●月●日 晴
今日私の身に起こったことを整理するためにこの手記を日記代わりにすることにした。目が覚めると私は見知らぬ土地にいた。地面に寝そべっていたせいか体がバキバキだったのを覚えている。
辺りを見渡せば頭に天使の輪っかをつけた人相の悪い女子学生と、二足歩行している犬猫と、機械のような見た目をした人型たち。地球上にこのような場所は私の知る限りでは存在しない、しかも誰もが種類問わず銃を持っていてひどく物騒だった。
慌てて近くにあった廃ビルに逃げ込んでこの文章を書き込んでいる。もし私の身に何かあればこれが遺書になる。
もし私以外の人がこの手記を見ているのなら頼みがある。どうかこの手記を家族の元に届けて欲しい。住所は裏に書いておく。
●月●日 晴
今日わかったことを整理も兼ねてここに書くことにする。
まず場所の調査だが、教えてくれたのは親切な犬の人だった。ゲヘナという自治区(学校が治めているらしい)から流れたという彼がいうには
・ここはキヴォトスといういくつもの学園が集まって構成されている学園都市
・私が今いるここはブラックマーケットという連邦生徒会(おそらく行政機関と思われる)の手が入らない危険地帯
・ここの住民は基本銃で武装しており、射撃されたくらいでは重傷にはならない
・日本大使館はない
ということだった。確かに誰も彼もが銃を持っているのにもかかわらず危険地帯特有の一触即発感はなかった(単に私がそういう空気を知らないだけかもしれないが)。だが怪我をしにくいぶん引き金が軽いのか話を聞いてる最中にもたまに銃声が聞こえてきたりしていた。
犬の人は私が外から来たと知ると危険だと心配してくれていたが、なにぶんどうここに来たかも知らなければ身分を保障することも地理も知らないので助けを求めることもできない。
銃声が近づいて来たので彼にいくらか謝礼を渡し、また昨日の廃ビルに戻って来た。
そういえばだが円が使えた、日本語が通じるから察してはいたけれども。
財布に入っていたお札はよく知るものから微妙に変化していたが、硬貨には特に変化は感じられなかった。
もしかしたら誰かが両替したのか?正直わけがわからない
●月●日
やらかした
スケバンみたいな学生たちからカツアゲされた
ブラックマーケットのアルバイトの帰りを狙われた。ロボットでも獣人でもないからカモだと思われたのだろう
脅しで撃たれた弾が右目に当たってしまったのも最悪だ。痛みでもだえる私をよそに奴らは財布とともに逃げた
失った目から発する燃えるような痛みを燃料に怒りが昂っている
あの財布には家族の写真が入っているのに…平和ボケした頭でなんとかなると考えていた自分の愚かさに、私の宝物を奪っていったあいつらに怒りが湧いてくる
痛みがひどいのでひとまず今日はもう寝よう
●月●日
一日寝ていくらかマシになったがまだ痛みは続く。
やるべきことは決まった。
金はなんとかなるとして家族との写真はここから出るまでの心の支えだ。財布だって死んだ親父の形見だ、なんとしても取り返す。
とりあえず周囲の人に聞き込みをして情報を集めて探し出すことにする。
追記
案外あっさりと知れた。彼女らはここら辺を縄張りにしているらしい。そろそろ暗くなってきたので、ビルの中で見つけた動きやすそうな黒い服に着替えて尾行することにする。念のため顔もマスクで隠すことにした。今日ほど存在感が薄いと日頃言われて来たことに感謝する日は無い。
●月●日
私の財布はどうやらリーダー格の琴線に触れたらしく、金を抜き取った後も私的に使っているらしい。今日尾行しているときに仲間に聞かれたリーダーが自慢するように答えていた。
捨てられていなくてよかったと思うべきか、取り返す手間ができたというべきか。
リーダーのここ数日間の行動は裏の方に書き込んである。そろそろ彼女が一人で行動する唯一の時間だ。
***
路地裏のゴミ箱の陰に身を潜める黒い影。その影はおもむろに服の内をまさぐり革製のカバーのついた小さな手帳を取り出す。そこには一人の人間の情報が事細かに書かれていた。おおよその身長、持っている銃の見た目、仲間の数、たむろしている場所、一日のルーティーン、何をどれくらいの頻度で食べているかなどなど。もはやストーカーの域にまで達しているそれを見て再度確認する。
ターゲットのスケバンは19時から19時30分の間で約5分だけ一人で行動する。その目的は仲間とたむろしている場所の近くの、人通りの少ない通りに置かれている自販機で売られている小さい子供用のジュースのため。尾行を始めた日から見られた必ず行われる行動である。
まとめ上げた行動パターンや言動から作り上げたプロファイリング結果から見るに仲間に小馬鹿にされるかもしれないと思ってるがゆえの行動であると推測できるが、黒い影、財布を取られた男からすれば好都合だった。
「ふんふんふーん」
そうこうするうちにターゲットがやって来た。
スケバンの彼女は上機嫌だった、今日はカツアゲが想定よりも上手くいって想定していたよりも多く稼げたし、そのおかげでちょっとお高めのプリンを食べることもできた。それもこれもこの間かっこいい黒い長財布を手に入れてからだ、この財布を手に入れてから彼女の周りではちょっとしたいいことがまあまあ起きていた。
まあ、この財布の元の持ち主には悪いことをしたが(殺してしまったのではないかと結構焦っていた)この財布も私に使われたがっていたししょうがないなどと脳天気にもそう思っていた。
ご機嫌なまま目的の自販機の前にたどり着いた、目当ては幼児向けの紙パックリンゴジュース。幼児向けの味付けと容量のこのジュースが彼女にとっての何よりの好物だ。もはやルーティンと化したお金を入れボタンを押す動作を淀みなく押そうとしたその時、後ろに気配を感じた。
「・・・・・・」
キョロキョロと辺りを見回すが人影はどこにも無い。
「・・・おーい誰か隠れてんのか〜?冗談キチいって」
声をかけてみるが反応は帰ってこなかった。だがブラックマーケットで生きて来た彼女の直感が誰かが近くにいることを察知していた。
誰かが報復を考えてる可能性も無いわけでは無いので周囲を軽く警戒して見るがそれらしきものは見当たらず、身を隠せそうなゴミ箱なんかにも軽く射撃して見るが誰も出てこず。
「気のせいか・・・さて」
一応中は手に持ったままに、自販機に向き直り目的のものを買おうとした直後─
「ッ!」
ガコッという音と共に後頭部に鈍い痛みが走った。めまいがしそうな痛みに耐えながら下手人に反撃すべく振り向くがさらにもう一発何かが振り下ろされた。そのまま仰向けに倒れ込んでしまう、その衝撃で自身の銃を手放してしまう。とにかく抵抗しようと目線を上げるそこにさらに何かが振り下ろされた、目の前に火花が散ったようなそんな感覚と共に鈍い痛み。
もう何が起こってるのかわからなくなり軽くパニックを起こしながらも逃げないとと体は無意識でもがく。
痛い、怖い、誰か助けてほしい。銃をなくし、ひとり孤立し何者かに攻撃されている、心は恐怖でいっぱいだ。恐怖でこわばった体ではまともに動くこともできず足を捕まれ手繰り寄せられる。
そこで初めて下手人の顔を見た。
闇に紛れるような漆黒のコート、手に握られた鉄パイプ、そして幽霊が叫んでいるかのような白いマスクをつけた人物。目元は影で暗く見えないはずなのに右目からは燃えるように赤く光る瞳孔が見えた気がした。
そいつはゆっくりと鉄パイプを振り上げ─
▽▽▽
スケバンリーダーはズキズキとした頭の痛みで目を覚ました。辺りを見回してみればどこかの建物の中か、薄暗い室内だった。家具もカーテンすらもなく月明かりに照らされた部屋に特に拘束されることもなく転がされていた。
目をさます前の記憶からどうやら気絶していたらしいと結論付け、仲間たちの元に戻るべく立ち上がった。その目線の先に何かキラリと光るものがあった。
それに近づいたのはなんとなくだった。早くここから出ないといけないのはずなのだが何故かそれに惹かれてしまった。
それはナイフだった。壁に刺さった刀身が月明かりに反射してキラリと光っていた。
「えっ・・・」
そして一緒に刺さっていたのは、スケバンリーダーの顔写真と情報が狂気的なまでに羅列されているメモ用紙だった。明らかに盗撮されたであろうその写真には顔の部分に赤いバツマークがつけられ顔の中心をナイフが貫通していた。
「な、なんだよ・・・これ・・・」
その明らかな異常性に怖気ずく。ここにいたら自分はあの黒ずくめの人物に殺されてしまうかもしれない、そうパニックを起こしそうになる自分を深呼吸をしなんとか落ち着ける。
だんだんと落ち着きを取り戻し、ゆっくりと行動を起こす。なるべき音を立てないようになるべく気配を出さないように、もし先ほどのあいつに見つかってしまったら次は私は殺されてしまうかもしれない、そんな恐怖と戦いながら一歩、また一歩と足を進めていく。やがてロビーのような所へとたどり着いた。
ガラス張りの玄関から見える景色からどうやらここは自分たちのシマに近いブラックマーケットの廃墟ビルのようだ。早くここから出たい!というはやる気持ちを抑えゆっくりと慎重に動く。
そしてドアまでたどり着く。あとはもう出るだけ、それなのに何を思ったか彼女は後ろを振り向いてしまった。
物陰から顔を覗かせる白い顔、闇に包まれてなお存在感を放つあの白い顔が気配もなくただじっとこちらを見つめていた。
「きゃああああああ─!」
スケバンのリーダーは絶叫をあげ今度こそビルから逃げ出していった。
●月●日
追記
作戦は成功した。少々手荒な真似をしたがこちらは目を一つ失ってるのだ、おあいこ様というものだろう
しかし彼女には色々聞きたいことがあったのだがまあいいだろう財布と写真が帰ってきただけよしとする
ブルアカ二次創作の姿か?これが・・・