Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
銛などいくら受けても意に介さぬか…白鯨…
それでも何度でも打ち込んでやる!!
ーハーマン・メルヴィル「白鯨」よりー
アビドス自治区、アビドス高等学校。普段であれば生徒たちの楽しげな会話が聞こえてくる校庭では、現在銃弾や手榴弾の飛び交う激しい戦闘が繰り広げられていた。数を生かし包囲網を形成しつつ攻め入るカタカタヘルメット団に対し、アビドス側は校庭のあちこちに設置されたバリケードをうまく活用しながら、包囲網を突き崩しつつ敵陣に何度も穴を開ける。
『シロコ、マーカーの敵にグレネード』
「ん、わかった。いくよ」
『ノノミ、向かって右側の敵に制圧射撃』
「はい! お仕置の時間ですよ〜♣︎」
『セリカ、後方の敵4名に精密射撃。いけるか?』
「任せて! 覚悟しなさい!!」
『ホシノ、その位置から射撃しつつ7歩前進。アヤネはホシノの支援を。タイミングだけ気をつけてね』
「おっけ〜、じゃあ行ってみよ〜」
「了解です、支援のタイミングは逃しません!」
その指揮を執っているのは、彼女たちと出会って間もないはずの大人。連邦生徒会からやってきたシャーレの天守セツナだ。今は正面玄関から少し移動し、近くにあったバリケードに身を隠しながら、対策委員会の戦闘を支援し続けている。その指揮能力はまさに一騎当千と言ったところで、最初は敗色濃厚かと思われたこの戦いも、今ではアビドスの勢いに飲まれ、カタカタヘルメット団はじわじわと戦線を下げつつあった。
「もうっ! 流石になんかおかしくない!? まるで敵に手の内を読まれているみたいなんだけど!?」
ヘルメット団の1人がそう悪態をつく。本人にその気は無いだろうが、その言葉は僅かにセツナの戦い方の核心をついていた。銃声と爆発音で騒がしい地上からでは分からないが、現在アビドス高校の上空には4機のドローンが滞空している。そのドローンは静音性に優れた偵察モデルで、備え付けられたカメラによって戦場の動きを逐一記録していた。
そしてそのドローンが捉えた映像は、『シッテムの箱』を介してセツナに伝わる。そこからはセツナの"眼"が動きのあるポイントを瞬時に読み取り、何か動こうとしているところを片っ端から潰すのだ。
特に今は盾持ちのタンクである小鳥遊ホシノがやや突出している陣形なので、ホシノを先に撃破しようとする動きがあちこちである。なのでこちらはそれ以外のメンバーでそこを攻撃し、ホシノへのヘイトを散らしつつ敵戦力を徐々に削り取っていた。
「ん……これが、先生の戦闘指揮……!」
いつもより戦闘がスムーズに進む感覚に、シロコは感嘆の声を漏らす。今のシロコの視界には、様々な情報が映し出されていた。敵の装甲の種類、大きな攻撃の予兆。さらには敵の総数と配置、目の前の敵にどの攻撃が1番効くのかまで、まるで神様にでもなったような全能感が、シロコの体を支配している。
しかもこれが何か理論的なものではなく、直感で理解できるのだ。最初は気になっていたむず痒い感覚も、今ではさほど気にならない。さらにはセツナが新たに用意したドローンによって定期的に追加の弾薬が運ばれてくるので、アヤネが医療支援に集中できる。よって今のアビドスは、以前よりもそれぞれのポテンシャルを引き出せるようになった上、継戦能力も大幅に向上していた。
『シロコ、攻撃用ドローンを起動。目の前の敵に穴を開けて、それと同時に突撃。20秒後にまた指示を出すから、そのタイミングで戻ってきて』
「ん? ……うん、わかった」
ただ1つ気になることがあると言えば、先生の指示の内容だろうか。私たちは会ってからまだ数時間しか経っていない。名前だって、この戦闘が始まる前にようやく知った程度。なのに先生は私たちの持ってる武器を、私たちの戦い方を、私たちの持ち味を、最初から知っていたように戦術に織り込んでいる。
(でも……それで勝てるのなら!)
何故把握されてるのかは分からない。だが、私たちのことを知らなければ、ここまで戦況を有利に進めれることは無かっただろう。この時点で、シロコはセツナに賭けたことを微塵も後悔はしてなかった。
「ターゲット、設定完了」
その一言ともに、シロコのドローンからロケット弾が斉射された。敵はホシノの撃破を急ぐあまり、他のメンバーへの注意が疎かになっている。放たれたロケット弾は視界にマーカーで示された敵達に向かっていくと、その無防備な横っ腹に次々と着弾していった。
「ぐあっ!!」
「わっ!! 今度は横から!?」
敵の悲鳴を合図に、シロコは突撃する。その俊足を活かしてすぐさま敵の懐に潜り込むと、まだ混乱から立ち直れない敵集団に向けて無造作にライフルを乱射する。すると弾は面白いように敵にあたり、またバタバタと敵が倒れていった。だがその時間は長くは続かず、手元からカチッという音が鳴る。そしてその音は、どうやら敵にも届いていたようだ。
「こいつ弾切れだ!! 狙えるやつ全員でこいつを──がはッ!!」
ヘルメット団員が言い終わるよりも先に、シロコの蹴りがその腹に叩き込まれる。蹴り込まれたヘルメット団員はたまらず吹っ飛ばされるが、どうやら一手遅かったようで、周囲の敵がそれぞれの銃口をシロコへと定めていた。
弾薬はまだある。ただ、この状況で悠長にリロードさせて貰えるとは思えない。流石に万事休すかと思ったのもつかの間、耳元から再び声が聞こえた。
『シロコ、伏せて』
たったそれだけ。故に反応は早かった。シロコはすぐさま膝をつき、背を丸めて姿勢を低く保つ。そして次の瞬間、シロコの耳が頼もしい重低音を捉えた。
「全弾発射〜!!!!」
やんわりしたその口調とは裏腹に、とてつもない勢いで弾丸が飛んでくる。それらはシロコの周囲の敵を次々となぎ倒していき、シロコに気を取られていた敵は問答無用で撃ち抜かれていった。
姿勢を低くしたまま後ろを見れば、そこには少し高台に位置取り、元気よくミニガンを撃ち放つノノミの姿が。時間にしてジャスト20秒。先生が予告していたタイミングで、シロコの背後には退路が生まれていた。逆に前方を見れば、そこにはまさに死屍累々といった状況が。まぁ、この程度でヘイローが壊れたりはしないのだが、おかげでシロコは安全に撤退できそうだった。
『シロコ、そのまま下がって。アヤネ、シロコのカバーに入って』
「はい! 分かりました!」
淡々と、次の指示を回している大人。その声には一切の揺らぎもなく、いっそ冷徹とさえ思えるほど凪いでいた。その声を耳にしているうちに、シロコの身体がだんだん震え始める。だがそれは嬉しかったり驚いているからではない。それは未知のものと遭遇した時のような────純然たる恐怖によるものだった。
だがそれと同時に、シロコの中ではもう1つの、それらとは全く逆の感情も渦巻き始める。
(この人なら私たちを……、アビドスを救ってくれるかも)
手元の武器のリロードを終わらせながら、シロコは静かに
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「むむ………なんだか戦況が怪しいな?」
アビドス高校の校門によじ登り、部下たちの戦いを眺めていた赤いヘルメット少女。カタカタヘルメット団を束ねるリーダーである彼女は、目の前で繰り広げられる戦闘が自分の予想に反してこちらの不利な方に傾いていることを察知した。
最初は怖いもの無しと進撃していたカタカタヘルメット団の勢いは、ここにきて完全に失われつつある。このままでは部下の士気にも関わってくるだろう。だが連中は既に補給もままならない状態だったはずだ。それがここまでの粘りを見せてくるというのは、彼女にとっては想定外だった。いっそ夢と言った方がまだ納得できる。
『くそっ! なんで私たちの動きが見えてんの!?』
『そっちで気を引いて! 横から私たちが──っうわっ!!』
『リーダー! 何か今日の連中はおかしい! 前とは動きが違いすぎる!!』
しかしこの戦況は現実そのもの。それは目だけではなく、耳に当てたインカムからの通信も、彼女の判断が正しいことを証明しつつあった。これにはリーダーの少女は口元に手を添え、「うーん」と唸り声をあげるしかない。
「お相手も必死ということか? だが、こういうことも想定してほぼ全戦力で来たのにな………」
カタカタヘルメット団、総員64名。それが今回の作戦に動員した、戦闘メンバーの総数だ。
だが、これはどう言うことだ? 実際には手こずるどころか、むしろ押し返されそうになっているじゃないか。アビドスの連中は補給が殆どない。仮に補給を受けていたとしても、圧倒的な戦力差でそれを抑えるつもりだったのだが………。現実は彼女の想定を大きく超えた結果を示していた。
「リーダー先輩、戦況はどんな感じですか?」
その時、バサッ! という羽音ともに、空から声が降ってきた。それと同時に、リーダーの少女の隣でふわりとやわらかな風が舞う。リーダーの少女がそちらを見れば、そこには大きな白い翼をしまい、星屑が集まった2重の環を白く瞬かせる少女がいた。
彼女の名前は、
「戦況については、正直あまり良くないな。アビドスの連中、なんだかやけにやる気みたいでな」
「そうなんですか? 補給も切れたからもうお終いかと思いましたが、案外まだ続きそうですね」
そう言ってニコニコした表情を浮かべながら、目の前の戦場へと視線を移すセキ。その様子を、リーダーの少女は少し物悲しげな目で見つめていた。
最近のセキは、なんだか楽しそうだ。聞いたところによると、アビドスの連中の中に、気になる人を見つけたらしい。それからというもの、セキは襲撃の度にそいつにちょっかいをかけ、そして毎回ボロボロになって帰ってくる。だがその見た目に反して、彼女は楽しそうに笑って話すのだ。まるで子供が、その日にあったことを母親に話すように。
「リーダー先輩、どうします? もう半分ぐらいの子がやられちゃったみたいですけど」
リーダーの少女の視線に気づかないまま、セキは戦場を──いや、ただ1点のみを見つめながらそう問いかける。その様子からは、早くあの子に会いに行きたいという彼女の内心が透けて見えるようだった。
それにセキの言う通り、ここら辺が潮時だろう。こちらの全戦力を投入してこの状態なのだから、これ以上戦況の好転は望めない。あとは被害をできるだけ抑えて、緩やかに撤退するしかないだろう。
「………そうだね、今日のところは撤退しよう。セキ、
「分かりました! 飛葉ちゃんも連れてっていいですかね?」
「あぁ、できるだけ時間を稼いでくれ」
「了解です!」
そういうと、セキは翼を広げてどこかへと飛び去った。恐らく今も前線で奮闘している愛弟子に声をかけに行ったのだろう。彼女たちが出るなら、アビドスの連中も2人に食いつくはずだ。その隙に他のメンバーを下がらせて、その後に2人を回収して撤退しよう。
「カタカタヘルメット団各員へ! 今から前線をセキとヨミが受け持つ。アビドスが2人に夢中になっている間に、各員は速やかに撤退。戦力の温存に努めよ!」
インカム越しにそう伝えれば、あちこちから「了解」の声が聞こえてくる。リーダーの少女はそれだけ確認すると、静かにインカムの電源を切った。
⟬──────────!!!!!!⟭
アビドス砂漠に、不思議な声が響き渡る。それは風の唸り声のようであり、心地よく唄う鯨の歌声のよう。だがリーダーの少女は澄み渡る青空を見上げると、誰に聞かせる訳でも無くポツリと呟く。
「………そろそろ、お別れしなきゃな」
少し寂しそうにこぼれ落ちたその声を、アビドスの砂が静かに受け止めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『カタカタヘルメット団、撤退を開始。今回は先生の勝ちみたいですね!』
戦闘開始から数十分が経過した頃。ドローンのカメラで戦場を俯瞰していたアロナから、ヘルメット団が撤退し始めたと報告が入った。それを聞いた私は「ふぅ……」と張り詰めていた息を吐くと、目頭をぐりぐりと解しながら次の指示を飛ばす。
「そうか……、アロナも情報支援ありがとう。最後にドローンを引き上げておいて」
『はい! 分かりました』
アロナの元気な返事とともに、『シッテムの箱』に送られてきていた映像がプツリと途切れる。このドローンを使った戦闘もかなりこなしてきたはずだったが、相変わらず体の負担はかなりのものだ。それもこれも全てはこの"眼"のせいだが、結果として勝てたのだから、それもまぁ良しとしよう。
「みんな、戦闘終了だよ。お疲れ様」
「…………………………」
耳元のインカムをの電源を切り、頑張って戦ってくれた彼女たちに労いの言葉をかける。だがその答えはいつまで経っても返ってくることは無かった。そのことに怪訝な表情を浮かべつつバリケードから覗いてみれば、そこには前方を──撤退するヘルメット団の方をキツく睨みつける5人の姿があった。
「……みんな、どうしたの?」
改めて、私は5人に問いかける。しかし彼女たちは沈黙したまま、何かを警戒するように緊張を保っていた。
「先生、戦いはまだ終わってないよ」
左手の盾を構え直しながら、ホシノがそう忠告する。その声からは気の抜けた気配が鳴りを潜め、僅かに緊張が滲み出ているようだった。そしてその言葉を引き継ぐように、流し目でこちらを捉えながらシロコが告げる。
「寧ろ、ここからが本番」
その言葉と共に、彼女の愛銃を持つ手に力が籠る。その姿からは闘志が湧き出て見えるが、肝心のカタカタヘルメット団は既に撤退中だ。これから一体、何と戦うんだ? それを本人に問いかけるべく僅かに口を開くが、その言葉が出るよりも先に、私の耳に強烈な"声"が響き渡った。
⟬──────────!!!!!!⟭
それは、神秘的な生物の鳴き声だった。言葉には形容しがたい、神話に生きた生物の発する声。強いて近い声をあげるとするならば、鯨の発する唄声が近いのだろうか。まるで力を振り絞るように轟くそれに、私は静かに魅了されていた。
だがそれも一瞬のことで、私はすぐさま『シッテムの箱』へと視線を移す。あの鳴き声の正体がなんであれ、きっと只者では無いだろう。もしかするとカタカタヘルメット団とはレベルの違う、
「……? これは……霧か?」
それは、空のように青いナニカ。モヤモヤした霧のようなものが、地面を這うようにこちらに近づいていた。だがその霧は特に害のある様子ではなく、目の前のアビドスの生徒たちに触れても、彼女たちがそれに反応することは無い。
ならこれは一体なんだと考えているうちに、今や霧は校庭全体を多いつつある。だが不思議なことに、霧は一定以上の高さを保ったまま消えることはなく、その場に留まり続けている。まるで、霧そのものに意思があるみたいだ。そして霧が私の足首に触れた時、それは唐突に起きた。
「──ッ!!!!!!!!!!」
霧が足首に触れた途端、私の身体をとてつもない怖気が貫いた。よく驚いたり怖さを表現する言葉に「頭から水を被る」や「背筋が凍る」という言葉がある。だが今私が感じたそれは、それらとは全く違う。もっと原初の、直接本能に訴えかけられているような恐怖だった。だからこそだろうか、直後に起きた展開に、私の反応が僅かに遅れる。
《先生! 何かがそちらの方に向かっています!!》
「シロコちゃん! 上だよ!!」
アロナの警告とホシノの声が聞こえたのはほぼ同時だった。その言葉につられて、その場にいた全員が空を見上げる。まもなく正午を迎える青空の頂上には、太陽が燦々と光り輝いている。その太陽の中、真っ黒い影となって突っ込んでくる人らしき姿が──。
「──っ!!」
私が察するよりも先に、シロコがライフルを横に構えて防御姿勢を取る。そしてその直後、直上からシロコ目掛けて白い塊が突っ込んできた。金属同士がぶつかるガキィィィンと言う音ともに、地面に何かが激突する音がする。その際に舞った砂埃が晴れれば、そこには一体の天使が舞い降りていた。
白髪に、腰から生えた一対の白い翼。デザート迷彩のケープを身にまとい、頭上には
「おはよう! シロコちゃん!! 」
「ん………また来た。そろそろ諦めて!」
戦場には似つかわしくない程の明るい声。それは間違いなく、降り立った天使から発せられた声だ。対するシロコはぶっきらぼうに返すと、そのまま天使を払い除け、ライフルを撃ちながら引き撃ちの姿勢を見せる。
「ん〜それは無理かな。だって今のシロコちゃん、とっても強そうだもん」
まるで子供が同い年の子と話すように、全く緊張感を感じない天使の言葉。それを示すように向かってくる銃弾を腕や翼でガードしながら、再び天使がシロコめかげて突撃する。そのスピードは砂の上だというのにまるでそれを感じさせないほど軽やかだった。
「本気出したシロコちゃんの力、見極めたいの♪ だからもう少しだけ、私と付き合って!!」
「くっ!!」
一瞬にして両者の距離が縮まり、再度繰り広げられる近接戦。シロコがライフルで牽制するが、それを意に介さず突っ込む天使。そのままライフルを払い除け右手のハンドガンをシロコに突きつけるが、次の瞬間にはシロコの蹴り上げが直撃し、右手ごと射線をずらされる。
シロコもお返しとばかりにライフルを向けるものの、今度は天使が左手に持っていたライフルが火を吹き、構えようとしていたライフルを跳ね飛ばされた。まさに一進一退の攻防。しかし実力でいえば拮抗状態だ。つまり、ちょっとした要因でその状況が崩れることもある。
「先輩伏せて!!」
その言葉と共に、セリカが天使に向けて発砲する。それが完全に予想外の射撃だったのか、天使の顔にも驚いたような表情が浮かんでいた。だがそれもほんの一瞬のことで、天使は飛来する弾丸を翼で遮ると、標的をセリカへと変更して目にも止まらぬスピードで接近した。
「うわっ──」
「ごめんね、ちょっと静かにしてて!!」
そしてセリカが防御するよりも早く懐に潜り込むと、その鳩尾に勢いよく蹴りを叩き込んだ。接近時の勢いがそのまま乗った蹴りは、セリカの体を容易く吹き飛ばし、そのままバリケードの山へと叩きつける。
「ぐぅっ!!!」
「セリカちゃん──っ!!」
後輩がおもいっきり吹っ飛ばされたのを見てカバーに入ろうとしたホシノだったが、次の瞬間背後からダンッ!! と重い発砲音が轟く。そこからほぼ反射で盾を構えれば、先程まで頭のあった位置に銃弾が飛来し、盾と激突して火花を散らした。
ちらっと弾が飛んできた方を見ると、一瞬だけ何者かが校門から飛び降りるのが見えた。あれは恐らく援護のスナイパー。その証拠にその様子を見ていた天使は耳元に手を当てると、無線機越しに後輩と連絡を取り始めた。
「飛葉ちゃん、頑張って他の子を抑えれる?」
『できるだけやりますけど、期待はしないでくださいね』
「わかった! 期待してるね!」
そしてやり取りを終えれば、天使は再びシロコの方へと向かう。それと同時に再び狙撃が再開され、ノノミやホシノ、セリカの救援に駆けつけたアヤネにも容赦なく凶弾が飛来し始めた。たった2人、だが先程のヘルメット団とは訳が違う。先程シロコが言っていたことの意味が、ここに来てようやく理解できた。
ならば、それを踏まえて状況を打破するまで。ようやく再起動した思考を回しながら、私は『シッテムの箱』へと指を這わす。天使とシロコに関しては、下手な干渉をしなければその均衡は崩れない。なら今は、行動を阻害してくるスナイパーの撃破が急務だ。まだ彼女たちに関する詳細なデータがないから、これで正解かは分からない。だが何もやらないよりかはマシと判断しての指示だった。
「シロコは目の前の子に集中して。他の子は敵のスナイパーを!」
「でも! シロコちゃんの援護は!?」
「大丈夫、シロコならきっと勝てる」
そう信じて、私は指示を出す。戦闘が始まる前。私が指揮下に入るかと提案したあの場で、真っ先に名乗りを上げたのがシロコだ。まだ私のことも、大人のことも信用出来ないだろうに、私に委ねると判断を下した。それはきっと、何がなんでもこの場所を守りたかったからだ。見ず知らずの大人に、賭けてもいいと思えるほど。それ程の想いを持つ子が、こんなところで負けるとは思えない。
「……わかった。シロコちゃん、頑張ってね」
「ん、まかせて」
シロコの力強い返事を受けて、ホシノが盾を構え直す。敵は一撃必殺を狙うスナイパー。先程は校門の方から撃ってきていたが、もう狙撃位置を変更している頃だろう。今は偵察ドローンも使えないので、空からの支援もできない。つまり敵の位置を露見させるには、まず敵に撃ってもらわないといけない。
「………………」
それを理解したホシノは、1度力を抜いてリラックスするような体勢を取った。1度張りつめていた空気を緩め、再び貼り直す工程。その僅かな隙を、スナイパーなら見逃さないだろう。息を吸って、息を吐く。それだけで十分だ。
ダンッ!!
再度、重い発砲音が響く。それを察知したホシノが即座に身を捻って避ければ、直前まで頭があった位置を7.7mm弾が過ぎ去っていく。その様子を横目に見ながら、私は発射地点を割り出し、『シッテムの箱』を通してノノミに共有する。
「ノノミ!!」
「は〜い! 行きますよ〜!!」
マーカーで示された観葉樹に向けて、腰だめに構えられたミニガンから勢いよく銃弾がばら撒かれる。しかし相手もそれを予測していたのか、弾が放たれると同時に隠れていた木の影から離脱し、次の遮蔽物へと一目散に駆けていった。
確かに、その場にいても撃たれるだけなので、木陰から飛び出す判断は正しい。ただ、今回の場合は少し違った。何故ならこちら側には、戦闘支援システムにより強力なアシストを得たスナイパーがいるのだから。
「セリカ! 脚を狙って!!」
「行くわよ……やっ!!」
バリケードから救出され、アヤネによって応急処置を施されたセリカの放つ精密射撃。まだまだ本調子では無いものの、『シッテムの箱』の恩恵を受けた状態であれば、十分に戦うことが出来る。そしてその恩恵によって放たれた弾丸は、セリカの技量も相まって、全力で疾走する敵スナイパーの足ヘと複数命中した。
「ぐあっ!!」
「飛葉ちゃん!!」
バランスを崩し、勢いよく転倒するスナイパー。その痛々しい悲鳴に、シロコと激戦を繰り広げる天使も思わず呼びかける。スナイパーはすぐさま復帰しようと脚に力を込めるが、転んだ時にどこか痛めたのか、中々立ち上がることができないようだった。ならばこれは好機だ。ここであのスナイパーを無力化できれば、あとはあの天使へと注力できる。
「ホシノ!!」
「わかった────っ!!」
しかしホシノが動くよりも先に、ホシノに向けて白い塊が突撃する。寸前で気づいたホシノは盾でガードするものの、流石に人一人分の重さの乗った一撃を捌くのは厳しかったのか、防いだ盾がおもいっきり弾き飛ばされた。
一方、激突してきた天使の方も空中へと飛ばされたが、すぐさま翼を使って制動をかけると、そのまま倒れたスナイパーの前に立ちはだかり、牽制するように左手のライフルを周囲に向けた。どうやらシロコとのタイマンよりも、背後のスナイパーを守ることを優先したらしい。しかし手負いの仲間を守りながら戦うとなると、以前までのような戦い方はできなくなるだろう。
「先輩…………」
「……………………そうだね」
周囲をアビドスメンバーに包囲される中、2人が何やら短く言葉を交わす。そして天使は静かに頷くとライフルを下ろし、先程までのにこやかな笑顔を浮かべながら、再びシロコへと言葉を投げかけた。
「シロコちゃん、やっぱり強いね。でも今日は、普段のシロコちゃんとは全然違う……」
「…………………………」
「もしかして、そこに隠れてる大人のおかげなのかな?」
その言葉に、再び私の背を恐怖が伝う。何故なら私は今日、戦場に殆ど姿を晒していないからだ。強いて言うなら、天使が舞い降りる直前のほんの数秒の間だけだ。その後に天使やスナイパーの戦いが始まってからはずっと身を隠していたので、天使には私が居ることすら気づかれていないはずなのだ。なのに彼女は何故、私の存在を知っているんだ……?
そんな私の様子を知ってか知らずか、天使はそのままにこやかな笑みを崩さずに、予想だにしない言葉を言い放った。
「なら後でありがとうって伝えておいて。それじゃ! また今度ね!!」
その言葉と共に、下に向けていたライフルの引き金を引く。するとシュポンという音ともに、彼女の足元に灰色の筒が転がった。
「まさか……っ!!」
それを見たホシノが焦ってショットガンを構えるが、それよりも先に足元の筒が起動し、周囲に大量のスモークをばら撒いた。それでも構わずに2度3度と発砲するものの、やはり手応えは一切感じられず、煙が晴れるとそこには誰も居なかった。
逃げられないように周囲は対策委員会メンバーで固めていたのだが、最初に空から強襲してきたことも考えるに、きっと天使はあの翼で空も飛べるのだろう。それで負傷したスナイパーを抱えて、抑える者の居ない空から離脱した。なるほど、ちゃんと引き際も分かる
「うへ、これで今日は終わりかな〜」
ホシノのその言葉によって、ようやく張り詰めていた空気が一気にほぐれる。戦闘前に発生していた青い霧も、どうやら既に消えてしまっている。更にはカタカタヘルメット団も完全に撤退し、レーダーの範囲内には敵性勢力はいない。
戦力差数倍の絶望的な状況から、途中様々なことがありながらも、最終的には誰1人欠けることなく学校を守りきれた。どうやらアビドス高校防衛戦は、私たちの方に軍配が上がったようだった。
▽天守セツナ
基本戦術は速攻とあともう一つある。
今日、生まれて初めて『■』の恐怖を感じた。
▽門守セキ
ヘルメット団の用心棒。通り名は「白鯨」。とある事情により、その情緒は幼子のそれに近い。しかしシロコと同等程度には強い。
▽砂狼シロコ
賭けに勝った。
門守セキとの戦績は通算3勝1敗6引き分け(時間切れ)。
▽小鳥遊ホシノ
この物語ではとある理由によりゲーム本編よりも弱体化している。だがその分戦闘センスはずば抜けているので、そこまで変わらない。
▽十六夜ノノミ
本日の撃破数No.1。
戦闘終了後、セリカの手当をしてあげた。まさに聖母。
▽黒見セリカ
本日の被ダメNo.1。
アヤネやノノミのおかげで、痣にならずに済んだ。だがそれはそれとして痛かったので、次ヘルメット団に会った時にはボコボコにする。
▽奥空アヤネ
セツナのドローンにより、回復に専念できるように。お陰でセリカのカバーにも素早く入れた。現在ドローンから投下する用の爆薬を捜索中……。
▽赤いヘルメットの少女。
カタカタヘルメット団のリーダー。ゲーム本編よりも戦略性を携えて登場。しかし今回は相手が悪すぎた。
▽飛葉山ヨミ
カタカタヘルメット団のメンバー。とある理由で1年ほど前に加入し、現在ではセキの1番弟子として、組織を守るべく頑張っている。
あとがき
遅くなりましたが、ようやく完成になります。ここから次回までまた期間は開きますが、本作のキーパーソンとなる門守セキも登場しましたし、ここから「藍の外典」は加速すると言っても過言じゃない(なお投稿頻度)
ゲームの方でも明日からゲヘナの新イベント。待望のジュリとセナの新衣装追加で嬉し────待て、氷室セナ(私服)だと!? そんなの、僕のデータにはないぞ!!!!
次回 第4話「改めまして、こんにちは」
「ん、"お礼"は大事……だよね?」