Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
セツナ「ふぐぐぐぐぐぐぐ……っ!!」
シロコ「ん……、あれ何してるの?」
アヤネ「目薬……でしょうか?」
ノノミ「わぁ☆凄いお顔ですね!」
ホシノ「うへ〜、分かるよ。中々狙いが定まらないよねぇ」
セリカ「いや歩きながらなんだから当然でしょうがっ! 座ってからやりなさいよ!!」
ヘルメット団を退けてから、私はアビドスの生徒の案内のもと、ひとまず校舎内に戻り休息をとることになった。途中でアヤネとノノミが負傷したセリカを保健室に運ぶため分かれて、今はホシノとシロコと共に対策委員会の部室にて待機中である。
とりあえず近場の椅子に座ってから、この後に確認してもらう書類を色々と整理していく。本来なら学校について直ぐに弾薬の譲渡やこのアビドス高校の現状について確認をしたかったのだが、ヘルメット団の襲撃のおかげで色々と有耶無耶になってしまった。まぁそのおかげで、現状確認の手間は省けたが……。
「いやぁ〜まさか勝っちゃうなんてね。一時はどうなる事かと思ったけど、案外何とかなるもんだね」
「ん、ヘルメット団も今までにないくらい準備してきてたけど、先生の指揮が1枚上手だった。すごい量の資源に装備、それに指揮能力……。ん、大人ってすごい」
ぐでっと机に体を預けながら、ホシノが先程の戦闘を振り返る。それに同調してシロコも大人の力に感動しているようだが、当の本人である私からすれば、彼女達の方が充分すごいと思う。
「そうでも無いよ。指揮する人がいくらすごくても、実際に戦う人が居ないと話しにならないからね。普通はあれくらいの戦力差だと、相手にする君たちの方が逃げだしたくなるものだけど……」
「ん、あんな奴らに負けない」
「おぅ、その意気があればこそだよ」
「うへ〜。シロコちゃんがそれだけやる気なら、ママはぐっすり眠れまちゅ」
力強く即答するシロコに、ホシノは冗談めかした様子で笑う。だがまさしくその想いこそが、彼女達を最後まで戦わせたんだろう。圧倒的な戦力差や最後の強襲も乗越え、最終的には勝つことができたのは、彼女達の不屈の意志があったことが大きいと思う。もし私があの立場に立ったなら、1度撤退するくらいのことはしていただろう。
……まぁ、あの状況では逃げ場もなかっただろうが。特に最後に現れた天使のようなあの生徒は、何故か私の位置も正確に把握していたし。逃げおおせたとしても、笑顔で追撃してきそうだ。
「……そういえば、最後に来てたあの天使の子はよく来るのかい?」
「ん? あ、もしかしてセキのこと?」
「セキ?」
何か天使のことについて聞けるかと思っての質問だったが、まさか名前まで聞けるとは思ってもいなかった。どうやら私が思っているより、彼女たちの因縁は深いらしい。そしてそこからはシロコとホシノによって、例の天使──セキと言う名の生徒について様々なことが語られた。
「門守セキ。カタカタヘルメット団で用心棒をしてるって本人から聞いた」
「……本人から聞いた?」
「うん。1回だけ学校の外であった時に、そういう風に自己紹介して来た。まぁ、その場で追い返したんだけど……」
「……おう、なんとも自由な子だね」
「そうだね。襲撃してる時は毎回来てるかな。その度にシロコちゃんが追い払ってくれてるんだけど……」
「ん、今日みたいに上手くはいってなかった」
「あの子と戦う度にシロコちゃんが怪我するし、今日みたいに他の子が怪我することも多いしね。おじさんもあんなに元気な子の相手をするのは骨が折れるよ……」
やれやれと言った様子でため息をつくホシノ。どうやらシロコを始めとして、アビドスの生徒は随分と彼女に手を焼いているらしい。彼女達も十分強い実力者達だとは思っていたが、あのセキという生徒はそれに迫る、あるいは同等レベルの実力者のようだ。
「スナイパーを連れてくることもあるし、小細工なしで真っ向勝負することもある。でも来るときは決まって殺気…っていうのかな。背中がゾクッてする感覚がするから、居るかどうかはかなりわかりやすい」
シロコのその言葉に私はピクッと片眉をあげる。シロコの感じたというゾクッとする感覚。それはつい先程私も感じたばかりだ。
「シロコ、そのゾクッていう感覚は、青い霧に触れた時に起きるやつ?」
「ん? 青い霧? 何の話?」
私の問いかけに、シロコは怪訝な表情をうかべる。そしてきっと、今の私も同じ表情を浮かべていることだろう。今のシロコの返し方には、やや違和感を感じる。だがシロコの返答は、きっと理解していないという話ではない。試しに同じ青い霧の話題について、より具体的に説明してみる。
「なんかこう…足首辺りに漂ってるモヤモヤした青い雲みたいなのを見たことない?」
「ううん、見たことない。ホシノ先輩は?」
「おじさんも見たことないな~」
「そっか…ごめんね。変なこと言っちゃって」
そう言って口を閉じてから、目元をギュッと抑えてため息を吐く。
今のようなことは、このキヴォトスに来てからよくある事だ。他の生徒達には見えないものが見える、他の大人には認識できないものを
まぁキヴォトスの皆とは違い、この身体は銃弾1つで斃れるのだからある意味この世のものでは無いが……。あと目が物凄く疲れる。
「すみません! 遅くなりました!」
少し気まずくなった空気を変えるように、途中で分かれた保健室組が部室へと戻ってきた。最初は肩を借りながら歩いていたセリカも、保健室でちゃんとした治療を受けたおかげか、今では自分の足で歩けるくらいには回復しているようだ。
「ん、セリカ。傷はもう大丈夫?」
「まだちょっと痛むけど、何とかなるわ!」
「それでも無理は禁物ですよ〜?」
「分かってるってば、ノノミ先輩」
人が増えたことにより、部室内が徐々に活気づいてくる。どうやらこの5人は、普段から随分と仲が良いみたいだ。仲睦まじく会話している彼女達だったが、私もそろそろここに来た目的を果たしたい。なのでそれぞれが全員席に着いたのを見計らって、椅子からそっと立ち上がって話を切り出した。
「それじゃ、改めましてになるね。私の名前は
胸元のシャーレの刻印が施されたパスケースを掲げながら、私はそう自己紹介をした。そうすると聞いていたアビドスの生徒達も律儀に立ち上がり、中から代表してアヤネが「よろしくお願いします、セツナ先生」と一礼する。
「君たちが、支援要請をくれたアビドス高等学校の生徒さんで間違いないね?」
「はい! 私たちがアビドス高等学校、廃校対策委員会です。既にご存知かとは思いますが、私は委員会で書記とオペレーターを担当している1年の
「どうも、先生」
「そして2年生の
「よろしくお願いします。先生〜」
「さっき道端で会ったのが私。……あ、別にマウントを取ってる訳じゃない」
「そしてこちらが委員長の3年生、
「いやぁ〜、よろしく。先生〜」
「以上5名が、廃校対策委員会のメンバーであり、このアビドス高等学校の全校生徒……になります」
そう言ってメンバー紹介を締めくくるアヤネ。その最後に添えられた一言が、私の中の疑念を確信へと変えた。
「……やっぱり、さっきの名簿は見間違いじゃなかったんだね」
私がそう呟くと、アヤネは悲しそうな表情でコクリと頷く。さっきの戦闘開始前にアヤネから渡された名簿。その中には、きっちり"5人分"しか名前が記載されていなかった。
最初は見間違いかと思ったが、こうして口に出されてしまっては、もう疑いようもない。今目の前にいるこの5人が、アビドスの全校生徒なのだ。どうりでシャーレの活動中に出会えないわけだ。何せ5人だけで必死に学校を守っていたのだから。他の生徒たちが、それぞれの青春を謳歌する片隅で……。
「他の生徒たちは、転校したり退学したりして、街を出ていった。それで学校がそんな有様だから、街の人たちも……」
「そんなアビドスを何とか復興させようと集まったのが、私たち廃校対策委員会という訳です」
そうして結成されたアビドス廃校対策委員会だったが、やはりそう簡単に事は運ばない。学校が自治機関として機能するこの
「現状、私たちだけだと学校を守りきるのは難しい。それに最近だと補給もできなかったから、『シャーレ』の支援がなければ、今頃万事休すだったかも」
「いやぁ、ほんといいタイミングできてくれたよ」
「うんうん! これでもうヘルメット団は怖くありませんね。大人の力って凄いです☆」
「こうして面と向かって感謝されると、なんだかむず痒い感じがするね……」
口々に感謝を述べる生徒たちに、ムズムズとした気恥しさが湧いてくる。それはそうとこれでかなり余裕はできたはずだが、しかしまだ根本的な問題の解決にはなっていない。何せカタカタヘルメット団自体はまだ残っているし、ヘルメット団の目的がこの学校である以上、また何度も襲ってくるに違いないだろう。
「でもあいつらしつこいから、きっとまた襲ってくるよ」
「確かに、ここんとこ毎日来てるもんね」
「他の問題のこともありますし、こんな消耗戦を続けるわけにはいかないのですが……」
そしてそれは彼女達も分かっているようで、多少笑みが増える中でも、ピリピリとした危機感は会った時から変わってはいなかった。その様子をじっと観察していると、先程までぐでっとしていたホシノが、いきなり何やら作戦があると話を切り出した。
「ズバリ! 今度は逆にこっちからアイツらの前哨基地を襲撃するって作戦だよ。連中は今1番消耗してるだろうしさ〜」
「い、今からですか!?」
「そ、今からなら先生も居るし、補給とか作戦の詳しい内容とか、面倒なのは解決できそうじゃん?」
のんびりしたオーラの中に、少しだけ怒気のようなものを孕んだホシノの声。どうやら先の戦闘で、セリカを傷つけられたことを多少なりとも根に持っているらしい。数少ない同胞というのもあるのだろうが、本当に暖かそうな仲間たちだ。
だがそれはそれとして、すぐさま突撃しろという許可を出すことはできない。何せこっちには負傷者も居るし、あのセキという名前の天使も対策をしないと厄介だ。だがなるべく色んなことはさせてやりたいので、とりあえず今できることを確認していく。
「私は構わないけど、他の子が問題ないかだね。特にセリカとかは、さっきの戦闘で怪我したばかりだし……」
そんな懸念を口にしてみたのだが、どうやらそれは杞憂だったようで、すぐに黒猫少女の口からやる気に満ちた声が聞こえてきた。
「私は問題ないわ。むしろ今から行って、あの天使をぶっ倒してやるわよ!」
「ん、"お礼"は大事……だよね?」
「はい! 私も大丈夫ですよ〜♣︎」
セリカに続き、シロコやノノミも次々と賛同の声をあげる。こうしてメンバーの殆どが賛成してしまえば、残されたアヤネも折れるしか無かった。
「そうですね……皆さんがそう言うのであれば。すみませんが先生、もう一度だけ力を貸してくれませんか?」
アヤネの申し訳なさそうな申し出を、私は静かな頷きと共に了承する。懸念点だったセリカのダメージも、どうやら問題にはならない程度。むしろさっきの一撃をお返ししてやるとばかりに、メラメラと闘志を燃やしているほどだ。無理はさせられないが、おおよそさっきの戦闘ぐらいの動きは期待できそうだ。
「よし! それじゃ、作戦会議を始めよう!」
そうしてカタカタヘルメット団の前哨基地を叩き潰す作戦は、それぞれの案を出し合いながら着々と練られていくのだった。
──────────────ー
タン トン タン トン
タン トン タン トン
私の足が錆びた足場を踏みしめる度に、軽やかな鉄の音が鳴る。今私が登っている見張り台は、随分と錆びて砂まみれになって、もはや立っているのが不思議なくらいのボロ具合だ。だからもう、今となっては危ないから誰も近寄らい。これもこのアビドスを象徴する、ありふれた光景の一つだ。
私はその足場を1歩1歩進んでいって、頂上にたどり着く。そこには予想通り先客が居て、腰から生えた翼で身体を覆いながら、どこか遠くの方を眺めているようだった。その背中からどこか物悲しさを感じながらも、私は手に持っていた飲み物を差し出して声をかける。
「ほい。差し入れだよ、セキ」
「……! リーダー先輩、ありがとうございます!」
振り返ったセキは二パーとした笑みを浮かべながら、差し出した缶ジュースの中身を喉に流し込んでいた。私もその隣に腰かけながら、手にしていた缶コーヒーの蓋を開ける。それに口付けながら、私は彼女の様子を気にかけた。
「……
そう言って私は彼女の煌々と輝く黄色いヘイローに視線を移す。他の奴らのヘイローとは違い、セキのソレは何故かよく見える。これが全員見えてるのかはよく分からないが、セキがどういう心境をしているのかが分かりやすくて便利だった。そして、こういう時のセキは無理しがちだ。それを本人も気づいているのか、セキは少し苦笑いしながらポツポツと言葉をこぼす。
「見張りの子が、今は病室にいますからね。だからみんなが安心して休めるように、私が見てあげなくちゃと思って」
「……それは結構な事だが、それでセキが潰れたら意味無いよ。そこはちゃんと分かっておきな」
そう言ってもう一度コーヒーを飲んでいると、ジュースを飲み終えたセキが少し苦しそうに私に問いかけてきた。
「……リーダー先輩、みんなの様子はどうですか?」
セキの問いかけに対して、私も口の中の苦さを紛らわすように口を開く。
「……そうね。負傷者が7割、うち重症が31名。動くのがやっとなやつは居ないが、それでも暫くは派手に動けないだろうさ」
「……飛葉ちゃんはどうです?」
「あいつはまだマシかな。全身の擦り傷は応急処置で何とかしたが、足の傷はもうしばらくかかりそうだ。あの子も暫く出撃させない」
「………………そうですか」
絞り出すようにそう言うと、セキは顔を俯かせてそのまま何も喋らなくなった。きっと、自分が居ながらこれだけの怪我人を出してしまったのを気にしているのだろう。その様子に少し心を痛めながらも、私は彼女の肩を抱き寄せて、ゆっくりとさすってやる。
「セキ、別にお前が気に病むことじゃないよ。今回は相手の方が1枚上手だったってだけだ。なんなら、あれだけ怪我人が出る作戦を立てた私にも責任がある」
「でも、私がもっと早く帰ってきてれば……」
「それでも、だよ。実際、お前が来てからは誰も怪我することなく撤退できた。ヨミのことは残念だが、それらも含めて、相手側が1枚上手だったってだけさ。むしろセキが来る前なんて、こんなの日常茶飯事だったさ」
「…………そう、なんですか?」
「そうだとも。お前が来てから、カタカタヘルメット団は大きく変わった。今までスケバンとの抗争やアビドス連中との戦いでみんなが軽傷ですんでたのは、お前が頑張ってくれてるおかげだ。セキがカタカタヘルメット団に来てくれたのは、まさしく神様がくれた『奇跡』だと私は思うね」
弱々しげに呟くセキに、私は心からの本音を彼女へと伝える。それと一緒に背中をバンバンと叩いてやれば、少しづつ彼女にも元気が戻ってきたようだ。
そうだ、お前はその方が似合ってる。私たちの可愛い娘には、いつまでも笑顔でいて欲しいからな。例えどこに居ても、何をしていても……。
「ありがとうございます、リーダー先輩」
「うむ、気にするな。せっかくここまで来たんだ、見張りは私が交代しよう。セキもさっき戦ったばかりなんだから、降りて少し休むといい」
「……はい! せっかくですし、よろしく────」
元気よく返事をしていたその瞬間、セキの顔から笑顔が消える。そしてバッと視線をある方角に向けると、静かに、だが確かに聞こえる声でこう呟いた。
「…………
その一言で、私の顔からも笑顔が消えた。そしてセキの見つめる方角を改めて確認する。どこまでも続く、砂色の景色。視界内には目立つ物は無いが、その"方角"には覚えがある。
…………いや、覚えがあるなんて話じゃない。それこそ今朝の襲撃にも使った、アビドス高等学校に繋がる道がある方角だ。さらにここに来て、自分が1つミスをしてしまったことに気づかされる。そういえば、連中は既に弾薬の補給が完了していた。対してこちらは負傷者多数で暫く行動不能。このタイミングを狙われるのは当然だろうに、完全に失念していた。
「……っ! アビドスの連中、痛いところを突いてきたね」
「先輩! 怪我した子を連れて逃げてください! 幸い距離はまだあります。このまま私が時間を稼げれば、何とか……!」
「あっ、おい待ちな!!!」
それだけ言うと、セキは立て掛けてあったアサルトライフルを引っ掴んで見張り台から飛び降りる。そして翼を器用に使って滑空しながら、アビドス連中が向かってきているであろう方角へと飛んでいく。
今までのとは違う、何かに追われているように。彼女の背中は、一瞬にして砂塵の中に消えていった。
──────────────
「……先生、どうかした?」
「……いや、なんでもないよ」
前哨基地へと移動する車の中で、シロコが怪訝な様子でこちらの顔を覗き込む。さっき少し気になることがあったので、少し考え事をしていただけなのだが、どうやらそれが気になったらしい。
結局あれから私たちは大まかに作戦を決めてから、アヤネの運転する車でヘルメット団の前哨基地へと向かっていった。まさかアヤネが「私が運転します」と言い出した時は目を見開いたが、そういえばキヴォトスには戦車を操作する子もいましたね……。なんだがすぐ納得できる自分も、だいぶキヴォトスに毒されてきたと見える。
そして問題が起きたのはその道中の事だった。アヤネの運転はとても上手で特にトラブルは起きなかったのだが、後部座席で揺られながら砂漠の景色を見ていると、視界の端が一瞬だけ
「……っ!!」
「ん? 今のって……」
「うへ、もしかしてまた来てたのかな?」
「うそ!? もしかして追いかけてきてる? 私たち車なんだけど!?」
「アヤネちゃん大丈夫ですか?」
「はい……! 今のところは」
体の芯から凍るような、特徴的な怖気。それを感じていたのは私だけじゃない。車を運転していたアヤネも、車内にいたホシノやノノミも、車外に顔を出していたシロコやセリカも。全員が驚いたように声を上げ、誰かを探すようにくまなく辺りを見渡した。どこからでもあの天使が来ていいように、全員が代わる代わる周囲を注視し、私もシッテムの箱のレーダーを睨むように確認する。
がしかし、周囲には吹き荒れる砂塵と埋もれた廃墟しかない。そこには人影も、誰かがいた痕跡もない。念の為にとシッテムの箱のレーダーで確認しても、周囲には何も反応は無かった。そうしてただただ時間だけが過ぎ、みんなが警戒を少し解いた頃になっても、あの白鯨が襲ってくることは無かった。
「なんだか不気味ですね……」
「ん……あいつらしくない」
ノノミとシロコはそう零しながら、周囲の見張りを続けている。そんなこんなで何事もなく、カタカタヘルメット団の前哨基地まであと30km地点のこと。そろそろヘルメット団員とも接敵してもおかしくない距離だが、不思議なことにそれらしい反応は未だ無かった。
最初はそんなものなのかと思っていたが、徐々に違和感を覚え始める。いくらなんでも、この距離でも見張りすらいないのは杜撰すぎる。まるであえて引き上げさせたかのような明らかに意図的な静けさに、私の中でパズルのピースのように考察が組み上がる。
そういえば、今朝の戦闘で
ではそれ以外で関係ありそうなことと言えば、やはりあの青い霧だろう。天使が現れる直前、奇妙な咆哮と共に周囲に広がった藍い雲海。あれは直ぐに消えたが、その直後に天使は急降下しながらピンポイントでシロコに攻撃を加えた。
よく良く考えれば、あの攻撃も違和感がある。こちらも認識できないほどの超上空から、正確にシロコだけを狙って攻撃することなんてできるのか? ……いや、できるのだろう。実際にそれをやってのけているのだから、彼女にはあの距離からでも正確に人を判別できる何かがあるようだ。
そこで、私はある仮説を立てる。私を見つけつつ、シロコへの超精密攻撃を成功させる。その両方を成立させるある仮説を。
もし彼女とあの青い霧に関係があるとすれば。
もし彼女があの青い霧を操れるとするならば。
もしあの青い霧が、
「うわっ!!?」
私がその仮説にたどり着くと同時に、突如アヤネの運転する車が急ハンドルを切る。今まで安全運転だったのにと思うまもなく、右へ左へと次々と車体が揺れ、直後真横で爆発が起きる。それも1度では無い。2度3度と、車が急ハンドルを切る度に連続して爆ぜる音が鳴り響いた。
「ちょっ! なになになに!?」
「爆撃だね。と言っても
「ん……それでもすごい火力。多分、違法改造品。当たると私たちでもただじゃ済まないかも」
グワングワンと車内が揺れる中、やや混乱するセリカとは対照的に冷静に攻撃を分析するホシノとシロコ。あまりにも場慣れしすぎじゃないかなぁ!! と心の中で叫びながら揺れに耐えていると、ハンドルを握るアヤネが悲鳴のような声を上げる。
「皆さん! これ以上の安全運転は厳しいです! 先生を連れて脱出を!!」
「わかった、先生!」
「すまない! よろしく頼む!」
シロコに抱き抱えられながら、私は荒ぶる車から飛び降りた。着地の際にシロコを巻き込まないように気をつけながら、砂で服が汚れるのも構わず受身をとる。2転3転、ゴロゴロと転がりながらも、私は車の行方をしっかり注視する。どうやら上手く爆撃からは逃れられたようで、停車した車内から残っていたメンバーが降りてくるのが見えた。
そして起き上がった私の前に、スタッと何かが着地する音が聞こえる。それは隣で立ち上がっていたシロコにも聞こえていたようで、頭の狼耳がピクリと動き、私を守るように前に出て手元のアサルトライフルを構えた。
「あれは…………」
そして流れゆく砂塵から姿を現したのは、ジャージの上着を腰に巻き、白い大翼を威嚇するように広げる白髪の天使。その頭上には、あの時とは違う白色の二重の円環。そして頭にヘルメットを被り、両手に鈍色の銃を携える少女が立ち塞がっていた。
「こんにちは! 待ってたよ、シロコちゃん」
にっこりと微笑みながら、ヒラヒラと手を振るヘルメット団の少女。しかしその手からは片時も銃が離れることは無い。まるで自分の
そして次にその視線が捉えるのは、シロコの背後に立ち、ジッと彼女の様子を見ていた大人────私だ。
「それと……そっちの大人の人は、さっき指揮してくれてた人ですよね? こうして面と向かって話すのは初めてですね」
「……そうだね。初めまして……って言うべきかな?」
「はい! こちらこそ初めまして!」
……なんだか調子狂うな。今までの不良達からは少なからず悪意や邪な感情が"見えていた"のだが、この娘からはそういうのが一切感じられない。まさに見た目通り、純粋無垢とも言える白。先程爆撃してきていたやつと同一人物とは思えない。
「先生!! 大丈夫で──っ!!」
こちらが静かに睨み合っている間に、他のメンバーも続々と合流していく。最初こそ彼女がいる事に驚いていたようだが、先程まで爆撃を受けていたこともありすぐに状況を察したようで、それぞれが自分の愛銃を構え、その銃口を目の前の天使へと定める。
それを見た天使もニヤリと笑うと、1歩足を引いてから優雅な動作で頭を下げた。その所作は所々に美しさが染み付いて、見ている者の心を奪う。
「改めまして、こんにちは。私の名前は
⟬──────────!!!!!!! ⟭
彼女がそう宣言すると同時に、砂漠にあの咆哮が轟く。まるで力を振り絞るような、気圧されそうなほどの気迫を響かせる鯨の唄声は、目の前の少女の覚悟を悠々と代弁していた。
「カタカタヘルメット団の用心棒として、私が相手になります。ここから先は、誰1人として通しません」
最後に頭上のヘイローを
▽天守セツナ
順調にキヴォトス常識に毒されてきている。
自分の"眼"に関しては否定的だが、その割には与えられた恩恵をフル活用している。
▽砂狼シロコ
「ん、私の方があいつより強い」
普段は突拍子のない言動で周りを驚かせがちだが、セキが学校の外で突撃してきた時は普通に困惑した。
▽小鳥遊ホシノ
セリカに手を出されてご立腹。
セツナの事は信用ならないが、相手が協力的ならば全力で利用してやろうぐらいは考えている。
▽十六夜ノノミ
実は1番ご立腹。
次にセキと会った時にはミニガンで蜂の巣にする予定。
▽黒見セリカ
リベンジに燃えるアビドスの妹分。
具体的なプランとしては、銃撃で滅多打ちにした後によろけたところで接近し、腹部を思いっきり蹴り飛ばす予定。
▽奥空アヤネ
消極的に見えて、やれるならとことんやる。
探していたドローン投下用爆薬が見つかったので、隙を見てセキに投下予定。ちょうどグレネード爆撃されたし、お返しとしてやってもいいよね?
▽リーダー先輩
ヘルメット団をまとめる
セキに対しては甘めに接しつつも、しっかりと忠言を送っている。だが最近は、セキから巣立ちの気配を感じるようで……。
▽門守セキ
覚悟完了
悪いな、ここは通行止めだ(フル武装待ち伏せ+奇襲)
次回、第5話「ヘルメット団の守り人」
「……神秘解放、第2段階」