Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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『Pathを通じ、理解者より王冠へ。何故私の領域に足を踏み入れている? 主の護衛を放棄するつもりか?』

『王冠より理解者へ。当機は規定行動を遂行中である。そちらへの移動は行っていない。繰り返す、そちらへの移動は行っていない』


『…………しかし、この神秘は間違いなく──』

『……Pathを通じ、主から新たなる命令を受諾。こちら王冠。命令に従い、一時帰投する』

『……Pathを通じ、主から新たなる命令を受諾。こちら理解者。命令に従い、「仮称:G-clown」の調査を開始する』



 ー とある通信記録より ー








第2話 「初めまして対策委員会」

 

 

 

 

 

 

 チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる道を、鼻歌交じりに駆け抜ける。その日、私はいつも通りの時間に起きて、いつも通りに支度をして、いつも通り学校に向けてロードバイクを漕いでいた。今日のアビドスの朝は爽やかで、突き抜ける風が火照る体を冷やしてくれる。その分よく動くせいで汗もかいてしまうが、むしろその汗さえも心地いい。

 

 

「……? 何、あれ」

 

 

 そんな1日の始まりに少し笑みを浮かべていた時、私の視界に妙なものが映りこんだ。なんて事ない、いつもの通学路。その道中にある開けた空き地のど真ん中に、謎の白い物体が鎮座していたのだ。まるで港に置いてあるコンテナのような見た目だが、こんなもの昨日までここは置いていなかったはずだ。

 さらに注意深く観察してみると、その傍らに何やら白衣に身を包んだ人らしき何かが。謎のコンテナに寄りかかるように力無く項垂れるその姿には、一切の生気が感じられない。いくら待ってもピクリとも動かないのを見て、いよいよ私の頭を嫌な想像が過ぎった。

 

 

「まさか……遭難してそのまま……!!」

 

 

 ロードバイクを路肩に止めて、急ぎ足でその人影に駆け寄る。人影に近づいていくと、色々わかったこともあった。砂対策が不十分なのを見るに、アビドスの住人ではなさそう。つまりアビドス外から来て、不慣れなここの地理に翻弄された結果、そのまま力尽きてしまったんだろう。

 見た目は若い男の人。くせ毛の髪は砂にまみれ、長いことこのアビドスを彷徨っていたのだとわかる。だが、まだこの人から嫌な匂いはしない。それに昨日までここにいなかったことを考えれば、まだ助けられる可能性はある。今から病院……いや、学校の保健室で応急手当ができればまだ……! 

 

 

「……ん、大丈夫────っ!?」

 

 

 生存確認のために声をかけた直後、私の背後からブ──ーンという飛行音が聞こえた。普段私も使っていることもあり、もう聞きなれた飛翔音。そのおかげ私の体は反射的にスリングを引っ付かんで愛銃(WHITE FANG 465)を手繰り寄せ、振り向きざまに音の原因へと銃口を向けた。

 そこには私の予想通り、2台のドローンが飛んでいた。両方とも同じ見たこともないデザインで、まるで私のことを見定めるように、銃口にも動じることなくその場に留まり続けている。どうやら私を攻撃する意図はないようだ。それを何となく理解した私が銃口を下ろすと同時に、再び背後から音が聞こえてきた。

 

 

「う……うぅ。誰か……居るの……か?」

 

「!!」

 

 

 今度は飛翔音ではなく、人の呻き声。ハッとして振り返った私が見たのは、俯いていた顔を上げて、今にも死にそうな表情を浮かべている生きた人間だった。そしてその人は私のことに気がつくと、表情を申し訳なさそうなものに変えて、カラカラになった声で私に問いかける。

 

 

「すまない……君。ちょっと、飲み水を持ってたりしない?」

 

「ん…? 飲み水? なら……」

 

 

 ゴソゴソと通学鞄の中を漁り、中から飲みかけのエナジードリンクの入ったボトルを取り出す。ライディング用のものだが、これであれば多少は腹の足しにもなるだろう。

 

 

「これしかないけど、良かったら──」

 

 

 どうぞという前に、私の手からボトルが消える。いつの間にと視線を男の人に向ければ、既に口をつけて飲み始めていた。既に私が口をつけていたものだったので少し気恥ずかしさがあるが、それ以上に徐々に顔色が良くなっていく男の人を見ていると、あまり気にならなかった。

 そしてしばらくしてエナジードリンクを飲み終えると、男の人は「は──生き返る──」とのたまいながら、こちらにボトルを返してくれた。

 

 

「ありがとう、助かったよ。この感謝をどうやって形にしたらいいのやら……」

 

「ん、別に気にしなくていい。元気になったみたいでよかった」

 

 

 水分補給が完了して、立てるまで回復した男の人が平謝りで感謝の言葉を口にする。曰く、アビドスに用があって来てみたはいいものの、あまりの広大さに迷子となり、飲食店等を探しても見つからず、持ってきていた食料や水も底を尽きかけていたらしい。私が声をかけた時には、脱水と空腹で結構ギリギリだったとか。

 立ってみてわかったことだけど、その人は男の大人の人だった。背丈は私よりも高くて、なんだかぽわぽわとした雰囲気の人。なんだか大人にしては頼りないけど。でも灰色のスーツの上に羽織っている大きな白衣には、連邦生徒会のエンブレムが入れられていた。

 

 

「見たところ連邦生徒会の人?」

 

「そうそう。アビドス高等学校に用があったんだけど、その制服はもしかして……」

 

 

 大人の人の言葉に、私の表情が綻ぶ。と言っても、初対面の人にはあまり気付いてもらえないが。しかし嬉しいのは本当なので、代わりにそれを声に乗せて大人の人に伝えてあげる。

 

 

「うん。アビドス高校は私が通ってる学校。久しぶりのお客様だし、このまま私が案内してあげる」

 

「あぁ、よろしく頼────」

 

 

 私が歩き出そうとした矢先、大人の人の声が途中で途切れる。それと同時に、背後からビターンッと音がした。すぐに振り返ってみれば、そこには地に倒れ伏す大人の姿が。…………そういえば、脱水はエナジードリンクで多少ましになったとはいえ、空腹の方はまだ未解決だった。そんな状態でここからアビドス高校まで行けるのだろうか? 

 

 

「……ほんとに大丈夫?」

 

「……すまない、少し背負(おぶ)って行って貰えないかな?」

 

「……ん。わかった」

 

 

 地に倒れたまま、これまた申し訳なさそうな声音で頼む大人の人。なんだか少し……いや、かなり情けない。

 

 でもこれが、私──砂狼シロコと、シャーレの天守セツナ先生の出会いだった。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「わぁぁぁ……何これ……?」

 

「小型の輸送機……でしょうか?」

 

「でもそれにしては、小さすぎるような……」

 

 

 時と場所は移り、アビドス高等学校の正面玄関にて。そこでは黒見セリカ、十六夜ノノミ、奥空アヤネの3人が集まっていて、突然玄関前に現れた謎の物体を囲んで観察していた。

 その日、3人は普段通りに対策委員会の部室で全員が揃うのを待っていたのだが、いきなりドシンッという重い音と僅かな揺れが校舎を襲ったのだ。そしてまた襲撃かと息巻いて外に出てみれば、そこには見たこともない白いコンテナのようなものが。近寄って見てみると一見害は無さそうだが、一応罠の可能性もある。なので3人は遠巻きに観察を始めたのだが、特に何事もなく今に至る……と言うわけだ。そして今、その中に新たな見物客が加わろうとしていた。

 

 

「うへ〜〜。何何? お届け物かな〜?」

 

 

 背後から眠たげな声と共に現れたのは、アビドス高校の最年長でアビドス廃校対策委員会の委員長である小鳥遊ホシノ。普段ならこの時間はまだ寝ているはずなのだが、何故か重たげな瞼を擦りながらも、わざわざ玄関前まで足を運んできていた。

 

 

「ホシノ先輩!? 起きてたの!?」

 

「いやいや寝てたよ〜。ただなんだか大きな音がしたから見に来たら、こりゃでっかい荷物だねぇ」

 

 

 ふにゃふにゃとしか形容できない気の抜けた物言いではあるが、その眼差しだけは真剣そのもの。目の前の物体が何なのか、私たちを害するものでは無いか。それらを真剣に見定めるべく、ホシノは目を細めてソレに見入っていた。

 4つの中型コンテナが連なった本体。プロペラ部分はドローンのようになっていて、おそらく分離が可能。そして白く塗装された本体の側面には、ミレニアム・サイエンススクールとどこか見慣れないロゴが。ということは、これはミレニアムからの差し金。だが今まで関わりの無かったミレニアムが、何でこんなものを……。

 

 

「…………ん、みんな揃ってる」

 

 

 皆が見慣れぬ物体を囲んでいる中、ここでようやく対策委員会最後の一人──砂狼シロコが合流した。道中で起きたとあるアクシデントにより、普段よりもかなり遅くれての到着である。

 

 

「あっシロコ先輩、遅か──うわっ!?」

 

 

 早速声をかけてたセリカだったが、すぐにシロコの異変に気がついた。何故かいつも乗ってきているロードバイクではなく、誰かを背負った状態で歩いてきていたのだ。しかも背負われているのは薄汚れた服を着ていて、力無くシロコにもたれかかっている人間らしきもの。少なくとも、それは生きたものでは無かった。

 

 

「シロコ先輩、そのおんぶしてるの誰!?」

 

「わぁ、シロコちゃんが大人の人を拉致してきました!」

 

「拉致!? もしかして死体!? シロコ先輩が遂に犯罪手を染めて…………!!」

 

「ちょっとシロコちゃん! 犯罪はダメだってママ言ったでしょ〜!! ちゃんと元あった場所に返してきなさい!!」

 

「あんなのもう生きてないわよ!! とりあえずみんな落ち着いて! 速やかに死体を埋める場所を掘るわよ!! 体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それでー!!」

 

 

 これにはセリカだけではなく、他の対策委員会のメンバーも驚きのあまり若干パニックに陥っていた。前々から言動が怪しかったとはいえ、親しい人物がついに超えてはならない一線を超えてしまったのだから、その反応も当然である。むしろ、即座に次の行動に移せるだけの理性が残っていたのが驚きだ。まぁ実際は、彼女達の想像していることは何一つ起きてないのだが。

 

 

「……いや、普通に生きてる大人だから」

 

 

 皆は私の事をなんだと思っているのか。なんとも複雑な表情を浮かべながら、シロコは心の内で抗議した。だがそれを口に出すことはせず、おんぶしていた大人を地面に下ろす。しかしシロコの予想に反して、大人は地に膝を着くと、そのまま両手を地に揃えて項垂れていた。その様は本当に死体のようで、そういえばまだ空腹に関しては解決していないことを思い出す。

 

 

「……先生、大丈夫? 立てる?」

 

「いや構わない。そのまま私を深めの穴に埋めてくれ……」

 

「ん、別に私は気にしてないのに」

 

 

 拾った時とは打って代わり、今にも消え入りそうな声でそう呟く大人。その姿を見て、この大人が項垂れる理由に合点がいくシロコ。というのも、ここに来るまでの道中で、水分を得て本調子に戻った大人がずっと凹んでいたのである。

 どうやら初対面のシロコに対する行動が、彼の中ではかなり問題になっているらしい。シロコ本人は気にしていないと伝えたものの、なかなか立ち直らずこのような状態になっている……。

 

 

「……シロコ先輩、この人本当に大人なの?」

 

「…………うん、一応。あと、うちの学校に用があるんだって」

 

「えっ? 死体じゃなかったんですか?」

 

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

 

 

 先程大人が零した小さな懺悔の声を聞いていたのか、ようやくパニックから復帰した他のメンバーもその大人に注目する。特にシロコの発した「お客さん」という言葉に。アビドスは長らくこのような状態なので、お客さんが来ること自体が珍しい。なので皆の頭の中では、急に現れたコンテナとシロコの連れてきた大人が、頭の中で徐々に繋がり始めていた。

 

 

「すまない。そういえば挨拶をしてなかったね……」

 

 

 そしてそれらの答え合わせをするかのように、ようやく調子を立て直した大人がユラリと立ち上がり、スーツの胸元からあるものを取り出した。

 

 

「私は連邦生徒会所属、連邦捜査部『シャーレ(S.C.H.A.L.E)』の顧問、天守セツナだ。君たちが、アビドス高校の生徒たちで合ってるかな?」

 

 

 それは連邦生徒会のロゴと、『シャーレ』の文字が刻まれた首下げ式のパスケース。それは間違いなく、目の前の大人が最近噂のシャーレの先生であることの証拠だ。そしてこのタイミングでシャーレがアビドスを訪れる理由など、心当たりは1つしかない。

 

 

「もしかして……私たちの救援要請が……っ!!」

 

「良かったですね! アヤネちゃん!!」

 

「はい! これで補給が受けられます!!」

 

 

 そう、自分たちの救援要請が受理されたのだ。物資も弾薬もギリギリで、藁にも縋る思いで送り出した救援要請の手紙。連邦生徒会には過去再三にわたって要求したにも関わらず、一切の支援は受けられなかった。次第に連邦生徒会には期待しなくなり、孤立無援の戦へと身を投じることになってしまった。

 しかし今回は、シャーレが救いの手を差し伸べてくれた。それがどれだけ喜ばしいことか、手を合わせながら文字通り飛び跳ねるほど喜んでいる2人を見れば、言わずもがな察せられる。それをセツナは微笑ましく見つめながらも、コンテナを操作し中から輸送してきた物資を運び出している。

 

 

「弾薬等、備品はまとめてここに置いておくよ。後でリストも渡すから、確認して欲しい」

 

「はい、ありがとうござ────」

 

 

 

 ダダダダダダダダッ!!! 

 

 

 

 その時、遠くの方から騒がしい銃声が聞こえてくる。ハッと校門の方へ視線を向ければ、そこにはヘルメットらしきもの被った大勢の集団が。距離はまだそこそこあるが、この距離でも痛いほど聞こえる銃声を撃ち鳴らしながら、猛烈な勢いでこちらに向かってきている。

 なるほど、手紙に書いていた暴力組織とはヘルメット団の事だったのかと、セツナは1人で納得する。暴力組織というもんだからもう少し怖い連中を想像していたが、どうやらそこまででは無いらしい。だが、油断や慢心は一切しない。あのヘルメット団によって、アビドスはここまで追い詰められているのだから。

 

 

「学校に接近中の武力集団を確認しました! どうやらカタカタヘルメット団のようです!! 

 

「あいつら……性懲りも無く……!!」

 

「でもこの数は……今までよりも大規模です! いくら補給ができたとはいえ、この戦力差では……!!」

 

 

 さらにタブレットを確認していたアヤネから、何やら絶望的な報告が入る。どうやら今日の襲撃は今までの比ではないらしく、今のアビドスではかなりキツイらしい。ただでさえ補給が苦しいというのに、今日になってこの大部隊が襲来だ。おそらく、ヘルメット団も本気で潰しに来ているのだろう。

 

 

「なるほど、まさに多勢に無勢(Many a small bird drive away a hawk)だね」

 

 

 だが、セツナはシッテムの箱で状況を再度確認すると、不敵な笑みを浮かべて何かを操作する。するとコンテナについていたドローンが分離し、さらに別のドローンが空を舞い、ヘルメット団の方へと飛んでいく。そしてそれを視線で追っていた対策委員会のメンバーに向けて、セツナはある提案をした。

 

 

「みんな、私が全体のサポートをするよ。一時的にだけど、私の指揮下に入ってもらえるかな?」

 

「先生の指揮下に……ですか?」

 

 

 その言葉に、様々な反応を見せる対策委員会。それもそうだ、何せ勝ち目のない戦いの指揮を、あって1日も経ってない怪しげな大人に任せるというのだ。戦闘の指揮は指揮するもの、されるもの双方の信頼があって成り立つもの。それをこんな大人ができるかと言えば、無理だと答えるのが自然だ。

 驚きの目で見る者、困惑した様子の者。中には疑っている者や、やるしかないといった者まで。それぞれがそれぞれの反応でセツナの言葉を待つ中、たった1人、シロコが静かにセツナへと問いかける。

 

 

「……勝算は?」

 

「もちろんある」

 

 

 シロコの質問に、『勝てる』と即答するセツナ。

 だがその言葉には、すぐに「でも……」と付け足された。

 

 

「肝心なのは私じゃない。君たちの心の持ちようだ」

 

「心の……持ちよう……」

 

「そう、君たちがどれだけこの学校(ばしょ)を守りたいか……だよ。私の役目は、その願い(おもい)を最大限手助けすることだからね」

 

 

 そう宣言するように言う大人。真っ直ぐにシロコの目を捉えて離さないその瞳には、いっそ純粋とも言うべき信念のようなものが現れていた。そしてそれは、シロコを始めとした対策委員会も同じ。それぞれがそれぞれの護りたいいもののために、自身の全てを賭けてやるという意志の表象だった。

 しばらくの沈黙。時間にして数秒にも満たないものだったが、それだけあれば充分だ。先にシロコが動きメンバーの方へと向き直ると、力強く自分の意思を宣言する。

 

 

「……なら私は、先生に託してみる」

 

 シロコが宣言する。

 

 

「私もOKです」

 

 続いてノノミが、

 

 

「もうこの際、なんだってやってやるわよ!」

 

 セリカが、

 

 

「……うへ。みんながそう言うなら、仕方ないな〜」

 

 ホシノが、

 

 

「では先生、皆さんの指揮をお願いします!」

 

 そして最後にアヤネが、宣言する。

 

 

 それを聞き届けたセツナは静かに頷くと、途端にシッテムの箱が(あお)く煌めき出した。

 

 

「心得た。みんな、好きに配置について。そこからは君たちに合わせるよ。後ろのコンテナから通信用のインカムと、弾薬を持っていくのを忘れずにね」

 

「「「「「はい!!!!」」」」」

 

 

 その言葉を合図にして、各々が所定の位置へと動き出す。言われた通りに弾薬を回収し、にこやかな顔で駆けていくその姿には、負ける気など微塵も感じさせない。その様子を、セツナは満足そうに眺めている。

 

 やってやる。必ず勝つ

 

 これは決して根性論なんかでは無い。人の想い、人の願み。それらが生む力というのは、人を大きく前に進めてくれる。何故ならそれこそが、人を動かす原初の力なのだから。それを身もをもって知っているからこそ、セツナはその力を信じ、そして頼りにしていた。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「……君は、行かないのかい?」

 

 

 対策委員会のメンバーが校庭の方へと向かって行く中、私は背後の人物に向けて穏やかに問う。その相手は、1人だけゆっくりと弾薬の回収をしていた桃色の髪の少女だ。彼女の持つ装備はショットガンと鋼鉄製のシールド。私の推測だと前衛の壁役(フロントタンク)なのだが、もしかしたらだいぶ的外れな考察だったか? 

 

 

「うへ? いや〜、おじさんもボケてきてるのかもね。ちょっとぼーっとしちゃってたよ」

 

 

 私が言外に込めた質問を読み取ったのか、桃髪の少女はそう言うと、にへらと笑ってから駆け出していく。だが去り際にみせたその笑顔から、僅かながら敵意のようのなものが滲んでいたのを、私の"眼"は見逃さなかった。

 まぁ、その感情が理解できないこともない。いきなり現れた大人にあんな大口を叩かれたら、当然警戒心も増すというもの。私が逆の立場なら、少なくとも一定の距離を保って観察するだろう。ああいう子もそうだが、信じることが難しい子には、言葉よりも行動で示した方が効果的だ。それを実践するためにも、私は手元のシッテムの箱へと視線を落とした。

 

 

「……アロナ。ドローンの配置は?」

 

《はい先生! いつもの場所に配置済みです! 見たところ戦力差は12対1、かなり圧倒的ですが……》

 

 先に飛ばした偵察ドローンから、敵の動きがリアルタイムで送られてくる。その数はざっと50人以上。確かにこれは、補給もままならない5人だけ辛いだろう。アロナの心配もよく分かる。

 だが今のあの子たちなら、1人あたり10人くらいでいけるだろうか。そんな感じである程度の目処を立てて、対策委員会の配置と役割を頭に入れながら、ヘルメット団を撃退する算段を構築していく。

 

 

「問題ない。あの子たちの想いは本物だ。なら私はあの子たちの意志と、相棒(アロナ)の力を信じるよ」

 

《……はいっ! お任せ下さい!!》

 

 

 大丈夫、心配ない。アロナにそう伝えてから、セツナは自分のインカムを引っ張り出して装着する。

 

 

「……じゃあ、戦闘指揮を始めよう」

 

 

 最後に自分に気合いを入れてやれば、もう準備は完了だ。そして自分の組み立てた作戦を脳内で反芻しながら、そっと耳元のインカムの電源をONにした。

 

 

「あ──、よし。みんな、通信は聞こえてる?」

 

『ん、ばっちり』

 

『問題なしです!』

 

『いつでもいけるわよ!』

 

『問題ないよ〜』

 

『感動良好です!』

 

 

 通信機越しに呼びかければ、すぐさま5人の声が返ってくる。よし、感度は問題なし。配置も予想通り、盾持ちの子が前に出て、その両翼にケモ耳少女2人が。そして最後列にミニガン持ちの少女と、オペレーターらしき赤眼鏡の少女が陣取っている。

 なるほど、フォーメーションもしっかりしている。最初は5人だけでよく持ちこたえていたものだと思っていたが、どうやらそれが出来る程の実力があるらしい。それもこれも、きっとこの場所を守りたいという想いがあったおかげだろう。なら私はその背中を、めいいっぱい後押してやるだけだ。

 

 

「よし、それじゃあちょっと点呼しようかな! 誰か、生徒名簿みたいなの持ってない?」

 

『ん? 点呼?』

 

『ちょ!? このタイミングで!? もうヘルメット団が目と鼻の先にいるんだけど!?』

 

 

 私からの突然の申し出に、まさに大困惑といった様子のアビドスの生徒たち。まぁ、彼女達の反応も至極当然。何せ本当に、敵は目の前まで迫っているのだから。

 だがらここからは時間との勝負だ。こちらにヘルメット団が突っ込んでくるのが先か、私の戦術指揮の用意が終わるのが先か。その勝負の行方は、紙一重でこちらの方に軍配が上がったようだった。

 

 

 

『先生! こちらを!』

 

 

 迫り来るヘルメット団を捉えていた映像を睨んでいると、オペレーターらしき赤眼鏡の子からデータが送られてくる。その中にはアビドス在校生の大まかな情報が載っていて、そこには今私が欲しい情報もしっかりと記されてあった。

 

 

「ありがとう。それじゃ、手短に行くよ!」

 

 

 貰ったお礼はそこそこに、視線と箱を操作する手元を忙しなく動かしながら、インカムに向けて1人ずつ呼びかけていく。

 

 

「3年生、小鳥遊ホシノ!」

 

『うへ、私はここだよ〜』

 

 

「2年生、砂狼シロコ!」

 

『ん!』

 

 

「同じく2年生、十六夜ノノミ!」

 

『は〜い♣︎!』

 

 

「1年生、黒見セリカ!」

 

『はいはい!』

 

 

「同じく1年生、奥空アヤネ!」

 

『はい!』

 

 

 私の呼びかけに対して、それぞれが元気よく声を上げる。私はその都度声のするほうを確認し、手元の箱に生徒の情報を記していく。名前(タグ)役割(ロール)立ち位置(ポジション)など、戦闘に必要な情報を素早く入力してから、私は箱の戦闘支援システムを立ち上げた。

 

 

『うへっ!?』

 

『うわっ!? 何この感じ』

 

『ちょっとくすぐったいような…?』

 

 

 彼女達と支援システムの連動(リンク)が確立されると同時に、彼女達の持つヘイローが淡い光を放ち始める。シッテムの箱の戦闘支援システムは、対象者のヘイローに直接干渉することによって情報の共有を行う。その恩恵は正しく絶大だが、接続中は僅かながら不快感を感じるらしい(ユウカ・スズミ談)。

 だが今は、そんな不快感を気にしている場合では無い。接近していたヘルメット団が、既に細部まで見える距離まで迫ってきている。見た目は特にD.Uに居たヘルメット団と変わりなく、武装は分からないが、見たところ戦車やヘリのような大型兵器は持ち込んでいないようだった。

 

 

「おらおらおら!! 今日こそとっちめてやるぜ、アビドスの連中!!」

 

「攻撃、攻撃だ!! 奴らは既に弾薬の補給を絶たれている!! 進撃せよ! 奴らの学校を占領するのだ!!」

 

「今日こそ決着をつけてやる!!」

 

 

 高らかに銃声を鳴らしながら、こちらに向かってくるヘルメット団。校門によじ登ったリーダー格らしき赤ヘルメットの少女が指示を出せば、それぞれの雄叫びと共にヘルメット団員たちが突撃してくる。だがそこには統率はあれど作戦はなく、ただがむしゃらに突っ込んできているだけのようだった。

 

 だったら、尚更負ける訳にはいかないね。

 

 

「よし! それじゃみんな、防衛開始!!」

 

「「「「「はい!!!!!」」」」」

 

 

 決意を込めた私の掛け声を合図に、アビドス高校攻防戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 










 ▽天守セツナ(先生)
 死体が喋っている。
 死にかけたとはいえ、生徒の飲みかけのボトルにガッツリ口付けて飲んだり、汗の匂いをいい匂いと言ったり、後になって自分のとった行動に後悔している。

 ▽砂狼シロコ
 アビドスの銀行対策担当
 第1発見者。初対面の印象は「なんとも言えない人」。カッコ悪くて頼りないが、それはそれとしてセツナに賭けてみることにした。

 ▽黒見セリカ
 アビドスの癒し担当
 真っ先にセツナを埋めようとした人。しかもセツナ本人は割と望んでた。故にシロコの「なんとも言えない人」と言う評価に近いが、実態は「大人の姿か? これが………」である。

 ▽十六夜ノノミ
 アビドスのお母さん担当
 実はホシノに次いでセツナを信用していない。ただセツナの根幹の部分に関しては薄々察しているので、この後の行動次第ではどうなるか………。

 ▽奥空アヤネ
 アビドスの常識人担当。
 実はセツナのことを本気で死人だと誤解していた。後日、セツナに対する印象が「死人のような人」に変わった。

 ▽小鳥遊ホシノ
 アビドスのおじさん担当。
 死人・頼りない・口を開けば甘い言葉。こんなのホシノじゃなくても信用しない。そんなホシノを、セツナは頼りにしている。



 あとがき

 当社恒例の難産でした………。私はエミュとか苦手だから、書いてる時に脳内で炭治郎が叫び出してうるさかったです。あとグレゴリオのチナトロ逃しました。なんでムズいはずのグレゴリオtormentでタイムアタックが発生してるんですかね? (憤怒)
 あと1話、本編初(?)の本格的な戦闘シーンを描いてから、またしばらく開けさせていただきます。



 次回 第3話「白鯨の唄」



「本気出したシロコちゃんの力、見極めたいの♪」




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