Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
わざわいなるかな、主の日を望む者よ、あなたがたは何ゆえ主の日を望むのか。これは暗くて光がない。
ー アモス書 5章 18節より ー
「ここが差押品保管所?」
“ 場所はあってるから、ここで間違いないと思う”
「ふぅ........誰にも合わなくてよかった.......」
「これでスニーキングミッション完了です!アリスたちは伝説の傭兵の素質があるかもしれません」
「素質があっても、今回で十分かな.......」
セキちゃんユウカちゃんたちを任せてから数分後。私たちは目的の差押品保管所に到着した。道中はたまたま合流できたアリスちゃん以外は誰とも会わず、自分の心臓の音がうるさく聞こえるくらい静かだった。
まぁ、何も無かったらいっか。とりあえず今は、"鏡"の回収が最優先。2人を足止めしてくれてるセキちゃんのためにも、早く回収して離脱しないと。
「それじゃ、開けーごま!!」
そう言ってモモイちゃんが扉を開ける。どうも鍵はかかってないみたいで、扉はすんなりと開いてくれた。そしてそこから覗く光景を見たとたん、モモイちゃんの口から「うげ...」と声が漏れる。
そこは差押品保管所という名に相応しい部屋だった。部屋の中はサイズ毎に数十個の収納棚が用意されていて、きちんと分類分けがされている。まさにミレニアムらしい、理路整然とした整頓方法だね。
でも、この中からこれは骨が折れそう。....と、私が渋い顔をした直後。いきなりアリスちゃんがとたとたと一直線にどこかへと向かっていく。
「4番目の棚....下から3段....右から2列....あっ!これです!!」
そう言って棚を漁っていたアリスちゃん。そして私たちが唖然としてる間に、彼女は見せつけるように何かを掲げた。
彼女の手には透明で小さな袋のようなものが摘まれていて、中には小さなUSBのようなものが収まっていた。聞いたところによると、"鏡"はハックツールとの事なので、おそらくアレが目標物に違いないだろう。
「はやっ!?もう見つけたの!?ナイスだよアリス!これでもう目的は達成したし、早く帰ろ!先生!!」
早くも目的のものが見つかったことでモモイちゃんが喜ぶ中、傍らに立つミドリちゃんは当然の疑問を口にする。
「見つかったのはいいけど、なんでアリスちゃんは場所がわかったの?」
確かに。さっきのアリスちゃんの動きはどこかおかしかった。これだけ無数の棚がある中で、まるで最初っから知っていたように。まるで何かに導かれるように一直線に"鏡"が入れられている場所に向かっていた。
さらに言うなら、そもそもアリスちゃんがここに居るのもおかしな話だ。アリスちゃんが閉じ込められた部屋から出るのは、ハッキングが成功してタワーの電力をカットするタイミングだったはず。電力を停めれてない以上、彼女は出てこられないはずだけど....?
「はい!アリスは[b:お告げ]を受けました!親切な神様がここにあるよって、アリスに教えてくれたんです」
「神様........?それは誰なの?」
「それが、神様は『神様』だと言っていました。『神様』が私を出してくれました。あれが物語によく出てくる『勝利の女神様』なんでしょうか?」
そう言うアリスちゃんの声は、嘘をついてるようには"聞こえなかった"。となると、その『神様』っていうのは一体何なんだろう....。そんなことを考えていると、頭の中にアロナちゃんの声が響く。
《先生!逆ハッキングをしていたAIが機能停止しました!これでマキさんとコトリさんも脱出できるはずです!》
“ ありがとう!流石アロナちゃんだね!”
《えへへへ〜〜それほどでもですよ〜〜》
褒めてあげると、溶けたみたいな可愛らしい声が聞こえてきた。実際を指示出して数分で終わらせちゃったんだから、ほんとにシゴデキの凄い子だ。お兄ちゃんが頼りにするのもよくわかる。
ただアロナちゃんの伝えたいことは良いことばかりじゃないみたいで、《それと...》と言い淀んだのを境に、さっきまで溶けていた声色が引き締まり始める。
《それと....セキさんのバイタルサインが上昇しています。戦闘中だとしても、いつものセキさんよりもずっと高い数値です》
“ ....つまり、どういうこと?”
《........セキさんは今、追い詰められて焦っているんだと思います。ただ、セキさんと戦ってるのは1人だけみたいで.......》
セキちゃんの強さは、ある程度お兄ちゃんから聞いてる。アビドスにいた頃はとっても強くて、シロコちゃんたちが束になってようやく互角になるんだとか。
そう言うお兄ちゃんの声は、セキちゃんへの信頼と期待に満ちていた。そんなセキちゃんが、追い詰められて焦ってる。しかもたった1人を相手に........。
“ ....まさか”
私の中に生まれた、確信めいた予感。アスナちゃんが現れた時点で、状況はどう転んでもおかしくない。そんな中でセキちゃんを負かせるくらい強い相手が居るなら....。
それはきっと、事前の噂に聞いていた"ミレニアム最強"以外いないんじゃないか?
“ みんな!今すぐ帰る──いや、アリスちゃんだけ私と来て!モモイちゃんたちはそのまま逃げて、マキちゃんたちと合流!”
「む?はい!わかりました!」
「先生!?どうしたの!?」
“ セキちゃんがピンチかも!アリスちゃんのレールガンで逃げる隙を作るだけだから、みんなは"鏡"を持って部室に戻って!”
そう言って駆け出すと、後ろから戸惑いつつも離れていく足音が3つ聞こえる。そしてそれとは別に、こちらに近づいてくる足音が1つ。その足音の主はあっという間に追いつくと、真剣な表情を浮かべながら並走していた。
「先生。アリスのミッションは何ですか?」
“ アリスちゃんのミッションは、セキちゃんの逃げる隙を作ること。もしかしたらそのまま戦闘になるかもだけど、その時は私が助けるから”
「状況....把握!つまり救援ミッションですね!仲間を助けるのはMMOゲームの定番です!!」
そう答えるアリスちゃんに心強さを覚えながら、私たちはセキちゃんの救援に向かった。
「おらおらおらおらおらぁ!!!!!」
覇気の籠った声と共に、無数の弾丸が飛んでくる。それを放った神秘で無理やり
ダダダダダダダダダッ!!!!
(………っ)
全然軽くない衝撃が、私の体を何度も打つ。体に直撃するよりかはマシなはずなのに、全くマシとは思えない。本当に、ミレニアム"最強"っていうのは、根本からして人と違うみたい。
「はっどうした!!避けてばっかじゃアタシは倒せないぞ!!」
そう言って両手のサブマシンガンをばら撒くメイド?の人。C&Cのコールサイン
回避ばっかり……って言うのはまぁそうなんだけど。そもそも攻撃する隙があんまりない。あの人の一挙手一投足。全部に気を配ってるつもりなんだけど、何時攻撃しても、あの人なら避けるっていう確信がある。
それに左腕を壊しちゃったせいで、リロードに手間がかかっちゃうのが良くない。普通の敵が相手なら多少強引にリロードするつもりだったのに、その前提から崩壊しちゃった。
でも仮に左腕が使えたとしても、ネル先輩が「はいどうぞ」とさせてくれるとも思えない。お陰で今の私の残弾は、右手の「
チュンッ────!!
「………きっつ」
自省中に飛んできた弾丸が頬を掠める。アスナ先輩が居るって話があった時点で、
仮にネル先輩を倒すなら、コンディションが万全かつ、アビドスの時の『
でも、だからと言って逃げる訳にもいかないしね。それにネル先輩も、「逃げるだけじゃ倒せない」って言ってたし。どのみち、このままじゃ埒が明かないのもそうだ。
「せめて、先生たちが逃げるまでは粘らないと」
そう口に出してから、私は改めてネル先輩を見つめる。先輩のメインウェポンは2丁のサブマシンガン。1発の威力はそこそこ痛いのに、それを無数に叩きつけてくるのが厄介だ。あと銃に繋がってる鎖にも注意しなきゃ。
それに厄介なのは先輩自身も。荒っぽい言動が目立つけど、攻撃はどれも繊細だし油断も隙も全くない。そういう戦術なのかは知らないけど、雑だろって慢心してると普通にボコボコにされる。
総じて手堅く、そして完全無欠なバランサー。
……なら、無理やりにでも隙を作る。
「…………よし!!やってやる!!」
背中の"ねこだまし"を背負い直しながら、私は床を蹴ってネル先輩へと突っ込む。いきなり距離を詰めた私に先輩は驚いたみたいだけど、顔色一つ変えずすぐに両手のサブマシンガンをぶっぱなす。
距離、だいたい6m。
飛んでくる弾丸を背を屈めて躱してから、右手のハンドガンを袈裟斬りの要領で発砲。放たれた3発の弾丸は、数秒前まで先輩の居た場所を虚しく撃ち抜いた。
距離、多分4mくらい。
躱されても慌てない。そもそも当たるとも思ってない。袈裟斬りで撃ったハンドガンをそのままの流れで太もものホルスターに収めて、腰のポーチからグレネードを取り出す。
距離、3m。
片手でグレネードのピンを抜いて、ネル先輩へと投げつける。元は「
その予想通り、ネル先輩は回避を選んだ。腕をクロスして後ろに下がる様子を、私は見逃さないよう目で追い続ける。そして視線の先、突撃する私の目の前でグレネードが炸裂した。
ドゴォォォォォォン!!!
爆発と同時に熱が私の体を叩き、飛び散った破片が立て続けに突き刺さる。ちょっと痛いけど、ネル先輩の攻撃よりかはマシ。そんな事より前方に神秘を放って、ネル先輩の位置を確認する。
距離、2m。ここが勝負どころだ。
先輩はちゃんと避けたみたいで、特に体勢が崩れた様子は無い。それどころか防御姿勢を解いて、右手の銃の銃床で殴打する構え見せている。多分先輩は、私が突っ込んでくることも読めてるんだ。
「甘ぇ!!!!」
鋭い声と共に、銃床が視界の右下から飛び込んでくる。逆袈裟の要領の顎を狙った一撃を、私は身をかがめて回避する。わかってるなら避けるまでだよね。まぁそう言いながら、結構ギリギリだったけど。
そして避けれたなら今度はこっちのターン。右手で肩がけのスリングを思いっきり引っ張って、背負ってた"ねこだまし"の銃口をネル先輩の耳元へと向ける。
「サプライズ!!!」
ズドオオオオオオオオンッ!!!!!!!
「………ッ」
カリンちゃんから借りたスナイパーライフルが、ネル先輩の耳元で吠える。撃った私ですら、思わず顔を顰める程の轟音。それを耳元で受けたネル先輩は、顔を顰めてたじろいだ。
チャンスだ。最初で最後の隙作り。"ねこだまし"のスナイパーライフルを切っちゃった以上、この手は二度と通じない。この隙を逃さず、私の手が太もものハンドガンへと伸びる──────
ガンッ!!!!
「あぐっ………!!」
伸ばした手が銃を掴むより先に、私の横顔をナニカが殴りつけた。突然の衝撃で頭が揺さぶられて、咄嗟の防御ができなかった。
何が起きたかわかんないけど、多分何かで顎を横から殴られたっぽい。ただここで一撃貰うのは、ネル先輩相手に致命的すぎる。
「シャーレの新入り。1つ良いことを教えてやる」
「……っ!!」
ぼやける視界に鎖が飛び込んでくると同時に、ネル先輩の凛とした声が響く。不味いと思って防御しようとするけど、身体はまださっきの衝撃から立ち直れてないのか言うことを聞かない。
「
ドゴッ!!!
無防備な私の横っ腹に、鈍い衝撃が伝わる。そう認識した頃には、私の体は勢いよく壁に激突していた。
「かはっ………」
張り詰めてた息が無理やり吐き出される。受け身戻れなかったらもろに痛い。一瞬意識が飛びかけたけど、ぼてっと落ちた床の冷たさが、私の意識を現実に繋ぎ止めてくれる。
痛い……。頭がクラクラする……。顎を殴られたやつに加えて、頭も打った。ヘルメットを被ってこれか....。頑張って立ち上がりたいけど、これはちょっときついな………。
「言ったろ。『甘ぇ』って」
何とか体勢を立て直す私の耳に、そんな声が聞こえてくる。顔を上げれば特に応えた様子のないネル先輩が、ゆっくりと近づいてきて来るのが見えた。
そしてその数歩先の床には、先輩が使っていたもう一丁のサブマシンガンが転がっている。その底尾にはもう片方の銃と同じように鎖が繋がれていて、2丁の銃はその鎖でしっかりと繋がれていた。
「あぁ………そっかそっか。鎖だもんね……」
自分でも意味不明な言葉が出てくる。でもさっき何で殴られたかわかった。あの2丁の銃は鎖で繋がれてる。だから片方を手放して振り回せば、そのまま飛ばせる鈍器にできるっぽい。
万が一、一撃目避けられても、時間差をつけて二撃目を叩き込む。私は最初の一撃──右手の銃での殴打を死ぬ気で避けたけど、ネル先輩の本命は手放した左手の銃での殴打だったわけだ。
それを私はもろに食らって、怯んだところを思いっきり蹴り飛ばされたと………。なんだったっけ。確か「隙を生じぬ2段構え」だったかな。モモイちゃんに貸してもらった漫画にそんな名言があった気がする。
……うん、思考は纏まってきた。でも身体の方はもうダメそう。お腹痛いし、頭痛いし。左腕は言わずもがなだし、叩きつけられた衝撃で愛銃を落としちゃったみたい。一応拾いに行ける位置にあるけど、目の前の最強がそれを許す訳がない。
「……あっは。完敗だなぁ。これがミレニアム最強かぁ………」
私は頑張った。置かれた状況の中で、最高の動きをしたつもりだった。けど"最強"はその動きを全部読んで、全部対応してきた。しかも私の得意な近距離戦で。本当に、その呼び名に恥じない強さだ。
「........へぇ?結構キツめに殴ったのに。根性あるじゃねぇか」
「これでも....頑丈さには自信がありますから」
「はっ!流石『シャーレの騎士様』ってことか。左腕が使えねえ相手にここまで粘られたのは初めてかもな」
のそのそと立ち上がる私を見て、ネル先輩はニヤリと笑ってそう言った。体があちこち痛い。これは今から戦えって言われても、絶対無理だって言い切れる。
完敗。文句の言いようがない負け。でも負けたのに、全く悔しくない。それどころか、とっても満足してる。それはきっと、私の目指すべき極地が見つかったおかげだ。私がいつか行き着きたい場所が、今目の前にあるからだ。
『
そう豪語したネル先輩の声を憶えてる。完全無欠のバランサー。さっきまではそう考えていたけど、この戦いを踏まえれば、それは少しだけ違うものに変わる。
完全無欠のバランサー、その中でも近距離戦は突出した強さを誇る。うん、チートかな?でもこれは誇張でもなんでもない。それはさっきの戦い方が証明してくれてる。
だから私は、その"強さ"が欲しい。
みんなを守るための、圧倒的な力が。
「状況は最悪だけど、私にとっては最高かな」
目の前の"最強"は、私の未来の姿。いつか私が成るべき存在。私が習うための最適解。そんな存在に向けて、私は弱々しく指を指す。
戦いでは完敗だった。でも、私の目的は「ネル先輩を倒すこと」じゃない。ここまで粘れた時点で、私の目的はもう達成されてるんだから。その証拠にネル先輩の背を向けている方からぼんやりと青い光が見えた。
「いつか、いつかは超えてみせます........!!」
そう宣言した私を、ネル先輩は「おもしれぇ」とでも言いたげな目で見ていた。
「........いいぜ。次は万全の状態でかかってこいよ。ただし、今回は大人しくしろよ」
そう言って近づいてくるネル先輩。そういえば、私を攻撃する前に依頼とか言ってたような。もしかしたらこのまま拘束して、依頼主のところに連れていくつもりなのかな?
なら、もっと早めに動くべきだったと思う。
「光よ────────────!!!!!」
凛と響くその声と共に、ネル先輩の背後から蒼いエネルギーの奔流が飛んでくる。それはアリスちゃんの『光の剣:スーパーノヴァ』の一撃。ネル先輩の注意がそっちに移っている間に、私はなけなしの体力を振り絞る。
私はもう
「っあ!おいてめぇ!!逃げんなゴルァ!!!」
後ろからものすごい怒号が聞こえてくるけど、聞こえないふりして全力ダッシュ。そのまま入ってきた時に割った窓ガラスの方へ向かうと、私は躊躇いなく宙へと身を投げた。
体が重力に引かれて落ちる。翼を広げて空気を捉える。翼はまだダメージが少ないから、飛んで逃げる分には問題なさそうだった。そうして夜風を切って飛んでいると、耳元のインカムからアイ先生の声が聞こえてくる。
『“ もしもしセキちゃん!大丈夫だった!?”』
「ナイスタイミングです先生!危うく捕まるところでした....!!」
『“ なら良かった!セキちゃん以外みんな離脱してるからそのまま離れて!合流コードはサターンV!!”』
「わかりました!!先生もお気をつけて!!」
それを最後に通信が切れる。どうも先生たちも上手く逃げ切れたみたい。それがわかると同時に、私の口から「はぁぁぁぁぁぁ」とため息が漏れる。
「よ〜〜〜〜し........。これで状況終了〜〜」
これにて戦いは終わり。ミレニアムの生徒会を相手にした作戦は、ゲーム開発部が"鏡"を奪取したことで決着だ。
シャーレに入ってから初めての組織を相手にした戦い。途中で色々思うことはあったけど、それを終えた今は私の緊張がゆっくりと解れていく。
それと同時に、興奮で無視していた体が悲鳴をあげてるのも聞こえてきた....。今回はあんまり血を流してないから気づかなかったけど、相当ダメージが溜まってたみたい。
「....うん。帰ったら大人しくしておこ....。そうしよう.......」
ユウカちゃんに正体もバレてるし、反省の意も込めて....。ズキズキと痛むお腹をさすりながら、私はそう心に決めるのだった。
▽門守セキ
何とか"最強"から逃げ切った。
自分が目指すべき目標に出会う。
▽美甘ネル
セキの完成形。彼女の極点にもっとも近い。
▽ゲーム開発部
"鏡"の奪取に成功。
アリスもネルと戦いつつ無事に逃げ切った。
あとがき
ラナが12歳と知ってひっくり返った。
ココナちゃんやイブキとそう変わりないってマ?これじゃ俺がロリコンみたいじゃないか。
まぁえっか!よろしくね
え?トニトルスの槍が来るの────
次回 第12話「
“ だから私たちは、ここまで来れたんだよ”