ちょっととびます
─────アビドス高等学校に残された3人で過ごすくだらない日常は、今でも夢に見るくらい毎日が記憶にこびりついている。今の私を形作った、ユメ先輩とジンとの毎日が。
突然天然ボケを爆発させるユメ先輩。慌てる先輩を見て大笑いするジンを私が諌めたこともあった。さすがに笑いすぎってくらい笑うし、ユメ先輩も一緒になっちゃうから収拾つかなくなったんだよね。つられて私も笑ってたけど、2人とも腹筋つったとか言って悶絶してて。おかしかったなぁ。
私が生徒会室に入ったら、2人があられもないでいたこともあったね。ユメ先輩は下着姿でジンは……全裸。ユメ先輩やっぱり大きかった……じゃなくて、ジンのもすごく大きくて……。あーもう、変なのが頭に浮かんじゃったじゃん!……あれより倍とか大きくなるんだよね?─────うへぇ……。
借金返済のために賞金首を捕まえようとブラックマーケットに行ったら、ヴァルキューレからの依頼で別の賞金首を捕らえに来てたジンと偶然合流して。そのあと何故か結託してた賞金首2人にユメ先輩がさらわれて、何故か下着姿に剥かれてて。それにブチ切れたジンと私が介入してきたマーケットガード諸共敵を殲滅したりもしたっけ。
それと、他校との会合でトリニティの生徒をナンパするジンに、それを見たユメ先輩と私がお説教をしたこともあったっけ。ジンってばスケベだったからなぁ……。今思い出すと、いっつもユメ先輩の胸にデレデレしてた。おっきいのが好きなんだよね。…なんだか、今でもムカつくなぁ。
違う、ユメ先輩がデカすぎるんだ。たしかにジンはスマホでエッチなのよく見てる変態だったけど、ユメ先輩の胸は自然と見ちゃうよね。……私でもたまに「でっか」って思う時あったし。
でも、ジンはユメ先輩の胸ばっかり見すぎです!ユメ先輩もそう思いますよね!
……そうだ、3人で水族館に行ったりもしたよね。3人でシラトリ区に行った時、ユメ先輩がくじ引きでペアチケット当ててきてさ。私たちはペアチケットで、ジンは自腹。すごく楽しい時間だったし、あの時2人から貰った小さなクジラとイルカと鮫のぬいぐるみ、大切な宝物なんだよ。今もいつも一緒に寝てるんだ。
─────私とジンが2年生になった年には新入生の子が来てくれたよね。シロコちゃんとノノミちゃん。
ノノミちゃんはあんまり交流なかったと思うけど、ジンのことよぉく覚えてるんだよ。─────視線がえっちだったって。
あとはシロコちゃん。ジンがよく煽ってたから「今なら勝てる」ってよく言うんだよ。シロコちゃん、かなり強くなってきたけどまだまだだしねぇ。それに、ジンは私より強いの、知らないのかなぁ。
あー、でも、もうノノミちゃんはジンに会わせたくないかな……。ほら、ジンってほんとおっきなおっぱい好きじゃん?ノノミちゃん、あの時からさらにおっきくなったし。うーん、シロコちゃんと、微妙なとこだけどアヤネちゃんも怪しい。…セリカちゃんくらいしか合わせられないなぁー。
─────ねぇ、聞いてる?いつもみたいに「ぼーっとしちゃってた」と「わりぃ寝てた」とか、許さないよ?
行方不明になってたユメ先輩を砂漠で見つけたあと、ジンが死んだってニュースと紙切れだけの遺言が届いて2年が経った。
私達も、もう3年生。今のアビドスは私含めて5人、2年生のノノミちゃんにシロコちゃん。1年生のアヤネちゃんにセリカちゃん。みんなで協力して借金を返済してるんだ。
でも、それもそろそろ限界だよ。最近になってヘルメット団の襲撃も激しくなってきた。ゲヘナどころか他地区からもヘルメット団が流れてきてるんだ。多分、ジンの予想通りカイザーも関係してると思う。
カイザーローンも、毎月の利子も増える一方で、正直もう借金も返せる見込みないんだ。ジンが頑張って稼いだお金も、結局返済と弾薬費でなくなっちゃった。
─────ごめんね。きっとゆっくりと休んでるのに、こんな話するもんじゃないね。
アビドスのことはもう少し頑張ってみるからさ。そっちから見ててね。あっ、あとユメ先輩がそっち行ってたら一緒に待っててね。まぁ、わたしもそのうち行くと思うからさ。
─────そろそろ、後輩に呼ばれてる時間。…お墓参り、遅くなっちゃってごめん。
─────またね、ジン。
△
『あっホシノちゃーん!聞いてよ、ジンくんってばぁ!』
『今度はなんですか』
『おいおい、言いがかりはよせってのっ』
『ひぃん!見たよねホシノちゃん、ジンくんがまた打った!』
『またぁ?なんの事だか知らねぇなぁ……ふぁーぁ』
『もー。あれだけ寝てまだあくびできるの?』
『もうお昼ですよ。まったく、だらしないですね』
『パイセンが変に起こすからもの足りねぇんだよ…』
─────ぱーい。しのせんぱーい
『いぇーい、水、族、館っ!』
『はやく、はやく入りましょうよ!!2人とも、入館券は準備しましたか!?』
『随分と、元気だなぁ。まだ朝の9時だぜ?』
『ジン、なんでそんなにテンション低いんですか!水族館ですよ水族館!』
『おいおい、俺がおかしいみたいに言うなよホシノ。知ってるだろ?朝は弱いタチなんだよ。……それより、パイセン追いかけねぇと』
『なんで、って、声が聞こえないと思ったら、もう、あんな遠くに』
『人波に流されちまったな。パイセンが迷子になる前に捕まえるぞー。おーい、ユメパーイ!』
『ちょっとジン、あーもう。ユメ先輩っ!ジンっ!』
─────ホシノ先輩、どこにいるの?
『あっ、ジン!こっち!』
『ホシノっ!と、パイセン……?─────あぁ、そうか、そうだな。……ったく、探したぜ。随分と、見違えちまったなぁ……』
『ジン、ユメ先輩。やっと、見つけたよ』
『……俺の知り合い、ゲヘナの救急医療部のやついるから。そいつに連絡して、すぐ迎えに来てもらう』
『お願い…します……』
『座標、を、……。くっそ、なんで涙が止まんねぇんだよ……っ!』
『じ、ん。わ、私のせいで、ユメ先輩は』
『やめろ、そんな言葉聞きたくもねぇ。誰が悪いとか、そんなもんねぇんだよ……っ!』
「だめ、やめて」
『まぁた、やってるの2人ともぉ。暑いし、もうやめなよぉ』
『ん、ジンはずるい』
『ははっ、なんとでもいいなチンチクリン。なんで攻撃当たらねぇか教えてやろうか?ちいせぇからリーチがみじけーんだよ』
『すぐにジンより大きくなるから問題ない。成長期だから』
『……成長期でもジンより大きくなるの難しいんじゃないかなぁ。ジンっておじさんより40cmくらいは高いんだしさ』
『……ん、それはまだわからない』
『黒川先輩、シロコちゃん。お茶持ってきましたよ〜』
『うっお、スゲェ揺れ……。じゃなかった、お茶助かるぜぇ!』
『はい、どーぞ♤』
『……ジンはおっぱいが好き?つまりおっぱいが大きくなれば勝てる』
『シロコちゃーん?』
『大丈夫、今の時点でホシノより大きい』
『シロコちゃん?』
『どうしたのホシノ。ホシノの胸はないから、そういうのはノノミから聞く』
『あ、あはは……』
『ぶっふぉ!ない、ないっておま、お前……っ!』
『……2人とも、ちょ〜っと、おじさんとお話しよっか』
『やっべ、逃げるぞシロ!』
『ん、ジン、まって』
『だめ……っ!』
『ホシノ先輩、どうしたの?』
『ホシノ先輩……?』
『やー、こんなのが郵送で届いてね〜。どこのいたずら書きかなぁ』
『これは、遺言書……?黒川、ジン。ジン先輩?』
『まったく、2日くらい連絡ないと思ったらこれだから、ヤになっちゃうねぇ。ま、ジンも色んなとこに恨まれてるだろうし仕方ないけどさぁ』
『……なんだか、やり方が陰湿すぎます。それに、何か嫌な予感が……』
『……ん!?の、ノノミ、ホシノ先輩、これっ』
『シロコちゃん?えっと、昨夜未明、ハイランダー鉄道学園所有車両がゲヘナ学園自治区で原因不明の爆発事故。負傷者多数……─────っ!?身元不明の男子生徒、死亡を確認!?』
『ジン先輩、死ん……ぇ?』
『そんな、そんなことが……っ!す、すぐに情報を』
『あ、─────う、あぁ、─────え?じ、ん、?』
『っホシノ先輩!?』
『ホシノ先輩!』
「ユメ先輩。ジン。私、どうすればいいんですか」
『ホシノちゃん』
『ホシノ』
『ホシノちゃーん!』
『ホーシノ!』
『ホシノちゃん…?』
『ホシノー?』
「もう、ホシノせんぱーい!」
「お買い物行きますよー☆」
「ん、はやくして」
「あはは、私、車回してきますね」
今までの記憶とジンとユメ先輩の声が聞こえなくなった。そして変わるように後輩たちの声。校舎の裏手に作った小さなお墓に、もう一度手を合わせて立ち上がる。こうしてここの砂掃除に来ると、何時も長時間立ち止まってしまう。
「ほほぉ〜い、すぐ行くよぉ!」
セリカちゃん、カンカンに怒ってるだろうな。そう思いながら、ワイシャツの下に潜ませたネックレスへと手を伸ばす。ジンから預かっていた、彼愛用のシルバーのチェーンネックレス。それとユメ先輩に2人でプレゼントしたエメラルドの指輪。
これを身につけていると、なんだかジンとユメ先輩がすぐそこにいるような気がして、落ち着く。部屋にあるジンの服もかなり匂いが薄くなってきたから、今のところこれが一番いい。
立ち去ろうとして、もういちどだけお墓に振り返る。遺髪も遺骨も何も入ってない。名前すらも刻まれていない、私たちで作った、石を置いただけのお墓。
「じゃ、行ってきます」
そう一声かけて、砂だらけの校舎裏を後にした。
これからの参考にしてもらうのでアンケートよろしくお願いします!