アビドスの“黒影”   作:オサシミの化身

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転入

 

 

アビドス高校学校。それは、俺が紆余曲折を経て入学することになった学校で、周辺地域諸共砂漠に飲まれる形で退廃した学園自治区。

 

かつてはキヴォトスでもトップレベルのマンモス校であったという話も聞いていたが、今は見る影もない。先輩は1人だけ、俺と同じ同級生も1人だけだと聞いている。

 

「さて、ここか」

 

ジャリジャリとした砂だらけのアスファルトをしばらく歩いて到着したのは、これまた砂に埋まりかけている、比較的小さめの校舎だった。

 

あの人から渡された案内の書類では校門前で待っているようにとある。誰かしらが迎えに来てくれるのだろうか。だが、今のところ周囲に人の気配は無い。

 

─────否、後ろか

 

「………おっと」

「気づきましたか」

 

尋常ではない“神秘”と同時に背中に何か固いものを突きつけられる。先程までは微塵も感じなかった強者の気配。あまりにも鋭い殺気に、暑さとは違う汗が頬をつたって砂に落ちた。

 

思わず左腰へと伸ばしかけた手を抑え、できるだけ動揺を表に出さないよう、そして相手を刺激しないようそっと両手を上にあげて、ゆっくりと振り返る。

 

背後を取っていたのは中学生……、いや、下手したら小学生に見えるほどに小柄なビンク髪の女子生徒だった。

 

 

「……なんですか」

「いやぁ、おにーさんってば、いきなり銃口突きつけられてびっくりしちゃったんだよ。ほらほら、ちょっとそれ下げてさ、ゆっくりお茶でもどう?今ならなんと、懐が潤ってるおにーさんが何でも奢っちゃうよ」

「……ごちゃごちゃうるさい不審者ですね」

「う、うるさいって酷くなーい?てか不審者じゃないって」

「変な動き見せたら撃ちますよ」

「わかったわかった。だからそんなにグリグリしないで。地味に痛いから」

 

彼女は刺すように鋭い目つきをさらに細め、今度は振り返った俺の胸に銃口を押し付ける。手にする武器はショットガン。彼女がかるく半身をひけば射撃体制、俺の肩から下腹部あたりまでのいずれかは至近距離からモロに散弾を浴びることになるだろう。そうなればさすがに受けるのは辛いし、避けるのは不可能。

 

()を使えば迎撃できなくは無いが、間違いなくショットガンを盾にされる。なんの心構えもなしの斬鉄は勘弁願いたい。それに、転校初日に校門の前で刃傷沙汰なんてシャレにならない。

 

そうこう考えていると、少し目尻を下げた彼女が。

 

 

「それ、そのブレザー。アビドスの制服……?」

「あっそうそう!これ、アビドスの特注男子用制服なのよ。おにーさん、転校生だから」

「転校生……。で、結局あなたはどこの誰ですか。ヘルメット団や傭兵、にしては身なりが綺麗すぎるし。それかPMC?でも、それにしてはマヌケすぎる……」

「ちょっとちょっと、マヌケは酷くない?ここの敵対勢力じゃないしさ。てか俺転校生だって」

「……ですが、そんな話、微塵も聞いていません」

 

ようやく銃口をさげてこちらの話を聞く姿勢になった彼女にひとまず安堵する。

 

だが、転校生のことは聞いていないという彼女に首を傾げる。

 

 

「え?俺、ここの生徒会長さんに許可貰えたから遠路はるばるやってきたんだけど……」

「生徒会長から?」

「ほんとに、なにか聞いてない?」

「……はい。なにも」

 

 

……いや、おかしいだろ。もしかして俺、高校間違えた?あの人、アビドス高校の生徒会長じゃなかった……?

 

まさか、と言った顔をする彼女に聞いてみた。

 

 

「ねぇねぇ、ここってアビドス高校だよね」

「はい。アビドス高校です」

「ここの生徒会長って青っぽい髪した人?」

「そうですね。ロングヘアの」

「なんかドジっぽい、というかなんもないとこですっ転んでたしドジっ子?」

「そうですね」

「苗字は梔子で名前はユメ?」

「はい。梔子 ユメであってます」

「あっ、あとスーパーボイン。お腹周り細いのにケツもデカくて……あれだ、ボンキュッボン!って感じの。」

「……そうですね。この変態!」

「ちょ、そんな睨まないで、男の子だからしかたないの、つい見ちゃうの!……あっ、そうか、君に言うべきじゃなかったね」

「なっ!?ど、どこを見て…それを…、それが本性ですか……っ!」

 

 

ふたたび銃口を向ける彼女に思わず後ずさる。目がキマッている。セーフティが解除され、ゆっくりと引き金に指がかかり、今度こそ発砲しそうな勢いだ。

 

それと、どこがどうとは言わない。なんせ彼女は全体的に小さいのだから。でも俺は紳士だ。彼女の将来性に期待ということで。

 

 

「なに、ひとりで納得してるんですか!」

「あっちょ、それはらめぇぇぇ!」

「ふ、2人とも待ってぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー怖かった、すっごく怖かった!」

「ご、ごめんね?いきなり銃口向けられて、怖かったよね……」

「ホントだぜ!……あっちょ、冗談。冗談だから泣きそうにならないで?」

「ごべんね、ごべんねジンくぅん!」

「ガチ泣き!?」

「うぇぇえん、ごべんなざい!」

「うわぁあぁ、くっつくなぁ!」

 

 

顔を涙の鼻水と砂でぐちょぐちょにコーティングしながら突っ込んで行くユメ先輩。そんなユメ先輩に抱きつかれるあの男。

 

身長は比較的高身長のユメ先輩より大きい、175cmくらいだろうか。一見線が細いように見えるが、肩周りやまくり挙げられ顕になっている前腕をみるとかなり鍛え込まれている。

 

顔立ちも、つり目でキリリとした顔立ちだが、常に自然な笑顔が張り付いている。一方で、軽い話口調も相まって若干の胡散臭さを感じなくもない。

 

装備はとしては、特注だと言う男子用ブレザーと、ワイシャツとスラックス。武器としてベルトに通して太ももで固定される右腰のホルスターのSMGが一丁。胸元の膨らみ的に、チェストホルスターで左脇辺りに拳銃が一丁隠されているだろう。変わっていることといえば、左腰に長短合わせて2振りの刀を佩いていることだろうか。

 

百鬼夜行辺りから来たのだろうかと考えをまとめ、今だにギャーギャーと騒ぐ2人を見る。ようやく離れたユメ先輩の鼻と男のブレザーに一筋の鼻水の橋が渡り、それを見た男が真顔で。

 

 

「うわっ、きったね」

「あぁ、せっかくの新品のブレザー!ご、ごめんね!」

「涙でこれ、シャツまで濡れてんじゃ……っ!?おいやめ、ハンカチで塗り広げるなぁ!」

「広がっちゃった……うわーん、どうしようホシノちゃん!」

「……とりあえず鼻水とか拭いてください」

「そ、そうだよね!……ごしごし」

「てか、そのハンカチ俺のじゃん!?」

 

─────話が一向に進まない。

 

いつの間にか手に入れた彼のハンカチで顔を拭くユメ先輩。まぁそこはいいです。

 

 

「それでユメ先輩、こちらの方は?」

「あっ、えっとね、この子は黒川ジンくんって言ってホシノちゃんの同級生だよ」

「改めて、黒川ジンです。どーぞよろしく!キヴォトスの外から来たのはいいが、俺男じゃん?入学できる学校がなくてな。頼みの綱のミレニアム断られて彷徨ってたら、ぐーぜんユメ先輩と会って、うちに来ないかって誘われたんだよ」

「そんな話、1度も聞いた事ないんですけど」

「うぅ、ごめんねホシノちゃん、伝えるの忘れてた」

「「あ、やっぱり(ですか)?」」

「ふ、2人してひどい!」

 

 

男改めて黒川と揃ってそう言い、ユメ先輩が不貞腐れた。

あーわかる、そういうタイプだわ。となんだかユメ先輩のことをわかった気になって頷いている黒川にイラッとするが、とりあえず置いておこう。

 

ふと黒川がこちらに向き直った。

 

 

「自己紹介がまだでしたね。小鳥遊ホシノです」

「おっけ、ホシノちゃん。俺のことはジンでいいよ。もしくはお兄ちゃん。突然で悪いけど、これからよろしくぅ!」

「……分かりました。ジン」

「おう!」

 

 

ニッカリと笑ってグッとハンドサインを作ったジンを見て、絶対に兄だなんて呼んでたまるかと心に誓う。

 

 

「あそーだユメパイ!」

「ゆ、ゆめぱい!?」

「ユメ先輩だからユメパイ。じゃなくて、ハンカチ返して?」

「あっ、えーっとぉ……、こんなんだけど」

「サンキュ、っと、ベッタベタ!?こんなにするなら自分の使えよ」

「えへへ、その、ハンカチ持ってなくて……」

「─────うわぁ、もしかして、お手洗いの後手洗わないタイプ?」

「……ユメ先輩、女としてそれはどうかと」

「ち、違うよ!手は洗うよ!」

「わかった、手洗っても髪型直すフリだけしてそのまま出てくやつだ」

「いますよね、そういう人。私はどうかと思いますが」

「ねぇ、違うの2人ともぉ!」

 

 

─────黒川ジン。一応、貴方のことは信じます。でも、裏切るならその時は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノちゃーん!ねぇ、ホシノちゃんってばぁ!」

「ホッシノちゃーん!視線プリーズ!」

「……やかましいですね、もう。どうしたんですかユメ先輩、ジン」

「見て、見てこれ!」

 

そう言って黒髪と青髪を激しく前後し始める嫌にハイテンションな男女に、勉強中であったホシノはひどく冷ややかな視線を送る。

そんなホシノを気にもせず、尚も頭を振り続ける。

 

 

「「高速ヘドバン!」」

「……2人して、なにショーもないことしてるんですか」

「ショーもないとはなんだホシノ」

「そうだよホシノちゃん……。せっかくジンくんが新しいトレーニング考えてくれたのに」

「……トレーニング?」

「あっ、それ言っちゃダメだって」

 

緩やかなヘドバンに移行したユメが不思議そうにしたのをきっかけに、ホシノは手にしたペンを傍らに立てかけてあった銃に持ち替えて、その先でジンを捉える。その時には既にヘドバンを辞めた彼の両手は上に向けられていた。

 

 

「またユメ先輩を騙して……」

「え、騙して……?ど、どういうこと?これ、新しいトレーニングって」

「騙したんじゃないって。ふざけてヘドバンしてるの見られてさ、誤魔化すためにトレーニングって言っただけ」

「だ、騙したなぁ!」

「というか、なんでトレーニングなんですか」

「あー。試しにやらせてみたら、こう。胸が、な?」

「─────あ、あなたって人はっ!」

「やっぱり!?なぁんか、おかしいと思ったんだよね!」

「おかしいと思うならやるなよ」

「あたっ」

「それ以前にユメ先輩に嘘吐くなこのド変態!」

「うごっ!?」

 

 

呆れたような顔をしながら刀の鞘でユメの頭を小突くジン、その腹にホシノはショットガンをねじ込んだ。

苦悶の表情を浮かべ腹を抱えるジンにホシノはため息1つ、ユメはポカポカと彼を叩いた。

3人とも怒りながら、呆れながら、苦しみながらとバラバラながら、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

「もう、ジンくん!」

「ユメ先輩も、ジンの言うこと真に受けちゃダメですよ」

「ひ、酷くない……?」

 

 

 

─────黒川ジン、アビドス高校に転校して1週間。いい感じに馴染んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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