ブラックマーケットのゴーストフェイス   作:海月くらげ

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すみません体調関係で遅れました

楽しんでいただけたら幸いです


手記2頁目

 小鳥たちのさえずりが辺りに満ち始め、キヴォトスに朝がやってくる。

 

 まだ日は出きらず空が明る見だしたくらいの時間に男は目を覚まし朝の澄んだ空気を吸い深呼吸、そのまま硬くなった体を軽いストレッチでほぐす。パキパキと小気味いい音をあげる体を労わるようにゆっくりとストレッチをしているとふと目に入る黒い布。

 

 それは自分がいつも着ているスーツではなくこの廃墟ビルで拾ったあの服だった。顔に手をやってみれば顔の皮膚の感触はなく代わりに硬い何かが指先に触れる。ここで初めて自分が何かを顔につけていることに気がつくとそれを顔から剥がす。手にとって見たそれはこの服と一緒につけてた白い叫ぶような表情のお化けのマスク。

 

 はて、自分は一体なんでこの格好で寝ていたんだろうとまだ完全に覚醒しきっていない脳で考える。

 

 

▼▼▼

 

 

 ことの発端はつい先日のことだった。財布を取り返し数日、男が今日もアルバイトに精を出そうとブラックマーケットを歩いている最中だった。

 

「やっぱあのビルに落としたんだよリーダー」

 

「そうそう、取りに行くしかないよリーダー」

 

「つってもよ〜、またあの変なあいつがいるかもしれないだろ?いくら私でもさすがにヤなんだけど」

 

 そんな会話が聞こえとっさに物陰に身を潜めた、ちらりと顔を覗かせるとあの時のスケバンが仲間と会話しているところに鉢合わせたようだった。会話の内容から察するにどうやら男から奪った財布をどこかに落としたものだと思い、思い当たる場所を調べたあとらしい。

 

「だいたいリーダー、財布なんてまたカツアゲすればいいじゃん」

 

「そうそう、そもそもあれもカツアゲした財布だったじゃんね」

 

「でもよ〜、なんかビビッと来ててさ。なんていうの?一目惚れみたいな」

 

 キヴォトス基準では比較的平和な内容の会話だが男からしたらたまったものじゃなかった。銃という自分が即死しかねない武器持ちを相手に、奇襲を仕掛けたとはいえ文字通り命がけで取り返した自分の命と同じくらい大切なものだ。あのあとカツアゲにあった時渡す用に新しい安い財布を買ったものの、再度奪われるリスクは到底許容できないものだった。

 

「じゃあさリーダー、私らも付いていって一緒に探すってのはどう?他のメンツも呼んで」

 

「そうそう、ついでにリーダーが言ってたそいつ見っけてぶっ叩かれた借りを返せばスッキリするんじゃね?私らもそいつに興味あるし」

 

「お、お前ら〜!」

 

 二人の提案でリーダーは感極まったように二人に抱きつき、二人も照れたようにしている。ここがブラックマーケットでなくて、落としたと思い込んでる財布がカツアゲしたものでなかったのなら女子同士の素晴らしい友情として写っていただろう。

 

 だが男はそう思わなかった。先日やっとの思いで取り返した財布を子供とはいえ同じ輩が徒党を組んで奪いにくる。その事実が男の怒りに薪をくべ始めた。

 

 男の冷静な部分は囁いた、しばらく宿にしている廃墟ビルから出てればいい、そのうち諦めると。

 

 だが燃え始めた怒りはそう容易くはおさまらない。

 

 男はその心のままリーダー以外の情報も手に入れるべく動きだした。

 

 

▼▼▼

 

 

 

 その後のことは特筆することもなかった。

 

 銃という暴力装置を所持した集団に対して男は不意打ちと各個撃破という戦法をとった。入手した情報からリーダー以外で一番勇敢そうな一人を最初のターゲットに定め、隙をついて背後から襲撃。手早く人気のない部屋に引きずり込み鉄パイプを使い気絶させロープを使い縛り上げる。

 

 これでビビって逃げ出してくれたらなと思っていた男だったが、スケバンたちが逃げ出さず警戒態勢に入ったのを見てまた同じ作業に入る。

 

 ビルの中という男がキヴォトスに来てから最も長く過ごした場所というアドバンテージと闇に紛れる衣装はそれだけで不意打ちの成功率を高め、薄暗い廃墟ビルの中で仲間が一人ずつ消えて行くというシチュエーションは冷静さを削り、恐慌を起こさせる負の螺旋へと陥って行く。

 

 暗闇に浮かぶ白いマスクは彼女たちに恐怖の象徴として脳裏に深く刻み込まれた頃には最後の一人が気絶していた。

 

▼▼▼

 

 

 ここまで思い出して男はスケバンたちを地面に放置していたことに気がついた。男目線財布を奪いにきた連中ではあったがまだ子供、さすがに良心が痛み解放するために着替えたのちに行動を移す。しかしスケバンたちは男が目覚める前に起きたのか、ロープをどうにかしてほどき逃げ出していた。

 

 手間が省けたというかなんというか。

 

 男はそのままブラックマーケットの日雇いバイトへ向かうべく準備を始めた。

 

 

▼▼▼

 

 

 ●月●日 晴

 

 あのスケバンたちの襲撃から数日経った。

 

 彼女らはもうここら辺の縄張りを放棄し撤退したらしい。彼女らに止むを得ずとはいえ攻撃をした私がいうのもなんだが、大人としては復学して欲しいところではある。巨大な学園都市らしいキヴォトスのシステムはわからないがまあ彼女らにも事情があるのだろう。ブラックマーケットの外に出ないのでわからないが。

 

 ともかく目先の脅威が一つ消えたので少しは気軽に過ごせている。あとは油断せずに生活を整え、日本に帰るという目的を達成するだけだ。

 

 もうあの日のように平和ボケした考えはしない。

 

 

 

 ●月●日 晴

 

 夜、ビルの周りをうろちょろする子供を何回か目撃するようになった。

 

 あのスケバンたちのうちの誰かでないことはわかっているので特に手出しはしていないが、毎回警戒しているのでさすがに疲れがたまる。

 

 ただ単に廃ビルが珍しいのであればいいのだが。とにかく少し調べてみようと思う、毎回黒い衣装着てマスクもつけては大変なんだ・・・動きやすいのはあの服だし、マスクもつけないと収まりが悪いし・・・。

 

 

 

 ●月●日 晴

 

 数日かけて調べた結果、どうやらここが心霊スポットのような扱いをされているらしい。噂の発端はインターネット掲示板で、スケバンたちのうちの誰かがした投稿がきっかけのようだ。

 

 つまり連日のビルの周りをウロウロする子供たちは肝試しに来ているようだ。微笑ましいが、こういう心霊スポットは不良の溜まり場になりやすいのはニュースなどを見て知っている。勘弁して欲しい。

 

 

 

 ●月●日 晴

 

 今日ついに侵入者が出てしまった。おそらく先輩後輩の関係の女の子が二人。先輩っぽい方が「ここに大金の詰まった財布が落ちている」などということを言っていたのでおそらく私の財布にまつわるあれこれに尾ひれがついて一人歩きしているのだろう。

 

 ついカッとなってしまって二人を襲撃してしまったのは反省する。ただどうしても私の財布を狙っていると思うと怒りが抑えられなくなってしまう。

 

 私はこんなに怒りっぽかっただろうか、それとも新しい環境によるストレスがそうさせるのか。

 

 こんな時妻はどんな言葉をかけてくれるだろうか、私の可愛い子供は。

 

 もう写真でしか会えないが、また君たちに会いたい。

 

 もうすぐ妻と子供の命日だけど帰れそうにない。こんなパパを許してくれ、二人とも

 

 

 




父の財布

形見の財布。よく手入れされており、使用者の思い入れを感じさせる。
家族の繋がりを強く感じられるそれは使用者に暖かさを与えてくれる
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