VRMMO [AnotherWorld]   作:LostAngel

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第十話

[第十話]

 

「透くん、吾妻と神薙のお守りを頼む。俺は何としても織内を食い止めるから」

 

 椅子を持ちながら、そそくさと近づいてきた本多副部長にささやかれる。

 

 完全に頼りにされてしまった。

 

「分かりました。今日で恐ろしい人たちだって分かったので、最後の砦として頑張ります」

 

 そう返しつつ、俺は背けていた目の前の光景に焦点を合わせる。

 

 正面ではテーブルに突っ伏した吾妻先輩が寝息を立てており、左隣ではさっきのアプローチを無視されて放心する紅絹さんとそれを茶化すあすかさん、メモを取る手が止まらない冴姫さんがいる。隣の石垣さんは、慌てふためいてきょろきょろしている。

 

「それと、俺のことは泰史でいいぞ、石垣さんもな」

 

「ZZZ、私は佳乃でぇ。ZZZ」

 

 急に声を発する佳乃さんに、俺と石垣さんは少しびっくりした。

 

 実は起きてるんじゃないのか?

 

「ああ、こいつはよく寝言で会話するんだ。俺たちはもう慣れたが」

 

「そ、そうなんですか。じゃあ、俺は透でお願いします」

 

「わ、私も、要って呼んでください」

 

 俺は起きている二人に視線を合わせて言う。

 

 名前で相手との距離感も変わってくるし、しっかり覚えないとな。

 

「要さんも、同い年としてよろしく。俺の方が先に発表するから、分からないところがあったら聞いてくれ」

 

「よ、よろしくおねがいします、透くん」

 

 おどおどしてて声も小さめだが、しっかりコミュニケーションを取れた。

 

 それにしても、要さんは小動物的な愛らしさがあって和む。口に出しては絶対に言えないけど。

 

「あ、そうだ。後で俺から全員に、個々人のメールアドレスと去年のスライドを送るから、確認しておいてくれ」

 

 一区切りついた後、泰史さんはポンと手を打ってそう言った。

 

「了解です」

 

「わ、分かりました」

 

 それから、俺と要さんと泰史さんは他愛のない話を三十分位した後に解散した。

 

 その間ずっと佳乃さんはずっと寝ていたし、三人寄れば姦しい、かしましトリオはさっきのままだった。

 

 

 ※※※

 

 

 教室に戻った俺は一人、帰り支度を済ませる。

 

 今日は初めての通常授業に読書部のミーテと、色々あったな。授業はイントロダクションばっかりで退屈だったが、課題は出なかったし御の字だ。部活は来週に発表が決まったし、今度図書室で本を借りて読んでみよう。

 

 などと考えながら、寮への帰路に着いた。

 

 部屋に帰ると、いつものように手洗いうがいをし、一息つく。

 

 まだ少し寒いので、ホットコーヒーを淹れて飲んでみた。インスタントだが、庶民には違いなんて分からないので問題ない。

 

 さて、時刻はただいま十七時過ぎ。休憩も取れたし、そろそろやるか。

 

 俺はゆったりした歩みで寝室に移動し、チェリーギアを装着する。

 

――おかえり、トオル!もう夕方だな!ちょっと休憩でもしないか?

 

 残念だけど、先ほど十分くつろいだ。

 

 これまたいつものごとくかわいいちびドラゴンを撫でつつ、俺は中空に浮いているアイコンの中の水色の四角に触れる。

 

 [AnotherWorld]が起動した。

 

 視界が一度真っ暗になり、目を開けるかのように光が舞い込んでくる。

 

 これが、プレイヤーの目覚めの瞬間か。

 

「おお、ちゃんと部屋の中で始まった」

 

 むくりと起き上がり、ベッドから降りる。

 

 白い壁紙、白いカーテン、西洋風の調度品。ログアウトする前にいた、ホテルハミングバードの部屋の中だった。

 

 まずは、メニューを開いてステータスを確認する。

 

 体力、魔力ともに全快していた。宿泊ボーナスのバフ、デバフはついていないようだ。できれば魔力増加とかついてればよかったんだけどな。

 

 確認が終わり、俺はクローゼットの中にある姿見で身だしなみを整えてから部屋を出た。

 

 なんでも、ゲームの仕様でたまに寝癖がつくらしい。

 

 まあ、寝癖がついたままでも特にマイナスの効果はないが、みっともないからな。できれば、好印象に思われるような恰好を維持したい。

 

 そんなことは置いておいて、部屋のドアを開けるとすぐ目の前はロビーだ。

 

 部屋に入るときは楽でいいと思ったけど、出るときは変な感じだな。

 

「ご利用、ありがとうございました」

 

「こちらこそ、綺麗な部屋をありがとうございました」

 

 何も言わずホテルから出ようとすると、フロントの方に声をかけられたので、こちらも立ち止まってお礼を返す。昨日見た人とは違う人だ。

 

 親しき仲にも礼儀ありとも、一期一会とも違うが、俺はその場限り、もう二度と会わないだろうという人や、友達、家族、NPCなど、どんな人であっても礼節を惜しまないようにしている。

 

 回転式の扉を押して外に出ると、噴水広場は昨日と同じく盛況だった。

 

 しかし、俺は今日やることを決めているので、ふらふらとせずに広場を進む。

 

 少し歩き、冒険者ギルドの扉を押して中に入る。機能も思ったが、ランタンの明かりしかないので薄暗い。

 

 出入り口付近で周りをざっと見ると、受付に昨日見た顔があった。早速、彼女の窓口に並ぶ。

 

 やがて二、三人前の人がはけ、俺の番になったのであいさつする。

 

「こんにちは、クリステアさん」

 

「こんにちは、トオル様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 彼女は昨日と同じように、クールな表情で立っていた。

 

「初心者で、ソロの水魔法使いが受けられる依頼ってありますか?ガルアリンデ平原付近のものがいいんですが」

 

「はい、複数ございます。こちらをご覧ください」

 

 クリステアさんがそう言うのと同時に、目の前にウインドウが出てくる。

 

 数多くの依頼を示す四角いアイコンの一覧だ。一つの依頼で画面の四分の一ほどを占めており、上から順に簡潔な依頼内容と発注者名、報酬、詳細が記載されている。左右にフリックすることで前後のページに移動できるようだ。

 

 少し時間をかけて操作感を掴んだ俺は、アイテムの採集や目的モンスターの討伐など、数ある依頼の中からすぐ終わりそうなものを三つほど選んだ。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [依頼]:ガルアリンデ平原(西部)におけるファングウルフ十匹の討伐

 

  〇発注者:マルゲイ・クノーシス

 

  〇報酬:2000タメル ↑報酬増額中!

 

  〇詳細:よお!王都騎士団西門防衛隊隊長のマルゲイだ!

      常時金欠のお前らにうってつけの依頼を持ってきた!

      最近の平原が日照り続きってことは知ってるよな!

      そのおかげで、太陽の光を養分にするグリーンラビットが

      大繁殖しちまって大変なんだ!

      なに!?それならウサギ狩りでもすればいいじゃねえのかって!?

      王都の西側に何があるか、すっからかんな脳みそふるって

      考えてみやがれ!

      そう、カゾート大森林だ!

      そしてそこにはファングウルフが群れになって

      ウジャウジャしてやがる!

      あとはみなまで言うまい!

      獲物を求めて平原まで来やがった、オオカミどもを狩ってきやがれ!

      うちのわけーもんたちが平原を監視してるから、

      討伐証明の素材なんぞは必要ねえ!

      分かったらとっとと行ってこい!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [依頼]:ガルアリンデ平原(南部)におけるグリーンラビット二十匹の討伐

 

  〇発注者:オミナ・ディセントフロウ

 

  〇報酬:2000タメル ↑報酬増額中!

 

  〇詳細:お疲れ様です。王都騎士団南門防衛隊第四部隊分隊長のオミナです。

      昨今のガルアリンデ平原での日照りにより、グリーンラビットが

      異常発生しています。

      それに伴い、南部においても人間を襲うファングウルフが

      増加傾向にあります。

      よって、平原の平穏を維持するため、異変の元凶である

      グリーンラビットの討伐を依頼します。

      隊員が平原を観測しておりますので、討伐証明の素材は

      必要ありません。

      お手隙の冒険者の皆様、お力添えをよろしくお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [依頼]:ナオレ草五十本の納品

 

  〇発注者:メディス・ドラギスト

 

  〇報酬:2500タメル ↑報酬増額中!

 

  〇詳細:やあやあやあ!調薬師ギルドマスターのメディスだよん。

      今回は、平原や大森林、湿原で冒険する冒険者さんたちに朗報だよん。

      実は、最近話題の日照りで繁殖したファングウルフのせいで、

      うちのギルドでお抱えの、採集専門の冒険者が

      けがをしちゃったんだよん。

      でも、回復役の原料になるナオレ草は必要だよん。

      そこで冒険者の皆の出番だよん。

      報酬に色を付けるから、ナオレ草を五十本集めてきてほしいのねん。

      品質は問わないよん。よろしくねん。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 どの依頼も、文章の癖がすごいな。

 

 ともかく、新しい要素もあるから順を追って説明していくか。

 

 まず、王都騎士団四門防衛隊の存在だ。

 

 王都騎士団は、街の中を守る王都防衛団と、東西南北の門の詰め所で入出する人をチェックしたり、フィールドを観測する王都四門防衛隊に分かれている。

 

 王都防衛団の説明は別の機会に設けるとして、王都四門防衛隊はその名の通り、守っている方角によって四つの隊に区分される。一つ目の依頼は西部の防衛隊の隊長が出した依頼、二つ目は俺が昨日会った、南部の防衛隊の隊員、オミナさんが出した依頼ということだ。

 

 ちなみに、依頼のタイトル欄に(西部)や(南部)と書いてあるが、これはあくまで王都騎士団によるフィールドの分類であり、エリアマップでは全体をまとめてガルアリンデ平原となっているし、西部と南部で出現するモンスターに違いはない。後で書く生態とかは場所によって変わるけどな。

 

 次は、フィールドの天候と生態の関係についてだ。現実と同じように、[AnotherWorld]の各フィールドの天気は時間ごとに変化する。

 

 さんさんと太陽が照りつける日もあれば、どんよりとした雨模様な日もある。場所によっては、雪が降ったり雷が落ちたり、嵐に見舞われたりする。このような天候の変化に伴って、今回のグリーンラビットのように、特定の天候が好きな魔物が大発生する。簡単にではあるが、これが天気と魔物の生態の関係だ。

 

 続いて、カゾート大森林というフィールドについて。依頼文章にもあるが、カゾート大森林は王都の西に位置する広大な森のフィールドだ。

 

 ここにはカゾート木材加工所があり、カゾート木と呼ばれる良質な木材を世界中に供給している。また乾燥した気候のため、コケ類やキノコなどは生えていない。果実の生る木もないので、木こりと木工が主な産業になっている。生息しているモンスターなどは、後で行くことになったときに説明しよう。

 

 最後に、ナオレ草という素材についてだ。ナオレ草は、体力回復薬、魔力回復薬といった基本的な回復薬の調薬に必要な素材アイテムだ。

 

 ナオレ草は、植物が生えるような環境ならどんなフィールドにも自生する。調薬師ギルドは、このナオレ草のような素材アイテムの安定的な入手のために、採集に秀でた冒険者と契約を交わしているというわけだ。

 

 細かく説明すると長くなってしまうから、これくらいにしておくか。

 

 俺は『決定』ボタンをタッチしてウインドウを閉じる。

 

「ありがとうございます。受注して頂いた依頼の達成期限は、本日より三十日後となっています。期限を超過すると失敗扱いになり、トール様に対する冒険者ギルドからの信用が低下してしまいますので、くれぐれもお気をつけください」

 

「分かりました。ありがとうございました」

 

 クリステアさんのい言葉を胸に刻み込み、お礼を言って冒険者ギルドを後にする。

 

 そしてそのまま、ガヤガヤと人の多い噴水広場を抜けて南門を目指す。

 

 とろんとした夕日が石畳をオレンジに染めている。現在十七時二十分。

 

 [AnotherWorld]における昼は、十九時までだ。グリーンラビットは昼にしか出現せず、夜は地中の巣穴に潜ってしまう。なので、今から二つ目の依頼を片づけていく。

 

 南門に到着すると、昨日と同じく平原に出る人はいないようだった。

 

 時間がないので、俺は兜を脇に置いて壁に寄りかかっているおじさん騎士の元へ行く。

 

「よお新米!昨日は痛い目見たんじゃないか?あの羽音!強烈な見た目!掴まれて宙に浮かぶ浮遊感!キャンユーフライの恐ろしさを十分に味わえただろ!?」

 

 ガンケンさんは俺に気がつくと、嬉しそうにニヤニヤしながら話しかけてくる。

 

 この様子だと、無謀にも夜の狩りに出た俺がハエに捕まって死に戻りしたと考えているようだ。

 

「昨日名乗りましたよね、トールです。あと、キャンユーフライについてはご心配なく。逃げ足には自信があるので。あの音を聞いたらすぐ、走って逃げるようにしてました」

 

「そうなのか?そこら中羽音だらけで、走って逃げられないくらい大量に湧くんだがなあ?」 

 

 注意してみたが名前に触れられないし、覚える気がなさそうだ。

 

 それに、彼はハエが思ったよりいないことに首を捻って訝しんでいる。やっぱりそうか。

 

「まあ、昨日がたまたま運が良かっただけだな!今日も上手くいくとは限らねえし、暗くなる前に戻ってこいよ!」

 

 身元の確認が終わったおじさん騎士は、俺にそう残して所定の位置に背中を預けた。

 

 

  ※※※

 

 

 ガルアリンデ平原に出ると、夕日が作り出すオレンジの絨毯が広がっていた。

 

 平原といってもわずかな起伏があるらしく、光で白みがかった部分や影を落としている部分がある。だが南門付近は、外壁に設置されている松明のせいでより明るく、眩しい。

 

 時間の猶予はあるが、さっさとグリーンラビットを探しに行った方がいいな。

 

 そう思いながら平原を歩き続け、途中狩りを終えた冒険者とのすれ違いを何度か重ねること数十分後。

 

 俺は地面が緩やかに盛り上がり、小高い丘のような地形になっている場所に到着した。

 

 ここなら日当たりもいいし、ウサギがいっぱいいるだろう。

 

「『アクア・ボール』」

 

 早速、ぴょこぴょこと動き回るグリーンラビットを一匹見つけたので、魔法をぶつけた。

 

 すると緑色のウサギはキュウ…と鳴き声を上げて倒れ、その場にアイテムを残した。

 

 一撃か。なるほど、初心者でもこなせるわけだ。

 

 少しかわいそうだが、大量発生してしまっているからしょうがないと自分に言い聞かせる。

 

「『アクア・ボール』」「『アクア・ボール』」「『アクア・ボール』」

 

 臆病な性格の持ち主らしいが、遠距離から攻撃すれば逃げられることもない。光合成をするために身を晒すという習性上、自分の体で影を作ってしまうので、陽が沈みかかっている夕方はウサギの姿を見つけやすかった。

 

 そんなこんなで俺は、絶好の環境、絶好の時間帯でこれといった苦労をせずにウサギを狩り続けた。

 

 しかし……。

 

「グァルルルゥ」

 

 新参者の俺でも良い狩場だと思うわけだ、グリーンラビットを主食とする彼らが知らないはずがない。

 

 背を低くして音もなく、けれどもあの唸り声だけは抑えきれないのか、一匹のファングウルフが唸りながらこちらににじり寄ってきた。

 

 西部のカゾート大森林では群れを成しているが、平原では一匹狼という生態を持つ彼らは、プレイヤーをはじめとした人間も襲う。俺たち冒険者にとっては、宿敵のような存在だ。

 

 とはいえ、体験版や練習場でさんざん闘ってきた。今回がその成果を生かす、実践編ということだな。

 

「来い!」

 

 何度も見た光景。練習場での模擬戦はさらっと説明したが、こいつと相見えた回数は数十回を超えている。

 

 今更その鋭い爪と牙には、何の恐怖も湧かない!

 

「グアアアァァァ!!」

 

「『アクア・ソード』!」

 

 やはり一辺倒の飛び掛かり攻撃をしてきたので、『アクア・ソード』で返り討ちにする。

 

 俺は大きく開かれた口の中、乱雑に並んだ牙の間に滑り込ませるように、水でできた刃を薙ぐ。

 

「グルゥゥゥ……」

 

 前に少し触れていたかもしれないが、[AnotherWorld]ではプレイヤーが繰り出す攻撃は大別すると物理と魔法があり、どちらもさらに属性が分かれている。

 

 物理は主に、剣やナイフの薙ぎ払いといった斬属性、ハンマーや棒の叩きつけなどの打属性、槍やレイピアを用いた突きの刺属性の三種類だ。

 

 魔法は、以前紹介した火、水、風、土の基本属性四つの他に、光、闇、雷、氷など、特殊な条件下で習得できるものもある。

 

 そしてファングウルフは、毛皮が衝撃を吸収するためわずかに打属性に強く、斬属性、刺属性、魔法全般に弱い。さらに弱点は口内、腹、足といったところだ。

 

 攻撃的だが、初めのフィールドに出てくるような魔物だ。攻撃によって食らうダメージも、一匹の体力もあまり多くない。

 

 長くなったが、つまるところ『アクア・ソード』の斬撃は水属性、斬属性を兼ね備えており、また俺のキャラクターレベル、職業レベルはともに3になっている。

 

 よって、十分な威力を持った攻撃によるカウンターが決まり、一撃でウルフを倒すことができたというわけだ。

 

 致命の反撃を食らったウルフはばたりと倒れると、ウサギと同様にその身を消し、代わりにアイテムを残した。

 

「きれいに倒せたが、ここで倒してもなあ…」

 

 冒険者ギルドで受けた一つ目の依頼は、平原”西部”でのウルフの討伐だ。ここ、南部で倒してもカウントされない。

 

 なので、少し損をした気分だ。だが、まだやることが残っているし、落ち込んではいられない。

 

 俺は素早く素材を回収すると、気を取り直してウサギ狩りを再開するのだった。

 

 

  ※※※

 

 

 目標の二十匹を狩り終えたのは、十八時十分ごろだった。

 

 途中ウルフの邪魔が何度かあったので、思ったより時間がかかったな。

 

 太陽はほぼ沈みかけ。もうすぐ夜の闇が押し寄せてくるだろう。

 

 メニューを開いてステータスを確認すると、キャラクターレベルが7、職業レベルが6に上がっていた。

 

 アイテムの入手やフィールドの探索といった行動がキャラクターレベルの上昇に寄与しているため、キャラクタ-レベルの方が高くなるのが一般的だ。

 

「それじゃあ、帰るか…。いや、……」

 

 明日も遊べるし、今日はこのまま帰ろうかと思ったが、念のため”あそこ”を見ておこう。

 

 俺は王都の反対側、昨日作った水場へと足を進める。

 

 そこには、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 

 おびただしい数のようちゅ(自主規制)

 

 後から知ったことだが、平原は最近晴天続きであるため、水場が極端に少なくなっていたらしい。

 

 そこまで把握していなかったが、俺は昨日作った池が干上がってしまわないよう、さらに『アクア・クリエイト』を何度か唱えておく。

 

 計画は、順調だ。

 

 

  ※※※ 

 

 

 要所要所にある採取ポイントを探りながら、ゆっくりと王都を目指す。

 

 途中何度かウルフに邪魔されたが、なんとかナオレ草を二十本集めることができた。

 

 南門から街に入ると、昨日と変わらずオミナさんが検問をしていた。

 

 夜も近づき、ほとんど人の出入りがないためか暇そうにしているが、俺に気がつくと俯いて手元のバインダーを覗き始めた。

 

「お疲れ様です。トールさんですね、確かに確認しました。グリーンラビットの駆除に協力してくださり、ありがとうございました」

 

 用紙に目を向けたまま、彼女は言う。

 

 実際のところ、なぜウサギを二十匹倒し終わったってことが分かっているんだ?本当に、騎士たちが広いフィールドを観測しているのか?

 

「あの、俺が二十匹倒したかを見張っていたんですか?それって結構大変だと思うんですけど」

 

「えっ?ああ、討伐証明のことですか。実は依頼に書いてあった、観測しているっていうのは建前で、本当は魔道具を使ってるんですよ」

 

 彼女は何の話だ、と言わんばかりに顔を上げたが、質問の意図を理解してくれたようだ。気前よく答えてくれた。

 

「小さな紙をジョージュの実の汁で染め上げた、その名も『成就の札』です。詳しい原理は私には分かりませんが、だれだれがなになにをするという、近いうちにするであろう予定を書き込むと、それが達成されたときに札の色が変わるんです」

 

 そう言って彼女は、懐から二枚の細長い紙きれを取り出した。一枚は何も書いておらず、真っ赤な色をしているが、もう一枚は『トールがガルアリンデ平原南部でグリーンラビットを二十匹討伐する』と黒い字で書かれており、青色になっていた。

 

「こんな感じに、鮮やかな赤から青に変わるんです。ちなみに、トールさんが依頼を達成されたのは、十八時を十分ほど過ぎたあたりですね」

 

「そうです。でも、どうしてそこまで詳しく分かるんですか?」

 

「この札は、書いた物事が達成された瞬間に色が変わります。詰め所には依頼内容を書いた札を並べておく場所がありまして、私たちが逐一色の変化をチェックしているんです。なので、依頼を発注した私たちは、受注した冒険者ではなくこの札を見張っているというわけです」

 

「なるほど、そういうことだったんですね。ありがとうございました」

 

 そんな魔道具があるのか。今は思いつかないが、何かに使えそうかもしれないな。時間があったら探してみよう。

 

「見た感じ、あんまりらしくないですけど、トールさんは一応魔法使いですよね?魔法使い通りのお店にも同じようなのが売ってると思いますよ」

 

 一応とは失礼な。ベースボールキャップにポロシャツ、マントにスウェットにスニーカーという出で立ちは確かに変だが、俺もこれがオシャレとは思っていない。

 

 ただ性能が良いから着てるだけだと弁明したくなる気持ちを抑えて、俺はオミナさんにお礼を言い、噴水広場に向かった。

 

 冒険者ギルドに戻ると、クリステアさんに依頼の達成報告をする。

 

「はい、[依頼]:ガルアリンデ平原(南部)におけるグリーンラビット二十匹の討伐、はこれにて達成完了です。初めての依頼の達成、おめでとうございます。報酬をお受け取りください」

 

 目の前の冒険者が初めて依頼を達成したにもかかわらず、彼女は相変わらず無表情だった。

 

 まあ、些細なことでいちいち驚いていたらギルドの職員なんて務まらないか。

 

 しかし、こんなところまでリアリティが追及されているとは。

 

 俺は変に納得しながら、報酬の2000タメルを受け取って窓口を後にする。

 

「さて、続きはまた後で……」

 

 十九時頃。

 

 お腹が空いたので、メニューを開いてログアウトしようとすると…。

 

「もしかして、透か?」

 

 昇そっくりの中性的な顔立ちをしたキャラクターが、びっくりした顔でウインドウ越しに俺を見つめていたのだった。

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