒーローは名前に縛られない。むしろあえてその名前にすることによって、闇銀行やマーケットガードに衝撃を与えるような狙いがあるのかもしれない。


「ん……?なぁおい、ちょっと……」


 ただ、私の隣でしばらく写真を眺めていた仲間はなにかに気づいたのか、ちょいちょいと私の肩を引いて輪から引き離した。そして困惑する私に内緒話をするように、声のボリュームを落としながらもう一度さっきの写真を見せながらこう言った。


「このリーダーのファウストって奴。アタシらが攫おうとしたトリニティの奴と服装一緒じゃね?」

「……ん?確かに、なんか似てるような……」


 言われてみれば確かに、リーダーらしいの紙袋を持ったヤツの着ている服は、私らが最後に追いかけていたあのトリニティ生徒の着ていた服とそっくりだった。ただあのトリニティ生徒はなんだが小動物みたいにビクついていて、おおよそ銀行強盗をするような奴ではなさそうだった。
 だから最初こそ私も気にしすぎたと言うつもりだったのだが、ふとリーダー以外の人物に目をつけた時に、私も少し気づいてしまった。


「よく見れば周りのヤツも、あの時私らをボコした連中と似てるような……?」


 リーダー以外の4人、そいつらの服装にも見覚えがあった。紺の制服やクリーム色のカーディガン、水色のネクタイとかは、あの時私らを気絶させてきたあの集団の着ていた服と合致する。つまりこれは、もしかして……?


「「まさか……?まさかまさか、まさか!?」」


 私の一言でもう1人の仲間も気がついたのか、同じようにテンションが上がっていくのが見て取れる。そして顔を見合せた私たちは、答え合わせをするようにお互いせーので口を開いた。


「あの子たちが、覆面水着団!!?」

「マジかよすっげぇ!!アタシら、オフの覆面水着団と会ってたのかよ!!!????」


 闇銀行を襲撃したヒーロー。普段は表にならない彼女達のプライベートを、私たちは目撃していたのだ。
 だとしたら、あのファウストが普段オドオドしていたのも納得がいく。あれは一種のイメージ戦略。「こんな小動物みたいなのがあんなことをするわけない」というイメージを周囲に植え付けるためだったのだ。*1
 つまり私達も、まんまとその策に載せられていたということになる。だが、私たちは既に彼女達の覆面水着団の両側面を知ってしまっている。そしてそれを知ってしまった以上、私たちがすることは…………。


「どうする?この事はもちろん……?」

「あぁ。もちろんだ」


 それはもちろん、1つしかない。


「この事はもちろん、アタシらだけの秘密だ!」

「ふへへへ。これで他の奴らにマウントが取れるな!」


 そう、自慢の種をスクスクと育てることだ。これで他の奴らとの間で話題になった時、この話でしばらくは自慢できる。それに『覆面水着団』にも、喋られたくないプライベートはあるだろうしな。他人の秘密をペラペラと喋るほど、私たちは軽いスケバンじゃないのだ。


「いやぁ!今日はアタシらにとって最高の日だな!」

「そうだな!今日から一生、ファウスト様を推していく事にするぜ!!」


 もし人生で1番不幸な日があれば、それは間違いなく今日だったと言えるだろう。いや、"1番不幸な日"ってのは言い過ぎか。だってそう思っていたさっきまでの自分は、もうここには居ないのだ。


 なにせ今日は、"人生で1番最高な日"になったんだから。







 

*1
ファウスト「あはは……」




人生で1番■■な日/カイザー理事の憂鬱

 

 

 

「カイザー理事の憂鬱」

 

 

 

 

 

「……それは本当なのか?」

 

「はい、にわかに信じ難いことですが……」

 

 

 その日、私は信じられんことを聞いた。ブラックマーケットの闇銀行が襲撃され、金の一部を奪われた挙句逃げられたのだという。さらには護衛に出していたマーケットガードも、奥の手のゴリアテを大破させられて大損害を被ったらしい。

 

 

「ゴリアテ1機が大破。ガードの職員は大半が戦闘不能。これらの対処に気を取られているうちに、銀行側に強襲をかけられたようです」

 

「銀行の防衛はどうした?」

 

「それが……。マーケットガードの損失を埋めるために銀行防衛を行っていた部隊から補充したところ、銀行を襲撃したヤツらに手も足も出ず……」

 

 

 あの闇銀行にはカイザーローンも関わっている。だからマーケットガードにはカイザーの兵士も出向させていたはずだが、報告によると全体の8割近い兵士が負傷させられていたようだ。

 その中にはもちろん、例の出向兵士も含まれている。こういう時のために向かわせていたというのに、こうも使えないものかとため息が出る。

 

 

「これではマーケットガードの面目が丸潰れだな。今回の事件の主犯はわかっているのか?」

 

「銀行の方は『覆面水着団』というグループの仕業で確定です。しかし、マーケットガード襲撃の方はあまり情報が無く……。負傷したガード達は口々に、『天使みたいな悪魔に襲われた』と言っているそうです」

 

「ふむ……」

 

 

 手元の資料に視線を落とせば、負傷した兵士たちの様々な報告証言が記載されている。そのどれもが共通して、灰色の翼を持つ子供にやられたと供述しているようだ。

 中にはその姿を撮影した者も居たらしく、もう1枚の資料にはカメラに捉えられた襲撃者の姿がいくつか映されている。その中の1枚、最も鮮明に映されたものを見ながら、私はその名を口にした。

 

 

「……門守セキ……か」

 

 

 その写真に映る姿を、私は知っていた。黒服から『白鯨』と呼ばれている少女。彼女の事はある程度は聞いていた。アビドスに巣食う不良生徒の中で、一際異様な気配を放つ子供。だがヤツはアビドスの連中に敗北し、私は失望と共にヤツの名前を記憶から消していた。

 その後のヤツは行方は知らない。便利屋からの報告ではヘルメット団に合流した訳ではないようだった。しかし、まさかブラックマーケットを1人で生きていようとは……。

 

 

『あの者は「護ること」を重視します。それが彼女の本質であり、存在証明でもありますから』

 

 

 かつて黒服が言っていた言葉を思い出す。ヤツが護っていたもの……、カタカタヘルメット団は壊滅した。その実行犯はあの便利屋だが、それを命じたのが私だと知れば、ヤツはどう動くだろうか。今回のマーケットガード襲撃が故意のものであるかは分からないが、どちらにせよしっかりと口封じをする必要がありそうだ。

 

 

「……報告ご苦労。マーケットガードには、速やかな復旧を命じろ。例の主犯に関しては、こちらの方で対処しよう」

 

 

 とりあえず、報告してきた部下を下がらせる。後は門守セキの事だが、正直、今ヤツに戦力を割くのは非効率的だ。だが相手はマーケットガードを単騎で壊滅させかけた子供だ。半端に出し惜しんでいれば、我々もマーケットガードの二の舞になるだろう。

 となれば、ちょうど適任の傭兵集団が居るではないか。あのアビドス連中を相手に互角に立ち回り、金さえ渡せば簡単に言うことを聞く扱い易い集団が。そこに思い至った私は机上の電話を手に取ると、その傭兵へと電話を繋いだ。

 

 

「私だ、便利屋68。君たちに追加の依頼を頼みたい」

 

 

 何度目かのコールの後、ようやく繋がった電話越しに私はそう告げる。

 

 

「依頼内容は、『門守セキ』の排除だ。奴を完膚なきまでに叩き潰すことが出来たなら、今のアビドス襲撃依頼とは別に報酬を支払おう」

 

 

 淡々と依頼内容を説明する私の声を、相手は静かに聞いていた。

 

 ……いや、静かすぎる。普段なら相槌が聞こえてくる電話越しからは、雑音と噛み殺したような笑い声だけが聞こえてきている。確実に便利屋の様子が何かおかしかった。

 

 

「おい。どうした便利屋」

 

 

 無言を貫く電話越しに呼びかける。その声には若干の苛立ちも混じっていたのだが──

 

 

 

 

 

覚えたよ

 

 

 

 

 

 ──受話器越しのその一言で、それらが全て消し飛んだ。

 

 

「ッ!!!?」

 

 

 私の背中を嫌な気配が伝う。今までこちらに応対していた人物とは違う、無邪気さを孕んだ澄んだ声。だがその声色には、こちらへの敵意のようなものが滲んでいた。まるで獲物を見つけて喜んでいるような、こちらが狩られる側だという恐怖を感じたのだった。

 

 

「なんだ……今のは……」

 

 

 私が驚いている間に、電話は切れてしまったようだ。既にあの恐ろしい声は聞こえておらず、「ツーツーツー」と回線が切れたことを伝える音だけが漏れている。まるで

 夢でも見たかと思ったが、あの時感じた怖気は、間違いなく現実のものだった。

 あれは本物、本物の門守セキだ。マーケットガードを襲撃し、単独で壊滅させた灰色の悪魔。その声が何故便利屋68の事務所の電話から聞こえてくるのかは分からないが、さっきので1つはっきりしたことがある。

 

 

 門守セキは確実に黒幕(こちら)の存在に気づいている。

 

 

 彼女は護ることを重視する。その言葉が再び頭をよぎる。護る対象を失い、その原因となった存在を知ったヤツがどのように動くか、想像するのは容易い。そしてヤツの声が向こう側から聞こえてきた以上、既に便利屋68は当てにならない。だが今のカイザーPMCの中で、ヤツ1人のために割く労力と時間など……。

 

 

「……いや待て。まだ打つ手はある」

 

 

 そういえばつい最近、カイザーインダストリーの方で新たな兵器が開発されたと聞いた。ちょうど目の前の机にはその兵器に関する資料も残されていて、性能を見る限りは、門守セキはおろかアビドス連中でさえも手玉にとれそうな代物だ。

 これを使えれば、私にのしかかる諸問題を一気に解決できる。 そう考えた私は、すぐさまインダストリーの開発局へと電話を繋げた。しばらくの呼出音の後、受話器を取る音とともに堅苦しい男の声が聞こえてくる。

 

 

「カイザーインダストリーの開発局か、こちらは理事だ」

 

「ご無沙汰しております、理事。今日はどう言ったご要件で?」

 

「君たちが先日こちらに提出してきた、『局地戦仕様多目的兵器』とやら。あれをアビドス砂漠の前哨基地まで寄越してもらいたい」

 

「あぁ。『ネーメズィス』シリーズの事ですかね?しかしあれはまだ4機しか完成してませんし、実働試験もまだ……」

 

 

 私の要件に、相手は渋そうな反応を見せる。確かに資料には実働記録はおろか、未だ一度も稼働したことすらないと記載があった。開発から1ヶ月も経ってないのでそれは当然なのだが、だかそれは今ここで使わない理由にはならない。

 

 

「構わん。私主導でその実働試験を行う。アレも元はアビドス砂漠で使う予定のものだ。多少予定が早まったところで、誰も文句は言わんだろう。4機全てを、ここに持ってくるように」

 

「……かしこまりました。では輸送手続きを始めますが、5日ほど時間を要しますので、そこだけはご了承願います」

 

「もちろんだ。だが、なるべく早くしたまえ」

 

 

「ガチャン」という音と共に、再び電話が沈黙する。電話の向こうのマーセナリー側は、少々苦渋を飲んだような様子でこちらの要件を飲んだ。とりあえずは、これで門守セキに対する対策は十分だろう。当面は防衛に力を入れなければならないが、例の兵器さえ来ればもう関係ない。

 

 

「『白鯨』か……、くだらん。どれだけ力を持っていたとしても所詮、ヤツも子供に過ぎん」

 

 

 どれだけ強大な力を持っていようとも、それを理性的に振えないうちはただの子供の癇癪だ。今の私には……いや、カイザーグループには子供の駄々に付き合う余裕は無い。アビドスに眠る「財宝」を見つけることこそ、我々の悲願なのだから。

 

 

 

 

 




あとがき
ハーメルの方でお気に入り登録10人を突破しました!
∩(´∀`∩) ワッショーイ
pixivの方でも本編1話のブックマーク件数が10人に迫る等、私の中の記録を随時更新中です!本作はそんな喜びを噛み締めながら、感謝を込めて作ったものになります。読んでくださる皆様方、稚拙で遅筆な私の小説にお付き合い頂き、ありがとうございます!
┏○ペコッ!!
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