アビドスの“黒影”   作:オサシミの化身

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ゲヘナ(過去)

 

 

 

アビドス高等学校は生徒数3名のみという極小数校でありながら、そのうちの2人でゲヘナの“万魔殿”と風紀委員会の全戦力とがぶつかり合えば、ゲヘナの損失は計り知れないものとなる可能性が高い。

 

アビドス生徒会 会長 梔子 ユメ

彼女に関しては目立った実力は見受けられない。戦闘、謀略においてそこまで秀でた何かは持ち合わせていないだろう。しかし、アビドスにおける中心人物は彼女だ。彼女がいなければ、今頃アビドスは存続していなかっただろう。

 

同生徒会 副会長 小鳥遊ホシノ

最初にアビドスの警戒度をあげることとなった存在。非常に小柄ながら、敵陣を食い破る苛烈な戦闘スタイルと目標を確実に仕留める射撃と速射、素早いリロード、野戦砲の榴弾を素手で凌ぐ異常な防御能力と戦闘スキルが非常に高レベルで仕上がっている。また、戦闘時においても常に冷静、基本的に取り乱さずあらゆる状況に的確な対応を見せる柔軟さと状況把握能力も恐ろしい。

 

同生徒会 書記 黒川 ジン

半年ほど前にアビドスへ転入してきた生徒。キヴォトスにおいて非常に稀有な人型男性であり、出身もキヴォトスの外だと考えられる。しかしながらヘイローを持ち、ずば抜けた戦闘センスと異常な身体能力から最高レベルの警戒度。太刀と脇差、3点バーストのサブマシンガンを使用する超高速戦闘はまともに彼を捕えることを許さない。黒い影にしか見えない、ということもあって“黒影”という2つ名も出てきているらしい。ヴァルキューレ警察学校や新設されたSRT特殊学園との合同作戦にも参加しているという。

 

 

アビドスの現状を鑑みると、ゲヘナと敵対する可能性は非常に低いということもあって警戒度は低く設定されている。だが、もし敵に回るとしたら、トリニティ総合学園よりも遥かに警戒するべき敵となる。

 

もし敵となる場合、梔子 ユメを最優先に捕縛、小鳥遊ホシノと黒川ジンの両名はゲヘナの全戦力を持って分断の後、各個撃破が有効と思われる。その際には─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、こんな調査してたの。天下のゲヘナ様が」

「天下の、なんて言われるほどじゃないわよ」

「いやいや、うちと比べたらミレニアム様トリニティ様ゲヘナ様ってか。3割くらい生徒分けて欲しいくらいだぜ」

「うちの生徒で良かったら持って行ってちょうだい。数ばかり多くて困っていたのよ。でも、問題ばかり起こして面倒よ?」

「……それもそうか。やっぱパス」

「そう、相変わらず言うことは勝手ね」

 

 

そう言って1枚の書類を片手に彼は笑う。くしゃりとした、子供っぽい笑み。初対面に使う貼り付けたようなのじゃない、親しい相手にしか見せない彼の笑顔だ。

 

 

「にしてもそうか、俺とホシノが警戒対象ねぇ。だがユメ先輩を狙うのはいただけねぇなぁ。てか、こんなの見せてよかったの?」

「見せたんじゃないわ。あなたが勝手に見ただけよ」

「物は言いようってか」

「それにそこまで機密って訳でもないわ、元から問題ないのよ」

「俺たちのことは所詮些事ってか」

 

 

そう言いながら彼はショートケーキを1口頬張った。

 

今日は珍しく非番の休日。少し前にオープンして話題になっていたゲヘナの郊外自治区にある真新しいカフェの片隅で、私たちはコーヒーとケーキを楽しんでいた。

 

とはいえ、残念ながらあまり役に立つとは言えない先輩方の仕事をいくつか引き渡されてしまったため、片手間に書類整理を進めながらという形にはなってしまったのが残念だ。誘ってくれた彼にも申し訳ない。

 

 

「ごめんなさい、せっかく誘ってもらったのに、書類なんて─────」

「おっ、次俺これ頼も。ちゃんヒナは?」

「……まだ、いいわ。それとちゃんひな?っていうのはやめて」

「はーい。あっ、コーヒーのおかわりは?」

「コーヒーは頂こうかしら」

「了解、店員さーん!」

 

 

─────とくに、気にしてなさそうね。でも、彼らしいわ。

アビドス高等学校、警戒対象の黒川ジン。目の前でコーヒーを啜る彼はツンツンとした黒髪と2振りの刀が特徴の男子生徒で、私の数少ない友人だ。

 

 

「そういえば、この間うちの自地区に進行してきたヘルメット団どうなったよ」

「主犯格と幹部は退学処分、それ以外も停学処分になったわ」

「そうか、もう攻めてこなけりゃいいが」

「ブラックマーケットに逃げ込んでいなければその心配はなさそうよ」

「ふーん?あっそういや、この前のD.U.シラトリで暴れてたヤツら、結局どうなったよ、ラミニタウンのレストランで爆破事件起こした件」

「彼女たちなら確か、次の日には脱走したはずよ」

 

 

瞬間、彼は勢いよくコーヒーを吹き出した。

 

先日正午、ラミニタウンのとあるレストランが爆破された事件。気軽に楽しめる超高級フレンチという触れ込みで人気を博していたそのレストランが、何故かとあるゲヘナ生徒によって爆破、破壊された。それを偶然居合わせた彼とヴァルキューレの生徒が捕縛したのだ。

 

 

「ちょ、なんで!?」

「なんで、って。そうね、強いて言うならゲヘナだからかしら」

「それで納得できるかぁ!」

「それから彼女たち、部活申請もしていたわ。美食研究会って、キヴォトス中の美食を堪能する予定らしいわよ」

「そういや捕縛した時にも同じようなこと言ってたな……。でも、さすがにあんな奴らの部活が認可されるわけ」

「認可されたわ」

「意っ味わかんねぇ!?」

 

 

物静かなカフェの中であることを考量したのか、小声で絶叫するという変わり技を披露する彼に同情する。私はもうゲヘナに影響されてしまって特に思うところは無いが、キヴォトスの外から来た彼からしたらとんどもない話だろう。

 

 

「レストラン爆破した危険人物が脱獄して無罪放免で部活設立……。まぁいいや」

「考えるのやめたわね」

「あっ店員さん、このモンブランとアイスコーヒー、追加でよろしくぅ!」

「はーい」

「あと、かわいい君のスマイルも欲しいな☆」

「何を言ってるの」

「か、かわいいって……、いきなりそんなっ」

「あなたもそんなに動揺しないの。この男の軽口に付き合ってたらキリがないわ」

「軽口って、そりゃねぇぜ」

「じょ、冗談ですよねっ、し、失礼しまーすっ!」

 

 

小走りで去る店員のチョロさに呆れるが、同時にこの男のこういうところには驚かされる。この男、こういった歯の浮くようなセリフを言う時があるのだ。

 

 

「それ、やめた方がいいわ。似合ってない」

「そうかなぁ」

「えぇ、不愉快だわ」

「そんなに!?」

 

 

私と初めてあった時も、ふとした気を抜いた時も、それとなく甘い言葉を吐いてくるのだ。何度心を掻き回されたことか……。

 

 

「あなた、いつか刺されるわよ」

「刺される!?」

「えぇ。キヴォトスは女ばかりなのよ?みんなにいい顔してたら、いつか痛い目見るわよ」

「うげっ」

 

 

マジか、と項垂れる彼を見ながら、苦味の強いコーヒーの最後の一口を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、貴方は私を残してどこかに行ってしまうのかしら。私は、こんなにもあなたの事を想っているのに。

 

なんで、貴方は何も言ってくれなかったのかしら。私は、あなたの事をもっと知りたかったのに。

 

なんで、貴方はもっと逢いに来てくれなかったのかしら。私は、もっと貴方と遊びに、デートをしに行きたかったのに。

 

 

貴方は、本当に色んな女性と交流があったわね。アビドスの生徒会長に小鳥遊ホシノ、後輩ふたり。私とアコ。救急医学部の氷室ヒナ。美食研究会のふたり。トリニティの正義実現委員会。ミレニアムのC&C。ヴァルキューレの“狂犬”。SRTの特殊部隊。

 

貴方はいつも誰かのために全力で、中には貴方に対して好意を抱いていた子も少なくはないはず。それこそ、私が貴方と一緒になる前に、他の子が一緒になるんじゃないかと思うこともあった。

 

 

だから、私は貴方を保管(・・)することにした。

 

あの日、ゲヘナで起きた鉄道車両の爆発事故。その実態は、SRT特殊学園とヴァルキューレ警察学校、ハイランダー鉄道学園、ゲヘナ学園風紀委員会の4校が合同となって決行した、とある凶悪犯の捕縛作戦。

 

主力である貴方は対象を打ち倒し、バックアップとして控えていたSRTの隊員に対象を引き渡した。そこで、原因不明の爆発事故が発生したのだ。

 

これも、“雷帝”によるものだったのかもしれない。ちょうど彼の居た車両は、一部が原型を留めないほどの大爆発だった。彼を助け出そうとするヴァルキューレと特殊部隊を置き去りに、調査に乗り出そうとするハイランダーを押しとどめ、扉を破壊して飛び込んだ燃え盛る車両の中で、私は貴方を見つけた。

 

 

 

折れた刀を手にした、意識のない血まみれの貴方を。

 

時折、アビドスの子達の名前を口ずさみ、無くなった両脚の痛みに顔を顰めたまま顔が固まっている貴方を。

 

 

 

 

─────貴方の愛していた梔子 ユメが回復に向かっていることを知らずに死んでしまいそうな、貴方を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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