「しつこい……っ!」
「ぐはっ」
「がぁ!」
赤いヘルメットを揃って身につけた集団のうち2人が散弾を受けてくぐもった声を上げながら倒れる。これで私が倒したのは5人目だ。
“ガクブルヘルメット団”。そう名乗ってアビドス高校に奇襲攻撃を仕掛けたのは、ゲヘナから流れ着いた不良生徒の一団。
屋上から確認したのは15人。そのうち校舎に侵入してきた5人は今私の目の前に倒れている。残りの10人ほどはまだグラウンドで様子見をしているだろうか。
「ほ、ホシノちゃん!」
「ユメ先輩。まだ敵はいます。隠れていてください」
「いや、でも」
「でもじゃないです。危ないですから隠れて」
「ジンくん、グラウンドに行っちゃったの……」
「は?」
少し開けられた生徒会室のドアからひょっこりと顔を出したユメ先輩がおずおずとそう言い、私は耳を疑った。
ジンはユメ先輩と比べれば戦闘慣れしてそうな雰囲気があり、体つきはしっかりしていて運動神経は良さそうだ。だが、実戦となると話は変わってくるだろう。まだ、ジンの戦闘スキルに関しては把握していなかった。
それゆえにジンもユメ先輩と待機するよう伝えていたはずだが、どういう訳か彼はグラウンドに降りたらしい。
─────なら、ゆっくりしてる場合じゃない!
「ユメ先輩、待っててください。今から私もグラウンドに」
「っ!銃声……。うん、ジンくんのこと、お願い!」
「あぁもう、あのバカ……っ!」
彼が転校してきて2週間、気に入らないがユメ先輩はあいつの事を気に入っていた。私も、まぁ、嫌いでは無い。
だからこそこんなことで怪我されたり、最悪死なれたりでもしたら目覚めが悪すぎる。グラウンドから響いたであろう銃声に走る足を焦らせた。
△
「なんだ。もう終わりか」
「く、くそぅ……」
「なんなんだよ、こいつ……」
─────どうなっている?
アサルトライフルと3点バーストの射撃音を聴きながら、3分とかからずグラウンドに到達したホシノを待っていたのは、息もたえだえに倒れる10人と余裕綽々といった様子で立ち尽くす1人だった。
「あんだけ息巻いておいてこれか、笑わせてくれるな。……いや、いくらキヴォトスと言っても、雑兵じゃこの程度か」
立っている1人は黒川ジン。右手に持った刀を鞘に納め、左手のマシンガンで1度肩を叩く。遠目に見ても傷や怪我などはなさそうだ。
一方の倒れている方。校舎へと突撃させた鉄砲玉を除くヘルメット団の本隊たち。それぞれが持っていたであろうカスタマイズやデコレーションを施された銃は、その全てが重心半ばあたりのどこかしらから見事に両断され、その持ち主と砂の上に沈んでいた。
周囲には硝煙の匂いが残り、足元にはサイズの異なる空薬莢と両断された鉛弾が。さらによく見るとかち合い弾だろうか、ひしゃげた弾丸が転がっている。
「じ、ジン?」
「ホーシノ。遅かったじゃない?もう全部終わらせたよ」
「終わらせたって、10人を相手に……」
「まぁ?戦闘能力についてはちょっと自信あってね。このぐらい、なんてことないよ」
平然とそう言い切るジンにホシノを目を見張る。
1対10。それだけの人数差があれば、流石のホシノも多少は苦戦する。被弾からのダメージこそなけれど、倒し切るのはめんどう。それをジンは見た目無傷で、それもものの数分で鎮圧してみせたのだ。
ましてやジンが持つのは刀とマシンガン。刀は強力な武器だが接近しなければ意味はなく、マシンガンも有効射程は短い。だが、それだけの装備で彼はこの現状を作り出した。
レッグホルスターにマシンガンをもどしたジンがニヤリと笑った。
「そんなに驚かないの。言ったじゃん、俺そこそこ最強だからって」
「いや、驚きますよ。正直ジンのそれ、冗談だと思って聞き流してましたし」
「えーひどーい」
倒れる一人一人に目を向けて、確かに気絶しているのを確認する。刀で斬りつけられたのか、ところどころ制服が破れ地肌が青く変色している。
「そーそー、ホシノ。こいつらどうすんよ?」
「……いつもなら、適当に追い払ってます」
「適当に、ね。優しいなぁ、ホシノは」
「優しいって、痛めつけはしますよ?」
「それでも、再起可能な程度にでしょ。─────だからほら」
「な、なにを─────」
ホシノの声を遮るように銃声が1発。ジンが懐から抜いた拳銃から放たれたものだ。
放たれた弾丸は私の頬と髪を風圧で揺らしながら後方へ飛んでいき、鈍い音を立てて何かに着弾した。見なくてもわかる。気絶していたヘルメット団の子だ。目が覚めていたのか、それとも気絶した振りだったのが、起き上がってい所をジンは撃ったようだ。
ジンによる射撃は2発目、3発目と続き、その度に鈍痛に耐えるようなくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
「……なぜ、追い打ちを」
「もっと徹底的に痛めつけなきゃ。こういう輩はさ。駄犬の躾と同じだよ。ダメなことはダメだって教えてあげて、わからねぇなら痛めつけてやらないと」
「それ、は─────」
─────違う、とは言いきれない。
多分だけど、こいつらの中にはアビドスを襲撃するのが2度目、3度目のヤツもいたはずだ。やけに校舎の中をスムーズに進んできたり、私の動きを把握して作戦を練ったような動きも見えた。
たしかに、そうなると痛めつけて二度と来ないようにするジンのやり方は間違っていない。だが、私は納得できなかった。
「それは、違うと思います」
「ん、なんで?」
「痛めつけるのはともかく、過剰に攻撃していてはアビドスに悪評を呼び込むことになりそうですし」
「あー、それもそうか」
そう言って刀の柄に肘をかけ、胸元に拳銃をしまってジンは笑う。私はその顔が、なんだか怖く見えた。
△
「う、うぅ……」
「ひゅーひゅひゅーひゅーひゅー♪」
「…………はぁ?」
その日の放課後、私は奇妙なものを見た。
「なんで、こんなことに……?」
「どうしたのホシノちゃん。元気ないね」
「そーそー、テンション上げてこうぜ〜」
─────なんで、ふたりとも服を着てない?
顔を真っ赤にしてこちらを振り返るユメ先輩。その隣には、堂々と発達した大胸筋を張り、ボディビルダーのようなポーズでイイ笑顔を向けてくるジン。
正確に言えばユメ先輩に限ってだが最低限の下着は着ている。髪色に近い淡いエメラルドグリーンのブラジャーとパンツ。ホワイトのレースが施された大人向けの下着が、ユメ先輩の大人びた身体と相まってひどく、こう、すごく官能的だ。
問題は一方のジン。窓際で日光浴をしている彼は、なにも着ていない。肌色一色、裸一貫だ。日に焼けた肌と鍛えられた男らしい身体と腰には私たちには無いブツがぶらりと……。やめろ、大胸筋を左右交互に動かすな。
「─────うっ」
「ほ、ホシノちゃんもどう?」
「いやどうって」
「恥ずかしいけど……ね?」
「いや、ね?じゃないですよ」
「あの、ちょっ、銃口……」
ニッコニコと笑う全裸のジンが、またもや筋肉を強調するなにかのポーズを取りながらこっちに歩いてきたのでショットガンを向けて牽制。照準が下腹部に向いていることを察したのか、顔を青ざめながら情けない声をこぼした。
ユメ先輩はジンのことはできるだけ視界に入れないよう、何時もより気持ち薄目にこちらを見やりながら、この訳の分からない行為を勧めてくる。
「ほらジンくん、ホシノちゃんにも説明してあげて?」
「いや、ホシノは大丈夫」
「何が大丈夫なんですか?」
「ほらあれだ、ホシノはもう強いから」
視線を逸らして引き攣るような笑みのジンがそう言う。この1ヶ月でわかってきた、ジンの嘘がバレた時にやるクセだ。
「……ユメ先輩。今度はなんて言われたんですか。このクズ男に」
「クズ男はひどぃ…ごめんなさい撃たないで……」
「えっと、羞恥の克服は強さに繋がるーって。ほら、私生徒会長なのに今日の戦闘でもなんの役に立てなくて……。でも、ジンくん強かったから、どうしたら強くなれるのか聞いたの!」
「それでこのバカの言うこと真に受けて脱いだと」
「え、うん」
「………………はぁーーーーー」
及び腰で逃亡を企てる変態を睨みつけた。血の気の引いて真っ青になった顔にいつもと違う覇気のない目がよく目立つ。今すぐ撃ってやろうか。
だが、それより今は。
「今すぐ2人とも服を着ろ!」
「ほ、ホシノちゃ、」
「速く!!!!!!」
「は、はい!」
「イッテェ!着る!着るから撃たないでぇ!?」
その情けない姿に、ジンに対する怖さはあっという間に四散して言った。