Blue Archive 〜藍の外典〜   作:roimi_mark2

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『.........Pathを通じ、理解者より各預言者(セフィラ)へ』

『対象に関する情報の収集が完了。我々の仮説は間違っていなかった。かの者は、主の天路歴程を導く光になるだろう』

『.........Pathを通じ、主より新たな命令を受諾』

『これより「違いを理解する静観の理解者」の名において、かの者に神託を伝えよう』




 ────とある通信記録より







第6話 「それぞれの事情」

 

 

 

 

 

 

 

 もしも私が帰って来なかったら。あの時みたいにまた(・・・・・・・・)、私を拾ってください。

 

 

 それが彼女の、セキが最後に残した言葉だった。カタカタヘルメット団のメンバーが全員退避を終えたあと、1人時間稼ぎに出ていたセキを呼び戻そうと電話をかけた私に、セキはそう言葉をかけてから一方的に通話を切った。

 その声はまるで今生の別れのような、嫌な胸騒ぎを私に感じさせた。そもそも、相手は補給も万全になったアビドス高校の連中だ。私たちの全力をぶつけても勝てなかった相手に、セキ1人が立ち向かったところで結果は変わらなかっただろう。それでも彼女は自ら進んで囮役を買って出て……そして、しっかりとその役目を果たした。

 

 

(……でも、帰って来れなかったら意味が無いだろうに)

 

 

 そう内心で吐き捨てながら、私は淡々と砂漠を彷徨っていた。あの後、結局アビドス高校の連中が襲撃してくることはなく、前哨基地は無事だった。一応基地としての運用はできなくもないが、既に物資や人員を引き上げている上に、アビドス連中に狙われてる状態じゃ、いつ襲撃を受けるかわかったもんじゃない。だからもう、あの基地は二度と使われることは無いだろう。

 だからもう二度と来なくなるその前に、せめて彼女を拾ってやりたかった。あの時みたいに、この広大な砂漠で出会えた『奇跡』を信じて。

 

 

「……見つけた」

 

 

 そして遂に、私は辿り着く。黒ずんだ砂や、えぐれた砂地。何かの破片や、使い捨てられたスモークグレネードの残骸など、明らかな戦闘の痕があちこちに散らばっていた。砂のえぐれ具合や風の強さからして、戦闘終了からまだそれなりに時間は経っていない。セキの最後の通話が送られた時刻からしても、彼女がここで戦っていたのはほぼ確実だろう。そしてそれを裏付ける証拠が、私の目の前に現れる。

 

 

「うっ…………これは……」

 

 

 辺りに広がるその光景に、私の口から嘔吐くような声が漏れる。それは砂地のあちこちに飛び散った、おびただしい数の赤黒い染み────血だ。まだそれほど時間が経っていないのか、砂地に染み込むことなく浮き上がるそれが、逆にこの場で彼女に起きたことを生々しく説明してくれている。部下たちを連れてこなくて正解だった。多分アイツらがこれを見たら、マトモじゃ居られなかっただろう。

 それに加えて所々に白い綿毛のようなものも落ちていた。膝をついて拾ってみれば、それは鳥の羽根のようなもので、私がまだ下っ端だった頃によく手入れしてやった彼女の羽根と瓜二つだった。しかし、散らばった羽根にあのころのような輝きはなく、どれも煤けていたり、赤黒く染まっているようなものばかりだった。

 

 

「……ここに居たんだな、セキ」

 

 

 これだけ物証があれば、状況的にここでセキとアビドス高校の連中が戦っていたのは間違いないだろう。だがどれだけ探してみても、この場所に門守セキの姿は見当たらなかった。この血が誰のものかは知らないが、この出血量は命に関わってくる。どこかでちゃんとした治療を受けなければ、おそらく数時間もしないうちに大量失血でヘイローが壊れるだろう。

 

 

 …………おそらく(ソレ)は、セキのものだと理解しながら。

 

 

「……どこに居ても必ず、見つけだしてやる」

 

 

 例えこの血がセキのものだとしても、例えセキが帰らなかったとしても。私には、彼女の願いを叶える責任がある。それはリーダーの責務とか、年長者の意地でもない。あの子を拾ったあの時から続く、私のたった一つの願いの果てだ。

 

 

「待ってなよ、セキ」

 

 

 あの子がこんな形で旅立つのは許さない。目の前の光景を脳裏に刻みながら、私は握る掌にさらに力を込めた。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 シロコちゃんなら、わかってくれると思ってたんだけど……。

 

 ……遅すぎたかもしれ……ないけど、こんな気持ちだった……んだね

 

 

 

 まぁ、分かってくれなくてもいいよ……。だったらこれは、私の……私だけの物なんだから……。

 

 

 

「…………ん」

 

 

 誰かの声に呼ばれるように、私の意識が覚醒する。どうやら私は、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。暖かな陽が差し込む感覚は、私に朝が来たことを予感させる。その直感を肯定するように、時刻は午前10時を少し回ったところ。いつもより遅い起床に、私は昨日何をしたっけと記憶を漁る。

 …………そういえば、昨日の寝る前の記憶が曖昧だ。よく思い返してみても、記憶が途中でモヤがかかったようになって思い出せない。それに落ち着いて周りを見れば、ここは私の部屋じゃない。ここは自宅とはまた違う見知った場所、アビドス高校の中にある医務室だった。

 

 

「私、なんで医務室で──ん?」

 

 

 頭に手を当てて呻いていると、頭上からハラリと何かが落ちてきた。手に取って確認してみると、それは少し血の滲んだ包帯で、どうやら自分の頭に巻かれているようだった。昨日、こんな怪我するようなことをしたかな……?そう疑問に思ったの次の瞬間、私の脳裏にアイツの満足そうな表情が浮かんだ。

 

 

「……っ!そうだ。私、最後にセキの自爆に巻き込まれたんだった」

 

 

 再生される記憶に映る、真っ白な光。それが私が思い出せる最後の光景。きっと私はあの爆発に巻き込まれて、今の今まで気絶していたんだろう。あの時は私も多少ダメージを負ってたし、あの時使われたグレネードの火力を考えれば、むしろこの程度で済んだのは幸運だ。

 よく見れば、身体中の傷も丁寧な応急処置が施されていて、腕も足も問題なく動かすことができる。きっとアヤネやノノミが付きっきりで頑張ってくれたんだろう。半日近く眠っていたんだから、ホシノ先輩やセリカを心配させた。それに先生にも迷惑をかけてしまったかも。後でみんなにちゃんと謝らなくちゃ……。

 

 

 シロコちゃんなら、わかってくれると思ってたんだけど……。

 

「…………………………」

 

 

 何とかいつも通りに過ごそうとしても、セキの言葉が頭から離れない。あの戦いでセキが見せた言葉が、表情が、行動が。焼き付いたフィルムのように何度も何度も私の中で繰り返される。アイツはカタカタヘルメット団の用心棒で、私たちの敵。それ以上でも、それ以下でも無いはずだ。

 

 

 なのになんで、こんなにも忘れられないんだろう……。

 

 

「……ん、変な感じ」

 

 

 何か大事なものが欠けてしまったような感覚を抱えたまま、私は寝かされていたベットから降りる。やはり体の傷はもう問題ないみたいだから、軽くシャワーだけ浴びて、近くに置いてあった替えの制服に着替えた。

 そうして身支度を整えてから、みんなが待つ対策委員会の部室へと向かう。皆にはなんて言って謝ろうかな……。そんなことを考えながら扉を開けると、そこには予想外の状況が広がっていた。

 

 

「おっ!シロコちゃん!目が覚めたんだね」

 

「シロコ先輩、起きたんですね……!良かったです……このままもう起きないかと……」

 

「…………ん。これ、どういう状況?」

 

 

 まず先に声をかけてきたのは、心配そうなところ以外いつも通りの様子のホシノ先輩とアヤネ。でも2人以外、セリカとノノミが居ない。でもこっちはたまにそういう事もあるし、特段気にはならなかった。だからこそ、何故か腕を組みながら天を仰いでいる大人の方が気になるわけで……。

 

 

「やぁシロコ。怪我の方は問題なさそうで良かったよ。どこか調子の悪い所はない?」

 

「……先生、何その悪人面」

 

 

 先生が心配そうな様子でこちらに声をかけるが、その顔は昨日みたものとは大きく変わっていた。特に目元なんかは濃いめのクマができていて、そのせいか昨日よりも目付きが数段悪くなっている。だが言われた本人は不本意だったのか、再び天を仰ぎながら一条の涙を流していた。

 

 

「…………悪人面かぁ。やっぱり昨日寝なかったのが不味かったのかなぁ……」

 

「まぁまぁ、先生もあまり気にしないで〜」

 

「そうですよ!私たちにここまで良くしてくれるんですから。それに顔が悪人だからといって中身まで悪い人と決まったわけじゃ……」

 

「ふふふ……アヤネ。それフォローと見せかけてガッツリ背中を刺してるよ……」

 

「わぁあ!!ごめんなさい!!」

 

 

 そんなのんびりとした会話を続けてる3人を横目に、私はいつもの定位置へとつく。それにしても、やけに3人の間の空気が緩くなっているような気がする。なんだが私だけが置いてけぼりをくらったような気がして、少し寂しくなった。

 でも、やっぱり違和感がある。3人の間に流れる空気に、取り繕えてないようなぎこちなさを感じるのだ。そしてそれは多分、今この場に居ない2人に関係があることだと思う。

 

 

「ところで、ノノミとセリカはどこに居るの?」

 

「あぁ〜それはねぇ〜」

 

 

 私の問いかけに、ホシノ先輩が何か微妙そうな顔をしている。ホシノ先輩だけじゃない、何か困ったような表情を浮かべるアヤネに、苦笑いを浮かべる先生。その空気感は、確実に今いない2人との間で何か気まずい事があったに違いない。

 

 

「ん、私にもちゃんと説明するべき」

 

「……まぁ、そうだね。セリカの件は私も原因の1つだし、私の方から説明しようかな。2人は適宜補足とか入れてもらえると助かる」

 

「分かりました!でもどこから話したら良いんでしょうか……?」

 

「あれじゃない?セキちゃんが自爆した辺りからなら、色々と納得できるんじゃないかな?」

 

「そうだね。じゃあそこから話していこう」

 

「ん、よろしく。先生」

 

 

 そうして私は暫く、セツナ先生の話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 ボガァァァァァァァァァァァン!!!!!

 

 

 

 それは、あまりにも一瞬だった。前哨基地には行かせまいと立ちはだかった門守セキとの戦いは、激戦の末に私たちの勝利で幕を閉じた。今まで地面や空中を縦横無尽に動き回っていたセキは完全に動きを止め、近づいたシロコに銃口を突きつけられてなお、反撃する素振りは見られない。

 それもそのはず。度重なる集中砲火に、当たれば重傷必至の爆発を至近距離で2度も受けたのだ。寧ろ、今まで動けていた方がおかしいまである。だが流石の彼女でも最後の爆発は応えたのか、額からポタポタと血を流しながら、膝をついて項垂れている。どうやらもう、戦う余力は残ってなさそうだ。

 

 

(これで……おしまいか……?)

 

 

 私が心の中でそう呟いたのも束の間、その瞬間は訪れた。今まで項垂れていたセキが急にシロコを引き寄せ、持っていたグレネードを使って自爆したのだ。あの痛々しい体のどこにそんな余力があるのか。そんなことを考える余裕はなく、私は直ぐに爆発した方へと駆けた。

 

 

「シロコ!!」

「「シロコちゃん!!」」

「「シロコ先輩!!」」

 

 

 全員が彼女の名を呼ぶ中、目の前の砂地にドサッと何かが落ちる音がする。周囲には爆発の余波で舞い上がった砂埃が漂っているが、その特徴的な狼耳と首元に巻かれた青いマフラーは、砂の煙幕越しでもしっかりと確認できた。

 

 

「シロコちゃん!」

「シロコ先輩!大丈夫!?」

「シロコ先輩!私達の声が聞こえますか!?シロコ先輩!!」

 

 

 すぐさま皆が駆け寄って、彼女の容態を確認する。どうやら意識は失っているようで、彼女の青いヘイローも完全に消えていた。体の方もあちこち傷だらけで、ボロボロになった制服は所々赤黒く染まっている。

 だが幸いにも命に関わるような傷はどこにも無いようで、バイタルチェックをしていたアヤネから安堵のため息が漏れた。心配事でいえば着地の時に頭から落ちたのが心配だが、残念ながらそれは今この場では確認できない。それよりも今は、彼女を適切な治療ができる場所に運ぶのが最優先だ。少なくとも、この砂地じゃ救急車は期待できそうにない。

 

 

「アヤネ。近場の病院までどれくらい?」

 

「はい!ええっと……ここから市街地の方まで約10分。全速で飛ばせば、6分で病院に送れます」

 

「なら最低限の安全運転で8分だ。車の準備をしておいて欲しい。アヤネが準備する間に、皆はシロコの応急処置をお願い!」

 

「わかったわ!」

 

 

 対策委員会のメンバーがテキパキと搬送の準備を整えている間、私は1人爆発の中心部へと向かっていく。その目的はもちろん、もう1人の重傷者の救出だ。直前まで余裕のあったシロコでさえああなのだ。既にボロボロだった彼女が同じものを受けたなら、シロコよりもっと酷い状態になるのは必然だろう。

 

 

「……!見つけた!」

 

 

 そしてその予想は的中する。シロコが吹っ飛ばされてきた方向とは反対側。爆心地からそう離れていないその場所で、彼女は横たわっていた。周囲には紅く染まった羽根が散っていて、体もあちこちが赤く爛れていて肌なのかさえ分からない。もちろん彼女のヘイローも、その輝きを失っていた。

 だが近づいて直に触れてみると、ヌルリとした感触の向こうから微かな温もりを感じた。手首をとって確認してみると、「とく……とく……」と小さな鼓動も感じる。どうやら首の皮一枚で命は繋がったようだ。しかし拍動の弱さやこの出血量から見ても、このまま放置するのは不味いだろう。どうやって彼女を運ぼうか……。そう考えていた私の後ろから小刻みに砂を蹴る音が聞こえてきた。

 

 

「先生、シロコちゃんの応急処置が──っ!!」

 

 

 シロコの応急処置が終わったことを告げに来たホシノ。だがボロボロのセキを視界に収めた途端、彼女の瞳に怒りの色が宿る。そりゃ当然だろう。何せ目の前に後輩をあんな目に合わせた元凶が居るのだから。

 

 

「ダメだよホシノ。抑えて」

 

「でもこいつは……シロコちゃんを!!」

 

「それで撃ってどうなると思う?こんな怪我だ。君が引き金を引くだけで、取り返しのつかないことになるかもしれないよ」

 

 

 ショットガンを構え、怒り心頭といった様相で叫ぶホシノ。その銃口は怒りに震えていて、今にもその引き金を引きそうになっている。だが相手は死にかけの生徒だ。彼女が怒りに任せて引き金を引いてしまえば、何が起こるか分からない。もしかしたらそれが、彼女に深い傷を追わせることになるかも。そうならないように、私は務めて冷静に彼女を諭した。

 

 

「それに、今はシロコのこともある。もし私に彼女に制裁を加える時間があるなら、私は2人を助けるために使いたい」

 

「でも先生……、こいつは先生のことも撃ったんだよ?なんでそんなやつを助けられるの?」

 

 

 疑念の籠ったその質問に、私は少し困ったような笑みを浮かべる。……なんで、と言われても。()にはそんなに大層な理由なんてないんだから。

 

 

 

「…………大人の事情(わたしのエゴ)かな。とりあえず、彼女も一緒に搬送しよう。ホシノ、手伝ってくれる?」

 

 

 

 それがどう伝わったのかは分からない。ただホシノは一言「わかった」とだけ言うと、私と一緒に彼女を担いでくれた。それからはアヤネの準備した車にシロコとセキを乗せ、病院へは私とアヤネが随伴し、残りの3人はひと足早く学校に戻って休むこととなった。

 乗せる時にホシノ以外の3人へ説明はしたが、やはりセキを運ぶのには微妙な表情を浮かべていた。特にセリカは信じられないといった心情が見て取れる程。それでも何とか頼み込んで乗せてくれたのだから、彼女たちには後で礼を言わなければ……。

 

 

(……しかしこれは、雲行きが怪しいな)

 

 

 彼女たちとの今後の関係を憂う。その視線の先では、影を差す金床雲の合間を、青い雷光が駆け抜けていた。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「────とまぁ、ここまでがシロコを助けた時の話ね」

 

「あの時はいきなりセキさんを連れてこられたのでビックリしましたが、そんな話があったんですね」

 

「まぁねぇ〜。結局、シロコちゃんの方はそこまで重症じゃないから、病院の方で細々とした処置だけしてもらった って感じだよ」

 

 

 先生が一旦話を締めると、2人から当時の状況が補足される。どうやら先生の判断もあって、私は軽傷で済んだみたいだった。ならもう1人の……セキの方はどうなんだろうか。

 

 

「……セキの方は?」

 

「セキの方はしばらくかかりそうかな。精密検査とかもあるみたいだし、最低でも2日は出てこれないはずだよ」

 

「……ん、そっか」

 

 

 先生の言葉に、私は少し胸を撫で下ろす。……本当になんでか分からないけど、私はセキが無事でどこか安心しているようだった。だったらもう、気にする必要は無い。そう自分の中で結論づけてから、セキのことは思考の隅へと追いやっていく。

 

 

「じゃ、次はセリカちゃんの件だね」

 

「そうだね。ちょうどシロコが目覚める少し前のことだったんだけど……」

 

 

 そう、ここからが本題。セリカやノノミがいない理由が、ようやく明かされるのだ。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「先生のおかげで、これで心置き無く全力で借金返済に取り掛れるわ!」

 

 

 それは、セリカが何気なく発した言葉だった。あれから手当を受けたシロコを学校まで運び、その時点で日も落ちていたので一旦解散したその翌日。未だ目覚めないシロコ以外で集まった対策委員会との会話の中で、その言葉は聞こえてきた。

 

 

「……借金……返済?」

 

「…………あっ」

 

 

 思わず口に出た私の声に、セリカはやってしまったと言わんばかりの気の抜けた声を漏らす。今朝の私は昨夜からドローンを使ってアビドス砂漠のマップを更新したり、その他色んなことをしていたので寝不足気味だ。

 だから最初は自分の聞き間違いか勘違いかと思っていたのだが……。さっきの反応を見るに何か不味いことを口走ったような雰囲気がある。

 

 

「あぁ、それは──」

 

「わわっ!アヤネちゃんちょっと待って!!」

 

 

 さらには何か説明しようとしていたアヤネを遮り、ちらりと私の方を確認してくる。いやいや、今更「聞いてないわよね?」みたいな視線を向けられましても……。

 しかしその反応を見るに、どうもさっきの言葉は借金返済で間違いないらしい。聞き間違いであって欲しかったが、妙に隠そうとするその動きはほぼほぼ肯定しているようなものだ。

 

 

「まぁいいんじゃない?隠すようなじゃあるまいし」

 

「か、かといってわざわざ話すようなことでも無いでしょ!!」

 

「別に私たちが罪を犯した訳じゃないでしょ?それに先生は私たちを助けてくれたし」

 

「そうですよ〜セリカちゃん☆まだ会って少ししか経ってませんが、私は先生を信頼していいと思います!」

 

「うぅ〜ノノミ先輩まで……」

 

 

 それと意外なことに、セリカ以外のメンバーは別に話すことに抵抗は無いらしい。あまり自分たちの恥部を晒すような真似はしたくないだろうと思っていたが、それ程まで私が信用を得ている……と考えた方がいいんだろうか。

 

 

「でも!結局は先生も部外者でしょ!!今までの大人も連邦生徒会も、私たちの学校がどうなっても気に留めもしなかったのに!!」

 

 

 だがやはり、セリカは私を拒絶する。その声には行き場のない怒りと、突然現れて颯爽と問題を解決する大人(わたし)への不信感が現れていた。

 それもそうだ、今まで自分たちで必死に頑張ってきた問題を、今まで助けてくれなかった大人がいきなり現れて1日も経たずに解決しまったのだから。今までの自分たちの努力は一体なんだったのかと憤る気持ちもよくわかる。それに私の場合は、既に彼女に不信感を与える行動を見せてしまっているし……。

 

 

「それに私、アイツを助けたのも納得してないから!!シロコ先輩をあんな目に合わせたのに、なんで…………っ!」

 

 

 なんで、あんなやつ助けたのか。

 

 

 きっとセリカはそう言いたかったんだろう。でもその言葉は、いつまで経っても出ることは無かった。それはきっと、彼女もわかっているからだ。その言葉の先が、何を意味するのかを。だが言えないからこそ、どうしようもない怒りは積もっていくばかりだった。

 

 

 

「ともかく!アイツを助けたアンタを、私は信用しない!!絶対に!!」

 

 

 最後に彼女はそう叫ぶと、扉を勢いよく開けて教室から走り去っていった。

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

「────ってことがあったんだ」

 

「それでその後、ノノミちゃんがセリカちゃんの様子を見るために追いかけて行って、私たちはその間に借金の話を先生にしてたって感じ」

 

「ごめんね。もしかしたらシロコにとっても聞かれたくない話だったかもしれないんだけど……」

 

「大丈夫、むしろ話を聞いてくれてありがとう」

 

 

 申し訳なさそうな顔をする先生に、私は首を横に振りながら礼を言う。アビドス高校の抱える9億6235万円の借金。それを返そうと奔走するのは、2桁にも満たないアビドス高校の生徒たち。そんなだから大半の人はアビドスの地を諦めて、既に自地区の外に出ていってしまった。

 もう、まともに話を聞いてくれる人もない。だから私たちはある意味、精神的にも孤立無援だった。そんな状況でやってきたセツナ先生は、出会ってからずっと親身になって話を聞いてくれていた。最初はかっこいいのか情けないのか、何とも言えない大人だったけど。でも今では信頼できる大人の1人だ。

 

 

「でも、アビドスの状況は私の想像以上に逼迫してたんだね。止まらない砂嵐に砂漠化、それに伴う借金か……」

 

 

 近くの椅子を引き寄せて座りながら、先生は腕を組んだんで唸っている。最初の時もそうだったけど、どうやら先生はアビドスの現状を詳しく知らなかったみたい。

 

 

「……セリカが神経質になってるのも、こうした問題に今までの大人は真剣に向き合ってこなかったから。話を聞いてくれたのは、先生が初めて」

 

「まぁ、そういうつまらない話だよ。だからもし先生が対策委員会の顧問になってくれるとしても、先生は気にしなくていいからね」

 

 

 ホシノ先輩がそう言うと、先生は一瞬キョトンとした顔を浮かべた。しかし次の瞬間には何か思いついたような表情に変わっていて、それと同時に二ッと口角が上がる。

 

 

「ここまで来て乗り掛かった船だ。借金解決とまでは行けないかもだけど、できるだけ状況が好転するよう、私も頑張るよ」

 

 

 それは要するに、私たちを助けてくれるということだろうか。でも先生にはもう、私たちを助ける理由なんてない。アヤネが送った支援要請には、カタカタヘルメット団の撃退以上のものは書いてなかったはず。これじゃ私たちが貰いすぎだ……。

 

 

「ん……でも先生にはもう十分力を貸してもらった。これ以上は先生にも迷惑が……」

 

 

 それをはっきりと先生に伝えるが、先生は顔色1つ変えることなく、逆にイキイキした様子で指を1本立ててからこう言った。

 

 

 

「そう思うならこうしよう。私はこの1件に力を貸す代わりに、君たちから対価を頂く。そういう協力関係を結んじゃおうか」

 

 

 

 先生からの突然の提案に、今度は私たちがキョトンとした表情を浮かべる番になった。

 

 

「協力関係……ですか?」

 

「そう。君たちは私の力を利用して、私も君たちの力を利用する。その方がお互い後ろめたくないでしょ?」

 

 

 そう言って微笑むセツナ先生。確かにそれなら、お互いメリットができて気兼ねなく助けてもらえる。その分私達も先生のために何かをしなきゃ行けなくなるけど、既にヘルメット団を撃退してもらった恩がある。それを返すチャンスがやってきたと捉えるべきだ。

 だがしかし、それは今すぐ実現できるものでもない。今いない2人──セリカやノノミにも話をして、意見を貰ってからじゃないと。それは先生も分かっていたようで、座っていた椅子の背もたれに体重をかけながら、空中の一点を見つめながらぼんやりと呟いている。

 

 

「まっ、その話をしようにも、セリカやノノミが居ない時にするのもね……」

 

「そうだね。また2人も居る時にしたいけど……」

 

「ノノミ先輩は大丈夫だと思いますが、今のセリカちゃんが先生の話を聞いてくれるとは……」

 

「……まずはセリカと仲良くなってからかなぁ。でもあの様子じゃ、信頼してもらうには時間がかかりそうだし……」

 

 

 椅子にもたれながら「う〜〜〜ん」と唸っているセツナ先生。セリカの鉄壁の心の壁(ガード)をどう破ろうか考えているみたいだけど、どうやら上手くいってないみたい。そんな中、先程から静かだったホシノ先輩の方を見ると、何やらニヤニヤと笑っている。どうもその顔には、何か秘策があるような感じがした。

 

 

「ふふふ……仲良くなるためには、まず相手のことから知らなくちゃね〜」

 

 

 そう言うとホシノ先輩は、その笑顔をこちらに向けながら私にある質問を投げかける。

 

 

「シロコちゃん、お腹は減ってる(・・・・・・・)?」

 

「……!ん、減ってる」

 

 

 ホシノ先輩の意図を読み取った私は、しっかりとその質問を肯定した。実際に昨日の夜から何も食べれてないし、今にもお腹が鳴りそうだった。病み上がりで起き抜けに食べる物としては少々重たいけど、今の体の調子なら全然問題は無い。

 

 

「それじゃ行こうか〜。アヤネちゃん、ノノミちゃんに声を掛けてくれる〜?」

 

「はい!わかりました!」

 

「待ってホシノ。どこに行くんだい?」

 

 

 意気揚々と椅子から立ち上がるホシノ先輩に、この中で唯一状況についていけてない先生が問いかける。先生はつい昨日アビドスに来たばかりだから、きっと私たちが今から行こうとしているところも、セリカとの関連性も分からないだろう。

 

 

「うへへ……それはね〜?」

 

 

 だからみんなを代表して、ホシノ先輩が教えてあげた。

 

 

 

 

 

「セリカちゃんのバイト先の1つ、『柴関ラーメン』だよ!」

 

 

 

 

 

 扉に手をかけながら笑顔と共に人差し指を立てるその姿は、まるでイタズラを画策する子供のようだった。

 

 

 

 

 

 







▽天守セツナ
ゲーマーだがギャルゲーは苦手
自分の行動が相手にどう影響するか考えはするが、大抵考えるよりも先に身体が動いてるタイプ。

▽砂狼シロコ
ん、完全復活、パーフェクトシロコだよ。
病み上がりでラーメンを食べようとするぐらいにはタフ。だが昨日の戦闘から何やら違和感があるようで……?

▽小鳥遊ホシノ
うへ、○す。
引き金を引かなかったのは、シロコちゃんの命があったからだと思え。

▽十六夜ノノミ
柴関ラーメンですか?行きましょう〜☆
アヤネの連絡後、二つ返事で即了承。シロコ負傷時の真剣な対応から、セツナのことは信頼しつつある。

▽黒見セリカ
信用しない!!本当に!!絶対に!!
怒りのまま教室を出た後、頭を冷やしてからいつものバイト先へ。本編のストーカーまがいの行為は受けていないが、それ以上に悪質をことをされているのを本人は知らない。

▽奥空アヤネ
ごめんね……セリカちゃん。
セツナが協力することになったので、終わりのない現状に希望が見え始めた。お昼の柴関ラーメン行きには内心で親友に謝りつつ、ノリノリで話に乗った。

▽リーダー先輩
胸は大きくないがいい女
セキのいないヘルメット団を従え、決意を新たに行動を起こす。その結果は、どのように返ってくるのか……。



あとがき

ちょっと筆が走ったので、意欲のあるうちに完成させました。ここからは新生活もありますので、またしばしば間隔があきます……┏○ペコッ

ドレス便利屋復刻に伴い、ドレスサオリが新規実装されるみたいですね。まさかの大穴登場に弊シャに激震が走りましたわ。

石?そんなもの、うちにはないよ(´・ω・`)



次回、第7話「セリカの奇妙な1日」


「あなたも分かるよね。大切な人を傷つけられる痛みが」




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