Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
注意:今回の話には、作者の独自設定がふんだんに用いられます。読まれる際には注意を。
〜私の心には、やり通したい願いがある〜
Stronger than love,
〜それは貴方への愛よりも強くて〜
and with me it will be for always
〜私にとって生きる理由そのもの〜
鷺巣詩郎『 In My Spirit 』より
暗雲が立ちこめるアビドス砂漠。カタカタヘルメット団の前哨基地から約5キロ離れたその場所では、銃声と爆発音がひっきりなしに響いていた。前哨基地を襲撃し、ヘルメット団の戦力を削ぎたいセツナ率いる対策委員会と、ヘルメット団を守るため、1人奮戦する門守セキ。両者の戦いは、数的有利を維持し続ける対策委員会側が優勢に進めていた。
「シロコ先輩!!そちらの方に行きました!」
「ん!任せて」
後輩である奥空アヤネの声に力強く答えながら、砂狼シロコはバックステップで距離を取る。次の瞬間には、シロコのいた位置に9x19mmパラベラム弾が数発突き刺さった。
その弾道を追うように視線を上げると、そこには太陽を背にして左手のライフルを構えるセキの姿が。息つく間もなく放たれる5.56mm弾も躱しながら、シロコもお返しとばかりにアサルトライフルを斉射する。対するセキは避けることはせず、はためかせていた翼で身体を守りながら、ストンと地上に降り立った。
だが彼女に休む暇も与えることなく、死角からホシノが気配を殺しながら接近する。そして彼女の頭部目掛けて至近距離でショットガンを発砲──しようとしたところで、セキが振り向きざまに右手の裏拳でショットガンを殴りつけ、強引に弾道を変えた。さらにその勢いのままホシノに向き直ると、左手のライフルの狙いを定める。
瞬間、ホシノの視界に警告が現れた。その警告に自前の反射神経で反応し、クイッと首だけ捻ってみれば、自分の顔のすぐ横をグレネードが通り過ぎる。そのグレネードは、先程の爆撃に使われたのと同じ違法改造品。背後で爆発するそれから放たれる熱風は、巻き込まれれば擦り傷では済まないことを暗に示している。それはもちろん、目の前の天使も同様だ。
「よっと!!いやぁ……中々怖いことするねぇ。最近の若い子は度胸がすごいんだ」
「貴方も凄い反応速度ですね。あれは確実に当たる距離だと思ったんですけど……」
お互い軽口を叩き合いながらも、その表情は真剣そのもの。両者共に一度距離を取りながら、お互いの武器のリロードを始める。
「そうはさせないわよ!!喰らいなさい!!」
「ん、火力支援を始める」
「……っ!!」
しかしリロードができたのはホシノだけで、セキの予備弾薬はセリカの放った精密射撃によって手元から吹き飛ばされる。更には間髪入れずにシロコのドローンからロケット弾が放たれ、セキ目掛けて次々と殺到。だがセキもリロードはいったん諦めて後退し、ロケット弾を次々と躱していった。
「ひえぇ……、いくら多対一だからって容赦ないなぁ」
目の前で次々と炸裂するロケット弾の熱を感じながら、セキは余裕そうな様子でそうボヤいた。しかしその実彼女の中では、少しづつではあるが焦りの感情が見え始める。だが、そでもまだ自分のペースは乱れていない。この調子であれば、彼女のリーダーが味方を全員逃がす方が先に終わるだろう。
「落ち着いて、私。頑張って、私」
自分にそう言い聞かせながら、セキはスっと視線を上げる。目の前には先程のロケット弾によって巻き上がった砂塵が、一時的に視界を制限する煙幕のようにセキを覆っていた。これであれば、上空を飛んでいるドローンからも彼女は見えないだろう。だがそれはセキも同じ。両者共に見えない状態で、暫くはお互いの牽制合戦が続く……。
きっと対策委員会はそう思っているだろう。
(…………一旦索敵を挟もうかな)
そう心の中で呟くと、セキは目を閉じて自分の周囲の空間へと集中する。真っ暗な視界の中、自分の足元にキラキラと輝く星が集まるようにイメージすると、彼女の足元に青い霧が集まり始めた。冷たく、ゾッとするような藍さのそれは、徐々に密度を高めながら集っていく。それを知ってか知らずか、変わりない様子のセキは息を大きく吸い、そして────
「──フッ!!」
鋭く、チリを吹き飛ばすような容量で息を吐いた。すると集まっていた霧は一気に周囲に霧散し、アビドス砂漠を撫でるように散っていく。その様子はさながら衝撃波のようだったが、周囲を包む砂塵も地表に積もる砂も微動だにしない。この不可解な現象こそが、セツナや対策委員会が経験した『藍い霧』の正体だった。
「……1人、2人……。これで3人──」
そしてその用途も、セツナの建てた仮説の通りだった。放たれた藍い霧は周囲を駆けながら、その霧に触れた者を直接セキに"知覚"させる。だがセキはその理屈も、どうしてできるのかという原理も知らない。これを教えてくれた
「
藍い衝撃波を用いて索敵を済ませたセキは、ライフルのリロードを済ませつつ次の獲物の選別を始める。1番近い人とはまだ距離があるので、1度頭を冷やして冷静になりつつ次の展開を考えていた。だが冷静になったことによって、逆にセキの中で1つの違和感が芽生える。
(……あれ?
確か今日は、いつもの子たちに加えて1人大人の男の人がいたはずだ。あの人の感覚はもう既に覚えているし、さっきの索敵で反応もあった。じゃあ誰か、誰か1人対策委員会のメンバーを捉え損ねたということに──
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「っ!!?」
セキが状況を理解するより先に、気迫の籠った声が響く。それと同時に目の前の砂塵を突っ切って、黒髪猫耳の少女──黒見セリカが姿を現した。
「ゼロ距離なら!!」
そう言って自分のライフルを構え、すぐさま発砲するセリカ。突然の強襲にセキの対応が遅れ、彼女の放った5.56mm弾がセキの頬を掠める。しかしそれ以降の弾は翼によって防がれてしまい、微々たるダメージにしかならなかった。だがその防御行動は逆に、セリカに攻撃のチャンスを与えてしまう。
「これで!今朝のリベンジ達成よ!!」
「……ッぐ!!」
自身の翼で頭部付近を防御してしまったせいで、セキの視界が大きく制限される。その隙を逃すことなく放たれたセリカ渾身の蹴りは、無防備なセキの鳩尾へと吸い込まれるように叩き込まれた。
回避も防御も間に合わず、直にその一撃を受けたセキの身体が宙に浮いたが、セキもすぐに体勢を立て直してしっかりと地に足をつけて着地する。無防備なところを蹴り込まれた分、今のはかなりダメージが入った。蹴られた腹を押さえつけながらも、すぐにライフルを構えて目の前の黒猫を警戒する。
(なんで……索敵が漏れたの? いや、それよりも今は……っ!)
色々と疑問は尽きないが、それを悠長に考えさせてくる時間はない。視界の端に発砲しながら突撃してくるシロコを確認しながら、セキは大翼をはためかせて空中へと脱出した。
さっきの鳩尾への一撃が響いていて、少し動かすだけでも身体に激痛が走る。だが幸いにも、時間稼ぎにはそれほど影響は出そうにない。ただ痛いだけだ。それを無理やり意識の外に押し出していると、セキの目の前に怪しい箱が降ってくる。上を見るとアヤネのドローンが全速力で退避していて、それが目の前の箱の正体をいやでも教えてくれた。
「しまっ────」
「今です!!ノノミ先輩!!」
「はい!お仕置の時間ですよ〜☆」
アヤネの合図と共に、ノノミはセキに──いや、その目の前で落下する箱に向けて銃撃を浴びせた。放たれた7.62mm弾は爆薬の入った箱を貫き、その背後のセキの身体を穿つ。更には撃ち抜かれた爆薬が盛大に起爆し、その膨大な熱波と衝撃でセキを地面へと叩きつけた。
「やりました!!」
「ナイスだよ!ノノミちゃん!」
『シロコ、セキの様子を確認して来て。あの様子だと、酷い怪我をしてるかもしれないから』
「ん、わかった」
セキが爆発にのまれる瞬間を、対策委員会のメンバーは全員見ていた。爆薬もあの箱にできる限り詰めていたし、火力だけで言えばセキの違法グレネードよりも高いはずだ。それを至近で受けたのだから、確実に手応えはあるのだが……。
「いったたた……。多対一って、思ってたよりキツイじゃん……」
シロコが駆けつけた時には、セキは既に上半身を起こしていた。だが体のあちこちには擦り傷だらけで、白かった翼や肩にかかった白髪が赤く染っている。更にはさっきの爆薬のせいか肌には火傷のような傷もあり、その顔には頭を怪我したのか赤い鮮血が流れていた。
だがそんな状態だと言うのに、セキの調子はほとんど変わらない。傷だらけの体に、呼吸は荒く。既に満身創痍な状態にもかかわらず、セキはゆっくりとシロコを見上げて、口元に笑みを浮かべながら問いかける。
「参考までに教えてくれるかな、シロコちゃん。あの黒猫の子は、どうやって私の索敵を躱したの?」
「……ん、先生の指示したタイミングでジャンプしただけ。理屈は分からないけど、本当にそれだけで探知できなくなるんだね」
一瞬の迷いの後、シロコは索敵をくぐり抜けた策を口にする。それはつい先程、唐突にセツナによって出されて指示。もし藍い霧が索敵能力を持つとしたら、触れなければ気づかれないという仮説に基づいた作戦だった。ぶっつけ本番で実践してみれば、タイミング良くジャンプしたセリカをセキは感知できず、その仮説は正しいことが証明された。
「なるほどね……。あの人も黒い人と同じで、見えるタイプの人だったんだね……」
納得したように目を閉じるセキ。その間にも額からは血が滴っていて、呼吸も徐々に弱く、短くなっていく。誰がどう見ても、もう決着は着いただろう。だがシロコはその姿を見てなお、ピリピリとした緊張感を維持し続ける。
「セキ、もう諦めて。大人しく降参して欲しい」
「ごめんね。それは出来ない相談だよ。むしろ私としては、シロコちゃん達に帰ってもらいたいな。シロコちゃん達も、無駄に私と戦って消耗はしたくないでしょ?」
シロコの警告にも耳を貸さず、セキはゆっくりと立ち上がる。ボロボロの見た目とは裏腹に、その足はしっかりと赤い大地を踏みしめて、血に染った大翼を大きくはためかせる。そして彼女の纏う雰囲気も、より一層鋭いものとなった。
「……なんで?なんでセキはそこまで必死なの?」
「なんで…………か。シロコちゃんなら、わかってくれると思ってたんだけど……」
困惑するシロコに対し、少し失望したように言葉を返すセキ。シロコを見つめるその瞳には、悲しみとも、怒りともとれる色が浮かんでいる。どうしてそんな眼をするのか。そう問いかけるよりも先に、セキが静かに目を伏せて、「はぁ……」と小さくため息をつく。
「まぁ、分かってくれなくてもいいよ……。だったらこれは、私の……私だけの物なんだから……」
そう言って次にシロコと目があった時には、そこには今までの彼女とは違う、明確な敵意が滲んでいた。
「……神秘解放、第2段階」
静かにポツリと、シロコでも聞き取れるギリギリの声量で発せられたその言葉。弱々しく、今にも消え入りそうなそれに対して、目の前に立つシロコは今までにないくらいの悪寒が背中を貫いていた。この感覚は、前にも一度経験したことがある。そしてそれは、シロコにとって最初の敗北を味わったあの戦いでも感じたことない程のものだった。
「ッ!!先生、何か不味い!」
『……あぁ、こっちでも見えてるよ。シロコ』
バックステップで距離を取りながら報告するシロコに対し、セツナは冷静な声で返す。だがその声とは裏腹に、内心では酷く焦っていた。それ目の前の状況……、セツナにしか見えないモノが大きく変わっていたからだ。
藍い……藍い霧が、彼女の足元へと集まっていく。最初は索敵の予備動作かと思われたそれは、だんだんと集まっていくだけで、一向に放たれる気配は無い。そして最終的に藍い霧は、セツナや対策委員会メンバーの膝下までを覆うように広がり、放たれることなくそこで留まり続けていた。
(……これは、索敵抜けを対策されたな。それにこの広さなら、常に位置がバレててもおかしくない)
セキの思わぬ対応に、セツナは次の策を練り始める。しかしそんなセツナを嘲笑うかのように、セキが新たな情報を語り始めた。
「……聞いてますよね。先生……でしたっけ? 今頃前哨基地では、リーダー先輩が皆を……本拠点の方に移送している頃だと思います。もしかしたら、物資や燃料とかも……運んでくれてるかもしれません。私を倒して向かう頃には、……きっともぬけの殻だと思いますよ」
その言葉に、セツナの眉間のシワが濃くなる。つまり彼女の目的は最初から時間稼ぎ。私たちは彼女の作戦にまんまと乗せられてしまっていたようだ。だがヘルメット団の前哨基地まではここから5km程度。今から行けば多少叩くこともできるだろう。
『……シロコ。セキの相手はできるかい?』
「……ん、できる」
『なら私とシロコでセキの相手をするから、他の子はその間に前哨基地へ──』
そう言いかけた時、4発の発砲音が連続して鳴り響いた。セキのハンドガンから放たれた弾は、シロコ以外の対策委員会メンバーの影を縫い止めるように着弾する。そして最後の一発はセツナに向けて発砲するが、弾丸はセツナの横をすり抜け、遠くの砂地に着弾した。
「何ともまぁ、心臓に悪いことをする……」
その様子を冷や汗と共に眺めてから、セツナはセキの方へと向き直る。そこには緑だったヘイローを
「……行かせないって、言ったじゃないですか」
⟬──────────!!!!!!⟭
再び轟く咆哮。だがそれは今までのものとは違い、低く牙を剥き出しにして唸るような敵意を発している。その唄声を背にしながら、セキはライフルを頭上に掲げると、シュポンと1つの弾頭を発射した。皆がそれに気を取られて視線をあげる中、セキは表情に陰を差したまま、自らを鼓舞するように言葉を零す。
「誰1人……通さない。……私は、ヘルメット団の皆を……守らなきゃいけないの!」
そう彼女が叫ぶと同時に、直前に放たれていた弾頭が地面に落ち、周囲にスモークを撒き散らす。しかもそれは以前使用したものとは違い、放たれる煙の量も、その展開速度も、以前のものとは比較にならないほど高性能なものだった。
「うわっ!なにこれ煙幕!?」
「何も見えません……!!」
「みんな!2人1組で集まって!背中合わせでお互いを守れば大丈夫」
「ん……そうは言っても」
「この煙幕の濃さでは……きゃ!?」
突如発生したスモークによって混乱する中、ノノミの目の前にセキが出現する。突然の強襲にノノミが驚いている間に、セキはノノミのミニガンを思いっきり蹴り飛ばし、体勢を崩した彼女の後頭部に向けて、高速でハンドガンをワンマガジン分15発全て叩き込んだ。
「あうっ!!」
「ノノミちゃん!!」
ノノミの悲鳴に反応したホシノだが、スモークによって彼女の位置も正確に把握できない。そのため自身の耳を頼りに周囲の状況を探るが、追加で炸裂したスモークグレネードの音がノイズになり上手く聞き取れない。だがそれでも、自身に接近する小さな足音だけはしっかりと拾っていた。
「そこっ!!」
体を捻り、右後ろへと視線を移す。するとそこにはホシノの予想通り、ハンドガンを構えて突撃してくるセキの姿があった。距離にして3mもない間合いで、互いの獲物を構え、発砲する。
ホシノの弾は狙い通りにセキの頭部へと向かうが、それに反応したセキが首を捻って回避したことによって、数発が頬を切る程度に終わった。対してセキの放った3発の弾丸は、頭部狙いを読んでいたホシノによって、盾で全て弾かれてしまう。そこから更に繰り出される蹴りも盾で受け止めるが、流石に銃弾とはワケが違い、セキの体重の乗った一撃をいなしきれず、そのまま後方へと吹っ飛ばされる。
「先生!流石にこの状態で戦うのは、おじさんたちにはキツイかも!!」
『わかった!何とかしてみる!』
痺れる腕を振りながら着地し、ホシノは先生に自分たちの状況を端的に伝える。セツナもセツナで何か対抗策はないかと必死に思考を回してはいるが、その間にも事態はより悪い方向へと傾き始めていた。
⟬──────────!!!!!!⟭
今日何度目かの咆哮。それと同時に煙幕の中から藍い霧が放たれ、それらは晴れ渡る青空へと溶けて消えた。何故空に向けて……。そう思ったのも一瞬のことで、セツナはシッテムの箱にいる彼女へと呼びかける。
「アロナ!! ドローンをすぐに動かして!!」
《えぇ!? なんで──うわっ!!》
セツナの警告からコンマ数秒後、上空で滞空する4機のドローンに向けてライフルによる射撃が加えられる。突然の射撃に慌てるアロナだったが、直前のセツナの警告によって素早く反応できたことにより、ドローンは撃墜されることなく煙幕から離れた。
どうやらあの藍い霧は、この状態でも使えるらしい。それにさっきの予想通り、セキだけは煙幕内でも対策委員会の動きを捉え続けているようだ。このままでは煙幕によってこちらはろくに反撃できず、一方的に屠られて終わる。となれば、最優先事項は煙幕を晴らすこと。そしてそのための手段は、もう既に考えている。
『アヤネ! 爆薬の予備はあとどれ位ある!?』
「はい!えぇっと……あと2発分です!!」
『わかった。ならアヤネはもう一度爆薬投下用意。セリカはアヤネの護衛を、ホシノはノノミの救援。シロコは、準備が終わるまでセキを抑えて!』
「「「「「了解!!!!!」」」」」
対策委員会メンバーが息を合わせて返す中、セキは煙幕の中で相手の出方を伺っていた。神秘解放第2段階によって、彼女の知覚能力は以前よりも強化されている。第1段階では衝撃波のようにしか出せなかった藍い霧も、第2段階の知覚能力強化により、その場に留めたり、自身に追従させたり等の簡易的な操作ができるようになった。
これであれば、先程のように索敵を抜けられたりはしない。それに展開範囲によってはこちらが一方的に相手を認識し続けることができるため、このような戦術も可能になっている。ただ今の身体の状態だと、長くは持ちそうにないが……。
そんなセキの懸念を、無論対策委員会は知らない。それを示すかのように、セキの滞留神秘が自分に近づいてくる人物を捉える。振り向けざまに薙ぎ払うようにライフルを放つが、シロコはそれを姿勢を低くすることで躱し、逆にアサルトライフルを斉射する。
突き刺すように放たれそれを、セキは片翼で防ぎながら、シロコのライフルを片手で掴んで引っ張りその勢いで回し蹴りを放つ。 だがシロコもそれを片腕で受け止めて、そのまま足に自身の腕を回してがっちりと抑え込んだ。そこから暫く動きはなかったが、不意にセキが弱々しく言葉を零し始める。
「いい加減帰って……欲しいんだけどなぁ」
「ん、セキこそ痩せ我慢は良くない。今すぐ帰ってその傷を治して貰うべき」
「ひえぇ……、今からその場所を襲おうとしてるシロコちゃんがそう言うんだ。思った……より、意地悪なんだ……ねっ!!」
声音に明らかな怒りを表しながら、セキは掴まれた足に思いっきり力を込めてシロコを振りほどく。しかし血を流しすぎたのが祟ったのか、視界がぐにゃぁと歪み、立っていられなくなり膝をついた。おかげでゴロゴロと砂地を転がるシロコにセキからの追撃は無く、更には両者の間に距離が空いたことによって、今までタイミングを伺っていた大人の手が動き出す。
『アヤネ!!』
「はい!!支援のタイミング、逃しません!!」
セツナの合図によって、アヤネのドローンとセツナのドローンから爆薬が満載した箱が同時に投下される。シンクロしたかのように落ちていく爆薬にセキとシロコそれぞれが反応するが、行動に移すよりも先にセツナの指示が素早く飛ぶ。
『セリカ!!ノノミ!!』
「了解!やっ!」
「ノノミ〜行きま〜す!!」
落ちていく爆薬に対し、ノノミとセリカが同時に射撃を加える。スナイパーの如き一撃を、片やバルカン砲のような猛射を受けて、爆薬満載の箱は再び膨大な熱波を放ち始める。しかも今回はさっきと違い、2発分だ。その被害範囲も威力も単純に2倍。それは蔓延するスモークを吹き飛ばし、シロコやセキを余裕で巻き込み、無視できないダメージを与える程だ。
ボガァァァァァァァァァン!!!!!
砂漠に轟く爆発音。その音から、モロ喰らえば怪我では済まないことが容易に想像できる。その被害範囲に堂々と入っていたシロコだったが、幸いにも目をおおった腕も顔も、どこにも怪我は見当たらなかった。腕をどかせば目の前には、ピンクの長髪が爆風によってなびいていた。
「……ホシノ先輩、ありがとう」
「うへ〜、大丈夫シロコちゃん?あの子に乱暴されたりしてない〜?」
「ん、大丈夫。まだいける」
そう言って立ち上がってから、シロコは目の前の砂漠へと目をやる。そこにはシロコとは対照的に、爆発のモロに受けてもはや立つことすらままならないセキの姿があった。白かった翼は黒く煤けて所々焼けていて、額もほとんど血まみれで素肌は見えない。武器ももう持てないのか、力無くその場に落ちてるだけだった。
その時、シロコの心がチクリと痛む。何故だろう、自分はやるべき事をしただけだ。だけど何か、自分自身を否定してしまったような感じがして、シロコはゆっくりとセキの方へと歩み寄っていく。近くにいき、その頭に向けて銃を突きつけても、セキに抵抗する気配はない。その代わりに血まみれの額を上げてシロコを見つめると、またも弱々しい声で言葉を紡ぎ始めた。
「今なら分か……るよ。シロ……コちゃんた……ちの……気持……ち。……遅すぎたかもしれ……ないけど、こんな気持ちだった……んだね」
もはや喋ることすら限界なのか、途切れ途切れの言葉でそう伝えるセキ。その言葉の意味をシロコが理解するより早く、セキの胸元に入っていたスマホが電話の呼出音が鳴り始めた。
『セキ!こっちは撤退がほぼ完了した!もう時間稼ぎは十分だ!! 早く戻ってきな!!』
「……リーダー……先輩。もう1個、お願いして……いいですか」
焦る様なリーダーらしき人物の声とは対照的に、セキの声は穏やかで、どこか晴れやかな様子さえ感じられた。そして最後の力を振り絞るように、セキは電話の相手へと願いを託す。
「もしも私が帰って来なかったら。
伝えたいことを伝えれたのか、何度も呼びかける向こう側からの声を無視してセキは通話を切ってしまう。それを最後にスマホを落として力尽きた──かと思われた次の瞬間、自分の頭部に向けられていたシロコのライフルの銃口を思いっきり掴んだ。
「……くっ!!?」
シロコもどうにかして逃れようとするが、一向にセキが離す気配は無い。その身体のどこにそんな力を隠しているのかと、シロコは内心で恐怖を覚えていた。
「最……後くら……い、盛……大にやり……た……いよね!」
そう言ってセキは握っていた銃口をおもいっきり引っ張ると、その勢いで突っ込んできたシロコを抱き寄せる。そしてシロコを優しく包むその手には、既に起爆ピンを抜かれた
「これで……1勝……3敗、
セキのその一言を最後に、暴力的なまでの衝撃がシロコの意識を吹き飛ばした。
▽天守セツナ
今回は出番少なめ
セキに撃たれた時は恐怖のあまり乾いた笑いが出た。
▽砂狼シロコ
何かを間違えた。
セキの自爆に巻き込まれてしまったが……
▽小鳥遊ホシノ
危うくスイッチが入りかけた
後輩が目の前で吹っ飛ばされた心情やいかに……
▽十六夜ノノミ
今回の被ダメNo1
本作では割りかと損な役回りになりがち
(ノノミ推し先生には土下座を……)
▽黒見セリカ
リベンジ達成により絶好調
セキの無惨な姿に多少は心を痛めたが、直後の自爆でそういうのは全部吹っ飛んだ。やっぱあいつは悪いやつ!
▽奥空アヤネ
本日のMVPと言っても過言では無い。
爆薬を用意する殺意の高さが、今回は功を奏した。
▽門守セキ
生きて……るのかな?
覚悟がガンギマっていたため、自爆もするヤバい子に。
今後はまぁ……、あるといいね。
藍い霧と神秘解放
セキの固有能力。
自身が放出する神秘の量を上昇させ、周囲の神秘の密度を高めることで、様々な恩恵を得ることができる。解放の段階が上がる時や、神秘を用いた技を使用する度に、奇妙な咆哮が周囲に響く。
通常状態:白い二重の円環
非戦闘時の状態。この形態では特筆するものは無いが、呼吸を通して神秘が微量ながら体外に放出されている。
第1段階:白色から緑色へ
神秘解放第1段階。ヘイローの色味が緑になる。主に身体能力が向上し、神秘を全身に纏うことで防御力を補強する。また衝撃波のように神秘を放出する藍い霧で、周囲の索敵もできる。
第2段階:2重のヘイロー
神秘解放第2段階。ヘイロー全体が黄色味の強い色に変色する。神秘の濃度が一気に濃くなり、体外に放出した神秘の操作ができるようになる。神秘を一定箇所に留める「滞留神秘」が解禁され、一定箇所の索敵に用いることができるようになる。
この能力は今のところ門守セキにしか観測されていないが、自身の神秘を用いるその特性上、使用には何かしらのデメリットが存在すると黒い大人は警告していた。
あとがき
燃え尽きたよ……真っ白にな。
小説を書き始めて1年経ちますが、まだまだ書くのには慣れません。それでも門守セキというキャラの信念を、この話に詰め込めたと思います。あとは伝わってくれることを祈るのみです。
2話で描きたかった展開を描ききれたので、これから暫くはまたお休みします。もしかしたら今回で描ききれなかったストーリーを投稿するかもしれないで、もし投稿されたらそちらの方もお願いします┏○ペコッ
P.s データが吹っ飛んじゃったから、描ききれなかったストーリーはお蔵入りです(チクショウメェェェェ!!!!)。プロット自体はあるので、今後の展開にそれとなく混ぜようと思います。
次回 第6話「それぞれの事情」
「アイツを助けたアンタを、私は信用しない!!」