ブラックマーケットのゴーストフェイス   作:海月くらげ

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難産でした

今後も更新速度は不定期ですが楽しんでいただけたら幸いです


手記3頁目

 

 ●月●日 晴

 

 最近なんだかあの服を着ていると調子がいい

 

 さすがにいつも着ているわけにはいかないので普段は私服で過ごしているが、あの服とマスクをつけていると力がみなぎるというかなんというか。

 

 さっきなんて鉄パイプを曲げられた。気分はまるでスーパーパワーを持ったヒーローだ。

 

 

 ●月●日 雨

 

 今日は珍しく雨が降った。

 

 偏頭痛持ちなので雨は嫌いだ、頭が痛くてイライラする。

 

 天気が悪いなら大人しくしていればいいのに、今日も肝試しか財布を狙って侵入者がやってきた。

 

 怒りのあまり力任せに鉄パイプを振り回したりパンチをしたりで暴れてしまった、そしたら壁のコンクリートにヒビが入るわ女の子とはいえ人を片手で持ち上げるわで・・・

 

 今でもあれがなんだったのかわからない。調子がいいという次元ではない。

 

 さっき生身で壁を殴ってみたがヒビどころかこちらが手を痛めた

 

 あの服たちはなんなんだ。

 

 

 

 ●月●日 晴

 

 今日は少しミスをした。

 

 侵入してきた不良っぽい娘があちこち破壊しながら探索するもので、流れ弾に当たってしまった。

 

 あの服とマスクも着ないわけにはいかないので着ていたが、なぜか当たった所が青痣で済んでいた。ますますわからないが今の所不利な状況にはなっていないのでよしとしよう。

 

 それにしても情報がないとやりづらくてしょうがない。

 

 

 

 ●月●日 晴

 

 ひっきりなしに侵入者が現れる。心霊スポットの管理人の気持ちはこんなものだったのだろうか。

 

 最近はもう壊せそうな薄い壁を壊しながら出て行って不意打ちしている。

 

 娘がいたら何て言うだろうか・・・物を壊すなと怒られるだろうか。

 

 一目でいい、もう一度お前たちに会いたい。

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ある日の昼、男はビルの中で書籍を読み漁っていた。『キヴォトス観光パンフレット』や『キヴォトス名百景』などの主に観光系の書籍ではあるが、キヴォトスの地理に明るくない男はそうした書籍から地理情報を、そして元の場所に戻るためのヒントを探していた。

 

 男としては昼は日雇いバイトで軍資金を貯めたかったが、夜になれば灯りが乏しい上に肝試しにやってくる輩が多すぎてとてもじゃないがそんな暇がなかった。命の危険に晒されている中呑気に読書ができるわけがないとも言える。

 

 外は静かで銃声も人の気配もビル周辺にはなく穏やかな時間が流れている。夜になると肝試しにくる輩のせいで若干の寝不足になっている男にとっては穏やかな時間であった。

 

 パンフレットで派手に宣伝されているミレニアムサイエンススクールの観光スポットを見て、情報収集のために行ってみるかなどと考えていると遠くから銃声が聞こえてくる。静寂な空間ゆえによく聞こえてくるそれは少しずつこちらに近づいてくる。

 

 ビルのエントランス部分まで降り、自衛のために買ったスモークグレネードを片手に外の様子を見ると、何やら目イってしまっている奇怪な鳥のぬいぐるみを抱えたクリーム色の少女がチンピラたちに追われながらこちらの方向へと逃げていた。

 

「待ちやがれ!」

 

「うわあああ!ついてこないでくださいー!」

 

 ブラックマーケットではよく見る光景だ、弱いものが強いものの餌食になる、このままではあの少女もいずれ捕まってカツアゲなりなんなりされるのだろう。自分が弱い側だと理解している男はビルの中に隠れ巻き込まれないようにしようとして動きを止めた、そして柱部分に身を潜めタイミングを計り、持っていたスモークグレネードを投げる。

 

「わわわ!な、なんですか!?」

 

「おわ!クソ!なんだってんだよ!」

 

 突然展開されたスモークに足を止めた少女はそのまま煙に飲まれ、チンピラは視界を遮られ足を止める。男は隠れていた物陰から飛び出し煙の中にいた少女を抱えあげると素早く、そして音を立てずにビルの中へと連れて行く。スモークのおかげか、日頃からこそこそしているおかげか、チンピラたちに見つかることなくビルの中へと入ることができた。

 

「えっ・・・?う、うわー!」

 

「シー。静かに」

 

 思わず叫び声をあげそうになった少女の口に手を当て静かにさせると少女は黙って頷き、そのまま自分の両手で口を覆い静かにする意思表示をする。それを見た男はビルのエントランスにある受付の後ろに少女とと共に隠れ、顔だけを出し外の様子を伺う。

 

「くそ!誰だよスモークなんて炊いたの!」

 

「うちらじゃねっすよ」

 

「見失っちゃったじゃんかよ」

 

「・・・てか、ここってあれじゃない?ここらを縄張りにしてたスケバンたちが放棄する羽目になったビルが建ってるっていう・・・」

 

「しかもオバケが出るって噂の・・・」

 

「ちょっとまずいか?」

 

 あれだけ気合の入った格好をして以外と可愛らしいところがあるなと思いながら撤退していくチンピラたちを見て男はふぅとため息を一つ。そして未だに口を手で覆っている少女に声をかける。

 

「もう大丈夫だよ、お嬢さん。うまく撒けたみたいだ」

 

「ありがとうございました。お兄さんがいなかったら大変なことになってました・・・」

 

「ははは、そうだね。でもいくら銃を持ってるとはいえブラックマーケットにくるのは感心しないな、いろんな人が心配するだろう?」

 

「ご、ごめんなさい・・・でも200体しか作られてないペロロ様の限定グッズが取引されてると聞いていてもたってもいられなくて・・・」

 

 そう言いながら手に抱えた奇怪な鳥のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる少女。おそらくその腕のうちにあるものがペロロ様なのだろう。そういえばさっきスモークの中から連れ出す時も手放さなかったなということを思い出した男は、もしかしてこの子思ってるよりとんでもない子なのではないかと思いはじめてきた。

 

「あ、そういえばまだ名前を言ってませんでした!私は阿慈谷ヒフミと言います!」

 

「ヒフミちゃんだね、僕は・・・事情があって名乗れないけど好きに呼んでくれたら嬉しいよ」

 

「わかりました。それで・・・お兄さんはどうしてブラックマーケットに?」

 

「それがね、目を覚ましたらここにいたんだ。キヴォトスの外から来たんだと思うんだけど帰り方がわからなくてね、身分証もないから仕方なしにここにいるのさ」

 

「あ、あう・・・そうだったんですね・・・『先生と同じ外から・・・』。あの、それならどうして助けてくれたんですか?」

 

 

「いやね・・・君に、私の娘の面影を感じたというか・・・それで体が動いちゃってね」

 

 男は家族写真を取り出しヒフミに見せる。3人の男女が写っているうちの身長の小さい幼い子どもを指差す。

 

「かわいいですね!今は何才くらいなんですか?」

 

 その問いかけに男は暗い面持ちになり、何回か口をパクパクさせた。

 

「・・・その、もういないんだ。まだ7才だったのに・・・」

 

「あっ・・・その・・・ごめんなさい」

 

 二人の間に暗い空気が漂いだす。いつまでそうしていただろうか、数分か、それとも数十秒か、ヒフミはそうだ!といい背負っていたリュックをガサゴソと漁り、ペロロ様のキーホルダーを取り出す。

 

「あの、助けてくれたお礼にこれあげます!これも限定生産品ですが私は2個持ってるので!」

 

 ペロロ様が白眼を剥きながらロールケーキを咥えている軽く地獄なキーホルダーを「ああ、うん、ありがとう・・・」とちょっと引きながら男は受け取った。

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 闇の中、わずかな灯りを頼りに日記を書く。男がキヴォトスに来てから気まぐれに書いている日記だが、今日は割とポジティブなことを書いている。メインは阿慈谷ヒフミという少女と出会ったことで、その次に明日以降の予定を立てながら書き込んでいく。文字に起こすだけでも記憶の整理に役立つななどと思いながら、足元に転がる気絶したチンピラたちには目もくれず書き込んでいく。鎮圧してすぐに書き込んでるのであろう、例のマスクと黒い衣装を着たまま手帳に書き込む姿は何かしらの怪異と言って刺し違えなかった。

 

 一通り書き込んだ後、チンピラの少女たちをひとりずつ引きずりながらエントランスへ運んでいく。少し前までは見せしめのためにもロープで縛って天井から吊るしていたが、脱出するのにいちいちロープを切り裂いていくので在庫がすぐなくなり止むを得ず転がして放置しているのだ。

 

 男はまた手帳を取り出し日記が書かれているページとは反対のページを開く、そこに書かれているのは様々な人の個人情報と顔写真。男は気絶してるチンピラたちの顔をひとりずつ確認し、手帳に情報が書かれていないことを確認すると懐からカメラを取り出し写真を撮り、今日忍び込んで来た際に得た情報を新たに書き込んでいく。

 

 男が作業進めていると背後から気配を感じた。勢いよく振り返ると。コツコツという靴の音と共に闇の中から人影が出てきた。

 

「クックックック・・・随分とキヴォトスに馴染みましたね、ジョン・ドゥ(名無し)・・・いえ、ゴーストフェイスさんと呼んだ方が?」

 

 黒いスーツに黒い体、右目と思しき部分は青白く発光しそこから亀裂が走っている異様な人物。男は警戒心を高めゆっくりと手帳をしまうと、いつでも振るえるように愛用の鉄パイプを握る。

 

『ゴーストフェイス?』

 

 マスク越しの少しくもぐった声で聞き返す。男は何人もの不良やチンピラの少女が肝試しに、あるいは噂を確かめにこの廃墟と化したビルへとやってくるのは知っていたが、自身にゴーストフェイスなるあだ名がつけられていたということは知らなかった。

 

「ええ・・・キヴォトスの掲示板やSNSで話題になってますよ、新しい都市伝説─ネットロアとして。・・・自己紹介が遅れました、私たちはあなたと同じキヴォトスの外部の者・・・ですがあなたとはまた違った領域の存在です。私たちのことは『ゲマトリア』とお呼びください。そして私のことは『黒服』と」

 

『ゲマトリア・・・ねえ』

 

 黒服と名乗った存在は実に愉快そうに、まるでおもちゃを買ってもらった子供のような楽しげな声で上機嫌に話しかける。

 

「・・・実を言うと、私たちはあなたがキヴォトスにやって来た時からあなたの存在を認知していました。ですが所詮はそれだけのこと、なんのテクストも持たないあなたと接触したところで大多数の大人(子どもたちの背景)と変わらない・・・そう判断したのです」

 

「・・・しかし幸か不幸か、あなたは私たちの想像を上回った。・・・ゴルコンダが言うところの『The Library of Lore(止め処無い奇談の図書館)』本来無意味なお話が自ら『崇高』へと至った存在」

 

「・・・本来の物語では注目されないはずだったあなたは生徒たちの噂話により尾ひれがつき、妄想や設定といった小さな信仰を捧げられ、子供を戒める都市伝説としての概念を得たのです」

 

『・・・御託はいい、何が言いたい』

 

「単刀直入に申しますと、私たちと協力するつもりはありませんか?」

 

 黒服の問いかけに男、ゴーストフェイスはしばらく思案するような動作をした後一枚の写真を取り出す。それをたっぷり10秒眺めた後、口を開いた。

 

『それは()が元の場所に帰るために必要だと思うか?』

 

「・・・左様ですか。それこそ元の場所に戻るために提案を受け入れると思ったのですが」

 

 ゴーストフェイスは家族写真から目を話さずに答える。

 

『悪いが、怪しい契約には乗るなと家族から言い含められていてね。それに、最近このビルにも愛着(執着)が湧いているんだ』

 

「・・・クックックック、今にして思えば素養はあったのですね。・・・しかし、どちらかというと『子どもを戒める怪異』というより『往年のスラッシャーホラーの怪人』と言われた方が納得します」

 

 黒服はゴーストフェイスを一瞥するとエントランスのドアへ向かって歩き出す。

 

「・・・あなたがキヴォトスから無事帰れるよう、微力ながら祈っています」

 

 コツコツと歩く音とガラス張りのドアが開いた音がして、黒服の気配は完全に消えた。

 

 ゴーストフェイスもまた歩き出した。家族写真を大事にしまう際に出た衣擦れの音だけが小さく響くが、それ以外はまるで存在そのものが透明になってしまったように闇に溶けていく。マスクから覗く右目の瞳孔から赤い残光の軌跡を残しながら。

 

 

 




ヒフミと黒服の解像度が低いかもしれません
もしそうだったらごめんなさい
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